焼き鳥撲滅のスローガンを掲げ、八目鰻の屋台を始めて幾星霜。
八目鰻とお酒の準備は抜かりなく、私の喉の調子も絶好調。
私の歌声に惹かれて来たならば、寄ってみりゃんせ夜雀の屋台。
集客のための能力使用はご愛嬌、そこは大目に見て頂戴ね。
鳥目になってしまった人も予防したい人も、その時は是非とも私のお店をご贔屓に。
「なーんて、自分で鳥目にしてたら世話無いんだけどねー」
「アタイ知ってるわ! そーいうのジャギって言うのよ!!」
予行練習に歌をひとつ歌い終わり、シレッと言葉にした私の台詞に、目の前の氷精は自信満々に胸を張って答えなされた。
流石は我らが誇る自称最強のチルノ嬢、頭の出来が別のベクトルでフルスロットルでいらっしゃる。
いくら鳥頭の私でもそんなぶっ飛んだ答えは言うまいよ。多分。
「チルノちゃん、それを言うのなら詐欺だよ」
そしてソレとは正反対に、妖精にしてはすこぶる頭の回転が速い大妖精が困ったような笑顔を浮かべて訂正した。
彼女は現在、私の着物の着付けを手伝ってくれている。
仕事用のこの割烹着、とても機能的で便利だけど一人でつけようとすると中々大変なのだ。
「終わったよー」なんて声が掛かって、くるりと一回転するように自身の姿を視界に入れる。
うん、さすがは大ちゃん。まったくもって文句のつけようが無いほどの完璧具合よ。
「大ちゃんってさ、絶対将来いいお嫁さんになれるよねー」
「えぇ!?」
思ったことをそのまま伝えてみれば、あっという間に顔を真っ赤にする大ちゃん。
妖精に結婚をする機会があるのかどうかは定かでは無いけれど、彼女と結婚できる奴は大層幸せなことだろう。
ま、それはさておきである。
ぐるりと屋台の外を見回してみれば、チルノとリグル、そしてルーミアが手伝ってくれていた椅子や机の配置もあらかた終了したみたい。
「こっちは終わったよー」なんて言葉にして、手をブンブンと振ってくるリグルとルーミアに、親指をグッと立てて了解の意を示すと不敵に笑ってみせる。
「さて、いよいよ準備も終わったわけよ。クッフッフッフ、この地獄の屋台家業を手伝おうとは、命知らずもいたものよのぅ」
「なんと、そーなのかー!?」
「いやいや、屋台家業で地獄とか意味わかんないし」
私の言葉に大仰に驚くルーミアとは対照的に、冷静な顔で手を横に振るリグル。
チッ、ノリの悪い奴め。などと内心で思ってた私の隣で、赤面から立ち直ったらしい大ちゃんが困ったように微笑んで言葉をつむいだ。
「きっとお客さんが一杯来るんだよ。それだと一人でやってたらとても大変だと思うな、私」
きっと親切心でフォローしてくれたんだと思う。
けどね、ごめん大ちゃん。私の屋台、そんなに人来ないんだ。心優しいフォローが心に痛いんです。
そんなわけで、私は「そのとーり」なんて白々しい言葉をつむいで苦笑いするしかないわけで。
ルーミアは納得したように頷いてはいたけれど、勘のいいリグルはというと疑い深そうにこちらをジト目で睨んでる。
ははは、さすがだねリグル。コレが本当の虫の知らせか……って、全然うまくないよね、コレ。
「ふふん、どんな奴が来たってさいきょーのアタイがいればイチコロよ!」
「ちーるのぉー、お願いだから客相手に弾幕とか飛ばさないでよー? 客商売って信頼が命なんだからさー」
「まかせてよみすちー、どんな奴が来たってけちょんけちょんにしてやるんだから!」
「……大ちゃん、私にはチルノに説明すんの難しそうだからパス」
遠い目をした私に大ちゃんは何を思っただろう。困ったように苦笑を浮かべながら、「はい」なんて力強く頷いて、彼女は氷精の元に向かってくれた。
もともと、頭の回転も悪いうえに物覚えの悪い私じゃ、チルノにわかりやすく説明するには無理があったのだ。そう思っておこう。
「まぁ、不安はおーいに感じるわけだけども、今日は私の仕事を手伝ってくれるというみんなにご褒美として仕事終わりに飛びっきりの八目鰻とお酒を進呈するよー」
「あ、それはちょっと楽しみかなー」
「そうでしょうリグル。そういうわけでして、我が屋台は『一に歌を二に歌を、三四が焼き鳥撲滅五に歌を』が信条なわけだけどさ」
「鰻要素皆無じゃん。何さその無意味なまでの歌要素」
リグルが呆れたようにツッコミを入れるわけだけども、そんな返答は想定済み。
けれど悲しいかな、私、ミスティア・ローレライにとっては歌は切って離せるような代物じゃないのである。
そんな言葉で私はめげない挫けない動じない。クツクツと喉の奥で笑う私を見て、ルーミアが首をかしげて不思議そうな顔をしていたが知ったことか。
今の私はハイパーみすちータイムなのである。つまりは超絶好調!
