こいしは何の脈絡もなく空を飛び、何の脈絡もなく地面に降り立つ。
それから何の脈絡もなく辺りを見渡し、ここがどこなのかを認識する。
鬱蒼とした竹林。
辺りは思った以上に暗く、そして地底のように生暖かな空気に満たされていた。沈殿した空気の臭いを感じる。
停滞の空気。
こいしはぺろりと唇を舐めて、辺りの雰囲気を無意識レベルで取り入れる。
そうして、自分をまわりと同化させるのだ。
こいしの知覚は辺りの気配と等しくなる。そうすることで、こいしの気配は完全に消える。まるで黒い色のなかに鉛筆の芯をつきたてる様に似ている。誰もこいしには気づかないし、こいしの存在なんて最初からいなかったものとして扱われる。
ゼロとは少し違う。
こいしは場所を占有する。空間にこいしの生の胎動は必ず残留する。
だから、相殺しているといった表現が最も適切だ。
こいしは生を相殺する。自分を常時殺すことで、周りの生と相殺する。
結果としてのゼロ。
結果としての不存在。
そういった感覚だ。
もちろん、そんなことはこいしの意識するところではなかったし、こいしの存在を知覚することすらできない第三者にとってはなおのことそうだ。
こいしはいない。
どこにもいない。
けれど、こいし自身は無ではない。存在しているものを存在していないことにすることはできない。
風のように自由。
意識されない空気に近い。
スキップしたい気分。
実際にそうした。もちろんその行為は誰にも知覚されることはないし、認識されない行動なんて、社会的に見れば何の意味もないことかもしれない。
けれど、楽しいのだ。
こいしにとっては楽しい動作なのだ。
だからそうした。
実にシンプルな答え。実にシンプルな――、生命のごく基礎的なレベルに根ざした快楽原則。快を最大化するように、不快を最小化するように行動する。もっともこいしの場合、ほんのちょっぴり快楽原則がぶっ壊れているせいか、時々意味もなく誰かを殺したりすることもあったけど――、まあとりあえずのところ完全に機能不全というわけでもない。
したいことをしたいようにする。
意味なんて考えない。
意味なんて無意味だ。殺害が大好きといっても、快楽殺人者というわけでもなく、ただなんとなく、脈絡もなく、意味もなく、運命に似た動作に近い。スゥっと空気を肺に取り入れるときに、あらなにかしらと思った次の瞬間には手が血まみれになっていただけのこと。こいしは普通の女の子なんだから殺しが好きなわけじゃない。客観的に見て、社会的にそう評価されても別にかまわないところではあるけれど。
「あらなにかしら?」
誰にも伝わらない言葉を、こいしは独り唱えてみる。
竹やぶのなかには綺麗で綺麗で、こいしのお姉ちゃんよりも綺麗かもしれない女の人がいた。
着物をきている。少し歩きにくそう。長くて黒い髪。闇夜に似た色。美人。
こいしは一瞬、殺したいかもと思った。
「あのー、すいません」
「ん。なにかしら」
「なにしてるのか、ちょっと気になって」
その女の人は、如雨露でなにやら水をやっていた。地面には何も生えていないように見えるけれど――、いや違う。少しだけこいしが観察してみると、小さな芽が生えているではないか。
なんの芽なのかはわからない。こいしは、ふにゅんと首を傾げる。
「ご覧の通り水をやってるのだけど」
「なんの花なんですか?」
「これは、明日に咲く花よ」
「明日に咲く花? どんな花が咲くのかしら」
「さぁ」
「わかってるから水をやっているんじゃないの」
「咲いていないのに、どんな花が咲くかなんてわかるはずないじゃない」
