聖白蓮は子供好きである。
それも、重度の。
変態というカテゴリに方足を突っ込んでると言っても過言では無い。
いや、過言であっては欲しいのだが、現実とは非情である。
彼女は所謂ショタコンであり、同時にロリコンなのである。
さらに困ったことに本人は無自覚なのである。
確かに自分が子供好きなのは認めているが、重度とは認めていない。
普通だと思って、異常な行動をとるから余計にタチが悪いのだ。
確かに。確かに私は彼女を尊敬している。彼女の持つ夢に私はこの上なく惹かれ、私は彼女について来ている。
そう、この性癖と自分を普通と信じて疑わない性格が問題なのだ。
性癖を治せとは言わない。しかし、もう少し自制を聞かせてほしいのだ。早い話が自重しろ。ってかまず自覚して。
私は寅丸星。毘沙門天の代理としてここ、"命蓮寺"にいる。
メタな話になるが、私は風や地より紅妖永辺りの五ボスに近いと思っている。
何が言いたいかといえば、ようするに私は苦労人ポジションなのである。
部下のナズーリンはいまいち言うことを聞かないし、主人(?)の聖もさっき言った通りトラブルを作り、私を悩ませる原因の一つをになっている。
「星~。」
そして今日もまた暢気な声色で人を困らせるのである。
聖はもとよりのほほんとした性格ではあるが、今日はいつにも増してピースフルな声音、感じるのは嫌な予感のみ。
聖の声音の暢気さがと嫌な予感は比例する。下手をすれば二次関数かもしれない。
そんな滑らかな半円形は胸にぶら下げているものだけにして頂きたい。
そんなことを思いつつ、私は大根を洗う手を止め、振り返る。ああ、笑顔が眩しい。げんなりする。
「なんでしょうか?」
「寺子屋を建てようと思うの。」
「……どこに?」
「ここによ。寺だけに?なんちゃって。」
「…………。」
何言ってるんだろうこの人。
とりあえず寺の中に寺子屋を立てることがダジャレだと思っているなら今すぐ寺子屋の起源を調べるべきである。
なんにも面白くないから。
「建てると言われてもですね……。どこにそんなお金があるんですか。」
「お金なんて関係ありません。全ては善意の下――――」
「善意だけで小屋は建ちません。」
「決して折れぬ真っすぐな心も――――」
「言っていることは立派ですけどね、どれだけ強く清らかな心があっても、自分だけじゃどうにもならないでしょう。」
「ええ。ですが、私は一人ではありません。もっと沢山の私を信じてくれている方達がいます。」
「は……?」
数日後
「里の方々が総出をあげて寺子屋を建ててくれるそうですよ。」
にこにこ
マジですか。
なんだかんだ言っても慕われているのはやはり事実……。
そう、里の人間は聖が重度の子供好きということを知らない。
聖自身の人当たりのよさもあり、面倒見のいい人と捉えられている。とはいえ私のツッコミと言う名の抑制が無ければそれも叶わなかったと言っていいだろうが……。
「来月までには開校よ。じゃ、私慧音先生と教育とかの話をしてきますから……。」
「え、ちょ、聖が教師をするんですか?」
「ええ、当然です。」
「……私も副担任として居ていいでしょうか。」
「それには及びませんよ。」
「及びますから!貴方と10にも満たぬ子供十数名……ああ恐ろしい。」
「どうしてですか。何度も言うように私は只の子供好きで――――」
「迷子の子供を連れて帰って来た揚句、一緒にお風呂に入ろうとする人がまともに見えますかっ!?」
「それは善意ですよ。」
「恐ろしい善意もあったものですねぇ!その善意を世間一般では不埒と言うのです!とにかく私は副担任ですいいですね?」
「そこまで言うのでしたら……。ふふ、立派ですね星は。」
褒めているのだろうか。あまり嬉しくないが。
開校一日目。
流石と言うべきか、意外と言うべきか。
寺子屋命蓮校にはたくさんの子供があつまった。その数十二人。
人里校からも数人移動して来たようだ。
彼らがハズレクジなのは言うまでもない。
聖嬉しそうだなぁ……。
勘弁して……。
「寺子屋命蓮校の教師の聖白蓮です。皆さん、こんにちは。」
「「「こんにちは~!!」」」
「~~~~っ♪♪(声にならない興奮)こ、こんにちは~!」
「「「こんにちは~~!!」」」
「こんに
「早く授業始めましょうよ。」
「ああ、はい。そうですね。」
危ない危ない。危うく挨拶だけで初日が終わる所だった。
危うく聖のあだ名がこんにちはおばさんになるところだった。
「さぁ、皆さん、授業を始めますよ。保険体育の教科書をってどうしたんですか星えっ急用ですか?」
「タイガーアパカッ!」
「へぶっ!?」
説明しよう!