「つ・ま・り! みんなには接客のほかに歌って客引きをしてもらいまーす!!」
「えぇぇ!!?」
驚愕の声を上げたのはチルノに説明してた大ちゃんから。確かに、引っ込み思案の気のある大ちゃんには少々荷が重いかも。
だけどそこは心配無用。私には秘策があるのでございます。鳥頭で考えた秘策なんて高が知れてる気がするけど、ソレはさておき。
「ダイジョーブ、みんなで歌えば恥ずかしくないよ大ちゃん。歌はいいものだよ? 歌を歌ってると、細かいことなんてどーでも良くなってきちゃうから」
「うぅ、でも私歌ったこと無いよ?」
「ソレこそ心配ないってば。この際上手い下手は関係ないよ。一緒に歌って、笑って、楽しめたらそれでいいんだからさ」
そう、歌に上手い下手なんか関係ない。そりゃ上手いに越したことは無いだろうけど、歌うことを否定する要素なんかなりはしない。
歌は気持ちをリラックスさせるものだと、私は思う。嫌なことも、つらいことも、何もかも忘れて楽しく笑える。歌ってきっとそういうものなんだと思う。
そこに上手いから、下手だから、なんていうのは無粋だ。下手だから歌うな、なんてそんな言葉、誰にも言う資格なんかありゃしない。
気にする必要なんか無い。上手でも下手でもいい。歌いときに、気持ちを安らげて楽しく笑う。
一人で歌っても、気持ちはとても楽しくなれる。それじゃあ、みんなで歌ったらもっと楽しいに決まってるんだ。
これが、鳥頭の私が考えたなけなしの秘策というやつなのである。
「よーっし、アタイ歌う! みすちー、アンタには負けないわ!! ね、大ちゃん!?」
「ほほーう、この歌を生活の一部として活用する私に歌で勝負を挑むとは、妖精二人で私を打倒して見るといいわ!!」
「え、えぇぇぇぇぇ!!? ちょっと、チルノちゃんミスティアちゃん!!?」
「うーん、じゃあ私はチルノのチームで歌おーっと」
「じゃ、私もルーミアと一緒にチルノにつこうかな。いいよね、四対一でもさ?」
「はっはっは、もちろんよ!」
さてさて、かくして当初の目的をすっかり忘れた私に乗ってくれた皆は、本当にいい友達だと思う。
勢い良くほかのみんなを敵に回した私だけど、そこは歌に関して譲れない矜持があるのである。
ノリノリの私とチルノとルーミア。そしてリグルは苦笑をこぼして、大ちゃんはあたふたと大慌て。
うん、コレでこそ私たち。こんな馬鹿なことばっかりやってて楽しむことこそが、私たちの流儀だし、友情の証なんかなーなんて、生意気にも思ってみたり。
「それじゃあ一曲目、夜雀ロックンロール! 遅れるんじゃないわよみんなー!!」
『おぉー!!』
私の声にみんな勢い良く、大ちゃんだけやけっぱちに返事をして、大きく腕を空に突き出す。
ソレに気を良くした私は、いつも以上のテンションのままで歌を紡ぎ、彼女たちもソレに合わせて歌い始める。
チルノは勢いそのままにむちゃくちゃなリズムで。
大ちゃんはそのリズムに狂わされることなく、優しいリズムで。
ルーミアはいつもの如くマイペースなリズムで。
そしてリグルはみんなの間を取り持つように穏やかなリズムで。
んでもって私はいつものとおり、ガンガン激しくリズムを刻んじゃっているわけで。
改めて考えてみれば、なんともバラバラな歌だったことだろう。
けれども、そこにはしっかりとしたみんなの個性があって、それぞれが不思議とすんなり耳に入る。
だから―――他人から見れば雑な歌かもしれないけれど、私にとっては紛れも無い名曲だ。
みんなと歌うからこそ、みんなと楽しくなって歌ったからこそ、価値があるんだって、そう思う。
その証拠にほら、まるで誘蛾灯のように人や妖怪たちが集まってくるのに、時間はそう掛からなかった。
騒々しくて楽しげな歌に誘われて、人や妖怪が屋台に集う。
一人。
また一人。
そしてまた、一人。
自然、客の人数が増えてみんなが接客に回ったけれど、なんだかんだで私たちは歌ったまま。
だって、仕方ないじゃないか。今はこんなにも楽しいんだからさ。
私たちも笑ってる。お客さんも笑ってる。ほら、コレならきっと歌ってたって大丈夫。
みんなが注文を受けて指で合図する。けれども私たちは歌ったまま。
注文を受けて、その数だけ八目鰻を捌いていく。けれどもやっぱり歌は止まらない。
いつの間にか顔見知りの姿もいくつか確認できるようにまでなっていた。
