その提案は、かなり唐突なモノだった。
「ナズーリン。あなた、お見合いをしてみるつもりない?」
いつも通りにお天気そうな顔をしたご主人が、ハタキかけをしていた私に、気楽そうな調子で話しかけてきた。
だが、その気楽そうな口ぶりとは裏腹に、その言葉があまりに異質だったので、私は聞き返してみる。
「何だって、すまないなご主人。聞き取れなかったようだ」
するとご主人は、さっきと同じように繰り返してみせた。
「ナズーリン。あなた、お見合いをしてみるつもりない?」
何も、一字一句忠実に繰り返さなくても良いじゃないか。
「ええと、それは私に相撲でもさせたいのかい?」
「何を馬鹿な事を言っているんですか。男と女のお見合いですよ」
つまり『見合って、見合って~』という行司が必要な『立ち会い』ではないわけだ。
話を総合してみると、どうやらご主人は私にお見合いをさせたいらしい。
「ええと、一体どういう風の吹きまわしだい?」
「それがね。この間、寺に世話人をやっている人が遊びに来たんですよ。そしたら、彼女は妖怪の仲もお世話しているって言うじゃないですか」
「ふむ。妖怪の世話人というわけだ」
なかなか奇特な御仁だ。
妖怪なんて自己中心的な連中の仲を取り持つなんて、並大抵の苦労じゃないだろう。
そもそも妖怪の夫婦なんて、あまり聞かない事を考えれば、妖怪という生き物に結婚制度は似合わない事など、すぐに分かるだろうに。
私が知っている妖怪の夫婦なんて、役行者の前鬼後鬼夫妻に、手長足長ぐらいなものだ。
「それでね、少し話をしてみたところ、ナズーリンのお見合いの相手が見つかったんですよ!」
「意味が分からないな。なんでそこで私がお見合いをする事になるんだ」
少し棘のある言い方で、私は言った。
だが、それも仕方はないだろう。
そもそも、私は結婚だとか、男とかに興味はない。
だいたい、ただでさえご主人のサポートに忙しいのに、これ以上誰かに拘束されるなど、冗談じゃない。
私はダウザーとして確固たる能力を持ち、その力を行使して生きている。
そこにこれ以上、他人が入り込む余地はないし、異性ならなおさらだ。
「そんな言い方はいけませんよ。ナズーリン」
「済まないね。口が悪いのは生まれつきだ。とりあえず、話はそれで終わりかい? だったら、私はこれで失礼をするよ、まだハタキかけが残っているからね」
私は踵を返し、ハタキかけを再開する。
「ま、待って下さい。せめて会うぐらいはいけませんか?」
すると、掃除に戻ろうとした私の手を、ご主人は掴んできた。
「私は見合いなどまっぴらごめんだ。だから、何処の馬の骨とも分からない妖怪になんて会いたくないよ」
「うう。でもでも、ひょっとしたらお嫁さんになれるかもしれませんよ?」
「私は、そんなモノになりたくないね」
「そんな……お嫁さんは全ての女の子の憧れじゃないですか!」
そこで、ご主人は「ガオー」と吠えた。
さすがに虎の咆哮ともなると少し吃驚する。
凄い迫力だ。
ご主人は興奮したのか、歯をカチカチと鳴らして、私を威嚇している。
また、吠えられてはかなわないので、私は観念してご主人の話を聞く事にした。
「しかし、ご主人はお見合いにこだわるね。そんなに私を嫁に出したいのか?」
「女の子は、お嫁さんになるのが幸せなのですよ! 私はナズーリンに幸せになって貰いたいと、ただそれだけなんです……」
特に毘沙門天様の所では、結婚を奨励してなかったから、これは単にご主人が結婚に強い思い入れを持っているだけだろう。
結婚願望が強いのか、昔の乙女にありがちな結婚に夢を持っているだけか。
たぶん、後者だ。
「それなら、ご主人がお見合いすればいいじゃないか」
するとご主人は目に見えて萎んでしまう。
「虎の妖怪は数が少ないらしくて、私のお見合いの相手は、全然見つかりませんでした……」
「探したのか」
私の問いに、ご主人は悲しげな顔でこくりと頷く。
その目は少し、悲しげだ。
「だからこそ、だからこそ……ナズーリンには、私の代わりに、幸せに……ッ お、お見合いをして、幸せな結婚生活を送って欲しいのです!」
ご主人は、すべての希望を託すとばかりに、痛くなるほど私の手を握ってくる。
これで断れる者がいたら、それは外道ぐらいのものだろう。
私は、お見合いを了承した。
「あら、とても似合うわよ」
聖が、さも楽しげに私の髪を弄る。
私の髪はさして長い方ではないのだけど、聖は丁寧に髪をブラッシングして、それを後ろにまとめてくれた。
聖の弁によれば『髪をまとめると大人っぽく見えるんですよ』との事である。
「ムラサー、この長持には何が入っているの?」
「あー、はいはい。なんでしたっけ、って、目の前にあるのだから開ければ良いでしょうに」
向こうでは村紗とぬえが、聖の持ってきた長持を漁っている。
私がお見合いで着る為の衣装を見つくろっているらしい。
「お、この服いいな。ねー、この服貰っちゃって良い?」
「あー、ずるいですよ。ぬえ!」
だが、二人とも年頃の女の子。
可愛い衣装に心奪われ、服の争奪戦を始めてしまった。
「まったく、何をやってるんだか……あ、姐さん。ナズの衣装を確保してきました」
