地底の面々で行われたトランプ大会にて
「次は何をやるんですか?え?ダウト?……あはははっ、いいですよ?もっともこの私には誰が嘘をついているかすぐ分かりますけどね!1位は確実です、そうですね、もし1位でなかったら私が罰ゲームを受けますよ!じゃあ始めましょうか。ふふ、パルスィダウト!キスメダウト!お空ダウト!ほらほらいいんですか?どんどん私の手札が減っていきますよ?おほほほ!……え?私ダウト?……よくわかりましたね。ま、まあこれから減らしていけば……あれ?こいし、どうしてもうそんな手札少ないの?最後の1枚?……ダ、ダウト!!う、ウソじゃない!?ま、まあ皆さん落ち着いて、さっきのは言葉のあやで……どうして皆さん目が光ってらっしゃる!?ちょ、ま、待って……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
というわけで1週間後、調子に乗って大口を叩いたあげく1位を逃したさとりに対して、本人が言っていた通り罰ゲームが施行されることとなった。
地霊殿のホールにはトランプに参加していたさとり以外の7人が揃い、急遽用意された特設ステージの前でくつろいでいる。
この罰ゲームのタイトルは……
『古明地さとり七変化』
さとり以外の7人がそれぞれネタを持ち寄り、さとり自身にコスプレや演技をさせるというゲームである。
しかしただネタを持ち寄るだけではつまらないという勇儀の提案で、ネタを出す側にもルールがある。
「古明地ひとり」や「古明地さとし」といった具合に、『古明地さとり』の名前をもじったタイトルのネタを用意しなくてはならない。
そのネタの考案、そしてそれに必要な衣装や道具の用意などのために1週間の期間が設けられた。
そして今日、各々が用意したネタがさとりに渡され、いよいよお披露目となったわけである。
「さあ、始めるよ!最初のネタはこれだ!」
進行役である燐がぺらりと紙をめくる。そして一本目のネタのタイトルが現れ、それと同時にステージの幕も開いた。
――― 『古明地ひっそり』 考案者:キスメ ―――
ステージの上に、さとりの姿は見えなかった。あるのはただ一つ、桶である。
その桶はいつもキスメが入っている物と同じデザインであるが、少しキスメの桶よりも大きい。
そして目をこらすと、その中に……
「…………」
さとりが入っていた。桶に隠れるように顔の上半分だけを出しながら、まさにタイトルのように『ひっそり』とした様子で。
「……っ!」
そして観客達と目が合ったとたんに、サッと桶の中に隠れてしまった。
その様子は、初対面の人と会った時のキスメそのものである。
「…………」
再びそろ~っと桶から顔を覗かせ、また桶の中に戻り……
それを3回ほど繰り返した後、ゆっくりとステージの幕が閉じていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……キスメ!GJだよ!」
ネタが終わると同時に、ヤマメがキスメに抱きつきながらほお擦りした。
「……さとりさんには、絶対桶が似合うと思ったから……」
照れながらも少し得意げな様子のキスメ。
他の面々も、普段見られないさとりの『ひっそり』とした姿を見ることが出来て満足していた。
「さとり様ちっちゃいからねぇ、キスメのコスプレしてても似合うよ~。」
「私、あのさとり様飼いたい!!」
ペット達も本人の目の前で言ったら押しおき確実なことを平気で言っている。
それだけ、先ほどの『古明地ひっそり』が観客達の心を和ませたということであろう。
和んだ空気のまま、燐が紙をめくる。そして、二つ目のネタが開始された。
――― 『古明地ハットリ』 考案者:霊烏路 空 ―――
「てやぁ~!」
どこか気の抜けた掛け声と同時に、ジャンプをしながらさとりがステージに現れた。
今度は忍者服をまとっていて、顔も半分覆面で隠されている。
忍者服は派手なピンク色で、まったく忍ぶ気がないのもポイントである。
「私の名前は古明地ハットリ!この世の悪を成敗するでござるよ!ニンニン!」
シュッシュッ!と手裏剣を観客席に向かって投げるさとり。この手裏剣はゴムで出来ているので当たっても痛くない安心設計。そして手で印を結びながらステージ上を駆けまわり……
「ニ……ニンニン……」
最後にバテたところで、ステージの幕が降りた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「これはないな。」
「うん、ないわね。」