博麗の巫女や黒白の魔法使いも。
河童一人と天狗三人のグループも。
風祝と唐傘お化けの奇妙なコンビも。
みんな楽しげに手を叩いて、他のお客に混じってリズムを取ってくれている。
ソレが嬉しくて、ついつい調子に乗って一層歌に力が入った。
みんなも似たようなもんで、最初は恥ずかしがっていた大ちゃんもすっかり楽しそうに歌ってる。
ほら、やっぱり歌ってこういう不思議な力があるんだってば。今頃、当初の目的を思い出した私が言うのも何なんだけどさ。
そうやって、私達は歌い続けた。楽しく、朗らかに、童話に出てきた音楽隊みたいに。
一体何十曲と歌っていただろう。いつの間にか辺りには客が大勢いて、歌い終えた私たちに、みんなが盛大な拍手を送ってくれた。
人も、妖怪も。皆、分け隔てなく。
これは、なんというか……さすがに恥ずかしいかもしれない。ほら、大ちゃんなんて顔真っ赤だしさ。
「おみごと、といったところですか。ミスティアさん」
と、そんな言葉がすぐ近くから聞こえてきた。
はて? と屋台備え付けの席に視界を移してみれば、パチパチと拍手を送っている……えっと、たしか稗田なんたらの姿がある。
うーん、物覚えの悪い自分の頭が恨めしいなぁ。こういうときは。
「えっと、稗田……ひえだのー」
「阿求ですよ。稗田阿求」
「そう、それ! 褒めてもらって嬉しいけどさ、その稗田のお偉いさんが一人でここに来ちゃって良かったの?」
「あはは、心配要りませんよ。今日はボディガードの方も一緒ですし」
チラリと、阿求が視線を向けた先に目を向ければ、人里で教師をしている慧音先生と、もう一人は確か……藤原妹紅とか言ったっけ?
なるほど。確かに、あの二人に護衛を頼んでたら安心だよねー。下手な妖怪よりよっぽど強いしさ。
「なるほど、なるほど。触らぬ神になんとやらーって奴ね。それなら確かに襲ってきたり攫おうとする奴はいないかも」
「あはは、確かにそうですね。それにしても繁盛してるじゃないですか」
「今日はたまたまよ、たまたま~。いつもはこんなにお客はこないもん。みんなが一緒に歌ってくれたからよ、きっと」
「そういうもんですかね?」
「そういうもんなのよ」
シレッと言葉を返しながら、注文が入った八目鰻を捌きに掛かる。
八目鰻って結構癖の強い味だから好き嫌いの分かれやすい食材だけど、ここの住人は結構好んで食べてくれるから大助かりだ。
そんな私の様子に納得いかないのか、「そんなもんですかねー」なんて考え込んでる。もうちょっと暢気に生きればいいのにねぇ、彼女もさ。
「そういえば攫われたりで思い出したんですけど、最近ミスティアさん関係で人攫いは出ても死傷者って出て無いんですけど、なにか理由でも?」
「うっわ、こんなところでそんなこと聞くかなー普通」
「仕方ないじゃないですか。人攫いや夜道に人を惑わすのは相変わらずですけど、人食いはぱったりじゃないですか。
それも、この屋台を始めてからですし、なにか理由でもあるのかなーと。実際、里の方じゃ何か企んでるんじゃないかって不安に思ってる人もいるんですよ?」
「あははは……こういうのって、身から出たサムっていうんだっけ?」
「錆ですよ、錆。どこの外国人の方ですかソレ」
なんだか小馬鹿にした表情が悔しいけれど、困ったことに反論できないからなお悔しい。
仕方ないじゃないの。物覚え悪いんだからさ、私の頭の中身は。
「ま、確かに人食いは禁止中だよ。そんな大層な理由でも無いんだけどさ」
「その理由、聞いてもいいですか?」
「簡単よ。こういう客商売は、信用と信頼が大事ってことよ。この家業始めるに当たって慧音先生から聞いた」
そんな私の返答に何を思ったか、ぽかんと間の抜けた阿求の顔が妙に面白い。
笑ってやろうかなんて思ったけれど、今は仕事中、新しい注文が入ってソレの調理に追われることになった。
うん、実に残念。大笑いしてあげようと思ったのにさ。
「それだけですか?」
「うん。だってさ、この屋台の目的はまず、世の焼き鳥撲滅運動なわけですよ。つまりは、鳥を食べないでって言ってるわけ」
「それは、まぁわかりますけど。でも、それって人を食べるのをやめる理由になります?」
「うーん、なんていうのかなぁ。あんまり頭がよくないから上手くいえないけどさ、この目的は妖怪だけじゃなくて人間にも対象にしてるわけでしょ?
