Coolier - 新生・東方創想話

悩める乙女は取り敢えず暴走した

2010/05/12 10:55:39
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「ブン殴るわよ?」
「……もうやってるじゃないか」
 全く他愛の無い事と言えば実際その通りなので、そう言われたら反駁の余地も無く納得せざるを得ないのだが、ところが当人からしたらそんな事は露知らぬ事である以上、それは大いに驚かねばならない事であり、要するに事件だった。
 なので当事者である所のノーマル魔法使いである霧雨魔理沙は血相を変えて博麗神社へとブレイジングスターしたのである。
 すると当然その延長線上にある神社は爆発した。
 となれば神社を預かる博麗霊夢としては魔理沙に夢想鉄拳制裁をくれてやる事も已む無しだろう。誰も庇い立てはすまい。実際誰もしなかった。
 ともかく、風通しと開放性に優れる形となった神社の修繕は縁側で呑んだくれていた萃香と天子が「任せとけー」と言ったので任せる事にし、半泣きの魔理沙は哀れ境内は砂利の上で正座と相成ったのだ。
「まぁいいわ、急ぎだったんでしょうし。よっぽどの事なんでしょうね、さぞかし。それで? なんなの」
 言うは睥睨する視線も厳しい腕組巫女である。
「いや、実はほらその……えーとな……」
 応えるはしどろもどろで帽子をいじいじする挙動不審白黒である。
 が、霊夢が改めて握り拳を軽く振り上げると、魔理沙は慌てて「待った、それは待った」と制止の構え。要は言えば良いのだ。言うは易しである。
「で?」
「……実はこの所おっぱいが膨らんできていてだな」
「はぁ」
「……ど、どうしたら良いのだろう」
 頬に薄紅が差し、如何にも恥ずかしそうにたどたどしくちょっと口調がおかしくなっている魔理沙の様子は実に乙女。
 対し霊夢はそんな乙女を思いっきり馬鹿にした顔になっている。むしろ色々通り越して呆れが混じる勢いだ。
「どうもこうも成長してる証拠じゃないの。良かったわね。その内調子に乗ってる時の紫みたいに立派な谷間も出来るでしょうね。満足? これで充分よね? さ、素敵なお賽銭箱はあっちよ」
「そ、そんな冷たくあしらわなくたって良いじゃないか! 酷いぜ。相談できる相手なんて限られてるんだぞ!?」
「森にはアリスが居るじゃないの」
「いやあいつ人間じゃないし」
 そう言われ、ああ、と霊夢は納得する。そしてそこから思考は発展し、そういえば魔理沙の知り合いって人間じゃないのばかりであり、魔理沙は家出娘であった所まですぐに思い至った。
 ここまですっ飛んで来るのも一応分からなくもない。急ぎ過ぎにも程があったが。
「とは言ってもねぇ……」
 聞かれた所でそもそも勝手に育つものだから止まるまで放っておくしかないのである。下着で補整する手もあるようだが、霊夢にはそっち方面に頓着する発想がそもそも無い。
「……放っておくしかないんじゃないの?」
「ほ、放っておいて良いのか?」
「私はそうしてる」
 問われ、頷く霊夢である。大体人間が成長する時間なんて二十年も無いのだから、後何年間かくらい我慢すれば済むのだ。妖怪じゃないんだから。
 故に霊夢は放置を推奨し、何事も無為自然、時の行くまま在るがまま、である。
「本当にそれで良いのか……?」
 しかし巫女と違って魔法使いはそれが不服のようだ。
 であるなら霊夢に取って出すべき答えは一つきり。
「そうよ。ああ、素敵なお賽銭箱はあそこ」
 こうして自らの一大事に対し何ら有効性のある対策を示さなかった霊夢に対し、魔理沙は抗議の一つもしたかったがそもそも自分が彼女に一大事をやらかした以上何も言えず。悄然と家路につこうかと思ったら霊夢がおもむろに箒を叩き折ろうとしたので、慌てて素敵なお賽銭箱にお布施をしたのである。
 その後とぼとぼ歩いて鳥居を潜った辺りで、神社の修繕について喧嘩を始めた萃香と天子が更に神社を破壊して霊夢によって夢想天生ハメを受けていたが、それを笑うゆとりが今の魔理沙には無かった。



「酷い目に遭ったな……」
 神社から森への道程、箒に跨ってへろへろと飛んでいく魔理沙である。
 行きの速度とは比べるべくもない安全飛行だが、自身の大事を友達が(向こうがどう思っているかは不透明だが)理解してくれなかったというのが精神的に大ダメージなのだ。魔理沙からすれば何で霊夢はああ泰然としていられるのか不思議で仕方がない。
 勝手に胸が膨らむのだぞ?
