地霊異変の際、地下から怨霊と共に噴き出した間欠泉であったが霊夢と魔理沙の活躍もあり怨霊が出てくることはなくなり、今は河童達の工事により源泉に水が引かれ浸かるに適温な温泉となって幻想郷の住民の憩いの温泉へと変貌を遂げていた。しかしそのことにより生まれた新たな勢力が闇の中で静かに胎動しつつあった……
――人間の里外れにある草原――
草木も眠る丑三つ時、本来ならば人を襲う妖怪が闊歩する時間帯であるにも関らずそこには多くの人間達が集まっていた、数で言うのなら100や200はゆうに超える、いや、1000はいっているだろうか? そしてよく見れば人間だけではなくその人間を襲う立場にある妖怪たちの姿も多く混ざっている。それは一見異様な集団であった、そこには少年から青年になりかけの若者もいれば杖を突いて歩く老人もいる、肌を小麦色に焼いた筋肉質の者もいれば若干顔色の悪い痩身の者もいる、人を襲う妖怪もいれば人を驚かすのがせいぜいの微弱な力しか持たない妖怪もいる。そんな一見バラバラな烏合の衆でしかないここに集まった者達の共通点、それはただ一つ、「男」であることだけであった。
彼らは彼らをここに集めた人物の到着を持っていた。その人物こそが共通した目的のために彼らをこのような時間にこの場に収集した張本人であるがその正体はまだ誰も知らなかった。
『なあ本当に現れるのか?』
『さあな」
『そもそもいったい何者なんだよ「将軍」とかいうやつは?』
そんな会場のざわめきがピークに達しようとしていた時、一人の男が集団の先頭に設置された壇上に姿を現した。
「静粛に! 将軍様の御前である!」
壇上で声を高らかに叫んだ男は幻想郷一知的メガネの似合う男、香霖堂店主森近霖之助であった。いや、今日の彼は香霖堂店主ではない、ここに集まった群集、「幻想郷十字軍」副将軍森近霖之助であった。そして霖之助の声と共に空から一人の男が降り立つ。目つきは鋭く精悍な顔立ちした男である。そしてその背の大きな翼が彼が人間でないということ如実に物語っていた。
「諸君、まずは私の呼びかけに賛同し集まってくれたことに感謝する。私が我々「幻想郷十字軍」の将軍天魔である」
その名乗りに集まった男達は驚きを隠せなかった。
『て、天魔だと!?』
『こいつは予想外の大物が出てきやがったな……』
妖怪の山に住む天狗達のリーダーでもあり幻想郷でも屈指の実力者である天魔の登場に集団は驚きを隠せなかった。そして天魔は河童の作ったマイクを手に高らかに叫んだ。
「諸君、幻想郷に誕生した温泉により我らは新たな可能性を手にした。誰の可能性か!? 幻想郷全体の? 否! 我ら男達のみに許された可能性であるっ! 私の呼びかけに応えここに集結した諸君は紛れもなくエリートだ! エリートであることに躊躇するな! 指をくわえ手をこまねいていただけの者どもになにができた? 何もできはしない! あえて言おう、カスであると! 諸君らこそこの幻想郷の未来を切り開くことのできる前衛にして精鋭である! 奮起せよ! 私と共に約束の地(女湯)を目指すのだ!」
天魔の熱の入った演説はそこに終結した者達の闘志に熱い火を灯した。
『そうだ、やろうぜみんな!』
『ああ、幻想郷の重鎮である天魔がついているんだ、俺達には大儀がある!』
『ジーク天魔! ジーク天魔!』
一気にざわめきたつ群集を見下ろす天魔の脇に一人の白狼天狗が音も無く現れ一枚の報告書を彼に手渡した。そして天魔はその報告書に目を通すとその内容を群集に高らかに伝えた。
