Coolier - 新生・東方創想話

缶詰と干物の中間

2010/05/09 11:34:21
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 保存食である。

 音が響く店内、霖之助とルーミアは、机の前に座っていた。
 彼らの目の前には、ひとつの缶詰がある。
 正しくは、缶詰と、幾つのか調理器具、だが。
「…………」
 カチ、ン。カチ、ン。
「…………」
 カチ、カチ、カチッ。
「いった……、い」
「……大丈夫かい?」
「爪、割れそう……」
「だから、僕がやるとさっきから」
 カチン。
「だいじょぶ。これぐらい、手伝うから」
 ルーミアは、缶詰のタブを爪で何度も引っ掻く様に上げようとし、その度に失敗していた。
 少しずつ上へと傾いて来ている様には見えるが、完全に上がりきり、中身が見える時は、遥か先の事になりそうである。
「……爪じゃなく、指の腹で押し上げるんだ」
「こう?」
 浮かび上がった少しの隙間に、指の肉を挟みこみ、上へと押し上げる。
 一度、カチンと音がして、缶の中へと空気が入っていった。
「あい、た」
 キリ、キリ、と薄い金属を巻き上げるように手元へと引いていく。
 そして、キンと音がして蓋が外れ、
「ッ……!」
 蓋の先が指を掠り、切れた。
「いた、て、うわ、血、血が出た!」
「それぐらいの血で騒がない」
「……む。おんなのこにその言い方はないと思うんだけど」
「だって、もう止まってるみたいだからね、それ」
 そう、霖之助が言うように、ルーミアの指は血が固まり、ぱり、ぱりと粉になって落ちていった。
「そうだけど」
 そうだけど、
「やっぱり、そういういいかたは、ないと思う」
「ふむ」
 霖之助は一度頷き、ルーミアの手から缶詰を取る。
 中身を手元に置いたボールに移し、カンと音をさせて卵を割り、菜箸でかしゃかしゃとかき混ぜていく。
「そんなものかな」
 かしゃ、かしゃしゃ、かしゃかしゃかしゃ。
「そんなものだよ」
 かしゃ。
「次から、気をつけるよ。うん、すまない」
「こころがこもってないなぁって」
「ごめんなさい」
「よし、許す」
 そう言い、ルーミアはぽんぽんと霖之助の頭を叩く。
「男にそういうのはどうかと思うが」
「そう?」
「そう」
「もしかして恥ずかしい?」
 りんのすけって子供っぽいよね、そういうところ。
 ルーミアが続けた言葉に、霖之助は眉に薄く皺を作った。その表情のまま、カチリ、カチリと机の上に置かれた機械の突起を回す。
 瓦斯焜炉と呼ばれる機械の、卓上型のものである。
 その上にフライパンを起き、焜炉から出る火で温め始める。
「ルーミア。君のご飯は抜きだ」
「いいよ、別に。そういうの、ダイエットって言うんだよね」
 最近、おなかのあたりがぷにぷにするなぁっておもうし。
「……いや、そんなことはないと思うが」
 そう返し、ボールの中身をフライパンへと流し込んだ。
 ジュゥ、ジュッ、と卵が焼ける音が店内に響き、小さく、小さく、流しいれた霖之助は舌打ちをした。
 油を引き忘れたのである、
「ないかなぁ」
「それに、どちらかといえば、もう少し肉をつけた方がいい」
「胸に?」
「全体的に」
 がりがりじゃないか、本当。
「そうかな?」
「かな、が口癖になったのかい?」
「あ、そうかも」
 かん、と胡椒の小瓶を叩き、卵へと振りかける。
「フライ返し」
「あ、うん」
 火を消した霖之助に、ルーミアがフライ返しを手渡す。
「さてと、ご飯だ。缶詰に時間を食ったから、ちょっと遅くなってしまったが」
「みみいたいんだけど」
「さて、どうしたかな。あとで耳掃除でもしようか」
「わかってて言ってるでしょ」
 がしゃ、がさとフライ返しを焦げ付いた卵の底に当て、浮かせる。皿へと移し、机の上、二人の間に置いた。
「それじゃあ、いただきます、と」
「いただきまぁす」
 そして二人は食べ始め、
「あ、箸忘れてた」
「どじだよね、やっぱり。りんのすけって」
 なかったのであった。


 缶詰とは、ひとつの世界である。それは見たこともない海なり、土地の生物が入った空間なのだ。
 まあ、だからなんだといえば特に意味はない。物を忘れるように、常に起こりえるもの、そう、話が脱線したのだ。本題ではない、と言い換えてもいい。


