「…………っ!」
博麗霊夢は返答に窮していた。
その言葉を言わなければならないのに、どうしても言う事が出来なかったからだ。
答えは既に分かっている。なのに、どうしても言う事が出来ない。
ここで答えなければ、幻想郷が大変な事になってしまうと言うのに――……
対する咲夜は不適な笑みを浮かべながら、霊夢の答えを待ち望んでいる。
その表情に現れているのは強者の余裕。
咲夜は確信していたるのだ。霊夢がここで敗れる事を。
そして、霊夢は囁く。
出来る限りの、小さな声で。
「北の……っ…………北、のっ………………」
それは、紛れも無い正解だった。
純然たる正答。幻想郷を救う一歩となる言葉。
「はぁぁ? 声が小さくって全然聞こえないわねぇ?
もーっと大きな声で言ってくれないと困るわぁ。私ったら、最近耳が遠くなっちゃったのよねぇ」
だが、残酷な咲夜はさらなる要求をするのだ。
もっと大きな声で答えろと。
叫べと。
腹の底から力を入れて、この幻想郷中に聞こえる程の大声で、叫べと。
「だからさぁ……その答えを、叫びなさい。博麗霊夢!」
◇ ◆ ◇
ここで物語は事の始まりへと遡る。
全ての始まりとなったのは、今から半年程前のある日の事。
上白沢慧音が教師を務める寺子屋に、子供を預けている保護者の中から、こんな要望が出たのだ。
"弾幕ごっこにも、勉学の要素を取り入れてはいかがだろうか"
妖精から妖怪まで幅広い幻想郷の住人が愛する弾幕ごっこ。
華麗な弾幕を展開し、極限の避け合いと撃ち合いを展開する妖怪や妖精、そして人間――それは、子供達の憧れだった。
妖精の放つ光の色彩。魔法使いが魅せる光条。巫女の投げる札の乱舞。何もかも、子供達の好奇心や憧れ、そしてスリルを求める心を刺激していた。
将来は魔法使いや人形遣いになり、自分も綺麗な弾幕を操ろうと夢見る子供は決して少なくはない。
事実、慧音の寺子屋でも時々子供達がその話をしていたのだから。
だが、親としては危険なスポーツに憧れを持って欲しくない、というのもまた当然の感情である。
憧れを持つなとは言えない。
夢を見るなとも言えない。
ならばせめて、弾幕を放つ彼女達に少しでも子供の為になる事をして欲しい――そう、保護者達は願っていたのだ。
具体的には、「あの魔法使いのお姉さんはこんなに勉強をしているから弾幕が強いんだ。だから、立派な弾幕使いになるには勉強も頑張らないといけないんだ」と子供が理解出来る様な事を。
「ふむ……成程。確かに教育者として、子供と接する者として、皆様のお気持ちも分かります」
「こんな事を先生にお願いしてどうにかなるのかとも思うのですが、何卒お考え頂ければありがたいです」
「今度巫女に相談してみましょう。勉学の要素を取り入れた弾幕ごっこの新ルール提案、私としても興味はありますからね」
「ありがとうございます、先生」
保護者達の願いは可能な限り取り入れたい。
それが結果として子供達の教育に良い影響を及ぼすのならば、それはきっと素晴らしい事だ。
そう考えた慧音は宴会の際に当代博麗の巫女であり、友人でもある博麗霊夢にその事を相談。霊夢は面白そうだからとの理由でそれを快諾。
かくして、弾幕ごっこに以下の取り決めが新たに追加されたのである。
"弾幕に被弾した者は、その弾に記されている問題、あるいは弾の撃ち手の出題する問題に答えなければならない"
"もしも問題に正解したならば、被弾は無効となり、弾幕ごっこは継続される"
"出題する問題は原則として弾幕ごっこのプレイヤーが自由に決めて良い。ただし、出題者にも答えられない問題・答えが存在しない問題は反則となり、逆に出題側の失点となる"
それは要するに一種の喰らいボムである。
被弾の際にスペルカードを放つ事で被弾を無効とする喰らいボムだが、優れた頭脳があれば貴重なスペルカードを無駄にせず済むのだ。
これなら、子供でも「しっかりと勉強をすれば、弾幕ごっこでも強くなれるのだ」と直感的に理解が出来る。
新たなルールが制定された時、慧音は満足だった。
慧音だけではない。
このルールに反応を示す者は様々だった。
「今まではあんまり勉強もしていなかったけど、寺子屋に通ってみようかな」と呟く妖精。
「百年間読み漁った本の知識が役に立ちそうね」と嬉しげに囁く七曜の魔女。
「私の頭脳ならば、文字通り姫様にとって不死の盾になりましょう」と自らの頭脳を誇る月人。
「どんな問題が出るのかが今から楽しみだ」と喜ぶ地底の鬼。
「外の世界から持ち込んだ教科書が役に立ちそうです」と喜ぶ風祝。
「お寺で勉強合宿をしてみませんか」と提案を行う毘沙門天の代理。
皆、これからの弾幕ごっこに興味と期待を抱いていた。
弾幕の腕を磨くか、はたまたは勉学に勤しむべきか。
これからはそれらのバランスも重要な要素となるのだ。
弾幕はパワーでもあり、ブレインでもある時代が訪れようとしていた。
これからは、学んで遊べる弾幕ごっこが幻想郷の子供達の憧れとなるのだろう。
教育者としては今まで以上に熱心に教鞭を振るい、子供達の学力向上に貢献しよう――そっと、慧音は己の胸に誓いを込めていた。
◇ ◆ ◇
新弾幕ごっこのルールが制定されてから暫く経った頃、幾つかのルールの不備が修正され始めていた。
回答にかけても良い制限時間の制定や、プレイヤーがお互いの弾に同時に被弾した場合の取り決め、さらにはプレイヤー同士がぶつかってしまった場合の処置等である。
細かいルールの整備も滞り無く行われ、幻想郷のあちこちでは弾幕を放ち、相手の問題に答える人妖の姿がちらほらと見られる様になっていた。
「問題っ! あたい達死神が死者から運賃として取り立てる六文銭、これを家紋として戦の際に旗に描いたのはどこの家だい?」
「真田幸村――正確には真田信繁で知られる真田家よ!」
「ちっ、正解だよっ!」
無縁の塚では、比那名居天子と小野塚小町が互いの格闘技と頭脳を競い合っている。
二人の獲物である緋想の剣と大鎌は激しくぶつかっては火花を散らし合い、時折交わされる出題と回答はさながら息抜きの様。
歴史や数学に混じって時折出題される仏道に関する問題は、流石天人と死神とでも言うべきだろうか。
「出題だよ、白蓮お姉さん! 特徴的な形をしたインクの染みを見せる事で何を連想するかを問い、それにより被験者の人格を分析するテストを何と言うでしょうか!」
「あらあら。流石はこいしちゃん、そんな問題を出して来るとは予想外でした」
「むふふーだ。降参するなら今の内だからね」
「ですが、それなら私にも分かります。心理学で言う所のロールシャッハテストですね」
「せいかーい♪ 白蓮さんもけっこうやるじゃん!」
「二人とも頑張れよーっ!」
命蓮寺の庭では古明地こいしが聖白蓮を相手に知識と弾幕を競っていた。
マニアックな問題にも動じずに軽々とそれらに正解する白蓮と、そんな白蓮にますますの対抗意識を燃やすこいし。
屋根の上からそんな二人を見守る封獣ぬえもまた、楽しそうな笑みを浮かべている。
命蓮寺では定期的に寺子屋と協力しての勉強合宿も行われており、保護者を相手に説法を行う機会も設けられている。
そう言う意味でもまた、白蓮はこの新弾幕ごっこに感謝をしているのであった。
「問題ッ! 我々天狗の発行する新聞を含めて良く言われる"マスコミ"と言う言葉がありますが、これはとある言葉の略称です。では、マスコミを正式に言うと!?」
「ハッ、天狗相手にそんなのを出すとはあんたも焼きが回ったのかしら。マスコミュニケーションでしょうが!」
「正解ですっ!! ちなみに、和訳を行うなら大衆伝達。我々新聞記者は大衆に厳選した情報を迅速に伝えなければならないと言う事ですね」
「言われなくても分かってるわよ! 次、私の問題っ! 私のカメラは携帯電話のカメラだけど、この携帯電話に使われている――」
九天の滝の傍らでは、二人の新聞記者――射命丸文と姫海棠はたてが互いの撮影技術と集めた写真の美しさと知識を競い合っていた。
乱射される弾と繰り返されるフラッシュの瞬き。
手帳に書き記される相手の出題。
そして、時たまに写真の隅に写るミニスカート天狗の純白ショーツ。
明日の新聞の購読者は、何時もより少しだけ増えるのだろう。主に男性読者の分が。
皆、この新弾幕ごっこを楽しんでいた。
窮屈な勉強会だと思わずに雑学クイズ大会の様な物だと思えば受け入れやすかったからだ。
互いの弾幕の美麗さと回避のテクニック、心理的な駆け引きと同時に知識を競い合うと言うこのルールは大成功と言えよう。
とにもかくにも、幻想郷に徐々に浸透しだしたこの勉学弾幕ごっこルール。
未だルールの欠陥や見落としは見受けられるものの、その導入は順調な物だった。
"その日"を迎えるまでは。
◇ ◆ ◇
「異変を起こすわよ」
紅魔館のホールに響くのは、幼い吸血鬼の凛とした声だ。
眼下に従者と魔女とその使い魔。そして門番を従えながら、レミリア・スカーレットは言葉を続ける。
「今や幻想郷は弾幕と学力を競う時代――なればこそ、我が紅魔館は最強の組織と言えましょう。
明晰な頭脳と殺人術を誇る従者・十六夜咲夜。
数多の書物を読み漁り、自らも優れた魔女である我が友パチュリー・ノーレッジ。そしてその忠実な部下の小悪魔。
門番長である美鈴にも期待をしているわ。主に、中国の歴史関連で」
「……ふーん。まあ、別に良いけど。レミィが自分から動くだなんて珍しいわね」
「私はお嬢様に従うのみですが……しかし、なんでまたいきなりにそんな事を」
「……あれ? 私ってば中国史要員だったんですか?」
動揺する者も居れば、主への忠義を誓う者も居た。
だが、拒否する者は居ない。
皆、心の何処かでは感づいていたのだ。
今のスペルカードルールならば、紅魔館はかなり有利な部類に入ると。
事実、他の組織――例えば永遠亭や命蓮寺の知識は相当に偏った物である。
前者は薬学系に傾倒しており、後者は仏教系の知識に偏り過ぎている。
それでは、仮に苦手なジャンルの問題を出されれば一たまりも無く倒されてしまうだろう。
理系と文系を問わずにほぼオールジャンルの問題に対応出来る組織は、この幻想郷においても紅魔館が唯一だったのだ。
その知識のおおよそ八割は、パチュリーと咲夜の二人が有する物だが。
「しかしお嬢様。確かに私とパチュリー様ならばほぼ全ての問題に対応が出来ますが……こちらの攻撃はどうするのですか?