「聞け、諸君! 今ここに報告が入った! 明日の夕刻、伊吹萃香、星熊勇儀、射命丸文、姫海棠はたての四名が幻想郷温泉に慰安に来るとの情報が入った。発起せよ! 聖戦の日は来たり!」
『萃香たんに勇儀のお姉御だとぉ!』
『うぉおおおおお! あややぁん!』
『はたてたんハァハァ……』
具体的な目標の名に色めき立つ群集、この瞬間、彼らの熱は最高潮に達した! そしてそれは第一回幻想郷十字軍の発足とその遠征を意味するものであった。そう、彼らは行くのだろう、約束の地を目指してどこまでも……
次の日、彼らは大きくそびえ立つ壁の前に集まっていた。これは幻想郷温泉の一般公開前に覗き防止策として女湯を中心に半径2kmにわたって張り巡らされた防御壁である。掴む場所はおろか摩擦すらほとんど無く、河童の最新技術により頑強に補強されたそれは、今まで約束の地を目指す男達の多くを阻んできた。幻想郷に空を飛べる者は数多くいるとはいえほとんどは飛べない者たちばかりだ、そんな男達の多くはこの絶壁を前に絶望し、ほんの一部の者は凹凸の無い絶壁からこの先にあるであろうツルペタを連想してその情欲を駆り立て、その侵入を阻んでいた。そしてその壁に残された無数のよじ登ろうとした爪痕と剥がれ落ちた爪、そして残された血痕からこの壁はいつしか「嘆きの壁」と呼ばれるようになっていた。
集まった男達の先頭で天魔が嘆きの壁に向かって一発の弾幕を放った。河童の最新技術をもって作られたそれをもってしても天魔の一撃を防ぐことは敵わず巨大な風穴を晒すこととなった。
「いざ行かん! 我らが約束の地へ!」
『『『うおおおおおおお!!!』』』
天魔の掛け声と同時にそこに集まった男達はいっせいに壁に開けられた穴に向かって飛び込んでいった。
―――幻想郷温泉・覗き対策本部―――
「わ、わふー!? 大変ですにとりさん、変態さんたちに防御壁が突破されました!」
妖怪の山にある覗き対策本部から千里眼で見張りを行っていた椛が十字軍の進行を視認して対策本部長であり幻想郷温泉の技術部長でもあるにとりに報告を入れる。
「ふぅ、まさかここまで大規模かつ堂々とした覗きがやってくるとはね~」
監視カメラでもその姿を確認したにとりはため息しか出なかった。どうしてこの熱意を他のことに回せないのだろう? と。
「ここまでの大規模な人数は今までちょっと無かったからね。私達のセキュリティシステムでどこまで止められることやら……」
今までも空を飛べる者たちや一部のロッククライミングに長けた者たちによる嘆きの壁の突破は何度かあった。そしてそれらの全てを迎撃してきた河童達の迎撃用システムであったがこれほどまでの大群を前に機能を十全に発揮できるかと言えば微妙なところであった。
「あの~……いっそのこと今日は温泉の方を休みにしたほうがよいのではないでしょうか?」
「ん~そういうわけにもいかないんだよ。覗きが来るたびに営業を停止してたら営業が成り立たなくなるし「覗きに対して何の対策もしていません」って宣伝しているようなもんだろう?」
「ほえ~温泉の経営と言うのも大変ですね」
「ま、やるだけやってみるさ。椛、そっちの方は頼んだよ!」
「わふっ!」
いかに相手が強大とはいえ退くわけにはいかない、にとりと椛はそれぞれ担当するシステムを起動させるのであった。
そして嘆きの壁を突破して突き進んでいた幻想郷十字軍に河童自慢のセキュリティが襲い掛かる!
