この作品は、「Let's experiment!」の続編です。
妖怪や人間達の話し合いによって決まった勉強会が行われている人里。
何処を見回しても、人、人、人。
現在は、授業と授業の間の移動時間兼休憩時間だった。
そんな中、霊夢が向かう先は家庭科の会場。
青空の下に大きな水道とコンロ付きのテーブルを並べ、簡易キッチンが出来あがっている。
会場には女性の姿が多く、雑談に花を咲かせている。
霊夢はふと、一つだけ離れたところにあるテーブルに目をやる。
そこには、家庭科の講師になっている咲夜と妖夢がいた。
「あら、霊夢じゃない。どうしたの?」
霊夢に気付いた咲夜が声をかける。
咲夜も妖夢も、真っ白なエプロンをつけている。
何故か知らないけどこの二人にはこういうエプロンが似合う。
霊夢は少しばかり羨ましく思うも、話しかける。
「別に暇だから来ただけよ。授業、見ててもいいかしら?」
「もちろんよ。さっきはお野菜を使った料理だったけど、今度は甘いものを作ろうと思うから、出来たら食べる?」
妖夢の口から出た、甘いものにすぐさま霊夢は反応する。
「あら、いいの?」
「凄い食いつきね。まぁ、いいわ。私はケーキを作るし、妖夢はいちご大福を作る事になってるの」
「あらぁ、美味しそうじゃない!ぜひともいただくわ」
「というか、霊夢も参加すればいいじゃない…」
妖夢の突っ込みに対し、霊夢は
「いやよ、めんどくさい」
この返答で一掃する。
霊夢らしい返答に、咲夜と妖夢は笑う。
すると、大きな鐘の音が聞こえる。
この日の為に用意された、人里の中央に位置する高い塔。
その上で鐘を人間が叩いているのが見えた。
鐘の音と共に、授業が始まるのだ。
咲夜と妖夢は机の中央に立つと、辺りを見渡す。
机に四人で一人の班を作るようになっており、数は相当あるはずのテーブルは全て埋まっている。
皆が皆エプロンをつけて、気合い十分といったところか。
咲夜が手をパンパンと叩くと視線は咲夜達のいるテーブルに集まる。
「初めての方ははじめまして、先ほどからおられる方はこんにちは。家庭科の講師を務めます、十六夜咲夜と」
「魂魄妖夢です。先ほどはお野菜を使った料理を作りましたが、今回は甘いものを作っていきたいと思います。何を作るかは、皆さまの前に置かれたテキストに書かれておりますので」
人々は目の前のテキストを手に取る。
手書きで書かれたそのテキストには非常に丁寧に記されていた。
分量やポイントが書かれており、売ってもお金がとれるレベルだった。
「このテキストは、今日一日を通しての授業で作るものが書かれているので、受けることが出来なかった授業の料理も家で作る事が出来ると思います。さて、それでは今回は私はケーキを、彼女はいちご大福を作ろうと思います。ケーキのスポンジに関しては時間の関係もあるのでこちらで用意させていただきました」
机の上には一人に一つ、綺麗に切り取られたスポンジが用意されていた。
今回は、生クリームを作る作業と盛り付ける作業だけのようだ。
となれば、いちご大福に時間を費やすのだろうと言うことは予想が出来る。
「それでは、先にいちご大福を作りたいと思います。私は前で作りながら説明するので、解らないことがあったら咲夜さんに聞いてください。それでは早速作業に取り掛かりましょう」
材料はすでに机に載っているので、妖夢の説明を各テーブルは待つ。
「まずは白玉粉をこの耐熱ボウルに入れて下さい」
指示通りに各テーブルが動き始める。
すでに量って置いてある白玉粉をボウルの中に入れていく。
「入れましたら、次にカップの中に水を200cc注いでください。目盛のついたカップがあると思うので、それで計量して入れて下さい」
水道を捻り、カップの中に透明な水がたまっていく。
一度注いでは止め、200ccぴったりかどうかを水平な机の上においては確認する。
料理の時になると分量をきっちりにしないと気が済まなくなるものである。
納得いくような量で満たされたカップを確認すると、妖夢は話を進める。
「それではその水を少しずつ加えていって下さい。この時に、ダマにならないように手で良くかき混ぜて下さいね~」
妖夢は慣れた様子で、左手で水を加えながら、右手で丁寧にかき混ぜていく。
ダマが出来ることも無く、綺麗に混ぜられている。
咲夜は、一つのテーブルで見本を見せている。
