ある日の幻想郷の夜。
今宵の月は赤く、辺りは静寂に包まれている。
聞こえてくるものといえば梟の鳴き声くらいだ。
湖のほとりに建つ紅魔館では、主人である私、レミリア・スカーレットは静かに紅茶を飲んでいた。
妹のフランは今、部屋でぐっすりと眠っている。
「今日は綺麗な月ね。ええ、とても美しいわ」
「ええ、そうですね」
私の言葉に、従者である十六夜咲夜はゆっくりと頷いた。
「こんな美しい月はあの時以来…かしらね?」
「あの時…とは?」
「まず最初に少し前に霊夢が私のところに来た時」
「あぁ、確かにあの時も真っ赤な月でしたね」
「そして私たちが幻想郷にやってくる少し前のこと」
私はそこまで言ってから一口紅茶を啜った。
「幻想郷に来る少し前…と言いましても私にはいつのことか…」
咲夜は苦笑いを浮かべている。
私はふぅ、とため息をついた。
ま、覚えていないのもしょうがないかしらね。
綺麗な月の夜はたくさんあったもの。
だけど私はあの日のことをしっかりと覚えている。
「しょうがないわね…ちょうど暇だったし、少し昔話でもしましょうか」
「すみません、お願いします」
「それじゃあ、掛けて頂戴」
「はい、失礼します」
私は咲夜を椅子に座らせた。
咲夜は私に礼をしてから椅子に腰掛ける。
「そう、あれは今日みたいに月が赤くて綺麗な日だったわ」
私たちが幻想郷にやってくる少し前のこと。
私、フラン、咲夜…あ、この時にはまだパチェはいなかったわね。
パチェは私たちが幻想郷に来る直前くらいに私たちと一緒に暮らし始めたし。
まあ、それは置いといて…
当時私たちはとある小さな村の外れにあった古城に住んでいた。
城の周りには美しい湖、美しい森がある。
昼間には大人たちが森の中で猟をしていたり、子供たちが湖で釣りを楽しむ姿が城の窓から見えた。
また観光名所としても有名であり、旅人もよく訪れていた。
そんな平和な村に私たちは住んでいたのだ。
そして村人も私たちのことを可愛がってくれていた。
大人たちはたまに畑で取れたものだといって作物を持ってきてくれたし、子供たちも一緒に遊ぼうといって城に遊びに来てくれた…
しかし彼らは私たちの裏の顔を知らなかった…
夜になると城に迷い込んだ旅人を襲い、血を吸うという吸血鬼の顔を。
だからこそ私たちは村人たちと仲良くなることが出来たのだ。
世の中には知らないほうが良いこともある。
私たちのことはまさにその諺の良い例だ。
私たちが吸血鬼であることは知られてはいけない。
このことを守り続けたからこそ私たちは平和に過ごすことができた。
…あの時までは。
「今日もいい天気ね」
私はいつものように咲夜に紅茶を入れてもらい、窓の外を見ながらのんびりとしていた。
フランも横で咲夜の作ってくれたクッキーを食べている。
「そうですね。でも、そんなに日に当たっているとお体に触るのでは…」
私は窓から差し込む日の光を浴びていた。
古来から吸血鬼は日光を嫌うといわれているが…
「私とフランは大丈夫よ。そこまでひ弱じゃないわ」
私とフランは日光は割りと平気だ。
日光を嫌うのはまだまだ下級の吸血鬼である。
…たまに例外もいたりするようだけれど。
「そうですか。あ、それと今日も村のおじさんたちから野菜や果物をもらいましたよ」
「そう。私たちもなかなか好かれているようね」
私と咲夜は顔を見合わせて笑った。
「フランもよく村の子供たちと遊んでいるわよね? どう、楽しい?」
「うん! とっても楽しいわ! 明日も遊ぶ約束をしてるの!」
目を輝かせながらフランは笑う。
ちなみに私たちには羽が生えていたりするのだが、普段は羽は服の下に隠している。
外から見ても違和感は感じない。
お陰で村人たちに不審に思われることも無いので、私たちは村人たちと気軽に交流が出来る。
「そう、楽しんでいらっしゃいね」
微笑みながらフランの頭をなでてやる。
フランはこれが大好きなのだ。
「うふふ、ありがとう、お姉様」
「さて、私はこれから買い物に行ってきます。何か欲しいものは?」
咲夜はフランと私に向けてそう聞いた。
「私は特に無いわね」
「私はお菓子が欲しいな!」
…今食べてるじゃん。
そう突っ込みたかったが、我慢することにした。