『ぐわあああ!?』
突如上空を飛んでいた一人の男の妖怪がレーザにて打ち落とされた。そしてその悲鳴を皮切りにあちこちから叫び声があがった。
「何が起こっている!」
「トラップです将軍、機械仕掛けの迎撃システム……おそらくは河童の仕掛けたセキュリティかと思われます」
部隊中央に陣取る十字軍本陣にいる天魔は霖之助に近況を確認する。そしてそのことを裏付けるかのように周囲は阿鼻叫喚の図と化していた。
『うぎゃあああ!』
『地雷だと!? 鈴木ぃーーー!』
『こっちは機銃だ! 避けきれな……ぐはぁ!』
『見ろ! あっちの草むらにはエロ本が!』
『待つんだ! そいつは孔明の罠だ!』
『中身はホモ雑誌だとぉ!?』
先ほどまで一糸乱れぬ編隊を組んでいた変態達は強力な迎撃システムの数々により瞬く間に浮き足立つ、このままでは総崩れも時間の問題と思われたその時だった。
「うろたえるな小僧!」
天魔の一喝が幻想郷十字軍全員に響き渡る。
「これしきの罠など何するものぞ! 進め! 道半ばに倒れていった同胞達の死に報いる道はただ目的の達成あるのみ! 行け諸君! 友の屍を乗り越えて突き進むのだ!」
『『『うおおおおおおお!』』』
天魔の一喝により幻想郷十字軍は瞬く間にその覇気を取り戻した。そして復活した彼らの前に、もはや河童のセキュリティは足止めの意味をなさなかった。
―――幻想郷温泉・覗き対策本部―――
「……にとりさん全セキュリティシステム、突破されました」
「ああ、こっちでも確認したよ」
にとりは監視カメラの様子を確認し、先ほどまで手動で動かしていた全セキュリティを停止させる。正確にはセキュリティ自体は破られてはいない、事実河童のセキュリティシステムが配備されていた範囲には変態たちが死屍累々と倒れている。しかしセキュリティで迎撃できる以上の人数で突撃されてはその全てを迎撃することは不可能だ。いかに優れたポンプであろうとも海の水を汲みつくすことなどできないのだ。
「今度からは対軍隊用のセキュリティにしないとダメだねこりゃ」
「わふ~それよりも今突破していった人たちはどうすればいいのでしょう?」
「ああ、それなら第二陣の連中に任せるしかないね。あたしら仕事はここで終わりさ」
そう、幻想郷温泉においては今まで全ての侵入者を排除してきた嘆きの壁とセキュリティシステムであっても第一陣に過ぎない、理想郷への道のりは決して容易くは無いのであった。
「頼んだよみんな……」
「わふ~」
後のことを仲間に託し、にとりと椛は本日で対局三日目となる魔訶大大将棋の続きに移るのであった。
一方、セキュリティを突破して意気揚々と無人の荒野を行くが如く突き進む幻想郷十字軍だったが先頭集団が突如としてその足を止めた。いや、正確にはその行軍を止められた。
『な、なんだ!? 足が動かん!』
『こっちもだ、空中なのに進むことも降りることもできん!』
彼らは凍りついたように動けなくなっていたが追いついた天魔が目を凝らすことでようやくその原因が判明した。
「蜘蛛の糸……土蜘蛛の仕業か!」
それは地上にも空中にも縦横無尽に張り巡らされた蜘蛛の巣であった。そしてその蜘蛛の巣を仕掛けた張本人、黒谷ヤマメはその上空で自ら仕掛けた罠の首尾を仲間と共に確認していた。
「さすがですねヤマメ、あれほどの数を捕縛する頑強さと視認するも困難な細さを兼ね備えた巣を張れるのは土蜘蛛の中でもあなたくらいでしょう」
「妬ましいわ! おいしいところをもっていって本当に妬ましいわ!」
「まだだよ、巣に捕らえたのはほんの一部だ。それにどうやら残りの連中には気づかれたみたいだしね」
ヤマメの傍らには地霊殿の主、古明地さとりと橋姫、水橋パルスィの姿もある。この三人こそがにとりの言っていた防衛ライン第二陣である。
「それにしてもどうして私らがわざわざ地上くんだり来てまで温泉の見張りなんかしなけりゃいけないんだい?」
「仕方ありません。地上と地下との交流が復活した今、地下から出た温泉での覗き騒ぎなど地下の信用に関ります」
「……本音は?」
「暇だったんで少しでも暇つぶしになればと思ってきました。それに見張りのドサクサで目の保養もやっとこうかなあ~とか……は全然思ってませんよ?」
「あんた心読めるくせに嘘は下手だね」
「妬ましいわ! そんなわがままで他人を振り回せるその図太さが妬ましいわ!」
だけどわりかしアバウトな理由での警護だった!
