外の世界では民族・人種差別が問題になっているらしい。しかも中には肌の色や身体障害など、およそ自分の力ではどうしようもないことまでその対象に含まれていることもあるそうだ。特に民族に関しては一番厄介だと紫から聞いたことがある。親の身分が低いというだけでその子供の末代まで自分より身分の高い者から迫害される。生まれた場所と風習が少し違うというだけで紛争にまでなることがあるらしい。
幻想郷とは比較できないほど大きな世界でそんな事が起きているのだ。人間・河童・妖獣・妖精・鬼・死神……様々な種類はあれど、大別すると人間と妖怪で構成された幻想郷の溝は底が見えないほど深い。……そして『彼女』も、その被害者となった一人だ。
人に尽くし、妖怪に尽くし……両方に加担したが為に1000年のあいだ封印された。
それでも彼女は人も妖怪も神も平等であるべきだと言う。
そんなしたたかな彼女を……僕は肯定できなかった。
「――相変わらず頑張っているようだね」
縁側で佇む霖之助の横にお茶の入った湯のみが置かれた。
「まだまだ……ですよ」
おっとりとした微笑みを浮かべながら、白蓮が霖之助の隣に腰掛ける。
「いやいや、ここの……命蓮寺だっけか?とにかく、まだ少ししか経っていないが随分と人も増えているようだし。まぁ、その分ほかの神社に参拝する者が減るがな」
「それは大変ですねぇ」
「まぁ早苗のところはともかく……博霊神社は霊夢の自業自得だと僕は思うけどね。大体あの場所は立地条件も悪いしあの子も信仰が少ないと嘆いているが明らかに自分のせいだろうと…………って、どうした?ニヤニヤして……」
「いえ……自分の事はあまり話さないのに、薀蓄とあの子達の話題になると随分饒舌になるものだ、と思いましてね……」
霖之助が「むっ」と呻り、気恥ずかしそうに俯いた。
「……気のせいだよ」
「そうかもしれませんねぇ」
ジト目で霖之助の方を見遣る。彼をこんな顔にさせられる者など白蓮を含めて極少数だろう。
「それにしても、貴方の方から此処に来るなんて珍しいですね。何か用でも?」
「ん、いや……人里に用事があったからそのついでだよ。他意はない」
「はぁ、ツンデレというものですか?」
どこでそんな言葉覚えてきたんだ……と霖之助が聞くと、最近たまに来る紫色の服を着た妖怪の方から教えてもらったらしい。もう誰か答えているようなものだ。
「(紫のやつ……いらない知識ばかり広げていってからに……)とりあえずツンデレではないから安心してくれ。ただの気まぐれだからな」
「そうですか……貴方の協力があれば私の目標にまた一歩進展できるのですが……」
「その件は何度も言っただろう?生憎と僕は、人間と妖怪が平等であるべきだなんて思っていないし……これから先もその考えを変えるつもりもない」
白蓮が一瞬ショボンとした顔になったが、またすぐ持ち前の笑顔に戻った。
「残念です……が、初めて会った頃と比べるとかなり対応が優しくなったのでもう一息のようですね」
「ぐっ……しまった……!」
痛いところを突かれ、思わず顔を歪める霖之助。
「最初はどんな聖者かと思ったが……絶対、悪魔寄りだろ君……」
「私の夢は綺麗なだけでは叶いませんからね」
「君もだいぶ成長したな……色んな意味で……」
――彼女の夢は人も妖怪も神も仏も全て平等な世界を作ること……らしい。
規模が大きすぎるので具体的にまとめると、魚と鷲と虎と龍が共存するようなものだ。もっと詳しく言うならば「そもそも魚は陸上生活出来ないだろう」とか「虎から見れば魚も鷲も食料だろう」など……もっともな突っ込みが100はありそうな程に無理な話だ。
……そう思っていたはずなのだが……彼女の行動は確実に成果を出していた。実際、この寺を信仰する者は人間・妖怪問わず着々と増えていっている。あと1年もすれば幻想郷で知らぬ者はいない名所になるかもしれない。
「……ちなみに仏様と神様の違いは……お釈迦様が人々に思考で悟り解脱することに依り“仏”になるようにと説かれたもので……神様は、東南アジアや日本・インド・アフリカのように、あらゆる物に霊を観て畏れ祭る多神教がある……ということなのです」
――今までの話題と全く関係ないがこの後、初めて知ることとなった。