「はい、お菓子ですね。適当にケーキでも買ってきますよ。…もちろんお嬢様の分まで」
「ありがとう」
カップを置いてお礼を言う。
「それでは行って参ります」
咲夜は一礼して、部屋を出て行った。
「明日はどこへ行くの?」
私はフランに聞いてみる。
「明日はねぇ…森に行ってみんなで木の登りしたり、虫取りをするの!」
「気をつけなさいね?」
「えへへ、わかってるよ」
無邪気な笑みを浮かべるフラン。
この時はまだずっとこんな平和な日々が続くと思っていた。
しかし数日後にあんなことが起きようとはまだ私も、フランも、咲夜もそして村人たちも予想していなかった…
その日の夜。
月が綺麗に輝いていた。
もうそろそろで満月だろう。
私が部屋で横になっていると、側にいた咲夜が小さく耳打ちした。
「…お嬢様」
「…わかってるわ」
咲夜が言おうとしていることはわかっている。
今日も城の中に哀れな旅人が迷い込んだのだ。
私や咲夜くらいになれば人の気配を感じ取ることができる。
私は隣で寝ていたフランを起こした。
「フラン、起きなさい…『食事』の時間よ」
「…『食事』、久しぶりね」
フランは目をぎらぎらと光らせた。
昼間とは全く雰囲気が違う。
普段は無邪気な子供にしか見えない彼女だが、このような時になると吸血鬼らしい性格になる。
吸血鬼としての彼女の力、凶暴さ、残酷さは姉である私をも超えるくらいであろう。
彼女を一言で例えるならば…狂戦士、と言ったところだろうか。
「一番最後に『食事』をしたのはどのくらい前だったかしら?」
「そうですね…一週間くらい前だったかと」
フランの問いに咲夜が静かに答えた。
「ふふふ…そんなに前だったのね…久々の『食事』…楽しみだわ」
「はしたないわよ? もう少し落ち着きなさい」
舌なめずりをするフランを軽く叱る。
「だって耐えられないんだもの…ねぇ、お姉様。もう行ってもいい? 壊してもいい? 殺してもいい!?」
フランはぜぇぜぇ、と息を切らしながら言った。
目は完全に吸血鬼の目だ。
「そうね。あまりぐずぐずとしていると逃げてしまうし…行きましょうか」
「お嬢様、気をつけてください…」
「ええ、今回の客人はいつもとは違って強いわ」
いつもこの城に迷い込むのは怖い物好きの旅人だったりするのだが、今回はそんな人物ではないようだ。
そのような人間とは気配が違う。
「フラン、行ってらっしゃい…だけど用心すること。いい?」
「わかったわ…だけどどんな奴がきても負けないよ…?」
ニヤリと笑うフランに対して私は一人の吸血鬼として命令を下した。
「…よし、行け。我が妹よ」
「わかりました、お姉様」
ニッ、と礼をしながら笑うと、あっという間にフランは部屋の外へと飛び出していった。
「さて、咲夜。フランにただの人間が敵うとは思えないけど、少し気になるわ。
見に行ってみましょう」
「そうですね。お供いたします」
咲夜と私はゆっくりとフランの後を追った。
あの人間の気配は…この辺りか。
そこはいつも私たちが話をしたり食事をするのに使う大広間だった。
見つからないようにこっそりと様子を伺うと、一人の男の姿が目に飛び込んできた。
「見た感じはただの男性だけど…どう思う?」
「まだ何とも言えませんね」
咲夜に聞いてみたが、咲夜もわからないようだ。
「とりあえず、フランにどう立ち向かうかだけ見せてもらおうかしら。
ま、一瞬で勝負はつくだろうけど。」
私はそんなことを呟きながら上を見た。
天井からぶら下がっている大きなシャンデリア。
その上にフランはいた。
完全に気配を消した彼女を捉えることは普通の人間には難しいだろう。
男は全く気づいていないようだ。
「…この勝負、決まったわね。フランの勝ちよ」
私がそう呟いた時、フランが男の背後へと降り立った。
「おじさん…何かお探し物でも…?」
そう言うと男は振り返る。
「うわっ…! …ふぅ、びっくりしたよ、お嬢ちゃん」
…いつものフランのやり方だ。
会話して、相手に安心感を与えたところでバッサリと殺る。
「おじさんはこの城に興味があってね。いや、まさか人が住んでいるとは思わなかったんだけど。」
どうやら男はこの城を無人の城と勘違いして入ってきたらしい。
…肝試しのつもりなのだろうか?
