「白酒を飲みながら楽しむ雛祭りは素敵よね」
「……そうかしら」
私、岡崎夢美は素敵な笑顔で雛人形を眺めて白酒を楽しんでいた。
だというのに、紅白の巫女さん、博麗霊夢は微妙な表情で自分の雛壇を睨みながら、白酒を飲んでいた。
「あら、不満げな顔ね。折角私が科学と魔法と神力を注ぎ込んで雛壇を作ったというのに……」
「そりゃあ…… 私のために雛人形を作ってくれたのは嬉しいし、お嫁にだって行きたいわ」
ならよかったじゃない。こうして立派な雛壇が手に入ったわけなんだから。
うん、我ながら素敵ね。私の世界でもこんな雛祭りがしたかった。
「けどね……けどね……」
ん? どうしたの?
東方十二憑 ~ Monster Organize Calendar.
参憑ノ朝 ~ March.
「神社を改造すること無いじゃないのーーーーーっっっ!!!」
う~ん、デザインからして雛壇に向いてると思ってたんだけどね。
雛人形の『メンバー』も最高級を取り揃えたのよ。いつもどおりのメンバーだけど。
「何言ってんだ。こんなことさせてもらえるのは霊夢だからだぜ」
「そうそう。大丈夫だって、祭りが終わったら元に戻すから」
ほら、男雛役の魔理沙と女雛役の萃香もああいってるんだし。
二人とも凄く似合っていて素敵よ。
「酷い扱いだねぇ。わざわざ最年長役で眉消してお歯黒まで塗ったのに……」
「まぁまぁ、似合ってますよ、魅魔さん」
「昔から雛人形になってみたいとは思っていたけど……やっぱりお腹が空くわね~」
三人官女役の魅魔・白蓮・幽々子もノリノリだしね。
なんかこの三人違和感無いわね。やっぱりお姉さんキャラだからかしら?
「あらあら、地上の行事というのは面白いものね」
「理香子ぉ~、この服、あつい~」
「雛壇付きの神社に取り付けば幸せになれるかな?」
「そういえば試験管で笛遊びはしたことがあったな、懐かしいわね……」
「う~ん、やっぱり航海図より難しいよぉ……」
五人囃子役の小兎姫・エレン・カナ・理香子・ちゆりががやがやと騒ぎ始めたわね。
それにしてもちゆり口調変わったわね。存在感も微妙に薄いし
「何故、私達までここにいるのかしら……」
「白玉楼で宴会してたほうがよかったわね」
隋臣役の依姫・豊姫も文句を言い始めた。
仕方ないでしょ、一番似合いそうなのはあなた達なんだし。実際様になってるわよ。
「全く、サニーが欲張るからこんな目に遭うのよ!」
「雛人形役ってぬいぐるみの振りより退屈よね~」
「ちょっとちょっと! ルナもスターも傘で叩かないでよ!!」
仕丁役のルナチャイルドとスターサファイアは持ってる傘で同じ役のサニーミルクを叩いて遊んでいるわね。
ちょっと配役が無理やりすぎたかしら?
「みんなから愛されてるわね霊夢。こんな豪華な雛壇がもらえるの、幻想郷狭しと言えどあなたぐらいのものよ」
「ありがた迷惑だから戻しなさいよーーーーっっ!!」
なによもう。さっきまであんなに雛人形が欲しいって言ったのに……
まあ、そう促したのは他ならぬ私だけど。
さて、時は雛祭りの前日、3月2日まで遡るわ……
東方夢時空 ~ Phantasmagoria of Dim.Dream.
「博麗デラックス雛祭り ~雛人形は時空を超えて~」
あれは私とちゆりが久しぶりに博麗神社に寄った時のことだったわね。
「グーテンモーゲン、ハーワイユー?」
「独語と英語を話すな。ここは日本だ」
「そのノリのいいツッコミ素敵よ、霊夢♪」
その日も相変わらず霊夢は縁側で緑茶をすすっていて、萃香が隣で酔っ払っていたわね。
東方プロジェクトももう12作目だというのに、素敵な巫女さんの頭は年中春なんだから……
「ところで博麗神社では飾らない習慣なのかな?」
「飾らないって何が? お酒?」
「雛人形に決まってるだろ。どこもかしこもみんな飾っていたぜ」
「あー、もうそんな時期かー……あれ?霊夢の雛人形って見たことないや」
ちゆりと萃香の会話が耳に入ってきて、私の頭が冬を始めた。
今信じられない事実が耳に入ってきたんだけど? 雛人形が飾ってない……だと……
「れ、霊夢さん……雛人形ってご存知かしら? そして持ってるかしら?」
「ああ、壇の上に飾る人形のことでしょ。3月頃になると色んなところで並んでいるわね」
一応は知っているみたいね。でもその他人事のような態度はなんなのよ!