「へぇ、流石に詳しいな……。その手の知識はまだ疎いから参考になるよ。また機会があれば教えてくれよ」
「いえいえ!またの機会など待たず、今お話しましょう!幸い私も今日は非番ですしね!!」
――僕の薀蓄を……皆がどのような思いで聞いていたのか……。
「そもそも昨今は神様=仏様と勘違いする方が多くなっているのが問題なのです。日本人はキリスト教の影響を少なからず受けているので混ざってしまうのも仕方のないことですが、キリスト教の『神』は唯一のものですが、仏教における『神』は最上級でも唯一でもありません。仏教においては、そもそも『形』という存在がなく……敢えて言うならば世界そのものなのです。ここまで大丈夫ですか?」
「えっ、あ……うん。言ってることは分かるけ「なら次に進みますね!宗教における信仰対象を『神』とするなら、仏教における『仏』とは『神』です。これだと“神様=仏様”なってしまいますが、前者は【唯一の神に対する信仰】に対し、後者は【様々な神、(八百万の神)に対する信仰】という事実によりこの矛盾は解消されます。仏教と神道とを明確に区別したのは少し前のことで、それまでは神と仏、具体的に言うと寺も神社も同じ存在でした。また神仏習合の中での『神』は『仏』の仮の姿、あるいは仏教を守護する存在という扱いで仏教の中に取り込まれていましたね……ここまでで何か質問はありますか?」
「いや、ないけど……もう十分分かったからこのあた「分かりやすく具体的にまとめると、より身近にいて、人間に直接関与してくる存在が『神』で、遠くから見守っている存在が『仏』というのが仏教の考えです。『神』は人間に関与する為に力を持っており、時には人間を罰を与えることもありますが、『仏』はあくまで見守っているだけなので、静と動の関係とも言えるかもしれませんね。そう考えるなら…………」
――1時間後――
「……というわけなのです……って聞いてますか?」
ようやく……永遠とも思える地獄が終わった。
「あぁ……よく1時間もあんなにハッキリと喋れたものだ……おかげで頭の中がパンクしそうだよ……」
白蓮が話し始めてから1時間……驚くべきことに、彼女は一度も噛まずに喋り続けた。それだけではない。5分おきに霖之助に「何か質問はないか?」と訊ね、その度に霖之助の言葉をスルーしながらハッキリとした声で延々と話し続けたのだ。よほど自分の知識を誰かに広めたかったらしい。もしくは自慢したかったのかもしれない。普段のおっとりとした口調と態度などどこにもなく……そして、とても楽しそうだった。
「ふぅ~……久しぶりに思いっきり話せてとてもスッキリしました。何かご感想あります?」
「あぁ、とてもタメになりそうな話だったよ……。あと……これから薀蓄に関しては少し自重するように心掛けたいと思う……」
とても晴れやかな表情の白蓮と、今にも死にそうな顔の霖之助。対照的……というより、その表情の差は北極と南極ほどであった。
「……。(まさか、他人の薀蓄を小1時間聴かされるという行為に……ここまでストレスが溜まるとは思わなかった……。こんな事を今まで僕は行ってきたのか。霊夢はよく何の文句も言わずに付き合ってくれたものだな。…………これからは多少のことなら許してあげようかな……)」
「?……どうかしましたか?急に黙り込んでしまって」
「えっ、ああ……ごめん。ちょっと考えごとをしていてね……。それじゃあ、僕はそろそろ帰るよ」
帰ったらしばらくは薀蓄は控えよう……そう考えながら霖之助が立ち上が……れなかった。
「うぐッ!」
起き上がろうとした瞬間、何かに足首を掴まれ……そのままバランスを崩し顔面から床に激突したのだ。しかも縁側の床は畳ではなく板であるため、身体を鍛えていない霖之助にとってはかなり痛みであろう。
「ぐっ……な、なんの……つもりだ……!?」
痛みで鼻を押さえながら足元の方を振り向くと、そこには霖之助の足首を両腕で掴んでいる白蓮の姿があった。
「将来は命蓮寺の看板を担う方にお茶だけ出して帰すなど出来ません!ご馳走とはいわずとも、せめて手料理だけでも食べていってもらわないと」
「だ……から……!!僕はそんな見せ物になるつもりはないし……!君に協力するつもりもない……から、離・・せっ……痛ッ!!!」
