「はい。ベホマズンです」
天界の、うららかな春の午後。
比那名居家に設けられた面接の席で、目の前の龍宮の使いは爽やかにそう言い切った。
比那名居氏は、初めて聞くその言葉に大いに困惑し、思わず聞き返した。
「ベホマズンとは何のことですか?」
「魔法です」
比那名居氏の娘である天子は、非常に誇り高く活発な性格であそばされた。
平たく言えば、我侭でお転婆であった。
なのでお目付け役として専任の天女のひとりでも雇おうと、広く希望を募ったのである。
そしたら来た娘がこんなだった。
「え、魔法?」
「はい。魔法です。味方全員の体力を全て快復させます」
しかしまぁ、なんだ、魔法か。
正直、魔法を使えることくらい、天界において珍しいスキルでもなんでもない。
比那名居氏の持つ要石を操る力だって、魔法と言って言えないこともない。
だがこれは面接なんだし、その先の言い分くらい聞いておこう。
彼は先を促した。
「……で、そのベホマズンはうちにおいて働くうえで何のメリットがあるとお考えですか?」
「はい。万が一こちらが全滅しそうになっても戦況を五分に戻せます」
「いや、うちは全滅するような事態にはなりません」
なんだよ全滅って。
比那名居氏が眉間を抓んで考え込むと、上階から壁をぶち抜くような音が聞こえた。
続いて、砕けたのであろう壁ががらんがらんと転がっていく音。
「だからさぁ!」
もはやその光景を目にしなくとも分かる。
また天子の我侭が始まったのだ。
比那名居氏の頭はがくりと下を向き、両の手がそれを抱えた。
「私は焼きそばパン買ってこいっつったのよ! 何よこれ、お好み焼きパンって! 小麦をどう使いたいのかはっきりしなさいよ!」
「き、今日はパン屋に何故かそれしか……」
「だったら焼きそばを別に買ってくればいいでしょうが!」
デュクシ! デュクシ! と響く打撃音らしきもの。
天子が暴力を振るっているわけではない。娘はいつも殴るフリをしながら、その効果音を口で言うのだ。
場の空気の痛さに耐えかねたのだろうか。上階の天女が駆け出していく気配がした。
比那名居氏は話を元に戻した。
「失礼。あんなのでも大切な娘だ。天子をひとり敵にして、こちらだけを味方と括って快復するというのはどうも……」
「でも、総領娘様も快復しますよ」
「元の木阿弥じゃねーか」
思わず、ツッコミに口調が崩れてしまった。
天界でも家庭でもうだつの上がらない彼だが、ことツッコミに関してはその人ありと謳われているのである。
対する龍宮の使いはまだ食い下がる。
「味方全員のHPを全快復するんですよ」
身をこちらに乗り出して、比那名居氏をぎっと睨みつけた。
パッツンパッツンな衣装に包まれた豊満な胸が強調される格好となったが、天人となり欲を捨てている比那名居氏にもちろん効果はない。
だが頭の中に「これは実りの良い天界の桃ですな」というどうしようもないセクハラギャグが浮かぶくらいには、彼もオヤジであった。ギャグは三秒で放り投げた。
「ふざけないでください。それに全快復って何ですか。だいたい……」
「完全に快復することです。全快とも言います。快復というのは……」
「聞いてません。帰って下さい」
ダメだ、話にならん。
比那名居氏は思った。話が通じないのは、娘ひとりで沢山である。
「あれあれ? 怒らせていいんですか? 使いますよ。ベホマズン」
「いいですよ。使って下さい、ベホマズンとやらを。それで満足したら帰って下さい」
こちらが言い終わる前に、龍宮の使いは椅子を鳴らして立ち上がった。
その目は帽子の鍔に阻まれて見えないが、立ち上る雰囲気で分かる。
ヤツは本気だ。
思わずうろたえる比那名居氏。
それを尻目に、彼女はぶつぶつと呪文らしきものを唱えながら、ゆっくりと右手を上げ ――
「なんで普通の焼きそば買ってきてるのよバカーーーーッ!」
再び爆音が響いた。ごろんごろんと転がっていくのは、今度は鏡台か何かだろうか。
「何よこれ! バッサバサの屋台焼きそばじゃない!」
「す、すみません! お気に召しませんでしたか?」
「当たり前でしょ! 私は角の駄菓子屋のおばちゃんが作るソースでヌトヌトになった焼きそばじゃなきゃ認めないのよ!」