そんな二人を華麗にすり抜け、一輪が何着か服を持ってくる。
それらの服は、どれもフリルがたくさん付いた可愛らしい服ばかりだ。
「ちょっと待ってくれ! 私にこんな服は似合わないぞ」
そもそも、そういうのはぬえにでも着せておけば良いだろう。
私のガラじゃない。
しかし、聖と一輪は、私の抗議などどこ吹く風。
フリルのついた服を着せる為に、私の服を脱がしにかかってきた。
「ま、待ってくれ!」
そこで私はある事に気が付いて、待ったをかけた。
だが、聖と一輪は容赦がなく、私の衣服を剥ぎに来る。
「駄目ですよナズーリン。実際に着てみないと分からないでしょう?」
嬉々として聖が私のケープを剥ぎ取る。
流石は肉体強化系の魔法使いだけあって、その握力は凄まじく、きっと素手で林檎を握る潰せるほどだろう。そんな魔法使いに、か弱い鼠に対抗できるはずもない。
「そうよナズーリン。せっかく、姐さん直々に綺麗にしてくれるって言うんだから」
一輪が私のスカートを下ろす。
尼僧として修業しているだけあって、その力は割と強い。
やはり、一介の鼠が抵抗できる道理はなかった。
「頼むからやめてくれ! 雲山が見ているんだからぁ!」
私は、一輪の背後で、いつも通りに漂っている雲山を睨んで悲鳴を上げる。
けれども、私の懇願が聞き入れられる事はなかった。
それからしばらくの間、私は聖の玩具となる。
「ふふ、ナズーリンは本当に着せ替えのしがいがあるわね。小さくて可愛いし……お人形みたいですよ」
「勘弁してくれ。だいたい鼠の人形なんて可愛くないだろう」
力ではかなわないので、口で抵抗してみるものの、聖は笑って受け流すのみだ。
やはり、手ごわい。
「……そう言えば、聖達にはお見合いの話はなかったのかい?」
だから、攻めの方向を変えてみる。
ご主人の事だから、お見合いをさせようとしたのは私だけではないハズ。
そこに、この不自由な状況を打開するカギが、あるかもしれない。
「私は聖職者ですからね」
聖が涼しげに受け流す。
「尼ですから」
一輪も同様に受け流した。
「舟幽霊って、そもそも結婚とか言っていられるほど余裕がある人居ないと思うんですよ」
村紗もスルーした。
だったら、ぬえはどうだ。
由緒正しい古い妖怪の血族である封獣ぬえ、彼女なら他のぬえとの見合い話があっても不思議じゃないだろう。
「そもそも正体不明がぬえの身上だからね。結婚って、異性と分かりあう事でしょ? 根本的に無理」
「全員スルーか!」
なるほど、こんな連中が集う命蓮寺では、お見合いの犠牲となるのは私しかいない。
私がお見合いをする羽目に陥ったのは、必然だったのだ。
「でも、雲山は、礼儀正しく夫を立てて、お辞儀をする時に指を揃えて、三歩下がって後ろを歩く日本的な女性ならやぶさかではないそうです」
「知らないよ、そんな事は!」
それから一刻、ようやく衣装が決まった頃に、ご主人は帰ってきた。
「見合いの日取りが決まりましたよ。次の大安吉日です!」
そう言って入ってきたご主人は、私の姿を見て、凍りついた。
髪を後ろでまとめて髪飾りを付けて、軽く白粉を叩き、薄く紅を引く。
耳はそのままだが尻尾にはリボンを結び、何処かの洋館に棲むお嬢様みたいな服を私は着せられていた。
まあ、さっき鏡を見せて貰ったが『馬子にも衣装』程度にはなったような気はする。
「どうですか星。ナズーリンはとても可愛くなったでしょう?」
「は、はい……綺麗です。とても」
そういうと、ご主人は、なぜか顔を赤くして、ジッとこっちを見た。
「そういうリアクションを取られると、こっちもどう対応していいか困るんだが」
「いいじゃないですか。星が可愛いと言っているんですから」
村紗がそう言って「カワイカワイ」など言いながら私の頭を撫でる。
「そうねぇ、可愛いなら良いじゃない」
余った服を聖から貰っていたぬえが、顔だけこっちを向けて言う。
「うーん……」
そう可愛い可愛いと褒められるのは良いけれど、私はその『可愛い』という奴が苦手なのだが、その辺が分かっているのだろうか。
あるいは、分かっててやっているのかもしれないな、この人達は。
「姐さんの見立てだから可愛いのは当然よ。雲山も『なかなかのお手前』と言ってるわ」
うるさい、黙れ。
平然と私の着替えに居合わせたエロ親父め。
実体があるなら、記憶を失うまで雲山の頭を叩いてやるのに。
まあ、良い。
なんかもうどうでも良い。
「矢でも鉄砲でも見合いでも、何でも来ると良いさ!」
私はブチ切れて、叫んだ。
そして見合い当日の大安吉日。
見合いの場所は白玉楼、枯山水が良く見える畳敷きの一室だ。
なんでわざわざ見合いの為に、冥界まで出向かなくてはならないんだろう。
「ここは庭園が素晴らしいですからね。それに見合いの相手は世話人のスキマを使って来ますから、見合い場所は幻想郷の中なら何処でも良いんですよ。だったら、できるだけ雰囲気の良い場所にしたいでしょう?」
「ス、スキマ?」
ご主人の説明に、私は声を上げた。
スキマという事は、見合いをセッティングする仲人は、あの妖怪か?
