永い夜を迎えた幻想郷を、一人の妖怪が飛んでいた。
「うぅ、酷い目にあったわ…」
ボロボロの服装で空を飛んでいた少女が、そう呟く。
少女の名は、ミスティア・ローレライと言い、歌で人を惑わし喰らうと言われる妖怪である。
そんな少女は、久しぶりに遭遇した人間を襲おうとして返り討ちにされ、逃げ帰っている途中だった。
「私も妖怪なんだから、もっとしっかりしなきゃ…」
ぶつぶつと独り言を言いながら飛んでいると、夜道に倒れている人影を発見した。
目を凝らして見てみると、ミスティアと同じようにボロボロの姿で、気絶しているようだった。
頭に生えている触角が特徴的な少年で、ミスティアは直感的に虫の妖怪だと気付いた。
「…とりあえず、近付いて様子を見てみよう…」
弱っている虫なら食料に丁度いいと思ったのか、倒れている虫の妖怪に近付く。
完全に気を失っているようで、近付いてもまったく気付く気配もなかった。
しかし自分も万全な状態ではなく、不意を突かれたら危険なため慎重に様子を伺う。
「あ…」
ふと倒れている相手の顔を見ると、その容姿に思わず見惚れてしまった。
幼さは残っているが、中世的で整った顔立ちはミスティアの好みのタイプだった。
「…ここで助けたら、きっと後で…ふふふ」
食料にしようとしていた事などすっかり忘れて、気絶している少年を連れて嬉しそうに帰路につく。
今日は厄日だと思っていたが、ここで彼と出会うためだと思えばそれほど悪くも感じなかった。
そして棲家に着くと、自分と少年の手当てをした。
と言っても応急処置が出来る程度のものしかないため、後は自然回復を待たなければならないが。
「…男の子だと思ってたけど…女の子だったんだ。…まぁ、どっちでも良いけど」
手当てをしている時に、自分が少年だと思っていた妖怪は少女だったらしい、という事が分かった。
少し残念だったが、好みであることには変わりないため、特に気にしていないようだ。
挙句、
「きっと目が覚めたら、治療してくれたお礼にって、色々…きゃーっ」
などと一人で妄想にふける始末だった。
そんな妄想を始めてからしばらく経って、ようやく眠っていた少女に反応があった。
「わくわく……あ、気がついたのかな?」
目ざとく反応した事に気づいて、慌てて少女の顔を覗き込む。
その表情に不安は一切なく、期待で胸が一杯のようだった。
「大丈夫ー、おーい」
そうして呼びかけていると、次第に少女も意識を取り戻す。
「うぅ…こ、ここは……?」
まだ完全に目が覚めていないらしく、ぼんやりと辺りを見回す。
どうやら、自分の棲家ではないようだった。
「よかった、起きたんだね。気付かなかったらどうしようかと……」
声がした方に目を向けると、ミスティアの姿が視界に入る。
背中に生えている羽から、相手は鳥の妖怪だと分かった。
そうなると、自分がここに連れてこられた理由は一つしかない。
「くっ、私だって黙って食べられるつもりはないよっ…いけっ!」
少女が号令をかけると、辺りの蟲がミスティアに襲いかかってきた。
「きゃあぁぁっ!?」
自分の手当てよりも少女の手当てを優先したため、ミスティア自身はまともな応急処置も出来ていなかった。
そんな状態で不意をつかれては、いくら相手が蟲であっても成す術がない。
「悪いけど、こんなところで食べられるつもりはないんだっ…じゃあねっ!」
「あっ…ま、待って……!」
そういい残すと、少女は窓から飛び去って行った。
ミスティアにまとわりついていた虫達も、それを追って一斉に飛び去っていく。
制止する声も届かず少女は飛び去り、ミスティアは一人部屋に取り残されてしまう。
「……行っちゃった……」
少女の去っていった方角を、ミスティアは呆然と見つめていた。
