Coolier - 新生・東方創想話

レミリア・スカーレットのちょっと不安な一日

2010/05/06 22:34:47
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何かがおかしい…。

 まだ朝であり、くわえて日陰でもあるはずなのにうだる様な暑い朝のこと。
 ベッドの上でこの世で一番の至福の時間である睡眠を満喫していた私は、いつも通り、従者であり、もはや家族でもある咲夜に起こされた。
 本当ならば吸血鬼であるため日中は寝てるのが普通である。
 普通なのだが…、1日3食しっかり食べないと健康に悪いという理由で毎朝起こされるようになってしまった。
 …夜明け前に食べるからいいと私は言ったのに、咲夜は

「そしたらお嬢様が太るじゃないですか!!?」

 となぜか涙ぐみながら言ったので私はいやいやながらも咲夜に付き合うことになったのだった。
 ん~、あの時の咲夜の顔、かわいかったな~。
 …ハッ!!コホンッ話を元に戻すわ。
 体を起こし、隣に立っている咲夜の笑顔を見たときなぜだか私はその笑顔に違和感を感じた。
 いつもの完璧な笑顔。でも今日のそれは、すこしぎこちないようにも見える。
 何かがおかしい…。
 不思議に思った私はベッドの横に立っている咲夜に尋ねる事にした。

「…ねぇ咲夜?」
「はい?何でしょうお嬢様?」
「…なにか隠し事、してない?」
「…え?」

 あー、すこしストレートすぎたか。

「い、いえ、なにも隠し事なんかしておりませんよ。どうしたのですか?急に」

 んっ?今、少し言いよどまなかったか?…ニヤリ

「咲夜、本当に隠し事、して無い?」
「は、はい!」
「さっき言いよどんだけど?ほんとぉにぃ?」
「はい!本当です!」

 は~、咲夜かわいい!抱きしめたい!
 …まぁ、ここまで問い詰めて無いと言っているんだ、本当に隠し事なんて無いんだろう。
 咲夜を茶化すのをやめて早く着替えてみんなが待ってるであろう食堂に向かうとしよう。









 食堂に着くとすでに全員が揃っていた。毎度毎度のことながらみな早すぎやしない?
 まぁ、それだけ私が起きるのが遅いと言うことなのだろう。
 いつも通りテーブルの上座に座った私は目の前にあった新聞の広告が目に止まった。

『幻想郷についにアイスクリーム屋が登場!』

 あいすくり~む?…聞きなれない単語ね。
 顔に塗るクリームの一種か何かなのかしら?
 とりあえず、分からないことは人に聞く。
 知るは一時の恥、知らぬは一生の恥とも言うことだし。
 ここは紅魔館で一番の物知りで親友のパチェに聞くのが一番でしょう。

「ねぇねぇ、パチェ、このあいすくりーむって何?」
「…え?ごめんレミィ、何?」
「このあいすくりーむって何?顔とかに塗るクリーム?」
「あぁ、これは顔に塗るクリームじゃなくて食べ物よ」
「へー、おいしいの?」
「さぁ?私は基本的に外に出ないし、そもそもそんなものこの幻想郷には無かったから、食べたことも見た事も無いわ」  
「ふーん…。ねぇパチェ?あなたは興味ないの?」
「ない」

 え?即答?いつもなら外から入ってきたものに対して興味を抱いたことの無いパチェが?
 そりゃあ毎回断りはするけど、それにしたってもう少し考える間ってものがいつもはあるのに…。
 何かがおかしい…。
 やっぱりなにか企んでるのかしら? でも、咲夜とパチェが何を企むっての?
 パチェは大切な親友だし、咲夜はこんな私のことを心の底から慕ってくれている(…たぶん)。
 んー、理由が思いつかない。…まさか、私になにか不満でもあるの?
 ふと、昔のことを思い出してしまった。いやな思い出。
 それを無理やり追い出し、パチェに一応、あくまでも一応質問してみる。

