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注:当作品は、複合モノであり東方以外のパロディも含みますので、それが苦手な方はご遠慮ください。
また、メタ作品でもありますので、それが苦手な方もご遠慮ください。
この作品では、キャラ崩壊が起こっています。特に幽々子様や妖夢、魔理沙に対し、特別な愛情を抱いていたり、
「自分の中にある幽々子様、魔理沙意外は認めない」と思う方は、絶対に読まないでください。
非常に不愉快な気分になる可能性があります。
また、一部スカトロ的な演出があります。これも苦手な方はご遠慮ください。
この作品は非常に人を選ぶモノだと認識しております。読者さまの許容範囲と相談して、読むかどうかを判断
してください。
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「なんておぞましい子。死んでしまえばいいのに」
養母が私を罵倒する。今日も何も食べさせてもらえなかった。
「チービ、チービ!」「気持ち悪いんだよ、化物ッ!」
村の子供たちが石を投げつけてくる。身体中青アザだらけだ。
それでも私は笑っている。
なぜなら、幽々子さまはいつも笑顔だったから。だから、たくさんの人に好かれている。嫌われ者の私は、少しでも幽々子さまのようになりたくて、でもできなかった――。
私は、殺された。
誰に殺されたかは、わからない。肥溜めの前で肥料を取っていたら、落とされてしまった。汚物の中。頭から真っ逆さまに。
必死に足掻いたけれども、糞のこびり付いた壁はよく滑り、体を持ち上げることができなかった。悪臭が顔を覆い、どろりとした感触に吐き気を催す。
やがて汚物が鼻や口から進入してきて、呼吸ができなくなった。いつも空腹だったお腹の中に、うんこをたらふく詰め込んで、私は窒息死した。
――それが私の終わり。そして、新しい人生のはじまりだった。
意識が戻ったとき、私は見知らぬ場所にいた。天国だと思った。
ふわふわの雲の上。きらびやかな装飾品。あとになって知ったことだが、私がいたのは雲の上ではなくて、ベッドの上だった。こんなにも大きくて、真っ白で、やわらかいベッドがこの世にあるなんて、私はこのときまで知らなかった。
「気がついたようね」
私は、心臓が止まるかと思った。ドアを開けて入ってきたのは、幽々子さまだったのだ。
「あっ、――あっ」
驚きのあまり、情けない吃音を漏らすだけだった。
「久しぶりじゃな、妖夢」
「おじいちゃんッ!」
幽々子さまの後ろから現れたのは、祖父の魂魄妖忌だった。祖父はある日、いつものように仕事に行って、それっきり帰ってこなくなった。だから以前教えてもらった遠縁の親戚の家に、身を置いていたのだ。
「いやあ、ついうっかりボケてしまってな。家に帰るのを忘れてしまって、ついでに妖夢のことも忘れてしまって、自分が誰なのかも忘れてしまってな。いやあ、めんごめんご」
祖父は頭を掻きながら、豪快に笑った。私はそんなことよりも、どうして祖父が幽々子さまと一緒にいるのかが、気になった。
「儂、ここで庭師の仕事しておったんよ。言ってなかったっけ?」
初耳だった。もしも祖父の口から幽々子さまのゆの字でも出ていたら、私は絶対に忘れなかったはずだ。
「もう~。妖忌は忘れんぼさんね。妖夢の霊体がやってこなかったら、生涯忘れていたでしょうね」
幽々子さまがくすくすと笑う。私が今こうしていられるのは、半人半霊だからだそうだ。一度死んだことにより、ちゃんとした半人半霊になれたそうだ。そのお陰で祖父に気づいてもらえたらしい。
「つー、わけで妖夢。今日からお前は儂の代わりにここで働くことになった。あとよろしくな」
「――はっ?」
呆然とする私の肩を、ボフッと豪快に叩いて、祖父は去っていった。唐突な展開に頭が付いていかない。
「状況は、把握しまして?」
幽々子さまが鈴の鳴るような声で言った。
一気に顔が赤くなる。正直よくわからないことだらけだけど、ひとつだけわかったことがあった。
――私はここで、幽々子さまのために働くのだ。
「は、はい!」
元気よく返事をする。幽々子さまの顔をこんな間近で見れて、私は天にも昇る気持ちだった。
「そう。だったら――」
やわらかい笑みを浮かべる幽々子さまの表情が、次の瞬間別人になった。
「さっさと働きなさいッ! この愚図がッ!」
スパコーンッ!!!
