妖怪火車たる彼女が死体を集めるのに単なる種族的な特性の他に純粋な死体愛好、ネクロフィリア的な趣味が無かったわけではない。内臓の質感や肉体の性質の美。血液が命を含んだように大地に流れ出ていく様。
更には見ている器官が自分の腹の中にも内蔵されてまさにただ今も生命維持の為に動いているのだという、何だか高い所から落ちているみたいな、内臓が浮きあがる、こそばゆい、あの奇妙な感覚を楽しむのはとても好きだった。
ところが彼女の死体好きはそういった普通の死体好きと性質を同じにしても数段高いレベルまで昇っていた。
曰く死体は霊魂とは違って自分の意思を表現する能力を持っている。魂の無い抜け殻としての肉体でさえあたかも反射のようにそういう機能を持つものであるのに悪霊が従えられれば尚更。
「聞いてください妖怪様世間は私を自殺と思っていますがそうではないのですいざ自殺しようとした時後ろで説得する風をしていた友人に突き落とされたのですかれは好奇心から殺人の経験を人生の一点に刻みつけようとしたのでありましょうがそれで私が死んでしまうのでは私の一生とは一体一篇の詩程の価値すらもあるのでございましょうか無いのでございましょうかどうなのでしょうか」
「あああああああああうううううううう……復活せよ復活せよ復活せよ復活せよ」
「……貴様だけは絶対に許さんン……儂を裏切りおって…………」
「暗い、寒い、怖い。猫妖怪よ、どうして私死んでいるのにお前は四肢に力漲らせ飛び跳ね回る命が有るの足が有るの私もう終わってしまったというのに」
こうして死体の声を自在に聞いていた。火焔猫、火車という妖怪の別に持つ特性がこれであった。
詳しく聞いてやってどうこうしよう、思いを晴らしてやろうなどという発想は彼女には全く無い。
そういう慈善事業じみた勧善懲悪目的の同族とて中には居るやも知れぬというか、歴史上には居たやも知れぬが結局たかが猫の分際で正義の味方を試みようものならすぐに破滅してしまうのが見えた落ちである。
他人の為の自殺行為よりは自分の目的に合致させた方が楽しいのが常だ。
死体のただひたすらに吐き続ける恨み辛み、怨嗟の声にほとんど急き立てられるようにして荷車をかっ飛ばすのが彼女には一番の快楽なのだ。
生来に置いて火焔猫とは、かくも邪悪な特性を持つ獣妖怪であった。
「お姉さんお姉さんお姉さんお姉さんお姉さん、俺は今じゃあ首がねじ曲がり、顔にも大きな傷が有る。肌はべったり髪はごわごわになっちまって見る影もない。その上自分で見た事はないが、今は背骨が背中から見えるらしい。
俺は昔は色男、女を何人もひっかけてさあーそれはもう楽しい人生楽しい暮らしだった。それが逆に悪い女に引っかかっちまった時にはシンガポールかマレーシアかどっかからの流れ者に六万で頼んだもんだよ。
人の一生なんて、案外すっと何かが過ぎ去るように終わってしまうもんなんだよなあ。懐かしい。思ってなかったな。まさか自分が終わる側に回るなんてさあ」
多くの死体は聞いてやるとよく喋った。火車の他に話し相手も無い。きっと黙っていれば、孤独でおかしくなるのだろう。
「殺したり殺しを頼んだりする人に、死んでいく人を自分と同族とはっきり認識している人とそうでない人が居るって聞く。
恐ろしいのは、そして正しいのは後者じゃなくて前者なんだ。自分があっさり人を殺すって事は、自分もあっさりと殺されるかもしれないって思えるって事だぜ。彼にとって世界は狩り場でなくて戦場。きっといつまでも殺しを止めはしない。
俺ァ生来他人を道具と思う性質だったからずっと殺される恐怖なんか無かったんで、結局そういう境地にゃあ至れなかったがよぉ」
「やりたい事だって沢山有ったよ! それが何にもやらない内に何にもできない肉と骨の塊にやっちまうなんてよォ。
……俺のやりたい事ってなんだったっけ。俺は一日一日を勝手気ままに食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして」
血流が通わぬうちに脳髄が少々イかれているので言語の展開に障害が起こる事が有る。
ましてやこの死体などは頭が割れて白い頭蓋骨の断面が一部剥き出しにされていた。
萎んだ肉から生える細い髪こそは変わらず安らかである筈の男の表情を、一層幽鬼のように見せるのだった。
