「ずるい」
しいん、と静まった大浴場に彼女の声はよく響く。
本日は珍しく客であるところの、博麗霊夢が最初に発したのはそんな言葉だった。
私はその「ずるい」が何を指しているか分からずに目をぱちくりさせる。
目の前にはいつもの大きな赤いリボンも解きなめらかな黒髪を湯に這わせた少女がひとりいて、
体を洗い終わった私が薄いタオルを前にかけて覗き込んだ湯船にゆらゆらと拗ねた顔を映していた。
「霊夢、言葉というものは対話のためにあると思っているのだけれど。コミュニケーション。オッケー?」
「うんまったく、理不尽だと思うわ」
「ええほんとうに、あなた人の話聞きなさいよ」
なんだこれ全然日本語が伝わってない。
もともと変なやつだとは思っていたが――今日は特に変だ。
先ず、紅魔館に霊夢が訪れること事態が珍しい。
パーティーなどには食料目当てに勝手に潜り込む様な輩だが、今日はいたって何も予定はない。
昼ごろに急にふらりとやってきておやつを平らげ、お嬢さまがせがむままに弾幕ごっこをして。
結局途中で妹様が乱入して勝敗はわからなくなってしまったのだが、両方ともぼろぼろだったので引き分けだと思う。
服に付いた木屑を適当にはらって帰ろうとした霊夢を引きとめ風呂に入らないかと言ったら、これまた珍しく素直についてきたのである。
無駄に広い浴槽にひとりで入るのに慣れていたから、こうして誰かと一緒に入るのは少しわくわくする。
やけに素直な霊夢を今いじらずにいついじるのだ、と自分に言い聞かせ髪を洗ってやったり湯船に花をうかべてやったり、それはもう好きなように楽しんでいた矢先に、この言葉である。
霊夢は少し目を細めてじろじろとこちらを見ている――というか、睨んでいるのか。
「ずるいって何よ。体のことなら、霊夢も十分細いじゃない。しなやかでいいと思うけど」
「おっぱい」
「………は?」
「咲夜、あんたおっぱい大きくていいわね」
思わず聞き返した。ああそうか、この視線は体全体というよりも確かに一点に集中している。
水面に浮いた花びらを弄びながらずっと同じ場所に小さく座っている霊夢の隣まで湯をざばざば切って歩き、静かに肩まで浸かった。
近くまで来た私を霊夢は遠慮なく観察している。
「あんまり見られると恥ずかしいんだけど?」
エコーがかかって響いた声もおかまいなしに、霊夢は湯船に浮いて散った髪を指先でくるくる巻いている。
これは霊夢が何か考えているときの癖だ。その様子がなんか女の子らしくて私は結構気に入っている。
それにしてもこれでは髪が傷んでしまう。風呂から出たら髪の簡単なまとめ方を教えてやろう。
私がそんな事を考えているうちにも霊夢はぶつぶつと何やら呟いている。
あきれた、と私はため息をついた。
「心配しなくてもこれから大きくなるし、別に大きいからっていい事ないわよ。
そのままの霊夢で十分魅力的。わかった?」
ぷかぷか浮かんでいた黒髪を掬い上げ、適当にねじって髪留めでとめた。
そのままの手でぽん、ぽんと二回小さな頭を励ますように叩く。
「…そういうとこ、ずるいっていうの」
のぼせたせいか、霊夢の耳が真っ赤になっているのが見えた。
「髪洗うのうまいし、色んなこと知ってるし」
「そりゃあ、メイドですもの」
「なんか、やわらかいし。優しいし、あったかいし。わたしもそういうふうになりたい」
「…それはそれは」
光栄ね、と呟いた言葉はいまいち中身をもたずに響いた。
含まれていたのは多分少しの気恥ずかしさと、彼女の普段見せない弱さへの驚き。
「きっと」
私は言った。
「出来るんじゃないかしら、霊夢なら」
透き通った水に浮いた花びらを掬い上げては返す。
そんな少女の頭に乗せた手のひらを離せずにそのまま撫でていたのは、
その横顔がなんとなく寂しそうで、思い詰めた様な、思い知った様な、そんな表情だったからだ。
しいん、と静まった大浴場に彼女の声はよく響く。
