Coolier - 新生・東方創想話

其来(それから) ~ 豊かさと稔りの象徴の場合

2010/05/15 06:26:44
最終更新
サイズ
54.76KB
ページ数
1
閲覧数
1340
評価数
3/12
POINT
570
Rate
9.15

分類タグ


豊かさと稔りの象徴の、普通の魔法使いに出会った後のお話。


◇◇◇◇◇◇


 私が目を覚ました時、姉の静葉はすでに私の傍らに佇んでいた。姉は秋空を見上げていたので、私も姉にならって空を見上げた。

 近頃の空は、高く遠くにあるようだった。どこまで見上げても底の見えない空は、虚ろに見えた。それでも私は、その底の底に焦点を定めるようにして、凝(じっ)と空を見つめた。するとふいに、自分がごく弱い力だけで天井に貼り付いているだけのように思われた。地を掴む掌からは、確りとした土の感触を受けるのに、まるで今にもこの身が重力の影響を受けて、奈落の底へと逆しまに落ちる予感がした。
 私は急激に背筋の縮むような気分に襲われて、右手を発条(ばね)のように跳ねさせた。掌には冷たい汗と共に、長細の枯葉が幾枚も握り込まれた。枯葉は無惨なほど、くしゃくしゃに潰れた。

 草の毟られる音に気付いたものか、姉が私のほうへ顔を向けた。それでも何をしようという素振りも見せないので、私もまた、起き上がらずに居た。そうして額に少し冷や汗を滲ませたまま、背筋の凍ったのが融けるのを待った。戦慄は直ぐに去って、私はまた微睡(まどろみ)に似た落ち着きを得た。固く握られた右手も力を無くし、掌から枯葉の残骸が数枚落ちた。姉は少しばかり首を傾げてみせ、再び空の彼方へと目を移した。

 私の視界には、相変わらず遠い秋空が映っていた。空には、橙色の小さな太陽が所在無げにしていた。視界の上のほうから、妖怪の山の頂だけが私を覗いた。普段は昂然(こうぜん)として幻想郷を見下ろす天道や、荘厳な構えをして近寄り難い霊山も、こう申し訳程度ではまるで間抜けのように見えた。また時折、蚊帳吊草(かやつりぐさ)だの狗尾草(えのころぐさ)だのが視界の隅から顔を出したが、これはやや気分が悪かった。私には、事あるごとに私を覗き込むそれらが、ご機嫌窺いのようで余所余所しく見えたのである。
 見え隠れする高草に合わせて、風の音ばかりが私の耳に届いた。生い茂る高草をかき分ける風の音は、果敢無げに歩む跫(あしおと)のように聞こえた。遮るものの無い空を往く風の音は、寂しげに吐く溜息のように聞こえた。風の音は、いちいち私の胸の内を吹き抜けて、瘧(おこり)のように心を震わした。

 ややあって風も凪ぐと、今度は耳に届かない音がした。形の無い音は、秋の気配に違いなかった。視界に在る太陽は、ここぞとばかりに大きく膨らみ、私達の居る野原に橙色の光線を吐いた。そうして辺りに生える野草が、とろとろとした光線を呑んでいる気がした。私は胡乱(うろん)な頭で、この橙色の光線が秋の紅葉をもたらすのだと思った。すると何だか、この確りとした地面さえ、呑み残した光線を吸い込んで、みしみしと音を立てながら動き出すように錯覚された。

 私は、そうした妄念に囚われるほど疲れていた。それには先程起きた、面倒事からくる肉体的な消耗もある。けれど私は、疲労よりむしろ倦怠と呼ぶべき精神の鈍さを、より強く感じていた。
 ここ最近は、秋が厭(いや)なものに見えた。我ながら秋神として有るまじき事と思うけれど、幾ら考えても、いやむしろ考えれば考える程、秋が禍事(まがごと)であるようにしか捉えられないのだ。

 例えばこの遠い空である。天高く馬肥ゆる秋というけれど、人間が作物の収穫に励み、石高(こくだか)に一喜一憂する頃、何故空はこうも高く、遠くなるのか。
 天井の無い空には、神々さえ居ないように見える。私でさえそうなのだから、人間などは殊更そう感じるのに違いない。事実人間達は、収穫祭が近付く頃を神無月と呼んでいる。元は神嘗月(かんなめづき)、つまり新嘗(にいなめ)の準備の頃を意味するのだが、この空を見上げてしまっては、皮肉に感じるのも詮無い事であろう。豊穣を司る私としては、甚だ遺憾ではあるが、今では私もそうとしか見えないのだ。

 また例えば、のろのろとした橙色の日光や、寂寞とした風の音に垣間見える、秋の気配である。私は豊かさと稔りの象徴であるから、そうした気配に冬の訪れを予感して、まず人間の里の収穫や備蓄の具合を気に掛けるのだ。とはいえ昨今では、不作に見舞われる事も無くて久しい。収穫祭も、例季執り行なわれている。今の人間の里で、食うに困る事などまず無いだろう。
 だからというわけではないのだが、私は最近里を思うたび、人間は自分達を蔑(ないがし)ろにしているのではないか、と懸念する事がしばしばあった。昔を偲ぶわけでは無いのだが、それでもかつては私達への信仰も、確かなものであったように思う。祈穀祭(きこくさい)や御田植祭(おたうえさい)も執り行なわれ、その度毎に私達は篤く信仰されていたのである。
 ところが最近では、私が収穫祭に呼ばれる程度である。それは豊穣祈願では決して無い。刈入れの過ぎた後に呼ばれるというのは、畢竟(ひっきょう)私達に結果だけを見せ付けて、豊穣の神の神徳を軽んじているのではなかろうか、とさえ思うのだ。

 私とて、そう捻(ひね)くれた考えは厭(いや)なのである。私も秋神としての自負がある。秋は私達の季節なのだと、誇らし気に思いたいのだ。けれど私はある悩みから、そうした考えばかり持つようになった。私は始終、煩悶とした。いつしか私は、叶うことなら神無月の謂われの通り、この地を去ってしまいたい、とさえ思うようになっていた。
 そうした考えは、私の胸にいつも紅葉の燃え立つような鮮やかさを与えた。けれど決まって、枯木のような虚しさと落ち葉のような蟠(わだかま)りが残り、どうしてもそれを蹴散らして、前へ進むことができないのである。その時私の心の片隅には、必ず誰かが佇んでいる気がした。私は果敢無いその人を胸の内で認め、私を映すその瞳を心の内で捉えて、ただ煩悶とし、倦怠感を募らせるばかりなのだ。


 焼き立ての美味しそうな香りがするね、という声がした。焼き立て、という言葉に反応して声のほうを向くと、姉が屈んで私を見ていた。にこにことして悪びれない表情に、皮肉や冗談といった色は伺えなかった。姉はどこまでも自然に、姉然とした表情で私を見ていた。どうやら姉は真面目に、そんな疑問とも同意とも付かない発言をしたらしい。
 私はすっかり毒気を抜かれて、ようやく体を起こす気になった。上半身だけを起こしてみると、葹(おなもみ)やら栴檀草(せんだんぐさ)の種が背中から剥がれて、ぱらぱらと音を立てた。足を起こして立ち上がる際にも、寄る辺を失った秋の種の剥がれる音は続いた。私は居住まいを正し、袖や前掛けを叩いた。姉は私の後ろに立って、種を取ってくれた。

「お洋服を洗うしか、仕様が無いわ」

 姉の掌には、縮笹(ちぢみざさ)や盗人萩(ぬすびとはぎ)の小さくぺたぺたとした種が、幾らも添えられていた。私の衣服にはまだ沢山の種が、傷や汚れと一緒に絡まっているらしい。思わぬ事で秋の洗礼を受けたものだ。私は姉と共に、ただ苦笑した。

 そうした姉の姿は、私よりも一段と秋そのものであった。楓の前差しをして、紅葉色の衣装をまとい、茜色のぼかし染めのスカアトを穿いていた。ただ、常よりは幾分かくすんだ色をしており、至るところにほつれや焦げがあった。けれどその理由は、私にもよく解っていた。姉は私の視線が気まずいのか、はにかみ顔をして、痒くもない靨(えくぼ)を掻いていた。


 つい先程の話である。閉山を前に、私達は妖怪の山を訪れていた。そこから麓(ふもと)へ下ったところで魔法使いに出会い、二柱(ふたり)揃って打ち負かされたのである。

 私達は、秋になると決まって、紅葉や稔りの具合を確認しに各所を巡っていた。それはある意味で、私達の生業(なりわい)だった。人間を始めとする動物は、美しい紅葉を見、豊かな稔りを得て、秋を感じる。それが私達の信仰となるのである。今日もそうして妖怪の山を巡り、まだ日も高かったので麓(ふもと)から霧の湖を一周する予定だった。
 先にその気配に気付いたのは、姉であった。困った木枯らしが来る、そう言って里の方へ向かったのである。霧の湖を巡る約束もあり、私は二度手間になるのも厭(いや)で、姉が戻るのをここで待った。
 里の方角で幾らかの光線と火花が散った時、私は姉に何事かあったに違いないと思った。ややあって、誰かがこちらへやって来るのが見えた。案の定、それは姉ではなかった。
 それは大きな三角帽を被った、黒白の魔法使いであった。といっても、彼女は捨虫の法も済ませていない人間であった。種族としての魔法使いは一種独特の雰囲気があるので、私にはそれが一目で判断できた。そして恐らくは姉にもそれが判り、入山を止めようとしたのだろう。というのも、今季の山は、少しばかり事情が違っていたのである。だのにこんな場所をうろつく人間は、莫迦か野次馬のどちらかに違いなかった。
 そもそも妖怪の山は人間にとって危険な場所である。特に閉山を迎える頃は、妖怪共も冬支度で気が荒く、山の神も多忙で、人間に構う余裕など無いのである。そこへ人間が邪魔しようものなら、最悪里を巻き込む一大事になりかねない。薮蛇(やぶへび)になる前に帰らせたほうが良いことは、子供にも判る理屈であった。

