「にゃ、にゃ~あ!」
悪魔の棲む館、紅魔館。その一室から、『悪魔の館』の名に似つかわしくない鳴き声が響く。
「こら、こら。大人しくしなさい」
その部屋の主、メイド長の十六夜咲夜がその生き物を自身の膝の上に押さえつけ、ブラッシングしていた。
その生き物はよほどくすぐったいのか慣れないのか、もぞもぞと体を動かし続け何とか逃れようとする。
「にゃっ!」
とうとう脱出に成功。一目散に咲夜から距離をとろうとする。
「はい、残念でした♪」
「にゃーーー!?」
が、次の瞬間、抱きかかえられていた。咲夜の能力バンザイである。
「もう、逃げないでよぅ。今日1日貴女は私のペットなんだからぁ」
「にゃー! にゃー!」
腕の中でもがき続ける生き物――金・黒・白という妙な色合いをした小さな三毛猫――に頬ずりをしながら、言う。
「貴女の時間も私のもの、よ」
「――ね、まりにゃん?」
話は朝まで遡る。
「咲夜、今日は貴女、フリーでいいわよ」
朝、着替えと朝食を済ませたレミリアが咲夜に告げる。
急な申し出にキョトンとする咲夜。
「はぁ。それはいいのですが、何故です?」
「別に、深い意味などないさ。毎日毎日働き詰めにさせ続けるのもアレだからな、今日はゆっくり休め。1日くらい館のことを気にしなくても罰は当たらんさ」
咲夜の働きっぷりを最もよく知るレミリアである。仕事をするために時を止めて休憩せざるを得ないほど働きまくる咲夜をどうにかしてやりたいと思っていた。
「お気持ちは嬉しいのですけど、何をすればよいのですか?」
「自分が落ち着けることをすればいい。ただし仕事や給仕以外でだ。よその友人の家に遊びに行くのもよし、神社近くの温泉でもよし。人里の甘味処とかに行きたいならお駄賃だって構えよう」
「うーーーん……」
そう言われても、取り立てて外出が趣味というわけでもない咲夜だ、何をすべきかすぐには思いつかなかった。
「ま、今日何するかはお前の自由だ。やることが決まるまで部屋にでもいたらどう?」
「わかりました。お心遣い、感謝致します」
そう言って姿を消す咲夜。しかしこのままではきっとやることも見つけられずに部屋でゴロゴロするくらいだろう。
レミリアはそんな従者にアドバイスをするため、案を探すことにした。
地下図書室。
「パチェー」
「…………」
「パチェってばー!」
「…………」
親友の呼びかけにも反応せず黙々と本を読み続けるパチュリー。
存外短気なレミリアが声を荒げた。
「おい、ピチュリー!」
「……人を墜とされるしか能のない雑魚みたいな呼び方しないでくれる? 何か用かしら、マミー」
「そっちこそ人をゾンビみたいな呼び方しないでよ!」
「そっちじゃないわ、顔に3本の傷があって相手の骨を軽く砕く握力持ちで初期ラスボス格でそのくせ最後らへんではライバルキャラに手も足も出なくなるほど弱体化して『丸くなったなぁ』とか言われるとブチ切れるカリスマ(笑)11歳の方よ」
「いやぁぁぁ!! あんなのと一緒にしないでよぉ!! このプッチぃー!!」
「時を加速させたりしないから!」
ぎゃーすかぎゃーすか
「「それはおいといて」」
それまでの口喧嘩を一瞬で終え息を揃えてジェスチャー。
レミリアに向き直るパチュリー。
「で、何の用? いつもの我儘なら聞かないわよ」
「ああ、咲夜のことだけどね、あいつに休暇を出したのよ」
「珍しいわね」
「けど、急に言ったもんだから、何をすればいいかわかんないみたいなの。リラックスするのにいいものとか知らない?」
「そうね……大人しいペット、というか小動物と戯れるのは結構いいとは聞いたことあるけど……」
「ペットかぁ……ふむ……」
考える。小さな生き物と戯れるのが楽しいのはレミリアも承知している(主に幼少時代の咲夜とか)
しかし紅魔館には、大勢の妖精はいるがペットはいない。
野良ネコや野良イヌを拾ってきても、咲夜がリラックスできるほど懐くとは思えないし、その後飼い続けるとしたらそれは咲夜の負担になる。
かといって、犬や猫や鳥に変身できる知り合いの妖怪が簡単に来てくれるはずもない。
マヨイガの黒猫は咲夜のことがトラウマだそうだし、地獄の管理人の猫や烏は交渉が面倒だ。
妖怪の山の烏天狗や哨戒天狗など論外である。
悩んでいる折、よく知った声が聞こえた。
「お、レミリアじゃないか、珍しいな。どうした?」
白黒鼠改め霧雨魔理沙だった。
彼女の姿を認めた時、レミリアに電流走る!