「ふーん、そうなんだ。…だけどね、この城には人なんて住んでないよ?」
「え、それはどういう…?」
「私は…人間じゃないもの」
そこまで言うとフランは手を振り上げて、男の胴体をなぎ払った。
「終わったわね…」
私がそう言ってフランの元へ行こうとした時、咲夜は叫んだ。
「お嬢様! 駄目です!」
「え?」
私が咲夜の声に反応して足を止めた時、足元にナイフが突き刺さった。
「な…!?」
あそこで私が咲夜の声に反応していなければこのナイフは私に当たっていた…
これがただのナイフであれば問題はない。
しかし、足元に突き立ったナイフは銀で出来ている。
銀は吸血鬼に大きなダメージを与えるのだ。
「あなた…何者!?」
咲夜が驚いて叫ぶ。
私が振り向くと、その男は指の間に銀のナイフを挟んで立っていた。
この男…フランの一撃を避けた…!?
「ふん、メイドに感謝するんだな。そいつがいなければお前は今頃あの世逝きだ」
先ほどまでとはうって変わって、冷たい目線でこちらを見つめる男。
拳をよけられたフランは呆然としている。
「あ、あんたはいったい誰なのよ…!?」
呆然としながらフランは叫んだ。
「…貴様ら化け物に名乗る名前はない。ただ冥土の土産に教えておいてやろう。」
男はゆっくりと話し始めた。
「私はただのしがない神父だ。つい先日のこと…
ある旅人からこんな話を聞いたんだよ。
『神父様、私はこの前見てしまいました。古城で吸血鬼の姉妹が人間を襲っているのを…』と。
私たち教会がこれを見逃すはずはないだろう?
なぜなら化け物どもは私たちの敵だからな。」
私たちを睨みつけながら静かに語る神父。
どうやら私たちが気づかないうちに目撃者がいたようだ。
おそらく、血を吸っているときに目撃されたのだろう。
さすがの私たちも血を吸っているときは相手の気配を感じ取ることは難しい。
その時は咲夜もたまたま気づかなかったのだろう。
「私たち教会はこのような判断を下した。
『その吸血鬼をこの世から抹消せよ』
それでこの私がこの城へ潜入した…というわけだ。
…お分かりかな?」
ニヤニヤと嫌な笑いを浮かべながら私たちを見る神父。
「それで? 私たちをこの世から消すつもり?」
「ああ、その通りだ」
「はっ、面白いことを言うわね。やれるものなら…やってみなさい!」
私はそう叫ぶと同時に神父の目の前へと走った。
「遅いな」
神父は鼻で笑うと後ろへと飛んだ。
「はあっ!」
そのまま神父は空中でナイフを投げる。
「お嬢様! それには当たらないでください!」
「そのくらい…わかってる!」
銀で出来たナイフに当たってしまえば大きな被害を受ける。
私はナイフを寸前のところでかわして行く。
「フラン! 手伝って!」
「…わかったわ、お姉様」
呆然として座り込んでいたフランはゆらりと立ち上がる。
そのまま無言で神父へと突っ込んでいくフラン。
「ふん、わざわざ死にに来たか…ならば死ね!」
何本ものナイフがフランに向かって飛んで行く。
フランはそれをものすごい速度で避ける。
あまりに早すぎて残像しか見えないほどだ。
「くッ…やるな!」
神父はまた服の下からナイフを取り出す。
そしてナイフを持って手を振り上げた時…
「おっと、そうはさせない…!」
「なッ!?」
私は神父の後ろに近づいて拳を振り上げた。
「畜生!」
しかし拳はもう少しといったところで避けられてしまう。
だが…
「こっちも忘れないでよ!」
神父がよけた先にはフランがいた。
「うっ…!」
神父は呻いて何とか避けようとする。
…しかし遅い。
フランの拳が神父の片腕を捉えた。
ぐしゃり、という音と共に神父の左腕が千切れ、床に落ちた。
「ぐっ、ぐおぉぉ…」
神父はあまりの痛みに叫んだ。
「ちっ、畜生! ここはいったん退くしか…」
神父は何とか脱出しようと、近くにあった窓へと駆け寄った。
しかし、逃げようとする神父の足を銀のナイフが貫いた。
「な、何ぃっ!?」
驚くと同時に床に倒れこんで痛みに震える神父の視線の先には咲夜がいた。
「き、貴様…人間の癖に吸血鬼の味方をするかッ!?」
「以前このお方に敗れた時から私は人間であることを辞めた」