 それにしても木枯らしとは、姉も中々詩的に評したものである。成程私にもその人間は、秋口に吹く向かい風程度に飄々(ひょうひょう)として見えた。けれど私は、木枯らしと言われて山の天狗のようなものを想像したので、まさか人間とは思わなかった。だから私には、その人間がそこまで物凄い者のように見えなかったのである。ところがいざ決闘の段になって、私は姉の鑑定眼の鋭さに、全く驚かされることとなった。
 目の前の魔法使いは、まさしく姉の言う通りの者であった。決闘開始と共に、私は厭(いや)という程痛いレーザーで焼かれた。挙句、緊急回避のスペルカードさえ霊撃でばんばん落とされたのである。決闘どころの話ではない。まるで恐るべき烈風のごとく、私の何もかもを根こそぎにして去って行った。成程それは、困った木枯らしというより他に言い様がなかった。

 かくして焼き芋の気持ちを十二分に味わった私は、姉も恐らく落ち葉焚きの気持ちを十二分に味わったのだろうと思い、秋の枯野に身を委ねたのである。


 煤だらけの姉は私に先立ち、午(うま)の方にある人間の里へと足を向けた。しかし霧の湖はここから坤(ひつじさる)の方角である。私は不思議に思って、どこへ向かうのかを姉に尋ねた。姉は首だけを振り向かせて、今日は疲れたから帰りましょう、と言った。
 姉は私と違い真面目な質なので、その言葉は少なからず私に驚きを与えた。けれど、その事も無げな口調に、私もまた、それもそうだなと納得した。私は姉に連れられるようにして、人間の里へと帰った。


◇◇◇◇◇◇


 私達は随分昔から、人間の里に住んでいた。切っ掛けは里のとある百姓家からの勧めであった。特にその家の主は畑仕事に熱心で、私達を篤く信仰していた。彼は豊穣や紅葉を司る私達を、是非この里へ迎え入れたいと申し出た。そうして終いには、私達をこの小さな祠へ祀り上げてしまったのである。今は彼の百姓家も代替わりを連ねて久しく、相当な家柄となったらしい。私には当時の彼ばかり印象に残っていたので、現在の子孫がどういった人間なのかはよく知らないでいた。
 そして今では、私達にとっても、この祠が一番の拠り所である。里には至る所に祠や石碑があり、里を隔てて反対側にも、もう少し大きめの御社が建てられている。けれども私達は、好んでこの祠に宿っていた。

 祠は里の乾(いぬい)の方にあって、小高い丘から田園を見渡すように建っていた。祠のそばには一本の立派な楓があって、この時期になると丘を茜色に染め上げ、沢山の落ち葉を敷いた。それだけで祠のある丘は、夕日のようになった。
 祠から見える田園は、夏場には青葉が軽やかに波打ち、秋口にはそれが黄金色の穂を付けて、海原のように力強く畝(うね)った。今の時期は刈入れも済んで、歯脱けのような寂しい地面をしている。けれどそれもまた情緒ある風景なのだった。ここの圃場(ぼじょう)は昔からあまり形を変えないので、畦(あぜ)が面白い形に拗(ねじ)くれていた。丸いような角ばったような不思議な田圃は、人間の里本来の、長閑(のどか)と安穏(あんのん)を物語っていた。
 その向こうには、人間の里の中心街が小さくまとまっていた。窮屈そうなそこには、幻想郷の殆どの人間が身を寄せ合って暮らしていた。そこからは度々、子供の燥(はしゃ)ぐ喜び声や、老人のがなる怒り声、誰某(だれそれ)の死を悼む哀しみ声や、誰某(だれそれ)が子を成したという楽しみ声などが聞こえた。そうして特別な何かが無くとも、人間の生活する雰囲気が、終始ざわざわとして届いた。小さくまとまった里は、それ自体が一つの生き物のように溌剌(はつらつ)としていた。

「茸がお供えしてあるわ」

 姉の言葉に目を遣ると、確かに祠の前には占地(しめじ)だの木耳(きくらげ)、滑子(なめこ)といった、じめじめしたものが籠にこんもりとしていた。食用茸に混じって紅天狗茸(べにてんぐだけ)も一本入っていたが、籠と一緒に硬貨が一枚置いてあったので、それも含めて供物に違いないようだった。いずれも長く日に当たったため、少しばかり乾いていた。その具合からすると、私達が山へ向かった後に供えられたものらしい。
 秋の稔りを祈願するために参拝客が来るのは、実際珍しい事であった。私達秋神を祀った御社はそちこちに在るが、この祠は里の中心から一番遠く、稀に近場の一軒家の老人が、田を打ちがてら覗きに来る程度であった。といって信仰が無いわけではなく、里の人間の殆どは、巽(たつみ)の方にある御社に参拝するのが常であった。
 そのうえで、この供物は更に珍しく私の目に映った。秋の稔りを捧げて供物とするのは普通ではあるけれど、茸しかない。里にも椎茸農家はあるが、それにしては自然に生えた茸ばかりである。加えて紅天狗茸(べにてんぐだけ)を添えたところなど、私はこれが素人の仕業では有り得ないと思い、にやりとした。こんな豊作祈願であれば、是非とも叶えてやりたいように思った。
 私はそれを、今晩にでも茸汁にして頂戴しようと提案した。姉は鹿爪(しかつめ)らしい顔をして、毒茸は厭(いや)だわ、と言った。姉にも茸の知識は多少あったが、残念ながら紅天狗茸(べにてんぐだけ)の旨さを知らない素人であった。私は姉に口先だけの了解をして、鍋には全ての茸を入れるつもりで居た。


 私は汚れた衣服を着替えてから、祠の外で茸汁の準備に取り掛かった。神として在る私達は、そのために食事を摂る必要はない。けれど信仰の形として、こうした食材を供えられた折に、私達は必ず調理して食うことにしていた。それは食材を通して信仰を得るための意味もあり、また食材に対する敬意もあった。
 その際には姉も、よく落ち葉焚きをして、煮炊きを助けた。姉が言うには、それも秋の紅葉に対する敬意なのだそうだ。落ち葉焚きは秋の情景の一つなので、紅葉の神格が上がるものらしい。直接的な私の場合とは違うので、私にはいまいち呑み込めなかった。

 ただ今日は、姉が私を手伝うことはなかった。争い事を好まない質の姉は、先の騒動で酷く疲れたと見えて、着替えるなり祠に宿って寝てしまった。私はその方が都合良かったので、姉をそのままにした。
 幸いこの丘には、落ち葉も枯れ枝も十分にあるので、煮炊きには困らなかった。私はまず竃(かまど)を準備して、その上に土鍋を据えた。竃(かまど)は楓の木の裏手にある、盛土を抉(えぐ)った簡素なものである。土鍋は本来土器として拵(こしら)えたものだが、繰り返し鍋物に用いたところ、いつの間にか火に強くなってしまった変種である。またそれは土器としても土鍋としても長く愛用したので、色々な味が器に染み込んでいた。だからそれで煮炊きをすると、器から出汁が滲んで、煮物が何とも言えない豊かな味わいになるのだった。
 土鍋には先程の茸を入れた。紅天狗茸(べにてんぐだけ)は判らないように、小さく千切って鍋の底のほうに隠した。そうして汲み置きの水を半分くらい張って、桧(ひのき)の蓋をした。蓋は土鍋の口より幾分小さく、茸と一緒にぷかぷか浮いた。後は火を炊いて、放っておけば旨くなるのである。

 祠には古い燧石(ひうちいし)があったので、それで火種を点けた。誰が置いたものかは知らないが、燧石(ひうちいし)は厄除けにも用いられるので、これもそうした意図で置かれたのだろう。細い枯れ枝を添えた黒曜石に刃金(はがね)を当てると、ぢん、ぢんという鋭い音を立てて、火花が散った。その時私は、姉が今日に限って落ち葉焚きを手伝わなかったのを、やはり先の騒動で厭(いや)な思いをしたからに違いないと思った。火種はすぐに点いて、竃(かまど)の落ち葉を良く燃やした。

 茸汁のできるまで時間があったけれど、火の元から離れるわけにもいかないので、私はぼんやりと里のほうを眺めて座っていた。そうして気付けば、歯脱けのような田圃のそこかしこに幟(のぼり)がはためいていた。恐らく私達が山へ行った後に、里の人間の手によって立てられたのだろう。
 幟(のぼり)には「幻想之郷新嘗神事祭禮」としてあった。一字一字が筆を垂らしてきちりと四角に書いたような、良く言えば古式床しい字面をしていた。小篆(しょうてん)と呼ばれる書体である。古式過ぎて私にも正確に読めないが、大方そうした漢字が宛ててあるのだろう。その他には「献幻想之郷稲田御子神」などとしてある幟(のぼり)も見えた。これに至って、私は閉口せざるを得なかった。

