Coolier - 新生・東方創想話

私は家、貴方は夢

2010/05/20 23:26:39
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 夏雨が、雑木林と死をけぶらせていた。水溜まりは赤みの強い泥茶。血の源は、そこかしこに倒れていた。耳を澄ませど、苦痛の声は聞こえなかった。視えもしなかった。真紅の眼には、生命の光がなかった。
 皆、私だった。
 樹の根の生んだ段差を上った。起伏が脚の傷を開かせた。骨を抜き出すように痛かった。血液が足りなくて、寒気と眩暈がした。大量の出血のおかげで、骸と間違われたのだ。堪えて喜ばなければ。
 赤い道の末に同胞がいると、何故かわかっていた。
 朱の髪の少女が、寝転がっていた。よく見れば髪はまだらの血染め。本当は銀色だった。両腕を天上に突き出し、雨にすすがせていた。汚れは落ちやしなかった。彼女も私、私も彼女だった。数段下で、複数の私が息絶えていた。彼女は私の下敷きになって、命を拾った。
 心に心で話しかけた。

 ――古明地の覚りは、私達だけになったわ。貴方はこれからどうしたい?
 ――この眼を閉じたい。嫌なものを感じるのも、精神を乗っ取られるのもこりごり。私は私になって、誰よりも幸せに生きるの。恋をして、お菓子を食べて、沢山遊ぶ。
 ――閉じてはいけないわ。それも貴方よ。もう、兵隊にされることはないわ。
 ――ちぇ。貴方はどうしたいの?

 前から欲しかったものを、告白した。無邪気に、馬鹿にするように笑われた。

 ――貴方こそ閉じればいいのに。この力で、それを望むの? 無理だよ。
 ――開いたままで、成し遂げたいの。変わって達成するのは、ずるいわ。覚りでもできるって、亡くなった私に教えたい。
 ――変なの。まあ、いいかな。ついていってあげようか? 貴方の絶望的な願い事の、最初で最後の一人になってあげる。

 鮮紅の片手で、真っ赤な片手を握った。素朴な名前を付け合った。別個の存在になるために。私は、二人になった。

 ――一緒に、理想の場所を探しましょう。
 ――どこにもないかもしれないよ。
 ――どこかにあるかもしれないわ。なければ、つくる。やっと、解放されたのだから。

 雲間から射す、白光を見た。強制されることなく、きれいだな、と思えた。それだけで、世の中が輝いた。

 ――これからは、私が姉ね。強いし、年上だもの。
 ――すぐに私の方が強くなるよ? お姉ちゃん。

 私達は、姉妹になった。血の繋がりのない、手で繋がった姉妹に。




 古ぼけた夢だった。何百年前だろう。妖怪の山にいた頃の話だ。
 私とこいしの、始まりの日の出来事。
 ベッドの脇の棚の、円形の小時計を寄せた。針は夜明け前を指していた。土壁の地底に、明けも暮れもないけれど。
 二度眠ると頭痛になりやすい。私は長袖長裾の白寝巻きを引き摺って、自室を出た。
 ゼリーを作ろうと、惚けた頭で考えていた。果物多めで、甘さ控えめの。外出前に、こいしが食べたがっていた。帰ってきたときにあれば、喜ぶだろう。空の器を見つけると、私も嬉しい。お燐達のおやつにもなる。袖を捲った。



 厨房から灯りが漏れていた。

「ただいま。早いね」
「おかえりなさい。遅いわね」

 帰宅したこいしがいた。広いダイニングテーブルの中央席で、氷水を飲んでいた。櫛型に切ったレモンを絞りながら。彼女がいるのなら、それはそれで幸いだ。出来立ての方が美味しい。
 奥の食料庫で、使えそうな果実を個々のボウルに入れていった。白桃、桜桃、木苺。こいしの余らせたレモンも、後で貰おう。汁で酸味をつける。脳内の即興レシピに書き込んだ。ゼラチン菓子やシャーベットは、多少の誤差や代役を気軽に許してくれる。厳密な計量の要求される、焼き菓子よりも楽だ。
 材料を抱えて戻ると、

