Coolier - 新生・東方創想話

東方if緋想天 4~5stage 

2010/04/30 01:01:32
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妖怪の山は壮大だ。

身震いしてしまうほど、自然の偉大さを実感するからだ。
今の季節は青々とした萌え繁る緑葉が山を包み、秋となると言葉も要らなくなるほど見事な紅葉で山の彩りが豊かになる。
人間の里から見ているだけでそう思えるのだ、山の入り口となれば言うまでもない。
頂上を見ることができないほどに聳え立つ妖怪の山、故に入り口と言ってもかなりの高度に位置している。
山の麓でもそうだったが、さすがの炎天下でもここまで空気が冷えてくる。日差しは強いのに肌寒い、変な感じだ。入り口でこうなのだから頂上までいくとなると、もう少し厚着でもしてくるべきだっただろうかと後悔の一つでもしたくなる。
「しかしまぁ、慧音から日本一高い山だとは聞いてたけど、たしかに間近でみると富士の山なんて比べ物じゃないように思えるな」
百聞は一見に如かずとはこの事だ、そう続けて私は呟いた。

「その通り、百聞は一見に劣るのです。風の噂を百回も聞くとなると噂好きの天狗でさえも気が滅入りますし、何より毎回異なる内容になりますから」

突然の嵐のように、遠慮もなく上から降りかかった言葉は私の独り言に介入してきた。
「だからこそ――世の中には新聞というものがあるのですよ」
言葉だけでなく実際嵐の風を撒き散らし、鴉と共に舞い降りたのは一人の鴉天狗。
こいつは私にも見覚えがあった。新聞の取材だかで燃やしかけた竹林についてあれこれ聞かれたり、何の許可もなく突然現れて不躾に写真を撮り逃げしたり……あまり感じのいい記憶が残っていない、射命丸文だ。
「どうも清く正しい射命丸、いつも文々。新聞をご購読ありがとうございます」
「読んでない。お前が勝手に号外を投げていくだけだろ」
不思議なことに、天狗の丁寧な態度は逆に不遜を思わせる。実力を表に出さないから胡散臭さが増しているのだろう。
ちなみに新聞には保温効果があるのはいいけど、くるまると体が汚れるのが欠点だな。
「何故か今間違った新聞の使用方法を思い浮かばれた気がしますが…構いません。こちらの用件は一つ、さっさと帰ってくれませんかね」
「私がどこに行こうと天狗たちには関係ないだろ。別にヤキ入れじゃないんだから」
私の家を倒壊させた奴がいればそれもあり得るが、今のところはむしろ謝罪の可能性の方が高いからヤキ入れとは正反対だ。
「あなたの能力から言えば弾幕遊びに入った場合必ず焼き入れになるでしょうが。人間は元より入らせるつもりはありませんし、危険人物だったら尚更です」
しっしっと手を振って追い払う仕草をした射命丸に、私の神経が少しばかり逆立った。わざと胸を張り、上から見下げるように彼女をジト見する。
「……道案内をするはずの天狗が通せんぼか。時代は変わったねぇ」
「まるで道案内をした天狗を知ったような口振り、あなた本当に何歳なんですか?ご老体には嵐での山登りもきつかろう、帰ってお茶でも淹れてなさい」
「ご老体言うなっ!!私はまだピチピチだっ!!」
仕返しどころか倍返しにされて、完全に神経を逆撫でされた。
思わず怒りで着火、炎の翼を造り上げる。