 ひやりとする風が吹き始めた。黄昏とまではいかないにせよ、日はもう暮れ始めていた。この頃は夜になると随分冷える。申(さる)の刻も過ぎれば、気候の方も夜の準備を始める。秋の日の釣瓶落としの通り、夜になるのは早い。
 そうして明日が来て、また夜が来て、秋の日は過ぎて行く。冬になる前には、収穫祭も例季通り執り行なわれるだろう。作物は今季も豊かに稔ったのである。だからこそ、こうして幟(のぼり)が立っているのだ。

 ぽつりと、雫の打つ波紋のようなざわめきが、私の胸中を渡った。私は呆とする時間のなかで、かの妄念に再び取り憑かれる心地を覚えた。
 幟(のぼり)のばたばたと騒ぎ立てる音が、私を嘲(あざけ)ていた。里のざわついた気配が、私を貶(けな)していた。そう思うと私には、もう何もかもが厭(いや)なものにしか見えなくなった。一刻前には平気で居られたことにさえ、私は目を潰して耳を裂いて、胸が破れるほど叫びながら遁走(とんそう)してしまいたくなった。

 私の眼前には、ある小さな問題が転がっていた。それは私の心を倦怠させるべく置かれたような問題であった。それは刻一刻と私に近付き、もうすぐ足下にころりと転がるものであった。そして私は、それをどうしても除けられず、きっと蹴躓(けつまず)いて、よろよろと心をさ迷わせる愚図(ぐず)であった。
 聞く者が聞けば、まるで莫迦のような問題かも知れないが、私は数日後に迫る人間の里の収穫祭が、酷く厭(いや)なのである。とはいえ私は里も人間も嫌いではなく、収穫祭自体、呼ばれる分には喜ぶのである。ただ、例季執り行なわれる収穫祭は、私ばかりが呼ばれるのだ。
 私にはそれが、どうしても得心いかないのだ。姉の呼ばれないのが、どうしても納得できないのだ。そして姉の、どこか達観した者のように収穫祭へ参加しようとしないのも、私には厭(いや)で厭(いや)で仕様が無いのである。


 人間が私達を信仰し始めた最初の頃、収穫祭へは姉も一緒に参加していた事を覚えている。初めて呼ばれた収穫祭の記憶は、未だ鮮明である。
 姉は里の男衆に酒を勧められるのを、止せば良いのにごくごく飲んで、紅葉よりもなお紅くなり昏倒していた。男衆はその後大変慌てて、里の女衆にしこたま絞られていた。私は意に介さず芋ばかりむしゃむしゃ食って、子供衆の注目を浴びていた。ことに老人衆の拵(こしら)える芋料理が大変旨く、私は里の芋の備蓄を食い尽くさん勢いで料理を平らげ、皆を大いに驚かした。
 老若男女、人も神も皆楽しい一時を過ごしたことを、鮮明に記憶している。その後も毎季、姉妹揃って参加していたはずである。

 姉はいつからか、収穫祭に参加しなくなった。その頃には確かに姉も呼ばれたはずなのだが、姉は頑として参加しなかった。切っ掛けが何であったかは、今も解らない。けれど、別段姉に拗(す)ねた処もなかったので、収穫祭を嫌っているわけでは無いようだった。だから私も、つい姉に問い質すこともせず、次は参加するだろう、また次は参加するだろうと、受け身になって過ごしたのである。

 けれどもその数季後、里からの招待はついに私にだけ宛てられるようになった。その季の収穫祭で、私は里の老人に事の次第を尋ねた。楽しげに執り行なわれる収穫祭に水を差す訳にもいかないので、宴も酣となった頃合いに、少し遠目に席を移して、よく見知った顔の老人を見付けて聞いたのである。
 彼は祠の近くの一軒家に住む老人であった(余談だが、現在住んでいるのはその老人の息子にあたる)。彼は少し困った顔をして、若え奴等は気が早えで、中々御出で下さらん姉神様に、いよいよ業を煮やしたに違えあるめえ、と言った。姉を呼ばないのは祭礼としても間違っていたが、呼んでも姉は来なかったので、私もそれ以上何も言えなかった。その夜私が祠に戻った時には、姉は既に寝息を立てていた。

 それぎり私は、結局姉にも里の人間にもはっきりと談判できず、徒(いたずら)に時間を過ごしたのである。私の煩悶は季を経るにつれて膨らみ、大変な重荷となって私の精神を苦しくさせた──今ではもう、その重荷も私の精神も、瓦解寸前にまで来ている。


 私は、里の人間が姉を招待せず、姉が収穫祭に参加しないのが、大変に心苦しかった。単に私だけが美味しい思いをしている後ろめたさとか、私だけが里の面倒を見なければならない責任とか、そうした自分本位の考えだけでは決してない。それは取りも直さず、第一に認められるべき姉の神徳が、里の人間に理解されていないのだ、という懸念から来る心苦しさであった。

 私は豊かさと稔りの象徴だが、神徳においても全くその通りである。植物は春に芽吹き、夏に繁り、そうして秋に結実して撓(たわ)わに実を付ける。私の領分は、そこまでである。穀物も果実も、ただ瑞々しく青々とした肉を付けるだけだ。実を成熟させるのは、姉の領分なのだ。
 姉は寂しさと終焉の象徴などと言われるが、人間にとって重要な姉の神徳は、その過程にこそある。紅葉や枯葉は、姉を象徴する最たる例だが、紅葉とはそもそも葉中の糖分が日光の……いや、細かい話はどうでも良い。つまり紅葉は、葉が成熟した姿なのだ。そうした姉の神徳は紅葉に限らず、穀物も果実も同様に授かるのである。人間は熟れた作物を食料にするが、それには姉の、植物を成熟させる力こそが重要なのだ。

 だからこそ、人間に感謝されるべきは私よりも、むしろ姉である。姉こそ、人間にとっての豊穣神なのだ。私はただ、植物の実を大きく太らせるだけだ。それは本来、植物にとっての益でしかない。植物は、次代への足掛かりとなる種さえ確りとしていれば、また春に芽吹き、夏に繁り、秋に結実できる。あえて熟成させる意味は無い。あるとすれば、種を遠くへ運ぶため、鳥獣に食わせる目的くらいのものだ。それにしたって、植物を食って生命を永らえる鳥獣のほうが益なのだ。第一、種を遠くに運ぶなら、蒲公英(たんぽぽ)のように直接飛ばせば良い。植物には、人間やその他動物を養う義理など無い。だから私の神徳だけでは、人間の信仰を受けるに値しないのだ。私は秋静葉という姉神が居て初めて、人間の信仰を受けるに値する神なのだ。

 それだのに私には、姉が自身の神徳を認めていないように見えた。そして里の人間も、姉を正当に評価していないように見えた。私には、姉の態度が卑屈に見えてならなかった。人間の態度が無知に見えてならなかった。姉は既に、人間の信仰から遠ざかってしまったように見えた。
 信仰が得られなければ、私達の存在は無いも同然である。いや、存在すべきではないのである。だからそれは姉の、卑屈から来る自棄(やけ)にしか見えなかった。


「お鍋が噴いているわ」

 突然の声に、私は我に返った。振り返ると、姉が鍋の蓋をつまんで中を覗いていた。唇を舐める姉の表情は、悪戯をする子供のように無垢であった。姉の足下には、小さな石がころりと転がっていた。


◇◇◇◇◇◇


 竃(かまど)の火はもう尽きていたけれど、鍋からは今もほくほくと湯気が立っていた。日も暮れて少し肌寒かったので、姉と私は寄り添って茸汁を食うことにした。汁は程良い分量まで減って、十分の濃さの出汁になっていた。それをぐるぐると絡め、二柱(ふたり)の椀によそった。
 姉は茸汁を絶賛した。よく蒸し上げられた茸は歯応えが良く、噛めば旨味のある汁が、口の中で秋桜(こすもす)の開花のようにぱっと広がる。その汁がまた、爽やかな秋の日和にも似て、舌と喉を優しく包み、後へ引かず潔い。噛めば噛む程味わい深く、飲み下すのさえ惜しく感じる。けれど出汁と調和した茸の喉越しにも、秋風に揺れる木立ちのような、果敢無くも鮮烈な刺激があり云々。姉の感想は大概見当違いな詩的表現で間怠(まだる)っこしいので、結局旨いのか旨くないのかよく解らない。なので私は日頃から、そうした姉の念仏を聞き流すことにしていた。
 そうでなくとも今の私には、姉がさも旨そうに食う茸汁を、旨いと感じ得なかった。出汁の味は、泥水のように重たかった。茸の歯応えは、砂を噛むように不快であった。幾ら噛んでも、幾ら飲み下しても、姉とはまるで正反対の心地がしたので、私は一杯目の茸汁を半分程口に運んだところで箸を置いた。私は明らかに、別の何かに囚われて、食事に集中できなかったのである。

 姉は口をもぐもぐと動かしながら、不思議そうに私の顔を見た。私はその姉の顔を見た途端──どろどろとした茸汁が、私の精神を汚して、そこから先程の妄念がぶり返し、襟首を掴んで揺さぶるように、私の精神をもみくちゃにして、私の内の何かが、ばらばらと、がらがらと崩れて──

「姉さん、今季の収穫祭は如何なさって」

 私の声に似た、音が聞こえた。それは私の姿をしたものから発せられた、まるで無意識に抜け出たような音だった。当の私は、ごく冷静に現状を把握していた。いや、正確には感情に邪魔されず状況を眺めていた、と言うべきか。私には思考だけが残り、その他全部を体ごと姉の横に据えて、硝子(がらす)越しに第三者たる私の体を見ている。そんな冷静さで、私の思考は私の体と姉を見ていた。
 姉はその言葉に一瞬、目を丸くした。そうして何事か考える顔をして口内のものを飲み下し、たった一言、御免なさいね、と言った。