「ま、それはそうととりあえずは罠にかかってる連中から料理させてもらいましょうかね」
気を取り直してヤマメは地上に張った巣につながる糸に瘴気を流し込む。命に別状が無い程度の病ではあるが行動不能に追い込むには充分な量の瘴気であった。しかし……
『なあ知ってるか? 蜘蛛って糸は尻から出すらしいぜ』
『なん……だと? じゃあ俺達が捕まっているこの巣も……?』
『うおおおおお! ヤマメた~ん♪』
網にかかった面々が病気になるどころか罠から逃れた者の中にも自ら飛び込む輩まで出てくる始末であった。
「な、なんで!? なんで病気にならないのよ! というか糸は手から出してるの! 誰が尻からなんか出すもんかい!」
大妖怪の天魔ならばともかくその他の有象無象の連中にすら誰一人として自分の能力がまるで通用しないことにヤマメは困惑する。そこでさとりは彼らの心を読むことでその答え探り出した。
「……わかりました。彼らは病気にかからないのではありません、すでにヤマメの放った病気より重い病にかかっているのです――そう、“変態”という病気に……」
「マジで!? なにそのゆで理論レベルのぶっ飛び理論!?」
「な、なんて無駄に凄まじい生命力なの、でもちっとも妬ましくならないのはなぜ?」
その時、十字軍の一人が上空にいる三人の姿を捉えた。
『みろ! あそこにヤマメたんのほかにさとりんとパルまでいるぞ!』
『本当だ!』
『突撃―っ!』
瞬く間に彼女らの足元に変態たちが群れを成して集結する。糸に囚われようがお構い無しだ、いや、いかにヤマメの糸といえどもこの底知れぬパワーをいつまでも捕らえておけるかどうかの保障は無い。
「このままじゃもたないよ! パル、さとり、なんとかしておくれ」
「な、なんとかって無理よこんなの! そ、そうださとり! 妬ましいけどあんたの能力なら連中のトラウマを抉って止めれるんじゃ……」
「……あれの心を読むのですか」
さとりは地上に群がる変態たちのほうをちら見した。
『ヤマメた~ん♪ 糸を出すとこ見せて~♪』
『さとりんさとりん♪ 僕の心を暴いておくれ』
『いやいやあのじと目で見下されたい!』
『ぬおおおお! パルにパルパルされてぇ!』
『罵ってください♪』
心を読むまでも無く本能むき出し状態である。正直アレの心の奥にまで覗き込むのはイヤ過ぎる。さとりは無言で自らの第三の目に指を突き立てた。
「……負けました」
「さとりーーーっ!」
「妬ましいわ! その無責任さが心底妬ましいわ!」
「と、とにかくここはもうもたない、撤退するよ!」
腰元で第三の目がのたうちまわっている死んだフリをしたさとりをかかえ、ヤマメとパルスィはその場を撤退した。
そしてその頃地上では天魔がヤマメの糸をなぎ払い行軍の道を切り開いていた。
「ふむ、これでよし、全軍進撃!」
「将軍、彼らについてはいかがしましょう?」
霖之助がヤマメの糸に捕われている十字軍メンバーを助けるか否かを尋ねた。確かに助けることは容易い。糸を切るだけと違い助け出すとなると少々手間がかかる、そしてそうこうしている間にターゲットが風呂から上がってしまえば何の意味もないからだ。ちなみに捕まっているメンバーは……
『ヤマメたんの糸……ハァハァ……』
『ちくせう! さとりんにトラウマえぐられたかった……orz』
『パルパルされたかったよう~』
『豚と呼んでください』
見るも無残、聞くも無残な状態になっていた。
「捨て置け、我らが目的は約束の地への到着のみ。目先の欲に捕われる者に同胞たる資格は無い」
「はっ」
天魔は糸に捕われている者たちを一瞥すると冷たくそう言い放って彼らを切り捨て、進軍を再開するのであった。
第二防衛ラインを突破し、今まで誰も到達し得なかった深部にまでたどり着いた幻想郷十字軍、そこに第三防衛ラインの圧倒的な力が行く手を阻む!
『うぎぁああ!』
突如と襲い掛かった白熱球が軍の一部を吹き飛ばした。そのエネルギーの発生源には二つの影。
『あ、あれはお空!?』
『おりんりんもいるぞ!』
『はいてないかどうか確認させて~!』
『おりんりんに持ち帰りされてぇ~むしろ持ち帰らせて~』
しかしに相手が太陽神は八咫鴉の力を持っているとはいえここで怯む精鋭たちではない、真っ直ぐに彼女らの元へと突き進む!