それに対抗するように射命丸は濡れ羽の翼を出現させた――「天狗に翼で対抗しようとは、思い上がりも甚だしい」――瞬間には、もう彼女は私の眼前で扇を構えていた。

「……っ!!」
動作を見ると彼女がただ扇を優しく振っただけのように見えるが、そこから生み出された暴風は私の身体を揺さぶり宙へ浮かすほど狂暴なものだった。
一瞬の暗転、身体の外に意識が投げ出された感覚、慌てて意識を引き戻そうとしていると、鴉天狗は投げ飛ばされた私のさらに上に滞空していた。
どう見たって威力を増す風を溜め込んでいる姿に、私の体は考えるよりも早く反応して翼から炎幕を生み出した。意識がまだ追い付かないまま、私の姿を探す射命丸の上へ飛ぶと炎を宿らせた踵を降り下ろす。
すぐさまに感知されて分厚い風の壁によって踵落としは防がれるが、私は身体を捻った勢いで反対の足で二撃目となる踵落としで風の壁を無理矢理こじ開けた。
「……っ、優雅から程遠いですね!!」
三連撃として炎の拳を振り上げるが、天狗の扇が産み出す竜巻に阻まれてしまった。
「だったらこれはどうだっ!!」
荒れる空気の流れに逆らい炎の翼は羽ばたき、舞い散る羽根を弾幕に変える。
「だから山火事を起こさないでくださいって!!」
焼かれたらこっちの責任になるんですよ、という天狗の言葉は、彼女の巻き起こす今までの比ではない竜巻に姿と共にかき消された。耳がおかしくなるのではないかと疑うほどの轟音、竜巻に巻き上げられた石礫も弾幕となって攻撃してくる。
炎はある程度の操作は可能といっても、相手に届く前に風で吹き飛ばされれば意味がない。どうも、彼女とは相性が悪いようだ。竜巻から離れているとはいえ、暴風の影響は強いので炎も上手く形成できない。私が飛ぶための翼を維持するので手一杯だった。
「やりにくいなぁ…相手の土俵ってのは」
やりにくければ、変えてしまおうというのが私の考え。
未だに続く礫と風の攻撃を最小限で避けながら、私は手のひらに灯した火種に霊力と妖力を編み込みながら強く大きい炎へ変えてゆく。
相手の弾幕にかするが気にもせず、ただただただただ炉にくべるよう炎を強くする。密度をより高く、炎が炎を燃やす勢いで、維持と意地の限界まで炎を強大に巨大化させた。
「数多の風も灰塵となれっ!!」
膨れ上がった炎を潰し、私も含めて竜巻を囲ませる。風の渦は炎の渦に、風の轟音は炎の轟音に飲み込まれ、辺りは紅蓮一色に染まり果てた。
ここまで炎を造り出すのは久々だ。燃え盛る火の粉を弾幕に、私は竜巻を突き崩す。
「だから木に燃え移ったらどうするつもりですかぁっ!!」
射命丸は自分を中心にしていた竜巻を解除して、私めがけて竜巻を作り出した。私は熱気の壁でそれを防ぎ、ますます炎の勢いを強くする。
「山火事も自然現象なんだからそうかっかするなよ」
「ですがこれは自然現象じゃなくて放火です」
「ほら、人間も自然の一部だと考えれば」
「そういった考えが烏滸がましいことこの上ないのです……というかさっきから思ってたんですけど、この炎はよく燃えていますね」
「頑張って燃やしてるからねぇ」
「普通、ここの高度ほどになると空気が薄くなるって知ってました?」
「高度が高くなるにつれて酸素濃度が薄くなる…って慧音が言ってた」
「そのただでさえ少ない空気中で無理矢理燃やしてるとどうなるか理解していますか…?」
「そろそろ酸欠になると思うんだけどなぁ」
「あ、あなただってこの炎に囲まれてるんですよ!!共死にですか!?」
「いや私死なないし」
「もういやこの人間っ!!」
焼き鳥するし、人間の癖に私より偉そうだし、技もなんかも被ってるし相性悪すぎる!!
ちょっととはいえ、彼女にしては珍しく取り乱している。技に関しては私がただ表現不足だからな気もするけど黙っておこう。
熱気と自身の起こした風でくしゃくしゃになった髪を撫でながら、天狗は深いため息をついた。何かを諦めたような、我慢の限界だと示すような、とにかく嵐の前兆のような深いため息だ。
「もう、さっさと終わらせます」