 それは化学反応のように劇的であった。私の思考は、私の体が電気に打たれたように、びくり、と立ち上がり、姉を恫喝するのを見た。痛いくらいに体中を硬ばらせて、ぶるぶると震えながら姉を罵倒するのを見た。姉は何が起きたのか解らない顔をした。傍から見る私の思考にも、私の体が何をしているのか解らなかった。
 私の体はなおも、姉を悪し様に罵り続けた。終いには罵りなのか叫びなのか嗚咽なのか判然としなくなったが、私の体から発せられるその音は、明らかに姉に叩き付けるためのものであった。私の思考は、私の体を止める手立てを持っていなかった。感情に邪魔されない私の思考は、感情の命ずるまま動く私の体を眺めるだけの、傍観者であった。私の思考と姉の前には、口も裂けんばかりに醜く歪んだ顔の、般若が居た。

 そこで私の思考はぼんやりと浮いてしまったように思う。断片的に、妬みの色で黒く染まった景色や、怒りの色で赤く染まった景色を見た気もする。私の思考が私の体に戻ったのは、それから数刻経った頃であった。

 私はまず、ここが何処で今が何時かを判断するより前に、ああしまった、と思った。そうして両手で顔を覆い、その場に頽(くずお)れた。掌に覆われた視界は黒く、目頭を強く押さえると、眼球に走る血潮の赤が混じって見えた。それは私の心の塊なのだと思った。
 べたべたに濡れた掌を凝(じっ)と見つめていると、掌は次第に霞んで、その上にまた新たな雫がいくつも滴った。いくら目を拭っても、いくら雫を払っても、掌はいつまでも乾かなかった。私にはもう何も見えなくなってしまった。そしてそうならば、もう何も見なくても良いとも、何も見たくないとも思った。そうしてその場に蹲(うずく)まり、掌を濡らし続けた。


 黒と赤だけの私の視界が、薄く白み掛かるのに気付いた。顔を上げると、小高い山の向こうから、一筋の朝日が目映(まばゆ)く見えた。辺りは朝靄(あさもや)に包まれて、天界の雲のようであった。
 すわ神無月の謂われの通り、私も神々の住まう土地へ至ったかと焦ったが、よくよく見れば山には博麗神社が見えるし、靄(もや)の合間には見知った田畑もあったので、ここがまだ人間の里である事が判り、ほっとした。

 そうして私は、一瞬前のほっとした私を、救い難い莫迦だと思った。

 私は今まで、何を考えて過ごしてきた。私はそうして、姉に何をした。私はここに至り、何故安堵した。姉が卑屈だから、人間が無知だから、そこで私は何を為(な)した。ただ心を鬱屈させて、苛立ちを募らせて、敬うべき姉に穢らわしい呪詛をぶち撒けただけだ。私は莫迦だ、救い難い大莫迦者だ。

 私の震える掌は、知らず真向かいの杉の幹を掴んでいた。私の頭は、きっと膿んでいる。きっと気触(かぶ)れている。だからそんな、むずむずして擬(もど)かしく頭を狂わせて、人前に頭垢(ふけ)を掻き散らすような、恥を恥とも思わない行為に及んだのだ。そう思うや否や、私は落涙して叫んだ。そうして体ごと大振りに、私の頭へと杉の大木の一撃を与えた。大木は些(ちっ)とも動じなかった。代わりに私の頭は十分以上に反動を受け、足を縺(もつ)れさせて仰向けに倒れた。
 暫く、ぢんぢんとする額を朝靄(あさもや)に晒した。朝靄(あさもや)は、火照った頭に程良い冷たさを与えたが、体にも氷のような冷たさを与えた。衣服は朝露(あさつゆ)と泥にまみれて、ふやけたように感じた。こんな姿では、姉の許に帰れないなと思った。


 私が先程まで蹲(うずく)まって居たのは、巽(たつみ)方の御社の境内裏であった。ここに居ても姉が来るかも知れないけれど、ひとまず私には落ち着く必要があったので、社殿に入ることにした。
 御社の中は、二畳の板敷の外陣と二畳の畳敷の内陣が、仕切りなく続いていた。内陣には小さく簡素な祭壇があって、縁の欠けた青銅の鏡が奉納されていた。鏡の表面はぼんやりとして、私が前に立つと、薄暗いなかに少しの土気色を返した。正面の障子戸以外に明かり取りはなかった。障子紙も薄汚れていて、戸口をぴったり閉じると、陣中は夜のように暗くなった。

 私は板敷の上を、暫くの間とぼとぼと往復した。私も一応神の端くれなので、そこの鏡を依代(よりしろ)として宿ることもできた。実際いつもの祠は、大人の手がようやく納まる程度の大きさしかないので、依代(よりしろ)が鏡であれ問題ではない。けれども私はこの時、この御社に長居するつもりがなかったので、顕現したまま陣中に居場所を探した。
 たっぷり半刻程とぼとぼした挙句、私は板敷の隅に腰を下ろして蹲(うずく)まった。そうしている方が、今の私にはお似合いな気がしたのである。

 私は姉に見付かるのも厭(いや)で、少し体を休めたら出ようと考えていた。けれど意外にも姉はやって来なかったので、私はそのまま数日間を御社で過ごした。
 御社の中は寒く、埃っぽかったが、私にはただ居心地が悪いだけで、体調を崩すことはなかった。同様に、私の心も変調しなかった。私は変わらず心を暗くして、莫迦な自分に愛想を尽かしたまま居た。そんなだから多分、姉も愛想を尽かしてここに来ないのだと思った。
 私がそうして居た数日の間、御社の外からは、飛び交う小鳥のさえずり、木立ちの葉擦れ、無言で歩む人間の足音、遠くでする犬の吠え声などが時折聞こえた。そうして後はただ、しんとしていた。私は何も考えずに、それらを聞いて過ごした。


 数日が過ぎたある日、遠くで太鼓を叩く音がした。多分それは、じき執り行なわれる収穫祭に向けた練習だろう。低音で響く破裂音は、御社の壁や柱と共に、私の心を芯から震わせた。その時ばかりは、私も目を瞑って耳を押さえ、体を固くしなければ居られなかった。姉から逃げて、自分からも逃げて、それでもなお憩える場を得られないのを、私はとても苦しく感じた。

 同日の夕刻、私は障子のすぐ向こうに、賽銭の投げ込まれる音を聞いた。続いて二拍する音と、何やらがさがさいう音と、何者かの独り言を聞いた。私はその声が妙に気に障った。姉ではない。祠付近に住まう老人の声でもない。といって里の人間の誰某(だれそれ)の声でもなく、収穫祭で見掛ける博麗の巫女の声でもない。それでもその声には、確かに聞き覚えがあった。
 がさがさいう音はずっと続くようだったので、私は焦れったくなり、追い返そうと思って障子の隙間から外を覗いた。

「これで全部か。ええと、神さん仏さん、来季も茸を沢山……アッ、何だ。吃驚したぜ、誰だお前」

 私が様子を伺うと、同時に相手も私に気付いた。私は隠れて行動する気もなかったので、ゆっくりと障子を開けた。外の景色が闇色の社殿に雪崩れ込み、悉(ことごと)く茜色に染めた。私の目の前には、秋茜(あきあかね)の舞う田畑と、茜色をした夕日とを背にして、闇色をした影法師が居た。

 影法師は、いつかの黒白の魔法使いであった。彼女の前には、私に驚いて落としたものか、沢山の茸が散らばっていた。それは自然で採れるようなものばかりだった。
 彼女は居住まいを正して、お前は疫病神か何かか、と私を評した。成程私は着の身着のまま、薄靄(うすもや)掛かる畔(あぜ)を素足で走ってここに至り、埃まみれの御社で蹲(うずく)まって居たので、酷い有様であった。そしてまた、心根も似たようなものである。今の私は誰に言わせても、疫病神か貧乏神のどちらかにしか見えないだろう。
 私はしかし、相手が一応参拝客であるようなので、これでも秋神である旨を返答した。倦怠した頭でする返答は、いささか無愛想になった。彼女は殊更に疑わしい目付きで私を見たが、私の顔や身形(みなり)に覚えがあったものか、そう言えばこんな奴居たな、と言った。

「まあそんな事はどうでも良い。あんたが秋神なのなら、斯々然々(かくかくしかじか)で、来季もひとつ茸を頼むぜ」

 黒白の魔法使いは、不躾(ぶしつけ)に豊穣を祈願した。そうして胸を張ったまま、歯を見せて得意気な笑顔をした。その物言いが、姿が、表情が、悉(ことごと)く私に不快を与えた。彼女の一言一言が、膿んで気触(かぶ)れた私の頭を刺激した。そうして私の胸の内は、毒虫に刺されたように苛ついた。
 私はくさくさする気分を抑え、やっとの思いで謝礼を述べた。けれど恐らくは剥(むく)れっ面であったろうから、巧く彼女に伝わったかは知らない。どうでも良いから、用が済んだのなら早く帰って欲しかった。