「フルーツゼリー?」
「正解」

 やっぱり、とこいしが手を打った。私の薄水色のエプロンを、うやうやしく進呈してくれた。彼女も淡黄緑の、自分用のものを身に着けた。専ら食べる側で、滅多に用いないのに。

「手伝ってくれるの?」
「そんな気分。それとね」

 お姉ちゃんの夢を、感じ取ったから。昔々の。砂糖の容器と粉ゼラチンの袋を準備して、こいしは上目遣いに笑った。
 黒い瞳の彼女は、意識を掬えない代わりに無意識を感知する。深層の記憶、私の夢を覗き視ていた。


 私は桃の皮を剥いて、一口の大きさに切り揃えた。変色防止にレモンの果汁を垂らした。こいしは桜桃の、へたと種を取っていた。
 かつては山葡萄や、ぐみの実を摘んでいた。人里で干し柿や西瓜を盗むこともあった。上位の者に操縦されて。

 私達には、名がなかった。個人名を必要とされていなかった。全員が、古明地という集落の覚りだった。個々人への呼びかけには、心が使われた。相手も覚り妖怪ならば、声は要らない。私は全ての私と、想いを共有していた。どこまでが自分なのか、完璧にはわからなかった。
 集団の王は、思念の掌握に最も長けた者が務めていた。読心術者同士の戦いは、意思の戦いだ。弱者は強者の思考に呑まれ、心理を支配される。操られて、思い通りの行動を取らされる。チェスの駒のように。幾らかは、束縛の及ばない領域もあった。拒みたい命令もあった。けれども鎖は強固で、解けなかった。
 他の妖怪や人間との戦闘時には、覚りは能力と意識の団結で武装した。皆で敵軍の急所を読み、王の瞳に統率されて襲いかかった。蜂の軍隊や、群舞のようだった。個体のさほど強くない私達は、そのようにして生き残るしかなかった。嫌われ者の、開き直った自衛。他所の集落でもやっていることだと、知らされた。僅かな自由で、私は今ないものに憧れた。欲しいものがあった。
 迫害と殲滅の戦を、運よく生き延びて。私はこいしと姉妹になり、安住の地を探す旅を始めた。ゴールは地底の果ての果て。是非曲直庁に管理を任された、地霊殿だった。

「お姉ちゃん、次は?」
「桜桃、半分に切って。丸のままでもいいけれど」
「うん、大きい方が好き。食べてる気がする」

 少量の水で、ゼラチンの粉末を溶いた。完成時、スプーンの一押しで頼りなく震える程度に。私はもう少し固めでもいいのだけれど、こいしの好みに合わせた。メジャーカップの余り水は、流しの上のペパーミントの鉢にやった。
 砂糖水の鍋を、火にかけた。こいしは盛りつけのためのグラスを、数十運んできた。摘み食いの気配がしたので、果物のボウルを遠ざけた。指を咥えてこいしが唸っていた。

「読めないのになんでわかるかな」
「何年貴方の姉をしていると思っているの」

 テーブルの縁に腰掛けて、こいしは脚を遊ばせた。

「どうなっても、貴方は私の妹」
「何があっても、お姉ちゃんはお姉ちゃん、と」

 羽のような、くすぐったい声だった。鍋の中身を木べらで掻き混ぜる私に、

「あのときは、無理とか変とか言ってごめんね。ここまで粘るひとだと思ってなかった。私が閉じちゃったときも、怒らなかったし」
「止めたかったけれど、貴方のやりたいことだったもの。今日はやけに殊勝ね」
「心を読む感覚、久し振りに経験したから。お姉ちゃんの夢で」