「…パチェ、何か隠し事、してないわよね」
「してないわよ?なんで?」
「いや…あなたの様子がちょっと変だと思ったから」
「そんなことないわよ」

 いつも通りに見えるパチェの顔。
 でも私は、胸の中で湧き上がったすこしの違和感と不安を拭うことが出来ないでいた。











 





 いつも通り他愛も無い会話を交わしながら朝食を摂った後、暇なので紅魔館の見回りに行くことにした。
 いつもならもう一度寝るのだが、なぜだか今日は眠る気が起きない。
 …やっぱりこの違和感のせいかしら?
 かと言って違和感を拭う方法なんて私は思いつかないし。
 というわけで、まるで霧のように朧なくせに心からなかなかはなれない気を紛らわすためにこうして動き回っているのである。
 さてさて、まずはどこから行こうかしら。
 咲夜のところにいくのもいいけどあの子いつもどこにいるかわからないし…。
 広すぎて端の見えない廊下をとぼとぼと歩いていると窓から美鈴の頭が見えた。
 …人が眠っている姿がまるで舟をこいでいるようだと最初に言ったやつって誰なんだろう。
 美鈴の頭はまさしく舟をこいでるように一定のリズムで揺り動いていた。
 …ありゃ完全に寝てるわね。
 しょうがない、日傘でも差して美鈴に喝を入れに行くか。
 まぁ、喝を入れるって言っても起こすだけだけどね、それで話し相手になればしめたものだわ。










 門へ着くと案の定美鈴は寝ていた。
 しょうがない、起こすか。

「美鈴!起きなさい、美鈴!」
「うにゃむにゃ、寝てましぇんよ~、しゃくやしゃ~ん」
「私は咲夜じゃないっての!…毎日咲夜はこの子を起こしてるのかしら?咲夜も大変ね」
「…ん?ふわ~ぁ」
「やっと起きたの?美鈴」
「あるぇ?お嬢様、なんでこんな場所に?」
「はぁ、美鈴、あなたは何度言ったら眠る癖が直るの?
あなたがそんなんじゃほかのメイドたちが真似するかもしれないし、何より門番の意味が無いじゃない。
あなたはこの館の中ではだいぶ地位が上なんだから、きちんとしないと」
「あー、えぇ、分かってはいるのですが、どうしても眠気が…、すみません」
「んー困ったわねぇ、…まぁいいわ、いつかなんとかしなさい。ところで私はいま暇なの」
「はぁ?」
「だから私の話し相手をしなさい」
「へ?門番は?」
「そんなことはどうでもいいの、あなたは館の警備をするものである以前に館の従者なんだからね」
「…えーと、どういう意味ですか?」
「四の五の言わずに話し相手になりなさいってことよ」
「わ、わかりました!分かりましたから!そんな凄んだ目で睨まないでください」
「…まあいいわ、ところで、ひとつ聞きたいことがあるんだけど」

 美鈴に聞いてもなんにも解決にはならないと思うが、とりあえず聞いてみることにした。

「咲夜とパチェの様子が変なの、なにか企んでるのかしら?美鈴、知らない?」
「へ……?な、なんでそれを…っていえ何でもありません!」
 
 ん?なんでそれを、とは?これはもしかして本当に…

「なに?まさかあなた達、主に対して何か企てているの?」
「い、いえそんなことはありません!何も企んでなどいません!」

 この期に及んでまだそんなことを言うか。
 しょうがない、この手段だけは使いたくなかったが、ここまで頑なならば使わざるをえまい。
 私たち吸血鬼はそこらにいる人や妖怪の比にならないほどの威圧感、通称カリスマを持っている。
 特に私は、いつもは力の弱い妖精メイドたちのことを考え力を抑えている。
 しかし、その気になれば神と並ぶほどのカリスマを出すことが容易に出来るのである。
 普段、身内には絶対に使わず、もっぱら敵と対面したときにしか解放しないのだが、今回は特別だ。
 私は美鈴の正面に立ち、顔をこれでもかというほど近づけ、じっと目を見据える。