勇儀の言葉にすぐさま同意するパルスィ。
他の面々も言葉には出さないものの、皆同じ感想であった。
「え~!どうして~!!忍者さとり様かっこいいじゃ~ん!」
……お空1人を除いて。
「だってさ、明らかに最後バテてたじゃん。」
「あんなアクティブなのはお姉ちゃんにはムリだよ。腹筋でも3回でバテるのにさ。」
散々な言い草である。さとりの体力の無さはもはや地底中に広まってしまっているのだ。
「うにゅ~……似合うと思ったんだけどなぁ。」
みんなの反応に不満げなお空を残しつつ、次のネタへと進んでいく。
――― 『古明地 ラトリー』 考案者:黒谷ヤマメ ―――
「ぴょ、ぴょ~ん!!」
幕が開くと同時に現れたのは、ヘビの被り物をして足にバネをつけた古明地ラトリーであった。
ぴょんぴょんと叫びながらステージを跳ね回るその姿は、まさにあのド○キーコ○グに出てくるあのアニマルフレンドを連想させる。
「ぴょ~ん、ぴょ~ん!」
始めは照れながら跳ねていた古明地ラトリーであったが、次第にノッてきたのか表情も明るくなり、笑顔を見せながら元気に跳ね回る。しかし……
「ぴょ~ん、ぴょ~ん、……ヘブッ!!」
着地に失敗してつんのめり、顔面から倒れてしまった。
元々、ドがつくほどの運動音痴。こんな不安定かつ激しい動きを継続して行って、コケないはずがないのである。
「ぴょ、ぴょ~ん……」
そして起きあがり、涙目で赤くなった鼻をさすりはじめたところで、ステージの幕が降りた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「よくやった!」
幕が降りるなり勇儀がヤマメに握手をしてきた。他の面々も満足げな表情を浮かべている。
ぴょんぴょんと跳ねるさとりも良かったが、何より彼女達の心を射貫いたのはさとりのコケる姿、そしてその後の涙目である。
「いや~、私はただ面白ければいいと思っただけなんだけどさ、まさかコケるとはね!」
「あたいは絶対にやってくれると思ってたよ!むしろコケなきゃあたいのご主人様じゃない!」
ヤマメの言葉に力強く返したのはお燐。
一番さとりの傍にいる彼女は、さとりがいかに運動音痴であるかを一番理解していた。
椅子から立ちあがるだけでコケる、廊下を一往復しただけ息が切れる、散歩してきただけで満身創痍、などなど……
そして燐は、そんな運動音痴なさとりにいつ何時でも萌えていた。ひ弱でなければさとりじゃない!
燐の愛はだいぶ歪んでいた。
ひとしきり全員が萌えた後で、次の発表者が立ちあがった。
「さて、次は私ね。行ってくるわ。」
「行くって、どこへだい?」
勇儀が訊ねると、パルスィは得意げに、そして意地の悪い笑みを浮かべながら言った。
「私も一緒に参加するのよ。そうじゃなきゃ成り立たないネタだからね。」
――― 『古明地 ぱしり』 考案者 水橋パルスィ ―――
ステージの幕が開く。そこにはセーラー服に身を包んださとりとパルスィが居た。
しかしそれは学園もののほのぼのとした風景……ではなく、
さとりが跪きパルスィがそれを見下すという居様な光景であった。
それは、体育館裏で行われる不良と気弱な生徒との間で交わされるやり取りを連想させる。
「か、買ってきました……」
低姿勢でヘコヘコしながらパルスィにパンを差し出すさとり。
しかし、パルスィは高圧的な態度を崩そうとはしなかった。
「ちょっと……なんなのよこのパンは。」
「や、やきそばパンです……」
「このおバカあああああ!!」
――バシーン!!
パルスィは思いっきりやきそばパンを床に叩きつけた。
さとりにぶつけなかったのはせめてもの優しさか。
「私が買ってこいって言ったのは……うどんパンでしょうがあああ!!」
「ひっ!そんなこと一言も……というかうどんパンなんて聞いたことない……」
「だまらっしゃああい!!さっさと買ってきなさああああい!!」
「か、買ってきますう!!」
さとりは叫びながら舞台袖へと消えていく。残ったパルスィは……
「き、気持ちいい……!」
かつてないほどの、快楽の表情を浮かべていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「最悪だね。」
「最悪です……。」
「最悪だな。」
戻ってきたパルスィを待ちうけていたのは、観客達のキッツい言葉とキッツい視線であった。
あのキスメですら、桶から半分顔を出しパルスィを睨んでいる。
「な、なによ……だって私だってたまには優越感に浸ってみたかったのよ!