 けれど彼女は容易に去ろうとしなかった。何だそれだけか、となおも私に食い下がり、昨今の魔法の森の茸事情だの、妖怪の山や博麗神社のある小山の珍しい茸の話などをした。私は下らない話に耳を傾ける余裕もなかったので、俯(うつむ)き唇を噛み、御社を下りて、ゆっくりと歩き出した。相手が去らないのであれば、私が去るしかない。何処へ行く宛も無いけれど、ここよりは静かなところへ行きたいと思った。
 私の真後ろでは、なおも詮無い話を喋くる声が聞こえた。いくら歩いても彼女の話は止まらず、また遠ざかりもしなかった。境内裏の一角へ至った時点で私は堪え兼ね、耳を押えて蹲(うずく)まって見せた。そうして、良いからもう放っておいてくれ、頼むから帰ってくれ、と懇願した。彼女はすぐ、何だ調子が悪いのか、ならそう言わなければ判らんぜ、と取って返した。
 けれどなお、彼女は去ってはくれなかった。私の真後ろで腕を組み、凝(じっ)と佇んでいるのが感じられた。そうして次の瞬間、そいつは巫山戯た事を口走った。

「この時期、秋神様ともなると気苦労も絶えんのだろうぜ。中には植物をすっかり枯らしちまって済ますだけの秋神も居るんだから。あんたの姉だろう、紅葉の神だかいう」
「姉さんを莫迦にするな」

 私はやおら立ち上がり、本気の目で黒白の魔法使いを睨め付けた。

「何だ、別にあんたの事じゃないだろう。しかし里の人間も、きっとそう思っているのじゃあないか」
「姉さんに謝れ」
「だってそうだろう。少なくとも私は、あの神さんが何故秋神なのか解らん。寂しさと終焉が秋なのなら、貧乏神だの死神だって秋神だぜ」
「姉さんに謝れ」
「そう尖るなよ。私ら人間には、あの神さんが解せんのさ。あんたは豊かさと稔りだから、解り易いがね」
「姉さんに謝れ」
「何だ取り付く島もない。あんたはそう思わないのかい。けれど収穫祭にあんたの姉が来たのを見た事がないぜ」
「姉さんに、謝れっ……」

 どうした事だろう。私はこの無礼な魔法使いに怒っていたのだけれど、頬には哀しい涙ばかり零れた。頭は確りしている。彼女を咎める度、頭はむしろ冷静になったので、私は静かな怒りをもって彼女と対峙できている。けれど瞳は冷たく滲むばかりで、彼女の顔もよく見えなくなった。


◇◇◇◇◇◇


「落ち着いたか。悪かった、別にそうまで厭(いや)な気持ちにさせたかった訳ではないんだぜ。そうだな、売り言葉に買い言葉というやつだから、気にしないでくれ」

 黒白の魔法使いの言葉に、棘は無かった。だから私もそれ以上、彼女を悪く思うのを止した。
 以前勝負にこっ酷く負けはしたが、あれも勝負である。姉を貶(けな)す言葉には怒りを覚えたが、もう謝ってくれた。だからそれ以上恨む必要など無いのだが、気持ちというものはそうすぐに分別を付けられるものでもないようで、私は泣き出した子供のように、いつまでも愚図(ぐず)って、彼女を困らせた。
 それでも私は、もう幾らか落ち着きを取り戻していた。私をそうさせたのは、誰あろう目の前の彼女であった。

 先程私が嗚咽し出すと、黒白の魔法使いは掌を返すように、あっさりと謝罪した。彼女は涙に咽(むせ)ぶ私を見ても、特に顔色を変える事も、慌てふためく事もなかった。ただ少しばかり宙を睨んで考え事をしてから、全くさっぱりとした顔で謝ったのである。後から考えると妙な具合だが、その時私は彼女の態度を、随分大人であるように心の内で評した。
 実際それからの彼女の対応は、淑女然としていた。彼女は私と一緒に境内裏の壁に凭(もた)れて座り、巧みに私を慰めた。人を宥(なだ)めるのが上手いと言おうか、子供をあやすのが上手いと言おうか。後者であれば、それはそれで随分失礼な気もするけれど、ともあれ私の心は徐々に静かになり、哀しさは鳴りを潜めた。

「ところで、全体あんたの姉はどうして秋神なんだろう……いや、まあ聞け。私はな、人間だ。だから人の心は推し量れるが、読む事はできん。どうだ、あんたがそこまで姉を慕うなら、ひとつ私にも解るように聞かせては呉(く)れまいか」

 突然話をぶり返されて、私はまた、哀しい気持ちに襲われる気がした。けれど今度は、そうした気持ちにならなかった。黒白の魔法使いは私の顔を見つめて、期待の籠ったような笑顔をした。私は何だか、これから壇上で大勢を前に演説をするような、妙な気恥ずかしさを覚えて、胸が高鳴った。高が、姉の重要性を一介の人間に諭すだけの事である。それなのに何だか惜しいような、勿体付けるべき事のような気がして、もじもじとした。
 もう鼻も出ないし、喉も震えないので、声はすんなりと出るようだった。けれど私は、ああ、だの、うう、だのという声を漏らして、容易には話す素振りを見せなかった。暫く私はそうしていたが、次に彼女の猫撫で声をしたおねだりを聞いて、仕方無いわね、と渋るように話を始めた。

 ぽつ、ぽつと話す私の声には、我ながら随分と優しさが籠っていたように思う。それは私達の信仰に繋がるからなのか、愚かな人間を諭してやる善意からなのか。それともそれは、大好きで自慢の姉の話だからなのか。私が皆に知って貰いたい、本当の姉の話だからなのか。多分私は気付いているのだけれど、それを意識すると、きっと話ができなくなる気がしたので、私は神として、前者の思いから来る優しさなのだと思うことにした。そうしてなるべく姿勢を正し、威厳あるようにして、隣に座る彼女にゆっくりと説いて聞かせた。

 姉の能力は収穫に欠かせない事。私の能力だけでは人間に収穫を与えられない事。人間がそれを理解せず、姉を蔑(ないがし)ろにしている事。
 昔は姉も収穫祭に参加していた事。今参加していないのは、何か訳があるだろう事。そうして人間にも、それをまず理解して欲しい事。

 私は、私の思う秋神としての姉を、順を追って話して聞かせた。彼女は終始表情を崩さず、時折相槌を打つようにうん、うんと頷(うなず)き、ずっと私の話を聞いていた。
 だからきっと、私の話し振りは堂に入り、霊験あらたかに彼女の耳へと届いたはずであった。私は決して、燥(はしゃ)ぐ子供が母に甘えて得意がり、自分の快く思う与太話を鼻高々に語るようだとは、思わないことにした。

 私が話し終えると、黒白の魔法使いは感心したように一つ大きく頷(うなず)いた。それから暫く間が合いたので、すっかり話した後に残った私の胸の興奮も、彼女の次の言葉を受け入れるまでには冷めたようであった。

「成程、大変良く理解できたぜ。あんたの姉を疑って済まない事をした。けれども、まだ一つ疑問が残る。里の人間は何故そうした事を理解していないのだろうね。あんたも里の人間に、そう話して聞かせたのだろう」

 私は二の句を継ごうとして、はたと気付いた。私の持つ明確な回答は、まだ里の人間に伝えていない、という事実である。けれどそれならそれで、彼女はきっとその矛盾した回答の理由を尋ねるに違いなかった。果たしてそれは何故なのか、私は言葉の出ないまま暫し思惟した。


 時期を逸して伝え損ねたのもあるだろう。けれどそうした話に、時期など関係あるだろうか。そもそも時期で言うなら、収穫祭を控えたこの時期は頃合いではないか。だのに私は、何故里の人間に伝えないで居るのだろう。
 姉は誘っても収穫祭に来ないのだから、……いや、だから里の人間に伝えていない、という答えにはならない。そも私がこの事を誰かに伝えたのは、この魔法使いが初めてではないかしらん。
 何故、彼女には伝えられるのが、里の人間には伝えられないのだろう。姉が、……姉は、私の誇りだ。私は姉の事を誰より認めているから、皆にもそうして欲しい。だから、いや、それなら伝えるべきだろう、里の人間に。私は何故伝えないのだ。伝えない、伝えたく、ないのじゃあないか。

 そんな莫迦なことあるか。私は姉を認めて欲しいと思っている。それなら、理解して貰わなくてはいけない。伝えたくない、だなんて、そんな訳がない。私が今まで悩んできたのは、姉の事だろう。その筈だ。
 なら、そう里の人間に言えば良いのじゃあないか。それで私の悩みは解決するだろう。そのうえで、姉が収穫祭に参加しないのなら、それは別問題だ。自分で言ったろう、姉が今収穫祭に参加していないのは、何か訳がある筈だ、と。明確な訳があれば、私も悩みはしないはずだ。ではやはり、姉のせい、なのだろうか。理由を打ち明けてくれない姉の……

 違う。違う、姉に非は無い。悪いのは、莫迦な私だ。自分にも呑み込めない、訳の解らない拘(こだわ)りで、姉への誤解を解こうとしない、莫迦な私が悪いのだ。何だろう、何を拘(こだわ)っているのだ。そんな必要、……必要があるから、拘(こだわ)っているのか。姉は、誰よりもきっと凄い姉は、私にとって──


「いやまあ、深く考える必要は無いぜ。里の人間も私と同じ、きっと鈍感なのさ。だけれど、誤解があるのなら、解いたほうが良かろう。あんたはあれだけ、姉の事を確りと考えているのだから、きっと理解して貰えるぜ」

 ぽすり、と私の帽子に手を遣りながら、黒白の魔法使いは優しく言った。私はまた、泣きそうな、苦しそうな顔をしていたのだろうか。彼女は暫くそうして私を宥(なだ)めるように、繰り返し私の頭を撫でてくれた。