例えば……そうですね。妖怪の賢者と言われる八雲紫とその式の八雲藍が相手では、千日手になってしまうのではないかと」
「そうねぇ。あの八雲藍は三途の川幅すら計算してしまうのでしょう? 生半可な問題を出しても意味が無い。
むしろ、お互いの被弾が永久にキャンセルされてジリ貧になってしまうわ」
「ふふふっ。そこは大丈夫よ。
ねぇ、パチュリー。今の弾幕ごっこでは、"出題者が正答を知っていれば"その問題を出しても良いと言う事になっていたわよね?」
「ええ。その通り」
「ならば、私はその八雲紫にこの問題を出しましょう――……」
そう言うと、レミリアは空中に魔力で一つの問題を書き上げる。
瞬間、紅魔館がホールは大きなどよめきに包まれた。
ある者はレミリアの知略に賞賛を送り、またある者は自らがレミリアの配下であるが故に紅魔館と敵対しない幸運に感謝をした。
完璧な出題だったのだ。
出題ルールに則った上で、八雲紫の誤答を誘える問題。
八雲紫を、確実に殺せる――皆が、それを確信している。
「……どうかしら?」
「………………完璧ね。その問題ならば、八雲紫を殺せるわ……彼女だけではない。
応用次第では永遠亭の誇る頭脳の八意永琳や、人里の知識人である上白沢慧音ですら一たまりもないわ」
「そう言う事。まあ、これはとっておきの一撃からピンポイントで使う事になると思うけどね」
「それも、恐らくは大丈夫かと。雑魚の妖精や兎が相手ならば、私・パチュリー様・小悪魔・美鈴の弾幕だけで圧倒が出来ます。
雑魚相手ならば一山いくらの適当な問題でも宛てればそれで大丈夫かと。つまり、一度被弾させればこっちの物」
「あー、確かにそうですねー。平城京は何年に作られた? とか聞いた所で、答えられる妖精なんてほとんど居ないでしょうし」
「歴史に限らずよ。簡単な一次方程式でも倒せるわ」
「英単語の和訳でも、かなりの数が蹴散らせると思いますよー。"This is a pen."すら読めない兎が多いって、この前新聞で読みましたし」
楽しげに語らう部下達を見ると、レミリアは再び大きな声をホールに響かせる。
開戦の狼煙を。
部下を、鼓舞する言葉を。
「決まりね――紅魔館の全員に告ぐ!
明日、我々はこの幻想郷の支配に乗り出すぞ!
頭脳に自信のある者、弾幕に誇りを持つ者、回避に絶対の腕を確信出来る者――皆、このレミリア・スカーレットの盾となり、槍となれ!
手始めに、あの八雲紫が守るマヨイガを支配してくれよう!」
湧き上がる喚声。
振動する大気。
歓喜と熱情に包まれる紅魔館。
レミリア・スカーレットのカリスマ、ここに極まれりである。
そして、異変が繰り返される。
幼い吸血鬼の巻き起こす、あの異変が。
◇ ◆ ◇
それは、何年か昔の夏の日の模倣だった。
突如として幻想郷を包み込んだ紅い霧。
太陽から隔離された幻想郷。
たった一つだけ異なる点を上げるならば、かつての紅霧異変は夏に発生したが、この異変が発生したのは秋も終わろうかと言う頃だった事だろう。
異変を解決すべく出撃をする博麗の巫女と、それに付いて回る白黒の魔法使い。
彼女達の手の中には小さな単語帳と歴史年表。そして、元素記号を纏めた図表が一枚。
何もかもがかつての紅霧異変と同じ。
唯一異なる物があるとすれば、それは弾幕ごっこに新たなルールが加えられたと言う事か。
少女達が弾幕と学力を競い合う一日が、始まろうとしていた。
◇ ◆ ◇
八雲紫は激怒していた。
平和な幻想郷を愛する彼女にとって、この霧は酷く不愉快な存在。
一刻も早くレミリアをブチのめして霧を取り除かせ、そのまま再び二度寝としゃれこみたいのだ。
目覚めるなり異変に気が付いた彼女は式の藍と橙を引き連れると、紅魔館へと向けて出発をしようとして、
「……あら?
あちらから来て下さるだなんて、ずいぶんと舐めてくれるじゃない」
マヨヒガに飛来する、数多の蝙蝠の姿を目撃した。
中枢に陣取るはレミリアと咲夜。
パチュリーと小悪魔が両脇を固め、先陣を切るのは美鈴を含めた武闘派メイド達だ。
「も、問題っ! 次の方程式を解け!」
「出題ッ! 以下のビーカーの中に試薬A~Dを混ぜた水溶液を用意し――」
「答えて貰うよ! 的を( )る この文章のカッコ内に入るのは"射"か、はたまたは"得"か!」
「歴史の問題だ。外の世界の西暦1970年に――……」
ぶつけられる問題は、簡単な物ばかり。紫と藍ならば同時に五百問でも千問でも答えられる物だ。
だが、紫が配置した式達では多くの問題に対応する事は出来なかった。
数学の計算をしながら国語の文章題を解き、同時に社会の○×問題に答えるのは単純な式には不可能なのだ。
シングルタスクの式には、マルチタスクの処理を行う事は出来ない。
それ故に、マヨヒガはレミリア達の侵入を許してしまった。
「……それ以上、好き勝手をするのは止めて貰いましょうかしら」
「あら。やっと来てくれたんだ。
このままではそちらのお家まで出向いて、素敵なモーニングコールを差し上げなければならないかと思っていたわ」
「……言ってくれるじゃない。小バエ娘がァッ……!!」
「ククク。ハエの王の名を頂けるとは恐れ多いねぇ」
怒りを露にした紫は、扇子で空間を切り裂くとレミリア達の正面へと移動する。
彼女のいきなりの登場に一部の妖精メイド達が驚きを見せるが、レミリア達は余裕の表情のままだ。
むしろ、紫に対する恐れや緊張よりも、己達の勝利を確信しているが故の不適さを持っていた。
「八雲紫。此処で、勉学弾幕ごっこにおける決闘を申し込むわ。
私と貴女との一騎打ち。もし私が負けたならばすぐさまこの異変を取り止め、ついでに紅魔館の資財を一部寄付しましょう」
「あら。ずいぶんと太っ腹な吸血鬼なのねぇ……少し早いお歳暮のつもりなのかしら? 館をまるごと八雲家に寄付するだなんて」
「クククッ。今はそうやって、余裕を浮かべれば良いさ」
紫とレミリアは、互いに一歩も譲っていない。
戯れで幻想郷を霧に包んだ吸血鬼と、そんな彼女を敵と認識した隙間妖怪。
一触即発の状態だった。
「ですが、一つだけこちらには条件があります。
私の式である藍をこの決闘における補佐役として出場させたい。宜しいかしら?
もし不満であれば、そちらも補佐を付ければ良いでしょうし」
「構わんさ。こちらの補佐は不要……と言いたいが、念には念だ。咲夜を私の補佐にしよう」
そして、二人は一度だけ口を止め、そして同時に言葉を告げる。
「では――……」
「ああ――……」
「こんなに霧が深いから、本気で殺してやるよ。隙間妖怪!」「この美しき幻想郷の大地から、とっとと退ね!」
開戦の言葉を。
◇ ◆ ◇
不穏な霧に包まれた人里。
レミリアと紫の激突から半日が経った頃の事である。
守護者の上白沢慧音は、里と住人を守るべく行動を開始していた。
永夜異変の時と同じく自らの能力で里を見えなくし、女性や子供を一箇所に集めて避難をさせる。
腕に自信のある若い男や友人の藤原妹紅が周辺の警護を行う事で、里は守られる――はずだった。
「せ、先生ぇ! 大変です……吸血鬼が、吸血鬼がっ!」
「何事だ!?」
里に響いた叫び声は、妹紅と共に警護に当たっていた青年の物。
彼が口にした"吸血鬼"と言う言葉。
全身の血の気が引いてしまったのかと見間違う程に真っ青になった顔色。
彼に同行していた妹紅がこの場に居ない事で、慧音は良くない事が起こっているのだと理解し、その予感が外れる事を同時に願っていた。
だが、青年の返答が慧音のその願いを打ち砕く。
「妹紅さんが……妹紅さんが、吸血鬼にやられました! 正確には、吸血鬼の部下の妖精に」
「……本当……なのか……?」
「……………………はい。妹紅さんは……俺を…………庇って……あああっ…………!!」
「……そうか……」
力無く呟く青年は、それ以上の言葉を口にしない。
彼は見てしまったのだ。妹紅が敵から凄惨な責めを受けるのを。
歯を食いしばって青年の報告を聞いていた慧音は、やがてぽつりと彼に指示を下していた。
恐らくは、これが最後の守護者としての指示になるのだろう――と、予想をしながらだ。
「…………幼い子供と女性を頼む。子供は里の宝だ。何としてでも、守ってやってくれ」
「先生はどうなさるんですか?」
「私は、妹紅の分も闘わなければならないからな……その吸血鬼とやらに全身の血を抜かれようとも、一人でも多くの敵と刺し違える覚悟だ」
「ですが、先生までもが敵の手に落ちてしまっては幻想郷の人間はどうすれば」
「私だけではないさ。パワーバランスが絶妙な均衡を保っていた幻想郷の事だ。
紅魔館の独断を快く思わない組織もあるはず。あの妖怪の賢者・八雲紫などはその代表だろう。
大丈夫。彼女の様な実力者が動き、紅魔館がこんな茶番を終わらせるまでの間、私が里の盾となれば良い」
「ですが……」
青年の表情は、今までで一番良くない物。
その表情にただならぬ何かを感じた慧音は、
「……その八雲紫もまた、奴らの主であるレミリア・スカーレットに敗れたとの事です」
事態の深刻さが、己の予想を遥かに超えている事をこの時知った。
◇ ◆ ◇
慧音が事の重大さを知った頃、異変の首謀者であるレミリアは上機嫌だった。
「あーっはっはっは!
愉快ねぇ、咲夜! 見てみなさいよ、この地図を!」
レミリアの背後の壁に貼られているのは、紅魔館を中心に描かれた幻想郷の地図だ。
その上には真紅のインクで塗りつぶされた地点が二つ。
マヨヒガと永遠亭――レミリアを筆頭とする紅魔館の軍勢が僅か一日で落とした組織の拠点である。
勉学弾幕ごっこは、レミリアに凄まじいまでの力を与えていたのだ。
「お嬢様の出題あっての事ですよ。如何に私とて、あの様な冷酷無慈悲な問題は出題出来ません」
「ふふふっ。その割には、咲夜だって嬉々としながらナイフを投げていたじゃない。
そんな、恐ろしい問題の封じ込められたナイフを」
「私は忠実な狗ですから」
「本当。主に似て残酷な犬だわ」
「お褒めに預かり光栄ですわ」
「ああ……瞼を閉じれば、あの八雲紫の最期が思い出されるわねぇ」
ちなみに紫は死んでおらず、紅魔館の地下に閉じ込められているだけなのでレミリアは少しばかり空気に酔いすぎているのかもしれない。
レミリアと咲夜の繰り出す弾幕は、正しく紅いナイフの群れだった。
吸血鬼のパワーと殺人鬼の刃は紫と藍の繰り出すレーザーとクナイを塗り潰しながら力任せの進軍を実行。
その結果、紫は回避を失敗し、被弾を許してしまう。
ナイフの傷はほんのかすり傷だった。だが、被弾は被弾である。紫には、問題に答える義務が生じてしまったのだ。
「……やるじゃない」
「言ったでしょう? 絶対に負けないって」
それでも、紫は余裕のままだった。
問題に正解すれば被弾を無効に出来る勉学弾幕ごっこは、紫にとって非常に有利なルール。
理系文系体育会系芸能サブカル雑学クイズ、どんな問題が出ようとも正解をするだけの自信と、それを可能とするだけの頭脳が彼女には存在していた。
「では、○×問題です」
(○×問題か……)
内心で、紫は勝利を確信していた。
適当に答えても半分の確率で正解する○×問題である。
誤答と思われる物を消去する、正答をストレートに選ぶ等が行えれば、正答率はそれ以上ともなろう。
レミリアの出題ミスを紫は確信し、そして、
「八雲紫は十七歳である。○か、×か」
レミリアの卑劣な出題に、目を見開いていた。
「……え?」
「え、じゃないわよ。問題は"八雲紫は十七歳である。○か、×か"です。さあ、答えて頂戴」
「え、え……ええっ?」
「ちなみに十進法」
「わ、わーってるわよっ!」
それは、予想だにしない出題だった。
数学ならばフェルマーの最終定理の証明か、語学ならばロゼッタストーンの全訳か、はたまたは宇宙の誕生にまで遡る歴史の問題か――その様な問題を待ち構えていた紫に下されたのは、己の年齢に関する問題だったのだから。
年齢。
年齢である。
生まれてから今に至るまでに経験した年月の数。
問題は"八雲紫は十七歳である。○か、×か"なのだ。
予め断じておくならば、紫は十七歳ではない。少なくとも、十進法を使う限りでは。と言うか年齢なんて四桁を突破している。そろそろ年齢の単位に年よりも世紀を使った方が良いかもしれない。
ここで○と答えれば紫の被弾が有効となり、同時に紫の脱落が決定。
藍は二人を相手に弾幕ごっこをする羽目になってしまうのだ。
「紫様、早く答えないと時間切れになってしまいます!」
「紫様ー! 頑張ってくださーい!」
(分かってるわよ! 言われなくたって、分かってるわよぉ!)