幻想風靡

声が届いたのが先か、風が届いたのが先か、それは射命丸本人も含めて誰にも分からないだろう。
突如轟音と共に青々と繁っていた葉が、嵐のように舞い踊っり視界を青に染めた。
柔らかなはずの葉が鋭い刃のように頬を掠め、その葉が全て弾幕だと気がついて反射で避ける。
聴覚、視覚はもはや役に立たず、代わりに炎を巡らせて敵の位置を探るが何処にも見当たらなかった。
「な……っ!?」
真偽を確かめるためにも木の葉の弾幕を掻い潜り、視界が良好な上空へと飛びあがる。

その瞬間に現れたものは轟音か、嵐の刃か、竜巻か、砲撃か、
多分、そのどれにも当てはまるだろう。

飛び出た位置が幸運だった、レーザーのような風は私の髪を数本拐うだけに留まった。
だが息をつく暇なく、新たな青葉の乱舞が四方八方四面楚歌に、風のレーザーが背後、真横、右斜め45度にと現れる。
おそらくレーザーが射命丸なのだと認識はできているが、攻撃の対象としては認識できない。あまりにも、規格外すぎる速さで捉えきれないのだ。
流石に速さの権化ともいえる天狗、以前現れた人間の魔法使いとは比べ物にもならない。
はて、この状況はどう看破すべきなのだろうか。心なしか私の炎が飛び火した場所を鎮火してるように見えるし、相手は随分と余裕のようだ。……悔しいな。
しかし一朝一夕に手に入れられる速さでもないので対処法は力付くか智を用いるかなのだ。しかし私は自分で言うのもアレなんだが、あまり頭は良い部類ではない。
そして個人の行動パターンの根本を成すものはそうそう簡単に変わるはずもなく、千年の時を経験したとしてもそれは同じことだ。少なくとも、私には結局のところ自分の根本は変わっていないという自覚がある。
つまり何をするかと言うと、
「――っりゃあ゛ぁあ゛!!!!」
力付くでレーザーを捕まえようとした。
単刀直入後先考えず行動に身を任す、岩笠を突き落とした頃……いや、輝夜を恨み屋敷を飛び出した瞬間から変わらない私のパターン。
少しは変われ、自分でもそう思う。
だが魂が肉体になったような現在では、行動原理を変えるということは身体の変質も招くのではないだろうか。そんな屁理屈をたてて、私はまだこの私を続けている。
しかし当たり前だけど相手は速い。速ければ、それだけでも充分な殺傷力をほこり、そしてこの鴉天狗ほどの速さとなると触れるだけで肉を根こそぎ奪い骨をも砕く程の力へ変わる。
「馬鹿ですか貴女、わ……ぁっ!!?」
私の炎の代わりに血の霧が周りを紅く染め、痛みに思考が霞む。それでも、レーザーの呟きが完全に私の側を通り過ぎようとするのを私は腕がないまま防いだ。
「そ、そんな無茶苦茶なぁっ」
紅い霧がさらなる緋に飲み込まれる。
いまだ再生しきれていない腕の代わりに生やした、紅蓮の腕で私は射命丸文を掴んでいた。腕の形を成した炎は崩れず、しかし相手を燃やすこともなく絡み付いている。
「残念だが、こうやって私は今まで生きてきたんだ」
無茶苦茶でも、形振り構わなくても、そのツケと責任は永遠に背負い続けるから大目に見てほしい。
「焼き鳥になってろ!!」
絡んだ腕を崩して完全な炎に変え、一応クッションの代わりにしながら私は天狗を道へ叩きつける。山道をひび割り、辺り一面に乱舞していた葉を全て燃やし尽くした炎は上空に溜まっていた雲さえも追い払う。
鴉天狗は頑強な妖怪なので身体は平気そうだったが、やる気においてはもう大丈夫とは言い難かった。
「鳥獣虐待反対ですよぅ……もう、あなたの火遊びの後始末をしている間にどこぞなりとも行っちゃって下さい」
こんがり焼き上がった服を摘まんで、これ河童のクリーニングでなんとかなりますかねとため息混じりに呟いている。
「いつもすまないねぇ」
「それは言わない約束でしょう……というより自覚があるなら自制してくださいよ」
「もう歳だからな、自分の言葉はよく忘れるんだ」
先程の言葉への、細やかなお返しだ。
あからさまに苦い顔をした天狗を置いて、私は頂上を目指し高く飛び上がった。


4th stage clear!!