私は扇子でぶっ叩かれると、ほぼ水平に飛行して、ドアに突き刺さった。
そのドアが衝撃でゆっくりと開いていき、首だけ突き出した私の顔の前に、幽々子さまが立つ形となった。
「――まったく。爺子揃って使えねえ屑ですわね。しかも、そこのオカッパ大根。お前、私が挨拶してやったのに、シカトしやがりましたね?」
「お、オカッパ大根?」
「お前のことです。大根に菜っ葉巻いたような格好してるじゃねえですか」
幽々子さまは私の顔の前にヤンキー座りすると、扇子の先で私の頬をぐりぐりと小突いてきた。
「いいですこと。私は主で、お前は下僕です。チルノ並の半分透き通った脳味噌にしっかりと刻み込みなさい。返事は、『はい』か『サー・イエッ・サー』です。呼んだら三秒以内に馳せ参じなさい。舐めたマネすると、そのしらたきみたいな半霊と一緒におでんお具にしてやりますから。あと、お前が壊したこのドア。明日の朝までに治しておきない」
情けないことに私は完全に思考停止状態だった。真っ白だった頭の中に浮かんだ言葉はひとつだけ。
――この幽々子さま擬きは一体誰?
「まあ、それは大変ですわね」
紫さまたちとお茶を楽しまれる幽々子さま。いつもの上品で優雅なお姿だ。
「まあ、美味しそうな大根。ありがたく頂きますわ」
村人と接する幽々子さま。人好きのする笑顔に、人間たちはみな上機嫌だ。
ここにいる幽々子さまは、私が知っている幽々子さまだ。
――いや、私が知っていた幽々子さまだった。
「そこの、大根ッ」
「は、はい。なんでしょう!」
「なんでしょう、じゃねえですッ! お前、私がせっかく場を盛り上げようとボケをかましてやったのに、『ははは、そうですね』って、なんですかそれはッ! 恥をかかせてくれやがりましたねッ!」
「ず、ずびばぜん」
幽々子さまは私と二人っきりになるや否や、ぐいぐいと足の裏で正座する私の顔面を踏みつけてきた。
――あれから二週間。鈍感な私にもようやく理解ができた。こちらの乱暴な幽々子さまこそ、幽々子さま本来のお姿。変に外面のいいあの笑顔と態度こそ贋作。つまりは、幽々子さまは猫を被っていたのだ。
幽々子さまはいわゆる、ねこツンと呼ばれるお方だったのだ。
* * *
私の朝の仕事は、朝食の準備をするところからはじまる。
そして、幽々子さまを起こす。穏やかな顔で眠る幽々子さまは、とてもきれいだ。あのどす黒い性格が、何かの間違いのように感じられる。
ずっと寝顔を見ておきたいけども、起こさないとすっごく怒られる。
「幽々子さま~、起きてください」
優しく幽々子さまの体を揺する。途端に、悪霊が乗り移ったかのような陰険な顔が、幽々子さまの面に表れる。
「うう~、騒がしいですわね、黙りなさい~」
「起きてくださ~い」
さらに揺する。
「うるさいって言ってるでしょッ!」
ドゴッ!