 若干張って痛いというか、それは下から押し上げるようなものだから当り前ではあるが、痛みを伴うのだぞ?
 そして……そうやっている内に気が付けば柔らかな乳房らしきものが。
 初めの内は太ったんじゃあるまいなと思いもしたが。
「どう考えても異常事態じゃないか」
 極めて真面目な面構えで言い切り、直後には不安を覗かせる表情で自身の胸元を軽く撫でる。
 自覚症状が現れるまでになったそこは、ゆくゆくは箒の柄を挟めるくらいにはなるのだろう。
 それは良い。
 そうなるものだという事くらいは分かる。
 が、そうなるまでが良くない。
 魔法使いであるからには魔理沙とて相応の蔵書を持つし、蒐集癖もある。おかげでアリスやパチュリーと言った面々との衝突やいざこざは絶えないが、相応の収穫は得てきているのだ。
 しかし事この件については今まで溜め込んだ知識など何の役にも立たなかった。
 いっそ香霖に相談しようかと言う発想が浮かびはしたが、刹那後には真っ赤になった顔を左右に振り回している。それに、如何に森近霖之助とて魔理沙からおっぱいがどうとか相談されても対応に困るだろう。困って欲しい。いつも通り対応されたらこっちが困る。恥ずかしい。よせ、やめろ……!
 徐行飛行を続けつつ、独り勝手に盛り上がってしまった魔理沙は熱を帯びた両頬に手を当て、大きく深呼吸。素数を数える必要までは無かった。
 そうだ、霊夢に相談したのが間違いだったのだ。
 だから別の相手に相談を持ちかければ良い。
 誰であれどう考えても霊夢よりマシな結果になるだろう。今度は落ち着いて訪問すれば更にマシマシだ。
 教訓は活かしてこそ成長と言うものである。
「しかし……理屈は間違ってないが……」
 他に誰がいたっけな、という話になる訳だ。
 ざっと知人の顔、名前を思い浮かべれば誰も彼もが人間以外。いっそアリスやパチュリーを頼ってしまえと思わなくもないが、それはそれで間違った知識を吹き込まれそうである。何せこちらの弱みだ、付け込まない理由がない。何せ逆だったら遠慮なく付け込むし。
「あー……地下に紅魔館に山に魔界は妖怪の巣窟だから論外、永遠亭と白玉楼は惜しいが色々事情が異なるから論外……」
 指を立てては却下を繰り返していく。
 が、ふと魔理沙は首を傾げる。
「なんか忘れてないか?」
 霊夢以外にも居たろう、どう考えても。
「いかん、動転して頭が回って無いようだな」
 胸の事に加え、霖之助について軽く考えた事が思考の非正常化に一役買っているようだった。勿論魔理沙はそれを否定するだろうけれど。
 徐行を続けたまま腕を組み、あー? と悩んでいたら左程弄せず答えは出た。
「ああそうだ、そういえばあいつ人間だった」
 言うが早いか行き先変更、目指すは湖紅魔館。
 瞬時に高速度となった魔理沙の箒は滑らかに空を飛び、蒼穹に星と光の軌跡を刻む。
 まだド忘れしたままである人物が居る事には、取り敢えず気付いていなかった。



「加減しなさい莫迦」
「申し訳ありませんでした」
 半壊した紅魔館の門壁。
 構わず昼寝を嗜む門番。
 柳眉を逆立てるメイド長。
 大人しく土下座な魔理沙。
 おおよその説明が不要な状況であり、早い話また突っ込んだ魔理沙が現れた十六夜咲夜にうっかり殺されそうになったと言う程度の事だ。
「まったく……まぁいつもと違ってそうやって謝るだけまだ殊勝だけれど。こうして出遭ったからには見過ごすつもりは無いわよ? どうせ図書館に用でしょう」
「そうじゃなくってだ」
 返答がてら顔を上げようとした辺りで、魔理沙の目の前に煌めく銀の光。瞬時に地に突き立ったナイフに映る自分の顔は青褪めていた。
 慌てて平伏し直した魔理沙に、咲夜は腕を組みつつ傲然と見下ろしている。