私が驚いていると、それは現れた。
空中の空間にすうっと亀裂が走り、そこから一人の妖怪が飛び出してくる。全身を紫色の衣装で身を包み、金の髪と目をした女性の妖怪。
それは幻想郷の顔役である八雲紫だった。
確かに、彼女であれば、幻想郷の内外に顔が広い。世話人として、これ以上の適役はいないだろう。
「少し遅れてしまったようね」
スキマから現れた八雲紫は、そう言うと優雅に一礼をした
「いえいえ、私達もさっき着いたところですよ」
「そう、それは良かったわ。お嫁さんをお待たせしちゃ、申し訳ないものね」
そう言って、八雲紫は私に笑いかけるが、私は答えずに黙っている。
ご主人の顔を立てる意味で、この意味合いに出席をしたが、私は愛想を良くするつもりもないし、結婚する気などさらさらない。
だから、『お嫁さん』などと呼ばれては……困る。
「こら、ナズーリン。世話人さんに失礼でしょ」
「いいのよ。女の子がお見合いで恥ずかしがるのは、いつの時代も同じなんだから。むしろ、こういう場でハキハキしている方が、男から見た場合、興ざめでしょう」
ご主人と話していた紫は、そう言うと口元を扇で隠して、上品に笑った。
相変わらず、胡散臭い。
「ところで、お相手は?」
「あら、いけない。私としたところがすっかり忘れていたわ。さあ、お出でなさってくださいな」
紫は、開いたままになっているスキマに向かって声をかける。
すると、私のお見合い相手は姿を現した。
彼は、鼠らしく鼻は尖っていた。
私のようなほとんど人化した妖獣ではなく、かなりの割合で鼠のままだ。
耳は黒く、とても大きくて丸い。かなり特徴的な耳だ。
全体的に色は黒いのだが、顔の部分は人間のように肌色をしている。
歩行手段は二足歩行、真っ赤なズボンをサスペンダーで吊っていて、事あるごとに「ハハッ」と、楽しげに笑う。
「ハハッ、ボクの名前はミ……」
「やめて!!」
世界で一番有名なネズミが名前を言おうとした瞬間に、私は全力で止めた。
「あらやだ。いきなり彼の口を塞ぐなんて、この子ってば積極的ね」
「積極的とか、そう言う事じゃない! 一体何考えてるんだアンタは!」
私は、あの鼠の口を塞ぎながら、能天気な顔をしている八雲紫に向かって吠える。
「彼も結婚相手を探してたからちょうど良かったのよ」
「彼には彼女が居るだろう!」
そう、この世界で一番有名な鼠には、公式のガールフレンドが居る筈なのだ。確か、名前はミニ●マウス。
長いまつ毛とリボンが特徴の可愛らしい雌鼠だ。
しかしアレだな。
侮蔑的な意味で使っていなくとも、雌という単語はあまり良いイメージがしない。
やはり、こういうときは女鼠とか言うべきなんだろうか。
閑話休題(それはともかく)。
「なんでも彼は、八十年の長きにわたる彼女との生活に疲れて果て、新しい出会いが欲しいらしいのよ」
「ちょ、ちょっと待て! そういうのは止めてくれ! あの夢の国でそう言う生々しい話はしないでくれ!」
世界中の良い子はミッ●ーを見て、夢を抱いているんだぞ。
そういう、生っぽい事はやめるんだ。
「ナズ、大人も色々とあるんだ。ミッキ……」
「だから、名前を言うなというのに!」
私は慌てて、無神経にもこの鼠の名前を言おうとしたご主人の口を押さえる。
「ともかく、帰って貰ってくれ! これ以上彼に居座り続けられたら、このSSだけの責任じゃ収まりが付かないだろう!」
「あらそう? でも、どこかの風刺アニメじゃ、彼どころか、ムハ」
「それは本気で洒落にならないからやめろ」
私は、なおも頑強にお見合いを進めようとする紫の口を塞ぎ、ミッ……ではなく、ミスター・マウスには帰ってもらった。
流石に、これ以上は危険すぎる。
「まったく、ナズーリンてば。お見合いが嫌だからって強引に相手を返しちゃって……」
いや、それは違うぞご主人。
私は、皆の命を救っただけだ。
「ふむ、とりあえずミッ」
「だから、名前を出すなと言っているだろう!」
「ええと、彼が嫌という話は理解したわ。私も世話人として、一人の女として、女性が望まない結婚を強引に進めるつもりはない」
「それは、有難いね」
八雲紫の言葉に私は息を吐いた。
つまり、唐突なご主人の発案から始まったお見合い騒動も、これで終わりという事になる。
いやはや、ほとんど出落ちだったけど、無事に終わって良かった良かった。
「じゃあ、二人目をお呼びしましょうか」
「なんでだ」
私は、即座にスキマ妖怪に対して突っ込みを入れる。
なんで私は、二連続でお見合いをしなければいけないのだ。
「まあ、結局お見合いをしていないわけじゃない?」
「そうなるね」
「だから、もう一度。今度はナズーリンが気に入るネズミを連れてくるわ」
「なぜそうなる」
私が抗議の声を上げても、八雲紫は気にするそぶりも見せず、スキマに消えてしまった。
どうやら、本当にもう一度お見合いをするつもりらしい。
「ナズーリン、今度こそ頑張って!」
「いや、頑張らないから」