「で、持ってるの! 持ってないのっ?!」
「鬼気迫る顔しないでよ! 持って無いわよ。別に飾る必要もないし」
「うわこわっ! 本当に鬼気迫るって感じだよ!!」
「鬼に鬼気迫るって認められたぜ、ご主人」
茶化す馬鹿鬼と馬鹿助手はこの際置いといて……飾る必要ないですって?!
危機感を感じた私はそれを伝えようと、霊夢のむき出しの肩を強く押さえて真剣に話し出す。
「霊夢……あなたは雛祭りを侮っているわね」
「何よ。そんな真剣な顔しちゃって……」
ある程度伝わってくれたのか、霊夢はちょっとビビッた顔をした。やったぁ♪……じゃなくて。
「雛祭りにはこのようなジンクスがあるのよ……『雛祭りが終わった直後に片付けないと嫁に行き遅れる』この意味、分かるかしら?」
「いや、全然……」
「これはね。春になると虫や菌が活動を始めて、出しっぱなしの雛人形はその格好のエサになることから出来た迷信なのよ!」
旧暦の場合、梅雨が間近だから早く片付けないと人形や絹製の細工物に虫喰いやカビが生えるから……っていうのが本来の由来なのよね。
でも私が言ったことも説得力あるでしょ。科学者の私が言ってるから間違いない!
「つまりイメージにするとこんな感じ?」
リグル『出しっぱなしの雛人形、おいしいです^^』
ヤマメ『ほら私のかわいい病原菌達。おいしいおいしいご馳走だよ~』
雛『いやぁっ!お嫁にいけないぃぃーーーっっ!!』
「イメージが極端かつ全年齢ギリギリだけど、まあそんな感じね」
「でもさ、それだったら雛人形がない私には関係ないでしょ。嫁に行き遅れることすらないんだから」
そういいながら萃香と一緒にケラケラ笑う霊夢。その態度に私は改めてラスボス顔で怒鳴った。
「甘いっ! どうやらあなたは勘違いしているようね。それだから新作になるたびに1面で被弾するのよっ!!」
「それは関係ないでしょ! いったいどういうことなのよ?」
まだ分からないのね、このお馬鹿さんは。いいわ、言ってあげる!
「雛人形が無いということは……嫁入りそのものがないということなのよぉっ! なのよぉ…… なのよぉ……」
『な、なんだってぇっ?!』
セルフエコーで叫ぶ私と驚愕する鬼と助手。うん、ちゆりも萃香もナイスノリよ。
一方の霊夢は……見事に絶望してるわね。
「雛人形が無いことがそんなに恐ろしいことだったなんて…… 小さな頃からの夢だったのよ、お嫁さんって……」
「うっ、うっ、かわいそうな霊夢……」
「雛祭りが祝えなくて、お嫁に行けないなんて……こんなのってないぜ!」
やっとことの重大さが分かったようね。今や紅魔館のような西洋文明バリバリのところですら雛人形を飾って雛祭りしてるのよ。このロリコンどもめ!
それにしてもちゆりの一言は凄く痛いわ。そうあれは私が魔法を研究し始めた頃だったわ……雛人形も彼氏もいなくて悪魔召喚プログラムと過ごした3月3日。
……って、私のことはどうでもいいのよ!!