咲夜は床に倒れた神父を冷たい目で見下ろしながら言った。
「今の私はこのお方の従者です。
従者が主人を助けるのは当然のこと。
主人に危害を加えるのであれば私は誰であろうと容赦をしない」
…咲夜。
「くっ、くそっ! どうせ貴様らは終わりだ! 明日の夜には武装した仲間たちがお前らを滅ぼしに来る!」
「今…今なんて言ったッ!?」
私は叫んで神父を睨みつけた。
「くっ…クハハハハ! 明日の夜に貴様ら3人はこの世から消えてなくなるって言ったのさ!」
狂ったように笑い声を上げる神父。
そこまで聞いた私は目障りな神父を始末することにした。
「フラン、やって良いわよ」
「わかったわ、お姉様」
フランは手のひらを神父へと向けた。
「ふっ、私が死んだところでお前らが死ぬことに変わりはない。
…神よ、今そちらへ参ります」
そこまで言ったところで神父はぐちゃっ、という音と共に弾け飛んだ。
神父の死骸は跡形も無くなっていた。
「…明日仲間が私たちを殺しに来るって…? 冗談じゃないわ…」
私は小さく笑う。
そして咲夜のほうを向いた。
「咲夜、戦いの準備をしなさい」
「かしこまりました、お嬢様」
「そして、フラン」
「…何?」
「すまないけど明日はお友達とは遊ぶのはやめてもらえるかしら…?」
フランは嫌だ、と言うだろうなと私は思ったが…
「…わかった。遊んでる場合じゃないもんね。それにまたいつでも遊べるから」
「…すまないわね」
私は謝りながらフランの頭をなでてやった。
次の日、私たちは城にこもった。
子供たちがフランと遊ぼうとしてやってきたが、熱が出て遊べないといって咲夜に追い返させた。
本当のことを言うと遊ばせてやりたかったのだが、今日は敵が襲ってくるのだ。
こんな状況で遊ばせておくのは危険だろう。
どこに奴らが潜んでいるのかわからない。
「そういえばお嬢様…」
「何かしら?」
いつものように紅茶を入れてもらい、静かに椅子に座っていた私に咲夜は話しかけてきた。
「派手にやらかしてしまえば村の人たちに今回のことはばれてしまうでしょう。
その時は…どうするんです?」
私は静かに目を瞑った。
これまで仲良くしてきた人たちの顔が浮かんでは消えていく。
私たちが吸血鬼であることが知られてしまえば、彼らは私たちを追い出そうとするだろう。
「…その時は大人しくこの土地を出て行くわ」
「そう…ですか」
辛い。
ものすごく辛い。
今まで仲良くしてきた人たちから嫌われてしまうことは。
「…嫌われても、自業自得よね。ずっと吸血鬼であることを隠し続けてきたんだものね」
「お嬢様…」
「…この話はやめましょう。こんな話をするのは生き残ってからね」
軽く笑いながら私は話を切り替えることにした。
「フランは…どうしてるかしら?」
「妹様は夜に備えて眠る…といって自室で寝ています」
「そう」
私はそう呟いて窓のほうへと向かう。
窓からは綺麗な景色が見えていた。
「…咲夜、気を抜かないで。絶対に生き残るわよ」
「はい…!」
この綺麗な土地が、今宵戦場になる。
私たちは戦いが始まるその時まで静かに待つことにした。
その日の夜、村はずれの森の中。
「司教、偵察にやった彼からは未だに何も連絡がありません」
「そうか…殺られた、な」
血のように赤い月の下、司教と呼ばれた男は部下の報告に背を向けながら答えた。
「吸血鬼を初めとする化け物は私たちの敵だ。完全に殲滅しなければならない」
「しかし旅人の目撃談によるとその吸血鬼はまだ幼い子供だと言うじゃありませんか。
私たちにかかればそんな奴ら…」
部下の一人の言葉に司教は反応した。
「馬鹿か。年寄りであろうと子供であろうと吸血鬼は吸血鬼だ。
舐めてかかると痛い目にあうぞ」
「は、す、すいません…」
「む、そろそろ時間か…神父たちを集めろ」
「はっ!」
司教の命令に部下は答える。
「化け物は神に刃向かう存在。存在してはならないのだ」
司教は一人呟いた。
それから一つため息をついてから後ろを振り返る。
「さて、これで全員か?」
「はい、全員です」
部下の答えに頷くと司教は神父たちに向かって叫んだ。
「皆の衆! これから我らは神に刃向かう存在を滅しに行く!