ご主人の叱咤激励を、私は適当にスルーした。
「ピカ~、ピカチ」
「だから、やめて!」
二匹目のネズミは、某ゲーム大人気の世界的な知名度を誇る電気鼠だった。
他の所から、鼠を連れてくるなとは言わないから、版権的に強硬なところからは止めてくれ。色々と心臓に悪い。
あそこは、唐突に強硬な態度に出るから困る。
私は、電気鼠にも帰ってもらった。
「もう、ナズはどんな人なら良いのかしら」
困ったものだとご主人が溜息を吐く。
しかし、残念だったな、溜息を吐きたいのは私の方さ。
「んー。後は、猫の窃盗犯を追いかける鼠の警察官に音速針鼠、それに猫と仲良く喧嘩している鼠ぐらいかしら」
「……何処も難しい感じだね」
「そうねぇ。後は貴方と同じ人型の、鼠の妖怪の血を引く半妖なら知っているけど」
「それは拒否させてもらうよ」
私の明確な拒絶に、紫は「そうよねぇ」と笑った。
流石に私はビビビの彼と、差し向かいになって見合いなどしたくはない。
性格的な事もさることながら、彼は少し……臭いが酷過ぎる。私も鼠の端くれだけど、生憎とドブネズミの系譜ではないので、綺麗好きな方だ。
どうやったって、ビビビのナントカ男とは合わないだろう。
これで、紫の提案する私の見合い相手も、もういないだろう。
これで、お見合いは終わりだ。
「んー、それじゃあ。あと一人良いかしら?」
「まだいるのか」
私は、あからさまに嫌そうな顔をする。
だが、八雲紫は気にしないで、
「ええ、これまでとは少し毛色が違うけど、ナズーリンもきっと気に入ると思うのよね。それじゃ、ちょっと呼んできますわ」
などといって、スキマに消えてしまった。
全く持って忙しい事だ。
「いい人だといいですね」
「そもそも、いい人だろうか、何だろうが関係はないけどね。私に結婚の意志はないんだから」
「でも、そんな事を言っても、運命の出会いというモノは、ふとした瞬間に起こるモノですよ」
「ご主人は、楽観主義者だね。あるいは運命主義者かい?」
私が笑うと、ご主人はムッとした顔をした。
私の場合、今はご主人と一緒にいられればそれで良いんだけどね。
その辺は理解して欲しいのだけど、それを期待するのは酷だろう。
この鈍感タイガーめ。
そうして話をしながら待っていると、八雲紫が帰ってきた。
「ただいま。この人が私の用意できる最後の相手よ!」
自信満々に紫は胸を張る。
だけど、件のお見合いの相手はなかなか出てこない。
どうしたのだろう。
「ぽ、ぽぽ、ぽぽっ」
何だろうか。
奇妙な声がスキマから聞こえてくる。
妙に反響した、幻想郷ではあまり聞かない妙な声だ。
「ぽぽ、ぽぽっ」
それは少しずつ大きくなってくる。
声の主がスキマの出口に近づいているのだろう。
「な、なんなんだ?」
私は、戸惑いの声を上げた。
すると、紫はニヤニヤとした顔で私の顔を見るのみだ。
なんだ、その笑顔は。
それはとても気味の悪い笑顔であり、定命の人間はおろか、私のような妖獣にも決してできない非人間的な笑顔。気味の悪い笑みだ。
そんな笑顔で、紫は私を見ながら奇妙な声が聞こえてくるスキマを維持している。
「ぽぽぽっ、ぽぽぽっ」
声はどんどん大きくなっていき、それは私の耳朶を打つ。
白玉楼のお見合いの為に用意された、枯山水が良く見える幻想郷でも最上の一室に、その奇妙な声は反響していた。
「な、なんなんだ。この声は!」
私は悲鳴を上げる。
すると、気味の悪い笑みを浮かべる妖怪は、私を舐めまわすように見るとこう言った。
――貴女のお婿さんじゃないの、可愛いお嫁さん。
妖怪は笑う、いや、きっとこの妖怪は嗤っているのだ。
こんな場に出てきてしまった私を嘲笑っているに違いない。
こいつは、何と私を見合わせるつもりなのだろう。
何に対して、私を差しだすつもりなのだ。
私は逃げ出そうと、ご主人の方を見る。
「ご、ご主人……」
そして、手遅れである事を悟った。
ご主人は、どこか遠い所を見て、恍惚としている――スキマから聞こえてくる声に聞き惚れて、我を忘れているのだ。
「ぽ、ぽぽぽっ、ぽぽぽっ」
ほとんど、声の主が姿を現した時、私はそれの正体にようやく気が付いた。
そして、それが今までの危険など及びもつかない程の恐ろしさを孕んでいる事に気がつく。
止めなければならない、だが、それは遅いかもしれない。
全てが手遅れになったと感じた瞬間、ついにそれは姿を現してしまった。
「ぽーぽー! ぽぽぽぽぽぽ! ぽーぽーぽーぽーぽー! ぽぽぽぽぽぽぽぽぽ……」
「それ以上、歌うな! ジャスクラックが来るだろうがああああ!!」
姿を現したギロッポンで有名なパンチパーマの憎いやつに、私は全力のパンチを放つ。
その瞬間に私のお見合いは終わりを告げた。
「ナズーリン。あなた、お見合いをしてみるつもりない?」
いつも通りにお天気そうな顔をしたご主人が、ハタキかけをしていた私に、気楽そうな調子で話しかけてきた。
だが、その気楽そうな口ぶりとは裏腹に、その言葉があまりに異質だったので、私は聞き返してみる。