「そういうわけだから霊夢をお嫁に貰う為に霊夢のための雛人形を作るわよ!!」
『おー!!』
「えっ? ちょっと目的変わってない?!」
そうと決まれば膳は急げ! 夢美・ちゆり・萃香の『霊夢雛祭り委員会』は雛人形を求めて上海アリス人形館へとヴァリアブルフォーメーションで飛んでいったのだった。
……どっちかっていうとゲッターフォーメーションかしら? どうでもいいか。
「あーあ、行っちゃった。私のための雛人形かぁ……いいかもね♪」
****** さんつきなのかー ******
「私の家に勝手に変な名前付けないでくれる……」
そうお答えしたのはアリス=マーガトロイド女史。上海アリス人形館の館長である。
そして私達は目の前に飾られている三段の雛人形を物色しているわけよ。
「さすがは人形師。どれもこれもいい仕事してるぜ」
「早速作ってもらおうよ、夢美」
ちゆりも萃香も「これにしよう」「これにしようぜ」とはしゃいでいるようだけど、私としては物足りないわね。
確かに顔は精巧な仕上がりだし、品質も最高級だ。だけど霊夢にあげるのには何かが不十分だ。
「さっきから私の話聞いてる?」
「ひいへはいへみはいはへ、はひふ」(聞いてないみたいだぜ、アリス)
「魔理沙、散らし寿司を頬張りながら話すのやめなさい!」
魔理沙と魅魔の親子が館ちょを慰めているようだけど……
どう見ても冷やかしです、本当にありがとうございました。
「理香子、口に米粒ついてるよ、変なの~」
「あらやだ、私としたことが! アリスの作った散らし寿司は美味しいからねぇ……」
「食べちゃおうっと♪」
「ひゃあっ?! きゅ、急に舐め取らないでよ!」
そして霧雨親子(親子でいいよね)の反対側ではエレンと理香子がいちゃつきながら散らし寿司を食べていた。
くそぅ、あの日を思い出して妬ましく思うわ!
というか、雛祭り前日なのに随分と盛り上がっているわね。クリスマス・イブかっつーの!
「何か物足りないのよね。面白いギミックとか無いのかしら? 髪が伸びるとか首が飛ぶとか」
「そんな不吉なギミックは無いわよ! けどね……」
アリスがすっ…と指を伸ばす。するとどうでしょう、後ろから小さな楽器を取り出して雛人形達が演奏を始めたのよ。
ふふふ、素敵よ、凄く素敵よ。
「このくらいならできるわよ」
「それよそれっ! その手があったわ!」
「ふえっ? 演奏する雛人形が欲しいの?」
「それよりもっといい雛人形よ♪」
私は早速雛祭り前夜祭のメンバー全員に『霊夢に雛人形をプレゼント計画』の全貌を話したわ。先ほど思いついた特製雛人形も含めてね。
それで反応はというと……
「無茶苦茶だ! 不可能ではないが、いくらなんでもやりすぎだ!」
「そうよ! そこまでする必要ないし、霊夢にもきっと迷惑が掛かるわ!」
計画反対派は理香子とアリスの二人だけ。この壮大な計画が理解できないなんて、何時の時代も天才は辛いものね。
後はというと……分かるわね。
「素敵~、魔法使いとして私も手伝うわ~」
「やれやれお人よしですねマスター。私も賛成ですが」
「さすがだぜご主人。その発想力に痺れるし憧れるぜ」
「にゃはは、これは楽しい雛祭りになりそうだね~」
ちゆりと萃香はもちろん、ふわふわ頭のエレンと頭の上の猫、アルキメデスも大賛成してくれた。
「アルキメデスではなくソクラテスです」
細かいことはいいのよ。
で、魅魔と魔理沙はというと……
(魅魔様……嫁に行き遅れるなんて全然知らなかったぜ)
(私もだよ、魔理沙。いつも4月1日頃に片付けてたけど、まさかモテない原因がそれだったとは……)
散らし寿司が止まってるわね。どうしたのかしら?
