Coolier - 新生・東方創想話

春コタツ

2010/05/13 01:48:08
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 冥界に注がれる春の陽光はしだいに強くなり始めた。

 白玉楼の桜もすべて葉桜に変わり、汗が滲む日もあった。

 そんな白玉楼では、広大な庭を庭師の妖夢が散り終わった桜の花弁を掻き集

めているところだった。

「ふぅ。ようやく花も散って暖かくなってきましたね」

 殆ど無くなった花弁の絨毯の下から久々に顔を出した地面は良い色をしてい

た。

 妖夢は新緑に成りつつある木々に、大きく背中を伸ばした。

(……藍しゃま、……こにいる……でしょうか)

 門の向こうから声が聞こえた。

 近づいてくる気配に妖夢は顔を向けると、そこには主人の友人である紫様の

式神の八雲藍と橙が並んで階段を登っているところだった。

「これは、藍さんに橙さん。いらっしゃい」

 互いに深々とお辞儀をした。

「どうしたんですか御二人で、紫さまは一緒じゃないんですね」

「実は、その紫さまを捜しにきたのです。どこで何をしてるのやら」

 藍は苦笑をしながらこたえた。

「紫さまなら、神社にいらっしゃるのではないでしょうか」

 藍はうなだれるように首を振った。

「……いなかったんですね。私も今日は、まだ見かけてません」

 橙は藍の後ろに隠れて「藍しゃま。紫さまいったいどこにいるのか心配です

ね」と白玉楼の庭を見渡しながらつぶやいた。

 その頭を満面の笑顔の藍は愛らしく撫でて「嗚呼、なんて橙は優しくて本当

に可愛いなぁ」と、さらに抱きかかえた状態でぐるぐると庭を回った。

 妖夢は、にこやかに<何だ、これ。まぁいつもの親バカか>みたいな目でそ

の光景を眺めていた。

 視線を感じて藍は我に返ると真剣な顔になった。

「どうですか、うちの橙は可愛いでしょう。あげませんからね」

「まぁ。そんなことは、どうでもいいですけどね。それより、ゆか――」

 突然、妖夢は胸倉を掴まれた。

「そんなこと……こんなに可愛い橙がそんなことだって……」

 藍は妖夢の胸倉を掴むと怒りの形相になっていた。それに焦った顔の妖夢と

なだめる橙。

「ふふふ。あの娘たちは賑やかね」

 その光景を幽々子は少しあいた襖から覗いていた。








◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 コタツ――室町時代に登場し現代に至るまで日本人に愛され続けている冬の

暖房器具。幻想郷の住人もこの物体の虜になっている者たちがいる。こんなに

のんきで平和の象徴のようなコタツは、春が来ても居間に鎮座して不動の誘惑

を放っていた。

 昔の偉人は言いました。「コタツとは、絶対に逃れることが出来ない蟻地獄

のような物だ」と――そして、ここ白玉楼もそうだった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 白玉楼の居間には、未だに冬の名残のコタツが鎮座していた。

 外が賑やかになり主人の幽々子が目を覚ました。

「――眠いわね春眠、暁をってやつかしらね」

 もぞもぞと虫のように畳を這って襖を開けて「妖夢~、喉が渇いたわ。お水

もってきて」と叫んだ。

 すると、藍にようやく開放された妖夢が恐々した声で答えた。



 幽々子はコタツに潜ろうと足を入れる。

「んん?」

 何故かコタツの奥で何かにぶつかった。

 今、ここにいるのは私だけだったはず、いったいこの中に何がいるのか。布

団を恐る恐る開けると奥に足が見えた。

「……まぁ」

 身体を持ち上げると机を挟んだ向こう側に、マイ枕を持参していた友人の紫

が眠っていたのだ。

「紫ったら、いつのまにきたのかしら――」

 幽々子は紫の身体を揺さぶって起こそうとした。

「ちょっと、紫。ユカリンったら、起きなさい。朝よー」

 紫の身体を震度4くらいで揺さぶったが起きることはなかった。

「もう。相変わらず、だらしないわね――」

 紫を起こすには、と幽々子は腕を組みまわりを見渡した。

 机の上にお昼に食べたお茶漬けの丼が目に入った。そこには、梅干の種が三

つ残っている。

「そうだ」と幽々子は種を二つ手にとった。

 幽々子の無邪気な顔が、寝ている紫を覗き込んだ。

「ユカリンったら、相変わらず可愛い寝顔ね」

 グイッ!

 まずは一粒を右の鼻の穴に突っ込む。呼吸が少し苦しそうになった。

 グイグイッ!!

 もう一粒をもう一つの穴に突っ込んだ。鼻呼吸が出来なくなりかなり苦しそ

うになった。しかし、紫は大きな口を開けてまだ眠っている。

「ふふふ。さすがねユカリンは、でもこれで起きるでしょう」

 その幽々子の手には、黒い醤油瓶が握られていた。片手で下あごを押さえて

醤油を大きく開いた口になみなみと流し込んでいく。

 最初は醤油を飲んでいた紫だが、しだいに顔色が苦しそうになってきた。

「ふふふ。……うふふ」

「……が…がはっ。………がががげ……ぐはぁ」

 がは、と紫は上半身を跳ね上げて醤油の逆流により目を覚ました。大粒の涙

をためて状況を整理する為に見渡した。

「な、なにしゅんのよ。ひゅひゅこ」

「ユカリンの寝顔が可愛かったから……つい」

 笑顔の幽々子に紫は肩をすくめた。黒いヨダレを拭って机に屈服した。

「もう、せっかく気持ちよく寝てたのに。……ミカンいる幽々子」

「まぁ、素敵。すごいわ、ユカリン」

 その時、三人が廊下を歩く音が近づいて来ていた。







◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 コタツといえばいったいなんでしょうか?
 それは、ミカンです。
 コタツの机上にあるミカンは至高の果実になるのです。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 白玉楼の居間にあるコタツは、それぞれ四方を囲まれていた。

「妖夢~ミカンを頂戴~」
「はいはい。今むいであげますから、待ってくださいね幽々子さま」
 幽々子は机に屈服してミカンの房をほうばっていた。

 藍と橙は楽しく折り紙をしているし、紫はまた寝始めてしまった。



 
 妖夢は、ある意味異様な春のコタツに何も考えないようにした。
 口が裂けても言えない言葉があった「幽々子さま……このコタツそろそろ仕舞いませんか」と――。

「妖夢。今夜は鍋が食べたいわ」
「……あ、あつくないですか」
 幽々子さまは、コタツといったら鍋だった。



~冥界 白玉楼  コタツのある春の日~
 暖かくなってきた今日この頃ですが、私の家ではまだコタツが鎮座しています。魅惑のコタツはなかなか手放せませんよね。
 暢気でいいです白玉楼は……皆さんは?
雛菊
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コメント



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9.80名前が無い程度の能力削除
幽々子さん、なんて鬼畜な!
天然どSというのも新鮮でまた。
やっぱり冥界は春になっても寒いのでしょうか。