早速パチュリーとアイコンタクト。
(パチェ、動物化魔法は使えるわね?)
気に入らない相手や邪魔者を、何かの生き物に変身させて無力化する魔法は割とメジャーである。『トード』とか。
(もちろん。魔理沙の魔法耐性相手じゃ半日かそこらが限界だけれど)
(十分よ、やっちまいなさい)
(ラジャった!)
この間、実に3秒!
「魔理沙、今日は咲夜が非番の日なの。相手をしてあげてくれないかしら?」
「ん? 別に構わないが、パチュリーは何唱えてんだ?」
「……覇ぁーーーーーーーーーー!!!」
「ぶわーーーっ!?」
パチュリーの魔法が魔理沙に直撃。
そんなこんなで、猫魔理沙が誕生したのだった。
当然のごとく逃げ出そうとした魔理沙だったが、慣れない体である上に人間を恐ろしいほど超越した身体能力を持つレミリア相手では逃げられるはずもなく捕えられた。挙句「フランの部屋に放り込むわよ」と脅されては従うほかなかった。
で、咲夜の部屋。
「ほれ、咲夜。思う存分戯れるといい。魔理沙だ」
「か、かわいーーーーーーーー!!」
「に"ゃーーー!!」
こんな経緯で咲夜は魔理沙を可愛がっていた。
猫化したおかげで牙や爪といった武器こそあるものの、咲夜を傷付ける気はないので、抵抗らしい抵抗もできず魔理沙はされるがままになっていた。
猫である魔理沙の言うことは理解できない咲夜だったが、咲夜の言葉は魔理沙は理解できているようなのでコミュニケーションにも困らない。
「ねぇ魔理沙、大人しくしてよぉ」
「ふかーーーっ!!」
相手が魔理沙だということはわかっているが、見た目が子猫なので口調も自然とそうしたものを相手にした時のものになってくる。
それが魔理沙にはまた不快だったりするのだが。
ブラッシングを終え、魔理沙の両脇を抱えるようにして至近距離で見つめ合う。
「もう、大人しくしてくれたら今度おやつ作ってあげるから、ね?」
「…………みー?」
「っ~~~~~!」
元の姿と同じ、金色の大きな瞳でこちらを見据えて首を傾げてくる。もう咲夜にクリティカルヒットだった。
今すぐ『ぎゅ~っ』と抱きしめたい衝動に駆られるも、それをしてしまえばもう大人しくはしてくれないだろう、精神力で衝動を捩じ伏せる。
「うん。パイでもケーキでも作ってあげるわ。リクエストしてね」
「……うなぁ~~」
「よしよし」
魔理沙を赤子にするような感じで抱きかかえる。丸まった魔理沙は人肌の温度や形のよい柔らかな胸に気持ちよくなったのか大人しくなった。
そしてそのまま、別に眠りに入るわけではないだろうが目を細める。
そんな魔理沙を慈母のような目で優しく見つめる咲夜。
(なにこれかわいい赤ちゃんみたいやっば飼いたい元に戻ってもおんなじことしたい可愛い娘最高ーーーーーー!!)