私はフリーズした時間を解凍すべく、二人にツンツンした。
「あー、お二人さんはこの計画、賛成かしら?反対かしら?」
「あ、ああ、もちろん賛成さ。あの紅白には私みたいにはなって欲しくないからね」
「も、もちろんだぜ。私も霊夢もお嫁さんは小さい頃からの夢だしね」
そして時は動き出し、二人は慌てながらもOKを出してくれた。
それでそのまま散らし寿司を口へと運ぶ。ついでに私達も散らし寿司を頂いた。
美味い、アリス館ちょは料理も美味いときた。数日後に結婚式の招待状が来るわね。
「ほら、みんなも賛成だって言うし、理香子もやろうよ~」
「さっきの話聞いてなかったか? 私はこんな滅茶苦茶な計画に付き合うつもりは……」
「…………………」(←キラキラと「一緒にやろうよ」の眼差し)
「だから……」
「…………………」(←上目遣いで「駄目なの?」の眼差し)
「分かったわよ! やれっていうならやるわよ!!」
エレンに勧誘されてヤケクソ気味に叫ぶ理香子ちゃん。はいはいツンデレご馳走様です。
さて残るは……
「さあ、残るはお前だけだぞアリス。おとなしく私達に協力するか、散らし寿司のおかわりを貰ってから協力するか、どっちか選ばせてやるぜ」
「はいはい、手伝えばいいんでしょ。あなた達だけに任せたら心配だからね。それと散らし寿司のおかわりなら人形に作らせてあるから」
「さすがアリス。話が分かるぜ!」
「あーもー、抱きつかなくていいから!」
アリスも説得完了で『霊夢雛祭り委員会』は⑨名(アリストテレス含む)にまで拡張した。
「ソクラテスですってば!」
いちいち突っ込まなくっていいから。しつこいと実験に使うわよ!
そういえばさっき⑨名って言ったけど……ごめん、撤回するわ。正確には……
「そこの三名も協力してもらうわよ。散らし寿司をつまみ食いしてる妖精ちゃん?」
(ちょ、何でばれてるの?)
(サニーがそんなに散らし寿司をがっつくからでしょ!)
「私の作った精霊センサーに反応してるからよ。姿を消しても音声を消してもバレバレなのよ」
(だってさ♪)
((だってさ、じゃない!!))
あの計画には人数が必要だからね。悪戯妖精でも仕入れとかないとね。
うふ、うふふふふ、面白いことになってきたわ。
「まあ、ある意味幻想郷らしいといえばらしいけど……」
「博麗神社を雛壇に改造して私達が雛人形になるなんて非常識にもほどがあるわ!」
私が魔法生物捕獲ネットを放ち、妖精達がギャーギャー暴れる。人形達の演奏が続く中でおかわりの散らし寿司も無くなっていく。
アリスのそのつぶやきは自然と誰にも聞かれずに消えていったのでした、まる。
****** さんつきなのかー ******
「あら、いらっしゃい。白玉楼へようこそ。ただいま雛祭り中だからゆっくりしていってね!!!」
はい、読者のみんなはこの急展開についていけないでしょうから説明するわね。
12名も集まった『霊夢雛祭り委員会』だけど、人数がもう少しだけ足りないのよ。
だから、白玉楼というおいしそうな名前の恐ろしいところへ仲間集めに来たのでした。冷やかしついでにね。
え、12名もいれば十分ですって? それは普通の雛人形の話よ。それだったら男雛と女雛、三人官女に五人囃子で10名あれば間に合うわ。
けど私の設計した『霊夢専用雛人形セット』はそれに二人隋臣と三人仕丁を加えた15名が必要なのよ。どうせやるなら本格的なほうがいいでしょ?
加えて博麗神社を雛壇に改造したり、衣装を作ったりするスタッフも必要になってくるわけ。ご理解いただけたかしら?
え、何で白玉楼なのかですって? 亡霊とかそういうの好きそうだからに決まってるじゃない。
異論とかあるだろうけど、面倒だから認めないわよ。じゃあ、戻るわね。
「カナ、久しぶりじゃないか。相変わらず憑いているかい?」
「ええ、今はプリズムリバーのお家に憑いてるわ。魅魔もいかがかしら?」
「私は博麗神社が気に入ってるんだ。遠慮させてもらうよ」
騒霊カナ=アナベラル……久々だけどメイド服が相変わらず素敵で安心したわ。
にしても、憑いてるかーい!…ってさすがは幽霊同士の会話ね。ダサいわね。
あ、誰か来た。あれは……騒霊のバイオリニストね。
「あなたこの騒霊の知り合い? お願いだから祓って欲しいんだけど……」
「騒霊が悪霊にお祓いを頼むんじゃないよ! 騒霊同士仲良くしなさいよ」
「いや、仲はいいんだ。妹達とも良く遊んでる。だけど、彼女が来てから家の破損率が2倍になったのよ。どうしてくれるの……」
よかったじゃない。お化け屋敷らしくなって。ほら、それを聞いてカナや妹さん達も喜んでいるわよ。
「よお、小兎姫。久しぶりね。元気してたか?」
「あら、久しぶりね魔理沙。まるで別人みたいだから気付かなかったわ。ああ、別人なのね」
「私は魔理沙だぜ。うふ、うふふふふふ……」
「あら、魔理沙だったのね。お久しぶり」
小兎姫も久しぶり。相変わらずどこかネジが緩んでいるわね。これで警察だって言うんだから月の文化は可笑しくて興味深いわ。
ちなみに月の民は生態レーダーに反応しないという特別な性質がある。幽霊との違いは死んでるか死んでないかぐらいである。白玉楼に集うのは幽霊と相性がよいからなのかもね。閑話休題。
おや、後ろに見慣れない近代的な服装の女性が二人。反応が小兎姫と同じということは彼女達も月の民かしら?