「美鈴、紅魔館の主として、そしてそなたの主として尋ねる。なにを企てておるのだ。正直に話さねばそなたの命の灯火、今ここで消す」
「――!?」

 美鈴は驚いたように身動ぎをしながら後ろに後ずさる。
 その瞳は驚きと不安、迷いで塗りつぶされている。
 本当だったらこんな手使いたくない。
 いうならば、これは私のわがままだ、真実を知りたいという。
 美鈴には悪いが私のこのわがままに付き合ってほしい。
 瑣末なことでもいい、真実を話してくれさえすれば今すぐにでも解放するから。

「さぁ、言うのか?言わぬのか?」
「…、今は」

 美鈴の言葉はそこで途切れる、言うか言わざるべきか決めかねているようだ。
 私は発破をかける。

「今は、どうしたというのだ」
「今は、言えません」

 美鈴は意を決したのか私の目をしっかりと見据え言った。
 その瞳の中には先ほどのような迷いは無い。
 多少驚いたがよくよく考えればこの子は一度決めたことは信念を持って貫き通す、そんな子だったことを思い出す。

「それは、何か企んでいるということは認めるのだな」
「…はい」
「それは、この私には言えぬことなのだな」
「…どのような罰をお嬢様から与えられてもかまいません、ですが、今言うことはできません」

 …しょうがない、これ以上何を言ってもこの子は聞かないでしょう。

「わかった、つまらぬ事を聞いた、ゆるせ」

 美鈴は私の前に跪く。

「いえ、滅相もございません、ですがこれだけは知っておいてください」
「…何を?」

 美鈴はまた私の目をしっかりと見据える。

「私たち従は、いつもあなた様のことを考えているということです」
「…分かった、じゃあ館に戻るわ。門番ちゃんとしなさいね」
「え?お嬢様?罰は」
「もういいのよ、それじゃあ門番の仕事頼んだわよ」

 私は驚いている美鈴に背を向け門を後にした
 
 











 
 そろそろ眠くなってきた。自室へ戻ることにしよう。
 さて、美鈴はああいってくれたものの、私の中の違和感、いや不安はますます大きくなっていった。
 なぜみんなは何か企んでいるのか。
 なぜみんなは私に話してくれないのか。
 廊下を歩きながら腕を組みあれやこれやと原因を考えていると、ふいにある考えへとたどり着く。
 ”私、レミリア・スカーレットにみんなは愛想が尽きた”
 そんなことはない、ほかに原因があるはずだと考えを張り巡らせるが、結局はこの結論に至ってしまう。
 まだそうとは決まっているわけではない、それにこの考えにいたるのも早計かと思う。
 でも可能性としては一番高いのではないだろうか。
 考えれば考えるほどに不安になっていく。
 さながら蟻地獄につかまった蟻のように、もがけばもがくほどにずるずると悪い方へと考えてしまうのだ。
 日頃の行いを振り返れば、傍若無人でわがままな態度をしていたように思える。
 どんなことをしてもいつもみんなに困らせていた。
 さっき美鈴にしたことだって、結局は私のわがまま。
 しかも、それで美鈴を困らせてしまった。
 どう控え目に見ても良い主には思えない。
 …あーもう!考えるのはやめやめ!部屋に着いたんだからとりあえず寝ましょう。
 一眠りすればきっと違う考えも浮かんでくるはず。
 いまはぐっすり眠るのが一番。
 せめて、夢心地はいいものであってほしい。














 
 目を開けるとそこは闇に包まれた公園だった。
 星はまったく見えないのに月だけが妖しく輝いている。
 日本にある公園とすこし違って、どちらかというと外国の公園のようだ。
 こんな公園、幻想郷では見たこと無い。
 まるで昔よく通っていた公園にそっくりな――いや、ここはまごうことなく昔よく通った公園そのものだ。
 ベンチに腰掛け、あたりをよく見回していると公園の向こうから数人の人影が近づいてくるのが見えた。
 よく見てみるとその背中には羽が生えている。
 …なんだ同族か。
 お腹がすいてきたからいい獲物が来たと思ったのに。
 そんなことを考えているとその人影はゆっくりとこちらへとやってきた。