「そうじゃなくてですね。……用があるのはお前になんだ。図書館は別にいつでも良いが、今回はそうじゃない」
「あら、珍しい。専ら図書館の蔵書か、私手製のデザートくらいしか見えていないと思っていたけれど。それで何の御用かしら」
「あー……その、外じゃ障りがあると言うか。出来れば中で話をしたいんだが、ああ、一対一で。大事な話だから」
 これに対し咲夜の直感はまず真っ先に怪しいと告げていた。常日頃の魔理沙を考えればそれが当然であり、さて今度はどんな姦計を腹に抱いているか分かったものではない。
 だがそこは完全で瀟洒な紅魔館のメイド長である。相手の策が何か気付いた時にはその策は潰えたも同然であり、それが出来るからこそ完全で瀟洒なのだ。
「……仕方ないわね。珍しく殊勝な態度だし、聞くだけ聞いてあげても構わないわ」
「助かる」
 咲夜が言葉と共に踵を返したのを了承と捉え、顔を上げた瞬間さっきのナイフの煌めきに若干引いたが、それ以外の支障が無いようなので慌てて立ち上がって彼女を追う。その過程で、未だ眠りこけている紅美鈴という存在に魔理沙は軽い尊敬の念を覚えた。アレがいてよくそうしていられるな、と。
 そうして咲夜に案内されるままに魔理沙はテラスへと通され、夜であればさぞ月と星空が拝めるであろう真っ青な青空の下、いつも通り忽然と現れたティーセットを囲む事となった。
「それで?」
 咲夜の問いは簡潔である。それ以上も未満もありようが無い。
「実は……あー」
 やはりどうにも恥ずかしく、言い出すのには勇気が必要とあっては全力全開ラブハートな魔理沙には辛いモノがある。
 だが言わねばなるまい。それも出来るだけ早く。何せ見る間に咲夜の表情が―――実際には大した変化は無いのだが、間違い無く疑惑と猜疑と不審が蒼い双眸に宿っている。あれが紅くなったらアウトだ。
 ただ、それをそうと分かっていても一歩を踏み出せるかはまた別の問題である。
 情けなく語尾を流している間、ふらふらと彷徨う魔理沙の視線が概ね咲夜を捉え、ふと、改めて彼女を認識した。
 そしてそれを自覚するや、ああ、と陶酔境に軽く爪先分踏み入れたような気持ちになる。
「まず、一つ頼みがあるんだが」
 何故か生唾を呑みつつ魔理沙は言い、対し、漸くか、という態度を軽く滲ませながら先を促す意味で咲夜は頷く。
「お前のおっぱいを見せてくれないか。出来ればで良い、直で見たい」
「……は?」
 脳が理解を拒んだ訳も無く、相手の言っている事が把握できていない訳でも無く、ただ、何を言っているんだお前はと言わんばかりに咲夜は単音で抗議する。
 この至極当然の反応に対し、魔理沙は一歩も引く姿勢を見せない。
「いや、だから、お前のおっぱいが見たい。見せてくれ。直で。それがダメなら触りたい。両手で」
 傍から聞けば完璧に狂言である。
 しかし困った事にこれを言い放っている本人が珍しく大真面目だという事だ。
 何が何でこうなっているのか、という疑問を咲夜は率直に、簡潔に口にする。
「……なんで」
「なんでって……こう、私は気付いたんだよ。お前のスタイルが凄く良くて、さっき付いて行ってる時とかも後ろ姿が何て言うかカッコ良かったし、脚も綺麗だし、服の上からでも胸とか尻とかえろいし」
「…………」
 唐突の褒め言葉。勿論咲夜としては今更言われるまでもなく当り前の事柄ではあるが。えろいかどうかは見る側の判断に寄るとはいえ。
「だからって見たがる訳?」
「いけないか!?」
「逆に考えてもみたら? 私が今すぐ貴方の裸を見たいと言ったら貴方は見せるの?」
「……それが交換条件だって言うんなら……」
「落ち着きなさい」
 服のボタンに手を伸ばした魔理沙を咲夜は即座に制止する。突然現れたかと思えば人の身体を誉めそやし、挙句乳房を見せろと言い出し、反論すればこの始末だ。何か悪い茸でも食べたのだろうか?