「依姫じゃないか。まさかお前まで白玉楼に来ていたとはね。隣の大食らいは友達か?」
「小兎姫に連れられてね。隣にいるのは姉の豊姫なんだけど……お姉様!そんなに食べたらまた太りますよ!!」
「気にしない気にしない。祭りなんだし」
「あら、地球の祭りは食べ放題なのね」
「違いますよ小兎姫さん!」
「相変わらず苦労してるな。同情するけど助けないぜ」
あれ姉妹なの?全然似て無いんだけど? ああ、月では遺伝が無いのね。新発見だわ!
それにしても月では『~姫』って名前が流行っているのかしら? これも新発見ね!
おや、あそこに生きた人間、発見! 魔力反応が高いということは……新たな魔法使いね! これは早速接触しなくては!
言っておくけど私は魔法研究家であって新聞記者じゃないからね、念のため。
「グーテンモーゲン、長いこと幻想郷にいるけど、始めてみる人ね」
「ぐ、ぐーてんもーげん、魔界から引っ越してきましたので。地上の寺で僧侶をしてます聖白蓮です、よ、よろしくお願いします」
「魔法研究家、岡崎夢美よ。そう硬くならずによろしく……ね♪」
ふわり☆
「きゃあっ?! もう、いきなり何するんですか!」
私は悪戯な春風のように白蓮のロングスカートを捲りあげた。お茶目な私、自重。
ふむふむパンジーねえ、服装も言えるけど僧侶の割にはいいセンスだわ。魔界の流行かしらね?
それで捲られた彼女はというと、少し困った顔をしているけどそれほど怒ってはいないみたい。予想通り柔和な性格ね。
それはそうと少し膨れたその顔可愛くて素敵よ。
「ごめんなさいね、これは私なりの挨拶だから。さてと……幽々子さん、ちょっとお話があるんだけど?」
「あらあらなあに? 美味しい話?」
雛あられを口に放り込みながら、白玉楼のお嬢様亡霊がふわふわとやってきたわ。
その様はとてもお嬢様とは思えないわね。雛人形は二人隋臣と三人仕丁もいる凄い立派なものなのに、このブルジョアめ!
「食べ物じゃないけど……博麗神社、雛壇、みんな、雛人形」
「なるほど、実に素敵な計画ね」
私の適当な説明で全てを理解してくれる幽々子お嬢様は格が違う。宴会の席でぐるぐる回されている庭師も見習うべきね。
「というわけだから、今ここにいる『全員』を使っていいかしら?」
「いいですとも!」
こうして満場一致で『霊夢雛祭り委員会』はそろったのだった。
「いや勝手に決められても困「面白そうじゃない姉さん頑張りましょう!」「お仕事お仕事♪」「雛人形に取り付くなんて素敵ね」…あうぅ」
「私達も月に帰らなけ「いいじゃない。せっかく地球に来たんだし」「雛祭りに参加しましょうよ」ちょっと、二人とも!!」
「幽々子様! そんな勝手なことを言うと他のお客様に迷惑で「私は大丈夫よ妖夢ちゃん。巫女さんのためにみんなで雛人形になるなんて素敵なのでしょう」みょん……」
一部反発があった気がするけど、こうして満場一致で『霊夢雛祭り委員会』はそろったのだった。大事なことだから二回言いました。
****** さんつきなのかー ******
そして深夜の博麗神社にて『霊夢に雛人形をプレゼント計画』は実行に移された。
BGM:地上の星
「確認するけどこれがそれぞれのポジションよ!」
お内裏様 男雛…魔理沙 女雛…萃香
三人官女 銚子…白蓮 お三宝…魅魔 長柄銚子…幽々子
五人囃子 太鼓…小兎姫 大鼓…エレン 小鼓…カナ 笛…理香子 謡…ちゆり
二人隋臣 右大臣…依姫 左大臣…豊姫
三人仕丁 台傘…スターサファイア 沓台…サニーミルク 立傘…ルナチャイルド
背景音楽…プリズムリバー