白蓮の腕から逃れようと必死で足を引き上半身を起こすが……ただの半妖である霖之助が身体強化魔法を得意する彼女の力に敵うはずもなく、再び地面に顔面を強打しする。
「~~ッッ!!」
2度連続で同じ箇所に激痛を覚え、声にならない悲鳴をあげる霖之助。
「なぜ……こんな目に……」
肉体的ダメージを通して精神にも影響がきたのか……霖之助は逃げることを諦めた。
「――ところで君は料理とか作れるのかい?」
「甘く見られたものですね。千年のブランクがあるとはいえ、幼い頃から料理の腕は磨いていたのです。まぁ、見ててください」
ふんっ、と胸を張りながら言う白蓮。
――千年のブランクという言葉が気になったが……確かに、普段の派手な私服の上から割烹着と三角巾を装着しただけで、その道の達人を思わせるような姿になった。
「では、いきます……」
――そして僕は彼女から……『人を見かけで判断してはいけない』ということを学んだ。
「痛っ。」
「(見てろ……と言われたが、流石にこれは……)」
二人の目の前にあるキャベツは悲惨……というにはあまりにも表現が軽すぎた。
その身に包丁が刺さった跡が何箇所も残っており……中身も中途半端に切り込んだせいで、ぐしゃぐしゃとなっていた。
「あ、あれ?みじん切りってどうやったんだっけ……。あ、ああ!さっきの血が野菜に……!」
白蓮が料理を始めてから5分弱……見るに見かねた霖之助がとうとうサポートに入った。
「……キャベツはまず縦半分に切るといい」
白蓮の背後に立ち……後ろから彼女の手と自分の手を重ね、キャベツを半分に切る。
「えっ!ちょ、ちょっと!!なんですか!?」
「なにを慌てているんだか……嫌かもしれないが、この状況を見てるのはもっと嫌なのでね」
慌てて手をどかそうとする白蓮だが、後ろから身体ごと密着する形で掴まれているので無理に動かすことも出来ず、結局流されるままになってしまった。
「じゃ、千切りからやっていくよ」
「うぅ~……はい……」
結論からいえば、霖之助の腕は神の領域だった。
「キャベツとかたまねぎは猫の手が一番安全だね。慣れれば“これくらい”の速さになるし」
「……???」
作業を行いながら解説する霖之助だが、白蓮は全くついていけなかった。それもその筈……。
“視えない”のだ。
トトトトトト……と、まな板に軽く包丁が当たるだけの音が台所に響き……その跡は千切りにされた野菜のみが残っていた。白蓮の目でも自分の腕の動きを捉えきれていないのだ。常人では何が起こっているかすらも分かっていないだろう。
「……よし、たまねぎ終わり。これで残りはサラダと味噌汁を作るだけだな」
「えっ?あっ、ああ!はい!」
気がつけば霖之助が白蓮の後ろから隣に立っており、既にサラダの盛り付け作業を行っていた。
「――なんというか……本当に申し訳ございませんでした……。あっ、この煮物美味しいですね」
「気にしなくていいさ。1000年も間が空いていたんじゃあな。その内感覚も戻ってくるだろうしな」
結局、「ご馳走になる」側の霖之助が最初から最後まで全ての作業を行った。白蓮も手伝おうとしたのだが霖之助の速度に全くついていけず……といった具合だ。
「と、いうより驚きです。貴方が料理できるのはともかく……あんな速度普通は出せませんよ」
「ん~……特に意識してたつもりもないんだけどな。修行時代は忙しかったし……今だって食欲旺盛な妹分が2人と、新しく常連になった大食いの亡霊がいるからなぁ」
味噌汁を啜りながら、サラッと言ってのける霖之助。表情が顔に出ないのはいつものことだが、こう見えて随分ハードな過去を過ごしていたようだ。
「本当に貴方は色んな知り合いがいるのですね。それも種族に関係なく……。私にとっては羨ましい限りです……」
「……そんな大層なものじゃないよ。変な場所にやってくる奴は、迷い込んだ者か変わり者しかいない。僕の場合、後者だけだけどね。誰も彼も……自分の家みたいに好き勝手ばかりしてくれてるよ」
溜息を吐きながらダルそうに愚痴る霖之助。そんな姿を見ながら……くすっ、と白蓮が小さく笑った。
「……なんだ?」
「いえいえ、口調と表情が揃っていないなと思いましてね。溜息ついてるわりに……顔が笑ってますよ?」