「こ、これは話に聞いてた以上の変態さんたちだね。お空! 遠慮はいらないよ、やっちゃいな!」
「りょーかいだよ、お燐」
お空のスペル爆符ペタフレア、一発一発が必殺の威力を持つ無数の白熱球が幻想郷十字軍をなぎ払う。その圧倒的な破壊力にここまで残った精鋭達ですら瞬く間に半分以下に減らされていった。
「将軍! このままでは全滅です!」
「わかっている! ……やむをえん、私が出よう」
八咫鴉の力に対抗しうるのは大妖怪たる自分しかいない、そう決断した天魔だったが霖之助がそれを止めた。
「なりません、我らはあなたの掲げる旗印の下に集った。あなたには我々を約束の地へと導く義務があります」
「ならばどうするというのだ!」
今議論している間も無情にも核の炎は彼らの人数を確実に削りつつあった。
「……私が出ましょう」
霖之助は将軍たる天魔を先へと進めるために自らがそこに残ることを決意した。それは紛れもなく男の……いや、漢の目であった。
「私が直属の精鋭部隊と共に彼女らの足止めをします。将軍は残る同士を率いて進軍してください」
「……わかった、ここは任せたぞ!」
あの地獄鴉の力は圧倒的だ、ここに残るということは死兵になるに等しいことだ。だが霖之助の決意の強さをその目に見た天魔は、ここを彼らに任せることにしたのだ。しかし……
「しかし将軍、足止めするのは構わないけど僕はあれを倒してしまっても構わないのだろう?」
この男はとんでもないことを言ってのけたのだった。しかし何らかのフラグが立った気がしないでもない台詞である。
「……もちろんだ、我々男キャラの力、5ボス、6ボスの二人に存分に見せつけてやるといい」
「では期待に応えることにしましょう」
こうして天魔はこの場を全て霖之助に任せて振り返ることなく走り去るのであった。
「お空、あいつらここを抜けちゃうよ」
「よーし、逃がすかぁ!」
それを確認したお空はさらに高密度の弾幕を天魔率いる本隊へ叩き付けるべく向き直る。
「そうはさせん!」
しかし本隊の進軍を補佐すべく霖之助率いる別働隊が真正面からお空とお燐に向かって特攻を仕掛ける。
「お空、あいつらこっちに来るよ!」
「うにゅ! 落ちろカトンボ!」
お空は霖之助達に向き直り弾幕の雨を降らせる。上空から降り注ぐ核のエネルギーは轟音と共に巻き起こった爆発を持って霖之助達を飲み込んでいった。
「お空、いつまでもそいつらに構っている場合じゃないよ、向こうの連中に逃げられちゃう」
「うん、追いかけるよお燐」
天魔率いる本隊はまだ彼女らの視界にあった。弾幕の射程距離外ではあるが追いつけないほどの距離ではない。急いで本隊の方の駆逐に向かおうとするお燐とお空であったが、霖之助たちを吹き飛ばした爆心地の煙の中から傷一つ負っていない霖之助たちが姿を現した。
「行かさないと言ったはずだろう?」
「嘘……お空の核が直撃したのに……?」
「ふっ、核だと? 我々を侮ってもらっては困るな」
霖之助達はそう言って不適に笑いながら核の直撃でボロボロになった自身の服に手をかけた。
「「「クロースアウッ(脱衣)!」」」
衣服脱ぎさりふんどし一枚の姿となった彼らの服の下ははちきれんばかりの筋肉であった。全身にオイルでも塗ってあるのかお空の弾幕の残り火の光に照らし出されてテカテカと輝いている。霖之助にいたっては心なしか普段よりも身体が二周りほど大きく筋肉で膨れ上がっている。いや、もはや彼は霖之助ではない、こーりんであった。
「フワーッハッハ! 我ら幻想郷十字軍副将軍精鋭部隊改め「ふんどし友の会」、我らの熱き心と鍛えぬいた筋肉の前には核など無意味!」
だがその熱き心の原動力は女湯である。
「「変態だーッ!!!」」
こいつらのあまりのアレっぷりはお燐やお空には少々目の毒過ぎた。大慌てで距離を離すものの彼らの行軍は止まらない、それどころか全員がビルダースマイルを浮かべ次々にいろんなマッスルポーズをとりながら迫り来るそれはまさしく悪夢そのものであった。