藍は紫を急かし、橙は遠くからエールを送っている。
一家の長として、絶対に正解しなければならない。
絶対に間違えてはならない問題だ。
だが、それでも――……
「さあ、答えなさいよ……貴女は十七歳なの!?」
それでも――……
「紫様、答えて下さい! ご自分の事ならば、誰よりも紫様が分かっているはず!」
そうだとしても――……
「紫様ー! 負けないでーっ!」
たとえ、それが嘘だとしても――……
八雲紫は、乙女なのだ。
例えそれが偽りだとしても、少しでも若々しい自分でありたいと願うし、服のサイズは今より一段階小さくしたいと思う。
十七歳――それは、外の世界ならば淫行条例で保護される年齢である。
おまわりさんが権力を振るって保護してくれるのだ。
花の十七歳とは良く言った物だろう。お花さんと同じくらい可愛いって事なのだから。
私、八雲紫十七歳! えへへっ、"ゆかりん☆"って呼んでね!
私立マヨヒガ学園に通う女子高生で……今、憧れのセンパイ(私がマネージャーをしている野球部のキャプテン)にゾッコン片思い中なの♪
でもイジワルな生徒会長とかミステリアスな転校生とかも気になって……ええー!? 幼稚園の頃の初恋の相手が、この学園にいるの!?
ああもうっ、それならそれで、私の青春ラブストーリーに全力投球しちゃうんだからっ! 恋のデッドボール、始まるよっ!
そんな、ドラッグでもキメてるんじゃないかって具合の妄想が紫の頭の中を超スピードで駆け巡っているのだ。
ああ、願わくば十七歳になりたい。青春を謳歌したい。
花も恥らう女子高生になってキュンキュンでキャピキャピしたあの頃をもう一度経験したい!
憧れのセンパイに淡いレモン味の片思いピュアハートを抱いて……そして、
伝 説 の 木 の 下 で 告 白 さ れ た い ! !
と き め く メ モ リ ア ル を 胸 に 刻 み た い ! !
青 春 は 二 度 と 帰 っ て 来 な い け ど 、 そ れ で も も う 一 度 あ の 頃 に 戻 り た い ! !
だから――紫は、
「さあ、あと五秒よ!」
「紫様ァ! 早く、答えて下さい!」
「紫様ー!!!」
妖怪の賢者である、八雲紫は――……
「……私は、十七歳だァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!
文句あっかクォラァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
自ら、被弾を選ぶ事にした。
「ククク……キャハハハハ!
ねぇ、咲夜は覚えてる!? あの八雲紫が自分の年齢を宣言した時の顔!」
「覚えております。夢にまで出そうな絶叫……いえ、あれはもはや怒号とでも言うべきでしたね。おぞましいです」
「そうそう! 『十七歳だぁぁぁ!!!!』だなーんて、本当にバッカみたい!
あんなに胡散臭い十七歳が居るかっての! 十七万歳の間違いじゃないのかしら!」
「仰るとおりで御座います。私達も彼女の年齢は存じませんが、少なくとも十七歳ではない事は分かりますからね」
「そうそう。もしこれが"八雲紫の年齢は?"だったら私達にも分からないから出題は出来ない。
けど、それを○×形式にする事で制約をクリアして出題が可能となったって事」
「お嬢様の悪魔的なアイデアには恐れ入るばかりです」
「それに、あの式の……藍だっけ? あいつの散り様も壮絶だったわよねぇ!」
八雲紫の被弾が有効となった瞬間、八雲藍は何が起こったのか理解出来なかった。
自らの主が、進んで被弾してしまったのだ。
それは藍にとって、聡明な頭脳と冷静な判断力を持った主とは思えない愚行だった。
「……貴様等ァ! 女性に年齢の話をするだなんて、恥知らずなッ!」
藍は全身の毛を逆立てながら、レミリアと咲夜に向けて叫んでいた。
愛する主を卑劣な手段で葬った憎むべき悪魔である。
その五体をズタズタに引き裂いてやりたいと思う。事実、弾幕ごっこのルールが有効でなければ、藍はそうしただろう。
だが、その怒りに囚われた一瞬が藍の命取りとなった。
瞬間、時を越えて放たれた咲夜のナイフが藍の胸に突き刺さったのだ。
「くっ、はァ…………!?」
藍は後悔した。
普段の己ならば、余裕で回避出来るナイフだ。だが、怒りのせいで被弾を許してしまった。
「……では、今度は私・十六夜咲夜よりの出題です」
次の出題者は咲夜だった。
ここで誤答をしてしまえば、藍の被弾が確定し、レミリア達の勝利が決定してしまう。
正真正銘、絶対に間違えられない問題である。
「来い! 私は紫様と違って己の年齢を把握しているぞ!」
「……今度は歴史の問題です」
「私を数学のみの狐と思ったか!?
中国にインド、日本に至るまでありとあらゆる国を渡り歩き、幻想郷においても数多の書物を読み漁った私は凡そ地球上全ての歴史を把握している!」
「アジア史ではないのですけどね。では、問題です――……」
「さあ、来い!」
藍の殺気の込められた視線に動じる事も無く、咲夜は淡々と出題を開始。
相対する藍もまた、全身全霊を賭けてその問題に応じる事を決めていた。
そして、問題が下される。
「日本語で"素晴らしき礎"を意味する名を冠した事でも知られる、初代インカ帝国の王の名は何と言うでしょうか?」
それは、世界史の問題だった。
歴史上の有名な人物の名を問う問題。
藍の知識の中にも、その人物は記憶されていた。
当然、答える事は出来る。
勝利を確信しながら、藍はその答えを口走る。
「……ククッ……ハハハハハ!!!!
出題を誤ったなぁ、十六夜咲夜ァ! ずばり、その問題の答えはマンk――」
瞬間、咲夜の不適な視線の先には、橙の姿が。
全身でエールを送り、藍の勝利を祈願している愛しい橙の姿が!
藍にとっては目に入れても痛くない――むしろ、目に入れてしまいたい程可愛い橙の姿がそこに!
「……!! そう言う……そう言う、事かァァァァ!!!!!!!」
「ようやく気が付きましたか? 愚かな狐さん」
「貴様ァァァァァ!!!!!!!!!!」
そして、藍は全てを悟ってしまったのだ。
小五でロリではないが、悟ってしまったのだ。
問題の答えは、マンコ・カパック。
ちなみに王朝の名前はクスコ王朝である。
藍には、とてもではないが可愛い橙の前でそんな言葉を叫ぶ事は出来なかった。
マンコである。それがその王の名前なのだ。マンコ王である。王様はマンコなのだ。何度も書かなくて良いか。
そしてカパックである。くぱぁではないが、カパックなのだ。ちなみにカパックとは古代ケチュア語で"偉大な"や"素晴らしい"と言う意味を表す。
何かが開いた音に聞こえそうだが、れっきとしたケチュア語なので注意が必要である。
「……くっ……!!」
「藍様ー! 早く、答えてー!」
「だが……だがぁっ!!」
小柄な身体をぴょんぴょんと跳ねさせながら、橙は必死に藍を応援している。
答えなければならない。橙の応援に応えなければならない!
だが、答えられるだろうか?
可愛い橙の前で、マンコカパックの名を叫べるだろうか!?
マンコがカパックだなんて言葉を、橙に聞かせても良いのだろうか!?
藍の額からはどばどばと脂汗が噴出していた。
答えるべきか、それとも降参するべきか。
「藍様ー!」
「さぁ、答えなさいよ!」
「クククッ、流石は咲夜……ドSだわ」
掛けられる言葉は、藍の頭蓋の中で激しく鳴り響いている。
答えなければならないのだ。マンコを。
橙に聞かせなければならないのだ。カパックを。
この場で宣言しなければならないのだ。マンコ・カパックを!
マンコ・カパックを叫ばなければ、八雲家に勝利は無い!
暫く経った後、藍は腰を低くしながら咲夜に問う。
それは、悪魔との取引であり、
「あの、咲夜さん……一応聞きますが、耳打ちじゃダメでしょうか?
内緒話ですよ内緒話。ゴニョゴニョって、咲夜さんの耳元で小さな声でですね……」
「ダメです」
取引は、あっけなく破綻した。
「ほーんとう、あっけない物だったわ!」
「お嬢様の豪腕や脇を固める心強い仲間があっての事です。そのカリスマ性には私も恐れ入りますわ」
「ふふふっ。お世辞の上手なメイドね」
グラスに注がれた赤ワインを一口だけ口に含むと、レミリアは満足気に微笑む。
地図に記された紅のインクはいずれ、幻想郷の全土に広がるのだ。運命を見通すレミリアには、その図が既に見えていた。
やがて紅魔館の支配は天界や地底にまで及ぶだろう。そうすれば、もはや幻想郷は紅魔郷へとその名を変えるのだ。
「八意永琳と蓬莱山輝夜、そして鈴仙・優曇華院・イナバに因幡てゐ……奴等もまた、哀れな物だったわ」
再びワインを味わうと、レミリアは永遠亭が陥落した時の事を思い出す。
月の頭脳である八意永琳は、八雲紫と同じく己の年齢を偽って敗北した。彼女もまた、十七歳の称号の前では無力な小娘に過ぎなかったのだ。
その弟子の鈴仙・優曇華院・イナバは"さっき爆死した師匠を見て、内心ざまあ見やがれバカ師匠と思っている"との問いに偽りで答えてしまい、敗北した。彼女は最期まで世間体を選んだのだ。
詐欺師の因幡てゐは浴びせられる難問奇問珍問の雨の前に苦戦を強いられ、結果として敗北を喫した。
そして、最後の砦となった蓬莱山輝夜は、単純に頭が悪くて敗北してした。
永遠亭の四人、恐れるに足らずである。
「まさか、あの姫様が二桁の足し算を間違えるとはねぇ」
「繰り上がりを忘れるミスでしたね」
「無駄に長生きしていると脳細胞だけ老化するのかしら」
「ふふふっ。お嬢様もお気を付け下さいな」
「忠告には感謝するわ。今度コーリンドーDSで脳トレでもしようかしら」
「ゲームは一日一時間、ですからね」
「はいはいっと」
紅に染まる地図を前にして、レミリアは明日の進軍を企てる。
明日は何処を襲ってやろうか。何人を血祭りにしてやろうか。どんなセクハラクイズを出してやろうか。
そう言えば地下に幽閉されている蓬莱人はどうしようか。"オマーン湖"が言えなくて敗北した蓬莱人と繰り上がりを間違えた蓬莱人を同じ檻に入れてやろうか。
満面の笑みを浮かべたレミリアの悪巧みは、まだ終わらない。
◇ ◆ ◇
翌日も、また翌日も、そのまた翌日も、レミリア達の進撃が留まる事は無かった。
初日の勢いで調子を付けた紅魔館の面々は正に一騎当千の兵ばかり。
弾幕とセクハラクイズで武装した彼女達は、幻想郷の各地を荒らして回っていたのだ。
「我が名は紅美鈴! 西行寺幽々子に問いましょう!
