Coolier - 新生・東方創想話

そこにはだれもいない?

2010/05/12 22:28:51
最終更新
サイズ
6.68KB
ページ数
1
閲覧数
1094
評価数
2/13
POINT
640
Rate
9.50

分類タグ


「許せ、とは言わない」

「憎め、とも言いたくない」

「だから、好きにしろ」

「だが、ここから出す事はない」

「それだけは――絶対だ」


「お前の名は――今日からフランドールだ」


 その声に、ふぅん、と私は呟いた。


「今日から、ね。ちなみに「私の名前」はどうなるの?」
「お前はいる。だがお前じゃない。だがお前だ」
「…私に何をしたの」
「戻らないように。2つに切り分けた。お前は「お前」の妹だ。そしてソレは覆らない。これは私の秘密。墓の底まで持ってゆこう」
「……はははっ! 面倒なものだね、殺せば良いものを」
「…私が憎いのは、お前だけだよ」
「……私も、「アイツ」だよ」
「だが、もうそうじゃない。――ここで永遠の闇に閉ざされろ。それが、お前の運命だ」


 そして、扉は閉ざされた。世界は暗闇の中に沈み、故に自分の耳に届くのは、自らの吐息で。
 ――あぁ、なんてつまらない世の中なんだろう。
 こうして、私の世界は暗闇に閉ざされた。暗闇の中、ただ生前、当たり前のように見つめていた「アカイイロ」を思い出して――。





 < >





「レミリアって名前負けしてるよな?」
「…何ですって?」


 幻想郷の昼下がり、そこでは魔理沙がレミリアと何気ない雑談をかわしている時だった。毎度の如く、本を借りようと紅魔館を訪れた魔理沙だったが、偶々居たレミリアとパチュリーとそのままお茶会という流れになったのだ。
 その際に魔理沙が告げたのはレミリアの2つ名に関する事。魔理沙は唇に指を当てるようにして。


「何だっけ? スカーレット・デビルだったか?」
「…どこが名前負けしてるのよ? 正に私に相応しい名前じゃない」
「…いや、なんかどっちかというと、フランじゃないか?」
「……まぁ、カラー的に言えばフランの方がそうと言えばそうかもね」


 ふむ、とパチュリーと呟きを1つ入れて魔理沙に同意を示すように頷く。それに黙ってられないのがレミリアだ。彼女はバンッ、と机を両手で叩き、威嚇するようにその背の翼を広げて。


「何でよっ!?」
「だって、なぁ?」
「絶賛カリスマブレイク中のレミィにはちょっと、ね」
「ちょっとって何よ!? 私のカリスマは不動のものよ! ねぇ、咲夜」
「えぇ、完璧なカリスマ具合ですわ。……ぎゃおー」
「さ、咲夜まで馬鹿にして! 何よ、何よっ!!」


 ダンダンッ、と悔しそうに足をじたばたさせるレミリアに皆が思わず苦笑を浮かべる。そんなんだから、と言っているかのようだ。
 そこでふと、魔理沙が喉を潤す為に口に紅茶を運びながらパチュリーへと視線を向けて。


「…そーいや、レミリアのその2つ名ってどうして付いたんだ?」
「…小食故に吸った血を呑みきれず零した事から、だったかしら?」
「……それ吸血鬼としてどうなのよ?」
「う、うるさいわねっ!! すぐにお腹いっぱいになっちゃうのよ!!」
「情けない悪魔様だな、本当」
「お、表に出ろこの白黒魔法使い!! 弾幕だっ!!」
「おぉ? やろうってのか? 上等だ、コテンパンにしてやるぜっ!!」


 そう言って図書館の中にもかかわらず弾幕ごっこを開始する魔理沙とレミリア。パチュリーは眉を寄せ、咲夜ははぁ、と溜息を零した。
 響きだした轟音、それに苦笑をしながら小悪魔がパチュリーと咲夜の方に寄ってくる。彼女は手に持っていた本を机の上に一度置いて。


「でも、お嬢様って結構凄いですよね。吸血鬼ですし、運命を操る程度の能力を持ってますし」
「…運命を操る程度の能力、ですか…」
「…どうかしたの? 咲夜」
「いえ。ここでメイドをやらせて頂いて暫く立つ訳ですが、今でもまだお嬢様の能力がいまいちどのような能力なのか…」
「あぁ、それは私もよ。それはレミィにしかわからないみたいね。見ている世界が違うのでしょう。貴方は時を止めて世界を見る事が出来るように、レミィもまた運命を見ているんじゃないのかしらね」