「私のスタイルが良いのはともかく、どうしてそれが貴方へ乳房を見せる事に繋がるの」
「だって、そりゃあ、見た感じおっぱいがあるように見えるし、じゃあ、直で見てみればそれがより分かる訳で」
「……なんでそんな事をしたがるの」
 若干の頭痛を覚え始めた咲夜である。もし堂々巡りになるようなら即刻追い出そうと決めたのはこの時だ。
「…………実は私も、最近……おっぱいが膨らんできてて……」
 瞬転、照れ始めて乙女のようなたどたどしさを発揮する魔理沙である。
 その豹変振りに咲夜はますます困惑を深めた。
「だからってどうしてそんな」
「だってだな、こう、大人になる過程で膨らむのは知ってる。お前みたいになるのも分かる。だけどそれは結果だろう」
「私はまだ過程ですわ」
「まだ大きくなるのか!?」
「その辺りは個人差が大きいけれど……少なくとも私はまだ過程ですわ」
 咲夜の発言に驚愕し、そうか、成る程と何やらぶつぶつ言い、魔理沙は改めて言葉を発する。
「ともかく、お前もそうなら話が早い。どうすればいいんだ?」
「何が」
「おっぱい。……霊夢は放っておけば良いって言うんだが、本当にそれで良いのか?」
 魔理沙は大真面目だ。
 普段であればさっさと空になるティーカップは並々と中身を残し、茶請けのクッキー類も一切手を付けていない。
「……他に相談する相手くらいいるでしょうに。母親とか、霊夢以外で私じゃない誰かとか」
「親はちょっと……私は家出娘だしな。それに霊夢以外の誰かもちょっと……」
 歯切れの悪い魔理沙に、ああ、この子人間の友達いないのね、と咲夜は納得した。日頃の付き合いを見ればその辺りは推して知れよう。
「……それで、要は胸の発育について話を聞きに来たと」
「そうそれだ、はついく」
 発音が微妙に覚束なかったのは言われて初めて気が付いたからなのだろう。
「そう言う訳で知恵を拝借したい。ついでにお前のおっぱいも見たい。直で」
「教える分には構わないけれど、どうしてそこまで私の乳房を見たがるの」
 流石に、咲夜とておっぱい発言の度に胸元に視線を向けられては両腕で胸元を隠したくもなるし、照れたくもなる。
「だってほら、発育の過程が見れる訳だ。霊夢は見た感じ私と差があるようには見えなかったから、じゃあお前なら丁度良いじゃないかと。自分のと見比べる事でより理解が深まる訳だな」
「それは自分勝手が過ぎるでしょうに」
 とはいえ、咲夜とて魔理沙の気持ちが分からない訳でも無い。自身もそう相談が可能な環境とは言い難かったのだ。
 だが彼女の場合は単純に美鈴を頼って解決をしたのである。
「それに、何も霊夢や私に聞く事も無いわ。人形遣いとか近所に住んでたでしょう」
「あいつはダメだ、人間じゃ無い」
「大差無いと思うわ」