内心は慈母どころか犯罪者一歩手前っぽかったが。
抱きかかえたまま腰かけた上半身をゆっくりとした動きで前後に揺らす。その動きは魔理沙にとってはまるで揺り籠。
「るるるーるるーるるー、るるるーるるー、るーるるーるるー、るーるるーるるー……」
その上穏やかな子守唄までついてきた。千年じゃないが眠りにつきそうになる。その気持ちよさに猫扱い・子供扱いされている事実も忘れそうだった。
もうこのままでもいいか、なんて思いまで抱きながらいよいよ眠りに落ちようとした瞬間。
「……フゥッ!!」
「に"ゃぁ!!?」
耳に強烈な息吹、猫の体質的な反射運動で顔をブルブルッ! っと震わせる。
飛び起きた魔理沙は咲夜から離れ、潤んだ瞳で睨みつけた。
咲夜はちょっと苦笑いしながらごめんね、と謝り、再び魔理沙の両脇を抱きかかえ向い合った。そして微笑みかける。
「でもね、貴女が可愛いから、ついいじめたくなっちゃうの」
「…………にゃぅ……」
魔理沙とて玩具にされて喜んでいるわけはないが、可愛いと言われて悪い気などしていない。
相手に悪意が全くないのがわかる分、牙を向けることもできなかった。
しおらしくなった彼女に気をよくした咲夜はニコリと笑い、
魔理沙の鼻に軽く口づけた。
「……!!!!??!??」
「…………あっはっは!!」
突然の出来事に硬直した魔理沙、その様子が可笑しくて柄にもなく笑い出してしまう。
「にゃ、にゃーーーー!!」
「ごめんごめん! あ、もしかして初めてだった?」
「にゃ、にゃぅー……」
「ごめんね? よしよし」
抱き方を変えて自由になった手で撫でてやる。にゃぅ……と大人しくなった。
抱きかかえたままベッドに仰向けで倒れる。そのまま体を横にして、魔理沙と並んで寝る形になる。
魔理沙はもう観念したのか、逃げ出すこともせず本物の猫よろしく丸くなるだけだった。その姿に笑みが零れる。
そして同時にムクムクと湧く悪戯心。
「まりにゃー、ほら、ぴーーーん」
「にゃ、にゃうぅ!」
髭を引っ張ったり、
「いい子、いい子ー」
「にゅぅ……」
頭やあご下を撫で回したり、
「うりうりーーー!」
「にゃあぅ!!」
背中や尻尾、お腹に至るまで全身くまなく撫でてやったり。
さすがに身を捩ったりするものの、魔理沙が逃げ出すことはなかった。
「うふふふふっ」
魔理沙の反応に笑いがこみあげてきて仕方がない、そんな咲夜を睨む魔理沙。
気分を害したのか、咲夜に背を向ける格好で再び魔理沙は丸くなる。
残念に思う咲夜だったが、今度はただただ優しく背を撫でるだけに留める。その瞳は穏やかだった。
日頃の疲れが少し出たのだろう、じんわりと襲ってきた睡魔にその身を委ねた……
が。
いざ眠りに落ちる、その直前魔理沙が動き出し、顔に近づき、
ぺろっ。
「ん……なぁに? 魔理沙」
いきなり顔を舐めてきた魔理沙を怪訝に思い、薄目を開ける。
しかし大人しくなったので、再び目を閉じて眠ろうとした。
が、またも魔理沙が枕元を動き回る。そして、
かりっ。
「ひゃあっ!」
耳たぶを甘噛みしてきた、いきなりの刺激に全身に痺れが走る。
ぺろ、ぺろ……
「あうっ!? ちょ、やめなさい、こら!」
さらに猫の特徴的なざらざらした舌で耳の中を舐め回される。その刺激に鳥肌が走り、落ち着けない。
頭を振るも魔理沙は肉求のついたお手手で押さえつけ、止まったところをなお舐める。
「ひゃ、あっ…お、お願い…や、やだぁ、やめて!」
時を止めるのも忘れ、両手で魔理沙を捕まえにかかる。しかし頭の後ろという死角をすばしっこく動き回る魔理沙を捕捉できない。
「こ、こんのぉ!」