「何だって、すまないなご主人。聞き取れなかったようだ」
するとご主人は、さっきと同じように繰り返してみせた。
「ナズーリン。あなた、お見合いをしてみるつもりない?」
何も、一字一句忠実に繰り返さなくても良いじゃないか。
「ええと、それは私に相撲でもさせたいのかい?」
「何を馬鹿な事を言っているんですか。男と女のお見合いですよ」
つまり『見合って、見合って~』という行司が必要な『立ち会い』ではないわけだ。
話を総合してみると、どうやらご主人は私にお見合いをさせたいらしい。
「ええと、一体どういう風の吹きまわしだい?」
「それがね。この間、寺に世話人をやっている人が遊びに来たんですよ。そしたら、彼女は妖怪の仲もお世話しているって言うじゃないですか」
「ふむ。妖怪の世話人というわけだ」
なかなか奇特な御仁だ。
妖怪なんて自己中心的な連中の仲を取り持つなんて、並大抵の苦労じゃないだろう。
そもそも妖怪の夫婦なんて、あまり聞かない事を考えれば、妖怪という生き物に結婚制度は似合わない事など、すぐに分かるだろうに。
私が知っている妖怪の夫婦なんて、役行者の前鬼後鬼夫妻に、手長足長ぐらいなものだ。
「それでね、少し話をしてみたところ、ナズーリンのお見合いの相手が見つかったんですよ!」
「意味が分からないな。なんでそこで私がお見合いをする事になるんだ」
少し棘のある言い方で、私は言った。
だが、それも仕方はないだろう。
そもそも、私は結婚だとか、男とかに興味はない。
だいたい、ただでさえご主人のサポートに忙しいのに、これ以上誰かに拘束されるなど、冗談じゃない。
私はダウザーとして確固たる能力を持ち、その力を行使して生きている。
そこにこれ以上、他人が入り込む余地はないし、異性ならなおさらだ。
「そんな言い方はいけませんよ。ナズーリン」
「済まないね。口が悪いのは生まれつきだ。とりあえず、話はそれで終わりかい? だったら、私はこれで失礼をするよ、まだハタキかけが残っているからね」
私は踵を返し、ハタキかけを再開する。
「ま、待って下さい。せめて会うぐらいはいけませんか?」
すると、掃除に戻ろうとした私の手を、ご主人は掴んできた。
「私は見合いなどまっぴらごめんだ。だから、何処の馬の骨とも分からない妖怪になんて会いたくないよ」
「うう。でもでも、ひょっとしたらお嫁さんになれるかもしれませんよ?」
「私は、そんなモノになりたくないね」
「そんな……お嫁さんは全ての女の子の憧れじゃないですか!」
そこで、ご主人は「ガオー」と吠えた。
さすがに虎の咆哮ともなると少し吃驚する。
凄い迫力だ。
ご主人は興奮したのか、歯をカチカチと鳴らして、私を威嚇している。
また、吠えられてはかなわないので、私は観念してご主人の話を聞く事にした。
「しかし、ご主人はお見合いにこだわるね。そんなに私を嫁に出したいのか?」
「女の子は、お嫁さんになるのが幸せなのですよ! 私はナズーリンに幸せになって貰いたいと、ただそれだけなんです……」
特に毘沙門天様の所では、結婚を奨励してなかったから、これは単にご主人が結婚に強い思い入れを持っているだけだろう。
結婚願望が強いのか、昔の乙女にありがちな結婚に夢を持っているだけか。
たぶん、後者だ。
「それなら、ご主人がお見合いすればいいじゃないか」
するとご主人は目に見えて萎んでしまう。
「虎の妖怪は数が少ないらしくて、私のお見合いの相手は、全然見つかりませんでした……」
「探したのか」
私の問いに、ご主人は悲しげな顔でこくりと頷く。
その目は少し、悲しげだ。
「だからこそ、だからこそ……ナズーリンには、私の代わりに、幸せに……ッ お、お見合いをして、幸せな結婚生活を送って欲しいのです!」
ご主人は、すべての希望を託すとばかりに、痛くなるほど私の手を握ってくる。
これで断れる者がいたら、それは外道ぐらいのものだろう。
私は、お見合いを了承した。
「あら、とても似合うわよ」
聖が、さも楽しげに私の髪を弄る。
私の髪はさして長い方ではないのだけど、聖は丁寧に髪をブラッシングして、それを後ろにまとめてくれた。
聖の弁によれば『髪をまとめると大人っぽく見えるんですよ』との事である。
「ムラサー、この長持には何が入っているの?」
「あー、はいはい。なんでしたっけ、って、目の前にあるのだから開ければ良いでしょうに」
向こうでは村紗とぬえが、聖の持ってきた長持を漁っている。
私がお見合いで着る為の衣装を見つくろっているらしい。
「お、この服いいな。ねー、この服貰っちゃって良い?」
「あー、ずるいですよ。ぬえ!」
だが、二人とも年頃の女の子。
可愛い衣装に心奪われ、服の争奪戦を始めてしまった。
「まったく、何をやってるんだか……あ、姐さん。ナズの衣装を確保してきました」
そんな二人を華麗にすり抜け、一輪が何着か服を持ってくる。