本日は珍しく客であるところの、博麗霊夢が最初に発したのはそんな言葉だった。
私はその「ずるい」が何を指しているか分からずに目をぱちくりさせる。
目の前にはいつもの大きな赤いリボンも解きなめらかな黒髪を湯に這わせた少女がひとりいて、
体を洗い終わった私が薄いタオルを前にかけて覗き込んだ湯船にゆらゆらと拗ねた顔を映していた。
「霊夢、言葉というものは対話のためにあると思っているのだけれど。コミュニケーション。オッケー?」
「うんまったく、理不尽だと思うわ」
「ええほんとうに、あなた人の話聞きなさいよ」
なんだこれ全然日本語が伝わってない。
もともと変なやつだとは思っていたが――今日は特に変だ。
先ず、紅魔館に霊夢が訪れること事態が珍しい。
パーティーなどには食料目当てに勝手に潜り込む様な輩だが、今日はいたって何も予定はない。
昼ごろに急にふらりとやってきておやつを平らげ、お嬢さまがせがむままに弾幕ごっこをして。
結局途中で妹様が乱入して勝敗はわからなくなってしまったのだが、両方ともぼろぼろだったので引き分けだと思う。
服に付いた木屑を適当にはらって帰ろうとした霊夢を引きとめ風呂に入らないかと言ったら、これまた珍しく素直についてきたのである。
無駄に広い浴槽にひとりで入るのに慣れていたから、こうして誰かと一緒に入るのは少しわくわくする。
やけに素直な霊夢を今いじらずにいついじるのだ、と自分に言い聞かせ髪を洗ってやったり湯船に花をうかべてやったり、それはもう好きなように楽しんでいた矢先に、この言葉である。
霊夢は少し目を細めてじろじろとこちらを見ている――というか、睨んでいるのか。
「ずるいって何よ。体のことなら、霊夢も十分細いじゃない。しなやかでいいと思うけど」
「おっぱい」
「………は?」
「咲夜、あんたおっぱい大きくていいわね」
思わず聞き返した。ああそうか、この視線は体全体というよりも確かに一点に集中している。
水面に浮いた花びらを弄びながらずっと同じ場所に小さく座っている霊夢の隣まで湯をざばざば切って歩き、静かに肩まで浸かった。
近くまで来た私を霊夢は遠慮なく観察している。
「あんまり見られると恥ずかしいんだけど?」
エコーがかかって響いた声もおかまいなしに、霊夢は湯船に浮いて散った髪を指先でくるくる巻いている。
これは霊夢が何か考えているときの癖だ。その様子がなんか女の子らしくて私は結構気に入っている。
それにしてもこれでは髪が傷んでしまう。風呂から出たら髪の簡単なまとめ方を教えてやろう。
私がそんな事を考えているうちにも霊夢はぶつぶつと何やら呟いている。
あきれた、と私はため息をついた。
「心配しなくてもこれから大きくなるし、別に大きいからっていい事ないわよ。
そのままの霊夢で十分魅力的。わかった?」
ぷかぷか浮かんでいた黒髪を掬い上げ、適当にねじって髪留めでとめた。
そのままの手でぽん、ぽんと二回小さな頭を励ますように叩く。
「…そういうとこ、ずるいっていうの」
のぼせたせいか、霊夢の耳が真っ赤になっているのが見えた。
「髪洗うのうまいし、色んなこと知ってるし」
「そりゃあ、メイドですもの」
「なんか、やわらかいし。優しいし、あったかいし。わたしもそういうふうになりたい」
「…それはそれは」
光栄ね、と呟いた言葉はいまいち中身をもたずに響いた。
含まれていたのは多分少しの気恥ずかしさと、彼女の普段見せない弱さへの驚き。
「きっと」
私は言った。
「出来るんじゃないかしら、霊夢なら」
透き通った水に浮いた花びらを掬い上げては返す。
そんな少女の頭に乗せた手のひらを離せずにそのまま撫でていたのは、
その横顔がなんとなく寂しそうで、思い詰めた様な、思い知った様な、そんな表情だったからだ。
できることなら咲夜さんと魔理沙のシーンなんかも見てみたいと思いました
これはギャグじゃないぞ!!
この霊夢はいい霊夢