Coolier - 新生・東方創想話

二人の日常

2010/05/15 10:57:55
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 月下の竹林、風に揺れる竹の葉のざわめきだけが夜の闇に響くその中、とある一角だけは真昼のように眩い光を放っていた。
 そこは不思議な場所だった。周りは竹が所狭しと生えているのにその部分だけが周りから抉り取られたように竹はおろか雑草一本とて生えていない。そしてその空間では二人の少女が対峙していた。
「いい加減に落ちなさいよ!」
「はっ、そう何度もくらってたまるか!」
 眩い光は二人が放つ美しき弾幕によるものだ。ただしこれは弾幕ごっこではない、純粋な殺し合いである。蓬莱山輝夜と藤原妹紅、二人は永遠の時を生きる蓬莱人であり、決して終わることのない殺し合いを続けるライバル同士でもある。
 輝夜が放つ美しい5色の弾丸、普段の弾幕ごっことは違いその一発一発に人間を殺傷して余りある破壊力を持っている。流れ弾が軽々と地面を抉り無数の穴を開けているところから、万一それが人間の身体にあたれば容易に風穴を開けるだけの威力があるであろうということは見て取れる。
 一方、妹紅はその危険極まりない弾幕にまるで怯むことなく、あろうことかそれらをかいくぐり輝夜の眼前に迫りつつあった。むろん放たれる無数の光を完全にかわしきることは難しく、身体には無数の怪我ができてはいたが、その眼光はまるで衰えることなく目の前の敵だけを見据えていた。
 針の穴をも通すかの精密な動きでほんのわずかな弾丸の隙間をかいくぐり、自らの間合いにもぐりこんだ妹紅は鳳凰の炎でできた火球を手のひらに作り出す、それは輝夜の放っていた五色の弾丸の比べれば派手さはない、しかしその白く発光する火球には触れた箇所から人間の身体を炭化させるには充分すぎる熱が込められている。
妹紅は掌に作り出した火球を輝夜に向けて放つ、完全に避けられない間合いまで詰めての一撃! 身体の中心めがけて放たれたその一撃は輝夜の心臓を容赦なく焼き払わんと彼女の目の前に迫りつつあった。しかし輝夜は余裕の笑みを崩さない、その違和感に妹紅が気づいた時にはすでに手遅れだった。
突如、輝夜の周囲を壮絶な業火が覆う、その炎は妹紅が放った炎を飲み込み、食い尽くしてしまった。『火鼠の皮衣』炎の中に住まう火鼠、その毛皮は炎の中にあっても決して燃えないとされる。その火鼠の皮衣の名を冠するスペルは炎を持って岩をも溶かすであろう妹紅の炎を完全に防ぎきっていた。
(ちぃ、毎度毎度厄介な技だよまったく)
 今まで幾度となく戦ってきた中で、炎を防ぐこのスペルに煮え湯を飲まされたことは数知れない。心の中で毒づく妹紅だったがすぐにそのような余裕はないことに気づく、自分が詰めた間合いは輝夜にとっても必殺の間合いであると言うことに。咄嗟に距離をとろうと間合いを離そうとするが輝夜はそれを容易く許すほど甘い相手ではなかった
 そして輝夜のほうも表情こそ笑みを浮かべているが殺す気で放った全力の自慢の難題をいとも容易く潜り込まれたのだ、その心中は決して穏やかではない。
(今度は絶対に逃がさない!)
 細く、眩い閃光の網が妹紅を取り囲み逃げ場を無くす。
(仏の御石の鉢!? しかしこれならかわせる!)
 今まで幾度となく殺しあった間柄、相手の技はわかっている。体勢、距離こそ厳しいものの今の状態でもその技ならば何とか避けれるはず……そう考えた一瞬の油断が妹紅の決定的な隙となった。
「なっ!?」
 妹紅を取り囲む光の網を突き破って飛来したのは先ほどかわした五色の弾丸だった。『仏の御石の鉢』と『龍の頸の玉』、二つのスペルの同時発動! 弾幕ごっこはルールのある遊びだ。一見どんな密度の高い回避が困難な弾幕と言えども避ける箇所を残す、それがルールでありその逃げ道の構成もスペルを作る者のセンスが問われる部位でもある。しかし今二人が行っているのは純然たる殺し合い、回避の余地をあえて残すような真似はする必要がないのだ。
(ちくしょう……)
 毒づこうにも言葉を語る口は最早ない。頭部は粉々に粉砕され、ピンク色の脳漿と白い頭蓋骨の欠片、そして真っ赤な鮮血を撒き散らしながら落下していく妹紅。
