Coolier - 新生・東方創想話

雨情の待ち人

2010/05/06 10:36:04
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 シトシトと降る雨の中で、私はあの人を待っていた。必ずここに帰ってくると言った
約束を忘れずに私は待ち続けていた。
「・・・・・・いつまでも、待っています」
 頬を流れるのは雨よりも温かい雨だった。
――1―-
 小傘は顔に当たる雫で目を覚ました。雫の当たった頬よりも目元が特に濡れていた。
何か変な夢でも見たのだろうと小傘は思った。だって、胸の奥が切なくて苦しいから・・・。
 襖を開けると外はシトシトと霧雨が降っていた。どこかで見たことのある雨で、小傘は
また胸の奥が苦しくなった。
「小傘。どうしたの」
 胸を押さえて外を見る小傘にぬえが心配そうな顔をした。
 なんでもないと小傘は言うがぬえは納得していなかった。
「本当に大丈夫?白蓮たちを呼ぼうか」
「い、いいよ。本当に大丈夫だから」
「・・・・・・うん、わかったよ。でも、調子が悪いならここにいてもいいからね」
 小傘は頷いた。ぬえは小傘にとって大切な友人だ。でも、今のこの気持ちを
言葉に出すことはできない。
 頭を左右に振って、目を覚ました。傘を手にとって外に飛び出した。
「今日は、守矢の神社に遊びに行こう。さなえに会いに行こう」
 シトシトの雨の中を小傘はスゥーと飛んで行った。

 山の上にある神社は、雨になると湖からたくさんの蛙が鳴いている。にぎやかな合唱
は、寂しい思いを明るくしてくれた。
「さなえ。遊びにきたよ」
 小傘は神社の境内に入ると大きな声で叫んだ。いつもなら、掃除をしている早苗が早く
小傘に気づいてくれるのだ。しかし、境内には誰もいなかった。
「・・・・・・」
 社に近づくと中から何か動く物があった。小傘はそうっと戸のスキマから覗くとそこに
は、大きな注連縄と目のついた帽子があった。あの神様たちが早苗が備えたであろう、酒
を呑んでいるところだった。
「・・・・・・」
 あんなことをして、早苗が来ないとなると・・・・・・今は留守なのだ。小傘は縁側に座って
空を見ていた。冷たい雨だった。後ろから音がした。そこに社の奥から大きな注連縄がぬうっと
出てきた。小傘は、早苗はいないのと訪ねる。
「ああ、早苗なら麓の神社に行ってるよ。なにせ、あそこにもうちの分社があるからね」
「そうなんだぁ・・・・・・」
「なぁに。もうすぐ帰ってくるさ。なんなら早苗の部屋にいたらいいよ、ここは寒いからね」

 早苗の部屋はいい匂いがする。白蓮の部屋はお香の匂いがするけど、どちらも小傘は好きな匂
いだ。早苗の部屋は花のコウスイ?の匂いだそうだ。
「なんだろう、これ?」
 机の上にメモと飴玉のような物がおいてあった。
<胡蝶夢丸>望んだ夢を見ることができる薬。永遠亭の永琳が創ったものだ。
「何て書いてあるのかな。わたし、字が読めないや」
 面白そう。ひとつ飲んでみよう。
 小傘は胡蝶夢丸を口に咥えた。
 身体が震えて、全身の力が抜けた。気絶したことに小傘は気づかない。
「小傘ちゃん。・・・・・・えっ!」
 帰宅した早苗は小傘を抱き起こした。しかし、小傘は深く眠っていた。
<胡蝶夢丸>は、夢の中を旅するもの。それが、どんな悪夢の中であっても夢が終わるまで目を
覚ますことはない。
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――2――
「×××さん。私は必ずここに帰ってきます。どうか、待っていてください」
 雨の中を少女と少年が並んで歩いていた。少女の手には少年が握っていた和傘があった。
まだ温かい体温が残っていた。
「・・・・・・はい。いつまでも、待っています。ここで、待っています」
「ありがとう。私が帰ってきたら・・・」
 少女は少年に抱きついた。強く抱きついた。離れたくなかった。シトシトの雨と同じくら
いの雨が目からこぼれた。
「もう、時間です。行かなくては」
「わかってます。でも、もう少しだけ」
「大丈夫です。たった五年じゃないですか」
 このまま時間が止まって欲しかった。汽車の汽笛がなり、少年はどこか遠くに行ってしまった。
少女は心のどこかで、これが最期の別れになると思っていた。