「大差無くてもあいつはダメだ。何を吹き込まれるか分からん」
 職業的な意味の魔法使いと、種族としての魔法使いの間には溝があるんだろうか? と咲夜は一瞬思ったが、直後に日頃の魔理沙のパチュリーへの乱行を思い出し、ああ、日頃の行いか、と思い直した。自業自得ではないか。
「……まぁ良いわ。取り敢えず知識の方だけれど」
「うん」
 えらく素直である。普段であれば充分不気味に感じるくらいに。
「ブラジャーって分かるわよね?」
「?」
「……知らないの?」
「うん」
 やはり素直である。ちょっと勘弁して欲しいと思えるくらいに。
 あっさり頷いてくれた魔理沙に対し、直である必要は無いにしろ脱がざるを得ないだろうか、と咲夜は思い始めていた。
 時間を止める。
 何せ相手はブラジャーを知らない。自分のを持って来て見せても良いが、付け方その他を色々聞かれるだろう。それに、恐らくまだ先の事とは言え正しい付け方を教えておく必要もある。となれば実演が一番早いのだ。誰かをマネキン扱いにすれば済むかもしれないが、そうなると自分のサイズと合う者が紅魔館内には居ないのが問題になる。美鈴は辛かろうし、他の者では緩過ぎるし、だからと言ってその者に下着を持参させるのも何やら忍びない。この点さえ気にしなければ自分が一肌脱ぐ必要も無いが……。
 いや、待てよ。
 他の誰かにこの相談事が知られる、もしくは疑いの目がかけられる事を魔理沙が承知するだろうか。
 巧く誤魔化す手段は数あるが、明らかに冷静ではない魔理沙がそれを受諾し、実行出来るだろうか。
 考えた結果、咲夜の出した回答は、「無理っぽい」であった。
 ……いや、更に待てよ?
 里の物好きに託してしまえば良いじゃないか。
 かのワーハクタクなら喜んで魔理沙に協力するだろう。魔理沙自身は何故か人間に聞く事に固執しているようだが、そうである必要が全くないどころかこれ以上ない人選に違いない。
 絶好の回答だろう。
 時間を動かす。
「そもそも……私より里のワーハクタクに相談した方が良いんじゃないかしら、こういうの」
 早速切り出すと、あっ、と言わんばかりの顔で魔理沙は手を叩いた。
「それだ! 慧音! しまったな、なんでそれに自分で気付けなかったんだ……」
 咲夜に言われるまで慧音の存在をすっかり忘却していた事に魔理沙は深く溜息を吐き、その後、そうとなればとメイド長の淹れた紅茶を一息で飲み干し、クッキーの数枚を口に放り込みがてら箒に跨る。
 行動の早さと行儀の悪さに咲夜が若干悩んだ後軽く眉を顰めたが、その頃には魔理沙は離陸していた。
「ありがとうなー!」
 元気の良い、いつもの魔理沙の声。
 ああ、これで静かになる、と思いつつも、どこか咲夜の心には寂しさのようなものが残るのだった。
 やはり同種族であるからこそ、のようなものだろうか?
