私は目を覚ました。
少しばかり肌寒い朝だった。
ぐっと背伸びをすると、布団から這い出る。
普段なら式神たる藍を呼んで、髪を整えさせたり服をもって来させたりするものの、今朝は早くから結界の管理を博麗の巫女とするように言っている為、いない。
今はもう、霊夢の代ではない。
霊夢も大人になり、子を産んで、そして今はその子供が継いでいる。
まだまだ技術不足な子供なので、霊夢にも教わる事はあるし、教え切れない事は私や藍が教えてあげなければいけない。
手間がかかるが、幻想郷の為だから仕方がない。
私は鏡の前に立つと、だらんと垂れる金色の髪を結う。
結わなくても問題はないのだが、結った方がなんとなく気持ちが締まる。
洗面台へと向かい、水で顔を洗う。
手で水を掬うと、一回、二回と顔につける。
さっぱりしたら、隣にかかるタオルで綺麗に水を拭く。
そして、台所へと向かった。
今の幻想郷は凄く発展した。
外の世界の技術もすこしばかり入って来たり、河童の技術も向上した。
また、外では新しいものが次から次へと生産されていく。
売れないものは排除するという考えになり、需要より供給が大幅に高くなっている。
なので、売れなくなったものは人々の記憶からも消え去り、幻想郷へと流れていくのだ。
それをしっかりと人間や妖怪達は調べ、自分たちでも似たものを生産しようという流れになってきた。
そこからは人間達の素晴らしい力である。
研究熱心な彼らは、違うもので代用してそれを生産する技術もつけた。
現在の幻想郷は、外の世界の昔のようだった。
しかし、所詮は代用して作ったものなので、外の本物よりは劣る。
なので、私は外で買って来たものを使うし、食べる。
それはそうと、藍は朝食も取らずに出て行ったのだろうか、料理が何も置いていない。
私は、外で仕入れたインスタントの味噌汁をお椀に入れる。
ご飯は炊けているようなので、お茶碗にご飯を入れ、お椀に熱いお湯を注ぐ。
これだけで美味しい味噌汁ができるなんて素晴らしい発想で、人間らしいと思う。
人間は面倒な部分を省こうとする。
故に簡単ですぐに出来るものを作ろうとして出来あがったのがインスタントやレトルト、冷凍食品といったものだろう。
作る作業を面倒くさいと思うようじゃいけないと普段から思っているものの、気だるい今朝の気分だとそれも今は無視してしまう。
人間の思考に染まるようじゃまだまだだと私は反省しつつも、味噌汁を啜る。
ふと、インスタントの味噌汁のパッケージの裏側を見る。
何が入っているか、どれだけの量が入っているか、などといろいろな事が書かれている。
その欄の一番下、賞味期限と書かれていた。
それを美味しく食べることが出来る期限のことだった。
妖怪としては、こんな期限なんていうものはなかなか縁が遠いのであまり意識をしないが、食べ物に関しては仕方なくそれを守る。
そして、その年数を見た。
まだ先の、未来の年月日が記されている。
日々作られる製品に賞味期限が書かれ、それは全て未来の年月日が書かれており、当然その未来の日が必ずやってくる。
先ほどいった通り、妖怪はまったく期限や未来の年月日なんて気にしない。
よほど寿命が近いときでないと意識なんてしないだろう。
しかし、人間はどうだろうか。
寿命は私達妖怪と比べたらとてつもなく短い。
なのに、賞味期限は、ただそれを食べられる期間だと思っているかもしれない。
妖怪は、長く生き、人間は普通に生きる。
私達は様々な人間に出会い、親しく接した者もすぐに年老いて死んでしまう。
何度も別れを繰り返すのだ。
それは仕方ないことだが、やはり辛い。
私の時間の感覚と、人間の時間の感覚とは全く違うのだ。
だから、ついこの未来の年月日を見ると、意識してしまう。
親しい者がこの時まで生きているのかどうか、ということを。
私は咄嗟に隙間を開いて、とある場所へ向かった。
そこには、縁側でお茶を飲む、大人の女性の姿があった。
あの頃の霊夢とは違う。
あどけなかった顔も、すっかり美人で美しい顔つきになっている。
「どうしたの、紫」