虫達と共に逃げ出した少女は、追ってこない事を確認すると木の根元に下りて体を休める事にした。
少女の名はリグル・ナイトバグといい、蟲達を自在に操る蛍の妖怪である。
「はぁ、はぁ…不意をつけなかったら、危なかったな…」
そして落ち着いて、自分の状態を確認する。
自分の状態を改めてみると、丁寧に巻かれた包帯や治療のあとから、怪我の手当てをされていた事が分かった。
「これ…もしかしてあの子が…?でも、どうして……?」
一先ず落ち着いて、自分の置かれている状況を確認する。
この永い夜に、空を飛んでいた巫女達に戦いを挑んで、あっさり負けてしまい気絶していた。
そして気付いたら、鳥の妖怪の家にいて食料にされかけていた。
「…本当に、そうだったのかな…食料にするつもりなら、手当てなんて必要ないはずだし……」
もしかしたら、自分はとんでもない勘違いをしていたのではないか。
そう思いながらも、やはり万が一という事もあるため、引き返すのは躊躇ってしまう。
「…いや、それ以前に…彼女の家は、どこなんだろう…?」
慌てて逃げ出した所為で、どこをどう飛んだのかも覚えていなかった。
「今日のところは、帰ろう…こんな状態で襲われたら、大変だし…」
そう自分に言い聞かせて、少し後ろめたく思いながらも住処へと帰るのだった。
一方その頃、ミスティアは自分の手当てを行っていた。
「はぁ…あの子、どこ行ったのかな……名前も聞いてないし…」
どうやら、まだリグルの事を諦めてはいないようだった。
普段は色んな事をすぐ忘れてしまう彼女だが、それでも好きになった相手の事は忘れないのだろう。
それに、手当てをしてあげたお礼もしてもらっていない。
「こんな程度でヘコんでちゃダメよね!また、会った時にちゃんとお話しよう…うん、そうするべきだよね!」
そう決心すると、疲れた身体を休めるためにベッドへ潜る。
疲れていた所為か、眠りに落ちるまでそれほど時間はかからなかった。
そうして二人が出会った日から、暫くの時が経った。
しかし未だに、二人の再会は果たされていない。
リグルは蟲達の様子を見ながら、ミスティアを探している。
「うーん、今日こそは会えると良いけど…」
そう呟きながら外へ出ると、目に付くところに一枚の紙切れが落ちていた。
「ん、何だろう、これ…?」
紙切れを拾ってみると、文々。新聞と書かれているのが目に入った。
「ここに載ってるのって…あの子、だよね…」
その新聞には、夜雀のミスティア・ローレライが屋台を始めたという事が書かれていた。
内容を読んでみると、人通りの少ない夜の道で八目鰻の屋台を出しているという事だった。
「よし…夜になったら行ってみよう」
夜になると、人間の里から伸びる道の途中に小さな屋台が現れていた。
暖簾に八目鰻と書かれたその屋台からは、香ばしく焼けた鰻の匂いが漂ってくる。
そして、鰻を焼いている少女、ミスティアは楽しそうに歌っていた。
「今日も~私は~♪美味~しい~鰻を~焼~くの~♪」
その歌声に誘われてか、様々な人間や妖怪が屋台の方へと足を運んでいるのが見える。
「よう、邪魔するぜ」
「こんばんは」
二人連れでやってきたのは、紅白巫女と白黒魔法使いだった。
以前は酷い目に会わされたが、今ではこの屋台の常連になっている。
最も、二人とも常にツケており代金を払った試しはないのだが。
「いらっしゃいませ~。いつものでよろしいですか~?」
ミスティアとしては出来れば帰ってもらいたいが、何をされるか分からない為、他の客と変わらずに対応する。
「おう」
「えぇ、よろしく」
二人とも頷いて、鰻が焼けるまで二人で楽しそうに話していた。
そんな二人の背後に、頭に二本の角を生やした少女が現れる。
「おや、相変わらずタダ飯食べに来てるんだねぇ、二人とも」
