最近、なんだか香ばしい匂いがする。
ここ一週間ほど、どこからともなく漂ってきている。
最初は「あーなんか妙な匂いだなぁ」程度で済んだのに、最近とみに濃くなってきた。
きつくて眠れないという程ではない。とはいえ、そろそろ気になりだしたから、なんとかしたい。
「んー……」
慧音から聞くところによると、人里でも似たような匂いがするらしい。
うちの神社からあそこへは結構な距離がある。なのに、あそこでも被害が出てる。ということは、この匂いは結構な広範囲へ広がっているのだろう。
原因を見つけて撤去なり何なりすれば、あっさり解決するとは思う。しかしだ。被害範囲が広い分、探索範囲も広域になるから、面倒くさい。
ましてそれが、人間や妖怪の仕業だったとしたら? 相手は移動するし、ひょっとすると弾幕で語り合う羽目になる。
負ける気は無い。けど、お札も針もタダじゃないのだ。地底に行ったときみたいにスポンサー(パートナーだ)が経費を出すならともかく、平時ではできるだけ節約したい。
まあ、もう少し待って収まらないようなら、人里からでも正式な依頼があるだろう。正式な依頼となれば、経費も下りるし謝礼も出る。そうなってから出向こうかな。
玄関がトントンと鳴った。
「ごめん下さい……、霊夢、居るか」
玄関をノックする音なんか久々に聞いた。いやいや、来客なら結構あるのだ。
ただ、どうして我が家にやってくる連中は、縁側から入ってきたり、霧になって入ってきたり、隙間経由でやって来たりするんだろう。玄関がかわいそうじゃないか。
客人の声が誰のものか思い出すのに時間がかかった。それは、そいつが普段うちに来ないような輩だったからだ。といっても、付き合いが無いわけでもないのだが。
「どしたの珍しい」
立て付けの悪い玄関戸を開ける。人里の守護者、慧音先生が居た。宴会のときくらいしか、ここへは来ないのだが。
真面目な顔をしている――などというと、彼女が普段不真面目みたいに聞こえるが、まあ実際はその逆だ。
私が言いたいのは、普段真面目な慧音が、輪をかけて真面目な面持ちをしている、ということだ。深刻、といってもいいかもしれない。
何かあったのだろうか。あったんだろうなあ。
「玄関は修理したほうがいいと思うぞ」
そうかと思えば、こういう間抜けたことを言うのだ。転ぶかと思った。
知識人のテンポはイマイチ分からない。つうか余計なお世話だ。
「いいのよ。コツさえつかめば開くんだから。一回持ち上げればいいわ」
「そうか、ならいいが。……頼みがあるんだ。ちょっといいか?」
「いいわよ、暇だし。まあ上がんなさいな」
頼みねえ。まあ、慧音からのものだから、別段おかしなものではあるまい。
もっとも、私に頼むようなことって何だろうとは思う。彼女はしっかりしていて、そこそこ実力もあって、だから大概のことは自力でこなせるはずだ。
立ち話も何だし、彼女を居間に招く。
お茶を淹れながら色々考える。とはいえ、本人から直接聞いたほうが早い。
「どーぞ、で、用件って?」
戸棚から引っ張り出した比較的高級なお茶を出しつつ、尋ねた。
「うむ。この匂いのことで頼みがな」
「というと?」
「妹紅がな、うちに転がり込んで来たんだ。というのも、あいつの家の周辺は、この奇妙匂いがどんどん強くなっていってるんだな。とうとう辛くなったらしい」
「ふむふむ、妹紅が家に戻れるように、原因を探し出せ、と」
「ああ。できるならば撤去も頼みたい」
なるほど。用件と事情は呑み込んだ。まあ断る理由は無い。めんどくさいと言えばめんどくさいが、自分でもこの匂いが欝陶しくなりつつある。いい機会と思おうか。
しかし、これは人里からの正式な依頼ではなく、あくまで慧音個人の頼みなのだろう。そうなると心配事がひとつ。お金だ。
「ああいや、勿論タダでとは言わない。謝礼は出すし、経費も負担するさ。ただ」
私の懸念は解消されたわけだが、慧音はそこで口籠もった。何か問題でもあるのだろうか。
「ただ――なるたけ、ゆっくりやってくれないか?」
その提案は、私にとってかなり意外だった。
妹紅のこととなると(言葉は悪いが)バカと化す慧音のことだ。妹紅のためにも早めに頼むー、とかなら分かるんだけど、何故ゆっくりやれと言うのだろう?