いつもいつもさとりにはいじめられてたから、私だって!」
涙目になりながら反論するパルスィ。
しかし残念なことに、彼女を援護する者はこの場にはいなかった。
「はぁ~、しょうがないね。あたいの出番ってとこかな。」
腰を上げたのは燐。ペットの中では一番さとりとの付き合いが長く、
ペットの中で一番さとりを偏愛しているにゃんこである。
「あたいもステージに上るよ。あたいの愛を見せてやるさ!」
――― 『古明地 ぴとり』 考案者 火焔猫燐 ―――
ステージの上には、燐とさとりの二人が立っていた。
先ほどのセーラー服に身を包んでいたパルスィとさとりの時とは違い、
今度はまったく服装は変わっていない。
何をするつもりなのだろう……?と観客が二人に注目し始めたその時であった。
……ぴとっ
なんてことはない、たださとりがお燐にぴっとりとくっついただけである。
しかしそれだけのことなのだが、お燐の表情はエラいことになっていた。
顔はデレてふにゃふにゃになりよだれを垂らし、あろうことか鼻血まで出している。
「さ、最高……!!」
燐に密着したまま一言もしゃべらず動かないさとり。
先ほどのパルスィ以上に快楽の表情を浮かべたお燐。
そんな光景が1分ほど続いた後、ステージの幕は静かに下りていった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ふぅ~、どうだったよ?みんな和んだだろう?」
ほがらかな表情で帰還した燐。しかし……
「「「和むか!!」」」
帰ってきたのは強烈なツッコミであった。
「ええ!?あんなぴとりとくっつくさとり様、和まない方がおかしいよ!」
「確かにそうかもしれないけど、あんたの表情で台無しだよ!」
ヤマメのツッコミにうんうんと頷く他の面々。
確かにぴとりとくっつくさとりは想像するととても萌える姿であったが、隣の燐のだらしない表情が全てを台無しにしていた。
「あー、お前らはダメだ、みんなダメ!!」
突然大きな声をあげたのは勇儀。その言葉にパルスィがキッと睨みながら反撃する。
「どういうことよ、ダメって!」
「みんな軟弱なんだよ。ぱしりとかひっそりとかぴとりとか……違う違う!」
「へえ、じゃあアンタはどんなさとりを見せてくれるのかしら?」
「ふふ、私が強調するのはズバリ、『力強さ』!とくと見ろ、これが新しいさとりの可能性だ!」
――― 『古明地 せきとり』 考案者:星熊勇儀 ―――
「どすこーい!!」
最初の一言で、観客達はど肝を抜かれた。
胸にはさらしを巻いて、腰にはまわしをつけている、それ以外は何も着ていない。
……などと説明せずとも、最初のセリフだけでもうお分かりだろう。
そう、さとりはお相撲さんのコスプレをしている。
「のこったのこった!」
シコを踏むさとり。その光景を見てまず燐が泡を吹いて倒れた。
「どすこいどすこい!」
ツッパリを繰り返す古明地せきとり。
観客席からは、「やめろおお!!」「いやあああ!!」などの悲鳴が飛び交っている。
「うんうん、やっぱり見込みあるよ!今度相撲をしてみたいねえ!」
そんな中、勇儀だけが古明地せきとりの力強い姿を見て、満足げに頷いていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ふう~!いいもんを見させてもらったよ!……あれ?」
古明地せきとりを満喫した勇儀が周りを見渡すと、そこには……
「うう……ああ……」
「うにゅ~……」
「ど、どすこい……」
目を覆いたくなるような惨状が広がっていた。
関取の格好をしてどすこいどすこいと叫ぶさとりの姿は、普段のさとりに萌えていた者達からすればイメージ破壊もいいところ、とてつもないダメージを与えたのである。
そんな中、勇儀以外でかろうじて生き残っていた者がいた。
「……はっ!終わったね。無意識状態に切り替えたおかげで助かった!」
古明地こいしである。こいしは古明地せきとりの「どすこ~い!」の「ど」の部分で、
「これを見てはいけない!」と無意識に察知し、無意識状態へと移行し心へのダメージを軽減したのだ。
こいしもまた、燐と同じかそれ以上にさとりを溺愛しているのだ。
「おっ、こいし。どうだった?古明地せきとりは!」
「うん、オニオンリングおいしいよね。」
「なんの話だい!!」
こいしの中では、古明地せきとりなどは無かった。存在していなかった。そういうことにしたのだ。
そしてこいしはパンパン!と手を叩き
「さて!みんな起きて!私のは見ないと本気で損するよ!」
倒れている面々を起こしていく。
意識を取り戻した燐達は、まだ古明地せきとりのショックから抜け出せないのか、最初の頃のテンションが戻っていない。
空にいたっては
「うにゅ~……もういいよ、帰ろうよ~。」
などと言い出す始末である。
しかしこいしは彼女達のそんな姿を見ても動じなかった。こいしは絶対の自信を持っていた。
自分の出す最後のネタを見せれば、皆テンションがMAXになるに違いないと。
「しょうがないな~。じゃあタイトルだけ先に見せるよ。ほら……」
ぴらり。とタイトルが書かれている紙をめくる。そしてそのタイトルが現れた瞬間。
「うおおおおお!!!」
「こいし様わかってるうううう!!」
「きたあああああ!!」
「うにゅううううううう!!」
げっそりとしていた表情から、一気にテンションMAXへと引き上げられた。
それほど、このタイトルが持つ力は大きかったということだ。
「みんな元気になってなにより!でも本番はこれからだよ!こっから先はr-18指定だ!」
――― 『古明地 ぽろり』 考案者:古明地こいし ―――
ステージの上に立っているさとりの姿は、水着姿。
スクール水着ではない、ビキニ水着だ。しかも、胸の方のヒモはほどけかけている。
これはいつ『古明地ぽろり』になってもおかしくない!