当然のように蹴り上げられ、私は天井に首だけでぶら下がった。未だにかわすことができないでいる。
朝食のあとは、幽々子さまのねこツンの練習をお手伝いする。
「あらあら~、では雀料理にでもしましょうか?」
「そうですか、では早速――」
飛び出そうとした私の頭を、幽々子さまの扇子がぶっ叩く。
「だから何度言わせるんです、このカイワレ大根ッ! 私が食いしん坊キャラでボケをかましているんですから、そこはツッコミを入れるところでしょッ!」
「ヒィー、す、すみません」
幽々子さまのキャラを立てるためのツッコミ。この仕事がなかなか難しい。私には幽々子さまが冗談で言っているのか、本気なのかがまったくわからないからだ。
「じゃあ、もう一度ね」
「な、なんでやねん」
「全然、だめッ! 棒読みだし、ドモんじゃねえです。ほんっと屑ね。いいですか、ツッコミは剣技と同じです。刹那の反射神経を持って、空気を切り裂くように相手を叩く。そうすると、竹を叩いたようないい音が出るでしょ?」
「わ、わかりました。なんでやねんッ!」
私の手が勢いよく幽々子さまの腕を叩き、乾いた音を響かせた。
「……お前、私を殴りやがったですね?」
ドスの利いた声が、心底魂を震えさせる。
「えっ? だって、幽々子さまが叩けって……」
「本当に叩く馬鹿がどこにいますかッ! 振りに決まってるでしょッ! ツッコミってのは、叩く振りをして音を出すから、ツッコミって言うんですッ! ――お前、わざとですわね。日頃の恨みをこれ幸いとばかりにぶつけやがりましたね?」
「ご、誤解です。滅相もありません――って、いやあああああああああーーッ!」
理不尽な理由でピチュンさせられることもしばしば。
昼食後。私は庭の掃除をし、空いた時間で剣技の訓練をする。幽々子さまを護衛するのも仕事のうちだからだ。幽々子さまに護衛が必要かどうかは別として――。
祖父が私に教えてくれたことは、ひとつだけだ。
「剣で切られるとめっちゃ痛え。まじで痛えから」
――奥深い言葉である。
「そう言えば、お前のとこの糞じじいが、刀を置き忘れていましたね。結構な業物らしいから、それをお使い」
「ほ、本当ですか? どこにあるんです?」
「――誰に向かって言ってるの、この大根。お前、私に手間をかけさせるつもりですか?」
「捜してきますッ!」
三日後、やっとのこと一対の刀を見つけ出した。けれども鞘から抜くことができない。
「抜けない? 馬鹿な、お貸しなさい」
悪戦苦闘する私を見かねて、幽々子さまが声をかける。受け取った刀の柄を一気に引き抜いた。真っ白な刀身が光を弾く。
「……抜けましたわよ。しかも、あっさりと」
「あれ? おかしいですね」
「お前、私を騙しやがりましたね」
「え? いやいやいやいや、滅相も――」
「問答無用ッ!」
ピチュン。
「――というのは冗談で、お前の霊力が足りていないからですわね。お約束というものです」
幽々子さまが笑いながら、ピチュンしている私の上に刀を投げ捨てた。重みで胸が詰まる。
「しくしく。冗談って、一機減っちゃいましたけど……、――き、気にしてませんけどね」
幽々子さまの目に粟立つような殺意を感じ、慌てて訂正した。ああ、この人はなんて冷たい目をするのだろうか。
「よし、この場所が一番だ」
私は、白玉楼の広大な庭の一角に、ブルーシートを敷いた。今日は花見で、私は場所取りだ。まわりには多数の妖怪や人間たちが集まって、同じように場所取りをしていた。すでにはじまっているグループもある。
「場所を取るだけの仕事といえども、失敗は許されないぞ」
私は自分に言い聞かせる。常日頃ミスばかりしているので、汚名返上のチャンスだ。
「でも、落ち着くなあ。幽々子さまがいないとほんと落ち着く」
しばらくのほほんとしていると、遠くから慌ただしい気配が近づいてきた。何事かと思っていると人や妖怪たちの悲鳴が聞こえはじめた。
「漢魔理沙だ。漢魔理沙が出たぞッ!」
ちりぢりに逃げる人や妖怪たちの隙間から、漢魔理沙の姿が見えた。身長三メートルを越す巨漢で、アミバのような顔をしている。アリス・マーガトロイドの等身大抱き枕を背負い、ママチャリに乗ってやってきた。
奴は、言うなれば害虫である。庭師として駆除しなければならない。