「……山の巫女に押し付けてみても良かったかしら」
 何となくそんな事を思いつつ、咲夜は昼空に舞う星を眺めていた。



 数時間後。
「……なんで私の所に戻ってくるのよ」
 陽も傾き始め、お嬢様の起床時間が迫りつつある頃。
 どういう訳だか数時間前のように咲夜と魔理沙はテラスでティーセットを囲っていた。
「いや、それがだな。……慧音には会った。ブラジャーの説明も聞いたし、付け方も見て分かった。あれが無いと後で色々大変なんだなぁ」
 さらっと流すように言っているが、ああ、これはワーハクタクに相当食い下がったのだろうな、と咲夜は内心軽く謝った。いくらあの人間好きでも、ブラジャーの付け外しの実演をそう簡単に他人に見せるとは思えない。……意外とあっさりやってのけるかもしれないが。
「で、いざ私も買おうかと言う段になったんだが……」
 そこで魔理沙の顔と声が曇る。
「……何か不都合でもあった訳?」
 まさか売っている所が無い訳もあるまい。咲夜自身のや、美鈴、恐らく慧音もだが、下着は上も下も市販品だ。
 外界と隔絶しているとはいえ、幻想郷は新たな妖怪の類が入ってくる度に新しい知識と技術も入ってくる。文化も外のそれと少しずつ似通ったものになっていくのも不思議は無いだろう。ただ、やはり大量生産の点で不備がある為、値が張るのが今後の改良点となる。
「取り扱ってるのがうちの道具屋だったんだ。……独占でさ。他の所じゃ売って無いときた」
 自嘲交じりに肩を竦め、魔理沙はやれやれと首を振った。
 言われてみれば、下着を調達するあの店は霧雨の屋号が付いていたか。魔理沙の言葉で、咲夜は思い出す。
「つまり、家出娘としては買うに買えなかった、と」
 尚言えば、誰かに買ってきてもらうという選択肢を取らなかった時点で、自分の実家の品は何が何でも手に取るつもりは無いようだ。それにしても、女性用下着の販売を独占するとは、商魂逞しいと言うべきか、この子にして親ありとでも言うべきか。
「……なら山で買ってくれば?」
「私は人間だ。人間が作った人間用のを身に付けたい」
「志は立派です事」
 まぁそれに、山で下手な物を買い求めるとどういう訳かそれを嗅ぎ付ける鴉天狗もいる。そういう意味も含めれば拒否の理由にもなるだろう。
「それでどうするの。知ったでしょうけど、成長過程の乳房は放っておくと垂れるわよ?」
「うむ。そこで私は自作する事にした」
 重々しく頷いたかと思えば、魔理沙は堂々と言い切った。
「自作?」
「そう。物の形と用途は分かってるんだ、なら自作したって問題無い。霊夢を人体実験に使えば尚問題無い」
「霊夢がそう簡単に貴方の目論見に乗るとも思えないけど」
「将来の事を言えば付けざるを得ないだろう。それに買うと高いから、霊夢が買うとも思えない」
 それもそうか、と納得するも、多分霊夢の場合ブラジャー使わなくても垂れるとか左右でサイズが違うとかそういった悩みとは無縁な気もする。理由はと問われても霊夢だからとしか応えようがないが。無重力娘だし。
「でだ」
 ずい、と魔理沙はテーブルに身を乗り出した。
「試作の為にちょっとお前のを一つ借り受けたいんだが。大丈夫、返すから」
 ああそう来たか、と咲夜は溜息を零す。
 魔理沙の『借りる』と『返す』がどれだけ胡散臭いかなど分かりきっている咲夜である。幸い、自分の部屋や下着の場所などを知られておらず、また自分の手で護りきれる範囲である為パチュリーの二の舞を演じる事はなさそうだ。
 よって。
「お断りよ」
 瞬時に抜き放った銀ナイフの輝きも煌びやかに、切っ先を魔理沙の喉元に付きつけて笑顔を見せた。
「……どうしてもか?」
 この期に及んでまだ交渉を続けようとするのは大したものだ。それくらいのふてぶてしさがあってこそ魔法の森で独り暮らしなんて事も出来るのだろう。
 だが、自殺行為に等しい。
 笑顔のまま咲夜がナイフをずらそうとすれば、猫のような反射速度で魔理沙は身を引く。
 魔理沙とて慧音の説明からブラジャーの重要性については認識しているつもりだ。故にそう簡単に借り受けられるとは思っていなかったが、ここまでとも思っていなかったのだろう。軽く喉元を擦りつつ、抗議の視線を咲夜に向けていた。
 その視線を瀟洒に無視し、更に、これ以上話を面倒にさせない為にも次の手を打つ。
「無理に私から借りなくても、山の巫女の所へ借りに行けば良いでしょうに。人間が作った人間用のくらい持ってるでしょ」
「……!」