 さて、と、と呟きながらパチュリーがゆっくりと腰を上げた。すっ、と細められた瞳が見据えるのは弾幕ごっこを続ける2人へと。
 取り出すのはスペルカード。パチュリーは2人に対して問答無用のスペカを叩き込むのであった。





 < >





 ――びちゃ、と音を立ててアカが広がる。
 飛び散った肉と、内蔵と、血と。その全てに濡れて彼女は立っていた。背に揺らすのは翼。瞳は無慈悲な朱き月の瞳。
 あぁ、と呟きが零れる。アァ、と呟きに恍惚の色が帯びて口元が裂けるように笑って――。


「…夢」


 小さな声。されど声が反響するのはそこが地下だからだろうか。閉ざされた闇の中、瞳を開くのは一人の少女。
 フランドール・スカーレット。レミリア・スカーレットの妹にして、もう一人の吸血鬼。気が触れている、と言われ、地下室に閉じこめられた破壊の悪魔。
 彼女は気怠げに額を抑えた。あぁ、と吐息が零れる。本当に懐かしい夢を見た。あれは過去の自分の夢だ。


「……本当に、懐かしいなぁ」


 クツクツ、と。それは普段は見せないような笑い方。それは普段は何処か幼い仕草をしている彼女の様子を一変させて。



 ――この化け物っ!



 ふと、脳裏に過ぎったのは誰かの悲鳴。悲痛な声で鳴いてるノイズにも似た雑音。それを消し去る為に、潰して、潰して、潰してきた。
 時に力で、時に能力で。そうして暴虐の限りを尽くした彼女に残されたのは―――。


「スカーレット・デビル、か」


 ケタケタ、と笑う。それは姉の、いや、「アイツ」の2つ名。その名称が付いたのはまるで笑い話のような話だ。そう、フランにとっても。


「知らなきゃ、笑い話。でも、私は知ってても笑い話」


 きゃはは、きゃはははっ、と笑い声が零れる。その様はまさに気が触れていると言っても過言ではない。ただ、笑って、笑って。


「……アイツも、馬鹿だよねー」


 不意に、フランは手首を振った。その手にはぼんやりとした何かが現れる。それは目だ。その目に映っている光景は魔理沙がレミリアに勝利する光景。
 その目を、見つめ、フランはそっと…―――――その目を握りつぶした。


「これで、未来の道は1つ閉ざされた。さぁ、後は選ぶのはアンタ」


 そしてフランは身を震わせた。堪えきれない、と言うように口を大きく開いて笑った。それはまるで狂ったかのように、それはまるで――泣いているかのように。





   < >





 ありとあらゆるものを破壊する程度の能力。
 フランドール・スカーレットを閉じこめた原因そのものであり、フランドールの狂気の発端。
 しかして、ありとあらゆるものを破壊する、というのはどういう手順を踏んで行われているのか? そもそも、全てを破壊するのには一体何をどうしているのか?
 物には寿命というものがある。それはいずれ壊れる運命にある。


 ――ならば、その壊れる運命を「操作」する事が出来たのならば……。


 「目」。フランドールが破壊の能力を行使する際に引き出す「相手の最も脆い部分」。つまりそこは、定められた死。死因となりやすい部位ではないのか?
 それを、意図的に破壊する。破壊、つまり起こり得る死因の因果を与える事によってそれを崩壊させる。それこそ破壊の能力のプロセスなのだとしたら――。


「そこに、果たして彼女はいるのでしょうか?」


 隙間で何かが笑う。覗き見て、笑う。その隙間を覗く事が出来るが故に彼女は笑う。
 それは余りにも滑稽で、あまりにも狂気的で、あまりにも愛情的なお話。滑稽な喜劇で、陰湿な悲劇。
 そこに、彼女はいないのだから。


「時が流れゆくごとに人々は月から魔性を消し去った。それと同じように、月に狂気はいらないと言うのでしょうか?」


 ねぇ? と隙間でクスクス、クスクス、と笑って。


「フランドール、とは、何と皮肉な名前よね」


 人形、と。人格を、意志を、未来を奪われた彼女にはまさに相応しい。


「いつか、貴方が「そこに在る日」が来るのでしょうか?」





「フランドール・スカーレット。いえ――――レミリア・スカーレットの狂気の影」






 ―――そこに、誰か居たのでしょうか?
 フランの能力について妄想していたら出来たお話。…どうしてこうなった…?
道化
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.490簡易評価
10.70ずわいがに削除
これがスカーレットの能力か…面白い解釈でした
12.80名前が無い程度の能力削除
むしろレミリアの能力の考察って点でおもしろかった

月の狂気が剥がされても月の神秘性が失われないのは影があるから
カリスマがブレイクしていっても「影」の方は永遠にそうならないから大丈夫さ、おぜうb