「食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食い食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食い食い食い食い食い食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶ食い食いして食いつぶして食いつぶして食い食い食い食い食い食い食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食い食い食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食い食いつぶして食いつぶして食いつぶして食食い食い食い食い食い食い食いいつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食い食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食食いいつぶして食食い食いいつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食い食い食い食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食い食い食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食食いいつぶして食いつぶして食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食食い食いいつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食い食い食い食い食い食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食いつぶして食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い食い」
話し相手の取捨は当然話して楽しいかどうかに関係する。但し人生経験がいかに豊富でも妖怪からしたら関係ない。せいぜいが知れている。ただ彼女が話す時一番に面白がるのは『自分もいずれはこうなるのだ。哀れな死体に身を落とすのだ』という感覚に他ならない。
欠損した死体や凄惨な死に様のそれを好むのも全てその為だ。
伝染病で体がぶくぶくに膨れて、最後には溶けて死んでしまったと思しき人が最近では一番のお気に入りだ。皮膚から消化管、肝臓に血管や肺胞と外性器まで何もかもぐずぐずに溶けてしまって、一体体性感覚はどうなっているのだろう。聞こえているのか聞こえていないのか、ほとんど呻くばかりで訊ねようにも返事が来ないのだが。その為にそれが男なのか女なのかもわからないのだ。
とかく死という物は必ず訪れるが反面普通人から人へ伝染しない。人から妖怪へはましてや。決して事故を起こさないジェットコースターやバンジージャンプのように火焔猫の心を沸き立たせたのが、こういう視点に立った死者との会話であった。
更には自分が今彼ら彼女ら死んだ人とは違ってまさに生きているという認識は、自分が地に足を付けて立っている喜びとほの暗い優越感すらこの身にもたらした。
ある日集めてきた中に、どうにも喋らぬ死体が有った。
これはほとんどはじめての経験だった。例え唖であったとしてさえ精神の言葉は意思に従って形をなす筈だ。声帯が損害されているのなんか良くある事、首から上も無くたって最悪支障が無いくらい。それでも元気に喋ってくれたものだ。
一度経験したのには、食事から死者の声が伝わってきた事が有る。食肉に加工された姿ながら……脳髄を失い論理の組み立てはできないにせよ、彼は自分が一人の天狗の陰謀によって河童の食肉加工機に突き落とされた、恨みが有るという旨を繰り返し語った。猫はよく聞いてやった。信条上決して告発したりはしないのだが。
今度の語らぬ死体は禿頭、一切の体毛の無い男で、両手の指が六本ずつ有る以外は正常であった。