「かたい」
「そりゃ干物だから」
「つめたい」
「そりゃ焼いてないから」
「しょっぱい」
「そりゃ保存食だから、って、焼いてから食べなさいな」
 がりがりがりがりと、鯵の開きを焼かずに食べる。
 いくつもの、その食料への否定の言葉をつぶやきながら、多々良小傘は貪り続けていた。
「まさか、ひもじいひもじい言って、本当におなかも減ってたなんて」
「わかったから焼いて食べなさい、ね。おなか壊すわよ、あなた」
「私、強い子」
「……そりゃあ、人のお昼ご飯を取っちゃうのだものね。強すぎて妬ましいぐらいだわ」
 かりかりと爪を齧りながら、緑色の瞳をした少女が小傘の頭へとつぶやく。
 ぎゅるぅ、とかすかに腹の音がしたのは、気のせいだったか。
「んと、食べます?」
「嫌よ、人の口つけたものなんて」
「失敬な、わちきは汚くなんてありませんぜ」
「どこの人よあなた、その話し方は」
「えっと、幻想郷?」
 はぁ。
 と緑目の少女がため息をつく。
「じゃあなんで、こんなところにいるのよ。地底よ、地底。ここは地獄の三丁目ってね」
「おむすびころりんのおむすび役になっちゃって」
「ここまで転がってこれるあなたに驚くわね、本当」
「私も驚いて、驚いて、おなかすいた」
「はいはい。その鯵の残りは焼いてあげるから、ゆっくり待ちなさい」
「あ、そういって取る気な」
「わけないから」
 てい。
 と、小傘の頭を叩く。
「いたっ。……酷い」
「ほら。さっさと食べてお帰りなさい。ここは地獄の一丁目、あなたが来る場所じゃないわ」
「さっき三丁目って言ったよ」
 てい。
 と、また叩く。
「いたい」
「いらないこと言わない」
「あい。わちきがわるうござんした」
 がり。
「じゃあ、行きますか。いろいろご親切に」
「してないわよ。勝手に来て勝手に人のごはんを取ったんじゃないの、あなたが」
「まあ、近々お礼に来ます」
「来ないでいいから。むしろ来んな」
「じゃあ、行きますね」
「早く行きなさいよ、本当に。あと、地上についたら胃薬飲みなさい」
 ふわ、と小傘が浮かび上がる。そして、ゆるゆると緑目の少女から離れていった。
「あーりーがーとー」
「はいはい。もう来ないのよー」
 そして、少女しかいなくなった。
「……ま、いつもどおりと」
 ふわぁ。
 と、欠伸が漏れる。
「ごはん、食べに行くかな」
 まあ、たまにはこういうのもいいかしらね。


 おなかがすく。おなかがいっぱいになる。その違いに一喜一憂するのが人生の醍醐味なのかもしれない。
 ところで、醍醐とはチーズのようなものなのだが、と、すまない。これも脱線、本題ではなかった。


「お茶漬けねぇ」
「しかたがないじゃないの、これしかないんだから」
「いい歳した女の子が二人淋しくお茶漬けとか悲しくなるなぁ」
「嫌味言うなら食べなくていいわよ。金欠で泣きついた蓮子さん」
 ずずず、と茶碗の中の湯を啜りながらマエリベリーが言葉を返した。
「ああ、ごめんなさい。私がわるかったわ。その、許して、くれる……?」
「キャラじゃないでしょ、それ。どこでそんなのおぼえたのよ」
「漫画。古本屋で二束三文で売ってって、買っちゃった、十冊ほど」
「で、そのせいで金欠と」
「いや、それは関係ないんだけどね、お金ないのとは」
 ずずず。ごく、ずざ、ごく。
「ああ、体にわるい。噛まないで食べるようなのはいけないのに」
「だから、嫌味とか文句を言うなら食べなくていいわよ?」
「あー、お茶漬けおいしいなぁ。あははは」
「それでよろしい」
 かちゃ。ずず。
「で、」
「うん」
「なんでお金ないのよ」
「落としちゃって」
 ずず。
「……はぁ。本当、防犯とかそういうあたりに意識を持ちなさい」
「落とすのは防犯じゃないと思うんだけど」
「防犯。中のカードは止めたの?」
「止めたけど。警察にも連絡したし」
 かちゃ。
「それならいいけど、少しは落とさない工夫をしなさい。今度からは」
「マジックテープとか?」
「べりべりー」
「あー。落ちたー」
「駄目じゃない、それじゃ」
 とぷ、とぷ、とぷ。
 音をさせて、空になった茶碗へとお湯を注ぐ。張り付いた海苔がお湯で浮かび、薄緑の水面を泳いだ。
「よし、メリー。おなかも膨れたし、倶楽部活動でも始めましょう」
「交通費がまずないでしょ」
「だからよ。市内で、埋蔵金を発見するの、メリーの目で」
「一人でやってなさい。私は寝るから」
「ええ、つれないじゃないの、ちょっと」
「寝ろ。お金ないなら」
「……はい」


 保存するというのは、その場に留まるということなのかもしれない。
 過去を思い返すように、時々ならば良いが、常に繰り返せば、なにか物足りなさを感じるのだから。
 ただ、保存を解く、その一瞬の楽しさ、それだけは変わらない。本題も……、あれ?缶切はどこだっけ。
空間を食う缶とかいう洒落を思いついたけどくだらなすぎるから言わないでおこう
すごい久々だなぁ

最初は、ルーミアさんが血の出た霖之助の指を舐める話だったのに、なにが起きたんだろう、自分の中で
◆ilkT4kpmRM
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コメント



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3.70名前が無い程度の能力削除
中間シリーズのナンセンスさは心地良い。
9.70名前が無い程度の能力削除
これは良い山なし落ちなし意味なし。
シリーズ見てきます。
11.70名前が無い程度の能力削除
言うとりますがな
17.100名前が無い程度の能力削除
あなたの作品を読むと何かしらの保存食が無くなる