 頭に置かれた手がやけに温かく感じ、私は夢現(ゆめうつつ)となった。ところへ黒白の魔法使いが、ヤッとばかりに腰を上げたので、私もはっとして目を覚ました。
 とっぷりと日も暮れて、宵闇のなかを小さな星が瞬いていた。彼女は左肩に箒を担いで、ぶらぶらと歩き始めた。後ろ手に私へ手を振り、茸の豊作宜しくな、と言った。どうやら家へ帰るようであった。私も付いて行って良いものかと躊躇したところに、彼女はわざわざこちらへ振り向いて、私に姉の許へ帰る切っ掛けを与えた。

「あんたも早く帰れよ。流石の私も、あんたの姉には嫉妬するぜ」

 黒白の魔法使いは、歯を見せて得意気に笑った。それが私には清々しく見えた。そうして私もようやく、姉の許へ帰ろう、という気になった。


 星明かりを頼りにして、私は里の乾(いぬい)の方にある祠へと歩いた。途中、私は幾度となく姉の事を考えた。ここ数日どうして居たかしらん、今はどうして居るかしらん、きっと怒っているのに違いない。そう考えると私の歩みは自然、のろのろと重たいものになった。
 けれど私は歩みを止めず、祠を方角と定めたまま、暗い夜道を歩いた。姉が怒っていても良い。私が厭(いや)だと言われても構わない。それでも私は、どうしても姉に会いたかった。私は莫迦だから、姉がどんなに私を嫌っていても、今はただ私が会いたくて帰るのだ、と思って歩みを進めた。

 煌々と輝く星空の下、小高い丘の上に懐かしい祠が見えた。ここまで重い足取りで来た私は、あと数歩のところで、しかし躊躇して立ち止まった。
 どうしても姉に会いたい。会って、謝りたい。今までのことを洗い浚い話してしまって、また姉と一緒に居たい。そのために私は、どんな罵倒も甘んじて受け、いくらでも贖罪しようとさえ思っていた。けれどもこうして姉の居る祠を見てしまうと、私はまた怖気付いた。
 許して貰えなかったらどうしよう、心から厭(いや)に思われたらどうしよう。結局私は、莫迦であった。愚図(ぐず)であった。どれだけ必死に自分を焚き付けても、自分を騙すことすら出来なかった。あれだけ姉を蔑(ないがし)ろにしても、自分がそうされるのが耐え難かった。私は、自分が姉に謝る資格すらあるのか、解らなくなってしまった。哀しい程解らなくなって、歩くことができなくなってしまったのである。

「……穣子」

 びくりとした。声のした方、祠の傍には一つの影法師があって、私を見下ろしていた。楓の葉の前差しに、楓の葉を模したスカアトを穿いた影法師が、ゆらゆらと私の方へ歩み寄るのが見えた。
 私は金縛りに遭ったように、その場を動けずに居た。声を出そうにも、金縛りに喉をやられて声が出せなかった。ゆらゆら、ゆらゆらと近付く影法師は、近付く毎に星明かりを浴びて輝くように、はっきりとした姉の姿を得ていった。姉は、──ああ、姉の姿は、私にはとても懐かしくて、とても眩しくて。

「穣子っ……ああ、穣子。良かった、本当に良かった。私は貴女が帰ってきてくれて、本当に嬉しいわ。もしかしたら、もう貴女は帰ってきてくれないのかと、私を厭(いや)になってしまったのではないかと、そう思うと哀しくって、寂しくって……ああ、穣子。有難う、帰ってきてくれて、本当に……」
「……」

 私を包み込む姉は、とても温かだった。強く抱き締める姉からは、ただ本当に私を心配し、戻ったことを喜ぶ、そうした力ばかりが籠っていた。いつまでも肩を震わせる姉からは、熱いものが止め処なく溢れ、私の左肩口を濡らした。
 私は、怒られるのだと思っていた。厭(いや)がられるのだと思っていた。けれど姉は、ただ私を抱き留めて、ただ喜んで。何て、何て──嬉しい事だろう。


 姉さん、ああ、姉さんっ……御免、なさい、私が悪いのです。私が莫迦なのです。私が莫迦だから、姉さんに心配を掛けました。酷い事を、言いました。……ずうっと、ずうっと姉さんを蔑(ないがし)ろに、してきました。私は、けれど、そんなつもりではなかったのです。私が姉さんを厭(いや)がる筈がありません……姉さんを置いて居なくなる筈がありません……
 だのに、私は何て、何て莫迦な事をしていたのだろう……姉さん、貴女に非はありません。私が悪いのです。御免なさい、御免なさい姉さん……私こそ、姉さんに厭(いや)がられたろうと思いました。姉さんに愛想を尽かされたろうと思いました。けれど、姉さんは、私を待っていてくれたんですね。有難う、本当に有難う、姉さん……ただいま、姉さんっ……


 私は、姉を強く抱き締めた。姉の温かさは、私の心を静かに和ませ、優しく包み込んでくれるようだった。だから、私も姉にそうしてあげたかった。莫迦でどう仕様も無い私だけれど、少しでも姉に、この思いが伝われば良いと思い、強く抱き締めて、熱い涙を零した。


◇◇◇◇◇◇


 収穫祭を数日後に控えた頃になっても、私達は変わらず幻想郷中を巡っていた。特に今季は少々時間を無駄に──いや、私には決して無駄な時間ではなかったように思う。ともあれ、少々時間を食ってしまってはいたので、その分を取り戻すべく、姉と共に幻想郷を巡る日々を過ごした。

 私の見るべき領分は、ほぼ全て順調であった。何も本当のお化け南瓜(かぼちゃ)や本当のお化け茄(なすび)を拵(こしら)えようというわけではないので、人間の里での稔りを十分に与える以外は、野山の動物や妖怪共が生きて行ける程度に、植物を太らせてやれば良い。それも例季通り、植物が健康なまま、可能な範囲で手助けをするだけなので、太らせる具合も高が知れている。それに私が一番忙しいのは夏場の成長の盛りなので、実は今の時期にできる事は、方々を見回って、稔りの芳しくない子達を励まして元気付ける程度である。だから順調というより、する事は殆ど無かった。
 対して姉の見るべき領分は、まさに今が旬であった。まだ深緑に生い茂る木々に、秋が来た事を伝えてやらねばならない。一番大きく、一番広い妖怪の山は、先達ての訪問で済んでおり、今では燃え立つような茜色に染まっていた。そうしてそこからも、秋はじわじわと伝播して、魔法の森や霧の湖には、紅葉を始めた木もまばらに存在した。けれどそれでは伝わり方が遅いので、姉は木々の一本一本、草花の一群一群に秋が来た事を伝えるのである。姉は日が沈むまでこれを繰り返し、一日の終わる頃には精も根も尽き果てたように疲弊して、私の肩に掴まりながら、ふらふらと里の祠へ帰るのが最近の常であった。

 私は姉を手伝えないのを歯痒く感じた。けれど姉は、私が傍に居るだけで嬉しそうな顔をした。姉は私の前で、決して笑顔を絶やさなかった。だから私も同じように、姉に笑顔をして見せた。冬が訪れるまでに、この幻想郷へ確(しっか)りと秋を迎え入れなければならない。それにはまだ道のりは長いけれど、姉はきっと遣り遂げるのだ、と私は信じた。そうして私も、手伝える事は幾らでも手伝うつもりで居た。


 そうして収穫祭当日になった。収穫祭は例季通り、巽(たつみ)方の御社で執り行なわれるようだった。朝も早くから、里の中心街はざわざわと騒がしくしており、御社の方からは太鼓の音が威勢良く聞こえてきた。そうした音は私のお腹に、ずしんずしんと響いたけれど、厭(いや)な気持ちなどはせず、むしろ血の滾(たぎ)るような、心の燃え上がるような興奮を呼び起こした。
 少し前までは、何ともじめじめした気分でこの太鼓を聞いていたような気がする。何のかのと難癖付けて、収穫祭を厭(いや)がっていたような気もする。けれどやはり私は、根本的に祭というものが好きなのだった。この幻想郷でさえ、祭のなかに確固として在る、日常の中の非日常とした雰囲気が好きなのに違いなかった。そして私はやはり、姉にも収穫祭へ参加して欲しいと強く願っていた。
 心躍る雰囲気に我慢し切れず、私は朝日の上り始めた頃に祠の外へ出て、手慰みに準備体操のような事を始めた。別にそんな事をする必要はないのだけれど、そうしないと居られないのであった。

 程なくして姉が起きたので、私は姉に、今日の収穫祭に参加して欲しい旨を述べた。少なからず私は期待を籠めて、姉が肯定するのを想像し、いつかの黒白の魔法使いみたく、おねだりしたのである。
 けれど姉は寂しさを湛えた笑顔をして、首を横に振った。私は風船の気が抜けたように、先までの元気を萎ませてしまった。けれど笑顔は絶やさず、姉に向かって、仕方無いね、と答えた。

 私は姉の反応を、半分は裏切られたように感じ、もう半分は恐らくそうだろうと予測していた。結局あれから姉に事情を聞いてはいなかったけれど、やはり姉は何か理由があって、収穫祭に参加しないのだろう。それは姉の残念そうな表情から察せられる通り、参加したくないのではなく、参加できない事情なのだろうと思った。私にはそれがまだ何かは解らない。けれどそれは、きっと私の思う通り、本当に仕方無い事情なのだ。