しかし輝夜はそんな彼女の様子を見下ろしながらもその目には一瞬の油断もない。輝夜の見ているその前で妹紅の身体は凄まじい炎に包まれ、失った身体部位、そして命が即座に再生される。
「うおおおおおお!」
 全身を自らの鮮血で染め上げた妹紅が吠える。炎はさらに激しさを増し、周囲一帯を焦熱地獄と化した。炎は上空で構えていた輝夜の元にも届き、その身を焼かんと襲い掛かる。その区画全域を覆いつくさんとするほどの炎に逃げ場はないと悟った輝夜は先ほど火球を防いだ時のように火鼠の皮衣を展開する。しかし今度は先ほどのように行かなかった。不死鳥の炎はまるで意思を持って輝夜の炎を食らい尽くすかのように火鼠の皮衣を侵食する。
(このままではやられる!)
 守りきることは不可能、そう判断した輝夜は即座に攻撃へと転ずる。
不死の蓬莱人といえどもその体力、精神力においては限度がある。輝夜自身も先ほどのスペル二重発動という荒技で相当に消耗しているものの、妹紅とてリザレクションとこの炎により消耗しているのは同じこと。ならば、と輝夜は勝敗を決するべく決定的な一撃を叩き込むべく最後の賭けに出る
 輝夜は展開している火鼠の皮衣を解除し、炎に身を焼かれながらも一つのスペルを展開する、『蓬莱の樹海』かつて妹紅の父、不比等が挑み、やぶれた難題『蓬莱の玉の枝』を昇華させた上級スペルであり、輝夜が最も自信持つスペルでもある。枝の一振りであっても荘厳たる美しさを誇る蓬莱の玉の枝を密集させたかのような難題は、見るものの目を釘付けにする美しさと、対峙するものに決定的な絶望を与えるに充分な迫力をも兼ね備えていた。
 一方、妹紅はというと輝夜が最後の賭けに出たと見るや否や炎を収めた。無論勝負を捨てたわけではない。相手が全ての力を攻めに回すと言うのであれば逃げ場を奪うような攻撃は必要ない、ただそれを迎え撃つことに全力を注ぐのみ、そう判断して発動させたのは一枚のスペル『フジヤマボルケイノ』しかし本来複数に分けて放つ炎をただ一つの火球に集中さる。妹紅の全精神力を注ぎ込んだそれは、最早小さな擬似太陽ともいえるほどの白熱の大火球と化していた。おそらくは太陽神の力を飲み込んだ地底の鴉であってもここまでの熱を作り出すことは容易ではないだろう。
「平伏しなさい、妹紅!」
「消し飛びやがれ輝夜ぁ!」
 二人の全精力をつぎ込んだ一撃同士のぶつかり合いは、竹林全体を眩い光で染め上げた!
 ……その後、二人が戦っていた竹林の一区画では先ほどまでの眩い光と凄まじいまでの破壊音はすっかりと鳴りを潜め静寂を取り戻していた、二人の姿はどこにも見当たらない。
 しかし姿が消えていたのもつかの間、彼女らが飲んだ蓬莱の薬は完全消滅した肉体をも消滅したその場に再生して見せた。
 とはいうものの、二人はうつ伏せに倒れたままピクリとも動かない、たとえ肉体がそこにあろうともその肉体を動かす気力、体力を使い果たしている以上は動けるはずもないのだ。
 しかしどちらからともなくかすかに見上げた瞳が互いの姿を見据えたその時、二人は動けぬはずの身体をよろよろと起き上がらせた。ふらつきながらも両の足で立ち上がった両者。しかし二人には最早粒弾一発作り出すだけの力も残ってはいない。
 だが彼女達は戦うことを投げ出さない、まともに動かぬ足を引きずり、互いが互いの距離を縮めていく。赤子に軽く指で突かれただけで倒れてしまいそうなほどのおぼつかない足取り、しかしその目に宿る眼光はただ鋭く、強い意志を持って目の前に立つ相手を捉えている。
 長い時間をかけて互いが互いの手の届く位置にまで歩み寄る。消耗しきった身体ではそこまで動けただけでも充分すぎるほどの奇跡、それを成し遂げさせたのは互いの「負けたくない」ただそれだけの意地……そしてその意地は上がらぬはずの腕を上げ、放てぬはずの拳を突き出す。
(妹紅、あんたなんかに……)
(輝夜、お前なんかに……)
「「負けてたまるかぁーーーッ!!!」」
 互いの拳が互いの顔面に叩き込まれ、そのまま崩れ落ちる二人の身体。これで本当にもうお仕舞い、奇跡は打ち止めである。