「――!お前!」

 人影の中の一人が私に気づいたようだ。

「なんでお前なんかがこんなところにいるんだよ!さっさとどっかに行け!」

 その人影は私も面識がある吸血鬼だった。
 でも確かこいつは200年ほど前に、人による吸血鬼狩りで死んだんじゃ?
 …あぁ、これは夢か。
 だから私はこんな公園の真っ只中に立っていたんだ。

「おい聞いてんのか!さっさとうせろって言ってんだよ!」
「…なによ、どうせあんた、もうすこしで死ぬくせに」
「な、なんだと!おっお前、また俺たちの運命をみ、見たのか!」

 別に見たわけではないが、怖がらせるためにそういうことにしておこう。
 
「えぇ、見たわ。あなたはもうじき死ぬ」
「う、うわああああああああああ」

 人影たちは一目散に逃げていった。
 なにもそこまで怯えなくてもいいのに。
 …わかっている。私達姉妹の能力が、どんなに常人離れした力をもつ吸血鬼であっても異常であることくらい。
 昔からそうだった、この能力のせいでみんなから距離を置かれ、
 私達の周りで誰かが死んだら、私達が運命を操作したんじゃないかと、私達が破壊したんじゃないかと疑われ、
 そのたびにみんなから暴言と石が飛んできた。
 私達は本当はこんな能力なんていらなかった。
 普通の吸血鬼でいたかった。
 みんなと仲良くしたかった。
 なのに、みんなは私達を誤解して、私達を異常な存在だと思った。
 私達は仲間であるはずの吸血鬼の中でさえ居場所が無かった。
 それでも最初は耐えられた、家族がいたから。
 でもその家族も、あるとき人間達の不意打ちに会い、両親は殺された。
 そのせいで、フランは壊れた。
 親の残してくれた大切な宝物も、私達を忌み嫌う同族に壊された。
 私達は行き場を失い吸血鬼のコミュニティーから追い出された。
 …私は何もかも失った。
 もうあんな思いをするのはいやだ。
 大切なものを失うのはいやだ。
 でも、もし自分の努力が足りなくてこういう結果になったのだったら、もうこうならないように努力すると心から決めていたのに、
 私はまた大切なものを失おうとしているのではないのだろうか。
 ふいに目の前が霞んでくる。
 いやだ、いやだ、いやだ。
 おねがいだから私を見捨てないで。
 おねがいだからもう私を一人にしないで。
 おねがいだからずっと―














「―私のそばにいて……はっ!」

 目を覚ますと目の前で咲夜が驚いたような顔をして私を見ていた。
 ふと指を目にあてると泣いていたことに気がつく。

「ど、どうしたのですか、お嬢様!?」

 咲夜は珍しく狼狽しているようだ。
 私は意を決して咲夜に尋ねてみることにした。

「…ねぇ、咲夜。何を隠しているの?」
「へ?何も隠していませんが?」
「とぼけないで!!」

 私は大声で言い放った。
 
「あなた達が何かを隠していることなんて気づいているわ!いったい何を隠しているの!」
「お嬢様それは…」
「私に何か不満でもあるの!?私に文句でもあるの!?私が、」
「お嬢様!」
「嫌いになったの…?」
「――!?」

 私はボロボロと涙を流しながら言った。
 咲夜の顔は、心の底から驚いているようにも、どこか呆れているようにも見えた。
 あぁ、やっぱりか。
 やっぱり私は呆れられていたんだ、愛想を尽かされていたんだ、見捨てられていたんだ。
 …嫌われたんだ。 

「…答えてくれないのね。わかったわ」

 そう言い残し私は泣きながらゆっくりと部屋から出て行こうとする。
 すると不意に体が重くなった。
 訝しげに後ろを振り向くと、咲夜が私を抱きしめ、泣いていた。

「え?」

 なんで咲夜はそんなにも悲しそうに泣いているの?