まだ彼女は生きていた。
私の時間のものさしじゃ、人間の時間の感覚が分からないから。
いつ、私の親しい人が消えてしまうか分からないから。
だから、気づかないうちに消えてしまわないように。
今、この時だけでもいいから、存在するあなたを抱きしめたかった。
「え、ちょっと?」
驚く霊夢の事も気にせず、私はぎゅっと抱きしめた。
今あなたがここにいる。
それだけで、こんなに胸が温かくなる事はないだろう。
インスタントで出来るような、すぐに暖まるものではない。
ずっと今まで築き上げてきたものから来る、なんとも言えない暖かさだった。
そして、すぐに冷める事も無い。
ずっと、ずっと暖かいままだった。
「霊夢」
「何よ」
「ううん、なんでもない」
「そう」
短いやり取りで、ずっと今まで続けてきたやり取り。
それだけで、心が満たされた。
「それじゃあね、霊夢」
「何しに来たのよ……。まぁ、また来なさいな」
そして神社を後にする。
家に帰れば、そこには冷めたご飯と、インスタントの味噌汁があった。
時間が惜しい生き急がなければならない人間だからこそ生まれたものなのでしょう。
その理由に気づいてしまった紫様はもう面倒でもインスタントのを食べることは無くなってしまうのでしょうか。
学校行く前の時間だけでこんなの書くなんてホントに貴方パルパルしい!
どれだけ朝早くから書いているんだろう…マジで凄いです!!
>幻想へと流れていく
→幻想郷へと流れていく
>それは未来の年月日をすべて書かれており
→それらはすべて未来の年月日が書かれており、かな
間違いなく霊夢の精神でしょうね。次点に紫様の胡散臭さかな?
彼女なら死ぬまで、いいえ、死後に天界、冥界、まかり間違って地獄に居てさえ、
いつもの無重力な雰囲気を醸し出して、暢気にお茶を啜っているんじゃないかなぁ。
なので、紫様の取った行動は全くもって正しいでしょう。うん、大正解!
評価ありがとうございます。
インスタントは人間が発明した偉大なものですな……。
パルパルしい……いい言葉ですなw
>奇声を発する程度の能力 様
評価ありがとうございます。
学校に行く前、40分程度でしょうかね。
嬉しいお言葉です。
>風峰 様
評価ありがとうございます。
やっぱり手作りとかそういうのがいいですよね。
誤字指摘ありがとうございます。
>コチドリ 様
評価ありがとうございます。
霊夢なら十分考えられますねぇ……。
紫はなんか寂しがり屋な気もします。
そして、このクオリティ…マジで尊敬します!
多分それくらいかと。
まぁ、書きながら色々携帯弄ったりもしてたので、もう少し考えればよかったかも……。
嬉しいお言葉ですわ。
妖怪視点だと普段見るものも違ってみえるのですね。
評価ありがとうございます。
何故かしら思い浮かんだので、思うままにさらさらと書きました。
視点は変わるもんですね。
学校行く前にとかすげぇwww
凄いと言うより他にありません。
評価ありがとうございます。
その辺の作家より良い……嬉しくて悶絶します。
遅刻しそうになりながらも必死で書きました。
>26 様
評価ありがとうございます。
何と言うか、ひとつの単語だったり物事から物語を考えて膨らませるのって大好きです。
想像って楽しいです。
全く、これだからへたれ向日葵氏の技量は計り知れなくて困る
まさに幻想即興曲ですな 不思議な旋律、そして交響
身近な題材から世界を思わせてくれます
お見事
評価ありがとうございます。
まさに即席で作った作品ですね。
嬉しいお言葉に恐縮するばかりですわ。
身近な題材でのお話を作るのって面白いのもです。
評価ありがとうございます。
なんか単語から話を膨らませるのってほんと面白いです。
今も頭の中でぐるぐると。
評価ありがとうございます。
とりあえず、ティッシュを差し上げます。
次は鼻血を出させるように頑張ります。
評価ありがとうございます。
いろいろとインスタントから思うところがあって書いた作品ですが、深い作品に出来あがったようで良かったです
よかったです。