それらの服は、どれもフリルがたくさん付いた可愛らしい服ばかりだ。
「ちょっと待ってくれ! 私にこんな服は似合わないぞ」
そもそも、そういうのはぬえにでも着せておけば良いだろう。
私のガラじゃない。
しかし、聖と一輪は、私の抗議などどこ吹く風。
フリルのついた服を着せる為に、私の服を脱がしにかかってきた。
「ま、待ってくれ!」
そこで私はある事に気が付いて、待ったをかけた。
だが、聖と一輪は容赦がなく、私の衣服を剥ぎに来る。
「駄目ですよナズーリン。実際に着てみないと分からないでしょう?」
嬉々として聖が私のケープを剥ぎ取る。
流石は肉体強化系の魔法使いだけあって、その握力は凄まじく、きっと素手で林檎を握る潰せるほどだろう。そんな魔法使いに、か弱い鼠に対抗できるはずもない。
「そうよナズーリン。せっかく、姐さん直々に綺麗にしてくれるって言うんだから」
一輪が私のスカートを下ろす。
尼僧として修業しているだけあって、その力は割と強い。
やはり、一介の鼠が抵抗できる道理はなかった。
「頼むからやめてくれ! 雲山が見ているんだからぁ!」
私は、一輪の背後で、いつも通りに漂っている雲山を睨んで悲鳴を上げる。
けれども、私の懇願が聞き入れられる事はなかった。
それからしばらくの間、私は聖の玩具となる。
「ふふ、ナズーリンは本当に着せ替えのしがいがあるわね。小さくて可愛いし……お人形みたいですよ」
「勘弁してくれ。だいたい鼠の人形なんて可愛くないだろう」
力ではかなわないので、口で抵抗してみるものの、聖は笑って受け流すのみだ。
やはり、手ごわい。
「……そう言えば、聖達にはお見合いの話はなかったのかい?」
だから、攻めの方向を変えてみる。
ご主人の事だから、お見合いをさせようとしたのは私だけではないハズ。
そこに、この不自由な状況を打開するカギが、あるかもしれない。
「私は聖職者ですからね」
聖が涼しげに受け流す。
「尼ですから」
一輪も同様に受け流した。
「舟幽霊って、そもそも結婚とか言っていられるほど余裕がある人居ないと思うんですよ」
村紗もスルーした。
だったら、ぬえはどうだ。
由緒正しい古い妖怪の血族である封獣ぬえ、彼女なら他のぬえとの見合い話があっても不思議じゃないだろう。
「そもそも正体不明がぬえの身上だからね。結婚って、異性と分かりあう事でしょ? 根本的に無理」
「全員スルーか!」
なるほど、こんな連中が集う命蓮寺では、お見合いの犠牲となるのは私しかいない。
私がお見合いをする羽目に陥ったのは、必然だったのだ。
「でも、雲山は、礼儀正しく夫を立てて、お辞儀をする時に指を揃えて、三歩下がって後ろを歩く日本的な女性ならやぶさかではないそうです」
「知らないよ、そんな事は!」
それから一刻、ようやく衣装が決まった頃に、ご主人は帰ってきた。
「見合いの日取りが決まりましたよ。次の大安吉日です!」
そう言って入ってきたご主人は、私の姿を見て、凍りついた。
髪を後ろでまとめて髪飾りを付けて、軽く白粉を叩き、薄く紅を引く。
耳はそのままだが尻尾にはリボンを結び、何処かの洋館に棲むお嬢様みたいな服を私は着せられていた。
まあ、さっき鏡を見せて貰ったが『馬子にも衣装』程度にはなったような気はする。
「どうですか星。ナズーリンはとても可愛くなったでしょう?」
「は、はい……綺麗です。とても」
そういうと、ご主人は、なぜか顔を赤くして、ジッとこっちを見た。
「そういうリアクションを取られると、こっちもどう対応していいか困るんだが」
「いいじゃないですか。星が可愛いと言っているんですから」
村紗がそう言って「カワイカワイ」など言いながら私の頭を撫でる。
「そうねぇ、可愛いなら良いじゃない」
余った服を聖から貰っていたぬえが、顔だけこっちを向けて言う。
「うーん……」
そう可愛い可愛いと褒められるのは良いけれど、私はその『可愛い』という奴が苦手なのだが、その辺が分かっているのだろうか。
あるいは、分かっててやっているのかもしれないな、この人達は。
「姐さんの見立てだから可愛いのは当然よ。雲山も『なかなかのお手前』と言ってるわ」
うるさい、黙れ。
平然と私の着替えに居合わせたエロ親父め。
実体があるなら、記憶を失うまで雲山の頭を叩いてやるのに。
まあ、良い。
なんかもうどうでも良い。
「矢でも鉄砲でも見合いでも、何でも来ると良いさ!」
私はブチ切れて、叫んだ。
そして見合い当日の大安吉日。
見合いの場所は白玉楼、枯山水が良く見える畳敷きの一室だ。
なんでわざわざ見合いの為に、冥界まで出向かなくてはならないんだろう。
「ここは庭園が素晴らしいですからね。それに見合いの相手は世話人のスキマを使って来ますから、見合い場所は幻想郷の中なら何処でも良いんですよ。だったら、できるだけ雰囲気の良い場所にしたいでしょう?」
「ス、スキマ?」
ご主人の説明に、私は声を上げた。
スキマという事は、見合いをセッティングする仲人は、あの妖怪か?