「いやな、一日二日くらいならまだしも、あいつが長期に渡ってうちに泊まり込むなんて珍しいわけだ」
「うん、まあ、そうでしょうね」
彼女は長いこと一人暮らししてきたようだし、いまさら誰かに世話になるほど未熟でもないのだろう。というか、人に頼るのが苦手と見える。
「で、だ。ここで甲斐甲斐しく世話をしておけばだな、妹紅の中での私の株が急上昇して、輝夜殿に大きくリードできるのではと……おいおい妹紅、米粒が付いてるぞ」
慧音はそこまで言って顔を赤らめた。そして何かクネクネしはじめた。妄想なら表でやれ。
動機が不純すぎて妹紅が不憫に思えた。
どうせだったら自分で解決すりゃいいのにと思ってたら、そういうことか。自分で解決する暇があるなら、妹紅に費やそうというわけか。この常識人、たまに常識から外れるから油断できない。
まあ妹紅からすれば、うまい飯・熱い風呂・暖かい布団・良き妻(少なくとも慧音はそう自負しているのだろう)の四点セットが付いてくるから、マイナスではないのだろうけど。
とりあえず、断る理由もない。快諾だ。
「いいわよ、引き受けるわ。……場所の目処もついたことだし」
「すまないな。にしても、もう分かったのか? さすが巫女の勘だ」
慧音は軽く礼をし、感嘆の目で私を見た。
私は軽く笑って、返す。
「違うわよ。分かんない?」
「?」
「妹紅ん家で匂いがきついっていうなら、思いつくような原因はあそこしかないでしょう」
「……なるほど」
妹紅宅は竹林の近くに立っている。それが最大のキーワードだ。だって、竹林にはアレがあるじゃないか。
妹紅への嫌がらせか、またぞろ怪しげなことをやっているのか。詳しいことは調べないと分からないが、あそこのマッドな連中ならいかにもありそうな話だ。
竹林のど真ん中に鎮座する、でっかい和風屋敷、永遠亭なら。
「やれやれ。妖精も引っ越してるのかあ」
竹林というところは、迷いやすいことさえ除けば案外に過ごしやすい環境だ。
だからなのか何なのか、結構な数の妖精たちが根城にしている。
普段ならそいつらがアレコレとちょっかいを出してくるのだが、今日はまるで姿が見えなかった。
我慢という言葉を知らない連中のことだ。匂いに耐えかねて、どこかに移ったのだろう。
私は平気だ。体の周囲に薄い結界を張ってある。空気だけを通し、匂いの成分を弾くという仕様だ。
永遠亭に近づくにつれて、弾く度合いが強くなっていく。つまり匂いが濃くなっているということだ。
やはり原因はあそこなのだろう。
「普段の異変なら、もっと弾幕とか溢れてて油断できないんだけどね……」
妨害も何もない。あまりに平和すぎてあくびすら出てきてしまいそうだ。
少なくとも永遠亭に到着するまでは、こんな暇さが続くだろう。そこから先は分からないが……。
などと考えているうちに、永遠亭が見えてきた。
「……妙ねえ」
妖精たちが見えないのは良しとして、兎まで見えないのは変だ。
普段なら、これくらい近づいたら、応対と身元確認をしに、妖怪兎の一匹や二匹が出てくるのだ。
逆に言えば、これは平時ではないということでもある。まだ攻撃されていないとはいえ、相手が何をしているのか分からない以上、警戒しておいた方がいいだろう。
「これはちょっと……やな予感だわ」
目の前に近づいても、兎一匹出てこない。それどころか、誰かの気配がまるでしない。
ひょっとすると、非常事態なのかもしれない。正常な状況でないことは確かだ。
私はゆっくりと建物内に入った。
兎一匹居ない。もぬけの殻だ。永遠亭は広いとはいえ、妖怪兎の数も相当多いのだから、誰にも出くわさないなんてことは有り得ない。
嫌な汗が出る。単純明快に相手をぶっ飛ばせるのならともかく、こんな状況は嫌いだ。
なっがい廊下を歩くと、ウグイス張りの床がきしんだ。静かな廊下に嫌な音が響く。不安になって、結局飛んで移動することにした。
ふと、誰かが倒れているのを見つけた。見間違えだと思いたかったが、その特徴的なコントラストを見間違えるわけはない。
「永琳?」
呼びかけると、びくりと動いた。近寄る。
意識はあるらしかったけれど、憔悴している。
何事にも平然としている彼女をここまで追い込むとは、いったい何があったのか。
外敵の攻撃? ――にしては、建物に損傷がなさすぎる。
永琳は戦い傷ついてこうなったのだろうか。彼女の能力は傷をすぐに消してしまうために、分からない。
「……霊夢、逃げなさい」
「永琳、いったい何があったの。兎は?」
彼女の声は、普段からは想像もつかないほどに弱弱しかった。
「兎は退避させたわ。あなた、結界で匂いを防いでるのね――でも駄目、アレは精神そのものに干渉してくるのッ……逃げないとあなたも危ないっ」
「永琳!?」
そこまで言うと、永琳は目を見開き、気を失った。
精神そのものに干渉してくる――いったい、永遠亭を何が襲ったというのだ。
そこで私は、あることに気づいた。
「何、この気配ッ……」
廊下の奥、何の変哲もない扉の向こうから、おぞましい気配が伝わってくる。存在感で総毛立ってしまうような何かが、あそこにある。