起き上がり、ようやく捕まえる。自分をいいようにしてくれた相手をジッと睨みつけた。
「にゃ~!」
そいつは「お返しだぜこのやろう!」とでも言いたげな得意顔だった。猫だけど。
「む~~~、そんな子は、こうだ!」
「むに"ゃっ!!?」
思いっきり抱きしめて再び倒れる。胸の中でジタバタされるが、もはや拘束を解こうとは思わなかった。
「に"ー! に"ー!!」
「はいはい、大人しくしましょうね~」
撫でてやるうちに、抵抗が収まっていった。
しかし咲夜は抱いたまま、逃がしはしなかった。
「……ほら、一緒に寝ましょ?」
「……にゃ…」
「ふふっ……やっぱり貴女、温かいわね」
「……にー…」
その返事にもう1度笑うと、今度こそ咲夜は穏やかな眠りに落ちていった。
夕方頃に2人して目を覚ます。その頃には魔理沙の魔法も解けており、抱きしめられていたことに気付いた魔理沙は顔を赤く染めた。
ブラッシングやベッドの上の攻防で乱れた魔理沙の髪を咲夜が整えてやっている。その様子はさながら親友か姉妹か。談笑。
「うう、もうお嫁にいけないぜ……咲夜に傷物にされたー」
「そんな大げさな。あんただって私に耳責めなんてなめたマネしてくれちゃって」
「で、でもよー! 全身あんなに触られまくったこと、ないんだよぉ!」
「はいはい。いざとなったらウチで引き取ってあげますよ」
「うぐぅ」
整えている髪を手で梳く。
「貴女の髪、ふわふわで気持ちいいわね」
「へへ、ありがと」
「でも、所々傷んでるわよ」
「うぐぅ!」
「……いつでもいらっしゃい。私が手入れしてあげるから」
「……お願いするぜ」
「ふふ、こちらこそ。はい、終わったわよ」
「ん。サンキュ。……咲夜」
「どうしたの?」
「腹が減ったぜ、約束通りおやつ作ってくれよ。竹の花のケーキがいいな」
「はいはい」
魔理沙の頭を撫でて、自身の身嗜みを整える。
「じゃあ、待ってなさい。ちゃちゃっと作ってくるわ」
道具を片付け、部屋を後にしようとした咲夜に魔理沙が呼びかけた。
「うん……ねぇ、咲夜」
「なぁに?」
「今日、泊ってもいいか?」
「当り前よ。というか帰す気がなかったわ」
「なんでだよ」
「だって、」
ニッコリと笑い、告げる。
――今日の貴女は、私のペットでしょう?――
――うぐぅ――
そう言われた魔理沙の顔は、夕焼けのごとく赤かった。
「……魔理沙、ずいぶん可愛がられたみたいね」
「そうね」
「ねえパチェ、私も猫になったら咲夜に可愛がってもらえるかしら?」
「そうだと思うわよ。でも……」
「どうしたの?」
「私の魔力じゃ、貴女には効かないわ、あの魔法」
「吸血鬼に生まれたことを後悔したのは初めてだよ畜生!」
(レミィ……吸血鬼って狼に変身できるんじゃなかったかしら? まぁいいや、言わないでおきましょう。興味ないし)
悪魔の棲む館、紅魔館。その一室から、『悪魔の館』の名に似つかわしくない鳴き声が響く。
「こら、こら。大人しくしなさい」
その部屋の主、メイド長の十六夜咲夜がその生き物を自身の膝の上に押さえつけ、ブラッシングしていた。
その生き物はよほどくすぐったいのか慣れないのか、もぞもぞと体を動かし続け何とか逃れようとする。
「にゃっ!」
とうとう脱出に成功。一目散に咲夜から距離をとろうとする。
「はい、残念でした♪」
「にゃーーー!?」
が、次の瞬間、抱きかかえられていた。咲夜の能力バンザイである。
「もう、逃げないでよぅ。今日1日貴女は私のペットなんだからぁ」
「にゃー! にゃー!」
腕の中でもがき続ける生き物――金・黒・白という妙な色合いをした小さな三毛猫――に頬ずりをしながら、言う。
