朝、目が覚めると十六夜咲夜のお尻から、尻尾が生えていた。
「えーと」
とりあえず、頭を抱えてみる。
そして、何か原因は無いかを前日の事を思い出してみたが、特に心当たりはない。
「……パチュリー様に相談するか」
とはいっても、昨夜全力で夜更かしをしていたパチュリー・ノーレッジは、昼を過ぎないと起きてこないだろう。
まさか、私事で主人の友人を起こすわけにもいかないし、そうなるとしばらくの間、咲夜はお尻から生えた尻尾と付き合わなければならない。
「とりあえず、着替えましょ」
そこで気が付く。
咲夜のお尻から生えている尻尾は、髪の毛と同じ色をした銀色のフサフサした尻尾だ。
尻尾のボリュームがかなりある所為で、下着が上手く上がらない上、スカートを履いたらお尻の方がめくれ上がってしまう。
「どうしましょう」
結局、咲夜はスカートと下着の両方に尻尾用の穴を開ける事にする。妖獣などがやっている尻尾穴という奴だ。
少し勿体ないが、スカートをめくれ上がった状態で家事をするよりは良いだろう。
溜息を一つ吐き、尻尾穴の開いたスカートを履くと十六夜咲夜は部屋を出た。
「おはよう」
廊下で妖精メイドに出会った咲夜は、いつも通りに挨拶をした。
「あ、メイド長。おはようございま」
そこで下っ端の妖精メイドは固まる。
完璧で瀟洒なメイドのお尻に、ふさふさの尻尾が生えていたからだ。
新しいファッションだろうか。
いや、でも自律的に動いているから、ファッションという事はないだろう。
じゃあ、何だろう。
「えっと、メイド長」
「なにかしら」
声をかけてみて、妖精メイドは詰まった。
十六夜咲夜のお尻から出ている尻尾と思しきものについて、聞いてみたい。
でも、どう聞けばいいのだろう。
『メイド長、そのケツから出てるのはなんですか?』
『メイド長、それって尻尾なんですか?』
『あれ? お尻から何か出てますよ?』
どれもあまりクールじゃない。
そもそも他人のお尻事情について聞くのは、かなりの失礼。マナー違反じゃなかろうか。
(ああ、でも!)
その一方で、仮に咲夜がお尻の尻尾を知らないのであれば、ちゃんと注意をしてあげなくてはならない。
ここで、ちゃんと『おや? お尻に尻尾が付いていますよ』と言わなければ、メイド長がいらぬ恥をかいてしまう。
(よし、頑張って言ってみよう)
妖精メイドは、気を取り直してメイド長に話そうとする。
(……ま、待てよ)
だが、そこで彼女はある可能性に気が付いた。
これが、幻想郷の最新モードである可能性だ。
幻想郷のモードは、力ある妖怪によって作られる。
彼女達が、可愛い帽子を被れば大して力の強くない妖怪達もこぞって真似をし出して可愛い帽子が大ブーム、素敵な日傘を多用すれば、里でも日傘が売れまくる。
どんな世界でも、セレブリティの影響力は絶大なのだ。
「さ、流石ですメイド長。まさか、私のような妖精メイドを試していたとは! これからの最新モードは、尻尾なんですね! ちょっと、香霖堂に行って尻尾を買って来ます!」
こうして、幻想郷の最新モードは誕生するのである。
勘違いをして仕事中に屋敷を飛び出した妖精メイドは置いておいて、咲夜はメイド達を統括して、尻尾をフリフリ仕事をこなしていく。
いつも通りの瀟洒な仕事ぶり、例え尻尾が生えていようともメイド長に死角は無いと思われたが、だんだん雲行きが怪しくなっていく。
ハタキをかける度に、尻尾がフリフリ。
それにつられて隣りで窓ふきをしていた妖精メイドが、尻尾に飛び付く。
ホウキで掃き掃除をして、尻尾がフリフリ。
やはり、隣りでチリトリを持っていた妖精メイドが、尻尾にタックル。
テーブルを拭き拭き、尻尾がフリフリ。
部屋で一緒に掃除していた妖精メイド達が全員、尻尾にダイブした。
「もう、真面目に掃除をする気があるの!」
メイド長は我慢の限界とばかりに、妖精達を正座させてプリプリ怒る。
すると、妖精メイドの一人がこう言った。