そう言って少女が楽しそうに笑うと、紅白巫女の方が反論した。
「何よ萃香、私を魔理沙と一緒にしないでよ。私はちゃんと払ってるわ」
「へぇ~、その割にはツケてばかりだって聞くけどなぁ」
「三ヶ月に一回くらい、まとめて払ってんのよ、まとめて」
「まとめる意味が分からないぜ…」
などと言い合いながら、彼女達はいつも通り屋台での時間を過ごしていたのだった。
それを遠くで眺めながら、リグルはどうやって声をかけるか考えていた。
「…さすがに、あれだけ沢山いると出て行きたくないなぁ…」
屋台の方は思った以上に繁盛していて、中々客足が途絶える事はない。
また、蟲の妖怪であるため、こういったお店で歓迎される事は少ないのだ。
そして自分を負かした人間が二人もいるとなれば、出て行く気はまったく無くなる。
「……とりあえず、屋台が終わるまでここで待ってよう…」
リグルはしばらく考え込んだ後、屋台の終わる時間まで待つ事にしたのだった。
それから数時間が経ち、ミスティアは屋台を片付ける準備を始めた。
既に誰も客はおらず、小さな屋台と少女がいるだけだった。
「ふー、今日もたくさん来てくれたなぁ。この調子なら、焼き鳥撲滅も近いわ」
そんな事を言いながら、機嫌良さそうに片づけを行う。
「…あ…そろそろ、良いかな」
それを見たリグルが、ミスティアの方へと向かう。
「…あ、あのー…」
ミスティアの近くまで行って、恐る恐る声をかける。
「すいません、今日はもう終わりで……」
言いながら振り返ると、そこに立っていた相手を見て固まってしまう。
リグルとしても、少し戸惑っていたが、なんとか会話を続ける。
「え、えっと…その、久しぶり、だね…お、覚えてるかな、私の事…」
緊張している所為でどもってしまいつつも、何とか言葉をつむぐ。
「あ、あの時はごめんね…私が勝手に早とちりして…その…本当に、ごめん…」
そう言って頭を下げる。
一方のミスティアは、その言葉を聞きながら少しずつ落ち着きを取り戻す。
「うぅん、確かに最初はそのつもりだったし…そう思われても、仕方ないから」
その言葉を聞いて、リグルは恐る恐る顔を上げて尋ねた。
「最初は…って、ならどうして手当てを…?」
尋ねられて、ミスティアの顔が真っ赤になる。
恥ずかしそうに俯いて、上目遣いでリグルを見ながら答えた。
「えっと…その…貴女に一目惚れして…これをきっかけに、仲良くなれたら…って思って…」
途切れ途切れに、だがしっかりと思いを伝える。
聞いているリグルも、耳まで赤くなって顔を逸らす。
「そ、そう…なんだ…ひ、一目惚れかぁ……」
なんとか落ち着こうと深呼吸する。
「そ、それで、ね…その…良ければ、私と…友達から……」
潤んだ瞳でリグルを見つめて、さらに思いをぶつける。
落ち着きかけていたが、その姿を見て再び顔が赤くなってしまう。
(か、可愛い……)
そんな事を考えながら、リグルが答える。
「あ…その…わ、私なんかで良ければ……喜んで…」
言葉は途切れ途切れであったが、それでもしっかりとミスティアの思いを受け止めた。
「ありがとう……えっと…」
ミスティアが口を開くが、そこでようやくまだ名前も知らなかった事に気づく。
「あ…そういえば、名前も言ってなかったね…私はリグル。リグル・ナイトバグだよ」
「リグル…私は、ミスティア・ローレライ、だよ。その…これから、よろしくね、リグル」
そう言って、ミスティアがリグルに抱きつく。
リグルは少し戸惑いながらもしっかりと抱きしめ返した。
「うん…私の方こそ…ね、ミスティア…」
そう言ってリグルが、ミスティアに優しく微笑みかける。
こうして、二人の付き合いは始まったのだった。
「うぅ、酷い目にあったわ…」
ボロボロの服装で空を飛んでいた少女が、そう呟く。