「残りのメンバーは半分は私の指示の下、博麗神社を改造する。もう半分はアリスの指示の下、みんなの衣装を作るのよ!」
「私が最年長なのが納得いかないんだけど! ここは白蓮ポジションじゃないの? 南無三宝的な意味で!」
「ぶ~、理香子と離れている~」「わがまま言うな! 私だって寂しいんだから……」
「ルナもスターも傘持ってるのに何で私には無いの」
「私はちゆりさんじゃないんですけど」
「先生の話はちゃんと聞く!!」
制限時間付きの工作作業は困難を極めた。
「資材が足りないわよ、岡崎!」
「せめて敬称を付けなさい、アリス! 紅魔館辺りからでもかっぱらってきなさい!」
「衣装の材料が……」
「人里から以下略!」
「Zzz……」
「こらぁ! そこの幽霊ども寝るなぁっ!!」
役者達のリハーサルにも檄が飛んだ。
「それは音楽なのか! 虹川の名が泣くわね!!」
「私達はいつもどおりやってるだけなのに~」
「もっと優しく! デクレッシェンドピアニシシモ!!」
「こらぁっ! 傘で遊ぶんじゃないよ、チビども!!」
「うるっさいわね! 三人老女!!」
「謝れ! 魅魔様と幽々子お嬢様と白蓮さんに今すぐ謝れ!!」
「お酒お酒お酒お酒---っ!!」
「萃香も静かにしろ!」
『あ、太鼓破れちゃった……』
「ったく、この三人は……今すぐ修理するから待ってろ!」
「理香子さん、これ海図じゃないから分からないんですけど……」
「それは私もわからん。謡っている振りだけでいいんじゃないの?」
「疲れるよぉ……月に帰りたいよぉ……」
「言い出したのはお姉様なんですからね! はぁ……」
その上、天候までもが彼女達を阻んだ。
「みょーん! 夢美さん、大雨が!」
「私の魔法科学が防ぐわ! 苺クロス・バリアスペシャル!!」
ジャキンジャキンジャキーン!!
「す、凄い……凄いです夢美さん!!」
『イヤッホーウゥ、岡崎最高!!』
「伊達にラスボスはやってないわ! さあ、感心してないで仕事を続けなさい!!」
そして……3月3日、卯の刻。それはついに完成したのだった。
****** さんつきなのかー ******
「みんなから愛されてるわね霊夢。こんな豪華な雛壇がもらえるの、幻想郷狭しと言えどあなたぐらいのものよ」
「ありがた迷惑だから戻しなさいよーーーーっっ!!」
なによもう。さっきまであんなに雛人形が欲しいって言ったのに……
まあ、そう促したのは他ならぬ私だけど。
「……ってそんなに強く蹴ったら駄目! 駄目だったら!」
ぐらぐらぐらぐらぐらぁぁぁ……………
「え、何この不吉な音は……」
「これ、突貫工事だから強い衝撃に耐えるように設計されて無いのよ……」
「強い衝撃って……か弱い乙女の蹴り一発で崩れるわけが……」
ドングラガシャガギャラドガラデーーーーンン!!!
「らめぇぇぇーーーーっっ!! 雛人形が崩れるのやぁっ! やぁなのぉぉーーーーっっっ!!!」
私の乙女な悲鳴とともに雛壇の土台は斜めに崩れ落ち、雛人形の役者達が「わーーーっっ!!」と叫びながらバラエティの滑り台クイズの不正解者の如く滑り落ちていったわ。
雛人形達が私を押しつぶした後、待ってましたとばかりに博麗神社が騒音を立てながら崩れ落ちていったのでした。
「もう……なんでこうなるのよぉ……」
「やっぱり無茶だったんですよ。一日で巨大雛人形なんて……」
「見ない間に随分と丁寧なしゃべり方になったわね、ちゆり! なんか素敵過ぎてムカつくわ!」
「あの私……ちゆりさんじゃなくて、水蜜なんですけど」
へっ? 私の目が・ ・となって、くちが△となる。あわせて・△・な顔になった。
えっと……どういうことなの?