「だって、仕方が無いんです」
「仕方が無いって、なにが!」
メイド長の怒声に、他のメイドも立ち上がる。
「メイド長の尻尾が、あまりにも魅力的なんです!」
「見てると飛び付きたくなるんです!」
「例えるなら、空を流れる流星(シューティングスター)のように……」
「お似合いだぜ、ベイベェ」
スカカカッ
口答えをした妖精メイドの足元に、銀のナイフが突き刺さった。
「お掃除する? それとも貴方達のお掃除をしましょうか?」
その言葉に、妖精達は「サー・イエス・マム!」と直立不動で敬礼をして、任務……ではなく、お掃除に戻っていく。
そんな規律正しくなった妖精達を見て、十六夜咲夜はホッと一息吐く。
そして、自分の尻尾を見て溜息を吐いた。
「うーん、そんなに魅力的なのかしら?」
つやつやした綺麗な毛並み、ふさふさした銀色の尻尾、それがゆっくりと左右に揺れている様は、確かに魅力的なのかもしれない。
いや、とても魅力的なのかもしれない。
そう、飛びつきたくなるくらいに。
咲夜は、尻尾に飛びつこうとする。
すると身体を捻ってしまい、尻尾が向こうに行ってしまう。だから、再び咲夜は尻尾を追うのだけど、尻尾はまた遠のく。
ぐるぐるぐるぐる
お尻の尻尾を追いかけて、咲夜はその場でぐるぐる回っていた。
「咲夜ー、ご飯まだー!」
屋敷に響き渡った主人の呼び声を聞いて、咲夜はようやく正気に戻る。
そして、顔を真っ赤にして「そ、それじゃあ掃除をよろしくね」と妖精メイド達に言付けると、主人の食事を用意する為に台所に向かったのだった。
「ねえ、咲夜」
「はい、何でしょう。お嬢様」
「その尻尾、なに?」
「はあ、朝起きたら生えていまして」
朝御飯の苺タルトを食べながら、レミリア・スカーレットは咲夜に尋ねる。
すると、咲夜も「困ったものです」という顔で返した。
「それって、動くのね」
そんな咲夜をレミリアは興味深げに見た。
それは、新しい玩具を見つけた子どもの顔に似ている。
「骨は通っているのかしら?」
「さあ、分かりませんわ」
「触って良い?」
「え、ええと、その……はい、どうぞ」
レミリアに請われて、なぜか咲夜は、尻尾を触らせることを恥ずかしいと思った。しかし、主人に逆らう事など考えられないので、我慢して後ろを向く。
フサフサの銀毛の尻尾、それは狐や狼のような長毛の尻尾だ。
「触るわよ」
「は、はい」
とても優しく、ソフトに、レミリア・スカーレットは咲夜の尻尾に触る。
その手つきに、咲夜はじっと耐えながら「あっ」とか「……ふぅン」などという声を漏らす。
どうも、気持ちが良いらしい。
「ふうん。中には骨が通ってるのね。固いわ」
「あ、あまり強く握らないでください」
咲夜が後ろを向いたまま、顔を真っ赤にして呟く。
しかし、レミリアは構わずに咲夜の尻尾をいじくり回す。
「ひゃん!」
咲夜の身体が跳ねた。
どうやら、レミリアは少しばかり強く握り過ぎたみたいだ。咲夜が、少し涙ぐみながら背後のレミリアを見る。
「お、お嬢様」
「あら、ごめんさない。ちょっと咲夜の尻尾が可愛かったから……ところで、なんで咲夜は尻尾が生えたの?」
今更なレミリアの問いに、咲夜は「分からないんです」と言って首を振った。
「ふうん。とりあえず、後でパチェ聞いてみましょうか」
「はい」
「あと咲夜」
「はい?」
「似合っているわよ」
その言葉に、咲夜は澄ました顔で「ありがとうございます」と言う。
しかし、彼女の尻尾は千切れんばかりにブンブン振られているのだった。
魔法使いは前日、夜遅くまで起きていたので起きるのは昼過ぎ。
だから、主人の支度をした後、咲夜は家事に戻ろうとする……が。
「ねえ、咲夜。ちょっとカードで遊ばない?」
紅魔館の当主に誘われては、嫌とは言えない。
その『面白い事を思いついた』という顔に不安を覚えないでもなかったが、咲夜は、レミリア・スカーレットに連れられて遊戯室に向かい、パチュリーが起きるまでカードで遊ぶ事となった。