本日二度目の失態に、思わず頭を抱える。
「……そろそろ帰るよ」
「素直じゃありませんねぇ」
「……忘れてくれ。……じゃあな」
「はい、いつでもお待ちしておりますよ」
霖之助が後ろに白蓮に軽く手を振り、出口に向かって歩き出す。いつの間にか辺りは真っ暗になっており、その後ろ姿はすぐに見えなくなった。
命蓮寺を出て、ほのかに灯りのついた人里を歩いていると……つい最近、印象に残った場所が見えた。
――“彼女”と初めて出会った場所だ。
『君のことは魔理沙から聞いている――』
彼女の夢は……少なくとも僕には失笑にも冗談にもならない。それほどまでに馬鹿らしいものだった。
『人間と妖怪……そのバランスがようやく落ち着いてきた矢先に、僕のような半妖が増えてしまったら……その先に何があるか君は分かっているのか?』
僕も彼女も……理由は違えど、種族の問題で迫害された。だから分かるはずなのだ。半妖という種族が幻想郷で増えてしまえばどうなるか……。それなのに彼女は僕にこう言った。
『――誰にも未来なんて分かりませんよ』
振り返ってみれば……この時からかもしれない。
『分かりきったことじゃないか』
『貴方は明日の天気が100%予報通りなると思いますか?』
彼女に惹かれ始めたのは……。
『酷い暴論だな。もし一歩間違えればとんでもないことになる未来と天気予報を一緒にするとは』
『文句はその時になってから言ってほしいものですね』
『それはいいな。』
最初はどんな理想家かと思えば……ただの頑固者だったようだ。実に面白い。
半妖である自分があとどの程度生きていられるかは分からない。だが……
『僕が見届けてやろう。君の夢の果てを』
協力はしないけどな。
幻想郷とは比較できないほど大きな世界でそんな事が起きているのだ。人間・河童・妖獣・妖精・鬼・死神……様々な種類はあれど、大別すると人間と妖怪で構成された幻想郷の溝は底が見えないほど深い。……そして『彼女』も、その被害者となった一人だ。
人に尽くし、妖怪に尽くし……両方に加担したが為に1000年のあいだ封印された。
それでも彼女は人も妖怪も神も平等であるべきだと言う。
そんなしたたかな彼女を……僕は肯定できなかった。
「――相変わらず頑張っているようだね」
縁側で佇む霖之助の横にお茶の入った湯のみが置かれた。
「まだまだ……ですよ」
おっとりとした微笑みを浮かべながら、白蓮が霖之助の隣に腰掛ける。
「いやいや、ここの……命蓮寺だっけか?とにかく、まだ少ししか経っていないが随分と人も増えているようだし。まぁ、その分ほかの神社に参拝する者が減るがな」
「それは大変ですねぇ」
「まぁ早苗のところはともかく……博霊神社は霊夢の自業自得だと僕は思うけどね。大体あの場所は立地条件も悪いしあの子も信仰が少ないと嘆いているが明らかに自分のせいだろうと…………って、どうした?ニヤニヤして……」
「いえ……自分の事はあまり話さないのに、薀蓄とあの子達の話題になると随分饒舌になるものだ、と思いましてね……」
霖之助が「むっ」と呻り、気恥ずかしそうに俯いた。
「……気のせいだよ」
「そうかもしれませんねぇ」
ジト目で霖之助の方を見遣る。彼をこんな顔にさせられる者など白蓮を含めて極少数だろう。
「それにしても、貴方の方から此処に来るなんて珍しいですね。何か用でも?」
「ん、いや……人里に用事があったからそのついでだよ。他意はない」
「はぁ、ツンデレというものですか?」
どこでそんな言葉覚えてきたんだ……と霖之助が聞くと、最近たまに来る紫色の服を着た妖怪の方から教えてもらったらしい。もう誰か答えているようなものだ。
「(紫のやつ……いらない知識ばかり広げていってからに……)とりあえずツンデレではないから安心してくれ。ただの気まぐれだからな」
「そうですか……貴方の協力があれば私の目標にまた一歩進展できるのですが……」
「その件は何度も言っただろう?生憎と僕は、人間と妖怪が平等であるべきだなんて思っていないし……これから先もその考えを変えるつもりもない」
白蓮が一瞬ショボンとした顔になったが、またすぐ持ち前の笑顔に戻った。