 あんなだったんだね。霧が晴れてた。感慨深げに、思い返していた。

 屋敷に二人きりでは、望みを叶えたことにならない。私は地霊殿の同居人を募集し、改めて覚り妖怪への悪感情を知った。三食昼寝つきの好待遇でも、門を叩く者は現れなかった。声を持たない動物を集めて、飼うことにした。お燐もおくうも、最初は痩せ細っていた。栄養を摂らせて、名前と温かい寝床を与えた。時々毛並みを整えた。人型に変化したときは、感激した。こいしの分に加えて、ペットの分のお菓子も作るようになった。甘いものと団欒は、私の夢に欠かせないものだった。私達の瞳を恐れながらも、彼女達は休憩と間食に来てくれた。
 こいしは地下での生活に、元気を磨り減らしていった。覚り妖怪の力には、個人差がある。読みやすい心情が、一人ひとり異なるのだ。私が素早く視られるのは、恐怖。彼女が真っ先に捉えるのは、嫌悪だった。このままでは、誰からも好かれない。能力と時間で、彼女は予感を確信に変えていった。嘆きが彼女の傍にいた。閉じたいと叫んでいた。心に当たられることもあった。

 ――お姉ちゃんだってわかってるんでしょう? お燐達は怯えてるんだよ。世話をされた恩と、仕事と、ご飯のために留まっているだけ。嫌われてるよ、私達。
 ――これがお姉ちゃんの欲しかったものなの? 餌付けの調教と何が違うの?
 ――もう嫌。楽にさせてよ。

 私はこいしの決断を、認めることにした。閉眼した覚りに何が起こるのかは、学んでいなかった。記憶が濁るのか、正気を失うのか。わからないけれど、以前とは違う彼女になる気がした。それでも、やつれていく彼女を癒したかった。瞼を下ろす前に、思念を交わした。混じり気のない本心を伝えられる、唯一の機会だと思った。

 ――私はいつでも、貴方の姉だから。貴方やお燐達の、家だから。ここにいるから。醜いものは、全部持ってきて。忘れないで、私をお姉ちゃんって呼んで。
 ――もしもできるのなら、いつかまた眼を開いて。貴方が開けても辛くない、開きたくなるような環境をつくるわ。餌付けじゃない、本物になる。
 ――私はずっと、貴方を好きでいる。

 瞳の状態を変えても、こいしは私の妹でいてくれた。不在の日は増えたけれど、無意識の彷徨の後には帰ってきてくれた。私の呼び方は忘れなかった。手製のお菓子も食べてくれた。小さな絆に、ほっとした。
 ペット達とは、徐々に歩み寄っていこうとした。調教にも溺愛にもならない、適切な距離を見出そうと。無理強いはしたくなかった。自然で在りたかった。間欠泉と怨霊の異変以降、少しずつ仲がよくなってきた。お燐とおくうを厳しく処分しなかったからだ。動物達の、過度の恐怖心が薄れた。第三の瞳ではなく、私の性格を見てもらえるようになった。時の経過による慣れもあった。信頼の情は、新鮮な色をしていた。

 加熱した大鍋を下ろして、ゼラチン液を混ぜた。冷めるのを待つ間に、硝子の器を整列させた。地霊殿も大所帯になったなあと、ダイニングテーブルを占める食器の数でしみじみ実感した。これは、大昔に旧都でまとめ買いしたものだったか。家に届けさせて、こいしに呆れられた。私達何人かわかってる? どれだけここに連れてくるつもり? できっこないのに。目標は高い方がいいと、言い返した。

「お姉ちゃんは、頑張ったんだね。がっかりして終わりそうだったのに、欲しいものを手に入れた」
「一生分のわがままよ。始まりは貴方。感謝しているわ。申し訳ないとも思っているけれど。こっちに来なければ、傷つかなかったかもしれない。お燐やおくう達にも、悪いことをしたかもしれない。首輪はつけなかったけれど、生きる道を変えてしまった」

 こいしがグラスを爪で弾いた。澄んだ音がした。

「後悔することじゃないよ。関わるって、そういうことなんじゃないかな」

 私はお姉ちゃんと行かなかったら、山道で死んでいたかもしれない。
 お燐やおくうは、ひっそり飢え死にしていたかもしれない。
 透明な器を、こいしは傾けて起こした。

「地上のひとって、気が短くなったのかな。すぐに言い争ったり、弾幕ごっこをしたりするの。殺し合ってるひともいた。でも皆、明るかった。それ見て、考えたんだ。好きでも嫌いでも、関係があるといいなって。無関心の方がかなしい」