面子は、レミリアにフラン、それに美鈴と咲夜の四人。
「今日の咲夜は尻尾が生えているね。狼さんなの? わんわーん」
フランは、咲夜の尻尾を見て、楽しげに犬の鳴き真似をしてみせる。これには咲夜も苦笑いをするしかない。
「咲夜さん、お手……なんちゃ」
スカカカッ
フランの冗談に相乗りしようとした美鈴は、かすめるように飛んできたナイフを見て、タラリと汗を垂らす。
やはり、メイド長をからうのは命がけだ。
「はい、そこ。じゃれてないでゲームを始めるわよ」
そこでレミリアがカードの準備をする。
遊ぶゲームは、ババ抜きだ。
一枚だけ入ったジョーカーを押し付け合う単純ながらも駆け引きに特化したカードゲーム。
運や読み合い以上に、いかにババを押し付けるかの駆け引きが重要である。
「それじゃ、ジョーカーを一枚抜いてっと」
レミリアは鬼札の片割れを抜いてシャッフルする。そして、全員にカードを配ると、情け無用のババ抜きが始まった。
「んー、まあまあかしら」
ペアとなったカードを捨て、レミリアは残ったカードを数えて呟いた。
「いい感じかなー」
残り二枚となったカードを見ながら、フランが言う。
「うーん、微妙です」
かなり大目に残ってしまったカードに、美鈴は溜息を漏らす。この調子では、ババもここにありそうだ。
「こんな物ですね」
そして、かなり少なくなったカードを見て、十六夜咲夜がポーカーフェイスで静かに語る。
その尻尾は、嬉しそうにフリフリと動いていた。
「咲夜さん、結構いい感じみたいですね」
「そうかもね」
「それじゃ、さっさと始めましょうか。私から、フラン、咲夜、美鈴と行くわよ」
「はーい」
本格的にゲームスタート。
四人はカードを隣りのプレイヤーから順次に引いていく。
「んー、残り二枚から減らないなぁ」
「私の場合は、すぐに減りますね」
「ふふ、フランに追いついたわ」
「こっちも順調ですわ」
他の面々に続いて、咲夜は澄まし顔で語る。
しかし、美鈴から引いた後、尻尾の動きが明らかに変わった。
それまでの嬉しそうなフリフリから、尻尾を振らずピーンと立てているのだ。
「じゃあ、咲夜から引くよー。どれにしようかな?」
フランドールが、咲夜のカードを見定めようとする。
するとフランの指が、あるカードの前に来ると咲夜の尻尾がブンブンと振られ、他のカードを取ろうとすると、ショボンと尻尾が垂れてしまう。
それなのに咲夜の顔は、いつも通りのポーカーフェイス。自分の尻尾がどうなっているのか、気が付きもしない。
「お嬢様。咲夜さんは……」
「シッ、黙っていなさい」
その様子を見て、レミリア・スカーレットは顔を伏せて笑いをかみ殺しているのだった。
ゲームの結果は、咲夜の惨敗。
「どうも、今日は調子が悪いみたいですね」
そういって、咲夜は穏やかに笑うのだけども、その尻尾は憤るようにブンブンと振られている。
「ま、まあ、調子が出ない事もありますよ」
「そー、そー」
適当に調子を合わせるフランと美鈴、そして肩を震わせてプルプルしているレミリア・スカーレット。
「そういえば、そろそろパチュリー様が起きる頃ですので、ちょっと尻尾の事で相談してきますね」
「はい、行ってらっしゃい」
「いってらー」
美鈴とフランが咲夜を見送ろうとする。
その瞬間、レミリア・スカーレットは顔を上げた。
「ああもう! いちいち尻尾で自己主張をして可愛すぎるのよ咲夜は! パチュリーに尻尾を消される前に、全身全霊でモフモフし尽くしてくれるわ!」
そう言うと、紅魔館の主はメイド長の尻尾が生えたお尻に抱きついた。
「お、お許しくださいお嬢様!」
お尻に抱きつかれたメイド長は、何とも言えない悲鳴を上げながら、尻尾をフリフリするのだった。
「朝起きたら、尻尾が生えていたねぇ」
起きぬけのコーンフレークを食べながら、紅魔館の知恵袋、パチュリー・ノーレッジは軽く呻く。
「はい、朝起きたら生えていたんです」
「んー、咲夜が実は人狼だったという線は?」