「貴女の時間も私のもの、よ」
「――ね、まりにゃん?」
話は朝まで遡る。
「咲夜、今日は貴女、フリーでいいわよ」
朝、着替えと朝食を済ませたレミリアが咲夜に告げる。
急な申し出にキョトンとする咲夜。
「はぁ。それはいいのですが、何故です?」
「別に、深い意味などないさ。毎日毎日働き詰めにさせ続けるのもアレだからな、今日はゆっくり休め。1日くらい館のことを気にしなくても罰は当たらんさ」
咲夜の働きっぷりを最もよく知るレミリアである。仕事をするために時を止めて休憩せざるを得ないほど働きまくる咲夜をどうにかしてやりたいと思っていた。
「お気持ちは嬉しいのですけど、何をすればよいのですか?」
「自分が落ち着けることをすればいい。ただし仕事や給仕以外でだ。よその友人の家に遊びに行くのもよし、神社近くの温泉でもよし。人里の甘味処とかに行きたいならお駄賃だって構えよう」
「うーーーん……」
そう言われても、取り立てて外出が趣味というわけでもない咲夜だ、何をすべきかすぐには思いつかなかった。
「ま、今日何するかはお前の自由だ。やることが決まるまで部屋にでもいたらどう?」
「わかりました。お心遣い、感謝致します」
そう言って姿を消す咲夜。しかしこのままではきっとやることも見つけられずに部屋でゴロゴロするくらいだろう。
レミリアはそんな従者にアドバイスをするため、案を探すことにした。
地下図書室。
「パチェー」
「…………」
「パチェってばー!」
「…………」
親友の呼びかけにも反応せず黙々と本を読み続けるパチュリー。
存外短気なレミリアが声を荒げた。
「おい、ピチュリー!」
「……人を墜とされるしか能のない雑魚みたいな呼び方しないでくれる? 何か用かしら、マミー」
「そっちこそ人をゾンビみたいな呼び方しないでよ!」
「そっちじゃないわ、顔に3本の傷があって相手の骨を軽く砕く握力持ちで初期ラスボス格でそのくせ最後らへんではライバルキャラに手も足も出なくなるほど弱体化して『丸くなったなぁ』とか言われるとブチ切れるカリスマ(笑)11歳の方よ」
「いやぁぁぁ!! あんなのと一緒にしないでよぉ!! このプッチぃー!!」
「時を加速させたりしないから!」
ぎゃーすかぎゃーすか
「「それはおいといて」」
それまでの口喧嘩を一瞬で終え息を揃えてジェスチャー。
レミリアに向き直るパチュリー。
「で、何の用? いつもの我儘なら聞かないわよ」
「ああ、咲夜のことだけどね、あいつに休暇を出したのよ」
「珍しいわね」
「けど、急に言ったもんだから、何をすればいいかわかんないみたいなの。リラックスするのにいいものとか知らない?」
「そうね……大人しいペット、というか小動物と戯れるのは結構いいとは聞いたことあるけど……」
「ペットかぁ……ふむ……」
考える。小さな生き物と戯れるのが楽しいのはレミリアも承知している(主に幼少時代の咲夜とか)
しかし紅魔館には、大勢の妖精はいるがペットはいない。
野良ネコや野良イヌを拾ってきても、咲夜がリラックスできるほど懐くとは思えないし、その後飼い続けるとしたらそれは咲夜の負担になる。
かといって、犬や猫や鳥に変身できる知り合いの妖怪が簡単に来てくれるはずもない。
マヨイガの黒猫は咲夜のことがトラウマだそうだし、地獄の管理人の猫や烏は交渉が面倒だ。
妖怪の山の烏天狗や哨戒天狗など論外である。
悩んでいる折、よく知った声が聞こえた。
「お、レミリアじゃないか、珍しいな。どうした?」
白黒鼠改め霧雨魔理沙だった。
彼女の姿を認めた時、レミリアに電流走る!