「ここを白玉楼と知っての狼藉かッ! 速やかに立ち去れッ!」
「グハハハハッ。んん~? なんだ~、この青ネギは?」
漢魔理沙が顎をさすりながら、私の上半身くらいある顔を近づけてきた。
「我が名は魂魄妖夢。この白玉楼を護る者。刀の錆びになりたくなければ、そうそうに立ち去れッ!」
ちなみに、刀は鞘から抜けないままだ。
「グッハハハハ。この俺様を切るだと? へそが茶ダンスだぜ」
「なんでやね! それ違うがなッ!」
私は思わずツッコミを入れていた。練習の成果が、どうでもいい場面で現れた。
「痛え、痛えよぉ~。この俺様を叩きやがったな?」
「えっ? いや、当たってないでしょ? 音がしただけで」
「てめえ、月を舐めるなよ。当たってないのに音が出るかッ!(怒)」
「それが、練習でなんとか……」
「俺様をコケにしやがってッ! 喰らえッ! アミバ流北○神拳激振孔改め、増田(♂)スパークッ!」
「うわあ、桜の木がボロボロ。あれ? 紫様、だれか倒れていますよ」
漢魔理沙の一撃でボロボロになった私を、藍殿が助け起こしてくれた。
「うう~、面目ないです」
きしめん型の涙を流す私の頬を、何か柔らかいモノが撫でていく。幽々子さまのハンカチだった。
「妖夢、大丈夫ですか~。こんなに怪我をして、桜はまた来年も咲きますが、妖夢はたったひとりなのですよ。無理はしないでくださいね」
幽々子さまが優しい言葉をかけてくれる。夢のようだった。ほんのりと胸の奥が温かくなる。幽々子さまはお優しい方だ。そんなふうに思っていた時期が、私にもありました――。
「お前の代わりはいくらでもいますけど、桜は来年まで待たなきゃならないんですわよッ!」
家に帰り、二人っきりになった途端、幽々子さまは前言撤回された。私は正座して深く頭を垂れ、幽々子さまのお叱りを受けていた。
「――まったく。行かず後家の前でとんだ恥をかかせてくれやがりまして。あいつの式のほうがよっぽど使えるじゃないですか。どうしてくれるんですッ! 私のこの気分をッ!」
「……面目次第もございません」
「だいたい、漢魔理沙ごときに負けるんじゃねえですわよ。奴なんてコスプレしてるだけの一般人でしょ? 自演乙に負けたんならまだしも。どんだけ雑魚なのかしらお前はッ! 奴の増田(♂)スパークなんて、ただの張り手じゃねえですか」
「まったくもって、おっしゃるとおりで……」
私は振り子のような涙を流しながら謝った。
「罰として、『打倒漢魔理沙』という文字をゲシュタルト崩壊起こすまで、ノートに書きなさい。いいですねッ!」
「ひええぇぇーッ!」
――一週間後、魔理沙という文字が、なんとなく違うような気になった。
「ええと、次は兎の肉と永琳の爪の垢……か」
私は村に買い物に来ていた。
「あれ? お前、妖夢じゃねえか?」
子供の声。私は振り返って、硬直した。私をかつていじめていた村の子供たちがいたのだ。「お前、肥溜めで死んだんだってな」
「おおっ、くせえ、くせえ。霊魂までうんこくせえぜ」
子供たちはケラケラと大声で笑った。私もはははと愛想笑いをした。
「何うんこのくせに笑ってんだよッ!」
子供のひとりが私の顔を殴った。半分は人。痛いしアザにもなる。
「痛っ、だってよ。お前幽霊だろ。嘘つくんじゃねえッ!」
今度は蹴りを入れられた。
「嘘つき嘘つきッ!」
石を投げつけられる。私の貧相な胸に当たる。鈍い痛みが広がっていく。肋骨が折れたかもしれない。それから私は、散々嬲られた。服もボロボロになって、お金も取られた。買い物袋の中身も奪われ、代わりに犬のうんこを詰められた。
「ちょっ、お前どうしたんですの?」
幽々子さまが私の姿を見るなり、声を上げた。しくったなと思った。見つかる前にお風呂に入ろうとしたんだけど……。
「すいません、ちょっと転んじゃって。あはははは」
「……なんです、その袋の中身?」
「庭に撒く肥料ですよ、幽々子さま」
「……で? 食材は? それを買いに行ったんでしょ?」
「あっ、すっかり忘れてしまいました。すいません。また行ってきますね」
「……お前、――ふざけるのも大概にしなさいッ! くだらない嘘ばっかり言ってんじゃねえですッ!」
「う、嘘じゃないですよ」
私は精一杯の笑顔をつくって答えた。
「…………」