 その日私と姉は、日の出ているうちは幻想郷を巡り、夕刻から別行動を取った。
 日の出ているうちに、私達は魔法の森と霧の湖までを巡り終え、博麗神社のある山の一部までを秋色に染めた。魔法の森は思った以上に土地が広く、秋を伝えるのに数日を要する難敵であった。けれども今日ようやく一面秋色に染まり、私達は達成感を以て今日の仕事を終えた。
 私達は互いに喜び合ったが、それでも幻想郷は魔法の森より午(うま)の方角が、まだ全くの手付かずで残っていた。秋の日は短い。冬も少しずつではあるが、着実に近付いて来ている。私達にはまだ、ゆっくりと休む暇など無いのが事実であった。

 夕刻には、私が収穫祭に呼ばれていたので、人間の里へ行かなければならなかった。私はあれから、収穫祭への参加態度も改めることにしていた。収穫祭への参加もまた、秋神の大事な仕事である。だから私は、気を引き締めてこれに参加しなければならないのだ。今日の私はまだ、ゆっくりと休む時間など無いのである。
 これから私は里へ赴き、里の人間達を正しい方向へ導いてやらねばならない。そうして芋料理を食い尽く……作物の出来栄えを誉めてやらねばならない。芋焼酎を飲まなければやっていられな……里の、作物加工技術の向上を讃えてやらねばならない。

「穣子、これで涎をお拭きなさいな。疲れているのかしら」

 慌てて口元を手で拭い、ごくりと唾を飲み下した。姉はとても微笑ましいものを見たような顔をして、にこにこしていた。

 ふらふらの姉を祠へ連れ帰ってから、私は巽(たつみ)方の御社へ向かった。姉は私を祠の外で見送った後、程なくして祠に宿ってしまったようだった。姉は秋にこそ、その神徳を発揮する。だからあるいは、ここ連日の仕事が体にきているのかも知れない。ならば確かに、休めるうちに休むのに越した事は無い。私は姉の容態を心配した。けれど、いつも一晩休めば優しい笑顔で私に微笑んでくれるので、明日になればきっと大丈夫だろう、と自分に言い聞かせた。
 そうして今日は、里の人間にお願いして、姉の好きな芋焼酎や、美味しいご馳走を幾らか分けて貰おうと思った。私達は存在するために食物を摂りはしないが、それでも旨いものは旨いと感じる。それで姉が元気になれば私も嬉しいし、里の人間達のためにもなる。
 姉はきっと、さも旨そうな顔をして飲んだり食ったりするのだろう。そうしてまた、頓珍漢(とんちんかん)な美食批評をするのだ。私はうっとりとした姉の表情を目に浮かべて、少しばかり楽しい気分になった。


 私は人間の里を通って御社へ向かうことにした。人間の里は、すっかり秋めいていた。そこここに生える庭木は見事な茜色をして、ちらちらと舞い散る紅葉が、夕日の朱と良く馴染んだ。石造りの甍(いらか)の屋敷や茅葺きの民家、屋根石を据えた板葺きの長屋の、温かみのある土色をした棟々が、夕日を浴びて懐かしい色をした。そうして落ちる影の向こうには、里の人間の生活が溢れていた。
 大通りは長く、どこまでも黄土の道が伸びて、連綿と続く里の歴史を編み出すようだった。そちらから、こちらから、浴衣掛けの里の人間が出入りし、行き交った。私の脇を抜けて、子供が三人ばかり、風車を持って駆けていく。その道の続く向こうに、私達を祀る御社がある筈だ。
 収穫祭では御社の周りに様々な露天が出るけれど、里の中心街にはあまり露天は出ていなかった。ちらほらと出店しているのは金魚屋であったり、時期外れの風鈴屋であったり。そちらの軒では、沢山の風車がくるくると回り、秋の風を楽しんでいるようだった。

 ちらり、ちらりと、紅葉は絶えず舞った。そうしてゆっくりと沈み行く夕日を背に、私は長く伸びる自分の影法師、里の人間の影法師、民家の影のモノクロオムと、夕日の照らす黄土の道、温かみのある屋根、茜色に染まる庭木や紅葉のセピア、そして金魚屋、風鈴屋、風車屋の水彩から成る風景を歩いた。ひたり、ひたりと歩く度、景色はゆっくりと、懐古色に沈むようだった。
 私は、秋を歩いているのだと感じた。秋は、いつでも変わらず、懐かしい色をしているのだ。誰の心にもある懐かしい情景を、惜しみなく映し出してくれるのだ。だから秋は温もりがあり、優しさがあるのだ。少しの寂しさ、終わりある哀しさもまたあるけれど、それでも秋は懐かしく、人間の、動物の、生きとし生ける者達の心の糧となるのだと思った。

 ひたり、ひたりと歩きながら、私は今ある秋を懐かしんだ。そうして秋の温もりと優しさを、肌で感じた。それは確かに、私の姉なのであった。
 姉はだから、収穫祭に参加しないのではなかろうか。姉は誰の心にも居るから、敢えて収穫祭に顔を出さないのではあるまいか。そうしてそれは、里の人間にも解っていて、姉の意向を汲み取っているのではないか。
 実は姉も里の人間も、私などより、もっと心を通じ合わせているのではないだろうか。心のずっと奥底で、秋と人間との根源の所で、深く深く結ばれているのではないだろうか……私は少しばかり感傷的になり、胸の内でじんわりと、そう思った。そうならば少しばかり、姉にも人間にも嫉妬を感じてしまう。けれど心から、祝福したいようにも思う。私は何だか切ないような、こそばゆいような心持ちがして、少し足早に御社へと向かった。


 収穫祭は盛況であった。民家を抜けて暫く続く参道に沿って、幾つもの露天が敷かれていた。玩具売りだの矢場、魚釣りなどは子供の小遣い程度で楽しめる程安く、芋屋だの饅頭屋といった食物を扱う屋台は殆ど只同然で振る舞われていた。それだけでも私は、里の人間達が本当に秋の収穫を楽しみにして、皆で豊作を祝っているのだと感じられた。とても嬉しく、とても誇らしい事だった。
 私が参道を歩くうちに、里の人間から幾度となく声を掛けられた。皆、嬉しそうな顔していた。皆、今季の豊作に誇らしげな顔をしていた。今季の冬も、皆飢える事なく過ごせる事に、安心した顔をしていた。私はそうした人間達の顔を見るだけで、こんな自分でも誇れるような気がした。人間達のために、来季も豊作を授けたいと思った。そしてやはり、今私の隣に姉が居たなら、どんなに良かったろうと考えた。

 露天の前を通るたび、私は里の人間から店の自慢の逸品を捧げられた。よく来た穣子ちゃん、まあこれ食ってくれや。今季もお出でなすったね、どうだいこの味。そうら来た来た、おい嬶(かかあ)、穣子ちゃんに特製のアレ出してやんな。やや、これあ穣子ちゃん、今季はちょっと工夫したんだがね、どうだ美味いかい。
 里の人間の作った食物は、どれも絶品であった。私はそれらを気高く、厳かに食い尽くして謝礼を述べ、里の人間を労った。決して子供のようにエヘヘ美味しいなどと口走らず、さながら山の神々のように、霊験あらたかに神勅を授けたのである。そうしてこれ良いな、あれ良い……特別よく出来たものを、姉に持って帰ろうと思い、後で少しばかり包んでもらう事にした。


 参道を暫く歩くと道は二股に分かれる。そのまま進めば山道を抜けて博麗神社に至り、右へ折れて少しばかり行けば私達の祀られる御社である。岐路には小さな石碑があり、道祖神が祀られている。そこも今宵は多くの露天が出ており、真昼の里の市場のように賑わっていた。
 私が御社へ着いた頃には、多くの人間がへべれけで、宴も酣(たけなわ)であった。それでも里の人間は私が来たのを察して、よく来た穣子ちゃんまあ飲めほれほれ、と私を車座に呼び込んで、湯呑みにどくどくと芋焼酎を注いで捧げた。これも私の神徳の賜物だろう。何故かやたらと子供達が寄って集(たか)るのも、同じ事である。子は国の宝であると言うから、それもこれもまた、私の神徳に依るものである。少し向こうを見ると、寺子屋の教師がほっと一息吐いていた。

「よう、子供に懐かれているじゃあないか」

 ふと見上げると、いつかの白黒の魔法使いが居た。これまでの収穫祭で、私はついぞ彼女を見た事が無かったのを思い出した。聞けば彼女は、派手で楽しいのは好きであるけれど、ここまで賑やかなのはあまり好きではないようだった。彼女は手に持ったぐい呑みを一息に空け、今日は面白いものが見られるから来たのだ、と告げた。

 暫くすると車座になった宴席に、二人の巫女がやって来て、神楽を披露するようであった。確かにそれは、私も見た事の無いものであったが、特に面白いという気はしなかった。彼女が言うには、博麗の巫女と守矢の巫女なのだそうである。神楽自体はさして珍しくないものの、故あって信仰について考えを改めた博麗の巫女が、守矢の巫女の勧めで、山の神の一員である私達のために神楽を披露しに来たのだという。
 いつの間に私達は山の神の一員にされたのだろう。多分私も彼女達も、その守矢の神々に唆(そそのか)されたのだろう。守矢の少女は、正確には現人神であったように記憶しているが、ご苦労な事である。
 私としては、こうして貰える事に悪い気はしなかった。それよりも、近頃の外来の神の強かさに、私は感心した。恐らくはそうして、間接的に私達の信仰をも数に入れるのに違いない。といって私達の損にもならないので、巧い遣り口である。事前に断りを入れないところが少々気に食わなかったが、それが彼の神々の挨拶のようなもの、なのかも知れない。姉なら、面白いわね、と一言で済ませてしまいそうだ。