「お嬢様のことを嫌いになんてなるわけ無いじゃないですか。そんな悲しいこといわないでください…」
「…」
「お嬢様、隠し事をしていたことは認めます。でもそれはお嬢様に愛想が尽きたとか、ましてや嫌いになったからではありません」
「じゃぁ、なんで…」
「お嬢様を喜ばせたかったからです」
「え…?」
「いま、詳しく話すことはできません、ですが明日、きっとお嬢様は分かると思います」
「どういうことなのかさっぱりわからないんだけど…」
「…お嬢様は甘いものお好きですよね?」
「え、えぇ」
「なら、明日を楽しみにしていてください、ですから」
「?」
「私たちのことを信用してください。私たち僕はお嬢様のことが大好きで、いつでもお嬢様のことばかり考えています」
「…」
「お嬢様に自らの人生をささげると誓い、それを幸せだと思っているのです。お嬢様の笑顔に支えられているのです。…お嬢様に嫌われているなんて思われてしまったら、お嬢様に泣かれてしまったら、私達は明日からなにを支えに生きていくんですか?」
「…」
「おねがいですから、私達がお嬢様を嫌っているなんて思わないでください。泣かないでください。私達は、お嬢様を見捨てることなんてありません、一人ぼっちにすることなんてありません、離れることなんてありません。
私達は生涯を通してお嬢様を幸せにすることを幸せだと思っています。だから、お嬢様が泣くと私達も泣きそうになってしまうのです。ましてやそれが自分達のせいだったとしたら…悔やんでも悔やみきれません」
「…咲夜」
「何でしょう?お嬢様」

 咲夜は泣きながら笑顔で答えた。

「本当に、本当に私を嫌いになったんじゃないのね」
「はい!もちろんです」
「…私は、不安だった。朝からみんなの様子がおかしくて、なにか隠し事をしてるんじゃないか、嫌われたんじゃないか、そう思っていた」
「……お嬢様」
「でも、違うのね、私のことが嫌いになったんじゃないのね」
「ええ、そうですよ、お嬢様」
「よかった…。本当に、よかった」

 私は安堵のあまりまた涙を流す。

「…お食事が出来ています、みんながお待ちですよ」

 咲夜は涙を拭うとにっこりと微笑み言った。














 今日の晩餐はとても楽しかった。
 他愛も無い話をしていると、フランがふざけてこぼしたスープが小悪魔の顔にかかって狼狽したところをみんなで顔を拭いてあげた。
 美鈴が「今日は夕飯がとても美味しいですね、何かあったんですか?」というと咲夜が「じゃあいつもは不味いの?」と凄みのある顔で美鈴を睨んで、美鈴がうろたえているところをみんなで笑った。 
 パチェがぼそっと冗談を言ってその場の空気が固まった。
 やっていることはいつもと変わらないけれど、大切な人達と囲んで食べる食事はおいしかった。

「お嬢様、今日は早めに休まれてはいかがでしょうか?」

 食事もあらかた終わり、みんなで紅茶を飲んでいると咲夜がふとそんなことを言い出した。

「そうね、なんだか今日のレミィは疲れているようだから早めに休んだら?」

 パチェもその意見に同意する。

「そうですよ、お嬢様は日頃多忙なんですから今日ぐらいはゆっくりお休みになられては?」

 美鈴までそんなことを言いだす。
 …まったく、みんな嘘をつくのが下手なんだから。
 でも、もう不安に思うことは無かった。
 みんなの忠告どおり今日は早く寝るとしよう。
 食堂からでるとき美鈴と目があったので昼のお詫びを言うことにした。