「あははははは」
「………………」
「あはは、ははは」
「…………気が変わりました。今日は外食にしましょう」
それから私は、村に買い物に出るたびに、村の子供たちにいじめられた。お金も取られるため、予備のお金と服を予め隠しておくことにしている。さすがに二回取られたことはない。
だから、幽々子さまにあんな姿は二度と見せていない。それなのに――。
「さあ、たんと召し上がれ」
白玉楼に村の子供たちが集まっていた。私をいじめていた子供だけだ。私が気づいたのは偶然だ。村に行こうとして忘れ物に気づき、白玉楼に入っていく彼らを見つけたのだ。
私はすぐに事態を把握した。幽々子さまは、藤田和日郞の漫画に出てくるような笑みを浮かべていたからだ。誰かに毒を盛るときの表情。
私はズバットアタック(初期型)の要領で、テーブルの上を滑ると、料理を全て床の上にぶちまけた。更には予想外のことに、テーブル正面にいらっしゃった幽々子さまに、ズバットアタックを決めてしまった。あわわ、あわわわ。
「あら~、妖夢はお転婆ね~。ちょっと、隣に来てくれますか~」
さすがというか、幽々子さまはまったく動じることなく、笑顔で私の股間を押しのけた。
「――お前、いい度胸してやがりますね。私の長い亡霊生活の中で汚ねえ股ぐら押しつけてきたのは、お前くらいですよ(怒)」
幽々子さまが怒りMAX状態を笑顔で無理やり押し込んだ形相で、私の胸倉を掴んできた。というか半ば吊されていた。
「す、すみません、幽々子さま。ちょと予定と狂ったところがありまして……」
強風に煽られる洗濯物のように激しく揺さぶられながら、私は言った。
「おほほほほ、私が許すとでも思ってるの? 緑の救急車に詰め込んでやりますから(超怒)」
「やめてください、幽々子さま」
「やめるわけねえだろ、ですわ」
「やめてくだい。彼らを殺さないでください」
「…………」
「私は平気ですから、お願いです」
「何を言ってるのかしら、このネギ大根は」
「毒を盛ろうとしてましたね。幽々子さまのあの表情は絶対そうです」
「なんて失礼なのかしら、お前はッ! 絶対? ふざけるなですッ! 確かに私は毒を盛ろうとしました。ええ、しましたともッ! でも、毒殺しようとしたのは、これでたった三万八千四百二十五回目です。違う可能性だって十分あるじゃねえですかッ! それなのに、絶対などとご主人様を疑うなんてッ――、えい、リポジトリ・オブ・ハナクソ」
幽々子さまは小指で鼻くそをほじると、私の額にそいつをピチュンしてきた。
「いやあああぁ――ッ! むしろ幽々子さまのそんな姿を見たことがショックッ!」
ガシャン。隣の部屋から食器の割れる音が聞こえた。最悪の想像が浮かぶ。
幽々子さまから解放された私は襖を開け、そこに六箇の魂が浮かんでいるのを見た。
「まったく、卑しい糞ガキどもでしたわね。床に落ちた物を食べて死ぬなんて」
魂はしばらくの間ゆらゆらしていたが、やがて消えていった。この白玉楼の霊魂の一部となって、幽々子さまのために働くのだ。けれども、過去の記憶と個性をなくす。私にも、見分けはつかないだろう。
「――どうして。……どうしてですか? 幽々子さま」
私は呆然とへたり込み、涙を流した。
「それはこっちの科白ですわ。お前は、あんなことをされてなんとも思わないのですか? 情けねえですわよ」
「そういうんじゃないです。でも、かわいそうじゃないですか?」
「はあ? かわいそうなのはお前の頭です。お前が幽霊を否定してどうするんですか」
「ですが――、あいでででででででッ!」
なおも未練がましく言う私の半霊を、幽々子さまが雑巾を絞るみたいに締め上げた。
「ああ、むかつくッ! 私は昔から、人を殺したことをうだうだ悩む奴が一番嫌いなのですッ! せっかくお前を殺してやったというのに、意味がないじゃねえですかッ!」
「…………えっ?」
私の表情を見て、幽々子さまは慌てたように視線を外した。
「何ぼさっとしているのですッ! はやくここを片付けなさいッ!」
「待ってくださいッ! さっきのはどういう――」
足早に立ち去ろうとする幽々子さま呼び止める。
「う、うるさいですわよッ! 誰がお前に質問を許しましたか? いい加減にしろ、ですわ。私はお前の主ですわよ。黙って命令されたことだけおやりなさいッ!」