  ×××




痛みを伴う腕の再生をしつつ、私は炎の翼をはためかせて登り続けた。
いつまた天狗の邪魔が来るかもわからないし、私のやる気がなくなる前に何かしら目標物を見つけたほうがいいとの思いから無理矢理にでも動き続ける。
行き着く先が私の家を壊したやつか、もしくは私の謝罪すべき存在か、山の地理に詳しくない私には判らない。もしかしたら最近話題の山にある神社に辿り着くかもしれないが、とにかく一番縁がある場所へ着くだろうという予感はあった。相変わらずの行き当たりばったり加減だけど、時間はたっぷりとあるから構わないだろう。
そろそろ山頂がみえてもいいほどに登ると現れたのは厚い雲居と、さらにその上には自然にはあり得ない緋色の雲。あからさまに不審な雲だ。
構わず登り続けると空気は入り口よりもさらに薄くなり、ついには雲の中へと飛び込んだ。雷が通うじっとりとした雲を切り裂いて進んでいくが、山の輪郭まで霞む雲にはさすがに嫌気が指したので小休止をかねて一度山に降りることにした。
「ここのところ炎天下にしかいなかったけど、こうも雲に包まれると太陽は関係なくなってしまうな」
むしろ太陽が当たらないせいで空気が冷えているので寒いくらいだ。
「でもここで火をつけると流石に酸欠で気絶しかねないからなぁ……」
不老不死だって気絶はするのだ、死なないけど永久冬眠はあり得る。行き交う雷にも注意しなければいけないし、あまりこの場所は小休止に向いていない。さっさと頂上を目指したほうが良さそうだ。
「おや?天狗ではない、河童でもない、幽霊でもない、人間……でもないような?でも山の上に人間もどきが来るなんて珍しいですわ」
鳴神と揺れる緋色の衣を纏いながら、一人の少女が降り立った。
「あなた誰?もどきとは失礼な、私はれっきとした人間だよ」
佇まいから優美を漂わす彼女は、少しだけ首を傾げて私の言葉に疑問を示す。
「私は永江衣玖、雲を漂い天災を伝える竜宮の使いですわ……しかし、はて?あなたは確かに人間のようにも見えますが、人間ではないようにも見えますね」
「昔の私が聞いたら直ぐ様殺しにかかるような台詞だな……それよりも天災を伝えるって、竹が曲がったり急成長するのも天災の内に入るかい?」
「竹ですか、それは規模が小さすぎてちょっと範囲外でしょうか。私は幻想郷に来るべき大地震を報せるために訪れたのです」
……突然の登場なのに随分と物騒なことを言うやつだ。しかも我関せずという態度がよく見えている。伝えるだけで対処はないのか。
「もう間もなく幻想郷は目覚めて揺らぐことになるでしょう。それまでの時間をどう過ごすかは貴女次第ですわ」
「んー?巫女の話だと山の上に地震を操るやつがいるんだろ、そいつにどうにかしてもらうわけにはいかないのか?」
永江衣玖は私の言葉に僅かばかり記憶を辿るように眉間に皺を寄せたが、どうやら心当たりがあったらしくあからさまに苦い顔をした。
「地上の民が何故あの方と既知なのか、詳しく聞きたくありませんね……」