こちらも慣れた手つきでかき混ぜている。
きっと予習とかしたんだろうなぁと、霊夢は思いながらただただ見つめる。
「それでは、上白糖を入れて下さい。これも良くかき混ぜてくださいね」
お皿に盛られた上白糖をボウルの中へと入れていく。
水で溶かれた白玉粉と、真っ白の上白糖とが混ざり合う。
上白糖の粒が、かき混ぜると共に段々溶けて行く。
かき混ぜるだけの作業なので、難なく事は進んでいく。
「ここで電子レンジを用いて二分間チンするのですが、少しばか…」
チン
電子レンジが役目を終えた音が聞こえる。
「り…って、あぁ、もうしてくださいましたか。電子レンジからいったん取り出して、ゴムべらで混ぜて下さい」
妖夢は何故こうなったのかは解っているが、他の人たちは全く分からないと言った様子。
それもそのはず、咲夜の能力を知らない人々からすれば、二分間経ってもいないのに電子レンジの中で温かくなっているのには驚くだろう。
霊夢が咲夜の方を向くと、全く関係ないといったような表情を浮かべている。
ここでそのポーカーフェイスを使う意味があるのかと霊夢は感じるが、放っておく。
しかし、これができるのなら、スポンジも出来る気がするが、時間も長いし大変だからだろう。
とにかくボウルを取り出すと、ゴムべらでかき混ぜる。
簡単な作業なので、すぐさま終える。
「また二分間チンします。途中で何度か取り出してよく混ぜ、透明感とコシのある状態に仕上げます。まぁ、先ほどの作業もこの作業も咲夜さんが能力使ってやってますので、驚かないでください。それではお願いします」
今度意識が戻った頃には、透明感とコシのある生地が出来あがっている。
咲夜の方に視線が集まる。
「時間を止めればこれくらい簡単に出来ますわ」
にっこりと笑って言ってみせる咲夜に、拍手が送られる。
尊敬の目線とその拍手。
咲夜は指先でスカートの端を摘まみ、軽く持ちあげ一礼で返した。
とにかく、調理することが出来たそれをテーブルの上に置く。
「あらかじめ餅取り粉がふってあるバットに生地を入れて、上からもストレーナー、まぁふるいで餅取り粉をふるいかけてください」
ストレーナーに餅取り粉を入れ、トントンと叩く。
白い生地の上に、まるで雪が降ったかのように、より一層白に染めてゆく。
生地の上に、均等に雪が降り積もってゆく。
「今回は白あんで苺を包みましょう。次に手で生地を丸く広げ、白あんで包んだいちごをのせて包み込んでください。生地が熱いうちにやってしまいましょう。最後に余計な餅取り粉を刷毛で」
真っ赤ないちごを水で洗うと、ぴかぴかに輝いて見える。
いちごを白いふきんで水を拭きとると、白いあんを手に取り、包み込む。
包み込んだその白の中に、うっすらと赤い色が見える。
また、その上から生地で包みこむも、それでもまだ、うっすらと赤かった。
赤というよりは、優しい桃色かもしれない。
春にぴったりの、可愛らしい一品が出来あがった。
とりあえず一通り出来たのをみて、一度使った用具を洗うように指示する。
ふぅと一息つく妖夢に、霊夢は声をかける。
「お疲れ様。まぁ、一部咲夜がすごい頑張ってる部分もあったけど」
「ほんと、咲夜さんには感謝の気持ちでいっぱいです~。彼女がいなかったらどうなっていたことか…」
「あら、嬉しい言葉ね。とりあえず、お疲れ様」
突如として咲夜が会話に入ってくる。
本当に彼女は急に現れるから驚く…つくづく妖夢は思った。
突如現れる人物と言ったら紫だが、それに次いで突如出てくる人物と言ったら咲夜か萃香だろう。
なんとも心臓に悪い。
「とりあえず、次は私の番ね。周りのお手伝いをしてあげてちょうだいな」
「はい、わかりました」
辺りを見回し、様子を見る。
手を二度叩き、視線を集めると、話を始める。
「さて、みなさん出来ましたでしょうか?次は咲夜さんのケーキ作りですので、私と交替です」
「えぇ、交替ね。さてと、ケーキのほうでもいちごを使って行きましょうか。まずは生クリームを作りましょうか。今回は紙パックに入った生クリームを使いますが、牛乳を使って作ることもできるので、その方法はテキストに記してあるので、それを参考にして下さい」
妖夢に変わり、咲夜が話を進めていく。
咲夜はなんというか、人前になって講師をやるのが似合う気がすると霊夢は思った。
何処となく大人びた雰囲気で、何でも出来る完璧超人。
