博麗霊夢は、人間だ。
紛れも無く人間であり、どこか普通の人間とは違う人間である。
それでも、霊夢ほど人間らしい者もいないだろう……。
博麗霊夢は、難しい人間だ。
人物に対しての感情は無機的で、人の好意も場合によっては突き放す。
寄りつく者を鬱陶しいとしか思わない。
そのくせ、必要とするときはとことんその人物を必要とする。
その時の霊夢は可愛らしいものだが、用が済んでしばらくすれば元通り。
また、自分の思うようにならないと気が済まない。
少しでも狂ったり、変になったりすれば、不機嫌になる。
「ねぇ、文。買ってきてって言ったお茶と買ってきたお茶の種類が何で違うのよ」
「え?いやぁ、売り切れてたんですよ。だからお茶買って帰らないわけにもいかないので別のを買ってきたんですが……。だめでしたか?」
「駄目に決まってるじゃない! あのお茶が好きだからそういったのに」
「いやでもですね、霊夢さん。そのお茶、私が買っているお茶なんですけど、美味しいんですよ?」
「美味しくなかったらしばくからね」
そんな物騒な言葉を言い残し、文が買ってきた茶葉でお茶を淹れる。
急須に入ったお茶を愛用の湯のみへと注ぎ込む。
そして、湯のみを両手で掴むと、そのまま口へと運ぶ。
「……あら、美味しいわね。ありがとう、文」
「どういたしまして」
さっきまでの態度は何処吹く風で、機嫌もいつの間にやら良くなっている。
どうやら霊夢はお茶が美味しければなんでもいいらしい。
怒ってみたり、喜んでみたりで、難しい人間だ。
博麗霊夢は、嫌われ者だ。
人里の者達からは、神社には妖怪達がいるし、あの巫女も妖怪の仲間だと思われている。
そんな事を別に霊夢はどうとも思っていない。
勝手に思っていればいい、そう思っているのだ。
「霊夢、お前人里の評判悪いな」
「別にいいんじゃない? 評判悪いからってなにかされるわけじゃないし」
「いやでも、人里に出づらくないか?」
「人の目なんて気にしてられないわ。人の目を気にしてたら自由にできないじゃない」
「まぁ、そうなんだがな……」
魔理沙はそんな霊夢が心配で夜も眠れない。
魔理沙も魔理沙で実家を抜け出したから人里には行きづらいが、霊夢は別である。
人里の人達が誤解しているだけであって、霊夢は何も悪くない。
なのに、変な目で見られるなんてあまりにも霊夢が可哀想だ。
そんな霊夢を魔理沙は見放す事なんてできなかった。
「霊夢みたいな可愛らしい女の子が化け物扱いなんて酷いと思わないか?」
「酷いわね」
「だろう!? 本当の霊夢は純粋な女の子で、幻想郷一可愛いんだって事をだな」
「いいわよ、そんなことしなくても。人の事なんてそんなに気にしなくていいのよ」
「で、でも」
「もう! 鬱陶しいわね! 他人に心配されなくても自分で何とかするわよ!」
「れ、霊夢……」
魔理沙はぐすんと鼻をすすり、涙目になる。
う~、と可愛らしく唸るも、霊夢はお茶を飲むことしか頭に入っていないらしい。
魔理沙は立ちあがり、箒に跨ると、霊夢に向かい
「今度は絶対に認めてもらうからな!」
「はいはい、さようなら」
魔理沙は、うわーん!と大きな泣き声と共に去って行った。
次の日には、何事も無かったような顔で神社に降り立つ魔理沙の姿があった。
博麗霊夢は、不思議な人間だ。
鬱陶しいと追い払う事ばかりするにも関わらず、妖怪達を寄せ付ける。
また、妖怪だけでなく、虫や動物達も霊夢に寄って来る。
霊夢の頭の中では、動物達>妖怪なので、動物達には優しい。
他にも、突然訳のわからない事を発言する事が多々ある。
例一
「ねぇ、文。新聞紙で染物って出来るかな?」
「は、はい? そんな染物誰が欲しがるんですか」
「私」
「あぁ、そうですか……」
例二
「あんた美味しそうよね。太ももとか特に。猫って食べられないの?」
「な、何言い出すんだい、お姉さん! あたいを食べても美味しくないよ?」
「なんでそんな事わかるのよ。あんた食べたことある人なんていないんだから、まだ美味しいかどうかなんてわからないでしょう?」
「そんな必死な目で言われても困るんだけどなぁ……」
例三
「早苗って現人神なんでしょう? 私とどう違うの?」
「いやぁ、どう違うって言われましても」
「見た目も私と大して変わらないし、別に偉そうにも見えないし。何処が違うのか詳しく教えてよ」
「そんな輝いた目で見ないで下さいよ……」
例はほんの一部に過ぎない。
一体霊夢の頭の中はどうなっているのかが気になるところである。
通常の会話であったり、何気なくお茶を飲んでいるときに繰り出されるので驚かざるを得ない。
しかし、妖怪達は、そんな事を言うからこそ霊夢だと思っているため、気にしてはいないようだ。
博麗霊夢は、ずる賢い人間だ。
自分に利益のあることとなれば、その頭のキレは右に出るものはいない。