観客達の期待も高まるばかりだ。
「えーい!やあ!」
水着のさとりは1人でビーチバレーごっこをしている。
これだけでもさわやかさがあって絵になるのだが、観客達はそんなものは見ていない。
観客達が期待しているのはただ一つ、『古明地ぽろり』だけだ。
そして、運命の時が……!
来ない。いつまでたっても来ない。
結局そのまま、1人ビーチバレーをしている姿のまま、『古明地ぽろり』になることもなく
ステージの幕はゆっくりと降りていった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「どういうことだい!」
「ぽろりが無かったじゃないの!」
こいしに詰め寄る他の面々、当然だ、古明地ぽろりを期待してずっと見ていたのにぽろりすることもなく終わってしまった、
これでは肩透かしもいいところである。
「まあまあ、落ち着きたまえ諸君。」
しかしこいしは彼女達の姿を見ても動じることはない。
こうなることを予想していたかのよう。その姿にはどこかカリスマをも感じさせる。
「考えてみなよ、実際『古明地ぽろり』があったら、地上から紅魔館の魔女が来ちゃうよ?」
『そこまでよ!』は地底にもしっかりと伝わっているのである。
「で、でも!せっかくのこんな場なんだし……」
「それにお姉ちゃんが『古明地ぽろり』になれなかった理由は、もう一つある。
むしろこっちが最大の理由かな?」
こいしは一息おいた後、ビシッ!と指を指しながら答える。
「お姉ちゃんには……『古明地ぽろり』するほどの胸がないんだよ!!」
――ババーン!!
……どこからか効果音と稲妻が聞こえてきそうなほどの大きな声であった。
そしてその説明を聞いた他の面々は……
「そうか、なら仕方ないな。」
「胸が無きゃぽろりもできないもんね。」
「むしろ胸があるさとり様なんてさとり様じゃないしね。」
物凄く納得していた。彼女達はさとりの貧乳もまた愛していたのだ。
『古明地ぽろり』が無かったのは残念だが、さとりの「のーおっぱい」を再確認できただけでも意義のある劇であった。
先ほどとは一転して、皆がこいしを褒め称える。
和やかなムード。だからこそ、誰も気付けなかった。
いつのまにかタイトルの紙がもう1枚めくられていて、ステージの幕が再び開きはじめたということに……
――― 『古明地 いかり』 考案者:古明地さとり ―――
今回はなんのコスプレもしていない。水着も着ていなければ関取の格好もしていない。
いつも通りの服。しかし、表情はいつも通りではなかった。
一言で表現するならばそう、『般若』。普段のじと目は怒りによりつりあがり、愛らしいショートヘアーはまるでメドゥーサのように逆立っていた。
極めつけは第3の目。その目は、血走りながら観客達を睨んでいた。
「ひいっ!」
この台詞は勇儀のものである。この中で一番力のある勇儀がこんなにも怯えているのだ、
他の面々はその威圧感に立つことすらもままならない。
「好き勝手やってくれましたね……!!今夜は皆さん、トラウマで眠れなくしてあげましょう!」
そしてさとり以外の全員が、さとりの想起弾幕による精神攻撃によってトラウマを植えつけられた。
「せきとりが1人、せきとりが2人……!」
「うわー!古明地せきとりが迫ってくるううう!!」
「どすこいはやめてえええ!!」
さとり以外の全員は心に誓った。もうさとり妖怪で遊ぶのは止めよう、と……
了
「次は何をやるんですか?え?ダウト?……あはははっ、いいですよ?もっともこの私には誰が嘘をついているかすぐ分かりますけどね!1位は確実です、そうですね、もし1位でなかったら私が罰ゲームを受けますよ!じゃあ始めましょうか。ふふ、パルスィダウト!キスメダウト!お空ダウト!ほらほらいいんですか?どんどん私の手札が減っていきますよ?おほほほ!……え?私ダウト?……よくわかりましたね。ま、まあこれから減らしていけば……あれ?こいし、どうしてもうそんな手札少ないの?最後の1枚?……ダ、ダウト!!う、ウソじゃない!?ま、まあ皆さん落ち着いて、さっきのは言葉のあやで……どうして皆さん目が光ってらっしゃる!?ちょ、ま、待って……」