宴会で欠かせない音頭の"乾杯"ですが、これをイタリア語にすると何!?」
「……ぐっ……それは……!」
「さぁ、答えて頂きましょうか!」
(分かってるのにぃ! チンチンだってのは、分かっているのにぃ! 恥ずかしくって……そんなの、答えられないわ!)
「むきゅー……では被弾した軍神に問題だわ。外の世界の金山神社……えっと、本によれば関東地方の……川崎市ね……
そこで毎年行われている"かなまら祭り"ってのがあるんだけど、御神体を担いで練り歩く際には独特の掛け声が叫ばれます。それは何でしょう」
「神奈子様ならそんな問題楽勝です!」
「神奈子ー! 頑張れー!」
(くぅぅぅぅっ!! 早苗の前では"デッカイマーラー"なんて……叫べぬ!
卑劣な魔女めぇぇぇ!!!!)
「では、小悪魔より問題です」
「……ふん。心を読める私になら、どんな問題だって簡単に――」
「今、私は何を考えているでしょうか?」
「……ふぇっ? えっと、『たくましい殿方のそそり立った――……!? ひ、い、いやぁ!? 止めなさい! 止めなさいぃぃぃ!!!」
「どうしたんですかぁー? ちゃーんと答えないと、さとりさんの負けですよぉー?」
「い、嫌ぁ!? そんなの、ダメぇ?! ストップ! 考えるのを、止めてぇ――――――っ!!!
負け、負けよ! 私の負けだから、その破廉恥な妄想を止めてってばぁぁぁ!!!!」
「こぁーっこぁっこぁっこぁっこぁっ!! 伊達に小悪魔じゃありませんわぁー♪」
「……ひっく…………だから、止めてって言ったのにぃ…………ふぇぇん……」
「うにゅー! さとり様の仇は私が倒す!」
「では、不肖私十六夜咲夜の出題ですわ。私の掲げている十枚の写真の内、東風谷早苗は何番でしょうか?」
「え、えっと…………えっと……緑色のお姉さんだから………………六番!」
「残念。これは魅魔様でした」
「さぁ、答えてもらいましょう! 聖白蓮! 命蓮寺の一員にして入道使いであり、頭巾を被った彼女の名前は!?」
「……雲居…………雲居……! えっと……雲居……」
「雲居、何!?」
「……………………えーっと…………雲居ゴブリンでしたっけ?」
「はいブーッ!」
「…………雲居プクリン?」
「姐さぁぁぁん!!!! 私は、私はポケモンじゃありませんってばぁぁぁぁ!!!!!」
「あれっ? えっと…………じゃあ、雲山を操るスタンド使いだっけ?」
「どうして雲山の名前は覚えているのに私の名前は忘れちゃってるんですかー!?」
「聖の仇はこの寅丸星が!」
「出題。毘沙門天の証である宝塔を見せて下さい」
「…………ごめんなさい無くしました」
「オイコラご主人ンンン!?!?!?」
紅魔館の侵攻は止まらない。
◇ ◆ ◇
紅魔館の勢いは正に破竹の勢いだった。
僅か一週間足らずで、凡そ全ての地域を制圧してしまったのだから、その戦力は凄まじい物である。
日に日に増える紅魔館の捕虜は、全員地下の牢獄に捕らえられている。
咲夜の能力で拡張された牢獄の容量は無尽蔵であるが故に、捕虜の収容でも問題は起こらなかった。
全てが順調。全てが順風満帆。
もはや幻想郷がレミリアの手に落ちるのも秒読み段階である。
「マヨヒガ、永遠亭、白玉楼、守矢神社、無縁の塚、エトセトラエトセトラ……色々と制圧したわねぇ」
「順調に進めば、あと二日で幻想郷はレミィの物になるわね」
「最後まで気は抜けませんけどね!」
「貴女達――パチェも美鈴も、それ以外の皆も……本当に頑張ってくれたわね。
この異変が成功に収まったならば、盛大にお祝いをしなければいけないわ」
「その時は、最高級のパーティ料理をご用意致しましょう」
「わー。パーティですかー? 楽しみですねー」
「こらこら。小悪魔ったらはしたないんだから」
地図を前にして、レミリア達は優雅な食事を楽しんでいた。
勝者の饗宴である。
弾幕と学力と、凶悪なセクハラによって幻想郷の大半を勝利に収めた勝者達が、この場には揃っていた。
「ねぇ、咲夜。赤ワインのお代わりを――」
ナプキンで口元を拭きながらレミリアがそう告げた瞬間――……
「お姉さまの、バカリスマがぁぁぁぁぁ!!!!!!」
食堂の床に巨大なレーヴァテインが叩き付けられ、それと同時に狂えるレミリアの妹――フランドール・スカーレットが壁を突き破り、レミリアに飛び掛って来たのだ。
◇ ◆ ◇
「……あらあら。フランったらどうしたのかしら?」
妹の凶行を前にしても、レミリアは優雅な表情を崩していない。
むしろ、ようやく来たか、とでも言いたそうな様子である。
「どうしたもこうしたも無い! 地下牢に最近やたらしっちゃかめっちゃか色々と詰め込んで!」
「咲夜に命じてスペースは拡張させているわ。貴女の部屋には影響無し」
「そうじゃない! 今日……こいしちゃんとぬえちゃんが、牢に入れられた!
どうして!? どうして、私の友達にそんな事をするの!?」
対するフランは、半狂乱。
大切な友達が、姉の悪巧みによって地下牢に閉じ込められた事が、彼女を突き動かしていた。
「どうしてもこうしてもないわ。彼女達は紅魔館の敵。だから、倒した」
「敵じゃない! お友達だよ!」
「同じよ。地霊殿と命蓮寺の一員なのですから」
「違う! 違う違う違う違う違う違う違う違うチガウ!
あの二人は……私の、大切な友達だッ!」
瞬間、フランが横薙ぎにしたレーヴァテインがレミリアの胴を薙ぎ払う。
レミリアは回避をしなかった。
否。回避をする必要すら無かった。
レミリアには、フランの出題は100%正答出来るのだから。
「問題! 今、私はお姉さまをどうしようとしている!?」
「そうねぇ。ブチ殺そうとしている、辺りかしら?」
「…………正解ッ!」
「昔からずーっと言ってたじゃない。お姉さまを殺したいって」
心を読んだのではない。
レミリアにとって、フランの思考は手のひらの上も同じなのだ。
だから、どんな問題にでも答えられる。
「咲夜達は手出し無用よ。フランの躾は私がするわ。
……それと、例の物を用意しておいて頂戴。一分以内ね」
「畏まりました」
レミリアは咲夜を相手に軽く合図を交わすと、窓から外へ飛び出し、夜空へと舞い上がる。
後を追うのはレーヴァテインを構えたフラン。
二人の吸血鬼は月に照らされた夜空の中で相対していた。
「フラン……私はね、貴女の為に異変を起こしているのよ?」
「知らない知らない知らないっ! そんなの、言い訳だから聞きたくもない!」
「…………はぁ。霧で外が満たされれば、そのお友達二人とも一緒に遊べるのにねぇ」
もはやこれ以上の話合いは不要。
そう断じたレミリアは、羽から数本のクナイを展開するとフランへと向けて放つ。
放たれたクナイは一本が二本、二本が四本、四本が八本と分裂し、やがてフランの元へと届く頃には空を覆いつくすクナイの雨と化していた。
「はァァァァァ!!!!!」
縦横ナナメ。
上段中段下段。
力任せに乱舞されたレーヴァテインの炎がクナイの雨を焼き尽くす。
破壊力においては紅魔館最強を誇るフランの炎は、その熱量を増しながら眼前のレミリアへと迫っている。
レミリアとフランの距離は緩やかに縮まり、クナイの雨はその激しさを増し、それ以上にレーヴァテインの炎はその激しさを増している。
そして、あと一瞬でレミリアの胴をレーヴァテインが貫こうとした、その瞬間、
「ハァァァァ――――か、はっ……!?」
刹那、フランの足に一本の鎖が突き刺さる。
それは紛れも無くレミリアが放ったスペルカードだった。
クナイの雨と言う囮にフランが集中している間に、本命となる一撃を着実に打ち込んでいたのだ。
「…………ちっ……良いよ、お姉さま。出してよ。問題を!」
「ふふふっ。被弾したって言うのに随分と元気ねぇ」
「私もお姉さまも大して年齢は違わない! だから、お姉さまに答えられる問題は私にも答えられる!」
「そうね。その通りだわ。そしてフランに答えられる問題は私にも答えられる……鏡写しみたいね」
フランの足から鎖を引き抜くと、レミリアは優雅に微笑んでいた。
「では、出題よ」
「来なさい!」
「フラン、足元を見なさい」
「!?」
出題者であるレミリアが指差したのは、自分達の足元だった。
夜空の下。紅魔館の庭園に三つの人影が見える。
一つは、咲夜の物。
そしてもう二つは、
「……こいしちゃんと……ぬえちゃん!?」
地下牢に閉じ込められているはずの、こいしとぬえの物だったのだ。
「そうよ。貴女のお友達」
「人質を取るつもり!? 卑怯者!」
「違うわ。勉学弾幕ごっこではそういった八百長や不正行為は禁止されているの。あの二人はあくまでも観客よ。フランの回答を見守る観客」
言葉を告げると共に、レミリアは魔力で夜空に問題を描いている。
徐々に形作られる問題。
そして、問題が完成するにつれ、フランの表情に焦りが浮かび始めていた。
「よし。これで完成だわ」
「……そんな…………この問題って…………」
「さあ。回答者は貴女よ。答えなさい」
対照的な表情をした二人の姉妹。
そして、二人の前に描かれた問題。
それは、
"流行り病で今にも死に絶えそうな二人――古明地こいしと封獣ぬえの内、片方を救えるだけの薬があるとする。
フランドール・スカーレットはその状況に遭遇すれば、どちらにその薬を飲ませるか"
大切な友達の片方を救え、と言う物。
言い換えるならば、片方を見殺しにせよと問うているのだ。
フランの大切な友達の片方を。
「……無論、これはもしもの話だわ。当然だけど、ここでフランが選ばなかった方が出たとしても、そっちが殺されるだなんて事はない。
だから安心して回答をしなさい。私達の下に居るあの二人の目の前でね」
レミリアの補足説明は、もはやフランの耳に届いていない。
「こいしちゃんとぬえちゃん……片方が死んで、片方が生きて…………」
「その通り。察しが良くて助かるわ。流石は私の妹。
『お姉さまに答えられる問題は私にも答えられる』だったかしら? その通り。私が気付く事は、フランも気付ける」
「…………こいしちゃん……ぬえちゃん…………どっちか、片方…………」
夜空に描かれた巨大な文字は、当然ながら地上のこいし達にも読む事が出来る。
それ故に、地上の二人もまた動揺を隠す事は出来なかった。
「……私か、それともぬえちゃんか……どっちかを選べって問題かぁ」
「ふぅん……そっか。フランちゃんなら、どっちを選ぶんだろうね」
「…………私には、選べないよ。仮に目の前にフランちゃんとぬえちゃんが居て、片方が死んじゃうとしたら……私は……」
「……………………」
そこから先は沈黙だった。
こいしも、ぬえも、何も言う事が出来ない。
自分が同じ立場ならばどの様な回答をするべきなのか、それが分からないから。
だから、二人に出来る事は上空のフランを見守る事だけ。
刻一刻と迫る回答時間。
問題文を前に悩むフランと、妹を見守るレミリア。
そして、地上からフランを見上げる四つの瞳。
回答時間が限界を迎えた、その瞬間
「私は――……!」
フランは、その言葉を叫んだ。
「私なら――二人を救う! 薬が一人分しか無いのなら、もう一人分の薬を手に入れる! 薬以外の治療法だって見つけてみせる!