微塵も容赦はするな! 100対3と言えども油断はするな!
彼らは1人で100人、いや! それ以上の力を持っているだろう!
気をつけろ! さぁ、我ら神のために剣を取ろうではないか!」
司教の演説に神父たちはおぉーっ、と声を上げた。
そしてゆっくりとレミリアたちのいる城へと向かって行く。
…神父たちの後ろ姿を見送る人影があったことは彼らは気づかなかった。
「た、大変だぁーッ!」
神父たちがゆっくりと城を目指している時、村に数人の若者が駆け込んできた。
彼らはこの村の住人である。
「おう、どうした、そんなに慌てて。肝試しに行ったら本当の幽霊に会ったか?」
「そ、そんなことより聞いてくれよ親父さん…」
若者たちを迎えたのは彼らの帰りが遅いことを心配していた大人たちだった。
若者たちは先ほど聞いたこと、見たことを大人たちに伝えた。
「何…? レミリアの嬢ちゃんたちが吸血鬼…!?」
「うん、それでなんか刃物とか持った人たちが城に向かって…」
大人たちはざわついた。
「マジかよ…あの子達が吸血鬼だったなんて…」
「クソッ! 俺たちはあいつらに騙されてたんだ!」
「今まで俺たちは化け物と一緒に遊んでたっていうのか!?」
そんな言葉が飛び交う。
「静まれ!」
そんな時、叫んでみんなを静かにしたのは村長である。
「考えても見ろ。俺たちはずっとあの子達と過ごしてきた。
今までであの子たちは俺たちに危害を加えたか?
そんなことなかっただろう。
俺たちにとって、彼女たちは大事な仲間だ。
仲間の危機にすることは何だ?
…仲間を助けてやることだよ」
村長の言葉に辺りは一気に静かになる。
「そう…だよな。村長の言うとおりだ!」
「だよな…! 吸血鬼だろうとなんだろうと彼女たちは俺たちの大事な仲間だ!」
「よし! 奴らから彼女たちを守ってやろうぜ!」
村長の言葉が村人たちの心を動かした。
村人たちは協力して彼女たちを守ろうと決意したのであった…
「…そろそろ来るわね」
私たちは窓から外を見ていた。
「お嬢様…私の命を捨ててでもお二人は守って見せます」
「馬鹿! そんなこと言わないで!」
咲夜の言葉に対して叫んだのはフランだった。
「い、妹様…?」
「いい、私たちは絶対に生き延びる。だから咲夜も約束して。
『絶対に死なない』って…」
咲夜は少しの間黙っていたけど、やがて笑みを漏らして言った。
「わかりました。絶対に死にませんよ」
「フラン、咲夜…」
私は小さく呟いた。
二人は私の言葉に反応して私を見た。
「絶対に生き延びるわよ」
「…はい!」
「…うん!」
二人は同時に力強く頷いた。
その時、窓の外に光が見えた。
「アレは…」
咲夜は目を凝らす。
「…来たみたいね」
私は身震いしながら言った。
あの光は奴らが掲げる松明の光だ。
「面白い…全員叩き潰してくれるわ」
私は一人笑った。
その時だ。
正面の玄関が開かれた。
「もう来たの!?」
私は驚きながら玄関のほうを見た。
「はぁ、はぁ、大丈夫か!?」
あの声は…村の…
「ど、どうしたのかしら…?」
「聞いたぞ、君たちが吸血鬼だってこと」
飛び込んできた若者はニヤリと笑いながら私たちを見た。
「おっと、俺たちは君たちをどうこうしようってつもりはない。
…伝えにきたんだ。」
「伝えにきたって…何を?」
私の代わりにフランが答える。
「村人全員が仲間である君たちを守ろうと奴らに抵抗しようとしていることを…ね」
私はその言葉を聴いたとき、体に電流が走ったような感覚を覚えた。
「…いつまで持つかはわからないけど逃げる時間くらいは稼げるはず。
だから逃げるんだ。」
「そ、そんな…私たちのために…」
咲夜は絶句している。
「さあ、さっさと逃げてくれ…俺はすぐに戻らなきゃいけない。
だからこれだけは言わせてくれ。
君たちが吸血鬼だろうがなんであろうが俺たちは君たちの仲間であり、友人であり、家族だ!
