「妹紅…、やってくれたわね」
「油断してる輝夜が悪いんだろ? 今日は私の勝ちだ」
「あそこであの攻撃をかわしてれば私が勝ってたのに~!」
「残念だったな」
戦いの後の何とも言えない静けさは、心地よくて。
いつも輝夜と一緒に寝転んで月を見ていた。
それがもう当たり前のようになっていて、少しくすぐったかった。
「ちょっと妹紅? なにぼーっとしてるのよ?」
「…え?」
「私、もう帰るけど。妹紅は帰らないの?」
帰る、か。
まだ私はこの余韻に浸っていたい。
「えっと…、もうちょっとここにいるよ」
「…そ? じゃあね、妹紅」
「ああ、気をつけて帰れよ」
「…なにそれ? 気持ち悪いわね」
「は? なんだと!?」
「アンタが私の心配するなんて気持ち悪いって言ってんのよ」
…え?
あれ…今私なんて言った?
気をつけて帰れ?
おいおい、正気か私?
「…あ、いや…。なんでもない。さっさと帰れ!」
「む? なによ…。アンタに言われなくても帰るわよ!」
じゃあね、と言って飛んで行った。
輝夜の背中が小さくなっていくのを確認してから私は再度自分に問いかけてみた。
「なんで、あんなこと言ったんだよ…。馬鹿か」
自分で言うのもなんだけど、馬鹿なのは昔から知っている。
だからってここまで馬鹿だとは知らなかった。
敵に対して気をつけて帰れって…、どんだけお人よしなんだよ。
私はいつからこんな風に考えるようになったんだよ。
「いかんな。もう帰るか」
私が不老不死になってから、一体どれほどの時が流れただろうか。
最初のうちは自分が不老不死になったなんて実感がなかった。
でも10年、20年と時が過ぎても変わることのない身体は嫌というほど実感できた。
初めて怪我をした時気付けばよかったのかもしれないけど、生憎そこまで頭が回らなかった。
自分の中で、もう戻れないんだ…。
と思うようになった時には、もう周りには私の知っている人は誰もいなくなっていた。
でも一人だけ、たった一人だけ知ってる人がいた。
黒くて長い綺麗な髪を靡かせて、すべてを支配したような夜の中で…。
その女が酷く悲しそうな顔をしているのを、私はよく覚えてる。
自分でもびっくりするぐらいに、その女に見惚れていた。
その日から、私はずっとその女に近づきたくて。
その女のことが気になって。
知りたくて。
ありったけの想いを込めて、その女と戦っていたのかと。
今さらながらに感じて。
「私は、輝夜が好きなのか」
この世界の理の中で生きてきた私には、あまりにも眩しすぎて。
字の如く、夜に輝くあいつは私の心を照らして。
果てしなく続く空を、私はどこまでも見つめているんだ。
「……さて、これからどうしようか」