だから、私はどちらか片方を選んだりしない……片方を見殺しになんかしないっ!
こいしちゃんかぬえちゃんの内片方だけ助けるなんてのは、私の選ぶべき答えじゃない!
私の答えは、二人とも助けるだっ!」
そして、夜空から一つの人影が墜落する。
無効な回答をした、吸血鬼の妹の姿が。
◇ ◆ ◇
「…………んっ……?」
フランが目を覚ますと、そこは何時もの地下室だった。
見慣れたベッド。見慣れたランプ。見慣れた机。
何もかもが見慣れた景色だった。
だが、見慣れない相手が二人。
「あ、やっと起きたか」
「フランちゃん大丈夫!? 怪我とかしていない!? 痛い所とか無い!?」
こいしとぬえの二人が、同じ目を覚ましたばかりのフランの顔を、心配そうに覗き込んでいた。
瞳をぱちくりとさせながら、フランはこれは何事かと自分が気を失う前の事を思い出そうとして、
「……そっか。私、負けたんだ」
自分が、回答を誤った事を知った。
◇ ◆ ◇
フラン達を地下室に放り込んだ後の事。
レミリアの爪の手入れをしながら、咲夜はふと先程の出題について、意見を申し上げていた。
「……しかしながら、お嬢様もお人が悪いですわ」
「あら? そう?」
「はい。妹様にあの様な問題を出すだなんて……あれでは正解があるのかどうか私にも分かりません」
先程の問題――"こいしかぬえの片方を殺し、片方を救え"には、正答があるのだろうか。
どちらか片方を選べば片方は見殺しにされてしまうのだ。それは本当に正しい事なのか?
その事が、咲夜の胸の内に引っかかっていたのだ。
「わるわよ。正解ならきちんと用意されているわ」
「そうなんですか?」
「ええ」
自らの爪に紅のマニキュアが塗られるのを見ながら、レミリアは言葉を続ける。
「ルールでは"出題者が答えられない問題"は不可能とされている。
ならば、私にとってあの問題の正解がどうであり、私ならどう答えるかが重要なのよ」
「お嬢様にとっての、正解……」
「だから、私にとってあの問題はどうだって良い事だから……『古明地こいしを救う』でも『封獣ぬえを救う』でも、あるいは『コイントスで決める』『おっぱいの大きい方にする』なんてのもアリね」
どちらか片方の名前ならば、それが正解になる。
それがレミリアの用意した正答だったのだ。
こいしでも、ぬえでも構わない。
正解を得る為ならば、それで良い。
「……成程。とりあえず、どちらかを書けば正解の問題と同じですね。
例えば……『十六夜咲夜は( )である A:メイド長 B:人間』なんて問題があれば、AとBのどちらを書いても正解になるのと同じ事」
「そう言う事。言うなれば出題者側のミス。ボーナス問題だわ。
ルール的にも問題は無いはずよ? "正答の無い問題"の出題は反則だけど"答えが複数存在する"、ないし"誤答が存在しない"問題は可能なのだから」
にやりと口元を吊り上げながら、そうレミリアは囁いていた。
悪問だが、ルールに違反していない。
回答者ではなく出題者が不利となる問題なのだ。反則ではない。敵に塩を送る問題だったのだ。
「ですが、妹様はそんなボーナス問題を間違えた」
「そりゃあねぇ。どっちかを選べって言ってるのに、両方を選ぶってのはいけないわ。
それじゃあボーナス問題と言えど、不正解の判定を出さざるをえない。あれは白紙回答と同じよ」
「成程。やはりお嬢様はお人が悪いですね」
「ふふふっ。二度もそう言われるんじゃあ、本当にそうなのかも」
爪の手入れも終わり、咲夜は道具とマニキュアを箱に直しながら、再びレミリアの狡猾さに感嘆の辞を述べる。
レミリアもまた楽しそうだった。吸血鬼として、その言葉は最上の褒め言葉だったのだから。
「……でも」
そして、レミリアは自らの爪に軽く息を吹き掛けながら、ふと呟いた。
「でも?」
「私が同じ立場で、例えば咲夜とパチェの片方を選べって言われたら……きっと、あの子と同じ回答をすると思うわ。
それが目の前の得点や勝利を得る為の正答だとしても、それを選べば自分の中にある何かが壊れてしまう気がするからね。
だからきっと、フランはサービス問題を捨てて、敗北を選ぶ所まで私に似たのでしょうね」
「はぁ。総括すると、妹様が自分の望んだ回答を見せてくれたのが嬉しいって事ですね」
「心を読むんじゃないわよ。あんたさとり妖怪にジョブチェンジしてないでしょうが」
「これはこれは。失礼致しました」
月の灯が照らすレミリアの部屋の中。
レミリアはフランが真っ直ぐに育ってくれた事を喜び、咲夜もまた同じ心境であった。
◇ ◆ ◇
「……さんきゅ」
ぽつりと呟いたのは、ぬえだ。
その目元は僅かに潤み、頬には朱の色が差している。
「……え?」
対するフランはと言えば、ぬえの言葉の意味が分からなくてただ呆けた表情をするばかり。
フランの様子に苛立ったのか、ぬえは軽く口調を強くしながら、言葉を続ける。
「だーかーらー! さっきの問題っ!」
「さっきのって……私、間違えて……」
「間違えてなんかないよ。きっと、あれがフランちゃんにとっての正解だと思う」
口を挟んだのはこいしだ。
こいしもまた、ぬえと同じ心境であり、同じく目元を少しだけ潤ませている。
「こいしちゃん……?」
「きっとだけどさ。私とぬえちゃんが同じ問題に遭遇したとしても、同じ答えを言うと思う。
だって……お友達、だもん。三人で一緒じゃないと、ヤだもん」
そこから先は、もう言葉は不要だった。
フランは胸の奥から湧き上がる喜びに耐えられず、赤ん坊の様に泣き叫んでしまい、そんなフランをこいしとぬえは黙って抱きしめる。
それで十分だった。
正答なんていらない。
ただ、三人の少女達は互いのぬくもりを感じていたかった。
地下室に閉じ込められた三人の少女達はお互いを抱きしめ合い、そしてこの友情に感謝をした。
◇ ◆ ◇
フランが敗北を喫した翌日、紅魔館の門を突き破り、中庭へと侵入をする者が居た。
霊夢と魔理沙――この異変を終わらせるべく動き出した二人の少女である。
紫をも撃破する紅魔館の出題に対応するべく今までの数日をカンヅメの勉強合宿に費やした二人は、ついに紅魔館を急襲したのだ。
懐には大量の参考書。抱える札には紅魔館撃滅用の問題。胸に抱くのは、紅魔館の犠牲者となった者達の無念の思い。
美鈴達の出題する中国史とカンフー映画カルトクイズに全問正解を収め、パチュリーの出題した魔法クイズを跳ね返し、小悪魔はエロクイズばかり出すので出題される前に弾幕で叩き潰す。
ここまでは予定通りだった。
かつての紅霧異変の時と同じ流れである。
ならばこそ、
「あらあら。何時ぞやの時と同じねぇ」
廊下を突き進む二人の前に咲夜が現れるのもまた、かつての紅霧異変に従えば当然の流れだったのだろう。
「出たわね。咲夜……あんたを倒して、レミリアにお灸を据えて、そしてこの異変を終わらせる!」
「私だって同じだぜ。こんな馬鹿げた異変で幻想郷のあちこちを支配されちゃあ溜まったもんじゃないからな」
「……二人とももはや、言葉は不要ね」
霊夢と魔理沙。
対するは咲夜。
三人の少女は札と星弾、そしてナイフを空中に展開すると――……
「この異変を、終わらせるっ!」「土産に参考書の一冊くらいは貰って行くぜ!」「お嬢様の野望の為、散って貰うわ!」
同時に飛び出した。
◇ ◆ ◇
霊夢と魔理沙、そして咲夜が激戦を繰り広げたのと同時刻。
慧音は絶望に飲み込まれかけているを必死に守っていた。
襲い来る紅魔館の使者を自らの日本史問題で撃退し、負傷者には適切な手当てをする。
紅魔館に囚われてしまった妹紅の事がどうしても気になっていたが、今は里を守る事が何よりも大切だった。
「ああ……もう、おしまいだ……」
「気をしっかり持て! 今朝巫女達が出撃したとの報せも入っている! だから、今は耐えるんだ!」
「ですが……ですが、先生ぇ……」
今にも泣き出しそうになっている青年を必死に勇気付けながら、慧音は唯一の希望――霊夢と魔理沙に思いを送る事しか出来ない。
こんな時、自らの知識の偏りがどうしても悔しかった。
歴史が得意な慧音だが、その他の科目は人並み程度なのである。
「けーね先生。里はどうなっちゃうの?」
「……大丈夫だ。きっと、明日にはこの霧も晴れてくれる」
自分を慕ってくれる生徒にも、その様な事しか言う事は出来なかった。
勉学弾幕ごっこが流行し、これからは教育者としてますます頑張ろうとしていた矢先にこの異変だ。
慧音は己の無力さを呪わずして、他の何を呪えば良いのだろう。
「……嘘だ! 父ちゃんが言ってたぞ! けーね先生は歴史ばっかりの頭でっかちだから、紅魔館が怖いんだって!」
「――っ!」
「だから……だから、けーね先生は里を隠すだけで、異変解決をしてくれないんだ!」
ぶつけられた言葉が慧音の心を無慈悲に抉る。
本当の事だった。
慧音が紅魔館を恐れているのも、歴史でしか人並み以上に戦えないのも本当の事なのだ。
何時もならば、教師に対して乱暴な言葉遣いをした生徒をたしなめる所だろう。
だが、今の慧音にはそれをする事も出来なかった。
「だから、けーね先生のせいでこの里は――」
「――っの、バカ野郎ッ!」
「あぁ?! 何だよお前!?」
「お前じゃないっ! あたいはチルノだっ!」
会話に割り込んで来たのは、最近になって寺子屋の生徒になった氷精のチルノだ。
光の三妖精や夜雀に誘われて寺子屋の生徒になり、苦手なそろばんや読み書きにも熱心に取り組んでいた彼女は、悲しそうな顔をしている慧音を守りたくて無意識に飛び出していた。
チルノは、慧音を詰っていた生徒に詰め寄ると、今にも噛み付きそうな形相で必死に言葉を口にしている。
国語の文章題が苦手なチルノである。思った事を分かりやすく伝えるのは少し苦手だった。
それでも、チルノは必死に、たどたどしい文章で思いを叫ぶのだ。
「あたいはっ……あたいは! 慧音先生を信じてる! だって、慧音先生は先生なんだもん!
勉強だって弾幕だって、あたいよりずーっと賢い! あたいの憧れで、師匠だもん! だから……だから……っ……ひっぐ…………えぐっ……」
「……チルノ。もう、良いんだ。お前が泣く必要は無い」
「えっぐ……けーね、せんせー……ふぇぇぇぇん!!!!」
「…………悪かったよ。ごめん……けーね先生も……ごめんなさい」
「構わんさ。お前の言った事もまた本当の事なのだ……だから……すまないな。私のせいでこんな事に……」
慧音は、目の前で泣き崩れるチルノを前にして、ある事を考える。
あまり考えたくはないが、霊夢と魔理沙が敗れた後、この里が襲われるのは時間の問題である。
なればこそ、今の自分は手段を選んではいられないのだ。
例えそれが、歴史家として――教師としての使命に背く事であったとしても。
「……チルノ。寺子屋の生徒の内、弾幕が使える者を集めてくれ」
「え……?」
「皆に、託したい物がある」
◇ ◆ ◇
そして、ようやくここで物語は冒頭シーンの少し前へと帰結する。
相対する霊夢と咲夜。
霊夢の背後では支援砲撃を行う魔理沙。
咲夜から放たれる数多のナイフをその身に受けながらも、霊夢は一歩も退かず、札の乱舞で咲夜を迎え撃つ。
「問題ッ! 物質量1molに対し、それを構成する粒子の対応を示す比例定数をアボガドロ定数と言うわ!