バシッ! 襖が激しく閉じられた。
その瞬間、私は理解した。肥溜めの前で私を殺したのは幽々子さまだ。私は窒息死したものだと思い込んでいた。だけど、違った。既に死んでいたのだ。殺されて、肥溜めに落ちて、気を失っただけだ。
それから、私と幽々子さまの関係はぎくしゃくしていた。
「幽々子と何かあったの?」
「うひゃあっ!」
台所でお菓子の準備をしていると、紫様が隙間から顔だけ出して現れた。生首が突然現れたように見えるので、心臓に悪い。正直、やめてほしい。
「二人の関係がぎこちないように思えてね。幽々子に聞いても誤魔化すだけで……」
幽々子さまが誤魔化している内容を口にするのはためらわれたが、幽々子さまと元のような関係になりたいという思いもあった。
「幽々子さまはどうして私を殺したんでしょうか?」
多少の経緯を付け加えて、紫様に相談してみた。
「幽々子にとって、死は解放なのよ。半分人間のあなたにはわからないかもしれないけど。幽々子はあなたのことが好きなのね。あるいは、あなたがどこか自分に似ていると思ったのかもしれないわ」
「えっ? 私そんなに性悪ですか?」
「? なんのこと?」
紫様が生首を傾ける。親友である紫様にも気づかれることのない幽々子さまの本性。幽々子さまのねこツンスキルの凄さを改めて思い知った。
「幽々子も意地っ張りだからね。わかったわ。二人が仲直りできるように力を貸しましょう」
翌日、紫様の提案で「日頃の感謝会」が催された。
「はい、藍。いつもありがとう。あなたのお陰でぐっすり眠れるわ」
「もったいないお言葉。紫様の平穏こそが私めの至上の喜び。その上このようなお心遣いなど」
紫様からのプレゼントを受け取り、藍殿が仰々しく頭を下げる。
「はい、橙。あなたは藍の式だけども、私のほうからお礼を言わせてもらうわ」
橙殿にもプレゼントが渡された。なんか動いているんですけど……、中身はなんだろう?
「じゃあ、今度は幽々子の番」
思わず、私と幽々子さまは目を合わせてしまった。ちょっとばかり恥ずかしい。幽々子さまは今はねこツンモード全力全開なので、微塵も動揺した素振りを見せない。
「はい~、妖夢。あなたにはいつも感謝しているわ。私の手作りですの~。よろこんでもらえたら嬉しいわ~」
幽々子さまが「香霖堂」と書いてある袋からプレゼントを取り出して言った。ねこツンモードだとわかっていても、ついうるうるとしてしまった。
騒霊たちの演奏を聴きながら、私は幽々子さまとおしゃべりに興じた。――そして、宴は終焉を迎え……。
「か、かかかか勘違いするな、ですわ。この大根ッ! 紫がどうしてもと言うから、プレゼントを買ってやっただけですわ」
やっぱり購入品だった。黒いリボン。私の白い髪とよく似合っていた。
「で、でも仮にもご主人様からのプレゼントですわ。大事にしなさいよッ! そ、それとですわよッ! ……わ、私にここまでさせたんですから、その……もう変に気を遣うのはやめてくださらないかしら。お肌に悪いわ」
「はい。ありがとうございます、幽々子さま。これからもよろしくお願いしますッ!」
元気よく返事をすると、幽々子さまの白い頬に朱が差した。
「そ、そう……、よかっ――。!! そんなことッ、わざわざ口に出すまでもなく、当然ですわッ!」
「ツン、つんつん、ねこつ~ん。幽々子さまは、性悪亡霊~。でもね」
私は陽気に歌を歌いながら、庭の掃除をしていた。桜の季節は過ぎたけれども、たくさんの人間や妖怪たちが散歩をしたりひなたぼっこをしたり、穏やかな時間が流れている。
喧騒は唐突にやってきた。
「漢魔理沙だ。漢魔理沙が出たぞッ!」
再び奴が白玉楼の敷居を跨いできた。今度は抱き枕を七つも背中に背負っている。
「ぐへへへへ、抱き枕の季節がやってきたぜ」
「待て、漢魔理沙ッ! 一度ならず二度までもこの白玉楼に入り込むとは、その狼藉許すまじッ! この魂魄妖夢が相手だッ! 正々堂々勝負いたせいッ!」
「んん~? 誰かと思えば、この前の青ネギじゃねえか。またピチュンされに来たのか?」
「黙れッ! 今までの私と思うな。いざ、勝負ッ!」
「ふん、舐めた口が二度と利けないよう、俺様の力を思い知らせてやるッ!」
ガッ!
