「お茶がはいりましたよ」
命蓮寺の長い廊下の縁側に座っていた紅 美鈴の耳に、寅丸 星のおっとりとした声が届く。
彼女は、ほんの数瞬前にお茶を取りに行ったはず……と美鈴が感じてしまうのは、
目の前に広がる庭園に心を奪われたからで、春の陽気に誘われたわけではない。
美鈴が生活している紅魔館にも庭園はあるが、命蓮寺のそれとはかなり趣向が異なる。
紅魔館の庭園が、色彩豊かな四季折々の花々が咲き乱れる豪華絢爛なものなのに対して、
命蓮寺のそれに華々しさなんてものは微塵もなく、読んで字の如く「花が無い」のだ。
それでいて目の前に広がる庭園は、人の目を引き付ける不思議な魅力を持っている。
ワビサビと言われるものかもしれないが、美鈴にその正体はよく分からなかった。
「枯山水と言うそうです。前に一輪が教えてくれました」
「確かに水気はありませんね。それでいて、なぜか水流を想像してしまう」
「その言葉、一輪が聞けば諸手を挙げて喜びますよ」
笑いながら星がお茶の入った湯飲みを渡してきてくれたので、美鈴はそれを両手で受け取る。
手に持ったそれはとても熱く、やや猫舌気のある美鈴には当分の間、飲めそうにない。
季節はまだ春だが、すでに桜も葉桜になっていて、空気も暖かくなっている。
それなのに、どうしてこんなにも熱く……? と美鈴は手元のお茶に疑問を持ったが、
わざわざ淹れて来てくれたのだから……とも思い、それは聞かない事にした。
きっと湯を沸かし過ぎただけに違いなかったからなのだろうし。
星がのんびり屋さんなのは熟知している。
お礼を言おうと星の方を見ると、彼女が持っている湯飲みには何故か取手が付いていて、
そのシルエットはまさにマグカップと呼ぶに相応しいかたちをしている。
もしかしたら、緑茶でも紅茶でも幅広く使えるように開発された新製品の可能性もあったが、
美鈴はそのやや型破りな食器の由来を尋ねるのを我慢できなかった。
「どうして星の湯飲みには、取手がついているんです……?」
「へっ、これですか? これはですね~以前、湯飲みを落として割った事がありまして、
その時にナズが作ってくれたのです。私のお気に入りなのです」
星は誇らしげにお気に入りの湯飲み誕生秘話を説き終えると口元にそれを運ぶ。
もちろんマグカップの中には、淹れたてほやほやを通り越し、熱々の緑茶が入っている。
虎妖怪のためなのか、それとも虎妖怪のくせになのか、とにかく星は極度の猫舌で、
身体は立派な虎でも舌に限って言えば仔猫そのもの、少なくとも美鈴はそう認識している。
ただ星本人に自分の舌が、仔猫のものだという自覚はまったくないみたいで、
美鈴がそうこう思案している間にも、マグカップは星の口元にどんどん接近していく。
このままだと本当に近い将来、それはもう可愛い悲鳴が聞こえてしまうだろうが、
幸いなことに、美鈴にそのような趣味はなかったので、星の舌は命拾いすることになる。
「ストップです!!」
「ふぇ?」
間一髪といったところで、星は手を止めてくれた。
きょとんとした反応を見るからに、お茶が熱いことにすら気が付いてないみたいだ。
もしかしたら、お茶を淹れてくれたのは星ではないのかもしれない。
自分が淹れたのに、その熱さが分からないなんて事は流石にないだろうからだ。
「その湯飲みを貸してくれませんか?」
「別にいいですけど……、いきなりどうしたのですか?」
不思議そうな顔をしながらも星はマグカップを渡してくれた。
星からマグカップを預かった美鈴は、その飲み口に軽く息を吹きかけはじめる。
お茶から立ち込める半透明な湯気が、美鈴の吐息に吹かれて霧散していく。
その奥にはゆらゆらと揺れている緑の水面が見え、そこには茶柱が立っていた。