「それもそうね」
こいしはぴょこんと頷いた。大きめの帽子がはずれそうになったので、手で位置を調節した。女の人はクスリと笑う。
「興味があるのかしら?」女の人は聞いた。
「興味が無いことは無視するわ」
「つまり興味があるってことね」
こいしは、それには応えず、そのまま中腰になって、芽を見つめる。小さな小さな芽。何の花が咲くのだろう。もしかしてこれは竹の花なんだろうか。
ものすごく長い時をかけて花を咲かせるという竹の花。
もしもその開花の瞬間に立ちあえるのなら、なにか素敵な感じがした。
「たぶん小鳥をグシャって潰す瞬間みたいに綺麗に花咲くのでしょうね?」
「そうなるようには願ってるけど。そうなるとは限らないわ」
「ねえ、明日見に来てもいい?」
「もともと今日という日も見に来てよいと誰かに許可されたわけじゃないでしょう」
「それもそうだね」こいしはニコっと笑った。「ねえ、あなた名前は?」
「蓬莱山輝夜」
「わたしはこいし」
ひとつ楽しみができたので、こいしは自分の名前を名乗ることにしたのだ。
次の日。
こいしはフラっと空を飛んではいたものの、昨日の出来事をきちんと覚えていた。既に輝夜の名前は忘却していたものの、明日に咲く花のことだけは、無意識のどこかに残留していたのだろう。脈絡のある行動はこいしにとっては非常に珍しい。だからこの行動は、サイコロの目がたまたま続けて同じ数が出るときのような偶然に過ぎない。
こいしは竹林に降り立った。
昨日とほぼ同じ時刻。
昼間だというのに、日の光はほとんど届かない。
ほとんど完璧に近い二十四時間という時間の経過である。輝夜が言った明日の定義がよくわからなかったので、最も確実であろう二十四時間の経過を待ったのだ。
「あらまた来たのね」
輝夜はこいしの姿を知覚して、たいした興味もなさそうに言葉を投げかけた。
こいしの存在を知覚できたのは、こいしが姿を能動的にあらわしたからだ。少しだけ自我が表にでてきているせいもあるかもしれない。なにかをしたいという希望は、自我のあらわれである。こいしは花が咲くところを見たかった。まだ見ぬ花に恋をしていた。一瞬だけ無意識の大海からこいしの自我が顔をあげる。
沈んでいた顔を海面に出し、わずかながらも他者とコミュニケーションを取ろうとする。こいしにとっては、無意識レベルであってもそれこそ逆に海の底に沈むような気持ちである。
ざわざわと、自我の表面を雑音が横切っていく。
興味?
あるいは不安?
あるいは戸惑い?
こいしは、そっと花に視線をやる。視線だけで壊してしまいそうだったから、ゆったりとした速度で。
「あれ?」こいしは驚きの声をあげた。「咲いてないよ?」
「そうね」
輝夜は気持ちを揺らがせることもなく、如雨露から水をやった。昨日とまったく同じ所作。昨日とまったく同じ動きだった。違うところといえば、わずかに表情に変化があるぐらいだろうか。肝心の芽のほうはというと、これもまったく昨日と同じだった。
「明日咲くって言ってたじゃない」
「そうよ」輝夜は如雨露の傾きを水平にして、こいしの方へと視線をやった。「明日に咲く花なの」
「ふぅん……ああ、そっか。この花は文字通り明日に咲く花なわけか」
「そうよ。賢いわね。明日は今日じゃないから、今日はこの花は咲かないわ」
「詭弁よ。ずっと咲かないんじゃないの?」
「ひとつの見方としては、それも正しいかもしれないわね。この花は別名、永遠に咲かない花といってもいいかもしれない。けど、それって哀しいじゃない」
「楽しい?」
永遠に咲かない花に水をやり続けて楽しいのか?