いやぁ、私はまだ知らないけど。でもその態度ならそいつがなんとかしてくれそうだな、私の家の再築」
炎は極力使いたくはないので札を取りだし、私は臨戦態勢に入る。
相手はまだ渋い表情のままだったが、それはこの先にいる人物に呆れているからか、私と遊ぶのが嫌だからなのかは判らなかった。もしかしたら両方かもしれない。
どちらにしろ相手の都合であり、私の都合ではないので好きにやらせてもらうとしよう。
「推して参るっ!!」
腕も再生し終わっているので、両手で札をばらまき相手の逃げ道を塞いで私は駆け出した。
「もう…どうして皆さんこうも好戦的で人の話を聞かないのでしょう」
言葉と同時に私よりも一足早く彼女に辿り着いた札が衣に弾かれ、雷撃で焼き切られる。
雷はまずいと地面を蹴って無理矢理方向転換すると、それを狙ったように緋色の衣がこちらまで伸びて脚に絡みついた。抵抗する暇なく空中に投げ飛ばされ、相手を再認識した瞬間には円形の雷撃で視界が白く染め尽くされた。
凶悪なことに、放られた雷撃は私に当たることで四つに別れ、新たな雷となって追い討ちをかけてきた。
身体中余すところなく電流が走り、細胞の隅々まで焼き尽くされる感覚に、思わず口から煙を吐いてしまう。
「こ、好戦的って……自分も入ってるよな、これ」
神経の一部が焼き切れたらしく、ガクガクと脚が意に反して震えている。自然膝をつくような格好になりながら、私は再生の時間稼ぎのためにも彼女に問いかけた。
余裕の表情を崩さない永江衣玖は、心外ですと衣を引き戻しながら答えてくれる。
「私はただ龍神と人との間で漂う存在です。野蛮な行為は好みません」
「そのわりには容赦ないし……」
「好まないのと容赦をしないのは異なりますから」
彼女の雷撃をまともにくらえば忠告をもう二度と聞けないような身体になるような気がするのだが、そこら辺は気にしないのだろう。
脚の震えが治まったので、私は話もそこそこに再び駆け出した。今度は同じ轍を踏まないよう、衣を注意して動きが補足されないよう不規則に移動する。
雷撃はともかく、永江衣玖自身の速度は遅い。雲に漂う存在なのだから、速くある必要がないのかもしれない。
緋の衣をかいくぐり、彼女の懐まで飛び込んで直接札を叩きつける。衝撃で浮かび上がった彼女の身体をさらに投げつけた札で浮かせ、炎を宿らせた四肢で地面へ突き落とした。
山のどこ辺りにいるのか判らないが入口でも火を点けるのに抵抗感があったのだ、今や炎を灯すだけでも疲労の原因になりかねない。
なのでスペルカードを含めて炎はあまり使いたくないのだが、そうも言ってはいられないようだ。




「野蛮、野蛮です……!!総領娘様は何故これを好むのかが理解しがたい!!」
……どうも私じゃない奴に対しての怒りを浮かべている。でもその人物はこの場にいないので八つ当たりがこちらに向かうのは火を見るよりも明らかだった。
鼓膜を切り裂くような轟きと共に、私の周りだけが青白く浮かび上がる。とてつもなく嫌な予感が私を襲い、身体が反射で横へと飛びすさった。
「うにぃ……っ!?」
直後、私が居たはずの位置に雷の柱が建った。

雷符「神鳴り様の住処」

永江衣玖の宣言を聞くと同時に、私の周りが再び青白く染まり上がる。一定時間毎に私の位置は雷に捕捉されているらしい、私は慌てて移動を繰り返し、紙一重のタイミングで雷を避け続けた。
「あぁ、もうっ!!」
避けるのに手一杯でこちら側から攻撃ができない。腹立ち紛れに札を投げつけてみるが、永江衣玖へ届く前に放電で焼き崩れた。
よく見ると、まるで彼女が一つの雷玉になったかのように光輝いている。彼女自身は先程と全く変わらず優雅に漂っているのに、存在の凶悪さが三割増だ。これではさっきのように近接攻撃に持ち込めないじゃないか!!