二人が意識を失い、深い眠りについたことを見届けるとこの戦いを見届けていた二人の女性が現れる。
「やれやれ、今回もまた随分と派手にやったわね。次からは結界の強度を上げないといけないかしらね?」
 二人が戦っていた区画の結界を解いて輝夜の元に歩み寄るのはかつて月の頭脳と呼ばれた輝夜の従者、八意永琳。
「いや、しかし毎度のこととはいえあれほどの戦いの余波を周囲に漏らさないとはたいしたものだ、感服するよ」
 一方もう一人の女性、上白沢慧音は妹紅の側まで歩み寄り、歴史ごと「隠して」いた周囲の竹林を引っ張り出す、すると二人が争っていた荒野のようでであった場所が元の竹林に戻り、先ほどの戦いがなかったかのような静かな情景を取り戻す。
 輝夜と妹紅が全力で殺しあう時には周囲にその余波が飛び火しないように、この二人の立会いと準備の下で行われることが常となっていた。
「じゃあ私はこれで……」
 自らの主人を背に背負い永琳は永遠亭へと踵を返す。
「ああ、私も失礼させてもらうよ」
 そして慧音は親友を背負い竹林の外れの一軒家へと戻っていった。
 大切な人の背で深い眠りについている輝夜と妹紅、二人の寝顔は先ほどまで壮絶な殺し合いを繰り広げていたとは思えないほどに穏やかな少女の顔であった……
しかしまあいくら蓬莱の薬といえども戦いの最中に消滅した衣類の類は再生できないと言うわけで……。
「さて、今日は姫様にどんな衣装を着せようかしら? ゴシックロリータ? ミニスカメイド? ああ、先日香霖堂で仕入れた腋巫女服もあったわね。役得♪ 役得♪」
「あ、師匠、戻っていたんですか? 少し薬の調合のことで聞きたいことが……」
「……ミ・タ・ナ?」
「ひぃ!? 何も見てないです!」


「妹紅~! 心配したんだぞぉー!」
「け、慧音、こんなのいつものことだろう? だから抱きつくな!」
「そんなこといっても私は……私は……もう辛抱たまら~ん!」
「だから抱きつくなって! それになんでそんなところをさわ……ひゃん!?」


 
*誤字及び後書きの一部修正いたしました。ご指摘ありがとうございます。
T・ノワール
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コメント



0.190簡易評価
4.60コチドリ削除
ほぼ戦闘描写のみで、一本の物語を書こうとされた作者様の心意気は
買いたいのですが、作品の内容自体はフツー、としか言えないかなぁ。

それと、後書きの最後の一文にはちょっと首を傾げてしまうかな。
貴女は思いつきで書いた、ただそれだけの作品を投稿したのか? 
みたいな誤解を受けるのではないかと。
6.70名前が無い程度の能力削除
本編がハード、後書きがほのぼの(ラブラブ?)という落差が良い