「残念です……が、初めて会った頃と比べるとかなり対応が優しくなったのでもう一息のようですね」
「ぐっ……しまった……!」
痛いところを突かれ、思わず顔を歪める霖之助。
「最初はどんな聖者かと思ったが……絶対、悪魔寄りだろ君……」
「私の夢は綺麗なだけでは叶いませんからね」
「君もだいぶ成長したな……色んな意味で……」
――彼女の夢は人も妖怪も神も仏も全て平等な世界を作ること……らしい。
規模が大きすぎるので具体的にまとめると、魚と鷲と虎と龍が共存するようなものだ。もっと詳しく言うならば「そもそも魚は陸上生活出来ないだろう」とか「虎から見れば魚も鷲も食料だろう」など……もっともな突っ込みが100はありそうな程に無理な話だ。
……そう思っていたはずなのだが……彼女の行動は確実に成果を出していた。実際、この寺を信仰する者は人間・妖怪問わず着々と増えていっている。あと1年もすれば幻想郷で知らぬ者はいない名所になるかもしれない。
「……ちなみに仏様と神様の違いは……お釈迦様が人々に思考で悟り解脱することに依り“仏”になるようにと説かれたもので……神様は、東南アジアや日本・インド・アフリカのように、あらゆる物に霊を観て畏れ祭る多神教がある……ということなのです」
――今までの話題と全く関係ないがこの後、初めて知ることとなった。
「へぇ、流石に詳しいな……。その手の知識はまだ疎いから参考になるよ。また機会があれば教えてくれよ」
「いえいえ!またの機会など待たず、今お話しましょう!幸い私も今日は非番ですしね!!」
――僕の薀蓄を……皆がどのような思いで聞いていたのか……。
「そもそも昨今は神様=仏様と勘違いする方が多くなっているのが問題なのです。日本人はキリスト教の影響を少なからず受けているので混ざってしまうのも仕方のないことですが、キリスト教の『神』は唯一のものですが、仏教における『神』は最上級でも唯一でもありません。仏教においては、そもそも『形』という存在がなく……敢えて言うならば世界そのものなのです。ここまで大丈夫ですか?」
「えっ、あ……うん。言ってることは分かるけ「なら次に進みますね!宗教における信仰対象を『神』とするなら、仏教における『仏』とは『神』です。これだと“神様=仏様”なってしまいますが、前者は【唯一の神に対する信仰】に対し、後者は【様々な神、(八百万の神)に対する信仰】という事実によりこの矛盾は解消されます。仏教と神道とを明確に区別したのは少し前のことで、それまでは神と仏、具体的に言うと寺も神社も同じ存在でした。また神仏習合の中での『神』は『仏』の仮の姿、あるいは仏教を守護する存在という扱いで仏教の中に取り込まれていましたね……ここまでで何か質問はありますか?」
「いや、ないけど……もう十分分かったからこのあた「分かりやすく具体的にまとめると、より身近にいて、人間に直接関与してくる存在が『神』で、遠くから見守っている存在が『仏』というのが仏教の考えです。『神』は人間に関与する為に力を持っており、時には人間を罰を与えることもありますが、『仏』はあくまで見守っているだけなので、静と動の関係とも言えるかもしれませんね。そう考えるなら…………」
――1時間後――
「……というわけなのです……って聞いてますか?」
ようやく……永遠とも思える地獄が終わった。
「あぁ……よく1時間もあんなにハッキリと喋れたものだ……おかげで頭の中がパンクしそうだよ……」
白蓮が話し始めてから1時間……驚くべきことに、彼女は一度も噛まずに喋り続けた。それだけではない。5分おきに霖之助に「何か質問はないか?」と訊ね、その度に霖之助の言葉をスルーしながらハッキリとした声で延々と話し続けたのだ。よほど自分の知識を誰かに広めたかったらしい。もしくは自慢したかったのかもしれない。普段のおっとりとした口調と態度などどこにもなく……そして、とても楽しそうだった。
「ふぅ~……久しぶりに思いっきり話せてとてもスッキリしました。何かご感想あります?」
「あぁ、とてもタメになりそうな話だったよ……。あと……これから薀蓄に関しては少し自重するように心掛けたいと思う……」
とても晴れやかな表情の白蓮と、今にも死にそうな顔の霖之助。対照的……というより、その表情の差は北極と南極ほどであった。
