「何してるのさ、ご主人」
「え、あ、ナズーリン!?い、いえ、何でもありませんよ!?」
こそこそと、何かを探すかのようにご主人が腰をかがめているのを見て、思わず声をかけてしまった。
案の定、焦ったようにして返すのを見れば、何かを起こしたことくらい容易に想像できる。
本当にこの方はよく弟子にしてもらえたなぁと思う。
一体何をしでかしたのか、とりあえず話を進めることにしよう。
「じゃあ何でそんな腰を低くしてるんだい?それに部屋だって散らかってるじゃないか」
「こ、これはですね。えっと、その~…あれです!動物の気持ちになって、動物達はどんな視線から世界を見ているのか見ていたのですよ。新しい世界がみえるかもしれませんからね!」
「部屋を散らかす理由は?」
「それは…」
「正直に言ったらどうだい?嘘なんてついちゃいかんだろう。お弟子さんがそんなんじゃそのお師匠様の品格が疑われるよ」
私は無意識に言葉責めをする傾向にあるらしい。
以前もご主人と話している時に気が付けばご主人が涙目になっていたことがあった。
「ナズーリンのばかぁ!」
なんて言われて、聖の元へかけて行ってしまった。
その後、聖にちょっとばかりお説教をさせられた、なんで?
別に私はご主人の事を思って話していただけなのに…無意識とは怖いものだ。
そして、ふとご主人の方を見れば、これまた目が潤んでいる。
肩をぷるぷると震わせている。
おやおや…こりゃまたやっちまったようだ。
「人里でこの前こっそりと買ってきた茶菓子が無くなっているんです。楽しみにしてたのに…」
私は思い当たる節があった。
以前、この部屋に入った時に、綺麗な箱の中に可愛らしい茶菓子が入っていた事を思い出す。
でもあれは…
「あぁ、あの箱に入ってた奴だね?あれなら私が頂いたよ」
「…え?」
「いやだって、ああいうお菓子って言うのは消費期限があるわけで、早めに食べないとダメになってしまうのさ。それで、その期限がもう迫ってたから頂いたよ。何も言ってなかったっけ?」
肩だけでなく、全身がぷるぷると揺れ始めるのが分かる。
こりゃやらかしたなぁと反省するも、もう遅かった。
「ナズーリンのばかぁ!!」
部屋の襖を思い切り開け、そのまま聖の部屋めがけて一直線に走って行った。
どたどたと走り、うわぁああん!と声を上げながら走っていく。
それをなんだなんだと言わんばかりに顔をしかめながらぬえが姿を現す。
「今度は何やったの?」
「いや、ご主人が残しておいた茶菓子が消費期限近付いてたから黙って食べただけさ」
「…食べ物の恨みってのは怖いね」
「…まったくさね」
しばらくぬえと雑談に花を咲かせていると、聖の部屋の襖が開く。
普段通りの表情の聖と、肩を思い切り下げてとぼとぼと歩くご主人の姿があった。
「ナズーリン。星から話は聞きました。…まぁ、星も星ですけど、ナズーリンも悪いことには変わりありません。ちょっと部屋に来なさい」
「…はい」
また説教が始まるのだ。
…今度はこんなことがないように気を付けなければ。
それはそうと、聖が封印され、今回無事に聖が解放された。
その解放に至るまでのご主人の姿というものはかっこよかったものだ。
「私はヴィシュラヴァナの弟子、寅丸星。聖の理想の世界を今一度復活させるために、立ちあがりましょう!」
その時のご主人の表情は非常に凛々しく、なんとも尊いものに感じた。
「宝塔の輝きが、聖の解放への導きとなるでしょう。さぁ、飛倉を集めにいきましょう!」
「で、ご主人。その宝塔はどこさ?」
「え?」
…あ、そんなことなかった。
思い出してみれば、どこか抜けているご主人の姿しか思い浮かばない。
どこかになくす度に、私にすがりついてはおねだりする。
全くもって、こまったご主人だ。
気が付けば説教も終わっていた。
正座していた為か、少しばかり足が痺れる。
「星、どうしたんです?もういいんですよ?」
「いえ、あの…痺れて立てないんです」