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というわけで1週間後、調子に乗って大口を叩いたあげく1位を逃したさとりに対して、本人が言っていた通り罰ゲームが施行されることとなった。
地霊殿のホールにはトランプに参加していたさとり以外の7人が揃い、急遽用意された特設ステージの前でくつろいでいる。
この罰ゲームのタイトルは……
『古明地さとり七変化』
さとり以外の7人がそれぞれネタを持ち寄り、さとり自身にコスプレや演技をさせるというゲームである。
しかしただネタを持ち寄るだけではつまらないという勇儀の提案で、ネタを出す側にもルールがある。
「古明地ひとり」や「古明地さとし」といった具合に、『古明地さとり』の名前をもじったタイトルのネタを用意しなくてはならない。
そのネタの考案、そしてそれに必要な衣装や道具の用意などのために1週間の期間が設けられた。
そして今日、各々が用意したネタがさとりに渡され、いよいよお披露目となったわけである。
「さあ、始めるよ!最初のネタはこれだ!」
進行役である燐がぺらりと紙をめくる。そして一本目のネタのタイトルが現れ、それと同時にステージの幕も開いた。
――― 『古明地ひっそり』 考案者:キスメ ―――
ステージの上に、さとりの姿は見えなかった。あるのはただ一つ、桶である。
その桶はいつもキスメが入っている物と同じデザインであるが、少しキスメの桶よりも大きい。
そして目をこらすと、その中に……
「…………」
さとりが入っていた。桶に隠れるように顔の上半分だけを出しながら、まさにタイトルのように『ひっそり』とした様子で。
「……っ!」
そして観客達と目が合ったとたんに、サッと桶の中に隠れてしまった。
その様子は、初対面の人と会った時のキスメそのものである。
「…………」
再びそろ~っと桶から顔を覗かせ、また桶の中に戻り……
それを3回ほど繰り返した後、ゆっくりとステージの幕が閉じていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……キスメ!GJだよ!」
ネタが終わると同時に、ヤマメがキスメに抱きつきながらほお擦りした。
「……さとりさんには、絶対桶が似合うと思ったから……」
照れながらも少し得意げな様子のキスメ。
他の面々も、普段見られないさとりの『ひっそり』とした姿を見ることが出来て満足していた。
「さとり様ちっちゃいからねぇ、キスメのコスプレしてても似合うよ~。」
「私、あのさとり様飼いたい!!」
ペット達も本人の目の前で言ったら押しおき確実なことを平気で言っている。
それだけ、先ほどの『古明地ひっそり』が観客達の心を和ませたということであろう。
和んだ空気のまま、燐が紙をめくる。そして、二つ目のネタが開始された。
――― 『古明地ハットリ』 考案者:霊烏路 空 ―――
「てやぁ~!」
どこか気の抜けた掛け声と同時に、ジャンプをしながらさとりがステージに現れた。
今度は忍者服をまとっていて、顔も半分覆面で隠されている。
忍者服は派手なピンク色で、まったく忍ぶ気がないのもポイントである。
「私の名前は古明地ハットリ!この世の悪を成敗するでござるよ!ニンニン!」
シュッシュッ!と手裏剣を観客席に向かって投げるさとり。この手裏剣はゴムで出来ているので当たっても痛くない安心設計。そして手で印を結びながらステージ上を駆けまわり……
「ニ……ニンニン……」
最後にバテたところで、ステージの幕が降りた。
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「これはないな。」
「うん、ないわね。」
勇儀の言葉にすぐさま同意するパルスィ。
他の面々も言葉には出さないものの、皆同じ感想であった。
「え~!どうして~!!忍者さとり様かっこいいじゃ~ん!」
……お空1人を除いて。
「だってさ、明らかに最後バテてたじゃん。」
「あんなアクティブなのはお姉ちゃんにはムリだよ。腹筋でも3回でバテるのにさ。」