では、そのアボガドロ定数を有効数字三桁で答えなさい!」
「6.02×10^23! この程度、参考書を読めば幾らでも載っている事だわ!」
「……正解ッ! 最近の巫女は理系も強いのねぇ!」
「早苗が……早苗が残してくれた、外の世界の科学の教科書に載っていた事よ!」
互いに一歩も引かぬ攻防は、紅魔館の廊下を破壊の嵐で包み込む。
咲夜の余裕は未だ崩れていない。
霊夢と魔理沙もまた、勢いを弱めていない。
一瞬でも気を抜けば敗北が確定する勝負なのだ。お互いに、相手を殺すつもりでいなければならない。
「……このままじゃあ、お互いに千日手になってしまうわね。どうかしら? ここで一つ、ギャラリーを増やしてみない?」
それは、突然の提案だった。
ナイフを投げる手を休める事なく、咲夜は提案を続ける。
「私達の弾幕ごっこを、幻想郷の各所へと中継するの。
どう? どうせなら多くの人に見守って貰いながら戦ってみるのも素敵じゃないかしら?
どうせなら地下牢にもライブ中継をしましょう。皆、貴方達に期待しているでしょうし」
咲夜の説明は、その後も暫く続いた。
紅魔館の各所には河童が開発した監視カメラが設置されており、それはこの廊下も例外ではない。
そのカメラが撮影する映像を、幻想郷の各所へ放映すると言うのだ。
(来たか……!)
(来たわね……予想通り!)
霊夢と魔理沙は、一瞬互いの顔を見合わせ、短く頷きあう。
これは、少女の純情を弄ぶ提案だ。
ここから先は、口にするのも憚られる程の歴史単語や理科用語が飛び交う第二ラウンドとなるのだ。
具体的には、マンコ・カパックだとかチンチンだとかデッカイマーラーだとかを叫びあう事になる。
二人は、この展開を既に予想していた。
当然、それに対する用意も万端である。
「良いわ! やりなさい!」
そして、霊夢はさらなる激闘の過熱を求め、魔理沙もそれに続く。
だが……咲夜の口元が怪しく歪むのに、気がつけないでいた。
◇ ◆ ◇
「これが、慧音先生の問題……?」
「ああ。私が作った珠玉の歴史問題だ。皆にこれを託すとするよ」
寺子屋に集められた妖怪と妖精の生徒達――チルノが集めた弾幕が使える生徒達を前にして、慧音は自らの作った問題を配っていた。
「もしもの時は、この弾幕を使って紅魔館の連中を倒すんだ。
これらの問題は私が長い歴史の中で培った知識の結晶……この上白沢慧音が残す、最後の問題だ」
「最後って、先生は!?」
「……大丈夫。先生は、別の問題を用意している。だから、大丈夫だ」
その言葉は偽りである。
慧音は、自らの作った問題を全て生徒に託しているのだ。
未来ある子供達にこそ、この里の命運を託すのが相応しい。
それが、教育者であり、守護者である慧音の結論だから。
「もしも、紅魔館の連中が攻めて来たとすれば、その時は皆にも戦ってもらわなければならないかもしれない。
だから先生に出来るのは、せめてその手助けとバックアップを――」
「……! 先生、あれは!?」
その時、里の空に巨大な映像が投影される。
外の世界ならば映画のスクリーンに見まちがう程に大きなその映像は、紅魔館廊下の激闘をリアルタイムで映した物である。
「……巫女と魔法使い…………相対するのは、咲夜かっ!」
◇ ◆ ◇
「出題ィッ!」
「来いッ!」
激戦が幻想郷中に放送された後、最初に被弾を許してしまったのは霊夢だった。
咲夜のナイフを足に受けた霊夢が、僅かに姿勢を乱しながら応じている。
「平安時代において、三位以上である公卿の正室の呼び名。また後に、宣旨をもって特に授けられた摂政・関白の正室の称号を何と言う!?」
(予想通りの問題ね……)
霊夢の頭の中では、既に咲夜の出題する問題に対する回答が成されている。
平安時代・三位以上・公卿――この単語だけで推測が成される回答。それは――
(北の政所か……!)
北の政所(きたのまんどころ)である。
小学生の歴史の教科書にも載っているレベルの単語。
だが、妙にいやらしい響きがするのは気のせいではないのだろう。
霊夢の様な少女は、どうしてもそれを意識してしまうのだ。
「…………っ!」
博麗霊夢は返答に窮していた。
その言葉を言わなければならないのに、どうしても言う事が出来なかったからだ。
答えは既に分かっている。なのに、どうしても言う事が出来ない。
ここで答えなければ、幻想郷が大変な事になってしまうと言うのに――……それでも、少女としての大切な第一線が、その言葉を叫ぶのを躊躇させてしまう。
対する咲夜は不適な笑みを浮かべながら、霊夢の答えを待ち望んでいる。
その表情に現れているのは強者の余裕。
咲夜は確信していたるのだ。霊夢がここで敗れる事を。
これから霊夢が叫ぶ回答は、廊下だけではなく幻想郷のあちこちに響き渡る事となる。
博麗の巫女、北の政所を絶叫――ちょっとした三面記事レベルだろう。
そして、霊夢は囁く。
出来る限りの、小さな声で。
「北の……っ…………北、のっ………………」
それは、紛れも無い正解だった。
純然たる正答。幻想郷を救う一歩となる言葉。
「はぁぁ? 声が小さくって全然聞こえないわねぇ?
もーっと大きな声で言ってくれないと困るわぁ。私ったら、最近耳が遠くなっちゃったのよねぇ」
だが、残酷な咲夜はさらなる要求をするのだ。
もっと大きな声で答えろと。
叫べと。
腹の底から力を入れて、この幻想郷中に聞こえる程の大声で、叫べと。
「だからさぁ……その答えを、叫びなさい。博麗霊夢!」
交錯する視線と心理。
守るべきは幻想郷。捨てるべきは少女としてのちっぽけなプライド。
二度三度四度――幾度かの逡巡の後、霊夢は叫んでいた。
腹の底から、空気とプライドとその他諸々の恥じらいを全て吐き出す様にして絶叫していた。
「北の政所ォォォォォォォォォォッッ!!!!!!!!!!」
「――正解ッ!」
「やったな霊夢っ! まずは回避成功だぜ!」
「……ええ。そうね」
喜ぶ魔理沙と、気力を使い果たしてしまった霊夢。
霊夢にはまだ、北の政所を絶叫するには早すぎたのかもしれない。
そして、咲夜が次の用意しようとした、その瞬間、
「今度は、こっちの出題だぜェッ!」
魔理沙の手に握られたミニ八卦炉から、膨大な熱量が解き放たれる。
マスタースパーク、勉学弾幕ごっこスペシャル。
霊夢の身体を死角にする事で、咲夜の不意を突き強襲をしたのだ。
「……ほぅ?」
「出題ッ! 十六夜咲夜――お前には、こんな疑惑があるよなァ!?」
「何の事かしら?」
「乳パッド疑惑だッ!」
刹那、咲夜の眉がピクリと動く。
それは、霊夢達と戦い始めてから始めての事だった。
「私からの出題は一つ――そのメイド服を脱ぎ、ブラの中で使用中の乳パッドを見せろ!」
「……やるじゃない……魔理沙」
これは、魔理沙が命蓮寺の寅丸星が撃退される瞬間の事を思い出して作った問題だった。
星は、要求された宝塔を持っていなかったが為に敗北してしまったのだ。
咲夜が同様の問題を出された以上、彼女はメイド服をはだけさせ、ブラジャーの中の乳パッドを公開せねばならない。
出来るだろうか?
幻想郷のあちこちに実況されているこの状況で、そんな事が出来るのだろうか?
美麗なメイド長である十六夜咲夜は、上半身を半裸にして、ブラをずらして中からパッドを出す事が出来るのだろうか!?
出来ないはずだ。
如何に咲夜とて、その様な事が出来るはずが無い!
「言っておくが、私が見たいのはブラの中のパッドだからな。
時間を止めてその間にどこかから用意する、なんてのは反則にするぜ」
「分かっているわ……!」
咲夜は、襟元のタイに指を掛け、そこで止まってしまう。
(パターンは三つ……"咲夜はパッドをしていない"・"咲夜はパッドをしているが見せられない"・"咲夜はパッドをしていて、見せる"……
一番目ならば私の勝利は自動的に確定! 二番目でも私の勝利。そして、三番目が唯一の正答だが……それは純情を失う事になるぜ!)
魔理沙は真剣だった。
やってる事はセクハラだが、幻想郷を守る為なのだから真剣この上無かった。
対する咲夜は膠着状態である。
タイを緩めようとした所でどうしても止まってしまうのだ――その瞳には、微かな戸惑いが見えている。
「……魔理沙。私は、貴女を少しだけ過小評価していたらしいわね」
「へへへっ。お褒めに預かり光栄だな」
「まさか貴女がこの様な問題を出すとは思わなかったわ。
ブラの中から乳パッドを出せ――仮に私の乳が本物ならば自動的に敗北し、偽乳だとしても純情や恥じらいを犠牲にする羽目になる」
「しかも、お前の提案でこの様子は幻想郷のあちこちへ実況中継だ。多くの男共がお前の乳の真実を知るだろうな」
「そうね。確かにその通り」
そして、咲夜は動きを止めた。
自らのタイに引っ掛けていた指を下ろすと、真っ直ぐに魔理沙を見据える。
「……魔理沙。この出題は完璧だわ」
「へへへっ。星のおかげさ。この出題に気付いたのはな」
そして、咲夜は――……
「でもね、貴女の計算にはミスがある――私は、お嬢様の為なら裸踊りだってやって見せるわッ!」
ナイフで、自らのメイド服をズタズタに切り裂いたのだ。
中に着込んでいたインナーや下着、即ちブラジャーも含めて。
魔理沙と霊夢の目の前で。
言い換えるならば、幻想郷の全ての住民が見守る中で、公開露出をしたのだ!
「な゛ッ!?」
「……ふふふ、ふふふふふっ! これこそが、悪魔の狗としての正しき姿!
狗に衣服は不要。裸であろうとも、ナイフの一本でもあればそれで良い!」
「咲夜っ、お前、正気かッ!?」
「お嬢様の為よ!」
驚愕する魔理沙の視線の先には、上半身の裸身を惜しげもなく晒す咲夜が居た。
少し控えめでなだらかな形をした乳房も、その先端のピンク色の突起も、何もかもが見えている。
恥じらいも何も無い。
狂信に近い忠誠心が、咲夜を裸にしていたのだ。
そして――切り裂かれたブラジャーの中からは、一対のパッドが。
「正解よね。私は今まで使っていたブラジャーの中から、パッドを取り出したわ。
ぬくもり付きニオイ付き、正真正銘の私のパッド」
「……くっ!? れ、霊夢……こいつ、イカれてるぜ!?」
「そんな……北の政所の騒ぎじゃないわよ!?
よりにもよって……幻想郷全体に向けて公開ストリップだなんて!」
幽鬼の如く立ち塞がるは、狂える半裸メイド。
もはや咲夜を倒せる問題は存在しないのかもしれない――その様な予感が、霊夢と魔理沙の脳内を掠めていた。
咲夜がゆらりと右手を掲げた瞬間、その手の中に一本の銀のナイフが姿を見せる。
弾幕ごっこはまだ続くのだ。
例え、咲夜が半裸になろうとも、霊夢が少女の純情を犠牲にしようとも。
「変則出題と、行きましょう――」
「なっ!?」
次の瞬間、咲夜は二人の予期せぬ行動を取った。
自らの腕に向けて、ナイフを突き刺したのだ。
敵に向けて撃つ弾を、自らに向けて撃つ。
それは、おおよそ弾幕ごっこの常識を覆す行為。
「私への、出題――」
「咲夜ァ! お前、一体何をするつもりだ!?」
「魔理沙……あいつ、何かとんでもない事をしようとしているわ!」
そして、空中に咲夜の血液で問題文が記される。
それは……幻想郷を滅ぼしかねない出題。
"外の世界の千葉県浦安市に存在する夢の国の人気キャラクター。
黒いネズミが大きな手袋をはめていて、赤いスボンをサスペンダーで吊っています。
大きな靴をはいていて、甲高い声で楽しげに笑うこのキャラクターの名前は何?"