 こいしは心臓を庇う、黒の眼球を撫でていた。覚らなくなった彼女は、嫌われなくなった。私以外からは、深い関心を持たれなくなった。自分から輪に入らなければ、縁が生まれない。新しい立場で、色々なことに気付いたのだろう。
 彼女が、再び覚りになったとき。初めに視るものが、彼女の求めるものだといい。

 ゼリー液の鍋に、レモン汁を数匙。三種の果物ボウルを、こいしが真上で引っ繰り返した。満遍なく混ぜ合わせて、型のグラスに均等に注いでいった。白、黄色がかった赤、野の紅。三つの色が、器で同居している。

「ねえ、こいし。私は」

 私は、貴方達のいい家になれている? 問いかける前に、生気たっぷりの精神と足音がやってきた。二つ。空腹を訴えている。パンの切れ端や胡桃のペースト、香辛料の利いた肉を想像して、

「うわ、さとり様とこいし様!?」
「お燐、ゼリーゼリー」

 お燐は尻尾を二本とも立たせ、おくうはマイペースにテーブルに寄ってきた。

「冷えて固まるまで待って、おくう。氷室に運ぶの」

 こいしがたしなめた。摘み食い未遂の癖に。
 ゼリーの色彩が、赤系統に偏っているように見えた。何かアクセントが欲しい。私が閃くより先に、こいしがペパーミントの鉢を抱いていた。軽く水洗いした葉を、個々の硝子容器の真ん中に浮かべた。若々しい緑で、全体が引き締まった。涼感も出た。同じ発想に向かう辺り、姉妹らしかった。
 手伝わなければと、焦って。お預けを残念がって。お燐とおくうは、できかけの品を運んでいった。底には、おやつを待ち望む高揚感があった。欠片ほども、餌とは感じていなかった。
 私は人数分、レモン水を作って食卓に置いた。倉庫から、堅パンや葉野菜や肉類を持ってきた。木の実の砂糖漬けやペーストも。各々適当に切ったり蓋を開けたりして、

「オープンサンドでいい? 具は好きにして」

 帰ってきた彼女達を迎えた。おくうが文字通り飛びついた。お燐も目を輝かせて着席した。遅い夜食兼、早い朝食となった。

「お姉ちゃん、ジャムナイフ取って」
「はいはい」

 瞬間、片手で片手を握った。血に塗れてはいなかった。

 ――いい家だと思うよ?
「いい家だと思うよ?」

 想いか、声か。とても優しいものを、受け止めた。
 ――貴方はどうしたいの?
 ――普通の家族が欲しい。力で縛らない、別々の名前と気持ちのある家族。くだらないことに笑ったり、泣いたり、怒ったりできる。お菓子やありふれた幸せを、皆で自由に分かち合いたい。それが、私の夢。
深山咲
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コメント



0.3890簡易評価
6.100名前が無い程度の能力削除
駄目だ、泣く
深山さんはいつもひどい
7.100名前が無い程度の能力削除
冒頭の凄惨な風景と後半の穏やかな風景のコントラストが綺麗で、何とも言えません
しかし、ここまで壮絶な古明地姉妹の過去話は初めて読みました
10.100名前が無い程度の能力削除
いい家ですね。しっかりとした、色彩豊かな家です。
面白かったです。ありふれた幸せってほんといいものですね。
13.100名前が無い程度の能力削除
これはツボ
深山さんの地組はいつも涙が出そうになります
14.100ktr削除
読み始めてすぐにモニターが歪みました。うまい、素晴らしいです。
姉妹の距離感が胸を打つ……またさとりの描写が際立ってうまい。
色彩のコントラストと場面転換、イメージとテーマの投影が本当に見事です。
あなたの古明地姉妹は最高です、大好きです!!
これからも頑張って下さい!
17.100名前が無い程度の能力削除
良い古明地姉妹でした。
19.100かすとろぷ公削除
初めまして、実際コメントを書かせていただくのはこれが初めてになります。
私はスレ主の作品を某サイトの勇儀×さとりの話をみていらい毎回読ませて頂いています。深山氏の地霊話はどれも面白いですね、特にさとり、こいしの感情の扱いとその際に用いる小道具のマッチした加減は秀逸だと感じます。
深山氏の作品をみる度に私も地霊のシリアスを書いてみたくなります。
まぁ私自身の作品はとんでもギャグ主体ですのでそう上手くはいきませんがw
これからもがんばってください
20.100名前が無い程度の能力削除
後書きで泣いた
23.100名前が無い程度の能力削除
なんだか、とっても暖かい気持ちになれました。
さとりの夢は、しっかりと叶えられているのですね・・・。
25.100コチドリ削除
このような二次設定なら大歓迎ですね。
本当、目から鱗でした。