『はっはっは♪ そこへ行くつもりだい? 子猫ちゃんに小鳥ちゃん♪』
『君達もふんどし友の会に入らないかい?』
『そっちの小鳥ちゃんははいてないそうだね? お兄さんが粋でいなせなふんどしの着付けを手取り足取り教えてあげようじゃないか』
普段彼女らが働く旧地獄であってもここまでの地獄はお目にかかれるものでない。
「うにゃー! こっち来るよお空!」
「う、うんなんかよくわかんないけどすっごいやばいのはよくわかった」
お空は制御棒を構え先ほどまで放った弾幕とは違い数ではなく質を練ったさらに高温度の白熱球を作り出す。
「星符「巨星堕つ」!」
「ぐわぁ!」
流石の彼らもその一撃には耐えられないのか先頭にいたふんどし一体を叩き落す。
「し、しっかりするんだ!」
『隊長……俺には構わず戦ってください、そしてあのミニスカ達にふんどしの魅力を見せつけてやって……ぐふっ』
いつの間にか動機が女湯からふんどし布教に変わっていた!
「お空! 効いているみたいだよ」
「うんじゃんじゃんやっちゃうよ!」
しかし彼らのふんどし布教の夢も虚しくお空の弾幕の前に一人、そしてまた一人と撃墜されていく。そしてついにはのこるはこーりんただ一人となっていた。
「ぬぉおおお! こんなもの……こんなものー!」
しかし他の雑兵たちとは違いこーりんは大きく広げた手でその巨大な白熱球を受け止めた。いや、受け止めただけではない、徐々にだがそのエネルギーを筋力だけで押し返しつつあった。
「お空、止められたよ!」
「うにゅ、だったら「巨星堕つ」二連打だぁ!」
さらに放たれた白熱球のエネルギ-にさしものこーりんも足を止める。しかしそれでもまだ決定打には至らない。
「サンレンダァー!」
「こ、こんなもの……こんな……ぐわぁあああ!」
三倍もの威力に膨れ上がった核エネルギーはさしものこーりんもその威力を支えきることができずについにはその筋肉の塊を押し返した。
「我がふんどしに……一片の曇りなしーーーっ!」
凄まじいまでの閃光と爆発、その光が晴れたその先にはすでにこーりんの姿は無く、風によって舞い上がる一枚のふんどしだけが残されていた……
その叫びと今までの比ではない爆発の光は先を行く天魔達にまで届いていた。
「将軍、今のは……」
「ああ、わかっている……」
しかし彼らは足を止めなかった、こーりん達は自分達を進ませるために散ったのだ。ならば振り返っている暇はない、彼ら英霊達の心には約束の地へ到着することでしか応えることはできないのだ。彼らは足を止めず、しかし声は熱く大きく、先に逝った友へ歌を送った。
幻想郷男児の生き様は色無し恋無し情けあり
男の道をひたすらに夢見て明日を突き進む
ああ幻想郷心意気、男の道を魁よ
ああ幻想郷心意気、男の道を魁よ
その熱き男達の友情にさしもの大妖怪天魔も久方ぶりに心が震わされるのであった……
そして男達はついに女湯の壁の前にまで到着していた。壁といっても嘆きの壁のような絶壁ではなく、景観の邪魔にならない程度の竹で作られた簡素な壁だ。
『あら文、相も変わらず貧相な体つきね。新聞だけじゃなくてこんなところでも勝っちゃってゴメンなさいね』
『あははは~これは貧相じゃなくてスレンダーっていうんですよ~はたてこそ引き篭もりが過ぎて余計なところにお肉がついちゃったんじゃないんですか~? お尻が前より大きくなって見えますよ~♪』
『し、失礼ね!』
『やれやれ、何をやっているんだか……ん? 萃香、どうかしたの?』
『勇儀、あんたひょっとして前より大きくなった?』
『ん? ああ、胸のことかい? まあねえ、いい加減さらしで押さえつけとくのもしんどいよ』
『くぅ、なんて妬ましい……』