沢山拾ってきたうちにまぎれていたものだから何処で取ってきたかどうにも思い出せなかったけれど、決して作り物の死体ではない事は確かだった。殆ど死体の専門家のようなものであるから、そのくらいは断言できる。
何故そういう現象が起こるのかわからないという状態は案外相当に強い恐怖を惹起するものである。こと自分のよく知る筈の分野においては。
人や全ての知性は、全容や真相を解明したがる。分類をしたがる。
究明するという行為を辞めてしまうのはすなわちこれまでの安寧と信じてきた認識が永遠に失われ、これまでとはまったく異なった意識でこの世界をとらえ、生きていかなければならなくなるという事だ。その物事に頭を垂れるという事だ。
そして怪談話の伝播に現れる通り、誰も恐ろしい物については饒舌になるものだ。喋る事は定義する事でその度不安を逓減するし、人が怖がる姿を見るにつけ自分は冷静になれるものだ。
火車の主たるさとり妖怪の耳にその死者の事が入るのに時間を要さなかったのは当然であろう。
さとり妖怪と火車の力はどちらも魂に近しい物をを読みとるという意味で本質的に似通った部分が有った。
持ちかけたのはさとり妖怪の方であった。
二人の力は簡単に融和し、複合させて使う事が出来た。
さとり妖怪が心を読む作業に入ると、成程全く読ませてくれない。偶に微小なノイズが混じるが、何のことやらわからない。
不毛な試みを続けていると、やがて彼女は己の精神が強い力で引きづり込まれるのを感じた。
誰かの心を読んでいる内にその人の心象風景の中に居る自分を発見する事は、さとり妖怪からしたらままある事だ。
今までに何度か経験した所によれば、妖怪はともかく人間の、特に大人の心象風景とはどこか奇怪な連結や場面転換は有るものの一つ一つの構造は現実的で、ある種整然とした感さえ齎すものであった筈だ。
しかしながら今度の風景はそういう秩序とかとは全く対極に位置するものであった。
心を読もうとしても要領を得なかった理由が簡単に立ち現われてきた。
この世界から人間世界に通用する言語が湧きあがる事は無いであろうという事だけは容易に想像された。
地面はけして平坦でなかった。地平線は彼方で印象派の作品のようにぐにりと曲がって交差しているかのように見える。海……水球が空に浮かび波打っている。遥か遠くに伸びて、水平線と繋がっている。
単純に極彩色という訳ではない。首を回せばその度全く違う色の世界が見えるばかりか、くすんだ緋色であった鉄塔が右を見て左を見ればぎらぎらと金属光沢を放ち、瞬きをすれば消滅してもう一度の瞬きで今度は同じ場所に赤く染まった、人間の左半身ばかりを高く積んだ山が。その遥か向う、微かに植物の腕が天空から振り下ろされるのを見た。
空を見れば茶色であったり、明るすぎて色がわからなかったりいずれにせよ至極流動的であった。鳥の死骸が張り付いて浮いていた。体液は垂れ流しになってぐるぐると渦を巻く。地に水たまりを作る。岩礁のようになった部分から、猿の手首から先に八本の足を付けたような姿の虫が、這い出でてくる。
同じく宙に浮かんでいるのは電線だ。びいんびいんと五月蠅く音を鳴らしては、電信柱を探して歩く。
眼球を集めて球状にしたものが、気球のようにその周りをふうわり漂ってぎょろりと一斉にこちらを睨んでくる。
白色のシルクハットは滝のように壁を流れ、良く見ればこれにも二本哺乳類の足が付いているのである。遠くに居れば波の一粒子のようであるが、今は一つがすぐ近くに立っているので際限なく大きく膨らんで行く。
視界がいきなりスクリーンのように縦横に規則正しく並ぶ能面のような人の顔で覆い尽くされたかと思うと、すぐに消えた。
ドロドロに溶けた巨人たちが笛や太鼓を叩いて行進するビジョンが見える。それでようやく思い至った事にはこの世界には音が無かった。焼死体が普通の関節ではできない珍妙なポーズを取って空間で回転しているのが見えた。
自分の息が切れている事に気が付いてみると、地面に黄色の線で描かれた八の字型のトラックを走っていた。何かに追われているかのように必死で。止まれないのを不審に思いふと下を見る。足首から先がぬめぬめとタコの皮膚のような物体でできた、自転車のタイヤに変わって回転をやめない。
トラックはいつしか線路になり、機関車になっている自分を発見する。熊のぬいぐるみの雨が降る。明るくなったと思えば色彩調整のめちゃくちゃな大聖堂に有って自分は天に剣を突き出す全面赤色、舌と同じ素材で形成された女神像だ。