こんな感覚は、今まで戦ったどんな相手にも感じたことがない。まるで自分の心を根こそぎ壊されてしまうかのような――この私が怖いと感じるほどだ。
ぎぃぃぃ、と、扉が開いた。よりにもよって、ゆっくりと。
「……輝夜?」
ただ、その向こうから現れたのは、見たこともないようなクリーチャーだとかではなかった。
かわいらしい、永遠亭の姫だ。異常だらけの永遠亭の中で、彼女だけは唯一普通だった。
「あら霊夢。どしたの珍しい?」
「輝夜、……それは?」
輝夜は平然としている。私は彼女に圧倒されざるを得なかった。
それは、このプレッシャーの中で平然としているからではない。
彼女がその脇に抱えた紙束。それが一連の匂いと威圧感の原因だ。一目でそれが分かるほどだった。
「これ? よく訊いてくれたわね、ようやく完成したのよ。読む?」
「……?」
輝夜は私に近づくと、それを差し出してきた。
彼女の目の下には濃いクマがあった。
「不眠不休で書いたからね、無茶したわ。まあその分、力作だけど」
私はそれを受け取らざるを得なかった。
読んではいけないと分かっているのに、なぜだか手が止まってくれない。怖いもの見たさが強烈になった感じだ。
そして私は、そこに書かれた文章を読み始めた。
幼いころに両親を謎の男によって殺害された少年が、「機関」と呼ばれる組織にその潜在能力を買われ拾われ、その憎しみの力によって「闇風の剣士(ザ・シード・オブ・ディザスター)」として覚醒し、光の神々と戦う。ただ、闇風の剣士の力は強力すぎ、「機関」最高のポテンシャルを持つ彼であっても暴走することがある。
彼は孤独を常に身にまとい、機関の他の人間とも折り合いは悪いが、唯一、タッグを組む無口な少女とは心を通わせている。
彼の必殺技「龍炎魔神閃(エターナルソードブレイカー)」は森羅万象を破壊し事象の地平線の彼方に叩き込む。
だが敵もさるもので、光の神々の下に集う聖光の四騎士、そのそれぞれが指揮する聖光騎士団が闇風の剣士の前に立ちはだかる。
戦闘シーンの表現はといえば、「――― ド ク ン 」だとか「疾いッ……!」だとか「ククク……」や「漆黒の闇」だの「久遠の静謐」だのと続く。「落ちる」ではなく「墜ちる」であるし、「焼ける」ではなく「灼ける」だ。ズバッ、バシュウウなどの擬音が臨場感を高める。
敵に操られた仲間と主人公が戦うシーンで、主人公が長口上でもって説得し、その洗脳を解くシーンなどは必見だ。
「お前はお前だ、お前なんだッ!!」まごう事なき名台詞だろう。
そんな内容が、原稿用紙にして二十枚、八千文字にまとめられていた。
「どう? 大作でしょう、ふふふ」
「うわぁぁぁぁ……」
自信満々の笑顔で輝夜は言った。
一方私は、どこからともなく取り出したスコップでもって、原稿を粉砕しようとした。
輝夜が慌てて回収する。
「あわわ、危ないじゃないのよ!」
「輝夜あんた、人を殺す気!? あやうく自分の昔を思い出すところだったわよ」
「殺す気って、いったい何を言ってるのか知らないけど、この作品を世間に広めるという私の崇高なる目標を邪魔するなら容赦しないわ」
輝夜は私から距離をとると、スペルカードを構えた。
それを見て、私も弾幕に備える。
この戦いは絶対に勝たなくてはならない。あんなものが世間に広まったら、大変なことになってしまう。
輝夜はカードを掲げて、高らかに叫んだ。
「神宝『輝龍魔弾(ブリリアントドラゴンバレッタ)』!!」
その名前を改めて聞いて、私は理解した。
なるほど輝夜は筋金入りの――。
おやこんな時間に誰だろう。ちょっと見てくるから続きは後で
読みながらリアルに「うわぁああああ!?」って叫んでしまった・・・
もっと熱くなれよォォォォォ!
しかしそうなると東方の○○程度の能力とかも中二臭が・・・・・・ん?お客さんかな
とろけるような破壊を贄として共に舞い踊ろうではないか。
――嗚呼!! 嗚呼!!
このSSを読んでから、腕が灼けるように――熱い!!
血が、冥き血が欲しい……! クク、ククククク………
もっとも、『我々(ネット住民)』にとって『それ(中二)』は褒め言葉でしかないのだがな……ッ!!
地の文で水増しされてるけど、ラスト付近以外は会話文だけで成立するよね
重要なのは、その作品を更に昇華させて、より自分の能力を高めることなのですよ~
さぁ、狂人さんの「心」(昔のノートとか、USBメモリのテキストファイル)をドンドン創想話に開くのですよ~
今すぐ消し去りたい過去が…っ!
だが、モバゲーの携帯小説はこれ以上だった気がする・・・
俺の黒歴史が疼く……!
―――私にも、こんな時代があった。
あとけーね先生、狡猾すぎますww
・何故か難しい漢字の羅列、際どいルビ振り、使わない読みの漢字を技名に使う
・変に使い勝手の悪いようで実は良い能力を使用する
・無意味に派手な演出の技の仕様エフェクト
・やけに一品物に拘る
全部当てはまったら中二で・・・輝夜ぇ