教えるのも上手く、指示が的確で、なんというか説得力がある。
しかし、今の霊夢にとってはそんなことはどうでもよかった。
霊夢は今は教えてもらう側ではなく、見ているだけで、出来たものを食べられればいいのだ。
さっさと終わらないかなぁと願うのみだった。
「ボウルの中に生クリームを入れて、それにグラニュー糖を加えてください。そして、泡が立つようになるまで混ぜ続けましょう」
霊夢は、咲夜の後ろ姿を見ていると、急に振り向き、目線を合わせる。
「これ、混ぜてて頂戴。他の人のところに行ってくるから」
「え~、めんどくさい。私見てるだけなのに何で手伝わなきゃいけないのよ」
「じゃあいちご大福もケーキもいらないわね」
「喜んで手伝わせていただきます」
素直に手伝う霊夢がどこかおかしくて、咲夜はくすりと笑う。
それに何の反応も示さず、黙々とかき混ぜる霊夢を置いて、各テーブルへと向かった。
かき混ぜ方のコツを教えたり、混ぜるのが大変そうな人達のところへ行き、代わりにかき混ぜたりする。
素早く力強い手首の動きがクリームをあっという間に立たせていく。
一通りテーブルを回った咲夜は、霊夢の元へと戻る。
するとどうしたことだろうか、そこには元気の枯れ果てた霊夢の姿があった。
机に上に置いてあるボウルの中のクリームは、しっかりと立つほどまでに混ぜられている。
「お疲れ様。そんなに疲れた?」
「にとりの機械があればこんなこと無いのに…。なんで電子レンジを用意したのにかき混ぜる機械は用意してないのよ!」
「電子レンジはないと困るけど、混ぜるくらいなら自力で出来るでしょう?なんでも機械に頼るようじゃだめよ」
「とりあえず、私はもう働かないわよ」
「はいはい、ありがとね」
なんだかんだ言って手伝ってくれた霊夢に礼を言うと、ケーキ作りを再開する。
「次に、スポンジの下段にクリームを塗りつけましょう。その後にいちごを乗せて、その後にいちごが埋まるくらいにまたクリームを塗りつけましょう」
ケーキヘラを使って綺麗に白いクリームを塗りつけてゆく。
薄い茶色のスポンジが、真っ白に染められていく。
凹凸のない、綺麗な平らの面に、真っ二つに切ったいちごを乗せる。
そして、その上からたっぷりとクリームを重ねる。
甘酸っぱいいちごと、甘いクリームとの融合だった。
「次に、上段を重ねて、上段にもたっぷりとクリームを塗りつけていきましょう。その後はクリームを絞り袋に入れて、デコレーションをし、いちごを乗せましょう。それで完成です」
そっとスポンジを下段の上に重ねると、ケーキヘラを駆使してクリームを丁寧に塗りつける。
これまた凹凸のない、綺麗な城壁のようだった。
「ちょっと霊夢、絞り袋持っててくれない?」
「んぁ~?」
「持つだけでいいから、ほら」
「仕方ないわねぇ」
顔をしかめながらも絞り袋を持つ霊夢。
絞り袋の中にクリームを流し込む。
ありがとうと、咲夜は笑顔付きで霊夢にお礼を言うと、絞り袋を霊夢から返してもらう。
真っ白な土台の上に、渦巻くような形をしたクリームがちょこんと出来あがっていく。
一つ、二つと丁寧に作っていくと、最後にいちごを一つ、真ん中にちょこんと乗せる。
これでいちごのショートケーキの完成である。
和のいちご大福、洋のいちごのショートケーキ
同じいちごを題材とした、和と洋のスイーツ。
妖夢の作ったいちご大福は綺麗な形で、餅取り粉はうっすらとかかっており、とても美味しそうに見える。
また、咲夜の作ったいちごのショートケーキは、綺麗にクリームが塗られ、デコレーションも美しい。
しかし、料理は形なんてどうだっていい。
美味しければ問題がないのだ。
「さてと、みなさん上手く出来たようですね。それでは席に座っていただきましょうか」
ふと気が付けば、フォークが用意され、淹れたての紅茶がティーカップに注がれている。
背後には椅子が置かれている。
人々はそれに座ると、別々に手を合わせ、今作ったばかりのそれを口に運ぶ。
「食べ終わったら、食器はそのままにしておいて結構です。このままこの授業は終わります。次も受けたい方は引き続きここに残ってください。また、違う場所へと移動する方、今日はお疲れさまでした。テキストはぜひお持ち帰りくださいませ」
咲夜が丁寧な口調で授業の終わりを告げると、拍手が返ってくる。
それに咲夜と妖夢が礼をして返す。
「ほら霊夢、餌の時間よ」
「何が餌よ。…まぁ、ありがたく頂くわ」