「さっきはごめんね、美鈴」
「へ?」
「いや、昼に脅したでしょ?そのことを謝ろうと思って」
「いえいえ、全然大丈夫です。むしろお嬢様を不安にさせてしまってすみませんでした」
「そう?それならよかったわ、じゃあお休み」
「おやすみなさいませ」
「おやすみ」
「おやすみなさいませ」

 私は食堂を後にしまっすぐに自分の部屋へと向かった。















 …今日も蒸し暑いなぁ、この部屋の場所が悪いのかしら?
 今日も私は咲夜に起こされた。咲夜はいつもどおりのにこやかな顔をしている。
 …いや?今日はいつもよりもうれしそうだ。
 まあ気にすることも無かろう、そう思い着替えをしていると

「お嬢様、お食事の後みんなと外出なさいませんか?」

 咲夜がこう言った。









 食事が終わりみんなと出かけることとなった。
 今日は珍しくパチェも美鈴もいる。
 はて?どこに行くのだろう?
 どこにいくか咲夜に尋ねたところ

「それは行ってからのお楽しみです」

 と行き先は教えてくれなかった。
 30分ほど飛んでいると人里についた。
 心なしか、今日はいつもよりも人が多い気がする。
 人ごみの方へ目をやるとその向こうにある看板が目に入った。
 ”アイスクリーム屋”
 それはなんのひねりも無いネーミングの最近オープンしたばかりの店の看板だった。

「咲夜、これって」
「おわかりになりましたか?」
「もしかして昨日からみんなのようすが変だったのって…」
「今日ここにみんなで来ることをお嬢様に秘密にしていたのですよ」
「な、なんだ~」

 私はその場にへたり込んでしまった。

「お、お嬢様!?」
「昨日あれだけ心配した私っていったい…」
「だ、大丈夫ですよ!お嬢様のせいではありません!」
「そもそも、なんで黙ってたのよ!」
「そっそれは…」
「なんでよ!」
「お嬢様が喜んでくれるかなーと思いまして…」
「はぁ?」
「だ、だってお嬢様甘いもの大好きじゃないですか!それに前もって言っておくとお嬢様見栄張って行かないとか言い出すだろうし…」

 …だめだ、なんて言うかもう、言葉が出ない。
 昨日あれだけ悩んで悩んで悩みぬいたのはいったいなんだったんだろうか…。
 …でも、はじめから信じていれば悩まずに済んでいたのだ。
 いつも咲夜たちは私のことを思ってくれているのに、私は信じられなかったんだ。
 …私もまだまだ努力が足りないな。
 失いたくないと思うだけで、信じてあげることが出来なかったなんて。
 今後は、どんなことがあっても信じよう。この子達を。
 そして今は思いっきり楽しもう!
 その前にここまで連れてきてくれた三人に先に礼を述べておかねば。

「本当にありがとう、咲夜、美鈴、パチェ」












 余談だが、この日私の大好物がひとつ増えた。
こぁ「あれー?みなさーん!どこ行っちゃったんですかー?」
miyamo
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コメント



0.1150簡易評価
7.100名前が無い程度の能力削除
なんというハートフルな紅魔館…。ほのぼの優しい話でおじさんの涙腺崩壊したよ…

しかしオチ!
小悪魔もつれてってwww


またひとつ紅魔館がすきになった
11.100名前が無い程度の能力削除
こ、こああああぁぁぁぁ!!?
16.100名前が無い程度の能力削除
ハートフルだ!
こんな紅魔館だったら幸せだろうね。
18.80ワレモノ中尉削除
いつも思うけど、紅魔家族はやっぱりいいなあ。
ちょっと描写があっさりすぎた気もしますが、ほのぼのとシリアスのバランスが良く出来てると思います。
26.100名前が無い程度の能力削除
何か泣けてきました。いい作品ですね。
27.80リペヤー削除
素晴らしくハートフルな紅魔館でした。
良いお話をありがとうございます。

そしてこぁ忘れられてるwwみんなひどいwww
28.90名前が無い程度の能力削除
グッドエンドでよかったよかった。