数分後、地面に倒れていたのは私のほうだった。
「ぐへへへ、口ほどにもない。うん? 生意気に色気づきやがって、前はこんなリボンはめていなかったな」
言うや、漢魔理沙は私の頭からリボンを奪い取った。幽々子さまからのプレゼント。
「や、やめろ……。それを、返せ」
私は、ぼろぼろになった手を必死に伸ばした。けれども、微塵も届く気配がない。
「なんだ? そんなに大切なモノなのか? ぐへへへへ、そういやさっき糞して尻拭いてなかったな。ちょうどいい。こいつで拭くとするか」
漢魔理沙が全裸になる。汚らしいお尻が、この白玉楼でさらけ出された。私の力不足のせいだ。
「やめろ、やめて……くれ。お願いだ。なんでも……するから、それだけは、やめてくれ」
私は無様にも涙を流しながら懇願した。
「ぐははははっ、気持ちいいぜ。俺様は媚びられるのが一番好きなんだ。そうだな~、貴様が俺様のケツを代わりに舐めてきれいにするって言うのなら、考えてやってもいいぜ」
私は頷くと、漢魔理沙のお尻を舌できれいにした。
「ぐはははは、なかなかいい感じだぜ。俺様専用のセッチンとして持ち帰りたいくらいだ」
私は腹の奥から迫り上がってきた吐き気に襲われ、嘔吐した。地面の上で吐瀉物が飛び跳ね、私の服を更に汚す。やっとのこと吐き気が治まると、私は漢魔理沙を見上げた。
「約束だ。そのリボンを返してくれ」
「ああん、約束? 誰がいつそんな約束をしたんだ?」
「なッ! 貴様、卑怯な」
「なんだと? 俺様を卑怯だと? 俺様はこいつでケツを拭くのを考えてやると言ったんだ。返すなんて一言も言ってねえ。畜生、最悪な気分だぜ。こいつは持ち帰って、○○マとして使ってやるぜ」
「やめろ、やめてくれッ!」
幽々子さまからもらったリボン。それが○○マとして使われるなど、絶対に許されてはならないことだ。
「俺様に命令するんじゃねえッ! じゃあな、弱っちい、青ネギ」
「――待て」
「おお、そうだった。服を着るのを忘れてい――――ッ?」
「それを――、返せと言っている」
私は、刀を杖代わりにして立ち上がった。体はとうに限界で、満身創痍なはずなのに、幽々子さまから頂いた仲直りの証を奪われたくない気持ちが、肉体を突き動かした。
「正気か? 結果は見えているだろうに、まだやるつもりか?」
「それは、私にとって大切な、――命よりも大切なモノだッ!」
刀を構える。柄尻が漢魔理沙を捉えた。
「気に食わねえな、その目。媚びる者の目じゃねえ。俺様をそんな目で見るなよ。いいぜ、ぎったんぎったんにピチュンしまくって、二度と俺様に逆らえないようにしてやるッ! 喰らえ、アミバ流北○神拳激振孔改め、増田(♂)スパークッ!」
漢魔理沙の右手が突き出される。私はそれをどこか他人事のように見ていた。ゆっくりとした手の動き。容易に軌道を読むことができる。私はわずかに体を右に動かすことで、その一撃を避けた。
「なっ! 避けただと?」
漢魔理沙が驚いた声を上げる。当然だ。あんな遅い攻撃など、当たるはずもない。馬鹿にされているのだろうかと思った。
「――くっ、このッ!」
漢魔理沙が蹴りを放ってくる。またしてもゆっくりな攻撃。頭を下げて攻撃をかわし、無防備になった漢魔理沙の脇腹を刀で叩いた。
「ぶべらッ!」
軽く叩いたつもりだったのに、漢魔理沙は豪快に吹き飛んだ。
「くっ、馬鹿なッ! 俺様がやられるだと? なんだ? あいつから感じるこの力は?」
言われて、初めて私は気づいた。自分の体から溢れ出す力に――。これは霊力。幽々子さまと同じ力。ある予感を持って、刀の柄に手をかけた。そして、引き抜く。魂のような白乳色の光を湛える刀身が姿を現した。
「待て、それで俺様を切るのか。今の俺様は裸で防御力がゼロなんだ。ひ、卑怯だろ?」
シャキン。刀を鳴らせて、漢魔理沙に攻撃の意志を伝える。
「くっ、このリボンがどうなってもいいのか? 少しでも動いてみろッ! こいつを真っ二つに引き裂いてやるッ!」
「――やってみろ。それよりも速く、私がお前を斬る」
「くっ……」
「…………」
「本気だぞ」
「……………………」
「――ちくしょうッ!」
「人鬼『未来永劫斬』ッ!」
バシュンッ!
