秋色幻想郷
季節は秋――山々は赤や黄色に彩られ、人間の里では収穫祭が行われていた。
この祭りは里の農家が総出で行っていたものだが、それは記録ばかりの物となっている。
この行事の主役となる、豊穣の神である秋穣子とその姉の秋静葉、この二柱の前に座るのは10人ばかりの人間だった。
「――今年の奉納でございます」
里の代表が今年の収穫状況を報告し、奉納品である秋野菜や果物を二柱に差し出す。
この役目もかつては”本来の”里の代表が行っていたものだったが、今年も一農家の若者がその任に就いていた。
「それでは、今年も豊作ということで間違いないのね?」
穣子は奉納品を認め、その青年に問う。
その量は博麗霊夢や霧雨魔理沙が異変解決に東奔西走してた時代の20%にも満たない。
だが、彼の口から不作や凶作の二文字は出なかった。
これが何を意味するか――それは、ただ単純に祭りの参加者が減少したことを示していた。
「はい。今年も穣子様のおかげで、我々は安泰でございます」
青年が恭しく礼を述べると、周りの者もそれに倣った。
穣子はそれを満足そうに見ている――いや、そう見えるように振る舞った。
その様子を見ている静葉は、心穏やかではいられなかった。
「今年も終わったわね」
静葉が運んでいた奉納品をおろしながら言った。
その隣では穣子も同じように奉納品をおろしており、姉の言葉に疲れたような笑顔を向けた。
元々あの収穫祭は里の人間が発案したもので、この姉妹はそこに呼ばれていたに過ぎない。
ヒトは神を信仰し、神はヒトに恩恵をもたらす。
つまり、その恩恵に与るべく”豊穣の神”である穣子に参加を乞うていたのだ。
だが、それもやはり過去の話となりつつある。
「これも時代の流れなのよ、きっと」
穣子は寂しそうな表情で奉納品を見る。
彼女たちは”それ”を欲しているわけではないが、それが言わば信仰の量に比例しているのも事実である。
信仰がなければ神は弱体化し、その力を振るうことができなくなる。
それは里の人間にとっては不都合なことである。
――いや、不都合であった。
「技術が発展するのは良いことなのよね」
妹の言葉に、静葉は自分を納得させるように呟く。
人間たちの農作技術は、かつてとは比べ物にならないほど発達していた。
交配による進化した作物、効果的な肥料や農薬の開発、長期間食料を保存できる倉庫。
さらに、養鶏や養牛の普及による食卓事情の変化。
これらが人々の意識を変えた。
天候や季節にほとんど関係なく、安定した食糧を生産・供給できるようになったのだ。
飢えの恐怖や苦しみから解放された人々の心からは、いつしか信仰心が消えていった。
それは自然な流れであり、誰にも非はなく、止めることなどできない。
だからこそ、この季節になると穣子と静葉は浮かばれない気持ちになってしまう。
たくさんの笑顔と笑い声と感謝に溢れた収穫祭は、もう完全に過去の産物となってしまったのだ。
「作物は稔れど、心は豊かにならず――なんてね」
穣子は微笑んだ――それは、今にも消え入りそうな微笑みだった。
このままだと秋姉妹もその内に消滅してしまうんだろうか?
可哀想すぎる(泣)
いくら技術とか発達してもやっぱり最後には秋姉妹の力もあると思うんだ。
何でもそうだけど当たり前のことを当たり前だと思ってちゃいけないな……
いつか無くなったときに本当のありがたみがわかる。
ちょっと親孝行するかな…
色々考えさせられたわ
それをどう受け止めるかは、読者次第。みたいなお話が好きな私にとって、
この直接的訓話は少々興醒めちゃんです。
なにより、秋姉妹の最後の砦を奪うなんて、酷過ぎるぢゃないか!
「技術の発展」は血の滲むような努力あってこそなんだぜ?
だから感謝しなくていいとかいう話じゃあない
ただ技術に携わる者を蔑ろにしないで欲しいだけなのよ