少女の名は、ミスティア・ローレライと言い、歌で人を惑わし喰らうと言われる妖怪である。
そんな少女は、久しぶりに遭遇した人間を襲おうとして返り討ちにされ、逃げ帰っている途中だった。
「私も妖怪なんだから、もっとしっかりしなきゃ…」
ぶつぶつと独り言を言いながら飛んでいると、夜道に倒れている人影を発見した。
目を凝らして見てみると、ミスティアと同じようにボロボロの姿で、気絶しているようだった。
頭に生えている触角が特徴的な少年で、ミスティアは直感的に虫の妖怪だと気付いた。
「…とりあえず、近付いて様子を見てみよう…」
弱っている虫なら食料に丁度いいと思ったのか、倒れている虫の妖怪に近付く。
完全に気を失っているようで、近付いてもまったく気付く気配もなかった。
しかし自分も万全な状態ではなく、不意を突かれたら危険なため慎重に様子を伺う。
「あ…」
ふと倒れている相手の顔を見ると、その容姿に思わず見惚れてしまった。
幼さは残っているが、中世的で整った顔立ちはミスティアの好みのタイプだった。
「…ここで助けたら、きっと後で…ふふふ」
食料にしようとしていた事などすっかり忘れて、気絶している少年を連れて嬉しそうに帰路につく。
今日は厄日だと思っていたが、ここで彼と出会うためだと思えばそれほど悪くも感じなかった。
そして棲家に着くと、自分と少年の手当てをした。
と言っても応急処置が出来る程度のものしかないため、後は自然回復を待たなければならないが。
「…男の子だと思ってたけど…女の子だったんだ。…まぁ、どっちでも良いけど」
手当てをしている時に、自分が少年だと思っていた妖怪は少女だったらしい、という事が分かった。
少し残念だったが、好みであることには変わりないため、特に気にしていないようだ。
挙句、
「きっと目が覚めたら、治療してくれたお礼にって、色々…きゃーっ」
などと一人で妄想にふける始末だった。
そんな妄想を始めてからしばらく経って、ようやく眠っていた少女に反応があった。
「わくわく……あ、気がついたのかな?」
目ざとく反応した事に気づいて、慌てて少女の顔を覗き込む。
その表情に不安は一切なく、期待で胸が一杯のようだった。
「大丈夫ー、おーい」
そうして呼びかけていると、次第に少女も意識を取り戻す。
「うぅ…こ、ここは……?」
まだ完全に目が覚めていないらしく、ぼんやりと辺りを見回す。
どうやら、自分の棲家ではないようだった。
「よかった、起きたんだね。気付かなかったらどうしようかと……」
声がした方に目を向けると、ミスティアの姿が視界に入る。
背中に生えている羽から、相手は鳥の妖怪だと分かった。
そうなると、自分がここに連れてこられた理由は一つしかない。
「くっ、私だって黙って食べられるつもりはないよっ…いけっ!」
少女が号令をかけると、辺りの蟲がミスティアに襲いかかってきた。
「きゃあぁぁっ!?」
自分の手当てよりも少女の手当てを優先したため、ミスティア自身はまともな応急処置も出来ていなかった。
そんな状態で不意をつかれては、いくら相手が蟲であっても成す術がない。
「悪いけど、こんなところで食べられるつもりはないんだっ…じゃあねっ!」
「あっ…ま、待って……!」
そういい残すと、少女は窓から飛び去って行った。
ミスティアにまとわりついていた虫達も、それを追って一斉に飛び去っていく。
制止する声も届かず少女は飛び去り、ミスティアは一人部屋に取り残されてしまう。
「……行っちゃった……」
少女の去っていった方角を、ミスティアは呆然と見つめていた。
虫達と共に逃げ出した少女は、追ってこない事を確認すると木の根元に下りて体を休める事にした。
少女の名はリグル・ナイトバグといい、蟲達を自在に操る蛍の妖怪である。
「はぁ、はぁ…不意をつけなかったら、危なかったな…」