散々な言い草である。さとりの体力の無さはもはや地底中に広まってしまっているのだ。
「うにゅ~……似合うと思ったんだけどなぁ。」
みんなの反応に不満げなお空を残しつつ、次のネタへと進んでいく。
――― 『古明地 ラトリー』 考案者:黒谷ヤマメ ―――
「ぴょ、ぴょ~ん!!」
幕が開くと同時に現れたのは、ヘビの被り物をして足にバネをつけた古明地ラトリーであった。
ぴょんぴょんと叫びながらステージを跳ね回るその姿は、まさにあのド○キーコ○グに出てくるあのアニマルフレンドを連想させる。
「ぴょ~ん、ぴょ~ん!」
始めは照れながら跳ねていた古明地ラトリーであったが、次第にノッてきたのか表情も明るくなり、笑顔を見せながら元気に跳ね回る。しかし……
「ぴょ~ん、ぴょ~ん、……ヘブッ!!」
着地に失敗してつんのめり、顔面から倒れてしまった。
元々、ドがつくほどの運動音痴。こんな不安定かつ激しい動きを継続して行って、コケないはずがないのである。
「ぴょ、ぴょ~ん……」
そして起きあがり、涙目で赤くなった鼻をさすりはじめたところで、ステージの幕が降りた。
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「よくやった!」
幕が降りるなり勇儀がヤマメに握手をしてきた。他の面々も満足げな表情を浮かべている。
ぴょんぴょんと跳ねるさとりも良かったが、何より彼女達の心を射貫いたのはさとりのコケる姿、そしてその後の涙目である。
「いや~、私はただ面白ければいいと思っただけなんだけどさ、まさかコケるとはね!」
「あたいは絶対にやってくれると思ってたよ!むしろコケなきゃあたいのご主人様じゃない!」
ヤマメの言葉に力強く返したのはお燐。
一番さとりの傍にいる彼女は、さとりがいかに運動音痴であるかを一番理解していた。
椅子から立ちあがるだけでコケる、廊下を一往復しただけ息が切れる、散歩してきただけで満身創痍、などなど……
そして燐は、そんな運動音痴なさとりにいつ何時でも萌えていた。ひ弱でなければさとりじゃない!
燐の愛はだいぶ歪んでいた。
ひとしきり全員が萌えた後で、次の発表者が立ちあがった。
「さて、次は私ね。行ってくるわ。」
「行くって、どこへだい?」
勇儀が訊ねると、パルスィは得意げに、そして意地の悪い笑みを浮かべながら言った。
「私も一緒に参加するのよ。そうじゃなきゃ成り立たないネタだからね。」
――― 『古明地 ぱしり』 考案者 水橋パルスィ ―――
ステージの幕が開く。そこにはセーラー服に身を包んださとりとパルスィが居た。
しかしそれは学園もののほのぼのとした風景……ではなく、
さとりが跪きパルスィがそれを見下すという居様な光景であった。
それは、体育館裏で行われる不良と気弱な生徒との間で交わされるやり取りを連想させる。
「か、買ってきました……」
低姿勢でヘコヘコしながらパルスィにパンを差し出すさとり。
しかし、パルスィは高圧的な態度を崩そうとはしなかった。
「ちょっと……なんなのよこのパンは。」
「や、やきそばパンです……」
「このおバカあああああ!!」
――バシーン!!
パルスィは思いっきりやきそばパンを床に叩きつけた。
さとりにぶつけなかったのはせめてもの優しさか。
「私が買ってこいって言ったのは……うどんパンでしょうがあああ!!」
「ひっ!そんなこと一言も……というかうどんパンなんて聞いたことない……」
「だまらっしゃああい!!さっさと買ってきなさああああい!!」
「か、買ってきますう!!」
さとりは叫びながら舞台袖へと消えていく。残ったパルスィは……
「き、気持ちいい……!」
かつてないほどの、快楽の表情を浮かべていた。
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「最悪だね。」
「最悪です……。」
「最悪だな。」
戻ってきたパルスィを待ちうけていたのは、観客達のキッツい言葉とキッツい視線であった。
あのキスメですら、桶から半分顔を出しパルスィを睨んでいる。
「な、なによ……だって私だってたまには優越感に浸ってみたかったのよ!