「いや、あそこのおばちゃんの作ってるのは焼きそばじゃありませんよ。だって麺が尋常じゃなく太いですもん。あれはもはやうどんレベルです」
「口答えするんじゃない! 私が焼きそばだと言えばあれは焼きそばなのよ! さっさと行ってこいッ!」
ドタドタと天子は暴れまわっているようだ。「全人類のひそうてーん!」と叫びながら自らの部屋を蹂躙している。
ちなみにあの技、まだ名前しか決まっていない。響きがカッコ良く大変気に入ったので、最近の彼女はそれだけをただ叫びながら乱舞しているのだ。
「……………………」
「……………………」
響く大声につられて上を見上げていた二人は、ハッと同時に顔を見合わせた。
暫くの沈黙。
そして先に口を開いたのは、空気を呼んだ龍宮の使いであった。
「運がよかったな。今日はMPが足りないみたいだ」
「帰れよ」
読めているかは微妙であった。
バタンと閉まるドアに彼女を見送り、比那名居氏は溜め息をつく。
やはり、あれはダメだな。
雇うのであれば、もっときちんと空気を読める者がいい。今の天子にはそういう付き人が必要だ。
履歴書にバツをつけて、一枚めくる。
次の順番の者を確認して、比那名居氏はその名前を呼んだ。
「永江さーん。永江衣玖さん。お入り下さい」
天界の、うららかな春の午後。
比那名居家に設けられた面接の席で、目の前の龍宮の使いは爽やかにそう言い切った。
比那名居氏は、初めて聞くその言葉に大いに困惑し、思わず聞き返した。
「ベホマズンとは何のことですか?」
「魔法です」
比那名居氏の娘である天子は、非常に誇り高く活発な性格であそばされた。
平たく言えば、我侭でお転婆であった。
なのでお目付け役として専任の天女のひとりでも雇おうと、広く希望を募ったのである。
そしたら来た娘がこんなだった。
「え、魔法?」
「はい。魔法です。味方全員の体力を全て快復させます」
しかしまぁ、なんだ、魔法か。
正直、魔法を使えることくらい、天界において珍しいスキルでもなんでもない。
比那名居氏の持つ要石を操る力だって、魔法と言って言えないこともない。
だがこれは面接なんだし、その先の言い分くらい聞いておこう。
彼は先を促した。
「……で、そのベホマズンはうちにおいて働くうえで何のメリットがあるとお考えですか?」
「はい。万が一こちらが全滅しそうになっても戦況を五分に戻せます」
「いや、うちは全滅するような事態にはなりません」
なんだよ全滅って。
比那名居氏が眉間を抓んで考え込むと、上階から壁をぶち抜くような音が聞こえた。
続いて、砕けたのであろう壁ががらんがらんと転がっていく音。
「だからさぁ!」
もはやその光景を目にしなくとも分かる。
また天子の我侭が始まったのだ。
比那名居氏の頭はがくりと下を向き、両の手がそれを抱えた。
「私は焼きそばパン買ってこいっつったのよ! 何よこれ、お好み焼きパンって! 小麦をどう使いたいのかはっきりしなさいよ!」
「き、今日はパン屋に何故かそれしか……」
「だったら焼きそばを別に買ってくればいいでしょうが!」
デュクシ! デュクシ! と響く打撃音らしきもの。
天子が暴力を振るっているわけではない。娘はいつも殴るフリをしながら、その効果音を口で言うのだ。
場の空気の痛さに耐えかねたのだろうか。上階の天女が駆け出していく気配がした。
比那名居氏は話を元に戻した。
「失礼。あんなのでも大切な娘だ。天子をひとり敵にして、こちらだけを味方と括って快復するというのはどうも……」
「でも、総領娘様も快復しますよ」
「元の木阿弥じゃねーか」
思わず、ツッコミに口調が崩れてしまった。
天界でも家庭でもうだつの上がらない彼だが、ことツッコミに関してはその人ありと謳われているのである。
対する龍宮の使いはまだ食い下がる。
「味方全員のHPを全快復するんですよ」
身をこちらに乗り出して、比那名居氏をぎっと睨みつけた。
パッツンパッツンな衣装に包まれた豊満な胸が強調される格好となったが、天人となり欲を捨てている比那名居氏にもちろん効果はない。
だが頭の中に「これは実りの良い天界の桃ですな」というどうしようもないセクハラギャグが浮かぶくらいには、彼もオヤジであった。ギャグは三秒で放り投げた。
「ふざけないでください。それに全快復って何ですか。だいたい……」