「だから、北白河ちゆりさんじゃなくて、村紗水蜜なんですけど……」
あら別人だったのね。道理でなんか髪の色が違って存在感薄いわけね。納得納得。
「あなたにとってちゆりさんの識別コードはなんなのですか?」
「セーラー服だけど何か?」
「もういいです……」
「酷いぜご主人……」
天の上から助手の爽やかな笑顔と悲しい声が澄み渡った気がする。
素敵な素敵な3月3日、雛祭りだったわ。
****** さんつきなのかー ******
……こうして私達が徹夜で作り上げた
『霊夢だけの為の世界に一つだけしかない豪華出演者ぷらす精鋭スタッフ達による雛祭り博麗神社』は素敵な巫女さんの蹴り一発で見事に崩れたのでした。ここまで引っ張っておいて酷いオチね。
『物の創造には一生かかる。物の崩壊は一瞬で終わる』 BY 岡崎夢美
で、その後は片付けやら神社の修理やらで一日が終わって、深夜にみんなへのお礼として私が『雛祭りされて』しまったのだけど……
……それはまた別の話。
「……そうかしら」
私、岡崎夢美は素敵な笑顔で雛人形を眺めて白酒を楽しんでいた。
だというのに、紅白の巫女さん、博麗霊夢は微妙な表情で自分の雛壇を睨みながら、白酒を飲んでいた。
「あら、不満げな顔ね。折角私が科学と魔法と神力を注ぎ込んで雛壇を作ったというのに……」
「そりゃあ…… 私のために雛人形を作ってくれたのは嬉しいし、お嫁にだって行きたいわ」
ならよかったじゃない。こうして立派な雛壇が手に入ったわけなんだから。
うん、我ながら素敵ね。私の世界でもこんな雛祭りがしたかった。
「けどね……けどね……」
ん? どうしたの?
東方十二憑 ~ Monster Organize Calendar.
参憑ノ朝 ~ March.
「神社を改造すること無いじゃないのーーーーーっっっ!!!」
う~ん、デザインからして雛壇に向いてると思ってたんだけどね。
雛人形の『メンバー』も最高級を取り揃えたのよ。いつもどおりのメンバーだけど。
「何言ってんだ。こんなことさせてもらえるのは霊夢だからだぜ」
「そうそう。大丈夫だって、祭りが終わったら元に戻すから」
ほら、男雛役の魔理沙と女雛役の萃香もああいってるんだし。
二人とも凄く似合っていて素敵よ。
「酷い扱いだねぇ。わざわざ最年長役で眉消してお歯黒まで塗ったのに……」
「まぁまぁ、似合ってますよ、魅魔さん」
「昔から雛人形になってみたいとは思っていたけど……やっぱりお腹が空くわね~」
三人官女役の魅魔・白蓮・幽々子もノリノリだしね。
なんかこの三人違和感無いわね。やっぱりお姉さんキャラだからかしら?
「あらあら、地上の行事というのは面白いものね」
「理香子ぉ~、この服、あつい~」
「雛壇付きの神社に取り付けば幸せになれるかな?」
「そういえば試験管で笛遊びはしたことがあったな、懐かしいわね……」
「う~ん、やっぱり航海図より難しいよぉ……」
五人囃子役の小兎姫・エレン・カナ・理香子・ちゆりががやがやと騒ぎ始めたわね。
それにしてもちゆり口調変わったわね。存在感も微妙に薄いし
「何故、私達までここにいるのかしら……」
「白玉楼で宴会してたほうがよかったわね」
隋臣役の依姫・豊姫も文句を言い始めた。
仕方ないでしょ、一番似合いそうなのはあなた達なんだし。実際様になってるわよ。
「全く、サニーが欲張るからこんな目に遭うのよ!」
「雛人形役ってぬいぐるみの振りより退屈よね~」
「ちょっとちょっと! ルナもスターも傘で叩かないでよ!!」
仕丁役のルナチャイルドとスターサファイアは持ってる傘で同じ役のサニーミルクを叩いて遊んでいるわね。
ちょっと配役が無理やりすぎたかしら?