「リ、リフレェェェェェエッッッシュッッッ!!!」
――ピチュン。
ピチュンした漢魔理沙からリボンを奪い返す。幸いなことにちょっと皺になっているだけだった。あ、なんかイカ臭い。
刀を鞘に収めると同時に、どっと疲れが押し寄せてきた。急に意識が遠くなって、私は気を失った。
次に目を覚ましたとき、私はふわふわとした雲の上にいた。死んだのかな、そう思った。
いや、違う。私はこの風景に見覚えがあった。ここは幽々子さまのベッドの上だ。
「まったく、世話をかかせやがって、ですわ」
ベッドの横には幽々子さまが腰かけていた。不機嫌そうにぶつぶつ文句を言いながら、タオルを私の顔に押しつけてきた。冷たい感触。けれども丁寧に顔を拭いてくれている。
「幽々子さま、私やりましたよ。漢魔理沙に勝ちました」
「知っていますわ。私の庭師なのだから、それくらいできて当然です。それよりも、こんなにボロボロになって……。この私を心配させるなんて、身分をわきまえろ、ですわ」
「心配……してくださったんですか?」
訊き返した途端、幽々子さまは顔を真っ赤にして、口をぱくぱくさせた。
「――だ、だだだ誰がいつ、何時何分何秒そんなことを口にしました? 寝ぼけんじゃねえ、ですわ。私は庭師がいなくなると困ると言っただけです。か、かかかか勘違いしないでくださる? このボケネギ大根ッ!」
「すいません。でも、せっかく幽々子さまに頂いたリボンを奪われそうになったんです。私の命よりも大切な物です」
「まったくお前は――。そんなものいくらでも買って差し上げますわ。そんなことより自分のことを大切にしなさい」
「――ですが」
「ですがもスペカもありません。黙って私の言うこと訊きやがれ、ですわ」
「――はい」
「それじゃ、私はこれで失礼しますわ。いいですこと、怪我が治るまでじっとしているのですよ」
「――幽々子さま」
私は、目を閉じながら幽々子さまの名前を呼んだ。
「なんですの?」
「私は、幽々子さまのこと、大好きです」
「……。ふ、ふん、当然ですわ。私は、――お前のこと大嫌いですわ。いつもへらへらして、自分のことより他人のことが大事で、くそ真面目で。でも、お前以外に庭師はいないのですから、勝手にいなくなるんじゃねえ、ですわよ。私にはお前しかいないのです。いいですか? お前はずっと私のモノなのです。ずっとずっと一緒にいるのです。そ、そしたら、ほ、ほんの少しですけど……、お前のこと、す、すす好きになってやっても、いいですわよ」
「――はい。わかりました、幽々子さま」
「ふ、ふん……」
静かにドアが閉じられる。
ねこツン幽々子さま。性悪だけどかわいらしい幽々子さま。私に今の幸せを与えてくれた幽々子さま。私はそんな幽々子さまが――。
謙遜なのかマジなのか。
とりあえずパッと見で誤字くさいヤツを報告。
技モノ→業モノ(物)
総立つ→総毛立つ?
斜め方向へと爆進する勢いは凄い。
これはこれでアリだと思う。
しかし ちょい汚いってか好ましくない部分があるのが残念かな
ていうか書こうと思えばもっと素直に良い話にも出来たでしょうに、そこをあえてこういう書き方をしてるのにはどのようなこだわりがあったのかも個人的には気になりました。
内容に関しては色々ムカつく部分もありながら、しかし幽々子の行為にはちゃんと愛情が込められているということで安心しました。
漢魔理沙が何者なのかは知りませんが、少なくとも魔理沙とは無関係の変態だと信じたいですね;ww
妖夢が元々顕界の住人であった、というアイディアには思わずあっと言ってしまました。