宝飾は全部が全部、何故だか強い怒りというものを伝達させる姿をしていた。それをずうっと上に追って行って、天蓋高くにこの地ではじめて、金色にはっきりと輝く人間の文字を目にした途端妖怪は、この自在なる造物主の如き存在が結局ただの一人の人間であった事をようやく思い出し、かつては正常な精神を有していたのではと疑った。同時にすなわち自分はもう二度と帰れないのだという事実を
「……とり様! ……様! ! ! さとり様! 起きてください! 大丈夫ですか、さとり様」
意識を取り戻せば蜘蛛の巣の張った地霊殿の天井を背景に、猫妖怪が自分の身体を揺り動かしているのを見た。
彼女の慌てた表情は目の端に涙すら浮かべて。
さとり妖怪は少々落ち着きながら考えようとする。そういえば私が人の心を深く読んで、意識をなくすのをこの子は見た事が無かったのだっけ。普通よほど没頭しない限り相手の心の中の世界に入り込む事など無いから。
するとこの子からは心を読んでいる最中に私が居眠りをして、いくら呼びかけても反応が無くて心配したと、そういう認識なわけか。心を読めば連日の激務が祟ったのかしらなどと実に的外れな心遣いをかけてくれている。
「……さとり様? 何かわかりました?」
傍に鏡が転がっていた。見れば顔面は蒼白である。まだ息も荒い。
……ところで人の心を読める彼女は、読んだ事について決して偽らない事を鉄の掟にしていた。
無用なトラブルを避ける為。たいてい面倒な事になるから。それにどっちかに決めておけば、考えなくて良いし。
妖怪は聞かれて、肩で息をしながら、力無く、口を開いた。
「何も」
彼女が心を読んだ事に関係して吐いた、実にはじめての嘘であった。
妖怪はすぐに火車に命じて、遺体を火焔地獄に放りこんで廃棄させた。自分もその場所に立ち会った。理解の埒外の何かを見た時恐怖を排除する術は、理解を試みる事と、それを破壊するか放棄、逃走して、二度と出会わぬようにする事しか無いからだ。
だが、入れ物ごと燃やしてしまって完全に逃げ切った筈なのに、それから随分経った今となっても、一体あの存在は何だったのだろうかと、さとり妖怪は時々考えるのだ。
言いわけのように思うのは、ただの人間の心であっても、それが何の現実にも剪定される事無く肥大し拡散すれば一般にあのような世界を生み出すものかもしれないな、という説得力の無い仮説である。
それにしてもそんな状態で成人まで生きている事等可能なのか……。
……あの空、大地、海、創造物達のおどろおどろしい極彩色を強く思うにつけ、さとり妖怪は信じがたい事ながら、『あの世界が現実に有るのでは』という恐怖を思い抱かずには居られないのだ。
人間の夢や精神世界で無から生み出された出来事とすれば、あれに色は無い筈であるし、何かの象徴であるとすれば色が変わる事など無い筈であるから。
馬鹿げていると思いつつも決して否定できない驚愕は、彼がかつて人なりし頃現実かそれに準ずる場所に有るあの土地に、奇怪な虫を友とし死肉を兄として、独り長きに渡って暮らしていたのではないかという……。
投稿する場所を少々間違えている気がしなくもないですが……
なにはともあれファンです。応援しています。
後半にはその勢いがさっぱり無くなってしまったのが残念
しかし後半も嫌いではないので80点
お燐と死体の一対一は素敵ですね。お見合いみたいで。
俺には理解が追いつきませんでした。ただ、凄かったです。
本来日常的には死体というものは恐ろしい、タブー視されるようなおぞましさを内包するものです。
そういう意味で燐の仕事は東方という世界観では目立たなくとも、かなりタブーであり同時に恐ろしい。
そういった点をふまえ、覚りを使ってストーリーを構築している。素晴らしいです。
賛否両論でしょうが、私の心には強く響きました。
素晴らしい作品をありがとうございました。
このお話も、こんな世界を描けるあなたのセンスも。
意味のわからんものからは100点置いてさっさと逃げるが吉。
妖怪なのにそのえぐさグロテスクさを素直に受け入れられました。
そっちの方がマシって事なのか、何を書きたくなったのか。
本当に怖いのは、何なのでしょうな……