棘符「雷雲棘魚」

「は、反則だろそれぇっ!!?」
ちなみに未だに自動追尾の雷は私をしっかりと狙っている。スペルカード二連同時使用っていいのか?
「私ったら、地上に疎いもので……」
上から目線の笑いをどうにかしてからその言葉を言ってくれないと説得力も何もない。
棘符「雷雲棘魚」と宣言されたスペルカード、かなり強力な雷に包まれているらしく通常の弾では被弾はおろか、貫通して掠らせるのも無理そうだ。
加えて先の雷符「神鳴り様の住処」、これのせいで一定の場所にいることができないので力を溜めた一撃を作ることができない。
「うわっ」
まるで漂う雲のように近づいてきた永江衣玖を背面飛びでかわす。背中すれすれに彼女と雷が通り過ぎ、僅かな電撃の刺激が私をくすぐった。
転がりながら着地した途端、その場が青白く変化する。もはや条件反射で獣のように四肢を使って跳躍し、上空から突き落とされた雷をかわした。
なんかもう完全に相手方のペースである。
それがどうにも既視感を感じるもので、私は避けながら考えることで二人の人物に思い至った。
「そうだな、その上から目線とか無茶なスペカとか、私にペースを掴ませない感じとか……あいつらに似てるんだ」
月の頭脳、八意永琳。そして永遠と須臾の姫かつ私の仇敵である、蓬莱山輝夜。
どの世界にも似たような奴等がいるものなのだろうか。どちらにしろ私の怒りに着火したことに間違いはない。
「もうちまちましてるのは我慢の限界だぁっ!!」
取り出したるは一枚のカード。

「凱風快晴-フジヤマヴォルケイノ!!!」

私の背後に、巨大な不死鳥を産み出した。
酸欠など知ったことか、私はフェニックスからさらに幾つもの赤い弾を産み出し、私の周りに展開させる。
一定位置にいたため雷が私を捉え、御柱を立てようと降り注ぐ。だが、私に届く前に業火の炎に阻まれた。
炎と雷が混じりあい、爆ぜる音が連続するが、暫くもすると落ちた雷を全て取り込んだ炎の弾が出来上がった。
「もう雷符は効かないぞ……!!」
そして一度反撃に出れば動かないほど私は甘くない。雷を取り込んだままの炎の弾を、私は他方へ散らばした。
ある程度の軽い弾ならば無効化する永江衣玖の棘符も、この弾ならば貫通するだろう。それは彼女も感じ取ったらしく、わざわざ当たろうともせず避ける態勢に入った。
だけど、それだけでは甘い!!
「夕日よ、全てを紅に染めろぉっ!!」
今まで以上の爆音、幾重にも展開されていた私の赤い弾が爆発して世界を紅く染め尽くす。黄昏時の直前、私も紅に染まる夕焼けをイメージした弾幕。人間の魔法使いには噴火だろと突っ込まれたが、私としては夕日なのだ。
昔の私……夕日のように自分も含めて全てを巻き込んで紅く染め尽くした頃の私を忘れないための弾幕だから。
「きゃあっ……!?」
不可抗力ながら弾のなかに取り込んでいた雷が、永江衣玖の周りに張り巡らされた雷と繋がって、引力が生まれたかのように互いを引き合わせた。偶然ながらも自動追尾機能が備わったようだ。わぁいラッキー。
「まぁ所謂、スペカ同時使用の因果応報ってやつさね」
ぱんっと一本締めをしたタイミングで、永江衣玖は最後の夕日の爆発に巻き込まれた。

明日は晴れだな、凱風快晴っ
前作からかなり空いてしまいましたorz 

緋想天に妹紅ルートがなければ書けばいいじゃない、と無謀にも書き出した東方if緋想天です。作品集106に1~3stageが個別に投稿されています。vs天子はこれまでのif緋想天のなかでは一番長いので、連続投稿ですが分けました。

あややが強すぎて勝てる気がしない

評価にて指摘があった文章がおかしい部分を直させてもらいました
schlafen
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コメント



0.150簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
妹紅も文も衣玖もカッコいい。
天子戦が楽しみだ。
というわけで次に行って来ます!

あ、そういえば一部文章がおかしかったのでご報告。
衣玖戦の
>炎は極力使いたくはないので
の周辺ですねー。
5.80ずわいがに削除
掛け合いが相変わらず素晴らしい。東方をよくやり込まないと出てこないセリフ回しです。
そして戦闘もどこか遊びのような余裕があるので安心して読めますv