「あら、私は人狼だったのですか。ビックリです」
そう言うと、咲夜は驚いた風に手で口を覆って見せる。尻尾は普通にフリフリしたままだ。
「それは無いわよ。咲夜は少し一般人とは違うけど、見紛う事無く人間だわ。化け物の血が混じっているなら、この私が分からないわけはない」
レミリア・スカーレットは吸血鬼、血の事となれば信用できるだろう。
「なら、外的要因が原因か。ねえ、咲夜。昨日何をしたのか教えてくれない? どんな小さなことでも構わないから」
「分かりましたわ」
パチュリーに言われて、十六夜咲夜は前日の行動を事細かに列挙していく。
「昨日は、朝目覚めてから、パチュリー様のお食事の支度。その後、妖精メイドと賄いを作って、食後休みをしてから、屋敷のお掃除をしました。それと並行して洗濯をし、お昼の用意。これに平行して賄いの用意。その後に掃除の続き。あと、時計塔の調子が悪いので、それのメンテナンス。夕刻、お嬢様の起床の準備をして、お嬢様の朝餉を準備と、それに平行して妹様のご飯の準備。その後は、お嬢様にずっと付いていました。夜の十二時を過ぎた頃にお夜食をお作りして、お嬢様が明け方頃にお休みになられたので、私も寝ました。だいたい、こんなところでしょうか」
本当は、途中途中で時間を止めて休憩している事を、咲夜は秘密にしておいた。
「改めて聞いていると、咲夜って凄い仕事しているわねぇ」
レミリアが、感心したように言う。
「うーん。特に不審な所はないけど、他になんかない? すっごい小さなことでも良いから」
「……そうですね」
咲夜は、尻尾をプルプル震わせて考える。
「そう言えば、少し風邪気味だったので、寝る前に風邪薬を飲んだかもしれません」
「それよ!」
パチュリー・ノーレッジは大声で叫んだ。
八意印の風邪薬はとても良く効く事で評判だ。
しかし、一つだけ注意すべきことがある。
薬には人間向けと妖怪向けがあり、特に妖怪向けの薬を人間が飲んだ場合、副作用で大変な事になるのだ。
十六夜咲夜が前日に飲んだ風邪薬は、妖怪向けの方だった。
「永遠亭に問い合わせてみたら、薬の成分が抜ければ自然と収まるという話だったわ。だから、その尻尾もそのうちに消えるでしょう」
「ご迷惑をおかけしました」
調べてくれたパチュリーに咲夜は深々と頭を下げる。
それに対して、魔法使いは「いいのよー」と手を振った。
「けど、良かったわね咲夜」
レミリアの言葉に、咲夜は尻尾をフリフリしながら「はい、ありがとうございます」と、答える。
こうして、メイド長のお尻から尻尾が生えた異変は、解決したかに見えたが……
「おーい、チルノー。だいちゃーん!」
霧の湖で遊んでいた二人の妖精の元に、紅魔館の妖精メイドが息も絶え絶えにやってくる。
「どったの?」
「大丈夫?」
チルノ達は、そんな妖精メイドに心配そうに声をかけるが、彼女は手を振って制した。
「さ、最新モードについての情報があるの!」
次の日、幻想郷はお尻から尻尾を生やした妖精達で溢れかえったという。
どっとはらい。
やっぱり咲夜さんにポーカーフェイスでふさふさ尻尾ふりふりは可愛いww
そのままスカートはいて喜んだときにスカートが突然わっさわっさするのも可愛いかもw
ではないでしょうか
「サー・イエス・マム」の方が正しいかも知れません。
妖精メイドたちや、お尻に抱きつくレミリアとか面白かったです。
やかましいわw
( ;´Д`)<100点持ってけドロボー!
あと、あとがきに不覚にも(ry
耳もセットで書いてください!
読 後:尻尾咲夜さんテラカワユス!
>これがほんとのフェアリーテイル。
ついに東方もエロゲ界進出か…。胸が熱くなるな。
ルール違反だけど14の訂正は余計だろ
妖精の語彙の問題としてスルーか、サーは両方いらない
サーとマムが一緒にあるほうが文として余計おかしい
作者のひと真面目に直しちゃってるよ……
頼むから調べてから訂正してよ……
品無さすぎワロタ