こいしの価値は楽しいか否か、つまり快楽原則の変形としての価値しかわからない。他は無意識的なコントロールによって補完されている。陵辱や殺害を意味の結果としてみることを嫌悪している。物語的な必然を切り捨てて、運命論的にそうなることを信じている。
ある人間がとある人間を好きで、しかしその人は誰か別の人を好いていて、だから殺したというような話は好まない。
『だから殺した』の『だから』の部分を好まない。
それよりもなんとなく入った温泉に偶然殺人鬼がいっしょに入って自分が殺されてしまうというようなシチュエーションを夢想する、そんな夢見る女の子なのである。
こいしは夢見る女の子。
明日に咲く花が見たくてたまらない。楽しいことが大好きだ。
「楽しくなければ生きていてはいけないのかしら? いいえ、楽しくなければ意味がないのかしら?」
「わたしは楽しいことが好きだけど、あなたは違うの?」
「楽しいことは好きよ。けど、そればっかりじゃ飽きちゃうでしょう?」
「ふうん。けど、変化がないのは退屈だわ」
こいしの表情こそまさに揺らぎがない。いつもと同じふわふわした微笑だ。
「確かに死の本質は変化がないことよね。私はいつだって死と戦ってるわ。変化のない退屈な日々とね」
輝夜は優雅に笑いをこぼした。袖のあたりで口元を覆う典雅な笑いだ。こいしは珍しいものを見るような眼差しになる。
「あなた死んでるの?」
こいしは輝夜の言わんとしていることがよくわからなかったが、想像と無意識で、ギャップを埋めた。
「死んでるわけじゃないけれど……、むしろ生きに生き続けているけれど、本質的な意味で、つまり変化がないという意味では死んでいるに等しい状況かもしれないわね。蓬莱の薬とは、停滞の薬。その瞬間において絶対的に固定される薬だから、わたしにはこれ以上の成長は望むべくもない」
「蓬莱の薬?」
「死ねない薬よ」
「ふぅん……」
ある種の夢想。
では、もしも死にいく瞬間の――断末魔の瞬間に蓬莱の薬を飲ませたらどうなるのだろう。
想像を絶する痛みにあえいでいる瞬間に飲ませたらどうなるのだろう。
あらゆる感覚機能を奪って、闇より深い闇に放り出して、そのうえで飲ませたらどうなるのだろう。
死にたい気分になるかもしれない。
けれど死ねない。
とても、残酷な、感じ。
「フフ……」
「あら、かわいらしい笑顔」と輝夜は軽い口調で言った。
「停滞を打ち破るために、あえて停滞している花を咲かせようとしてるわけね」
「そうよ。私は死にもしなければ生きることもかなわない。生きることって変化することなのよ。けど――、別の存在にそれを託すことはできる」
「花に託すの?」
「そう。別に変なことじゃないわ。例えば清少納言とか物語を書いてるじゃない。あの人ずいぶん前に死んでるけど、書いた物語は読まれ続けてるわけよね。それで、読まれることで相対的にその人自身も変化している。同じように、私もこの花という存在を通して、相対的になら変化することができる。そう思ってるの」
「もっと変わりやすいのを対象にすればいいのに」
「そうすると、私が変えたってことにならないじゃない」
「なにか物語でも書けばいいじゃないの。時間は無限にあるのでしょう?」
「気が向いたらそうするわ。とりあえず、今のわたしの興味はこの花を咲かせることにあるのよ。紙の無駄にもならないし」
「滑稽ね。けど素敵だわ」
無意味なことを意味あるものにしようとしている。
輝夜の行為はこいしが忌避する愛に近い。
けれど、こいしは物語のすべてを拒んでいるわけではない。こいしも時々は物語を肯定することがあるから。
例えば家族は仲良しが良いとか、姉妹は愛し合うほうが良いといった物語を少なからず信仰している部分がある。あらゆるイデオロギーが溶かされて崩壊してしまっているこいしの内心において、いつも中心から離れようとするけれど戻ってきてしまう重力の強い場所だ。
逃れられない。
愛は重力。
空を飛びたいのにね。
「あ」
「あ」
「あ?」
ふたつの声が一瞬重なったかに思えた。
遅れた声はこいしのものだ。こいしが声のしたほうをみてみると、竹林の向こう側から白髪の女の子がやってきていた。
「あら妹紅じゃない。直接顔をあわせたのは久しぶりね」
「ああそうだな」
妹紅と呼ばれた少女は、輝夜の顔を視認した瞬間に、怒気を膨らませていた。
それは偶然であった殺人鬼に似ている。ああ、この二人はたぶん恋人どうしなんだなとこいしは判断する。だとすると、たぶん殺し合いをするのだろう。こいしの勘は正しかった。