 咲夜の言葉に魔理沙は声にならない驚きを発し、口を開けたまま何度か頷いた。
 完璧にド忘れしていたのを思い出したのだ。東風谷早苗の存在を。
「そうだ! あいつなら! しまったな、なんで自分でそれに気付けなかったかなー」
 最近聞いたような事を再び言うと、口を閉じ、頭を掻き。その後やはり最近見たような行儀の悪い行動をし、箒に跨った魔理沙は礼の言葉を置き去りに山へと一直線。
「…………。……まぁ、仕事の邪魔にならなければそれで良しとしておこうかしら」
 数時間前に口にした事をまさか実行する事になるとは、と苦笑しつつ、咲夜はやや夕暮れの色合いが出てきた空に舞う星を眺めていた。





―――その後、洗濯物を取り込もうとした早苗が下着泥棒の被害に遭った事に気付き、近隣の妖怪が無差別に酷い目に遭ったそうだ。
 犯人は見つかっていない。
               ______
               ´>  `ヽ、
              ._,.'-=[><]=.,_
              ヽi <レノλノ)レ〉'
              ノレ§ ゚ ヮ゚ノiゝ 
         、_    `k'_.〉`=' !つ
    *  ☆ ミ≡=_、 _i_ノ(,,i!_,-、i!>__
   ☆  +  彡≡=-'´ ̄ ̄ `~し'ヽ). ̄


追記:レスでの御指摘の通り誤字脱字の方修正致しました。御指摘頂いた両名様、ありがとうございます。
……ああそうか、「買ってこれば」は方言か。
再追記:折角だから分類もつけておいた。
Hodumi
http://hoduminadou.com/
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コメント



0.2610簡易評価
7.80名前が無い程度の能力削除
魔理沙の胸が膨らむとか、冗談きついっすよ。
8.無評価名前が無い程度の能力削除
破壊力:E
成長性:A

だなHAHAHA
9.80名前が無い程度の能力削除
テンパリすぎだろw
12.70名前が無い程度の能力削除
脱字報告ー
>そうだ、夢に相談したのが間違いだったのだ。
13.80ぺ・四潤削除
香霖堂verの服だと若干あったほうが似合うと思うな。
箒の柄を挟めるくらいって、そんなもの挟んでどうするwww
それはつまりアレか。香霖の箒の柄を挟むと。そういうことか。なるほど。頑張れ。
14.90名前が無い程度の能力削除
咲夜さんと魔理沙かわいい
こんな関係性が好みです
15.70名前が無い程度の能力削除
待て魔理沙、早苗さんのブラジャーは渡さん。
18.70一文字の人削除
咲夜さん……。
22.90名前が無い程度の能力削除
なにこのかわいい魔理沙
24.80名前が無い程度の能力削除
少女成長中
   NowGrowing...
25.100名前が無い程度の能力削除
咲夜さんが嫉妬に狂う展開を予想した俺は死ねばいい。
28.100名前が無い程度の能力削除
御山の雄天狗様達は前科アリと見たw
29.80名前が無い程度の能力削除
大変愛らしい魔理沙ですな。
話のオチがあっさりしていてちょっと不満。
35.80名前が無い程度の能力削除
魔理沙かわええw
36.100名前が無い程度の能力削除
( ゚∀゚)o彡゚おっぱい!おっぱい!おっぱい!

・・・失礼、取り乱しました。
37.80名前が無い程度の能力削除
もう一回くらい天丼あっても良かった気もするけど、
とりあえずこの咲夜さんは何気に酷い気がするw
40.70名前が無い程度の能力削除
作者は男か?
大人になっても、挟めるようになるかどうかは個人差が大きいぞ……

最後があっさり終わってしまった感はあるな。
51.90名前が無い程度の能力削除
嵐のような迷惑さだw
58.無評価名前が無い程度の能力削除
どれだけ乙女展開を繰り広げても、結局は盗っ人オチに帰結するのか。
いつか袋叩きになって抹殺されるぞ。
66.60名前が無い程度の能力削除
なんだか酷くイライラする魔理沙でした
いくら思春期の悩みだからといって
いい歳して煮え切らない照れは勘弁して欲しいです
咲夜の対応具合とテーマ自体は良かったのでこの点数で
68.80名前が無い程度の能力削除
もうちょっと…!もうちょっと話を広げて欲しかったっ…!!
まりさのオッパイオッパイ
70.100名前が無い程度の能力削除
おもしろかったです!