Coolier - 新生・東方創想話

歴史書の正しい書き方

2010/04/29 17:40:30
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 歴史書とは、後世に伝えられるべき現実のことが記されているものだ。歴史を作ること、それが簡単にできる物。

「どうするかな……。」

 今、僕はそれを作っている真っ最中であった。歴史書といっても、日記のようなものしか今まで書いていなかったが。
 歴史を作ることが簡単にできるので、とても危険なものといえる。少し使い方を間違えれば、取り返しのつかない事になりかねない。そう考えてしまったら、続きを書けなくなってしまったのだ。今までしてきたなにげない、日記を書くのと同じようにしか思ってなかったことが、どんなに危ないことだったのか。書く前に歴史書について考察するべきだった。

「しょうがない、里まで出かけてくるか。」




「それで私を頼ってきたと。」

 彼女は稗田阿求。伝統のある家系のひとつで、人里で最も幻想郷の知識を持つ家系である。彼女は転生を続けて『幻想郷縁起』という歴史書を書き続けている。その歴史書は千年近く前から続けている歴史書で、いわば僕の大先輩であり、尊敬する人でもある。

「あなたが人里に来たと思ったら、またそんな用事でしたか。私も暇ではないのですよ。」
「それは理解しているつもりです。しかし、幻想郷縁起への資料提供の貸しがまだ残っているはずなので、それを返してもらおうかと。」

 昔人間の里にすんでいた事もあり、来る途中でも珍しい物を見るような視線を感じた。しかし、阿求は僕が半妖だと知っていても、気にしないで接してくれる数少ない人間だ。だからたまにここにきて、今みたいに相談に乗ってもらったりしている。
 彼女の幻想郷縁起の編集を手伝って資料提供をしているから、彼女に普通に会いに行くことができた。まあそりゃあ、どことも知らない半妖を幻想郷の大事な人に会わせる事ができる訳がない。商売人の利点はこういうところにある。

「そのことだったら幻想郷縁起の『英雄伝』にあなたを書いてあげたじゃないですか。さらにあなたの店の宣伝も。」
「……あれをうれしいと思うとでも?お言葉ですが、あれから悪意が感じられましたよ。」

 その言葉は聞き捨てならなかった。「商売する気が有るのか判らない(無い)」「お世辞にも商売向きな性格ではない」とか書かれて、さすがの僕もイラっときた。

「まあいいんですけどね。早く終わるでしょうし。幺樂団のテープをひとつもらえれば引き受けましょう。」
「……感謝します。」

 何も言わずに引き受けてほしいと思ったが、ここでこっちが文句を言うと本題からどんどん離れていってしまいそうだから言うのはやめた。ちゃっかり割と高価な物を要求されたが、香霖堂の未来のためにはしかたあるまい。

「というかそういうことは書き始める前に考えることですよ。あなたらしくも無い浅はかな行動ですね。」
「それはとうの昔に後悔しているので、そろそろ本題に入りましょう。」

 というか、阿求の方が無理やり本題から遠ざけようとしているような気がする。

「そう急かさないでくださいよ。」
「お願いですから、本題に入ってください……。」

 頼みに来ている以上強くは言わないけれど、もう我慢ができなくなってきた。

「はいはい判りました。じゃあよく聞いておいてくださいよ。二度言うのは面倒ですから。」

 ……ようやくか。今回の阿礼乙女は周りの巫女や妖怪に感化されすぎなのでは、と思う。

「簡単に言いますと、そんなことを考えないのが一番です。」
「…………は?」




「二度は言いませんよ。」
「いや、それはいいのだが……。」
「別に危ないと思ったら、すぐに燃やしたりすればいいだけの話でしょう?こんなつまらないことに悩んではいけませんよ。」

 確かにそのとおりだが、……いや、それは問題点がある。

「取り返しのつかないことをしたときに、大事な物を簡単に捨てることができると思いますか?」
「だから、そこを考えるのを歴史書と呼ばれるものを書く前に考えろといったのですよ。」

 ……なるほど。

「要はその覚悟が無い人は、正しい歴史を記した歴史書を書く資格が無いということですね。」
「そういうこと。」

 今日始めて阿求の先輩らしいところを見れたような気がする。
 だが、それがとても的確で、正しい意見である。僕はだから彼女を尊敬できる。

 用事は済んだ。僕は立って、帰る準備を始める。

「ありがとうございました。後日自分から幺樂団のテープを持ってくるので、待っていてください。」
「もういいのですか?もう夜なので、食事はいかがですか?」

 こういう気が利くところを、霊夢や魔理沙も見習ってほしい。

「いえ、食事はとらなくてもいい体ですし、遠慮しましょう。それよりも早く帰った方がいい。」
「だったら、外ももう暗いので送りの者を出しますよ。」
「ありがとうございます。でも大丈夫です。これでも半妖なので、自分の身くらい守れると思います。」
「……判りました。それではお気をつけて。」


 
 彼女は割りと理想的な人間だと思う。時に過ぎた冗談も言うが、まじめで頭も働く、思いやりがある人だ。彼女を尊敬する人は少なくないだろう。

「といかんいかん、これ以上のことを考えるのはだめだ。」

 僕は別れから逃げる臆病者だ。だから必要以上に人間とも妖怪とも親しくはならない。その先には深い悲しみが訪れるかもしれないから……。
 しかし、彼女の場合は自分が早く死んで、次転生するときはもう世代が替わっている。嫌でも来るであろうその時の別れの悲しみを、千年以上耐えている者だ。考えれば考えるほど、尊敬に値する部分が思い浮かんでしまう。自分はなんだかんだいっても、彼女を好きになりかけているのかもしれないと考え、苦笑した。

「そうだな……」

 あるひとつの考えが浮かんだ。それを聞いたら自分で考えろと怒られるかなぁとか思いながら。

「どうしたら別れの悲しみに耐えられるようになるか聞いてみようかな。」


 親しい誰かとともに終わりを迎えられること。それが僕の最大の望みだ。 
 二度目の投稿です。前作はアドバイスありがとうございました。今回はオチが全然違う話なのですから、以前のは高評価だったけれど今回は低いかもしれませんね。今日一日で書いたから、まだ問題点がたくさんあるかもしれません。もしもそれがあったら引き続き指摘をお願いします。
 あと、私のブログのリンクを貼付けておきました。まあ、作ったばっかりで現在はほとんど何も書いてありませんが。

コメント返しは、前作のとともにブログに書きました。そちらを見てください。
せる
http://kamuimaruaya.blog115.fc2.com/
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コメント



0.1430簡易評価
6.100名前が無い程度の能力削除
良いお話でした。
こーりんも考えるんだねぇ、そういう事を。
まあ、これについては誰でも一度は考える事になるだろうけど。
幻想郷で、たぶん一番そう思ってるのは妹紅だろうな、それでも死を選択可能なこーりんと違って、永遠に叶わない願いなのだから。
死ぬ時は誰でも一人、というのは真理だが、切ないね。
13.70名前が無い程度の能力削除
ん~これって原作の話と矛盾しないか?
著者の主観に左右された本は事実によって書かれた歴史書にでは無い
そもそも、歴史書を書く理由が拾い物を売る店の格を上げる為、店を繁盛させる為
幻想郷のアカデ二ズムを起こして外の世界に近付けて、未来を安定な物にするためってのが理由だけど
36.無評価名前が無い程度の能力削除
〉歴史書とは、後世に伝えられるべき現実
ここまででプラウザバック余裕でした