いつもいつもさとりにはいじめられてたから、私だって!」
涙目になりながら反論するパルスィ。
しかし残念なことに、彼女を援護する者はこの場にはいなかった。
「はぁ~、しょうがないね。あたいの出番ってとこかな。」
腰を上げたのは燐。ペットの中では一番さとりとの付き合いが長く、
ペットの中で一番さとりを偏愛しているにゃんこである。
「あたいもステージに上るよ。あたいの愛を見せてやるさ!」
――― 『古明地 ぴとり』 考案者 火焔猫燐 ―――
ステージの上には、燐とさとりの二人が立っていた。
先ほどのセーラー服に身を包んでいたパルスィとさとりの時とは違い、
今度はまったく服装は変わっていない。
何をするつもりなのだろう……?と観客が二人に注目し始めたその時であった。
……ぴとっ
なんてことはない、たださとりがお燐にぴっとりとくっついただけである。
しかしそれだけのことなのだが、お燐の表情はエラいことになっていた。
顔はデレてふにゃふにゃになりよだれを垂らし、あろうことか鼻血まで出している。
「さ、最高……!!」
燐に密着したまま一言もしゃべらず動かないさとり。
先ほどのパルスィ以上に快楽の表情を浮かべたお燐。
そんな光景が1分ほど続いた後、ステージの幕は静かに下りていった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ふぅ~、どうだったよ?みんな和んだだろう?」
ほがらかな表情で帰還した燐。しかし……
「「「和むか!!」」」
帰ってきたのは強烈なツッコミであった。
「ええ!?あんなぴとりとくっつくさとり様、和まない方がおかしいよ!」
「確かにそうかもしれないけど、あんたの表情で台無しだよ!」
ヤマメのツッコミにうんうんと頷く他の面々。
確かにぴとりとくっつくさとりは想像するととても萌える姿であったが、隣の燐のだらしない表情が全てを台無しにしていた。
「あー、お前らはダメだ、みんなダメ!!」
突然大きな声をあげたのは勇儀。その言葉にパルスィがキッと睨みながら反撃する。
「どういうことよ、ダメって!」
「みんな軟弱なんだよ。ぱしりとかひっそりとかぴとりとか……違う違う!」
「へえ、じゃあアンタはどんなさとりを見せてくれるのかしら?」
「ふふ、私が強調するのはズバリ、『力強さ』!とくと見ろ、これが新しいさとりの可能性だ!」
――― 『古明地 せきとり』 考案者:星熊勇儀 ―――
「どすこーい!!」
最初の一言で、観客達はど肝を抜かれた。
胸にはさらしを巻いて、腰にはまわしをつけている、それ以外は何も着ていない。
……などと説明せずとも、最初のセリフだけでもうお分かりだろう。
そう、さとりはお相撲さんのコスプレをしている。
「のこったのこった!」
シコを踏むさとり。その光景を見てまず燐が泡を吹いて倒れた。
「どすこいどすこい!」
ツッパリを繰り返す古明地せきとり。
観客席からは、「やめろおお!!」「いやあああ!!」などの悲鳴が飛び交っている。
「うんうん、やっぱり見込みあるよ!今度相撲をしてみたいねえ!」
そんな中、勇儀だけが古明地せきとりの力強い姿を見て、満足げに頷いていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ふう~!いいもんを見させてもらったよ!……あれ?」
古明地せきとりを満喫した勇儀が周りを見渡すと、そこには……
「うう……ああ……」
「うにゅ~……」
「ど、どすこい……」
目を覆いたくなるような惨状が広がっていた。
関取の格好をしてどすこいどすこいと叫ぶさとりの姿は、普段のさとりに萌えていた者達からすればイメージ破壊もいいところ、とてつもないダメージを与えたのである。
そんな中、勇儀以外でかろうじて生き残っていた者がいた。
「……はっ!終わったね。無意識状態に切り替えたおかげで助かった!」
古明地こいしである。こいしは古明地せきとりの「どすこ~い!」の「ど」の部分で、
「これを見てはいけない!」と無意識に察知し、無意識状態へと移行し心へのダメージを軽減したのだ。
こいしもまた、燐と同じかそれ以上にさとりを溺愛しているのだ。
「おっ、こいし。どうだった?古明地せきとりは!」
「うん、オニオンリングおいしいよね。」
「なんの話だい!!」
こいしの中では、古明地せきとりなどは無かった。存在していなかった。そういうことにしたのだ。
そしてこいしはパンパン!と手を叩き
「さて!みんな起きて!私のは見ないと本気で損するよ!」
倒れている面々を起こしていく。
意識を取り戻した燐達は、まだ古明地せきとりのショックから抜け出せないのか、最初の頃のテンションが戻っていない。
空にいたっては
「うにゅ~……もういいよ、帰ろうよ~。」
などと言い出す始末である。
しかしこいしは彼女達のそんな姿を見ても動じなかった。こいしは絶対の自信を持っていた。
自分の出す最後のネタを見せれば、皆テンションがMAXになるに違いないと。
「しょうがないな~。じゃあタイトルだけ先に見せるよ。ほら……」
ぴらり。とタイトルが書かれている紙をめくる。そしてそのタイトルが現れた瞬間。
「うおおおおお!!!」
「こいし様わかってるうううう!!」
「きたあああああ!!」
「うにゅううううううう!!」
げっそりとしていた表情から、一気にテンションMAXへと引き上げられた。
それほど、このタイトルが持つ力は大きかったということだ。
「みんな元気になってなにより!でも本番はこれからだよ!こっから先はr-18指定だ!」
――― 『古明地 ぽろり』 考案者:古明地こいし ―――
ステージの上に立っているさとりの姿は、水着姿。
スクール水着ではない、ビキニ水着だ。しかも、胸の方のヒモはほどけかけている。
これはいつ『古明地ぽろり』になってもおかしくない!