美鈴はせっかくの茶柱を倒さないよう、細心の注意を払って息を吹きかけ続け、
そろそろいいかな と思った頃に、少しだけ口をつけてお茶の熱さを確かめる。
紅茶では味わえない渋みと人肌程度の温かさが、美鈴の舌の上を同時に駆け抜けた。
お茶は猫舌の星にも優しい温度になっていた。
「よし、もう飲んでも大丈夫ですよ……って、あれ」
一口だけ飲んでお茶が冷めたのを確認し、横に座る星にマグカップを返そうとした美鈴の目に、
もう片方の湯飲みも冷まそうと息を吹きかけ、顔を赤くしてがんばっている星の姿が映る。
美鈴の言葉と視線に気が付けないくらいに、星は湯飲みの方に集中しているみたいで、
その健気な姿を見て美鈴は邪魔をしては悪いと思い、ただ黙って彼女を見守ることにした。
湯飲みに息を吹きかける星の髪が、春風に吹きかけられ、少しだけ揺れる。
美鈴は星の虎柄の髪を見る度に、ふと昔聞いたお伽噺を思い出してしまう。
グルグルと旋回し過ぎた二匹の虎が、バターになってパンケーキの材料になる話だ。
星の場合はバターじゃなく、上に塗るハチミツになりそうだなぁ と美鈴が妄想していると、
星は息を吹きかけるのを止め、おそるおそる湯飲みを口元に近づけはじめた。
行為自体はすごく拙いのに、その表情は真剣そのもので職人みたいになっていて、
その落差に美鈴は笑ってしまいそうになるが、唇を噛み、腿をつねりそれに耐えた。
「上手く出来ましたよ!美鈴!!」
「私も上手くいきました、お返しします」
美鈴は嬉しそうに笑う星と、お互いに冷ました合った湯飲みを交換した。
その笑顔に美鈴は、やはり星はハチミツですね~ と妄言を吐いてしまいそうになる。
そんな邪念を払うために、さっそく美鈴は星が冷ましてくれた緑茶に向かい合った。
(ああ、そういう事ですか)
緑茶に向かい合った美鈴の口から、自然と感嘆の混じった言葉が出そうになる。
美鈴が見据える緑の水面には、星のお茶と同様に茶柱が浮かんでいた。
星が湯飲みを冷ますのに集中していたのも、手渡す時に嬉しそうな笑顔だったのも
この小さな、小さな幸福の象徴が浮かんでいたからなのだろう。
美鈴は星にありがとうと言いたくなったので、彼女の方に身体を向ける。
すると星も自分の茶柱に気が付いたみたいで、同じタイミングでこちらを向いてくれた。
美鈴は期せずして星と見つめ合うことになり、照れてしまい何も言えなくなってしまう。
だから緑茶と幸せの欠片で満たされた互いの湯飲みを、コツンと触れ合せる事で言葉の代わりにした。
星と寄り添い一緒に飲む緑茶は、なんだか甘く感じられた。
これ読むまで全く考えつかなかったカップリングです!
目のつけどころが凄いわ~。
とても穏やかで、見ているこちらまで幸せにしてくれそうな雰囲気と、
二人の相乗効果で、とてつもないうっかりを発動させそうな雰囲気で。
俺はてっきりめーりんの帽子の『星に龍』から思いついたもんだと思ってた。
のんびりまったりな二人。カップルていうより仲のいいほのぼの姉妹みたいな関係ですかね。
接点の無い二人がどうしてこういう関係になったのかのエピソードを見てみたいです。
内容はとてもほのぼのでいい感じでした。
方角でうまいこと言おうとしたら、東西両極でしたね
色は緑に白金でぴったりです。
これは微笑ましいカポォ
逆にこれから流行るべきだ
武人と武神なのにどちらも穏やかというがまたいい
関係ないけど神奈子様は182cm勇儀の姉御は205cmくらいなイメージ、鬼だし
咲夜さんは172cmくらいで霊夢は160cmくらいの平均的身長。魔理沙は155cmとやや小柄で
早苗が164cm、妖夢が154cmだったらいいなと思う。雛は元人形なのに167cmの24歳くらいのネーチャンな感じがする。何故か