早速パチュリーとアイコンタクト。
(パチェ、動物化魔法は使えるわね?)
気に入らない相手や邪魔者を、何かの生き物に変身させて無力化する魔法は割とメジャーである。『トード』とか。
(もちろん。魔理沙の魔法耐性相手じゃ半日かそこらが限界だけれど)
(十分よ、やっちまいなさい)
(ラジャった!)
この間、実に3秒!
「魔理沙、今日は咲夜が非番の日なの。相手をしてあげてくれないかしら?」
「ん? 別に構わないが、パチュリーは何唱えてんだ?」
「……覇ぁーーーーーーーーーー!!!」
「ぶわーーーっ!?」
パチュリーの魔法が魔理沙に直撃。
そんなこんなで、猫魔理沙が誕生したのだった。
当然のごとく逃げ出そうとした魔理沙だったが、慣れない体である上に人間を恐ろしいほど超越した身体能力を持つレミリア相手では逃げられるはずもなく捕えられた。挙句「フランの部屋に放り込むわよ」と脅されては従うほかなかった。
で、咲夜の部屋。
「ほれ、咲夜。思う存分戯れるといい。魔理沙だ」
「か、かわいーーーーーーーー!!」
「に"ゃーーー!!」
こんな経緯で咲夜は魔理沙を可愛がっていた。
猫化したおかげで牙や爪といった武器こそあるものの、咲夜を傷付ける気はないので、抵抗らしい抵抗もできず魔理沙はされるがままになっていた。
猫である魔理沙の言うことは理解できない咲夜だったが、咲夜の言葉は魔理沙は理解できているようなのでコミュニケーションにも困らない。
「ねぇ魔理沙、大人しくしてよぉ」
「ふかーーーっ!!」
相手が魔理沙だということはわかっているが、見た目が子猫なので口調も自然とそうしたものを相手にした時のものになってくる。
それが魔理沙にはまた不快だったりするのだが。
ブラッシングを終え、魔理沙の両脇を抱えるようにして至近距離で見つめ合う。
「もう、大人しくしてくれたら今度おやつ作ってあげるから、ね?」
「…………みー?」
「っ~~~~~!」
元の姿と同じ、金色の大きな瞳でこちらを見据えて首を傾げてくる。もう咲夜にクリティカルヒットだった。
今すぐ『ぎゅ~っ』と抱きしめたい衝動に駆られるも、それをしてしまえばもう大人しくはしてくれないだろう、精神力で衝動を捩じ伏せる。
「うん。パイでもケーキでも作ってあげるわ。リクエストしてね」
「……うなぁ~~」
「よしよし」
魔理沙を赤子にするような感じで抱きかかえる。丸まった魔理沙は人肌の温度や形のよい柔らかな胸に気持ちよくなったのか大人しくなった。
そしてそのまま、別に眠りに入るわけではないだろうが目を細める。
そんな魔理沙を慈母のような目で優しく見つめる咲夜。
(なにこれかわいい赤ちゃんみたいやっば飼いたい元に戻ってもおんなじことしたい可愛い娘最高ーーーーーー!!)