このお話の二人は、自分で自分に名前をつけたんですねぇ。
『恋思』でも『小石』だろうと、こいしちゃんには共感を。
哀しい過去に負けず、あえて『さとり』と名乗ったさとり様の勇気には最大級の尊敬を。
30.100名前が無い程度の能力削除
深山さんのお話は綺麗でとても好きです。
いいなあ、俺もお菓子欲しいw
36.100名前が無い程度の能力削除
泣いた。この話を読めて良かった
38.100名前が無い程度の能力削除
あなたの作品にでてくる古明地姉妹が大好きです。
一緒に料理をするという光景に家族らしさをとても感じました。
…タイトルで考えさせられました。こいしが夢に逃げたという意味しょうか。
それともさとりの夢にこいしが含めれているで、こいし=夢ということでしょうか。
41.100名前が無い程度の能力削除
いい話でした。言葉が上手く出ないくらいに。
45.100名前が無い程度の能力削除
 いい話でした。
 しかし、この話を読み終わった後、ダークな想像がふと浮かび上がってしまった。
 もちろんそれは私の勝手な思いつきであり、戯言であり、作者はそんな意図など込めていないだろう。
 ゆえに繰り返し述べますがダークな話なため、読みたくない方は ―― で囲った部分を飛ばしてください。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 この話を読んでいるときには、さとりは古明地集団の駒、意にそわぬ命令に従わせられる蜂の一匹、細胞の一つだと思った。
 だが、読み終わった後にふと思ってしまった、本当にそうなのかと?
 古明地の集団が二人を除いてほぼ絶滅するような戦の中、最も生き残る確率が高いのは誰だ?
 そして残った二人、残った時点では
>――これからは、私が姉ね。強いし、年上だもの。
 そう、いま「古明地さとり」と呼ばれる者が弱者のさとりを支配し、操り、統率した古明地の王なのではないかと思ってしまったのだ。
 いや、冒頭にあるように骸と間違われ運良く助かっただけかもしれない、だがそれは「古明地さとり」が集団の王である事を否定する話ではないのだ。
 けれども、王でも駒でも大差はないのかもしれない、弱者が強者たる王に支配されているように王もまた弱者の集団に支配される者、駒が幾らでも替えがきくように王が倒れれば次に力の強い者が王になるだけ、「皆、私だった」ようにも弱者も強者も等しく自由の無い存在なのだろう。
 しかし、そこでまた思ってしまった。迫害と殲滅の戦、それは避けることができなかったのだろうか?
 王は古明地集団からの束縛を逃れるため、己という個を確立させるため、それを侵食する己以外のさとりが消え去るように自殺のような戦いへと突き進んだのではないかと。
 もちろん王も共に死ぬ可能性のほうが高い、だがこのままでも自由のないまま、憧れ欲しいものが手に入らぬまま死ぬだけ、早いか遅いかの違いだけ。
 それならば僅かな可能性にかけ、僅かな自由をもってあがいた方がマシではなかろうか、いや「皆、私だった」のならば無意識の内に皆がそのような自殺願望をもち、そして生き残るのが王でなくても誰か一人だけ生き残ればそれで…。
 全ては私の勝手な想像です、けれどもただでさえ壮絶な過去の話、ここまで書かなくてもよいと作者が思いワザとぼかしたのかなと