鳥を食べるのをやめて欲しいって言ってる妖怪がいる。なのに、その妖怪は遠慮なく人間を食べちゃってる。
それってさ、なんかおかしいでしょ? フェアじゃないし、虫の良すぎる話じゃない。
だから、人にも妖怪にも鳥を食べるなって行動するんだったら、まず私が人間を食べることをやめなきゃいけないって、そう思ったのよ。
馬鹿は馬鹿なりに、鳥頭は鳥頭なりに考えてさ」
今度こそ、稗田阿求は驚いたような表情を浮かべていた。
そんなに私の言ったことが信じられなかったのか、それとも、私がこんなことを言うとは思っていなかったのか。
多分、きっと両方。信用しろというには、私は人を惑わし、攫い、そして喰いすぎてるから。
この屋台の目的は、焼き鳥の撲滅。もっと言えば、鳥を食べるなっていう行動の一環だ。
みんなには、鶏肉を食べないで欲しいって懇願する。
けれど、懇願する本人は遠慮なく人間を誘い、惑わし、そして喰らう。
そんな奴の言う事なんて、誰が聞いてくれるって言うのか。
こう思うようになったのって、きっとあの亡霊のお姫様に追いかけられて食べられそうになったことが関係してるんだと思う。
あの時、私は初めて捕食される側になった。
あの時、私は初めて捕食される恐怖を知った。
あの時、あのお姫様に襲われなかったら、きっと私は焼き鳥撲滅なんて考えにはいたらなかったはずだから。
「それじゃ、どうして幻想郷縁起には人間友好度を悪にして欲しいなんて頼んだんですか? 結局、人攫いとかはやめて無いですし、商売をするうえじゃマイナスになりません?」
「まぁ、そうなんだけどさ。なんていうか、妖怪としての意地みたいなもんなのよ。
私はこうやって焼き鳥撲滅を掲げる以前にさ、一人の妖怪なわけ。妖怪は恐れられてこそだと思うし、そこははっきりしとかないといけないと思うのよ。
最近は攫ってきても元に返してあげるのが主流だからね。私もソレに乗っかることにしたの。
色々言ったけどさ、妖怪としてのプライドよ。プライド」
「ははぁ、なんというか難しいですねぇ」
「本当、難しいよ。まいっちゃうわね」
困ったように苦笑して、私は阿求に熱燗を出す。
彼女の言うとおり、本当に難しい。
焼き鳥撲滅を掲げるために、信用と信頼を得るために人食いをやめ。
けれど妖怪の矜持として人攫いや人を惑わすことは辞められない。
人攫いや人を惑わす行いは、一歩間違えれば人間の信用と信頼を失いかけない。
けれどソレをやめてしまえば、ちっぽけな誇りすらも埋もれてしまうかもしれない。
そのバランスが、本当に難しい。その両立が出来ればいいのだけど、現実はそんなに甘くない。
こういうの、ジレンマって言うんだっけ?