私が驚いていると、それは現れた。
空中の空間にすうっと亀裂が走り、そこから一人の妖怪が飛び出してくる。全身を紫色の衣装で身を包み、金の髪と目をした女性の妖怪。
それは幻想郷の顔役である八雲紫だった。
確かに、彼女であれば、幻想郷の内外に顔が広い。世話人として、これ以上の適役はいないだろう。
「少し遅れてしまったようね」
スキマから現れた八雲紫は、そう言うと優雅に一礼をした
「いえいえ、私達もさっき着いたところですよ」
「そう、それは良かったわ。お嫁さんをお待たせしちゃ、申し訳ないものね」
そう言って、八雲紫は私に笑いかけるが、私は答えずに黙っている。
ご主人の顔を立てる意味で、この意味合いに出席をしたが、私は愛想を良くするつもりもないし、結婚する気などさらさらない。
だから、『お嫁さん』などと呼ばれては……困る。
「こら、ナズーリン。世話人さんに失礼でしょ」
「いいのよ。女の子がお見合いで恥ずかしがるのは、いつの時代も同じなんだから。むしろ、こういう場でハキハキしている方が、男から見た場合、興ざめでしょう」
ご主人と話していた紫は、そう言うと口元を扇で隠して、上品に笑った。
相変わらず、胡散臭い。
「ところで、お相手は?」
「あら、いけない。私としたところがすっかり忘れていたわ。さあ、お出でなさってくださいな」
紫は、開いたままになっているスキマに向かって声をかける。
すると、私のお見合い相手は姿を現した。
彼は、鼠らしく鼻は尖っていた。
私のようなほとんど人化した妖獣ではなく、かなりの割合で鼠のままだ。
耳は黒く、とても大きくて丸い。かなり特徴的な耳だ。
全体的に色は黒いのだが、顔の部分は人間のように肌色をしている。
歩行手段は二足歩行、真っ赤なズボンをサスペンダーで吊っていて、事あるごとに「ハハッ」と、楽しげに笑う。
「ハハッ、ボクの名前はミ……」
「やめて!!」
世界で一番有名なネズミが名前を言おうとした瞬間に、私は全力で止めた。
「あらやだ。いきなり彼の口を塞ぐなんて、この子ってば積極的ね」
「積極的とか、そう言う事じゃない! 一体何考えてるんだアンタは!」
私は、あの鼠の口を塞ぎながら、能天気な顔をしている八雲紫に向かって吠える。
「彼も結婚相手を探してたからちょうど良かったのよ」
「彼には彼女が居るだろう!」
そう、この世界で一番有名な鼠には、公式のガールフレンドが居る筈なのだ。確か、名前はミニ●マウス。
長いまつ毛とリボンが特徴の可愛らしい雌鼠だ。
しかしアレだな。
侮蔑的な意味で使っていなくとも、雌という単語はあまり良いイメージがしない。
やはり、こういうときは女鼠とか言うべきなんだろうか。
閑話休題(それはともかく)。
「なんでも彼は、八十年の長きにわたる彼女との生活に疲れて果て、新しい出会いが欲しいらしいのよ」
「ちょ、ちょっと待て! そういうのは止めてくれ! あの夢の国でそう言う生々しい話はしないでくれ!」
世界中の良い子はミッ●ーを見て、夢を抱いているんだぞ。
そういう、生っぽい事はやめるんだ。
「ナズ、大人も色々とあるんだ。ミッキ……」
「だから、名前を言うなというのに!」
私は慌てて、無神経にもこの鼠の名前を言おうとしたご主人の口を押さえる。
「ともかく、帰って貰ってくれ! これ以上彼に居座り続けられたら、このSSだけの責任じゃ収まりが付かないだろう!」
「あらそう? でも、どこかの風刺アニメじゃ、彼どころか、ムハ」
「それは本気で洒落にならないからやめろ」
私は、なおも頑強にお見合いを進めようとする紫の口を塞ぎ、ミッ……ではなく、ミスター・マウスには帰ってもらった。
流石に、これ以上は危険すぎる。
「まったく、ナズーリンてば。お見合いが嫌だからって強引に相手を返しちゃって……」
いや、それは違うぞご主人。
私は、皆の命を救っただけだ。
「ふむ、とりあえずミッ」
「だから、名前を出すなと言っているだろう!」
「ええと、彼が嫌という話は理解したわ。私も世話人として、一人の女として、女性が望まない結婚を強引に進めるつもりはない」
「それは、有難いね」
八雲紫の言葉に私は息を吐いた。
つまり、唐突なご主人の発案から始まったお見合い騒動も、これで終わりという事になる。
いやはや、ほとんど出落ちだったけど、無事に終わって良かった良かった。
「じゃあ、二人目をお呼びしましょうか」
「なんでだ」
私は、即座にスキマ妖怪に対して突っ込みを入れる。
なんで私は、二連続でお見合いをしなければいけないのだ。
「まあ、結局お見合いをしていないわけじゃない?」
「そうなるね」
「だから、もう一度。今度はナズーリンが気に入るネズミを連れてくるわ」
「なぜそうなる」
私が抗議の声を上げても、八雲紫は気にするそぶりも見せず、スキマに消えてしまった。
どうやら、本当にもう一度お見合いをするつもりらしい。
「ナズーリン、今度こそ頑張って!」
「いや、頑張らないから」
ご主人の叱咤激励を、私は適当にスルーした。
「ピカ~、ピカチ」
「だから、やめて!」
二匹目のネズミは、某ゲーム大人気の世界的な知名度を誇る電気鼠だった。
他の所から、鼠を連れてくるなとは言わないから、版権的に強硬なところからは止めてくれ。色々と心臓に悪い。
あそこは、唐突に強硬な態度に出るから困る。
私は、電気鼠にも帰ってもらった。
「もう、ナズはどんな人なら良いのかしら」
困ったものだとご主人が溜息を吐く。