『こらこらパルのネタをとってやんなさんな。それにあたしからしたらあんたの方が妬ましいくらいに綺麗なお肌してるじゃないか、手触りもプニプニでずっと触っていたいくらいだね~』
『にょわ~止めろ~』
耳を澄ませば聞こえてくる桃源郷を思わせる会話に男達は感動の涙を流した。しかし彼らの戦いはここで終わりではない、その理想郷をその目で見て記憶にとどめてこそ戦いの勝利なのである。男達は互いの顔を見合わせて小さくコクリと頷いた。
「……全軍突撃」
天魔の小さな号令と共に男達は壁の向こう側へと突撃していった。
あるものは美しくたなびくシルクのような髪を、あるものはさらしで持ってすら隠し切れない破壊力を秘めた胸を、またあるものはその対称でもあるペッタンコを、あるものは思春期独特の丸みを帯びたお尻を、各々想像して壁を突き破った。そう、夢を……理想を求めて走り続けてたどり着いたその先、そこはきっと“全ては遠き理想郷(アヴァロン)”……
「ふん! こりゃあええ湯じゃのう~」
だがそこにあったのはシルクのような白髪、鍛え抜かれた大胸筋、老年期独特の角ばったケツ……手ぬぐいでごしごしと景気よく身体をこする老人、魂魄妖忌の姿であった。
『うぎゃああ! 目が、目が~!』
『頼む! いっそのこと殺してくれ!』
『何故だ! 何故この俺がこんな目に~! うわらば!』
外から聞いた声と中にいた人物とのギャップに次々と血反吐を吐いて倒れていく男達。
「な、なんじゃいお主ら、勝手に男湯に乱入してきおって」
「男湯だと……まさか!?」
妖忌の発言にとっさにこの悪夢の正体の心当たりを連想する天魔であったがすでに手遅れであった。
「「「ぐわぁああ!」」」
のた打ち回る男達全員の頭上に突如現れた墓石が彼らを押し潰す。そして墓石の後で少し遅れてスキマより一人の女性が姿を現す。
「やはりお前か、紫!」
「そういうことよ天魔」
そう、女湯に正規の入り口以外の場所から侵入しようとした者を強制的に男湯へと送るようにいじられた女湯周囲の境界、それこそが幻想郷温泉の最終防衛ラインであった。
「さて、何か言い残すことはあるかしらね?」
天魔に日傘を突きつける紫は表情こそ笑っているものの目はまるで笑っていなかった。その表情からは例えるなら「なんか変態達が集結して何か企んでいると聞いてやってきてみれば幻想郷の重鎮の大妖怪が何アホなことを率先してやっとるんじゃいゴルァ」とでも言わんばかりの底知れぬ怒りと迫力が感じ取れる。
「ロマンがあるから求めた、反省も後悔もない」
その男らしい返答に紫はにっこりと微笑んだ。
「反省の色は無し……か」
紫の眼前に巨大なスキマが開き機関車が姿を現す。その圧倒的な重量とパワーは天魔を先頭に貼り付け、そのまま走り去っていった。
「銀河の彼方のアンドロメダで頭を冷やしなさいな」
情緒を出すためにローカルな機関車にカモフラージュされた未来の技術で作られた列車は天魔を貼り付けたまま上空へと突き進み、大気圏を突き破って見えなくなった……
――それから一ヵ月後――
「今入った情報によると今度は命蓮寺一行が慰安に全員で温泉を訪れるとのこと! 立ち上がるのだ男達よ! 今ここに第二次幻想郷十字軍の結成を宣言する!」
宇宙から戻った天魔とふんどしから再生した霖之助の元に新たな幻想郷十字軍が結成されるのだがそれはまた別の機会に……
幻想郷十字軍はあなたの参戦をお待ちしております♪
それを含め、東方キャラは確かに出ているのにオリジナル要素が多くて東方を全く感じませんでした。
あと、私個人としてはこーりんに関しては「中立」なので文句を言う気はありませんが、こーりんを出すとかなりの確率で袋叩きにあう、ということは肝に銘じておきましょう。
今度は触手系?みたいな感じがいいかと思います
たまにはこういうぶっ飛んだのが無性に欲しくなる
如何にも二次創作な感じが良いw