プロローグ
それは夏の朝だった。
私は顕界――生きとし生けるものが暮らす幻想郷へと降りてきていた。
別に朝の散歩をしに来たわけではない。
立場上、主人である西行寺幽々子様や屋敷を放って勝手な行動は出来ない。
私は魂魄妖夢。冥界、白玉楼の庭師をしている者である。
では何故こんな朝早くから顕界にいるかと言えば単純である。
東の博麗神社で、夜通し宴会が開かれていたからに他ならない。
八雲紫様が、幽々子様と私を呼んで、勝手に神社で宴会を始めた。ただそれだけである。
紫様ほどの大妖怪と親しく関係をもつ幽々子様は本当にすごいなぁ、
と思いつつ、私も気付くとかなりの量を飲んでいる。
横では既に巫女である霊夢が出来上がっており、散々私に愚痴をこぼしてくる。
そういえば、こいつも紫様と仲がいい。仲がいいと言うか、よく構われていると言うか。
やはりこの巫女、ただものではない。
さて、そうして朝、酔いが覚めた頃にふと気が付いた。
幽々子様がいない。
巫女にあてられたのか、私もだいぶ酔っていたようだ。
まさか主人がいなくなったのに気付かないなんて。
紫様に聞くと、「きっとそのへんの妖怪でも餌にしてるんじゃないかしら。」と言う。
巫女に聞くと、「満足して成仏したのよ。」と言う。
全くもって会話する気がない。
改めて紫様を問いただすと、屋敷に帰ったんでしょ、と言った。
私もそう思ったので、片付けは巫女に任せて、あわてて冥界へ帰ることにした。
紫様の、まるで未熟者を見るような視線が痛い。
その道中だった。やけに生ぬるい空気。その割に薄暗い不思議な雰囲気。
そしてふと山の方を見やったときに、目に映った影。
それはあまりにも巨大で、人型で、うごめいていたのだ!
「幽々子様!幽々子様、大変です!」
「あらあら、どうしたの妖夢?楽しそうね。片付けは終わったの?」
はたして、幽々子様は白玉楼に帰ってきていた。相も変わらず、ニコニコとしている。
「やっぱり片付けから逃げたんですね、せめて私に声くらいかけてくださいよ。
いや、それより聞いてください!顕界に、何やらすごく大きな妖怪がいたのです!」
「大きな……?そうね、大きいと言えば、私、孔雀が見たいわ。」
「はあ。」
こういう唐突な話題もいつものことだ。この人も私と会話してくれない。
少なくとも私には、会話してくれているように聞こえない。
構わず幽々子様は話を続ける。
「孔雀はね、普段はほっそりとしているただの鳥。
だけど、ひとたび雄が羽を広げると、それはもう蝶のように美しくて、大きいのよ。」
私はため息をついて、答える。
「幽々子様、今度その孔雀を見つけたら、ひっ捕まえて、お望みならば調理も致します。
でも今は、孔雀どころの大きさじゃないんですよ!」
「そんなに大きな問題なのかしら?」
「もちろんです!まるで山のように大きな妖怪ですよ。大問題です。
あるいは異変の兆しかも……」
「うーん、でもそんな大妖怪、いないと思うなぁ。」
幽々子様は困った顔をする。困った子の会話に付き合っているような顔。
困った会話をするのはそっちも同じだ。私の酔いはとうに覚めているのだ。
私は力強く反論した。
「いいや、この目で見ましたもの。巨大な影がうごめく様を!
それとも私の見間違いだって言うんですか?あんな大きなものを……!」
「うーん、そうね、見間違いね。大丈夫よ、こんな暑い夏の日には誰しもあることだわ。」
「そんな……!」
どんなに力を込めようが、この人と話して思い通りの会話が出来た試しがなかった。
しかし待てよ?夏の日?暑い……?