「全くもう…」
流石にそれには聖も少し呆れた表情を浮かべていた。
そんなに長い間説教をしていたわけでもないのに、立てないほどに痺れてしまうとは情けないご主人だ。
正座を崩し、楽な姿勢を取ってしばらく経ち、ようやく立ち上がる。
「星」
「なんですか、聖」
「もうちょっとしっかりとしてくださいね。あなたは毘沙門天様のお弟子なんですから」
「う…、はい」
そして私とご主人は聖の部屋を後にした。
今思い返せば、ご主人と出会ってからどれくらいたったのだろうか。
聖が封印されるずっと前に星の監視役として一緒にこちらにきた。
当時の星はどうだっただろうかと少しばかり思い起こしてみる。
「ご主人。ご主人は聖の事をどう思っている?」
「そうですね…。非常に心の優しい方で、あたたかい母親のような存在ですね。とても素晴らしい理想の持ち主だと思います」
「あら、嬉しい事を言ってくれますね、星」
「ひ、聖様!?」
「様はいらないの。みんな平等、様なんてなくていいのよ」
「そうですか、すみません…聖」
「よろしい」
聖がそれに笑顔で返していて、ご主人は照れて頭を掻いていたのを思い出す。
その当時は、様と付けずに呼ぶのに慣れず、何度も聖に指摘されていた。
…なんと懐かしい事だろうか。
聖が封印されて、またこのような日々を送る事が出来るのは嬉しい。
ふとご主人の方の顔を覗き込む。
この顔も、昔と全く変わってなかった。
「ねぇご主人」
「なんです?」
「平和だねぇ」
「…えぇ、平和ですね」
縁側に座り、青空を仰ぐ。
大きな雲がゆっくりと流れて行くのが見える。
優しい春の風が、そっと髪を揺らした。
あの頃の皆がいるこの場所で、温かい風を感じることが出来るのが幸せだった。
そして、いつまでも変わらないご主人の姿。
「変わらないね、ここから見る眺めも」
「そうですね。何も変わってません」
昔からよくここで二人並んで話し合ったものだ。
他愛のない話も、ご主人の悩みも、喧嘩だってしたりした。
そのたびに見えるここからの風景は、頭の中に強く残っている。
「ご主人は私の事をどう思ってるんだい?」
私は何故かこんなことを口走っていた。
その突然の質問に、星は何も言うこと無く、そうですねぇと呟く。
何か思い出すようにして、少しばかり空を仰ぐ。
何を考えることがあるのかと思うが、返事を黙って待つ。
「あなたは私にとって本当に大切な存在です。あなたがいなかったら今の私はなかったでしょう」
「何を言ってるんだい。私がいなくてもご主人は立派じゃないか。影でずっと聖や私達を支えてくれているのはみんな知ってるさ」
「何言ってるんです。それはあなた達がいるから、みんなの為に尽くそうと思うからですよ」
改めて、ご主人は優しい方だと思った。
そりゃあ、色々無くしたり、忘れたりする面だってある。
すぐに泣きそうになるし、少しいい事があると表情をころっと変える。
だけど、そんなご主人だからこそ、みんなに愛されるのだ。
私はそんなご主人が大好きだった。
「じゃあ、ナズーリンは私の事をどう思ってますか?」
逆にご主人が私に問いかける。
私は考えることも無く、即答する。
「ご主人は、失敗はするわ、無くしたりするわ、忘れたりするわでおっちょこちょいだね。昔からずっと変わらない」
「…」
ご主人が何も言わないので、私は続ける。
「今日みたいにすぐに泣きそうになるし、小さなことで頬緩めるし、なんというか落ち着きがないのも昔から変わってないね」
「……」
黙って聞いてくれているご主人。
「でも、本当に優しいし、私にとっての宝物だよ、ご主人は」
ふとご主人の方を見ると、肩を揺らして目に涙をためている。
涙を流す程嬉しかったのだろうか。
やっぱりこういうところに優しさを感じる。
そんなご主人に優しい笑みを送ろうとした、瞬間だった
「ナズーリンのばかぁ!!」
「ぇええええええ!?」
どうやら無意識のうちにまたご主人を傷つけるような事を口走っていたようだ。