いちご大福を摘まむと、そのまま一つ丸々口の中へと放り込む。
まるでリスのように頬を膨らませながらも、表情が緩んでいく。
「おいしい?」
「おいひい」
口の中を一杯にして答える霊夢に、咲夜は黙って緑茶を差し出す。
どうせ霊夢は紅茶は飲まないだろうと思い、緑茶をあらかじめ淹れておいたのだ。
それを受け取ると、豪快に飲み干す。
「ぷはぁ!いやぁ、美味しいわ。毎日家に持ってきてよ」
「霊夢と違って私はお庭のお仕事があるから無理」
「残念ね」
続いて、フォークを手に持つと、いちごのショートケーキに突き刺す。
それをそのまま口へと運ぶ。
口の中で、いちごの甘酸っぱい味と、クリームの甘い味、そしてほんのりとした甘みのスポンジとが混ざり合う。
先ほどまで疲れきっていてへたれていた霊夢が、今ではにっこにこだった。
劇的変化といえる、甘いものは人を変えてしまうのか。
「美味しいわぁ。あんたらもう人里にお店開けばいいのに」
「役目があるのにそんなこと出来なわいよ。あなたみたいに神社で暇してるのとは違うんだから」
「な、なによそれ…私を馬鹿にしてるの?」
顔をしかめる霊夢。
その霊夢の口元にはちょこんとクリームが付いている。
「霊夢、クリームついてるわよ?」
「なっ!?」
咲夜の指摘に、霊夢はごしごしと口元を腕で拭う。
そんな霊夢の行動に、咲夜と妖夢は笑う。
「な、なによ、もう…。まぁ、いいわ。美味しかったわ、ありがとね。まだしばらく続くだろうけど頑張りなさいよ」
「言われなくても頑張るわ」
「あなたは人の心配せずに今日を楽しんできなさい」
咲夜と妖夢に別れを告げると、霊夢は別の場所へと足を運ぶ。
(さてと、次はどこに行こうかなぁ…)
霊夢の表情は、至福の笑みで溢れていた。
調理実習は真面目にやった記憶が無い…orz
次は何でしょうね?音楽とか?
評価ありがとうございます。
書いていて自分もお腹がすいてきたので何かないかと探しましたが、何もありませんでした、悔しいのぅ…。
>調理実習は真面目にやった記憶が無い…orz
なんですと…
調理実習面白いんですけどねぇ
調理実習楽しかった。苦手な食材が出るとションボリでしたが orz
なんの説明や違和感も無く電子レンジが使われてたりしたのがちょっと「?」でしたが、
全体的にスッキリと読めました。ほかの授業も楽しみにしてます!
この人里楽しそうだな。妖怪も人間も仲いいみたいだし。住んでみたい。
なんか白玉食いたくなってきた。寒天煮て缶詰のあずきとみかんでも乗せて食おうかな……
次の授業はなんだろな~♪
電子レンジそのものにみんな驚いてたかと思ったら、驚いてたのはあっという間に終わったことについてかwww
そっちかよ!! みんな持ってるのかww
確かに白いエプロンって二人に似合うでしょうね。 フリル付きも良いかも。
霊夢が笑顔いっぱいで大福やケーキを頬張る姿や、調理の様子とか面白かったです。
一字余計な箇所があったので報告です。
>透明感とコシのある状態に仕上げるます。
『る』が一字余計かと。
評価ありがとうございます。
分かりますよ~、嫌いなものつくるときの鬱といったらもうね…。
電子レンジの部分も描写不足でしたか…精進します。
ありがとうございました。
>ペ・四潤 様
評価ありがとうございます。
速筆だけが自分の取り柄ですので…へへ。
自分も書いていて何か作りたくなってきましたわ。
電子レンジはまぁ、一家に一台はなくても、少しは普及してるイメージです。
なんというか、明治時代の電化製品が少しずつ入ってきたようなイメージ。
少しお金持ちの人が持っているような、それでいて、ご近所付き合いで貸してもらったり。
そうやって想像するのって大好きですわ。
>煉獄 様
評価ありがとうございます。
従者の方々はなんというかエプロンが似合う気がします。
ありがたいお言葉です。
これ次のテストに出るからなー。ほらほら橙、早く写さないと黒板の字消しちゃうぞー。
……一方その頃、森近霖之助による体育とは名ばかりの闇の新体操によっt“バキッ”
評価ありがとうございます。
これはもうコチドリ様もSSを書かざるを得ませんねw
苺大福とショートケーキなら合体させてケーキ大福にしても美味しいよね
評価ありがとうございます。
咲夜さんの心境ってのも気になるものですね。
ケーキ大福食べたときないですねぇw