そして落ち着いて、自分の状態を確認する。
自分の状態を改めてみると、丁寧に巻かれた包帯や治療のあとから、怪我の手当てをされていた事が分かった。
「これ…もしかしてあの子が…?でも、どうして……?」
一先ず落ち着いて、自分の置かれている状況を確認する。
この永い夜に、空を飛んでいた巫女達に戦いを挑んで、あっさり負けてしまい気絶していた。
そして気付いたら、鳥の妖怪の家にいて食料にされかけていた。
「…本当に、そうだったのかな…食料にするつもりなら、手当てなんて必要ないはずだし……」
もしかしたら、自分はとんでもない勘違いをしていたのではないか。
そう思いながらも、やはり万が一という事もあるため、引き返すのは躊躇ってしまう。
「…いや、それ以前に…彼女の家は、どこなんだろう…?」
慌てて逃げ出した所為で、どこをどう飛んだのかも覚えていなかった。
「今日のところは、帰ろう…こんな状態で襲われたら、大変だし…」
そう自分に言い聞かせて、少し後ろめたく思いながらも住処へと帰るのだった。
一方その頃、ミスティアは自分の手当てを行っていた。
「はぁ…あの子、どこ行ったのかな……名前も聞いてないし…」
どうやら、まだリグルの事を諦めてはいないようだった。
普段は色んな事をすぐ忘れてしまう彼女だが、それでも好きになった相手の事は忘れないのだろう。
それに、手当てをしてあげたお礼もしてもらっていない。
「こんな程度でヘコんでちゃダメよね!また、会った時にちゃんとお話しよう…うん、そうするべきだよね!」
そう決心すると、疲れた身体を休めるためにベッドへ潜る。
疲れていた所為か、眠りに落ちるまでそれほど時間はかからなかった。
そうして二人が出会った日から、暫くの時が経った。
しかし未だに、二人の再会は果たされていない。
リグルは蟲達の様子を見ながら、ミスティアを探している。
「うーん、今日こそは会えると良いけど…」
そう呟きながら外へ出ると、目に付くところに一枚の紙切れが落ちていた。
「ん、何だろう、これ…?」
紙切れを拾ってみると、文々。新聞と書かれているのが目に入った。
「ここに載ってるのって…あの子、だよね…」
その新聞には、夜雀のミスティア・ローレライが屋台を始めたという事が書かれていた。
内容を読んでみると、人通りの少ない夜の道で八目鰻の屋台を出しているという事だった。
「よし…夜になったら行ってみよう」
夜になると、人間の里から伸びる道の途中に小さな屋台が現れていた。
暖簾に八目鰻と書かれたその屋台からは、香ばしく焼けた鰻の匂いが漂ってくる。
そして、鰻を焼いている少女、ミスティアは楽しそうに歌っていた。
「今日も~私は~♪美味~しい~鰻を~焼~くの~♪」
その歌声に誘われてか、様々な人間や妖怪が屋台の方へと足を運んでいるのが見える。
「よう、邪魔するぜ」
「こんばんは」
二人連れでやってきたのは、紅白巫女と白黒魔法使いだった。
以前は酷い目に会わされたが、今ではこの屋台の常連になっている。
最も、二人とも常にツケており代金を払った試しはないのだが。
「いらっしゃいませ~。いつものでよろしいですか~?」
ミスティアとしては出来れば帰ってもらいたいが、何をされるか分からない為、他の客と変わらずに対応する。
「おう」
「えぇ、よろしく」
二人とも頷いて、鰻が焼けるまで二人で楽しそうに話していた。
そんな二人の背後に、頭に二本の角を生やした少女が現れる。
「おや、相変わらずタダ飯食べに来てるんだねぇ、二人とも」
そう言って少女が楽しそうに笑うと、紅白巫女の方が反論した。
「何よ萃香、私を魔理沙と一緒にしないでよ。私はちゃんと払ってるわ」
「へぇ~、その割にはツケてばかりだって聞くけどなぁ」