…それじゃあ、俺はこれで行くよ」
そこまで言って若者はドアを閉めて村の方へと走り去って行った。
「…皆、そこまで私たちのことを思ってくれていたなんて…」
私は一人呟いた。
後ろをゆっくりと振り返ると、フランも咲夜も呆然とした表情をしていた。
「お嬢様、彼らはいい人たちですね」
「うん、とても…いい人たちよ…」
二人も口々にそんなことを呟く。
「咲夜、フラン。私たちは絶対に逃げない。いい?」
「ええ、もちろん」
「私も友達を見捨てて逃げるようなことはしないよ」
私たちは急いで外に出る準備を始めた…
その頃、村では…
「この村には吸血鬼などいない。何度言ったらわかるんだ!」
「目撃者がいるんだよ! いないはずがない!」
神父たち、村人たちは言い争いをしていた。
「どうします司教?」
司教の近くにいた部下が小さく尋ねる。
「…やむをえん。あまり住民に被害は出したくなかったのだが…」
司教は掛けていたメガネを指で押し上げて言った。
「…わかりました」
さっきまで言い争っていた神父は司教の部下に耳打ちされて諦めたような声を出した。
村人たちはそれをレミリアたちを諦めたのだと思ったが…
「それではあなたたちも吸血鬼の仲間、神に刃向かうものとして…処刑いたします」
「な!? なんだと!?」
「最後通牒です。吸血鬼を大人しく渡してくれればあなたたちには危害を加えません」
司教はゆっくりと村人たちに言い放つ。
「そんな脅しが通用すると思っているのか…?」
村人たちはそうだそうだ、と叫んだ。
「そうですか…では、吸血鬼の仲間としてあなたたちを扱うことにします」
司教がゆっくりと手を上げて、振り下ろす。
すると後方に待機していた神父たちが村人たちに銃弾を浴びせた…
「なッ…!?」
私たちは城を出て、村へと向かっていた。
そして、村に入ったところで…
銃弾の雨を受ける村人たちを見てしまった。
あちらこちらから村人たちの悲鳴が聞こえてくる。
「な、何でこんな…」
咲夜は絶句している。
「あ、ああ…皆が…大事な友だちが…」
フランも絶句していた。
奴らは女子供関係なく、銃弾を浴びせていた。
「あ、あいつら…!」
そう呟いた時、前のほうから「吸血鬼が現れたぞ!」と言う声が聞こえてきた。
その声に奴らは反応した。
すぐに多くの神父たちが襲い掛かってくる。
「…フラン、咲夜。奴らに遠慮は要らないわ。本気で行きましょう…」
「ええ、わかってますわ、お嬢様…」
「もちろん…皆の敵討ちよ」
私たちは無言で奴らに突っ込んだ。
「気をつけろ! 突っ込んでくるぞ!」
神父たちはそんなことを言い合っている。
「…あなたたちは私たちを怒らせた」
微塵ほども容赦なく。
「皆は何も悪くないのに…」
完膚なきまでに叩きのめし。
「何でこんなことを!」
完全に粉砕する!