発言には気をつけなければいけないなぁとつくづく思う春の昼下がりだった。
一日に二回もお説教なんて勘弁だ。
私は、ご主人の背中を優しく摩って、慰めた。
つかず、離れず、踏み込まず、でも離れず。
いつまでもそんな関係でありたいものだ。
…まぁ、ちょっと難しいかもしれないけど。
何年経ってもいい。
少しずつ、互いの絆を深めていければいい。
だから今は…
「泣くんじゃないよ、ご主人。めそめそしてちゃ毘沙門天様に笑われるぞ?」
「うぅ…」
ご主人に笑顔でいてもらうために、必死で慰めることに徹するとしよう。
いやマジでニヤニヤが治まらない…
でも、ただそれだけで物語としては何を書きたいのか読めて来ませんでした。
ただそういう関係です、だけではなくて、なにか物語があった方がより良いと思います。
決起した星ちゃんが格好良かっただけにその後の落としっぷりがもうwww
「ナズーリンのばかぁ!!」星ちゃんそこ感激するところーーー!!!いやあ、マジ笑ったwww
評価ありがとうございます。
前々からへたれな星を書いてみたいと思っていたので、今回は楽しかったです。
ニヤニヤ…。
>2 様
評価ありがとうございます。
今回は物語とかまったく考えてなかったですね…すみませんでした。
自分はどの作品にも言えるんですが、これといって伝えたいものって言うのが弱いので、今回もいつものように書いていたのですが…特に駄目だったのでしょうか。
今度は意識して書けるように頑張っていきたい限りです。
>ペ・四潤様
評価ありがとうございます。
毎度のことながら誤字指摘ありがとうございます…。
星はやっぱりなんというか出来る子なんだけど、抜けてるところがあるから更に可愛いんだと思うんです。
この主従が一番好きかも知れません
評価ありがとうございます。
へたれてる星ちゃん可愛いよね!
評価ありがとうございます。
たまには、ですからね。
次からはストーリーとか考えていけるよう、頑張っていきたいと思います。
評価ありがとうございます。
人によって感じ方が違うんですね…。
まぁ、万人受けのものを書くなんて不可能ですからね。
嬉しいお言葉です。
でも、駄目な子ほどかわいいと言うし、まぁ迷惑って訳でもないんだけどね?
「うわーん、ナズえもーんっ!」
……やれやれ、今度はどんな難題を持ち込んできたんだろうねぇ。困ったしょう太君だよ、ふふっ。
みたいな情景が頭に浮かぶ私は、疲れているのでしょうか。
評価ありがとうございます。
なんという想像力…!
その想像力を生かしたSSを読んでみたいものです。
評価ありがとうございます。
タイトル付けるときに少し躊躇いましたわ。
相変わらず、ほのぼのとした作風が冴え渡っていますねぇ。
流石です!!
評価ありがとうございます。
へたれた星可愛いよぅ。
そのコメントから察するに、私の作品を読んでくださっているのでしょうか。
ありがたい限りです。
あなたの初投稿から読ませて頂いておりますw
特に黒猫シリーズは大好きです!!
いつも名前を入れずにコメしてきたので、これからは貴方の作品に限り名前を入れるようにします。
どーゆー名前にするか、まだ決めてませんけどw
本当に貴方の作品は優しい雰囲気で、キャラへの愛情が溢れてて大好きです。
嬉しすぎて涙出そうですw
黒猫好きって聞いてどのコメント書いてくれたか特定できましたわ。
私の作品に限り名前付きとは…感謝感激です!
嬉しいお言葉、ありがとうございます。
貴方のような方々がいるから私は頑張れます。
これからも皆様に楽しんで頂けるような作品を書いていきたいです。
日曜日にこんな話が読めて良かったな……癒されたゼ
評価ありがとうございます。
才能は申し分ないけど、泣き虫な星ちゃん…くっ!!
これで今週も乗りきって行きましょう!
…何様だ俺
評価ありがとうございます。
そういう星ちゃんもいいなぁと思った結果です。