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
46.100名前が無い程度の能力削除
こいしがこの先開眼するのなら、そのとき最初に読むのは姉の変わらぬ愛情だといいなぁ。
今回もいいお話でした。
54.100名前が無い程度の能力削除
いいなぁ、なんか。
57.無評価深山咲削除
あたたかいご感想、ありがとうございます。お読みくださる方がいて、お言葉までいただけて、とても幸せです。

>駄目だ、泣く
>深山さんの地組はいつも涙が出そうになります
>泣いた
擦って腫らさないように、ご用心ください。心を揺らせると、嬉しくて、少し照れくさいです。お喋りが不得意な分、お話に一杯気持ちを籠めたいです。

>コントラスト
場面や色の両極が際立っていると、いいなぁと思います。どちらも、描きたかったものです。

>ここまで壮絶な古明地姉妹の過去話は初めて読みました
>二次設定
さとりの名前を見て、種族名を個人名にするのは普通なのかな、と疑問に思いました。
バレエの群舞を観て、集団に戦慄したことを思い出しました。
種族『覚り』の一例として、書いてみました。

>さとり、こいしの感情の扱いとその際に用いる小道具のマッチした加減
ありがとうございます。使いたいものが浮かんできます。お菓子や道具には、色々な側面があって。活かせていると、嬉しくなります。

>…タイトルで考えさせられました
さとりの視点で、こいし=夢、理想、という意味でつけました。でも、夢に逃げたという解釈も興味深いです。
英語で弄って和訳すると、こいしの視点に変わります。ただいま、夢のように素敵なひと。

>ダークな想像
読んで、凄いなぁと思いました。有難く感じました。深いご考察、ありがとうございます。
いつも、舞台袖のようなお返事をしてすみません。少し、話します。
このお話のさとりは、集落の王になれるような特別強い覚りではありません。作中で書いた通り、支配される側でした。ただ、覚りは誰でも主になりえます。さとりの願望は、戦中での生存を引き寄せる微弱な要因になったかもしれません。こいしの欲求も。
さとりは姉妹になれて、非常に嬉しかったのだと思います。強い(=束縛しないけれど貴方を守れる)し、年上だから姉。妹の立場でも、喜んでいたでしょう。
私は優しい、幸せなお話が好きです。でも、辛かったことや暗いことも、綺麗に感じます。両者は隣り合わせです。切り離したら、道になりません。
ご意見から、さとりが王だった場合のお話も書いてみたくなりました。世界に広がりを持たせてくださり、ありがとうございます。
58.100名前が無い程度の能力削除
ああ。いいぜ。
60.100名前が無い程度の能力削除
深山さんの二次創作は設定が素晴らしいですね、ぐいぐい引き込まれます。
66.100名前が無い程度の能力削除
よかったです
深山さんの作品に感動しなかったことはない
71.100名前が無い程度の能力削除
これは秀逸。結末まで本当にキレのいい文章。
集団で襲い掛かる古明地のイメージがおそろしくて、だからさとりのあまりにコンパクトで人間的な理想が、かけがえのないものと思えました。
72.100とーなす削除
幸せな家族の風景はいいものですね。思わずじんと来ました。
74.100名前が無い程度の能力削除
壮絶な過去があってこその温かい地霊殿。涙腺に来ました。
77.100miyamo削除
いつもながらあなたの作品は美しいですね。
ちょっと前にチャットで話したときからファンになりました。
出来ることならばいつまでもあなたの作品のそばにいたいです
78.100みなも削除
綺麗なお話でした。
こんな何でもない日常がとてもいとおしく思えます。
87.100名前が無い程度の能力削除
全コメントが満点てw
でも私も満点の評価をしたいです。すごいなぁ
これからも頑張って下さい、応援してます
100.100名前が無い程度の能力削除
実に素晴らしいお話でした
姉妹だけでなく、お燐やおくうのエピソードにも感動しました
106.100ばかのひ削除
最後の一言で感情が揺れ動きました
最高です