滅びの言葉だった。
それを口にした瞬間、幻想郷が滅んでもおかしくない言葉だったのだ。主に法律関係で。
予め断っておくならばナズーリンではない。
もっと別の言葉だ。ミで始まりスで終わる名前。
どちらかと言えばヤマメが使う「原因不明の熱病」がそれっぽく見えるかもしれない。あるいは水分子の模型とか。
「……な……え……?」
「や、止めて……咲夜……その、言葉は……」
「……ふふっ。答えましょうかしら」
半裸の咲夜は、妖しく微笑むと、その言葉を告げるべく、一度大きく息を吸い込んだ。
言う気だ――と、霊夢と魔理沙は直感的に理解をしてしまう。
咲夜は、言う気なのだ。
あの名前を。
あの、世界で一番権利関係に厳しい団体の、看板キャラクターの名前を!
「や、やめて……それだけは、それだけは!」
「咲夜! 言っても良い言葉と悪い言葉があるんだぜ!?
その言葉は後者だ! 止めろ! 止めろォォォォォォ!!!!!!!!!」
弾幕ごっこの最中であるにも関わらず、霊夢と魔理沙は身を乗り出しながら叫ぶ。
しかし咲夜は止まらない。
今にも口に思想なのだ。
一文字目の"ミ"を口にするべく、既に唇の端を尖らせているのだ。
「ミッ――」
僅か七文字。
七文字で幻想郷を滅ぼす言葉。
その七文字の内、既に咲夜は二文字を口にしてしまっている。
あと五文字で幻想郷は滅んでしまうのだ。
「――キーマウ」
一息で、四文字が放たれた。
青ざめた表情で制止に乗り出す霊夢と魔理沙だが、もはや届きそうに無い。
咲夜があと一文字を口にすれば、どんな事になるか分からない。
だから、霊夢と魔理沙は――幻想郷の希望である二人は、
「あああああああああああああ!!!!!!!!!!!!! 降参! 降参ですッ!
もう異変の邪魔をしません! だから、この弾幕ごっこを無効にして下さいいいいいいい!!!!!!!!」
「降参だぜぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
咲夜様を見習って全裸にでもなるから、許して下さいいいいいいいいい!!!!!!!!!」
幻想郷を救う為に、悪魔の狗へとひれ伏したのである。
◇ ◆ ◇
「…………状況は、最悪だ」
力なく呟く慧音は、幻想郷の終わりを予感していた。
巫女が敗れ、もはや幻想郷における反紅魔館勢力は人間の里のみである。
そして、その里は今正に紅魔館の軍勢が迫っているのだ。
幼い吸血鬼も、狂信者とも言えるメイド長も、忠実なる部下の妖精メイド達も。
白旗を掲げるべきかもしれない――誰もが、そう考えていた。
だが、慧音は言葉を続ける。
「……だが、希望を捨ててはならない。我々は確かに弱い存在だ……それでも、最後の一瞬まで全力で戦わなければならない!
何故なら、我々は誇り高き人間だからだ! 吸血鬼が何だ、妖怪が何だ! 我々とて幻想郷で力強く生きる存在ではないか!
子供達の未来を守り、少しでも立派な散り様を見せてみようぞ!」
それは、さながら尼将軍だった。
少しでも仲間を勇気付けようとしたその言葉は、事実、多くの里の人間を勇気付け、そして人々の間には子供達を守ろうと言う決意が生まれていた。
「オマーン国際空港が何だ! ウルトラマンコスモスが何だ! ヤッターマンコーヒーライターが何だと言うのだ! 金太の大冒険だって合唱してやろうぞ!」
「「「「「そうだそうだ!」」」」」
「我々は大人なのだ! アダルティックだ! もはや人生の酸いも辛いも噛み締めた年代だ! そろそろ倦怠期を迎えかけている!」
「「「「「そうだそうだ!」」」」」
「だからこそ、我々大人にセクハラ質問は通用せぬ!
卑怯な心理戦では絶対に負けぬ! なればこそ、学力で戦おうぞ! 最後のその時まで!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!! 慧音先生に続けええええええええええええええ!!!!!!!!」」」」」
熱気の渦中において、慧音は自らの罪を悔いていた。
一つは、巫女にこの勉学弾幕ごっこを提案してしまった罪だ。
そして二つ目は、今こうして演説に乗せた里の人間の内、何人かが傷ついてしまう事。
そして三つ目――咲夜、歴史家としてあるまじき行為に手を染めた事。
せめて立派に先生として散ろう――慧音は拳を固めながら、そう誓っていた。
◇ ◆ ◇
そして、夜が訪れる。
人里を蹂躙せんと遅い来る吸血鬼の軍勢を前に、大人達は必死に戦っていた。
レミリアの鬼畜弾幕。美鈴の中国史カルトクイズ。パチュリーの幅広いジャンルの出題。
それらを前にしても、大人達は一歩も退かなかった。
中には咲夜の裸が忘れられず、もう一度脱いで、もう一度乳を見せて下さいと地面に額をこすり付けながら懇願する者も居たが、まあそれはどうでも良い。
絶叫と悲鳴。
繰り返される出題と回答。
崩れ落ちる敗者と、歓喜する勝者。
大人達が戦っている――外から伝わる熱気は、その事を寺子屋の奥に隠れた子供達にも伝えていた。
教室の中に隠れながら、チルノを初めとする子供達はじっと機会を待っていたのだ。
慧音に託された問題を、レミリアに叩き込むその瞬間を。
「……うううっ……怖いよぉ……」
「こらっ! 最強のあたいが居るんだからごちゃごちゃ言わないの!」
「だってぇ……ひっぐ……ふぇぇぇん……」
「あーもう! ルナは泣き虫なんだから!」
教室に隠れた子供の内、弾幕を使えるのは僅かに六名である。
チルノ、ミスティア、大妖精、そして三月精。
この六名のみが、慧音から秘蔵の問題を託されているのだ。
「……チルノちゃん……降参、しようよ……」
教室の纏め役でもある大妖精がぽつりと呟いた。
「勝てないよ……降参して…………レミリアさんに、手心を貰おうよ……」
「バカッ! 大ちゃんの意気地なし!」
「だって、だってぇ!」
大妖精は今にも泣き出しそうな様子だった。
一番頭が回り、一番の常識人でもある大妖精には分かってしまうのだ。
こうしている間にも、里は次々と吸血鬼の支配下に落ちているのだと。
「だってもヘチマもあるかっ! あたいは……あたいは、けーね先生に勉強を教えて貰った!」
「ちょっとだけじゃない!」
「ちょっとでも、あたいは楽しかったもん! 一緒に机を並べて、本を読んで、問題に正解して……楽しかった!
自分がちょっとずつ賢くなっているのが分かったから、すごく嬉しかった! けーね先生は立派な先生だ!
だから、あたいはけーね先生の弟子だから……絶対に、負けない!」
それでも、チルノ達は諦めない。
こうしている間にも、レミリアを倒す作戦を考えているのだ。
その瞳には、諦めも絶望も混じってはいない。
ただ、勝利を目指す純粋な気持ちが込められている。
「……チルノちゃんはバカだから、分からないんだよね」
「あたいはバカだけど、それでも絶対に負けないよ」
「……そっか」
そこから先は、もう言葉は続かなかった。
すべてを諦めた大妖精と、諦めないチルノ。
平行線の議論では何も産み出す事は出来ないのだから。
「だから……まずはみすちーがあのメイドを鳥目にして……」
「いやいや。それならルナが音を消して近寄らないと……」
「そうなると、スターの能力を使って周囲を観察するのも必要ね……」
「うー……私の歌があのメイドさんに届くかなあ」
チルノを筆頭とした子供達は僅かな勝利の可能性を信じ、作戦を立てている最中である。
敵の戦力は把握しているのだから、後はどうやって撃退するか。
皆の力を合わせれば、どんな敵でも勝てるはずだ――そう、信じる彼女達の背後には、
「あら。こんな所に居たのね」
「流石はお嬢様。勘の鋭さも天下一ですわ」
ついに、吸血鬼とその狗が姿を見せていた。
◇ ◆ ◇
「……くっ…………無念、だ……」
里の路地の上。
慧音はただ、己の無力を呪っていた。
せめてレミリアに一太刀でも入れてやろうとした物の、それも適わなかった。
里の大人達も次々と敗れている。
後は、子供達に賭けるしか無いのだ。
「せめて……あの仕込が、成功してくれ……」
意識を失う寸前。
慧音は、昨夜の自分が仕掛けた仕込みが花を開く事を、ただ祈っていた。
◇ ◆ ◇
「も、問題ッ! この式の計算を解いて――」
「暗算でも余裕だなぁ……129だろう」
「指も使わずに一瞬で!?」
「齢500を舐めるなよォ? 小娘。貴様は偏微分の問題で殺してやろうか……クククッ」
「ひっ、い、いあ……止めて、来ないでぇっ!?」
「……ふふふっ。問題ですわ。元素記号のBa、原子番号56番の原子の名前は何でしょう?」
「わ、分からないよぉ……ふぇぇぇん!?」
「残念ですわ。答えはバリウム……これでも、簡単な方の問題を出したのですけどね」
教室の中は、地獄と化していた。
逃げ惑う子供達。
笑いながら子供達に迫る吸血鬼とその従者。
交わされるのは、勉学の名を借りた一方的な虐殺である。
ミスティアとルナチャイルドはレミリアに。
スターサファイアとサニーミルクは咲夜の手によって、葬り去られてしまった。
荒らされた教室の中、レミリアとチルノが向かい合う。
既にチルノの姿はぼろぼろの酷い有様。
レミリアの弾幕をギリギリで回避し、カスリでどうにか危ない所を避け続けた結果だった。
「はぁっ……はぁ…………このっ……吸血鬼がっ……」
「おやおや。湖の氷精もここで勉強をしていたのかい?
