カチ、カチ。
キーを操作する音とともに、携帯電話の画面が次々と移り変わる。
私はただひたすらに、液晶に表示された写真を眺めていた。まるで、心がここではない何処かへいってしまったみたい。
制服の私と、数人の少女。輝く笑顔。真ん中に書かれた、「ずっと仲良し」の丸っこい文字。
そのどれもが眩し過ぎて、目が眩んだ。堪えられず、瞼を閉じる。
目を開くと、そこにはあの日々の残像。
モノクロに染まった教室。私が勉強し、談笑し、恋をした時と変わらない姿で、そこにある様に見えた。
それが遠い世界のまぼろしだと分かっていながら、それでも私は、友の背中に手を伸ばす。
――暗転。私は現実に引きずり戻される。
誰もいない、薄暗い私の部屋。視界がちらつく。
我慢できず、私は部屋を飛び出した。
裸足のままで、明け方の山道を駆ける。
転がる様に。優しいまぼろしから逃れる様に。
飛ぶ事も忘れ、散々駆け回った末に辿り着いたのは、私がこの山で一番好きな場所。
幻想郷の殆どを見渡せるこの場所からは、昇りかけた朝日も良く見える。
人の時間と妖の時間の境界。幻想郷が一番静かな時。
いつの間にか、私は朝日に向かって叫んでいた。
そうする事で、耐え難い感傷を振り払える気がした。
「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
叫ぶ。叫ぶ。喉が痛みを訴えても、私は叫ぶのをやめなかった。
私の中に積もり積もった何かを、大音量に変えて吐き出した。
そうしている内に、涙が零れ始める。
昇りきった朝日が、闇に慣れた目には眩し過ぎたのだろう。きっとそうだ。
「うあああああ、ぁ、えう、う、あぁぁぁぁぁぁ……」
◆ ◆ ◆
「どどどどどどうしてその事をご存知なんですか!?」
「いや、あんだけの大声、気付かないワケないじゃん。いやー、早苗も青かったねぇ」
ケラケラと笑いながら、諏訪子様が仰った。恥ずかし過ぎて顔が熱くなってきた。
「みぃんな、気付いてたんだよ。周りの妖怪達だってね。特にさ、早苗のお気に入りの場所は、文の家のすぐ近くだろう? あいつなんか、
『初めての別れは、誰もが辛いものです。思春期の成長を見守ってあげるのが、年長者の役目でしょう(キリッ)』なんて言っちゃってさぁ!」
神奈子様も笑ってらっしゃる。なにこの拷問。
「あれ? そこで大笑いしてる神奈子ちゃんは、その時大泣きしてなかったっけ? えーと、なんだっけ。
『大事な早苗を泣かせておいて、何が神だ! もう私、神様やめる! 向こうに帰る!』だっけ?」
「おいィ!? わわわ私がどうやって泣いてたって証拠だよ!」
「ま、私も気にしてなかったって言ったらウソになるけどね」
言い合う神様達を微笑ましく思いつつ、私は当時に思いを馳せる。
時の流れは、優しくも残酷だ。私の感傷、感情の殆どが押し流されてしまった。
でも、それでも残ったものがある。
優しいまぼろしは、流されるうちに削れて削れて、姿を変えて。
―――思い出となって、今も私の頭の中にある。
ナンバーガールって知らなかったけど聴いてみたらメチャクチャ良いですね!
青臭い早苗さんも良いですね。
学生時代を思い出した。
謙虚な軍神は格が違った!
光景が目に浮かぶようなタッチが素晴らしい
最初に読んだレモリアが衝撃的で、ギャグ専の作家かと思いきや、この作品とジェネリックでの作品を見ると、そういう訳でも無いのですね。
文才あるなー。
でもゆらいで、傷ついて そして飛ぶ!! 少女は飛ぶ
俺は思い出す狂いだす中二の青春
嬉しくても、悲しくても、人間、叫びたい時ってありますね……
なので、私も一つ、おいぃぃぃ!?この神奈子様アレに感染してんじゃねえかぁぁぁぁぁぁ!!
爽やかな感動をありがとうございます。