観客達の期待も高まるばかりだ。
「えーい!やあ!」
水着のさとりは1人でビーチバレーごっこをしている。
これだけでもさわやかさがあって絵になるのだが、観客達はそんなものは見ていない。
観客達が期待しているのはただ一つ、『古明地ぽろり』だけだ。
そして、運命の時が……!
来ない。いつまでたっても来ない。
結局そのまま、1人ビーチバレーをしている姿のまま、『古明地ぽろり』になることもなく
ステージの幕はゆっくりと降りていった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「どういうことだい!」
「ぽろりが無かったじゃないの!」
こいしに詰め寄る他の面々、当然だ、古明地ぽろりを期待してずっと見ていたのにぽろりすることもなく終わってしまった、
これでは肩透かしもいいところである。
「まあまあ、落ち着きたまえ諸君。」
しかしこいしは彼女達の姿を見ても動じることはない。
こうなることを予想していたかのよう。その姿にはどこかカリスマをも感じさせる。
「考えてみなよ、実際『古明地ぽろり』があったら、地上から紅魔館の魔女が来ちゃうよ?」
『そこまでよ!』は地底にもしっかりと伝わっているのである。
「で、でも!せっかくのこんな場なんだし……」
「それにお姉ちゃんが『古明地ぽろり』になれなかった理由は、もう一つある。
むしろこっちが最大の理由かな?」
こいしは一息おいた後、ビシッ!と指を指しながら答える。
「お姉ちゃんには……『古明地ぽろり』するほどの胸がないんだよ!!」
――ババーン!!
……どこからか効果音と稲妻が聞こえてきそうなほどの大きな声であった。
そしてその説明を聞いた他の面々は……
「そうか、なら仕方ないな。」
「胸が無きゃぽろりもできないもんね。」
「むしろ胸があるさとり様なんてさとり様じゃないしね。」
物凄く納得していた。彼女達はさとりの貧乳もまた愛していたのだ。
『古明地ぽろり』が無かったのは残念だが、さとりの「のーおっぱい」を再確認できただけでも意義のある劇であった。
先ほどとは一転して、皆がこいしを褒め称える。
和やかなムード。だからこそ、誰も気付けなかった。
いつのまにかタイトルの紙がもう1枚めくられていて、ステージの幕が再び開きはじめたということに……
――― 『古明地 いかり』 考案者:古明地さとり ―――
今回はなんのコスプレもしていない。水着も着ていなければ関取の格好もしていない。
いつも通りの服。しかし、表情はいつも通りではなかった。
一言で表現するならばそう、『般若』。普段のじと目は怒りによりつりあがり、愛らしいショートヘアーはまるでメドゥーサのように逆立っていた。
極めつけは第3の目。その目は、血走りながら観客達を睨んでいた。
「ひいっ!」
この台詞は勇儀のものである。この中で一番力のある勇儀がこんなにも怯えているのだ、
他の面々はその威圧感に立つことすらもままならない。
「好き勝手やってくれましたね……!!今夜は皆さん、トラウマで眠れなくしてあげましょう!」
そしてさとり以外の全員が、さとりの想起弾幕による精神攻撃によってトラウマを植えつけられた。
「せきとりが1人、せきとりが2人……!」
「うわー!古明地せきとりが迫ってくるううう!!」
「どすこいはやめてえええ!!」
さとり以外の全員は心に誓った。もうさとり妖怪で遊ぶのは止めよう、と……
了
もう一度、だ…!
そこらへんのソファとかベッドを良い笑顔でぼいんぼいんするさとり様たまらないです。
様々なさとりの変化、それに対する皆のリアクションっぷりにくすりと来たのでコメさせてもらいました。
ほんとにあなたのSSは変化球が多いww
ポロリはないよ!
じゃあ、あえて私はパシリを!
よく考えられている。構成がいいですね。
ありがとう、ありがとう
あと桶に入ったさとり様持ち帰りたい。
いかん、裏になっちまうw
古明地ペロリでお燐をなめまわすさとり様をお願いしますw
たとえ貧乳だとしても!
ビキニ+貧乳で逆ポロリを期待してたがソソワなら仕方ないな。
リクエストに応えるさとりん優しいな