「……。(まさか、他人の薀蓄を小1時間聴かされるという行為に……ここまでストレスが溜まるとは思わなかった……。こんな事を今まで僕は行ってきたのか。霊夢はよく何の文句も言わずに付き合ってくれたものだな。…………これからは多少のことなら許してあげようかな……)」
「?……どうかしましたか?急に黙り込んでしまって」
「えっ、ああ……ごめん。ちょっと考えごとをしていてね……。それじゃあ、僕はそろそろ帰るよ」
帰ったらしばらくは薀蓄は控えよう……そう考えながら霖之助が立ち上が……れなかった。
「うぐッ!」
起き上がろうとした瞬間、何かに足首を掴まれ……そのままバランスを崩し顔面から床に激突したのだ。しかも縁側の床は畳ではなく板であるため、身体を鍛えていない霖之助にとってはかなり痛みであろう。
「ぐっ……な、なんの……つもりだ……!?」
痛みで鼻を押さえながら足元の方を振り向くと、そこには霖之助の足首を両腕で掴んでいる白蓮の姿があった。
「将来は命蓮寺の看板を担う方にお茶だけ出して帰すなど出来ません!ご馳走とはいわずとも、せめて手料理だけでも食べていってもらわないと」
「だ……から……!!僕はそんな見せ物になるつもりはないし……!君に協力するつもりもない……から、離・・せっ……痛ッ!!!」
白蓮の腕から逃れようと必死で足を引き上半身を起こすが……ただの半妖である霖之助が身体強化魔法を得意する彼女の力に敵うはずもなく、再び地面に顔面を強打しする。
「~~ッッ!!」
2度連続で同じ箇所に激痛を覚え、声にならない悲鳴をあげる霖之助。
「なぜ……こんな目に……」
肉体的ダメージを通して精神にも影響がきたのか……霖之助は逃げることを諦めた。
「――ところで君は料理とか作れるのかい?」
「甘く見られたものですね。千年のブランクがあるとはいえ、幼い頃から料理の腕は磨いていたのです。まぁ、見ててください」
ふんっ、と胸を張りながら言う白蓮。
――千年のブランクという言葉が気になったが……確かに、普段の派手な私服の上から割烹着と三角巾を装着しただけで、その道の達人を思わせるような姿になった。
「では、いきます……」
――そして僕は彼女から……『人を見かけで判断してはいけない』ということを学んだ。
「痛っ。」
「(見てろ……と言われたが、流石にこれは……)」
二人の目の前にあるキャベツは悲惨……というにはあまりにも表現が軽すぎた。
その身に包丁が刺さった跡が何箇所も残っており……中身も中途半端に切り込んだせいで、ぐしゃぐしゃとなっていた。
「あ、あれ?みじん切りってどうやったんだっけ……。あ、ああ!さっきの血が野菜に……!」
白蓮が料理を始めてから5分弱……見るに見かねた霖之助がとうとうサポートに入った。
「……キャベツはまず縦半分に切るといい」
白蓮の背後に立ち……後ろから彼女の手と自分の手を重ね、キャベツを半分に切る。
「えっ!ちょ、ちょっと!!なんですか!?」
「なにを慌てているんだか……嫌かもしれないが、この状況を見てるのはもっと嫌なのでね」
慌てて手をどかそうとする白蓮だが、後ろから身体ごと密着する形で掴まれているので無理に動かすことも出来ず、結局流されるままになってしまった。
「じゃ、千切りからやっていくよ」
「うぅ~……はい……」
結論からいえば、霖之助の腕は神の領域だった。
「キャベツとかたまねぎは猫の手が一番安全だね。慣れれば“これくらい”の速さになるし」
「……???」
作業を行いながら解説する霖之助だが、白蓮は全くついていけなかった。それもその筈……。
“視えない”のだ。
トトトトトト……と、まな板に軽く包丁が当たるだけの音が台所に響き……その跡は千切りにされた野菜のみが残っていた。白蓮の目でも自分の腕の動きを捉えきれていないのだ。常人では何が起こっているかすらも分かっていないだろう。
「……よし、たまねぎ終わり。これで残りはサラダと味噌汁を作るだけだな」
「えっ?あっ、ああ!はい!」
気がつけば霖之助が白蓮の後ろから隣に立っており、既にサラダの盛り付け作業を行っていた。
「――なんというか……本当に申し訳ございませんでした……。あっ、この煮物美味しいですね」