「アハハハハハ。いや愉快愉快。しかし普段練習もしないのに、どうしてああも息を合わせられるものかな。きっと蛸踊りみたくなると思っていたんだが、残念だぜ」

 そう言うと彼女は私の隣に座り、私にぐい呑みを向けた。いささか不遜な態度ではあったが、彼女には貸しがあったので、隣の若者に断りを入れて焼酎を貰い、一杯を注いでやった。そうして私と彼女は杯を差し上げ、共にぐいと一息で干した。

 それから彼女は、私に先日の事を尋ねた。それはあれからの私の行動ではなく、里の人間への誤解が解けたかという事であった。私は、まだ誤解を解いていない事を答えた。けれど、今日の最後に里の人間へそれを伝えようと思っている事は、言わずにいた。
 彼女は興味無さ気に、ふうんと呟き、手酌でぐい呑みに酒を満たした。そうして私の湯呑みにもまた一杯、酒を注いだ。私と彼女は暫し黙り、神楽舞を見ていた。何という神楽なのかは判らないが、随分と前衛的で、見た事もない激しい動きをしていた。


 ちらり、ちらりと紅葉が舞った。彼女は私に、姉がどうしているのかを尋ねた。紅葉を見て思い出したのだろう。残念な事ではあるが、まだ幻想郷の半分がところ秋を迎えていないので、連日の疲れで今宵も休むのだ、と私は答えて──はたと気付いた。
 どうした事だろう。この里に、秋が来ている。今日まで巡ったのは、魔法の森あたりまでではなかったか。それよりも午(うま)の方は、まだ手付かずではなかったか。勿論、この人間の里も。

 ざざという音を立てて、一陣の風が吹き抜けた。そうしてそれを切っ掛けに、楓が、銀杏が、山桜が、柏が、水楢が、橡(とち)が、欅(けやき)が、樗(ぶな)が──ありとあらゆる紅葉が、くるり、ひらりと踊り出る。
 御社に、道祖神のある岐路に、参道に……どこまでも、どこまでも舞い踊る。時に激しく、時に厳かに。哀しさを湛えて、寂しさを秘めて。けれど曇らず、影を与えず。懐かしく、ただ懐かしく。

 その不思議な神楽に、誰もが呆として息を潜めた。酒を交わして祝う里の大人も、夢中で料理を食う子供も、ゆったりと茶を啜る寺子屋の教師も、車座の中心に立つ巫女も現人神も、隣で酒を呷(あお)る黒白の魔法使いも、そうして私も。辺りはただ静謐(せいひつ)として、時折ほうと息衝(いきづ)く音と、後はただ、さらさらと紅葉の舞う音ばかりが聞こえた。

 天の川の穏やかな光に照らされて、ちらり、ちらりと紅葉が踊る。そうして紅葉の舞うたびに、博麗神社のある山が、ぽつり、ぽつりと秋色に染まる。一雫、また一雫と山を染め、紅葉は嬉しそうに、楽しそうに、くるくる、くるくる舞い続ける。

 そうして私達はただそれを、母を慕うような懐かしさで見ていた。一刻程の出来事だったろうか、それとも刹那の出来事だったろうか。博麗神社のある山は、いつしか燃え立つような茜色をして、私達に秋を告げた。


「……凄い」

 黒白の魔法使いの一言が、波紋のように広がった。小さな波紋は大きく広がり、返り、重なりして、皆の息を吹き返した。呟きは囁きに、囁きは感嘆に、感嘆は歓声に、歓声は喝采に変わり、誰もが今の不思議な神楽を褒め称えた。御株を奪われた巫女と現人神は、いつの間にやら隅へ移動して苦い顔をしていたが、それでも何処か優しく、懐かしそうにしていた。

「何だ、何だよあれ、凄いぜ。あれはあんたの姉の仕業なのかい。おい人が悪いぜ、どうして黙っていたんだい。なあ、あんたの姉なのだろう」

 黒白の魔法使いは、歓喜に満ちた顔をして、私の肩をしきりに揺すった。辺りを見れば、立ち上がり拍手をする人間も居た。肩を組み浮かれる人間も居た。きゃあきゃあとよく判らない声を上げて、興奮覚め遣らぬ子供達も居た。
 私はただ、涙を零していた。ころり、ころりと、温かい涙が頬を伝った。あれは間違いなく、姉の仕業なのだろう。姉は私に、言葉ではなくこうした形で、収穫祭へ参加できない理由を教えてくれたのだろう。恐らく姉は、これまでずうっと、昼も夜も関係なく、幻想郷へ秋を伝えに巡っていたのに違いない。だから毎日あんなに疲弊して……それでも、それでも健気に、私に笑顔を見せてくれて。私を大切に、想ってくれて……

「……ええ、ええ。私の、姉さんです。あれが、私の自慢の姉さんなのです」

 涙ははらはらと、後から後から頬を伝った。けれどそれは温かで、心地良い涙であった。だから私は、黒白の魔法使いに笑って返した。私はうまく笑えただろうか。私は誇らしげに笑えただろうか。彼女はそうした私を見て、ただ満足そうに、私の肩を優しく叩いた。
 私は今こそ、里の人間達に伝えなくてはいけない。人間達は姉の事を、解ってくれるだろうか。不安は無くも無い。けれど、だからこそ、私は今、人間達に伝えるべきなのだと思うのだ。そうして私は涙を拭い、満面の笑みを湛えて、声を張り上げて里の人間達に呼び掛けた。

 秋風の名残りに乗って、今また一葉の楓が舞った。そうして楓はひらひらと私の肩に舞い降りて、暫しの休息を得るのだった。
今回も短編をひとつ、と書いていたはずが、どうしてこうなった。。。
さらに今回は二部作の第一部、という取り扱いです。この後伏線回収?的なものがもう一部御座います。本当に、どうしてこうなった。。。

一、二週間後にはそちらも投稿させて頂きたく考えております。仕事の上海出張を乗り越えて、生きて帰って来られたら。。。
# 本作も、分割投稿した方が丁度良い長さになるのかも知れず。勝手判らず、申し訳御座いません。


最後に、拙い文章で読者の皆様には毎度お目汚し失礼致します。もし何事か思うところあれば、ご意見ご感想を頂けると、筆者が喜んでのたのたします。

http://mypage.syosetu.com/68221/
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.380簡易評価
1.80コチドリ削除
これはもう完全に個人の好みの問題なのですが、池波正太郎先生をこよなく愛する
私としては、この文章はちょっとくどく感じますねぇ。

後は、漢字の送り仮名ですね。
作者様の優しさから来るものなのでしょう。確かに植物などの固有名詞に関してはありがたいです。
ただ、他のものについては正直煩わしいかなぁ。

色々勝手なことを書きましたが、それでも尚この物語、私は好きですね。
続編、読ませて頂きたいと思います。
2.無評価コチドリ削除
誤字ですよー

>姉も恐らく落ち葉炊きの気持ちを十二分に→落ち葉焚き、ですね。
>私は意に解さず芋ばかりむしゃむしゃ食って→意に介さず、かな。
5.60名前が無い程度の能力削除
文章、かっこいいけど、いちいちくどすぎると思います。
軽妙さが足りない。

言葉の選択の力は有っても、読んだリズムが今一つなんですよね。
それと場面ごとにメリハリをつけていただく訳にはいきませんかね。
7.無評価コチドリ削除
自分に誤字ですよー

>後は、漢字の送り仮名ですね→振り仮名、じゃねーか、なにボケてんだ俺。

最後に、前作も含めてなんですが、レートはともかくとして現時点の累計ポイントは
作品の出来からすると、過小評価過ぎると思うんですよ。
これって、作者様のハンドルネームが少なからず影響しているような気がするんですよね。

もちろん作品につく点数なんて、ただの目安でしかないのでしょうが、
もうちょっと多くの読者に読まれるべきだと、私などは勝手に思ってしまいます。

余計なお世話なのは百も承知で言うのですが、『宇治』や『UZI』などへの変更も
考慮されては如何でしょうか?

作者様がどのような理由で名乗られているかも知らずに、僭越な私見を述べました。
気分を害されてしまわれたのであれば、どうかご容赦を。
8.無評価削除
上海から帰りました。上海人形はありませんでした。しかたないね。

ご意見ありがとうございます。文章のくどさ、ルビ乱用は今後推敲して直したいと思います。あと誤字すぐ直します。お恥ずかしい。
リズム感というのが筆者には無くて困っていますが、もっと本を読んで勉強してみます(でも青空文庫じゃ難しいかなぁ)。

HNですが、これは少々配慮が足りなかったかな、と反省しております。けれど諸事情あり、暫くはこのまま続投させて頂きたいと。
折角のご意見なのに、申し訳ございません。
11.50名前が無い程度の能力削除
妖怪の山の麓、人里など、丁寧に秋の風景が描写されていると思いました。
しかし、それゆえに冒頭部分を読み進めるのに不都合がありまして。
麓での描写は、後に話の中心から外れるのだからもう少し短くてもいいかなとは感じました。

秋を厭う穣子さんというのは新鮮に映りました。その理由に関しても納得のいくものでしたしね。
12.無評価削除
> 11様
ご意見、ご感想ありがとうございます。
風景描写、少々やり過ぎました。後から判る構成力の無さ。悲しい。

新鮮に感じて頂けてとても嬉しいです。