しかし、残念だったな、溜息を吐きたいのは私の方さ。
「んー。後は、猫の窃盗犯を追いかける鼠の警察官に音速針鼠、それに猫と仲良く喧嘩している鼠ぐらいかしら」
「……何処も難しい感じだね」
「そうねぇ。後は貴方と同じ人型の、鼠の妖怪の血を引く半妖なら知っているけど」
「それは拒否させてもらうよ」
私の明確な拒絶に、紫は「そうよねぇ」と笑った。
流石に私はビビビの彼と、差し向かいになって見合いなどしたくはない。
性格的な事もさることながら、彼は少し……臭いが酷過ぎる。私も鼠の端くれだけど、生憎とドブネズミの系譜ではないので、綺麗好きな方だ。
どうやったって、ビビビのナントカ男とは合わないだろう。
これで、紫の提案する私の見合い相手も、もういないだろう。
これで、お見合いは終わりだ。
「んー、それじゃあ。あと一人良いかしら?」
「まだいるのか」
私は、あからさまに嫌そうな顔をする。
だが、八雲紫は気にしないで、
「ええ、これまでとは少し毛色が違うけど、ナズーリンもきっと気に入ると思うのよね。それじゃ、ちょっと呼んできますわ」
などといって、スキマに消えてしまった。
全く持って忙しい事だ。
「いい人だといいですね」
「そもそも、いい人だろうか、何だろうが関係はないけどね。私に結婚の意志はないんだから」
「でも、そんな事を言っても、運命の出会いというモノは、ふとした瞬間に起こるモノですよ」
「ご主人は、楽観主義者だね。あるいは運命主義者かい?」
私が笑うと、ご主人はムッとした顔をした。
私の場合、今はご主人と一緒にいられればそれで良いんだけどね。
その辺は理解して欲しいのだけど、それを期待するのは酷だろう。
この鈍感タイガーめ。
そうして話をしながら待っていると、八雲紫が帰ってきた。
「ただいま。この人が私の用意できる最後の相手よ!」
自信満々に紫は胸を張る。
だけど、件のお見合いの相手はなかなか出てこない。
どうしたのだろう。
「ぽ、ぽぽ、ぽぽっ」
何だろうか。
奇妙な声がスキマから聞こえてくる。
妙に反響した、幻想郷ではあまり聞かない妙な声だ。
「ぽぽ、ぽぽっ」
それは少しずつ大きくなってくる。
声の主がスキマの出口に近づいているのだろう。
「な、なんなんだ?」
私は、戸惑いの声を上げた。
すると、紫はニヤニヤとした顔で私の顔を見るのみだ。
なんだ、その笑顔は。
それはとても気味の悪い笑顔であり、定命の人間はおろか、私のような妖獣にも決してできない非人間的な笑顔。気味の悪い笑みだ。
そんな笑顔で、紫は私を見ながら奇妙な声が聞こえてくるスキマを維持している。
「ぽぽぽっ、ぽぽぽっ」
声はどんどん大きくなっていき、それは私の耳朶を打つ。
白玉楼のお見合いの為に用意された、枯山水が良く見える幻想郷でも最上の一室に、その奇妙な声は反響していた。
「な、なんなんだ。この声は!」
私は悲鳴を上げる。
すると、気味の悪い笑みを浮かべる妖怪は、私を舐めまわすように見るとこう言った。
――貴女のお婿さんじゃないの、可愛いお嫁さん。
妖怪は笑う、いや、きっとこの妖怪は嗤っているのだ。
こんな場に出てきてしまった私を嘲笑っているに違いない。
こいつは、何と私を見合わせるつもりなのだろう。
何に対して、私を差しだすつもりなのだ。
私は逃げ出そうと、ご主人の方を見る。
「ご、ご主人……」
そして、手遅れである事を悟った。
ご主人は、どこか遠い所を見て、恍惚としている――スキマから聞こえてくる声に聞き惚れて、我を忘れているのだ。
「ぽ、ぽぽぽっ、ぽぽぽっ」
ほとんど、声の主が姿を現した時、私はそれの正体にようやく気が付いた。
そして、それが今までの危険など及びもつかない程の恐ろしさを孕んでいる事に気がつく。
止めなければならない、だが、それは遅いかもしれない。
全てが手遅れになったと感じた瞬間、ついにそれは姿を現してしまった。
「ぽーぽー! ぽぽぽぽぽぽ! ぽーぽーぽーぽーぽー! ぽぽぽぽぽぽぽぽぽ……」
「それ以上、歌うな! ジャスクラックが来るだろうがああああ!!」
姿を現したギロッポンで有名なパンチパーマの憎いやつに、私は全力のパンチを放つ。
その瞬間に私のお見合いは終わりを告げた。
個人的にはクールなナズに対して熱血なガソバが本命、
お利口さん同士でアルジャーノソが対抗でしょうか。
誰か! フリフリナズーリンのイラストをー!!
いや、面白かったですよ?
早く逃げよう
これはあれだなナズーとショウがくっつけばすべてうまくいく
これより先、ナズーリンにケコーンの幸せは訪れるのか! 乞うご期待!!
……作者、帰ってきたら祝杯くらいは挙げるよ…!(敬礼
「笑止。これは思いがけぬ朗報である、ネズ」
「ではゆくか、ネズ」
「頑張ろうではないか、ジワ」
とある世界のネズミキャラ達がアップを始めたようです。
だがそれが(ry
ネズミは有名な版権キャラが多いですな。
星の突然の咆哮にふきだしましたw
とりあえず作者は天才
ばいきんまんとどきんちゃんみたいな関係に・・・
これはセウト。もう色々と際どい線攻めすぎだけど、笑ってしまったのでこの点で。
ルビをつけたりとか無駄に読みづらい字を使ってない所には好感がもてました。
ただ、台詞が多いssですので難しいですよね。
内容に関しては私にはアレでした
先輩はもう来ているのかもしれません。
八尺様を思い出したのは俺だけでいい。
頭も良い上に機転は利くし、技能もハンパない