「気にしなくていいさ。1000年も間が空いていたんじゃあな。その内感覚も戻ってくるだろうしな」
結局、「ご馳走になる」側の霖之助が最初から最後まで全ての作業を行った。白蓮も手伝おうとしたのだが霖之助の速度に全くついていけず……といった具合だ。
「と、いうより驚きです。貴方が料理できるのはともかく……あんな速度普通は出せませんよ」
「ん~……特に意識してたつもりもないんだけどな。修行時代は忙しかったし……今だって食欲旺盛な妹分が2人と、新しく常連になった大食いの亡霊がいるからなぁ」
味噌汁を啜りながら、サラッと言ってのける霖之助。表情が顔に出ないのはいつものことだが、こう見えて随分ハードな過去を過ごしていたようだ。
「本当に貴方は色んな知り合いがいるのですね。それも種族に関係なく……。私にとっては羨ましい限りです……」
「……そんな大層なものじゃないよ。変な場所にやってくる奴は、迷い込んだ者か変わり者しかいない。僕の場合、後者だけだけどね。誰も彼も……自分の家みたいに好き勝手ばかりしてくれてるよ」
溜息を吐きながらダルそうに愚痴る霖之助。そんな姿を見ながら……くすっ、と白蓮が小さく笑った。
「……なんだ?」
「いえいえ、口調と表情が揃っていないなと思いましてね。溜息ついてるわりに……顔が笑ってますよ?」
本日二度目の失態に、思わず頭を抱える。
「……そろそろ帰るよ」
「素直じゃありませんねぇ」
「……忘れてくれ。……じゃあな」
「はい、いつでもお待ちしておりますよ」
霖之助が後ろに白蓮に軽く手を振り、出口に向かって歩き出す。いつの間にか辺りは真っ暗になっており、その後ろ姿はすぐに見えなくなった。
命蓮寺を出て、ほのかに灯りのついた人里を歩いていると……つい最近、印象に残った場所が見えた。
――“彼女”と初めて出会った場所だ。
『君のことは魔理沙から聞いている――』
彼女の夢は……少なくとも僕には失笑にも冗談にもならない。それほどまでに馬鹿らしいものだった。
『人間と妖怪……そのバランスがようやく落ち着いてきた矢先に、僕のような半妖が増えてしまったら……その先に何があるか君は分かっているのか?』
僕も彼女も……理由は違えど、種族の問題で迫害された。だから分かるはずなのだ。半妖という種族が幻想郷で増えてしまえばどうなるか……。それなのに彼女は僕にこう言った。
『――誰にも未来なんて分かりませんよ』
振り返ってみれば……この時からかもしれない。
『分かりきったことじゃないか』
『貴方は明日の天気が100%予報通りなると思いますか?』
彼女に惹かれ始めたのは……。
『酷い暴論だな。もし一歩間違えればとんでもないことになる未来と天気予報を一緒にするとは』
『文句はその時になってから言ってほしいものですね』
『それはいいな。』
最初はどんな理想家かと思えば……ただの頑固者だったようだ。実に面白い。
半妖である自分があとどの程度生きていられるかは分からない。だが……
『僕が見届けてやろう。君の夢の果てを』
協力はしないけどな。
というか、霖之助の料理スキルが達人級で吹いたw
それと白蓮さんがいちいち可愛いです。1000年のブランクで腕がなまっているそうですが、
勘を取り戻せたら、超人「聖白蓮」で霖之助を超える神速微塵切りができるかも……。
どうでもいいですねw
何故そこで霖之助の足を掴むんだ白蓮さんw
ただ、文章において少々ゴチャゴチャした印象を受けました。
地の文が、一人称、三人称、と頻繁に切り替わったり、
三点リーダーやダッシュが使われすぎていているが、この印象を与えているのだと思います。
もう少しすっきりさせたほうが読みやすいと思います。
イマイチ何が書きたかったのか伝わって来なかった。
ま、次回に期待という事で。
ネタを挟みたいなら相応の地力を付けてからの方がいいのでは?
次作に期待ですかね。
平等じゃ神は信仰得られないし、妖怪も外の世界の人間を食料にしているのに
外の世界に依存している事を忘れ、幻想郷を理想郷と考える者は向上心を失い
驕り堕落していると原作の霖之助も嘆いているから、聖白蓮の理想は限りなく難しいねぇ
ここで切るのか。
よし、ならば続編だ