「そうか!もしかしたら……」
私は駆け出した。再び顕界に行く必要がある。
「幽々子様、すいません!少し気になることが出来ました。
夕飯までには帰りますので!」
背中から、まだ楽しそうに話し続ける幽々子様の声が聞こえる。
「私もねぇ、一昨日はあんまり暑いものだから、のどが渇いて渇いて。
ちょうどお水を運んできてくれた妖夢の頭を、西瓜と見間違えて危うく……
あら、妖夢ー、おゆはんまでには帰ってねー。」
身震いしながら私は飛んだ。
Stage.1
湖は、妖怪の山のふもとにある。
朝、遠目ではあったが、山のふもと辺りに「巨大妖怪」はいた。
ここがその出現場所でもおかしくはない。
しばらく前に、妖夢は自分で考えることが足りない、
というようなことを、幽々子様に言われたことがある。
それを受けて、実際に自分で考え考え、上手くいったかといえば、
まだまだ精進が足りないことを思い知らされただけであった。
それでも、あれ以来私は出来る限り自分で考える癖をつけている。
……つけられるよう努力している。
そういうわけで、今回は、かの巨大妖怪の正体を私の頭で考えてみた。
結論、幽々子様の言葉がヒントとなり、あれは蜃気楼だろうと予測したのだ。
蜃気楼というのは、巨大な蛤の妖怪が暑い日に冷気を吐き出すことが原因と言う。
暑いというほどの日でなくても、蛤の出す妖気によっては幻が生み出されるらしいが。
ともあれ、今日のような暑い日は、蛤にとって幻を生む格好の機会であろう。
「見つけた……!」
今回の蛤は巨大蛤というには小さいし、故意に幻を生もうとしたわけではなさそうだ。
妖精らしく、やりたかったからやったのだろう。湖が半ば凍っている。
「むむ!この辺に妖夢が現れるなんて!珍しい!
これはさっきのだいだらぼっちについて、何か知っているに違いない!」
氷の妖精、チルノだ。何やらまた下らない独り言をしている。
この妖精の冷気で湖が冷やされ、蜃気楼が発生した。
私はそう踏んでいる。
そこで、とりあえずこいつを退治しに行こうと思い立ったわけだ。
「そこの妖精、あなた、また妙ないたずらしたわね!」
彼女の目の前に降り立ち、上から叱るように言葉をぶつけた。
それなのに。
「妖夢、だいだらぼっちについてしゃべってもらうよ!どうやったら手下に出来るかとかさ!
あれ、もしかしてアンタも調べてるところ!?それを見抜くとは、さすがはあたい!
あ、あたいは何も見てないから、何も分からない!」
こんな妖精にさえ会話をしてもらえない。
私が悪いのだろうか。
「はあ、だいだらぼっちなんて出ていない。
あなたにもあの影が見えたのでしょうけど、あれの正体は、あなた自身。」
仕方がないから律儀に説明してみた。
まあ説明した所でチルノが理解できるはずもないが。
案の定、チルノは頭の上に?マークを……浮かべるどころか、
「え!?あのだいだらぼっちが、あたい!?」
調子に乗り出しそうな有様である。
どうも私にも思慮が足りない、それは事実のようだ。
幽々子様、あなたのアドバイスは的確だったようです。
「あたいったら」なんて言い出す前に、けりをつける必要があるだろう。
私は瞳を輝かせる妖精の前で剣を抜き、弾幕を展開させた。
「ううっ、さいきょーのはずなのに……」
確かにチルノは妖精の中では最強クラスの力をもっているのだろう。
しかし所詮は妖精である。
「あなたの冷気が、ああいうものを生み出すの。
これに懲りて、あんまり思いつきで余計なことをするのはやめなさい。」
ついに自らの力で、大きな問題を一つ解決した。
これであんな巨大な影が現れ、人々や妖怪たちが混乱する事も二度とない。
途中妖精にさえ翻弄される失態もあったが、結果オーライだ。
そういった弱みは、今後の修行の指針にもなる。
幽々子様、そして妖忌お爺様、見ていてください。
私、もっと強くなります。
そんな万感の想いをこめて、剣を鞘に戻す。
……戻そうとした。
「ああ!だいだらぼっち!」
突然、チルノが私の背後を指差して叫んだ。
「およ?」
それはさておき、感触として、軽めですが良い風の作品でした。ただやはり、言葉遊びにこだわるのならもう少し踏み込んでみてはどうでしょうか。なんとも中途半端な印象を受けましたので……。
また会いましょう。では。
会話が成り立たねぇ、さすが幻想郷。みょんの頭にかじりついているゆゆ様を想像してちょっと萌えた。
続き気になります
天候:三寒四温 あらゆるものに振り回される程度の天気
みたいな感じですかね、私にとっての妖夢は。
お話の方は、これで完結というのであれば、上手いオチというよりは
若干尻切れトンボな印象でしょうか。
次回作に期待ですね。
ご指摘頂いた「けり」の誤字を修正させていただきました。
知識不足で訂正を入れることになり申し訳ありません。
結局話の終わらせ方が悪かったためかと思うのですが、
初投稿なのに次回作期待という勿体ない?お言葉を頂けまして……
申し訳ないので続編として次回作を書くつもりです。しばらくお待ち頂けると幸いです。