「三ヶ月に一回くらい、まとめて払ってんのよ、まとめて」
「まとめる意味が分からないぜ…」
などと言い合いながら、彼女達はいつも通り屋台での時間を過ごしていたのだった。
それを遠くで眺めながら、リグルはどうやって声をかけるか考えていた。
「…さすがに、あれだけ沢山いると出て行きたくないなぁ…」
屋台の方は思った以上に繁盛していて、中々客足が途絶える事はない。
また、蟲の妖怪であるため、こういったお店で歓迎される事は少ないのだ。
そして自分を負かした人間が二人もいるとなれば、出て行く気はまったく無くなる。
「……とりあえず、屋台が終わるまでここで待ってよう…」
リグルはしばらく考え込んだ後、屋台の終わる時間まで待つ事にしたのだった。
それから数時間が経ち、ミスティアは屋台を片付ける準備を始めた。
既に誰も客はおらず、小さな屋台と少女がいるだけだった。
「ふー、今日もたくさん来てくれたなぁ。この調子なら、焼き鳥撲滅も近いわ」
そんな事を言いながら、機嫌良さそうに片づけを行う。
「…あ…そろそろ、良いかな」
それを見たリグルが、ミスティアの方へと向かう。
「…あ、あのー…」
ミスティアの近くまで行って、恐る恐る声をかける。
「すいません、今日はもう終わりで……」
言いながら振り返ると、そこに立っていた相手を見て固まってしまう。
リグルとしても、少し戸惑っていたが、なんとか会話を続ける。
「え、えっと…その、久しぶり、だね…お、覚えてるかな、私の事…」
緊張している所為でどもってしまいつつも、何とか言葉をつむぐ。
「あ、あの時はごめんね…私が勝手に早とちりして…その…本当に、ごめん…」
そう言って頭を下げる。
一方のミスティアは、その言葉を聞きながら少しずつ落ち着きを取り戻す。
「うぅん、確かに最初はそのつもりだったし…そう思われても、仕方ないから」
その言葉を聞いて、リグルは恐る恐る顔を上げて尋ねた。
「最初は…って、ならどうして手当てを…?」
尋ねられて、ミスティアの顔が真っ赤になる。
恥ずかしそうに俯いて、上目遣いでリグルを見ながら答えた。
「えっと…その…貴女に一目惚れして…これをきっかけに、仲良くなれたら…って思って…」
途切れ途切れに、だがしっかりと思いを伝える。
聞いているリグルも、耳まで赤くなって顔を逸らす。
「そ、そう…なんだ…ひ、一目惚れかぁ……」
なんとか落ち着こうと深呼吸する。
「そ、それで、ね…その…良ければ、私と…友達から……」
潤んだ瞳でリグルを見つめて、さらに思いをぶつける。
落ち着きかけていたが、その姿を見て再び顔が赤くなってしまう。
(か、可愛い……)
そんな事を考えながら、リグルが答える。
「あ…その…わ、私なんかで良ければ……喜んで…」
言葉は途切れ途切れであったが、それでもしっかりとミスティアの思いを受け止めた。
「ありがとう……えっと…」
ミスティアが口を開くが、そこでようやくまだ名前も知らなかった事に気づく。
「あ…そういえば、名前も言ってなかったね…私はリグル。リグル・ナイトバグだよ」
「リグル…私は、ミスティア・ローレライ、だよ。その…これから、よろしくね、リグル」
そう言って、ミスティアがリグルに抱きつく。
リグルは少し戸惑いながらもしっかりと抱きしめ返した。
「うん…私の方こそ…ね、ミスティア…」
そう言ってリグルが、ミスティアに優しく微笑みかける。
こうして、二人の付き合いは始まったのだった。
どっちでもイケるみすちーに何故だか妙に悶えた。
確かにテンポは良かったんですが、もっとペースを落としてじっくり丁寧に書き込む場面も設けてあれば、より面白い作品になったのではと思いました。
みすちーもリグルんも勘違いのおっちょこちょいさんなのね。
よし、二人とも俺の嫁にk(ry