「完全に快復することです。全快とも言います。快復というのは……」
「聞いてません。帰って下さい」
ダメだ、話にならん。
比那名居氏は思った。話が通じないのは、娘ひとりで沢山である。
「あれあれ? 怒らせていいんですか? 使いますよ。ベホマズン」
「いいですよ。使って下さい、ベホマズンとやらを。それで満足したら帰って下さい」
こちらが言い終わる前に、龍宮の使いは椅子を鳴らして立ち上がった。
その目は帽子の鍔に阻まれて見えないが、立ち上る雰囲気で分かる。
ヤツは本気だ。
思わずうろたえる比那名居氏。
それを尻目に、彼女はぶつぶつと呪文らしきものを唱えながら、ゆっくりと右手を上げ ――
「なんで普通の焼きそば買ってきてるのよバカーーーーッ!」
再び爆音が響いた。ごろんごろんと転がっていくのは、今度は鏡台か何かだろうか。
「何よこれ! バッサバサの屋台焼きそばじゃない!」
「す、すみません! お気に召しませんでしたか?」
「当たり前でしょ! 私は角の駄菓子屋のおばちゃんが作るソースでヌトヌトになった焼きそばじゃなきゃ認めないのよ!」
「いや、あそこのおばちゃんの作ってるのは焼きそばじゃありませんよ。だって麺が尋常じゃなく太いですもん。あれはもはやうどんレベルです」
「口答えするんじゃない! 私が焼きそばだと言えばあれは焼きそばなのよ! さっさと行ってこいッ!」
ドタドタと天子は暴れまわっているようだ。「全人類のひそうてーん!」と叫びながら自らの部屋を蹂躙している。
ちなみにあの技、まだ名前しか決まっていない。響きがカッコ良く大変気に入ったので、最近の彼女はそれだけをただ叫びながら乱舞しているのだ。
「……………………」
「……………………」
響く大声につられて上を見上げていた二人は、ハッと同時に顔を見合わせた。
暫くの沈黙。
そして先に口を開いたのは、空気を呼んだ龍宮の使いであった。
「運がよかったな。今日はMPが足りないみたいだ」
「帰れよ」
読めているかは微妙であった。
バタンと閉まるドアに彼女を見送り、比那名居氏は溜め息をつく。
やはり、あれはダメだな。
雇うのであれば、もっときちんと空気を読める者がいい。今の天子にはそういう付き人が必要だ。
履歴書にバツをつけて、一枚めくる。
次の順番の者を確認して、比那名居氏はその名前を呼んだ。
「永江さーん。永江衣玖さん。お入り下さい」
この点数でよければもらってくれ
てんこの付き人にはピッタリだけどww
そして天子可愛い。デュクシ!デュクシ!
デュクシ!デュクシ!
そこそこ笑かせてもらったなーって思ってたら
最後の一行で200倍に跳ね上がったwwwww
龍宮の使いはみんなぱっつんぱっつんなんでしょうか。
俺も焼きそばはぬとぬと派だ。
>小麦をどう使いたいのかはっきりしなさいよ!
これが妙にツボに入りましたw
久しぶりに声を出して笑わせて頂きましたー
コチドリは混乱して100点を押してしまった!
天子の親父が不憫だが、面接と称して視Kryげふんげふん羨まし過ぎる。
キャーイクサーン
どうして衣玖さんが採用されたのかがめっさ気になりますww
ギガデインで採用された衣玖さんぱねえ。
俺もてっきりイクさんかとおもったよwww
イクサンとこの竜宮の使いの違いって…
あっ!お仕置きが出来るかどうかか!
全体攻撃だから比那名居氏は身を持って体験出来たに違いない。
緋想天での衣玖さんは天子のお付きじゃなかった、ということは、
比那名居氏にぶちかまして不合格だったんですかねw
つまり、面接官が見ていた場所は「何ができるか」ではなく、「空気を読めるか」だったんですね?さすが幻想郷。あんな特技を持った人を採用しないなんて。常識にとらわれてないんですねぇ。これから神社の面接なんで、行く前に知ってて良かったです。
なんて見る目のないオヤジかしら、ベホマズン最高よ? 居ないと困りますわよ?
……ザラキー魔なアタシは白玉楼の幽々子さんに雇ってもらいますわんw
って思ってたら面白かった
そして後書きで笑ったw
そしてギガデインにまた吹いたwwwww
面白かったですw
オヤジさんの苦労人もいい。
てゆーかギガデインもだよ!
そして笑った
やられました。竜宮の使いはもうだめだぁ