いくつかの言葉のやり取りのあと、輝夜と妹紅は弾幕ごっこもなんのその、本気の殺し合いを始めた。
あの優雅なお姫様に思えた輝夜も、必死の形相で手拳を繰り出している。対する妹紅も両の腕に火の玉を出して、あたりかまわず撃ちはじめた。
竹林は燃える。
パチパチパチ。
竹が割れる音。爆ぜる。爆ぜたところで火がまた燃え移る。
こいしは火にまかれたぐらいでは死にはしない。気配を殺してふたりの戦闘に加わることもない。
輝夜はおそらく許している。
妹紅のほうを明日に咲く花よりも大事に思っている。ある意味で妹紅との関わりのほうを重要視しているのだ。だから場所も変えず、殺し合いに身を興じている。あんなにも楽しそうに殺しあっている。
輝夜がそうであるように妹紅もおそらく死ねない人間なのだろう。
だとしたらこの殺人狂劇は膨大なエネルギーの消費であって、第三者から見れば何の意味も無い行為だ。
ただひたすらに何かの変化を求める行為。
生きることの確認作業。
いいなぁと思った。
仲良しは良いことだという物語を少しは信じている。
「わたしも誰かと殺しあいたいなぁ」
熱気にほだされたのか、こいしの頬に朱がさす。炎は既にとぐろを巻いている。どこからともなく現れた兎たちが必死に消火活動をしているが、そもそも火の元であるふたりの戦闘が終わらない限り、焼け石に水だ。
こいしは一本の薔薇をとりだした。
薔薇はこいしの妖力に感応して巨大化した。少しの間なら炎から護ってくれるだろう。薔薇を花の上にかぶせて、こいしは帽子の位置を調整する。
「死ねぇ死ね死ね死ね死ね死ね!」
「あああああああああああっ」
輝夜の腕が燃え落ちる。これを好機とばかりに妹紅がソバットを繰り出す。輝夜は残った片方の腕でそれを防ぎ、蓬莱の玉の枝からカラフルな弾幕を飛ばす。非殺傷どころの話ではない。妹紅の腹のあたりに命中したそれは、妹紅の内臓をことごとく焼き尽くした。
まだ死なない。否、死ねない。戦意も喪失していない。
ほとんど同時にリザレクションして、再び殺し合いを始めている。
ヒートアップしてきたのか、ふたりとも言語を喪失し、獣のような咆哮を発している。いつまで続くのだろう。
こいしにとっては狂気なんて見慣れたものだし、自分自身がそうだし、変化のない戦いなんてつまらないだけだ。
ふたりでいちゃいちゃしているのを横目で見ているのは、なんだか楽しくない。
「あー、お姉ちゃんとこに帰ろうかな」
けどその前に、明日に咲く花が、本当に咲くところを見てみたいと思った。たぶん輝夜が言ったとおり、この花は永遠に咲かないのだろうし、とりあえず客観的な意味で本当に明日に咲くわけではないのだろうけれども。
見たいと思ったのだ。
焼け落ちてしまえば、その可能性は無くなる。
だから――。
こいしは音もなく、気配もなく、あらゆる殺気もなく近づき、手刀で輝夜の首を刎ねた。
所詮は人間の肉体。妖怪の力の前では紙のように脆い。
もっとも、蓬莱人にとっては防御なんて意味のない概念だから、妖怪の驚異的な能力の前にあえて裸身を晒しているともいえる。
日本刀で斬りつけるよりもよく斬れた。
刹那の瞬間には首と胴体が泣き別れ。
首なしの胴体は糸の切れた人形のようにしばらくつったっていたが、バシュっと血が噴きだすと同時に地面に崩れ落ちた。
あっけにとられたのは妹紅だ。いきなり現れた少女に仇敵の首をとられたのだから、驚くのも無理はないだろう。
「お前、何者だ?」
荒かった息を整えて妹紅は聞いた。
「わたしはこいし。輝夜のお友達なの」
地面をボールのように転がっていった輝夜の首のところまで駆け出していって、その首を両の腕でかかえこんだ。
まるで人形を抱っこするみたいに。
「んー。こうしてみると、かわゆいね?」
口元からは血が流れ出していたが、偶然目を閉じていたのが幸いして、そこまで醜い顔ではなかった。むしろ生来の美しさからか、輝夜の首は蝋人形のように綺麗だ。
こいしは綺麗なものが好き。
だから、輝夜のほっぺたに軽くキスをする。これは私の物――という所有欲も少しは含まれているかもしれない。
「殺しあいしてるときにでしゃばると死ぬよ」
妹紅の怒りの炎はこいしに向けられていた。輝夜はまだ復活しない。
「ん。そうかもしれないわね。ごめんなさい」
思ったよりも素直な反応に妹紅は面食らう。
「ふたりの楽しい時間を奪ったから謝ってるのよ」
「ふん。だったら放っておいてもらえばよかったんだがな」