本当に、人生はままならないよね。
「わかりました。これ以上は深く聞きません。あなたなりに色々考えてるんだってわかったから、それで十分です」
「あはは、そうしてくれると助かるよ。何しろ私の頭の出来はいろいろ残念だからね、難しいことはあんまり考えられないのさ」
「そうですかねぇ。そうだとしたら、そこまでの考えに至れて、今も実行してるってこと、すごいことだと思いますよ?」
「そ、そうかな?」
「そうですよ。絶対そうです。この稗田阿求が保証しちゃいます」
そんな風に満面の笑顔で言われて、私はまんざらでも無い風に笑顔を浮かべてみせる。
いや、実際に……嬉しかったのだ。
今まで、こんなことを口にする機会もなかったから、私の考えてることなんて誰もが考え付けるようなことだと思ってた。
私は、ただ自分なりの筋の通し方をしてるだけ。そんな大層なことをしてるって意識はなかったから、すごく……彼女の言葉が嬉しかったんだ。
「あ、でも人攫いはほどほどにしてくださいよ。色々大変でしょうけど、それだけはお願いします」
「うーん、善処する。覚えれたら」
「覚えてください。色々大変なんですからね、人攫いがおこると」
「ダイジョーブだって、人里から出てくる人間て、そもそもそんなにいないじゃない」
「そりゃそうですけどー……、そのほとんどがミスティアさんの屋台に行こうとして攫われていく人たちなんですが?」
うわーい、すっごい耳が痛い。どーりで最近、人間が夜中にうろついてるなぁと思った。
そっか、そうだったのか。私の屋台って営業が結構不定期だもんねー、あはははははははは。
……って、笑い事じゃないわねこりゃ。
「ごめん、ちゃんと休店日決めとく」
「そうしてください。出来れば私が帰る前に決めてください。そうじゃないと人里の皆さんに連絡できません」
ムッとした表情で私を睨んでくる稗田阿求。
何か反論したいんだけど、全面的にこちらが悪いんで何も言い返せない。
しかし、そういわれてもまいったなぁ。急に言われてもすぐに決めるわけにも行かないし……。
そんな風に悩んでいる私に、阿求はクスクスと苦笑する。
一体何がそんなに可笑しいのやら、彼女は熱燗を呷って私を流し見た。
「ま、急に言ってもすぐには決められないでしょうし、どうせなら一曲歌ってくれませんか? さっきみたいにみんなで」
「お、いいねぇソレ。歌っている間になんとなく決まってそうだから採用!」
「さすがはミスティアさん。やっぱりあなたはそうじゃないと!」
はたして、今のは褒められたんだろうか? ソレとも貶されたんだろうか?
ま、どっちでもいいか。これからやることは変わらないんだし、阿求の言葉はこの際瑣末事だ。
やることは決まってる。喉の調子も絶好調。リクエストも入ったことだし、ここは応えねばなるまいよ。
「みんなー、もう一曲いくけど歌えるー!?」
「ふふん、アタイを誰だと思ってるのさ!」
「私も、多分大丈夫ですよ」
「大ちゃんにしては珍しく積極的ー。私も大丈夫よー!」
「ルーミアに同じ。みんなOKだってさ、ミスティア!」
接客に勤しんでいたみんなの言葉が返ってきて、私は満足気に頷いた。
すると、辺りから拍手が巻き起こってなんだかこそばゆい。
今日はずっと思っていたことだけど、いつも以上に騒がしくて活気に満ちている。
それは、とてもいいことだと私は思う。こんな空気があるからこそ、私はこの屋台がやめられない。
だって、今の私はこんなにも―――充実した毎日を送ってる。
生憎、焼き鳥撲滅への道はまだまだ遠いけど、それでもこの生活は楽しいから苦にならない。
だって、ここには皆がいる。人も妖怪も関係なく、いろんな人たちが集まって笑いあってる。
それで―――、十分。
「いくよ皆ー!! リクエストに応えまして、私たちが歌う曲は―――」
夜雀の屋台は今日も今日とて騒がしい。
楽しく笑い、楽しく歌い、そして楽しく飲み明かす。
友も、人も、妖怪も、妖精の垣根を越えて笑い合える。
私は馬鹿で、物覚えの悪い鳥頭だけれど、この場所はいつまでもこんな場所であれたらいいなぁなんて、そんな風に思うのだ。
読んでて幸せな気分になるお話でした!
あなたが書くと、全てのキャラの魅力とか存在感がとても際立って見えます。
みすちーかわいいよみすちー。
なにか、学習発表会や学園祭の準備している時の空気に似ていますよね。
それはそうと、同じ自作自演(胸の傷的なそれ)の状況を見抜いてジャギ様を
思い浮かべたチルノはやっぱり侮れないヨネ。
こうやって皆でわいわいやりながら呑むのも楽しそうだけど、俺は一人でミスチーの料理を作る姿を肴にしながらしみじみ呑みたいな。
あと、大ちゃんにソロでリクエストさせたい。
皆で歌ってお客も一緒に楽しんだりする光景とか読んでいて自然と頬が緩みますよね。
マンガやラノベのような、さらっと読めて、楽しい読後感が残った作品でした。
新しい発見をありがとうございます。
歌をみんなで歌うシーンが凄く印象に残りました。
合唱屋台、ごちそうさまでした