私たちが走り去ると後ろには数人の死体…いや、肉塊が出来ていた。
「…あなたたちのことは同じ人間と思いたくないわ」
咲夜は的確に相手の急所を狙ってナイフを叩き込んでいく。
「壊す…殺す…皆の痛み、お前たちにも味合わせてやるッ!」
フランはもはや完全なる狂戦士だった。
彼女の通ったあとには血の跡しか残らない、といった有様だ。
「く、くっ! 何をしている! 私たちは教会の精鋭だろう!? なぜここまで簡単にやられるッ!?」
隊長格の男が叫んでいる。
「一つ教えてあげるわ…なぜあなたたちが私たちに勝てないか」
私は目を閉じて手に力をこめた。
すると…私の手の中には一本の槍が握られていた。
グングニル。
狙ったものは必ず貫く魔槍だ。
「お前たち! せめて一人くらいは始末しろ!」
男は必死にそう叫んでいる。
しかし…私たちを止めることなど不可能だ。
「…私も本気を出すわ。完全に消し去ってあげる…!」
フランも魔剣レーヴァティンを取り出す。
「お、おい! お前ら! 逃げるんじゃない! 戦え、戦うんだ!」
神父たちは一目散に逃げ出そうとし、男はただ叫んでいる。
…あぁ、醜い。
私はそう思った。
「咲夜、一人も逃がさないで」
「了解です、お嬢様」
咲夜は能力を解き放った。
咲夜に時を止めさせて、奴らの足にナイフを刺させた。
「なッ…!? うわぁッ、何だこれは!?」
一瞬の後、奴らは足に突き刺さったナイフのせいでその場で転げまわった。
「…お嬢様、足は止めました。最後はお二人でどうぞ」
「ありがとう…行くわよ、フラン」
「ええ…」
私たちはそれぞれ得物を構えて…転げまわる奴らに向けて投擲する。
次の瞬間、奴らは跡形もなく消滅していた。
「…皆の…敵よ…!」
私は涙を流しながら言い捨てた。
周りには死体の山しかない。
村人、奴ら、全員死んでしまった。
生き残っているのは私たち3人だけだ。
「う、うわぁああああ!」
私は泣き叫んだ。
フランも私に抱きついて泣き叫ぶ。
咲夜も静かに涙を流していた。
泣き叫ぶ私たちを真っ赤な月の光が照らしていた…
それから私たちはしばらく、誰もいなくなったその土地で暮らした。
あれからいろいろなことがあった。
パチュリーと名乗る魔法使いと出会ったり幻想郷という世界について知った。
そして私たちは長年暮らした土地からこの幻想郷へとやってきた。
…新たな暮らしを手に入れるために。
「あぁ…確かに…そんなこともありましたね…」
咲夜は顔を伏せながら呟いた。
「咲夜、泣きたいなら泣いてもいいのよ…」
「す、すみません…」
そう言いながら目元をハンカチで拭う咲夜。
「私は今日みたいに真っ赤な月の日が来るたびに思い出すの。
彼らの優しさ、あいつらへの憎しみ…」
私はゆっくりと言う。
「…ここにいる限りはもう二度とあんな目には合わない」
「そう…ですね」
この幻想郷では妖怪などはごく当たり前の存在だ。
この幻想郷にいる限りはあの時のように化け物と言われずにすむ。
「私は…もう二度とあんな目に合いたくない…
大事な仲間たちが散って行く様は見たくない…!」
「お嬢様…」
「…ごめん、少し長くなっちゃったわね。
そろそろ寝ましょうか」
「…はい。それではお先に失礼いたします」
咲夜はそう言って礼をしてから自分の部屋へと戻っていった。
「…そろそろ私も寝よう」
もう一回真っ赤な月を見てから私は部屋へと戻る。
私の後ろ姿を赤い月はずっと照らしていた。
しかし、うーん。事の是非やちょっと聖職者に見えない描写はさておき、このお話で
一番筋の通った行動を取っているのは教会側の人間達に思えますね。私には。
生きる為に仕方なく、みたいな描写があるのならまだしも、フランドールに関しては
嬉々として殺そうとしていますよね? 旅人などは殺しても良く、村人は駄目だとは
ちょっと独善的過ぎて、紅魔館側の人物達に感情移入できないなぁ。
殺すなら殺す、生かすなら生かすで、きちんとした動機付けが欲しいです。
それに村が全滅した一番の原因は君達でしょ? とも言いたくなりますしね。
もうひとつ嫌なおまけなんですが、幻想郷に来て化け物と言われずに済む、なんて思考は
まっとうな吸血鬼の矜持を持つなら思わないんじゃないかなぁ。
むしろ、化け物であることに誇りを抱いてこそレミリア、だと個人的には思います。
最後に、美鈴が素で忘れ去られているのは仕様なのでしょうか?