どうだい? 己の無力さを思い知るのは」
「無力なんかじゃ、ない! あたいは……あたいは、勉強でも弾幕でも、幻想郷で最強になるんだから!」
「そいつはムリだね。最強は紅魔館であり、その長である私こそが最強なのさ」
「最強は、あたいだぁぁぁぁ!!!!!」
「違うな。貴様は弱い」
チルノが飛び掛ろうとする瞬間、レミリアの手の先には一発の光弾が形成される。
回避は不可能なコース。チルノは自ら弾に突っ込むも同じだ。
このままでは、レミリアの弾がチルノを貫くのは確実。
誰から見ても、チルノの敗北が決定したとしか思えない、その瞬間、
「――――チルノちゃんは……殺させないっ!!!」
部屋の隅で震えていた大妖精が、突如としてレミリアに飛び掛った。
「何っ!?」
「大ちゃん!?」
「お嬢様っ!」
レミリア、チルノ、咲夜の三名が三者三様の声を上げて驚く中、一番の驚愕を隠せなかったのは他ならぬ大妖精本人だった。
「あ、あれ……? 私、体が、勝手に……」
その表情は、純粋な驚きだ。
絶対に適わない相手である吸血鬼に、無鉄砲にも飛び掛ってしまったのだから。
それも、今まで諦めていた大妖精が、である。
全ては、大切な友を守るが為の反射的な行動だったのかもしれない。
その反射的な行動が、チルノを救ったのだ。
「くぅっ! 離せ、離せぇ!」
「……! チルノちゃん! 今の内に、早く!」
「……レミリアァァァァ!!!!!!!!!」
「おのれェェェ!!!! 小娘がァァァァ!!!!」
瞬間、レミリアが反射的に放った弾幕と、チルノが力を込めた弾幕が空中で交錯する。
チルノが放ったのは、あの慧音が託した問題だ。
人間の里を――否。幻想郷を守る為に教師が教え子に託した、大切な問題。
◇ ◆ ◇
レミリア・スカーレットは、この勉学弾幕ごっこが初まって以来、初めて後悔をしていた。
窮鼠猫を噛むとは言った物だ。格下の妖精のとっさの行動に気を取られ、そして氷精の放った弾幕に射抜かれてしまったのだから。
だが、レミリアがとっさに放った弾幕も有効であった。
レミリアが被弾したその瞬間、チルノもまたレミリアの弾に被弾していたのだ。
「……小娘。決着を付けよう。たかが氷精と侮ったのは間違いだったらしいな」
レミリアの声に反応してか、寺子屋の壁が崩れ落ち、外の景色が露となる。
道に倒れた大人達。
泣き叫ぶ子供。
この世の終わりを覚悟した妖精。
そして、青年に肩を担がれながら、立つのがやっとの慧音の姿も。
チルノの視界に慧音の姿が入るのは、当然の事だった。
「けーね、先生!?」
「……チルノ……か……? レミリアに被弾、させたんだな……」
「う、うん! 大ちゃん達が居てくれたから、だから、あたい、ここまで持って来たよ!」
「…………ふふっ。やっぱり、お前が里の希望だったのか……
チルノ、後はもうお前に全て任せるよ。思ったままの事を、答えれば良い…………私は、チルノを信じる」
「……! はい、師匠!」
「……………………」
「……………………」
無言で交わされたのは、師匠と弟子――教師と生徒の、信頼の視線。
機会を作ったのは大妖精だ。
時間を稼ぐ為に懸命に戦ったのはミスティア達だ。
そして、慧音が授けた問題がチルノの手で放たれ、ついにレミリアの喉にまで噛み付いたのだ。
文字通りの一対一。
レミリア対チルノ――幻想郷の命運を賭けた、最後の出題である。
「では、まずはお前が放った問題を私が回答するとしよう」
最初に回答を行うのはレミリアだった。
自らに打ち込まれたクナイを空中に投げると、そこから光の文字が放たれる。
"日本史上において、非常に珍しい死に方をした事で知られる人物に松永弾正久秀が居る。彼の死因として知られているのは何?"
「……ふん。こんな問題かね。そこの氷精にこいつが答えられるとは思えんし……そうか、半獣が製作し、弾幕を氷精に託したのだな」
「ご名答だよ。レミリア・スカーレット。それは私が生徒に託した問題だ」
「だが、余りにも簡単過ぎるなあ。クククッ」
確かに、慧音が作った問題はそれなりに難しい物だったのかもしれない。
マニアックな問題だ。寺子屋では教えないであろう歴史上の出来事。
だが、それでも……レミリアの頭脳には、この問題は余りにも易しすぎた。
齢五百の頭脳を持ってすれば、簡単に正答を導ける問題だったのだ。
「松永弾正久秀と言えば、1577年に大和信貴山城にて自害を行ったのが有名だ」
「……ああ。その通りだな」
レミリアの回答に、慧音はこくりと頷く。
「その際、久秀は火薬を用いて自害を行っている。平蜘蛛の茶釜と呼ばれる釜に火薬を詰め込み、発火する事でな。
故に……この問題の正答は爆死! 答えは爆死だ、小娘!」
「違うな。貴様の被弾は有効だよ。レミリア・スカーレット」
凛と響いた声は、慧音の物。
それは、慧音の仕込みが成功した瞬間だった。
「……何!?」
「ああ。その通りだ。松永弾正久秀の死因は、古い歴史においては爆死とされている。
流石はレミリア・スカーレットだ。その頭脳には恐れ入るばかりだよ」
「古い……? 貴様、何をした!?」
「歴史を一度食い、そして新たに創造した。私の能力でな!」
「……貴様ァッ! そう言う事だったのか!?」
「昨夜、私は自らの能力を使い、松永弾正久秀に関する歴史を再構築した!
今や、その死因は偽りの死因! 私が作り出した死因こそが正答となる!」
そして、空中にレミリアが誤答を下した事を、この問題の正答が描かれる。
慧音が新たに生み出した歴史の形。
松永弾正久秀の、新たなる死因がそこに姿を現す。
"松永弾正久秀――1577年、戦の景気付けにと立ち寄ったおっぱいパブでFカップの女性に乳ビンタを受けた所、首の骨が折れて死亡"
"レミリア・スカーレット――不正解"
「貴様ァァァァァ!!!!!! 歴史上の偉人に申し訳ないとは思わんのかァァァァ!?!??!」
「里を守る為、私は歴史家としての禁忌を犯したまでだ! あと松永弾正久秀さんごめんなさい! 本当にごめんなさいっ!」
これこそが、慧音の犯した三つ目の罪だった。
歴史家として忌むべき行為かもしれないが、それでも彼女には里を守る事の方が重要だったのだ。
だから、慧音は歴史上の偉人の死因を、少しだけ弄る事にした。
恐らく絶対に正答とならないであろう死因へと。
「ぐぅぅぅぅっ……だが……だが、私の出題が残っている!
勉学弾幕ごっこにおいては、あの氷精がそれに間違えば被弾はお互いに無効となる! そうなればもう私は負けぬ!」
「行くよ、レミリア・スカーレット! あたいがお前を倒すっ!」
そして、チルノもまた受けていた弾を宙へと放り投げる。
それは、レミリアがとっさに放った問題の内の一つだった。
所詮は氷精と侮ったレミリアが適当に放った一山いくらの問題の内の一つ。
それは小学生~中学生レベルの問題だが、それでも妖精相手ならば十分に難問と言える。
チルノが不利なのは絶対に揺るがない。
そして、描かれた問題は――……
"和訳せよ――I don't know."
チルノは叫ぶ。
己の出した答えを。
師匠の教えのままに、感じた言葉を、ありのままに。
心の中に湧き上がる答えを、そのままレミリアへとぶつけた。
「……分かりませんっ!」
◇ ◆ ◇
霧の晴れた幻想郷は、元の日常を取り戻しつつあった。
神社では暇な妖怪や人間が集って酒を飲み交わし、あちこちでは小競り合いやら何やらが絶える事は無い。
勉学弾幕ごっこルールはあの後に即座に撤廃されたのだから、何もかもが元通りになったのだ。
異変が残した疵痕は多かったものの、その殆ど全てが紅魔館の関係者に発生した物(カリスマを失ったレミリア、半裸を見られた咲夜など)だったせいかその事を責める者は誰も居なかった。
一部の少女達については、先の異変を通じてより深い絆を育む事が出来たのだから、それはきっと良い事。雨降って地固まるとはこの事である。
今日もまた、修繕された寺子屋からはにぎやかな声が聞こえている。
教鞭を振るう上白沢慧音と、彼女を慕う生徒達。
人間も妖怪も妖精も、学びたいと言う志さえあれば一緒に机を並べて教育を受けられる環境――それはきっと、幻想郷の明るい未来を育む礎となるのだろう。
「よし、今日は戦国時代の歴史の授業だ!
松永弾正久秀と言う武将が居たのだが、この武将は非常に珍しい死に方をした事で知られている。ちなみにだが、知っている子は居るかな?」
「はい! あたい知ってる!」
「おおっ、ではチルノ、言ってみるんだ」
「おっぱいパブで首の骨を折って死にました!」
教室の中からは先の返答に少しだけ遅れて生徒の笑い声と、少しだけ困った様子の慧音の唸り声が聞こえて来た。
今日もまた、幻想郷は平和である。
アホながら、三人娘の絆は良かった
面白かった
こうまで見事に下なネタが炸裂するとは……感服だぁあああああっ!!(泣
おもしろかったです
咲夜さんその七文字は反則だぁぁぁぁ!!!!!!!!
そして咲夜さんカッコイイ
いやー本当に久々にそそわで大笑いした、完敗だ……ッ!!
もう二度と奈良の方角に足を向けて寝られませんね、分かります。まさに禁忌
それはそれとして、テンポの良さと発想の素晴らしさに久しぶりに腹筋が鍛えられました。なるほどこれなら俺も勉強したくなる
あと命蓮寺がひどすぎる。そしてチルノがどうやって勝つのかと思ったら幸運じゃねーか!(でも運も実力かな?)
いや褒め言葉ですよ!
あっという間に読んでしまいました
そして下ネタだらけなのに
こんなにいい良い話にできる作者天才すぎwww
GJでした!!!
GJでした!
>>そのアボガドロ定数を有効数字二桁で
>>「6.02×10^23
この回答、有効数字三桁になってるのでは…?
史上初の爆死から偉いランク下がったwwww
>一番目ならば私の勝利は自動的に確定!
これが成り立つなら
相手が持ってないものを指定するだけで絶対勝てるんじゃ?
いやまあ、性交のハウツー本まで作ってた松永さんならアリな死に方だけどさw
思いついてもそんなKYかつ無粋なことはしないだろJK・・・w
フランちゃん達3人娘が超可愛かったぜ!
弾正殿!弾正殿の首がァー!
おいwwwどこの16連射だwwwww
さとりんが苦しんでてかわいいと不覚にも思っちゃったよ!
次回作が楽しみだ
でも何故か一番笑ったのは一輪さんのくだりでしたww
慧音外道過ぎだろww
と言うか普通に避け続ければ問題ないんじゃないのか……
そしてレミリア痛恨のボーナス問題、なんという強運チルノwあたいはやっぱり最強だった。
でも、乙女の園の幻想郷で、この手の年齢クイズやセクハラクイズはやっぱ酷いと思うんだ。
しかし酷い戦いだったなー 面白かったけど
笑いばっかりの作品なのに、歴史改変で誤答を誘う展開にはちょっと感動してしまった……くやしい
外道集団紅魔館、なんてかわいいゆかりん、名前覚えてないとかひどいよひじりん
咲夜の脱ぐシーンは是非映像化希望
一撃だから?
北の政所の騒ぎじゃないわよ
きたのまんってのはタケちゃんマンの友達か何かなのでしょうか
いや、掛けてるんでしょうけど非常に気持ち悪いです。
手心を貰おう
手心は一般的には加えて貰うものです。
また、降参して手心を貰うというのはよく分かりません。
投降するから寛大な態度で扱ってくれということでしょうか。
となると表現としては微妙ではないかと。
あとチルノが馬鹿ならこんな言い方じゃ通じない筈ではないでしょうか。
なんかみんな賢いのか馬鹿なのか分からないので笑っていいか迷いました。
行動と言動がちぐはぐすぎです。
まあ、苦笑したという意味でなら笑いました。
作者さんは面白い人ですね。
色々と酷い(ほめ言葉)が、笑っちまった私の負けさ……
ただ、輝夜の部分の書き方はちょっといただけないかなー(5,6ボスクラスが純粋に頭悪いってのは……まあお空とかもいるけど)
あとPADネタ久々に見た
年齢と違って自分で出題出来るしw
分かってて投稿してるんでしょうね。
見損ないました。
馬鹿馬鹿しすぎてめちゃくちゃ笑ったwww
笑わせてもらいましたwww
最初はどんな感じなのかと身構えていましたが紫の17歳あたr(スキマ)
よくある描写だけど幽閉されて当然だろと思う。
他のところは面白く、笑わせてもらったのでこの点数で。
に幾つか引っかかってるよね
途中まで面白かったんだけどな
見てて胸糞悪かったですが参考になりました。