どうすればそれを手に入れる事が出来るか、全てが駄目でも、少量でも分けてもらえるかなどと、すぐさま考えが切り替わる。
「さっき永遠亭の方に行ったら野菜とたけのこを貰ったわ」
「あら、いいわね。それ、レミリアに食べさせるの?」
「えぇ、そうするわ。きっとお嬢様も喜ぶだろうし」
とある日の事、咲夜が永遠亭に用事があり、足を運んだ。
その時に、丁度採れたばかりの野菜と、たけのこを貰ってきたのだ。
大きな籠の中に入れて運んでいたのを霊夢が発見し、咲夜を止めた。
たけのこが好きで、それに野菜もついているときた。
ここからが霊夢の本領発揮である。
「そういえば、この前レミリアがたけのことか野菜ってそんなに好きじゃないって言ってたわねぇ」
「え、そうなの?」
「なんっていうか、たけのこは料理のレパートリーとかも少ないし、野菜にしてもレミリアはお肉の方が好きなのは知っているでしょう?」
「まぁ、確かに」
たけのこや野菜が嫌いなどと言うのは全くの嘘。
どれも自分が欲しいが為に考えたものである。
「たけのこ料理のレパートリーについては、料理の本を見たり、アレンジを加えれば大丈夫でしょう。野菜も野菜を主とするのではなくて、添える程度なら食べてくれるでしょう」
「でも、結構な量よね。数日でも同じたけのことか野菜が料理に使われてるとなると、これしか用意できないのか? なんて思われるかもしれないわよ」
「た、確かにありえるわね」
最初の咲夜の台詞で、全てを貰う事を諦めた霊夢は、分けてもらうことに切り替える。
「でしょう? ここであったのも何かの縁だわ。少し貰うわよ?」
「そう? それじゃあ、貰いものだけどどうぞ」
「どうも~」
そうして、たけのこと野菜を貰うのであった。
ずる賢さでは、人間の中ではトップかもしれない。
博麗霊夢は、可愛らしい人間だ。
まだ少女にも関わらず、大人びた雰囲気を漂わせている。
しかしながら、心はまだまだ少女で、乙女なものだ。
他人から求められた時には鬱陶しい態度を見せるが、霊夢から求める時の態度は、非常に可愛らしい。
求められる側が意地悪をしてみれば、甘い声で駄々をこねる。
「ねぇ、魔理沙。ちょっと人里でお茶買ってきてよ。無くなっちゃったのよ」
「自分で買いに行けばいいじゃないか」
「なによ、魔理沙だってよくここに来て飲んでるじゃない」
「そりゃ、お茶出されたら飲むだろう。自分で買ってくるんだな」
するとどうだろう、唇を尖らせ、頬を膨らませているではないか。
「お願い」
「体を動かす事も大事だぜ」
これでも拒否し続ければ、涙目で上目遣いでお願いしてくる姿が見られる。
これを見たいが為に意地悪する妖怪達も多々いる。
「お願い、魔理沙。買ってきて?」
「……仕方ないな、買ってきてやるぜ」
「ありがと、魔理沙!」
その時の笑顔はとびっきり可愛らしい。
また、お酒が入った時の彼女はこれまた美しく、可愛らしい。
紅く染まった頬に、どこかとろんとした瞳。
お酒を呑むと何かと甘えたくなるらしい霊夢は、一度決めた相手から離れない。
「ねぇ、ゆかりぃ~。おさけちょうらい?」
酔っているせいで呂律が回っていない霊夢。
そんな霊夢は、紫の腕をがっちりと掴んで離さない。
「それくらいにしときなさい。明日辛いって喚くのが目に見えてるんだから」
「なんれ? なんれそんなこというの?」
「貴女のためよ」
「けち! ひとでなし! ばばぁ!」
「誰がばばぁよ、誰が。全くもう、貴女は酒癖が悪いわね」
「なによ、ゆかりのばかぁ……」
お酒が入ると口が悪くなるが、何かしら冷たくされるとすぐに泣き出す。
「泣かないで、霊夢。またお酒は今度にしましょう、ね?」
「紫のばか、ばかぁ……」
そんな紫の表情は、非常に穏やかで、どこか嬉しそうでもあった。
そして、博麗霊夢は、愛されている人間である。
なんだかんだ言いつつも、沢山の妖怪や人間たちに囲まれて生きている。
様々な面があり、嫌われるような部分もあるが、それでも霊夢の周りに寄ってくる。
それは、紛れも無く、霊夢の事が皆大好きだからなのだ。
する事が無ければ、なんとなく霊夢に会いに行く。
そんな感じで、妖怪達は霊夢を愛しているのだ。
霊夢ほど、妖怪に愛され、人間らしい生活をしている人物はいないだろう。
今日も誰かが、博麗神社で暇を持て余すのだろう。
そんな私は、博麗神社で少し羽を休める事にするとしましょう……。
「な~んて感じで、霊夢さんに関してのレポートを書いてみたんですけど、どうでしょう?」
えへへ~と、悪戯っぽく笑う文は、霊夢にそのレポートを差し出す。
新聞も作らず、こんなものを作っていたのかと、霊夢は呆れる。
「どうもこうもないわ。焼却しなさいよ」
「嫌ですよ! これは私の宝物です!」
「宝物? そんなあんたの主観交じりの私のレポートなんかがどうして宝物なのよ」