星の必殺タイガーアパカッはその判定と無敵と隙の無さで厨技筆頭と言われているのだ!
「何をするんですか……。」
「何をするんですか……じゃないですよ!なんでしょっぱなから保険体育なんです!昨日慧音先生に何を教えてもらったんですか!」
「…………かけ算とか……。」
「勉強教えてもらっとったんかいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
駄目だこれは駄目だ。
聖が誰かに勉強を教えるとか無理だ。
かけ算て、おま……。
「……時間割表見せてください。」
「別に普通ですよ?」
月:保保社理
火:歴保国保
水:保保保
木:書国保保
金:保理社保
「おい保健多すぎだろコルァァァァッ!?」
これは性関連のページ開いて笑ってる子供も泣くレベル。
「保健なんて週一でいいんですよ!水曜日とか授業してないじゃないですか!?」
「もう……PTAと同じ事言ってるわ……。」
「PTA!?居るんですか!?ってか私は正しいと思いますけどねそのPTA!」
「星、貴方は本当に子供達に教えなければならないものを分かっていません。」
「少なくとも保健じゃないことはわかります!」
「どうして!?皆に正しい性知識を与えないと、この子達が将来痴漢になったりしたらと……。」
「いい年こいて保健イコール性知識の時点で貴方が既に痴女予備軍ですから!しかも算数がないじゃないですかこれ!」
「算数は嫌いですから。」
「あんた昨日何してたんだ!?」
「算数なんかこそ子供達に必要ありませんよ!なんですか方程式やら三角比やら因数分解やら血継限界やら!将来なんの役にたつというのですか!」
「ヘソ曲がりな子供ですか……。だいたいそんなもの寺子屋の算数ではやりません。ってか血継限界は算数じゃありませんし。どんなストロング教育ですか。掛け算でいいのですよ。」
「掛け算……わかりました。やってみます。」
「……聖、四かける七は?」
「…………………………三十八?」
「算数は私がやります。」
「………………ごめんなさい。」
寺子屋命蓮校には独自の科目がある。
それは説法の時間。
具体的に言えば、説法をかみ砕いて子供達にその有り難さを伝える授業である。ちなみに提案したのはナズーリン。
保護者からも評判がよく、上白沢慧音も聖から説法の話を聞いて人里校にも取り入れようと画策していたぐらいである。
ちなみに、聖もやはり尼としての自覚はあるのか説法に関しては余計な事は言わずに、丁寧にこなしていた。
説法を説いている時の聖のとても楽しそうな顔はきっっ子供達と授業をしている以外の要因もあるのだろう。
さてそんなある日。
「分校?」
説法の授業が人里校でも始まった頃、そんな話を聖から切り出された。
いわく、説法目当てで大人が寺子屋に来る事が増えたのだという。
そのため、大人向けの分校を作り、説法をもっと広めようというのだ。
「皆さんが説法に興味を示している今がチャンス!そう思いませんか?」
「成る程、名案ですね。」
「でしょう!そこで、その分校の先生を星にお願いしたいのです。」
「ええ、分かりました。お任せください。」
「……ご主人、だから貴方は馬鹿なんだ。」
分校の話を聞いたナズーリンは開口一番そう言った。
「ふへ?」
数年前なら"馬鹿"という言葉に叱るところだが、近頃は諦めている。
「まったく、聖も悪知恵が回るようになったもんだ……。聖には私が言っておくから、ご主人は引き続き算数の授業を…………。」
「え、いや、あの、待って。どういう事ですか。」
「いいか、ご主人。聖は分校を立てようとしている。何故?」
「説法目当ての大人が増えたから……。」
「そう、つまり本校から大人がいなくなるわけだ。そしてご主人は?」
「私も……分校に……。」
「よし、それじゃあ算数教師のご主人に問題だ。本校-大人-ご主人=?」
「……………………。」
計算(?)した星の顔がサーッと青ざめていく。
「理解したようだね。さて、聖の事は私に任せて……っていないし。」
「タイガァァァァァァァァキャノォォォォォォォォン!!」
「きゃああああっ!?」
説明しよう!
