三方の壁に縷々として人の型が立ち並んでいる。
はるかとおくから反射してきた焔が、天井の真ん中にあいた天窓からほろほろと部屋を照らしている。
うすぼんやりと影がこもる部屋の無感覚な温度。
打ち捨てられたおもちゃ箱のような一室であった。
「こいし」
残る一方の戸をほとほとと叩く音。
「こいし。いるの?」
「いるよ。お姉ちゃん」
声が返ると、白塗りの扉が開き、すい、と一人の少女が歩み入った。
「お茶の時間よ。こいし」
「お茶の時間ね。お姉ちゃん」
部屋の中央、天窓の下にしつらえられた小さな白いテーブルに忽然と少女が座っていた。
訪れた少女は、白いテーブルに、ティーセットを乗せたトレイを置く。
「暑いわね」
「暑いね」
白いカップに銀のスプーン。一つのソーサーには紫色の縁どりが。もう一つのソーサーには薄氷色の縁どりが。
「上はどうだったかしら?」
「かくれんぼをしていたのよ」
鈍色の網籠には色とりどりのクッキーが盛ってある。赤、青、黄、緑、紫、橙、黒、白……他にも、いっぱい、いっぱい。
訪れた少女が紅茶を一口。
「こぐまのオートミールを食べてしまった女の子は無事に逃げられたかしら?」
黄色のクッキーを一つ。半分ほどを残してかじった。
「いいえ。逃げられなかったわお姉ちゃん」
赤色のクッキーがなくなった。
訪れた少女が紅茶をもう一口。
「洞窟にルビーを隠しにいった男は無事に帰ったかしら?」
黄色のクッキーを一つ。もう半分を残してかじった。
「いいえ。帰れなかったわお姉ちゃん」
白色のクッキーがなくなった。
それきり、訪れた少女はしばらく黙っていた。
二口、三口と紅茶を飲んだ。
ティーカップの中身は少しずつ、少しずつ減っていった。
不意に、訪れた少女が口を開いた。
「騒がしいわね」
「そうかしら」
訪れた少女が、
こちらを
見た。
「ダメよ、こいし」
「ダメかしら、お姉ちゃん」
少女の三つの目がこちらを見ている。
「ちゃんとお燐の用意したものにしなさい」
「あら、それじゃあつまらないわ。かくれんぼができないわ」
「こいし」
「はーい」
薄氷色の髪をした少女の瞳が、眼前にあった。
「お姉ちゃんがダメって言うから、かくれんぼは私の負けでおしまいよ」
少女に絡みつく血の通わない暗紫色の管がぶる、と揺れた。
べちゃり、と。
樹脂とも蝋ともつかない液体が私の鼻を覆った。
べちゃり。
べちゃり。
頬骨に。
上瞼に。
こめかみに。
眉間に。
唯一私を生物たらしめていた私自身の生き残りたちは、べちゃりべちゃりと無機質な温度の中に埋まっていった。
その事実に、ようやく、怖れることを思い出したのである。
テーブルの上にはティーカップが二つ。
一つは紫色の縁どりのソーサーに。
一つは薄氷色の縁どりのソーサーに。
薄氷色のティーカップは既に空であった。
血の通った暗赤色の管がどくり、と揺れ、紫色のティーカップがかちゃりと音をたてた。
濁った血の色をした管に繋がった目がじっとこちらを見つめていた。
「騒がし――」
べちゃり。
「――いわ」
その音を最後に
べちゃり。
一切の物音が途絶えた。
薄氷色の少女の口が動いている。
ばいばい。
口の動きはそう言っているように見えた。
一見意味不明でよくわからない部分が多いんだけど・・・・・それがまた気味悪い。
人によって好き嫌いがきっぱりわかれる作品だと思いました。
独特でしたが僕は好きですよ
読み解きしていくと楽しさと不気味さが増して、ツボるとたまらない。
でも推敲校正はして欲しかったなあ。この人がもっと丁寧に書いたらどんな作品ができるのか興味がある。
読み直した方が分かり易いですが、特別難しい話ではないのでこの点数を