 時は流れ、約束の五年がたってもあの人は帰ってこなかった。
 雨の中を毎日同じように和傘をさして、待っていた。あの人が帰って来る日を夢見ながら。
 汽車が到着すると乗客の顔を見た。知ってる顔も増えた。
「×××さん。あの人はもう、帰ってこないよ」
「いつまで、待ち続けるんだい」
「向こうで流行病で死んだって聞いたよ」
 少女は何も耳を貸さなかった。あの人は必ず私の所に帰って来るのだから。
 いつしか、誰も少女に見向きもしなくなった。まるで、風景の一部のようになっていた。親も
友人も使用人も誰も少女を見なかった。
「××のお嬢さん。死んだんだって」「あの、待ちぼうけのお嬢さん?」「そう。かわいそうにね
流行の病で・・・・・・」
 少女は耳の端で噂を聞いた。××のお嬢さんって誰だっけ?少女はずっと待ち続けた。
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――3――
 小傘が<胡蝶夢丸>を服用して三日がたった。命蓮寺の一室で小傘は眠っている。
 寺の妖怪たちも心配そうに部屋の前に集まっていた。
 白蓮は皆を宥めるとお茶をもって部屋に入った。
「早苗さん。少し寝かれたらいかがですか」
 早苗はあれから付きっきりで看病をしていた。
 それでも、早苗は頭を振った。
「大丈夫です。これでも、神様ですよ」
 誰が見ても空元気だとわかった。それでも、気丈に振舞っている。
 白蓮はお茶を手渡した。
「小傘ちゃんの様子はどうですか」
「少し、目に涙を流す程度のです。どんな夢を見ているでしょうね」
 永琳さんが言うには<胡蝶夢丸>は身体に影響はないらしい。幸せな夢でも辛い夢
でも夢が終われば目を覚ますそうだ。しかし、覚めないこともあるのだ。
 寝返りを打つ小傘に早苗は顔を近づけた。まだ、起きない。目には涙が溜まっていた。

――私は、いつまでも待っています。
小傘の小さな声。誰も聞き取れなかった。

――4――
 シトシトの雨の中でボロボロ傘はくるくると回っていた。汚れて破れて持ち主のいない
傘は少女が待っていた橋の上に打ち捨てられていた。
 ここはいったいどこだろう。私はいったい誰なんだろう。ボロボロ傘は雨雲の空を見て
いた。
「いつまでも、わたしは待っている」
 私は何かを待っている。もう、思い出せない。頭をおさえて叫びそうになった。

 なんだろう。突然身体が軽くなったような気がした。
「あなたはいったい何を待っているの」
 頭を上げるとそこには皮のブーツをはいた女が立っていた。周りの人々から見向きされ
なくなってから初めて傘は声をかけられた。
「本当に可哀想。そんなに変わるまで傷ついて・・・・・・もう、半分は妖怪化しているわね」
「よ・・・う・・・・・・かい?」
「そう。妖怪よ。でも、まだ妖怪じゃない。妖怪は目的があって存在する。あなたはまだ
目的がない」
 私の目的?私はここで何かを待っている。これじゃダメなんだろうか。
「あなたは古い傘ね。ボロボロの傘。よほど持ち主は思いが強かったようね」
 ブーツの女はバサッと扇を開いた。扇からは甘い香りがした。
「・・・・・・小さく壊れた傘、小傘。これから、あなたは小傘となのりなさい」
「小傘?私の名前」
 ボロボロの傘は幼い少女の姿に変わった。待ち人の思いは少女の中に、これからは人を
驚かせてあの人を探しに行く。それが、少女の目的になった。
「いつかまた、会いましょう。楽園はあなたも受け入れるから」
 顔を向けるといつの間にかいなくなっていた。

 持ち主の思いは小傘の中に残った。
――ああ、なんて懐かしい記憶だろう。まるで、夢のようだ。


 ああ、これは夢の中なのだ。持ち主の記憶の中に小傘は入り込んでいる。
「あれっ。温かい・・・・・・雨?」
 小傘は頬をふれた雨粒を手に取った。それは、記憶の中の雨ではなかった。
「しょっぱい。涙みたいだ」
 涙?誰かが私の為に泣いてくれている。知っている声が聞こえた。
 そろそろ帰ろうか、私がいるべき場所に・・・・・・。




――5――
小傘はようやく目を覚ました。目を開けると早苗とぬえが抱きついていきた。
「よかった!!」とたくさんの顔が安堵しているようだった。
 懐かしい夢の中でいつまでも小傘は彷徨っていた。ここには戻れないかもしれないと思った。
 でも、小傘はここに帰ってきた。ここが小傘のいるべき場所なのだから。
「ただいま」
「「お帰りなさい」」
 小傘は大きな声で泣いた。とても、嬉しかった。


 シトシトの雨の中を小傘は命蓮寺の縁側から空を見ていた。前のように胸の奥が苦しくなることはなかった。脇に置いてある傘はジッと目を閉じていた。それを小傘は胸に抱えた。
「・・・・・・いつまでも待っています」
 私の持ち主だった人はあの人に会えたのかな。会えているといいな。
「××さん。私も探すよ・・・・・・人を驚かしながら、きっと見つけるから」
 シトシトの雨はゆっくりと止んだ。差し込んだ月明かりは小傘を照らした。
どうでしょうか?
雛菊
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コメント



0.230簡易評価
7.40名前が無い程度の能力削除
どうでしょうねぇ
8.60ずわいがに削除
胡蝶夢丸は「楽しい夢だけ」を見れるようにする薬の筈ですが…

内容は小傘のエピソードですかね
小傘がその目的の人を見つけられることは無いでしょうが……