「だってあなたたちと違って、他の人は死ぬのよ?」
「派手にやってるのは誰かが止めようとするのを防ぐ意味もあるんだよ。こいつら狂ってやがる、勝手にさせとけって思わせとけば危険は逆に少ない」
「ふぅん。そうなんだ。でも植物だって生きてるのよ。植物は逃げられないでしょ」
「なるほどな。わたしの認識では植物は物に近かったんだ。あいつだってここがある程度壊れることはわかっていただろうしな」
「輝夜は許したよ。壊してもされてもいいって思っていたんじゃない?」
巨大化した薔薇を取り除き、再び元のサイズに戻す。
なんとかまだ焼け落ちてはいないようだ。妹紅も気になるのか確認しに寄ってきた。
「なんだそれ」
「明日に咲く花よ」
「明日に咲く花? あいつらしい中二病な名称だな」
「うるさいわねー」
背後から声がした。輝夜は復活していた。服も同時に復活するのがさりげなく便利だ。さすがにもう戦う気力はないらしい。妹紅がギロっと睨みつけるも、手の平をひらひらと振って戦闘意欲がないことを伝える。そうすると、妹紅のほうも驚くほど素直に従うのだ。
殺しあいはあくまでも二人の意思の合致に基づいているのである。
「これなんだよ?」と妹紅が再び聞いた。今度はこいしではなく輝夜に顔を向けていた。
「だから、こいしが言ったとおりよ。明日に咲く花」
「明日に咲く花? なによそれ」
「それくらい考えなさいよ」
「輝夜が大事にしてる花なの」こいしが言葉をつないだ。「れぞんでーとるなのよ」
「ずいぶんと難しい言葉を知ってるのね。最近のお子様は」と輝夜。
「れ、れぞんでーとるって何?」と妹紅。
「ググレカス」
「やっぱ死ね!」
「でも最近わかったこともあったわ」
再び戦闘に発展しそうなところに、こいしは割って入る。輝夜のほうへと視線を向けている。ちょっぴり熱い視線。恋する視線だ。
こいしは恋多き女の子。
ちょっとでも自分にないところがあれば、その概念を吸収したいと思ってしまう。
妖怪が人間を食べたくなる気持ちに似ている。
つまるところ所有欲。
「最近わかったこと?」
輝夜はこいしの心がつかめずに首をかしげた。
「無意味なことに意味を与えようとする信仰かな?」
咲かない花に意味はない。
結果が結実しない花に意味はない。
よしんば咲いたところで、大文字の他者にとっては何の意味もない。輝夜の行為は本当の意味でひっそりとおこなわれる芸術活動に似ている。誰にも知覚されず、こいしがもしも気づかれなければ、ひっそりと続けられて、いつかのときには妹紅との死闘で焼け落ちていたかもしれないのだ。
それでも輝夜は水を与えていた。
永遠に咲かないことを知っていながら、明日に咲くと信じていた。
それは単純に楽しいという感情を求めるよりは、ほんの少しだけ聖なる行為に思えたのである。人間はほんの少しだけ聖なる行為のために生きているのだ。
何をしようとしているのかわかっているのだろうか。
何をなしとげようとしているのかわかっているのだろうか。
自分という存在の意味が空と同義であると気づいている人はどれだけいるのだろう。
生の本質は無意味。意味で、物語で、すなわち愛で装飾しているのは、人の醜さ。
自分に嘘をついている。
生きていることは無意味だということに目を逸らして生きている。
その醜さと向き合おうとしたのは、人の信仰。無意味であってもいい。それでもそうする。楽しいからでもなく、義務感からでもなく、信じているからそうする。
意味があると信じる。信じることで意味が生まれる。
夢想。
夢を見る。
花開く夢。
瞳が開かれる夢。
つまりはそういう物語だ。
やっぱり、お姉ちゃんのところに帰ろう。
こいしは、ふたりに対してさよならも言わずに空を翔けた。
あと「消化活動」は誤字かな、と。
こういう物語も載っている懐の深さが、創想話の魅力の一つですよねぇ。
れぞんでーとる? うん、あれだよ、妹紅さん。
えーと……ほら! あの塩振って軽く炙ると最高に美味いヤツ!
陵辱も惨殺もこなす夢見る乙女なの!
可愛すぎますね 色色と。
この先も、きっとこいしは、こいしが顕れること無く、夢を見続けるのでしょう。儚いなぁ。
ああ、そんなこいしちゃんにいたずらしてぇ
作者さんは原作をやったことがあるのだろうか。
残念ながら人間である私には、その「明日」を迎えることは……どうでしょう
ちなみに明日を通り過ぎると そちらは「あさっての方向」ですが
明日の明日、なんて無意味なのかさえわかりませんね