内心は慈母どころか犯罪者一歩手前っぽかったが。
抱きかかえたまま腰かけた上半身をゆっくりとした動きで前後に揺らす。その動きは魔理沙にとってはまるで揺り籠。
「るるるーるるーるるー、るるるーるるー、るーるるーるるー、るーるるーるるー……」
その上穏やかな子守唄までついてきた。千年じゃないが眠りにつきそうになる。その気持ちよさに猫扱い・子供扱いされている事実も忘れそうだった。
もうこのままでもいいか、なんて思いまで抱きながらいよいよ眠りに落ちようとした瞬間。
「……フゥッ!!」
「に"ゃぁ!!?」
耳に強烈な息吹、猫の体質的な反射運動で顔をブルブルッ! っと震わせる。
飛び起きた魔理沙は咲夜から離れ、潤んだ瞳で睨みつけた。
咲夜はちょっと苦笑いしながらごめんね、と謝り、再び魔理沙の両脇を抱きかかえ向い合った。そして微笑みかける。
「でもね、貴女が可愛いから、ついいじめたくなっちゃうの」
「…………にゃぅ……」
魔理沙とて玩具にされて喜んでいるわけはないが、可愛いと言われて悪い気などしていない。
相手に悪意が全くないのがわかる分、牙を向けることもできなかった。
しおらしくなった彼女に気をよくした咲夜はニコリと笑い、
魔理沙の鼻に軽く口づけた。
「……!!!!??!??」
「…………あっはっは!!」
突然の出来事に硬直した魔理沙、その様子が可笑しくて柄にもなく笑い出してしまう。
「にゃ、にゃーーーー!!」
「ごめんごめん! あ、もしかして初めてだった?」
「にゃ、にゃぅー……」
「ごめんね? よしよし」
抱き方を変えて自由になった手で撫でてやる。にゃぅ……と大人しくなった。
抱きかかえたままベッドに仰向けで倒れる。そのまま体を横にして、魔理沙と並んで寝る形になる。
魔理沙はもう観念したのか、逃げ出すこともせず本物の猫よろしく丸くなるだけだった。その姿に笑みが零れる。
そして同時にムクムクと湧く悪戯心。
「まりにゃー、ほら、ぴーーーん」
「にゃ、にゃうぅ!」
髭を引っ張ったり、
「いい子、いい子ー」
「にゅぅ……」
頭やあご下を撫で回したり、
「うりうりーーー!」
「にゃあぅ!!」
背中や尻尾、お腹に至るまで全身くまなく撫でてやったり。
さすがに身を捩ったりするものの、魔理沙が逃げ出すことはなかった。
「うふふふふっ」
魔理沙の反応に笑いがこみあげてきて仕方がない、そんな咲夜を睨む魔理沙。
気分を害したのか、咲夜に背を向ける格好で再び魔理沙は丸くなる。
残念に思う咲夜だったが、今度はただただ優しく背を撫でるだけに留める。その瞳は穏やかだった。
日頃の疲れが少し出たのだろう、じんわりと襲ってきた睡魔にその身を委ねた……
が。
いざ眠りに落ちる、その直前魔理沙が動き出し、顔に近づき、
ぺろっ。
「ん……なぁに? 魔理沙」
いきなり顔を舐めてきた魔理沙を怪訝に思い、薄目を開ける。
しかし大人しくなったので、再び目を閉じて眠ろうとした。
が、またも魔理沙が枕元を動き回る。そして、
かりっ。
「ひゃあっ!」
耳たぶを甘噛みしてきた、いきなりの刺激に全身に痺れが走る。
ぺろ、ぺろ……
「あうっ!? ちょ、やめなさい、こら!」
さらに猫の特徴的なざらざらした舌で耳の中を舐め回される。その刺激に鳥肌が走り、落ち着けない。
頭を振るも魔理沙は肉求のついたお手手で押さえつけ、止まったところをなお舐める。
「ひゃ、あっ…お、お願い…や、やだぁ、やめて!」
時を止めるのも忘れ、両手で魔理沙を捕まえにかかる。しかし頭の後ろという死角をすばしっこく動き回る魔理沙を捕捉できない。