タイガーキャノンは発生が早い上に上下の撃ち分けが出来る汎用性の高い超必殺技だ!
なぜかカプ○ス版ではタイガーちぇぇぇぇん!!って聞こえるのは気のせいだろうか。
「聖っ!!分校は今すぐ取りやめです!」
「ど…………どうしてですか。」
「どうしたもこうしたもありません!もっともらしい理由を付けてはハーレム再構築ですか!いい加減にしないと温厚な私もプチキレますよ!?」
「プチって……」
「プチトマトのプチです!ちょっとだけキレるんです!マジギレ一歩手前です!」
「…………ぷふふっ」
「なんで笑うんですか!!」
「ごめんなさい、マジトマトがなんだかツボに入っちゃって」
「真面目に話を聞けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
だめだ。
本当に駄目だ。この人。
もうだめだ。だめ過ぎる。どうしてこうなったんだろう。
私はくすくすと笑っている聖の顔を見ながら、私と聖が出会った日の事を思い出していた。
自分が虎だった頃。普通の虎よりも優れた力を持っていたために、仲間からは危険な存在として敵視され、妖怪退治の人間からも逃げ続けて、気に入らないことには力で訴えるようになって。
そして聖に出会った。聖は私に「まだ分かり合える」と言ってくれた。
馬鹿だと思った。もはや妖怪だった私は人間になめられるのが嫌で、何度も襲った。
しかし聖は私がどれだけ襲っても受け入れてくれた。
「貴方は一人じゃない。人間も妖怪も、共に受け入れられる日が、いつかきっと来ます。だって、私は人間だけど、貴方と友達ですもの。」
そう言って、私を優しく抱きしめてくれた。
なんて強引な話なんだろう。私はそう思った。それでも、そんな彼女の思想に私はだんだん惹かれていった。そして紆余曲折あってここにいる。
毘沙門天の代理人として以前に、私はそういう理由があって、彼女について来たのだ。
なのに……なのに…………
「星……?」
私は泣いていた。
気付けば涙は勝手に溢れていた。
なんてことだ。私がしっかりしないとだめなのに。
こんな姿、聖には絶対に見せたくなかったのに。
……出ていこう。一度、部屋から出よう。
私がこんなんで真面目な話なんて出来ない。
後日改めて……
そう思い、踵を返そうとした、その時だった。
私は包まれていた。ちょうど、あの時のように。
聖がしっかりと、しかし優しく、私の体を抱いていた。
「ごめんなさい、星。私、先生になってからというもの、かわいい子供達のことばっかり考えてて……」
いや、寺子屋立てる前からだよ。
でも、やっと。やっと自覚してくれたのだ。
私の涙は、嬉し涙に変わった。
「聖……!」
「大丈夫です。子供達だけじゃない。貴方も大好きですよ、星。もちろん、ナズーリンも、村沙も、一輪も、ぬえも、皆大好きです。だから泣かないでください。ね?」
「……………………」
涙は渇いていた。
私は聖を少し離して、聖の顔をじっと見つめる。
「聖……」
私がそう呟くと、
「星♪」
いつもの十六倍ピースフルな笑顔で聖は微笑んだ。
「聖……。」
「星♪」
「聖……。」
「星♪」
「聖。」
「星……?」
「だからそうじゃねえってんでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
タイガージェノサイドを密着かくらった聖は天井に頭から突き刺さった。
尚、分校は本校が休みである毎週土曜日に本校にて開校である。
その講師が聖であった事は言うまでもない。
アグレッシブにツッコむけれど、やっぱり抜けてる星も素敵w
ナズーリンの様子を見る限りはギリギリアウトコース高めだったのか。よかったなww
子供好きって便利な言葉だなwww
「プチキレる」はもしかしてお・り・が・みネタですか?
>変態というカテゴリに方足
→変態というカテゴリに片足 でしょうか?
林先生の小説は面白いですよね!
気のせいじゃないよ!