すると、文はそのレポートをそっと抱きしめた。
「だって、私と霊夢さんが一緒にいられる時間なんて、あっという間です。だから、霊夢さんと一緒にいられた事を忘れない為の、大切な宝物なんです」
優しい口調で文が言う。
そんな文を見て、霊夢はため息をついた。
「勝手にしなさい。それであんたの気が済むんならね」
「それじゃあ、勝手にさせていただきます」
文は柔らかく微笑み、感謝の意を伝える。
それに対し霊夢は何も言わず、お茶を啜っていた。
いつかは別れが来る。
それを、どんな形でもいいから、心の中にずっとずっと残るように。
一つの文章にして、いつまでも持っている。
例えいなくなっても、それを見て、泣き、そして笑う事ができるだろう。
それがどんなにちっぽけで、自分の思いが混じった文章だったとしても。
貴女といた事を思い出せるなら。
どんなものでも、それが私の宝物なのだ。
文は、霊夢の無表情な顔を、優しい笑みで見つめていた。
そんなキャッチフレーズが良く似合う霊夢ですねぇ。
駄目な所も含めて皆に愛される彼女は、やっぱり卑怯だよなぁ。
お話の途中までは、霊夢のネガティブな面が少し目立つので、もうちょっと
間の抜けた所や純粋な面を描いてくれると良いかな? と思って読んでいたのですが、
文の主観による描写ということで、文自身の想いも考慮すると、すごく納得出来ました。
次回作、さらに楽しみにしていますよー
これからも頑張ってください。
応援しています
人妖の寿命の違いの話だけではありきたり。生態を記録したレポートだけの話でもありきたり。
そのレポートを種族の差を表す小道具の一つにしてしまったことで切なさがより一層引き立ったように思います。
ところでこれもまさか学校行く前の30分で書いたとか言いませんよね!?
私も入会したいです。
素晴らしいの一言です!!!
さらっと言ってるけど、重みのある言葉だねえ。
ラストの方の文の言葉が深いですねー。
レポートの形式に乗っ取って、文だけでなく実際の景色も描かれているのが更に。……良いなぁ……
>18さん
自分も入会希望です。
れいあや派に少し傾きました。
って事でいいのかな?
そうでないと霊夢がただのメンヘラになってしまう。
頭が悪い女にしか見えん・・・そこが良いのか?
むしろ文の嫌がらせなのか?
評価ありがとうございます。
そういうダメな点も含めて、彼女の魅力なんだと思いますね。
次回作、誕生日ネタがあるんですが、それは私の誕生日に……。
さて、ネタは落ちていないものか。
>12 様
評価ありがとうございます。
私はあなた様のコメントに感動しました。
応援に応えられるよう頑張りたいです。
>18 様
評価ありがとうございます。
何処で入れますか、私も入りたいのですが。
>ぺ・四潤 様
評価ありがとうございます。
文は、色んな人との出会いを全部レポートにして残してそうな気がします。
で、時々読んでは思い出すんでしょうね。
これは学校前には書いてませんよ
まぁ、前から案はあったので、1時間と少しかかりましたね。
>22 様
評価ありがとうございます。
嬉しいお言葉です。
>Taku 様
評価ありがとうございます。
いい話を作る事が出来て良かったです。
>奇声を発する程度の能力 様
評価ありがとうございます。
こちらは感謝の気持ちでいっぱいです!!
>33 様
評価ありがとうございます。
私の思い描く霊夢と合致したようで……嬉しいですわ。
>36 様
評価ありがとうございます。
霊夢にとっては、文の言う「あっという間」は長い時間ですからね。
時間の感じ方の違いですねぇ。
>39 様
評価ありがとうございます。
感化されてください、むしろ染まって(ry
どんなものでも、その人の思い出が詰まっていれば宝物なんですよね。
>v 様
評価ありがとうございます。
愛されいむ可愛いよ!
嬉しいお言葉に悶絶しますわ。
18様の人気にぱるぱる!
>51 様
評価ありがとうございます。
嬉しい限りです~。
>ケトゥアン 様
評価ありがとうございます。
霊夢はもうみんなのもの!カップリングとか誰とでも合うから困る。
れいあやはいいものだ。
>54 様
評価ありがとうございます。
悪女……、そんなことないです、多分、きっと。
>59 様
評価ありがとうございます。
霊夢可愛すぎて生きるのが辛いです。
>67 様
評価ありがとうございます。
上手く表現ができないせいで、霊夢がメンヘラっぽく見えてしまったようで……。
私としてはそういう風に意識して書いたわけではなかったのですが。
まだまだ技量が足りない故です、コメントありがとうございました。
>あぶぶ 様
評価ありがとうございます。
幻想郷はそういう人間の方が人気な気もしますけどね。