「こ、こんのぉ!」
起き上がり、ようやく捕まえる。自分をいいようにしてくれた相手をジッと睨みつけた。
「にゃ~!」
そいつは「お返しだぜこのやろう!」とでも言いたげな得意顔だった。猫だけど。
「む~~~、そんな子は、こうだ!」
「むに"ゃっ!!?」
思いっきり抱きしめて再び倒れる。胸の中でジタバタされるが、もはや拘束を解こうとは思わなかった。
「に"ー! に"ー!!」
「はいはい、大人しくしましょうね~」
撫でてやるうちに、抵抗が収まっていった。
しかし咲夜は抱いたまま、逃がしはしなかった。
「……ほら、一緒に寝ましょ?」
「……にゃ…」
「ふふっ……やっぱり貴女、温かいわね」
「……にー…」
その返事にもう1度笑うと、今度こそ咲夜は穏やかな眠りに落ちていった。
夕方頃に2人して目を覚ます。その頃には魔理沙の魔法も解けており、抱きしめられていたことに気付いた魔理沙は顔を赤く染めた。
ブラッシングやベッドの上の攻防で乱れた魔理沙の髪を咲夜が整えてやっている。その様子はさながら親友か姉妹か。談笑。
「うう、もうお嫁にいけないぜ……咲夜に傷物にされたー」
「そんな大げさな。あんただって私に耳責めなんてなめたマネしてくれちゃって」
「で、でもよー! 全身あんなに触られまくったこと、ないんだよぉ!」
「はいはい。いざとなったらウチで引き取ってあげますよ」
「うぐぅ」
整えている髪を手で梳く。
「貴女の髪、ふわふわで気持ちいいわね」
「へへ、ありがと」
「でも、所々傷んでるわよ」
「うぐぅ!」
「……いつでもいらっしゃい。私が手入れしてあげるから」
「……お願いするぜ」
「ふふ、こちらこそ。はい、終わったわよ」
「ん。サンキュ。……咲夜」
「どうしたの?」
「腹が減ったぜ、約束通りおやつ作ってくれよ。竹の花のケーキがいいな」
「はいはい」
魔理沙の頭を撫でて、自身の身嗜みを整える。
「じゃあ、待ってなさい。ちゃちゃっと作ってくるわ」
道具を片付け、部屋を後にしようとした咲夜に魔理沙が呼びかけた。
「うん……ねぇ、咲夜」
「なぁに?」
「今日、泊ってもいいか?」
「当り前よ。というか帰す気がなかったわ」
「なんでだよ」
「だって、」
ニッコリと笑い、告げる。
――今日の貴女は、私のペットでしょう?――
――うぐぅ――
そう言われた魔理沙の顔は、夕焼けのごとく赤かった。
「……魔理沙、ずいぶん可愛がられたみたいね」
「そうね」
「ねえパチェ、私も猫になったら咲夜に可愛がってもらえるかしら?」
「そうだと思うわよ。でも……」
「どうしたの?」
「私の魔力じゃ、貴女には効かないわ、あの魔法」
「吸血鬼に生まれたことを後悔したのは初めてだよ畜生!」
(レミィ……吸血鬼って狼に変身できるんじゃなかったかしら? まぁいいや、言わないでおきましょう。興味ないし)
ところで、猫に変身→服脱げる→変身解ける→裸
な出来事はなかったんですか?
作者様、後書きの描写も含めて改訂版執筆の準備運動を始めるのだ。
貴方なら出来るっ!
>お駄賃だって構えよう→?? 与えよう? 購えよう? 寡聞にしてこのような表現方法は初めて見るのですが。
しかし……くそう、可愛いじゃねえか。
なんにせよ猫と咲夜さんはいいですな
この三毛猫どこに売ってますか?398万円出しますから教えてw
あとがきのやつ、アッチで待ってますww
これって、超レアものじゃ?w (竹の花の開花周期は60~120年という説あり)
誰も突っ込まないので突っ込みますが、さすが魔理沙ってかんじの要望ですねぇ。