>私たちは村人たちと仲良くなることが出来のだ→出来たのだ、ですね。
>今までであのことたちは俺達に→あの子たち、でしょうね。
>パチュリーと名乗る魔法使いとの出会ったり→魔法使いと出会ったり、又は魔法使いとの出会いであったり、などの方がよろしいかと。
神父が神父らしからぬ行動をしているのはそのためですね^^;
うーん、村人の件に対しては今まで親しくしてきた人を殺すことは出来ない…
といった感じを出したかったんですが…うまく表現できませんでしたね。
フランに関してはこういうことになると吸血鬼としての血が騒ぐ…といった感じを出してみたんですが…
さすがに吸血鬼=嬉々として殺戮を楽しむというのは偏見かもしれませんね。
化け物であることを誇りに抱くレミリア…
そこは全く考え付きませんでしたね…
そして最後の美鈴は自分が完全に忘れてました^^;
美鈴、本当にゴメンナサイ!w
あと誤字の報告ありがとうございます^^
…やはり眠い時に推敲なんてするものじゃありませんね^^;
次からはもっと気をつけます!
最後に細かい感想、アドバイスありがとうございます!
次回はまた百合のほうに路線を戻そうと思っていますので、次回もよろしくお願いしますね!
戦闘描写も疑問に思うところが多く、神父が100人居るシーンなどは最早ギャグにしか思えません。
それと言われたことに対して参考にした漫画のせいにするのはあまりにも酷い。
感想ありがとうございます
東方プロジェクトが提起する「世界」を俯瞰する時、我々はそこに色々な対立軸を見て取れると思います。現実と幻想、現在と過去、人間と妖怪、理性と感情……ここ創想話に限らず、全ての東方2次創作に関わる人が、1度は考えたないしは聞いたことがあると思います。それぞれの対立軸にどのような意味を見いだすか、どれをクローズ・アップするのか、どういう観点からそれに判断を下し、どちらを勝たせるか。こういったことは全て神である作者の手に委ねられているわけです。私たちはその気になれば幻想郷を1夜にして消し飛ばすことも出来き、あるいは逆にデウス・エクス・マーキナーとして万事決着を付け最良の解決を施すことも出来る。とすれば、どの視点に立って誰を闘わせ、どのような解決に導くのかを慎重に選ることが必要なわけです。
本作においては、人間(教会組織)対化物(吸血鬼)という構図が表に出され、正義(宗教秩序)対人情(仲間意識)という戦場の上で闘争が繰り広げられているわけです。しかし、そこで勝ちを収めた化物・人情は皮肉にも幻想入りしてしまうしか生き残る道がなかったと言う一種の寓話的叙事詩と捉えることが出来ると思います。あとは、それを作者がどう料理するか、読者がどう受け取るかだと思います。
何が言いたかったのかというと、貴方の考えはよく分かりますし、作品の構造自体は宜しいと思います。ただ、やはりもう少し情緒的な表現を減らすか、徹底して人を殺すか。善悪の差違という者をはっきり描き出した方が良かったと思います。作中でも描かれていますが、悪を排除することをためらってはいけないのです。排除されるべき悪に譲歩することはあってはなりません。作者として心が痛むようなら、それは貴方が悪として描く対象を移し替えればよいのです。闘争の歴史を善悪の判別無しに描くことは難しい。哲学はトイレの中ですればよい。戦場で哲学する人は死にます。そういうものなのです。
とまれ、宜しい作品だと思います。頑張って下さい。また会いましょう。では。
不動さんの感想は少しわかりづらいのですが、
(自分の未熟さゆえに・・・です。決して不動さんの言っていることにケチをつけているわけではありません^^;)
とても参考になります。
これからもよろしくお願いしますね!