「みんなから愛されてるわね霊夢。こんな豪華な雛壇がもらえるの、幻想郷狭しと言えどあなたぐらいのものよ」
「ありがた迷惑だから戻しなさいよーーーーっっ!!」
なによもう。さっきまであんなに雛人形が欲しいって言ったのに……
まあ、そう促したのは他ならぬ私だけど。
さて、時は雛祭りの前日、3月2日まで遡るわ……
東方夢時空 ~ Phantasmagoria of Dim.Dream.
「博麗デラックス雛祭り ~雛人形は時空を超えて~」
あれは私とちゆりが久しぶりに博麗神社に寄った時のことだったわね。
「グーテンモーゲン、ハーワイユー?」
「独語と英語を話すな。ここは日本だ」
「そのノリのいいツッコミ素敵よ、霊夢♪」
その日も相変わらず霊夢は縁側で緑茶をすすっていて、萃香が隣で酔っ払っていたわね。
東方プロジェクトももう12作目だというのに、素敵な巫女さんの頭は年中春なんだから……
「ところで博麗神社では飾らない習慣なのかな?」
「飾らないって何が? お酒?」
「雛人形に決まってるだろ。どこもかしこもみんな飾っていたぜ」
「あー、もうそんな時期かー……あれ?霊夢の雛人形って見たことないや」
ちゆりと萃香の会話が耳に入ってきて、私の頭が冬を始めた。
今信じられない事実が耳に入ってきたんだけど? 雛人形が飾ってない……だと……
「れ、霊夢さん……雛人形ってご存知かしら? そして持ってるかしら?」
「ああ、壇の上に飾る人形のことでしょ。3月頃になると色んなところで並んでいるわね」
一応は知っているみたいね。でもその他人事のような態度はなんなのよ!
「で、持ってるの! 持ってないのっ?!」
「鬼気迫る顔しないでよ! 持って無いわよ。別に飾る必要もないし」
「うわこわっ! 本当に鬼気迫るって感じだよ!!」
「鬼に鬼気迫るって認められたぜ、ご主人」
茶化す馬鹿鬼と馬鹿助手はこの際置いといて……飾る必要ないですって?!
危機感を感じた私はそれを伝えようと、霊夢のむき出しの肩を強く押さえて真剣に話し出す。
「霊夢……あなたは雛祭りを侮っているわね」
「何よ。そんな真剣な顔しちゃって……」
ある程度伝わってくれたのか、霊夢はちょっとビビッた顔をした。やったぁ♪……じゃなくて。
「雛祭りにはこのようなジンクスがあるのよ……『雛祭りが終わった直後に片付けないと嫁に行き遅れる』この意味、分かるかしら?」
「いや、全然……」
「これはね。春になると虫や菌が活動を始めて、出しっぱなしの雛人形はその格好のエサになることから出来た迷信なのよ!」
旧暦の場合、梅雨が間近だから早く片付けないと人形や絹製の細工物に虫喰いやカビが生えるから……っていうのが本来の由来なのよね。
でも私が言ったことも説得力あるでしょ。科学者の私が言ってるから間違いない!
「つまりイメージにするとこんな感じ?」
リグル『出しっぱなしの雛人形、おいしいです^^』
ヤマメ『ほら私のかわいい病原菌達。おいしいおいしいご馳走だよ~』
雛『いやぁっ!お嫁にいけないぃぃーーーっっ!!』
「イメージが極端かつ全年齢ギリギリだけど、まあそんな感じね」
「でもさ、それだったら雛人形がない私には関係ないでしょ。嫁に行き遅れることすらないんだから」
そういいながら萃香と一緒にケラケラ笑う霊夢。その態度に私は改めてラスボス顔で怒鳴った。
「甘いっ! どうやらあなたは勘違いしているようね。それだから新作になるたびに1面で被弾するのよっ!!」
「それは関係ないでしょ! いったいどういうことなのよ?」
まだ分からないのね、このお馬鹿さんは。いいわ、言ってあげる!
「雛人形が無いということは……嫁入りそのものがないということなのよぉっ! なのよぉ…… なのよぉ……」
『な、なんだってぇっ?!』
セルフエコーで叫ぶ私と驚愕する鬼と助手。うん、ちゆりも萃香もナイスノリよ。
一方の霊夢は……見事に絶望してるわね。
「雛人形が無いことがそんなに恐ろしいことだったなんて…… 小さな頃からの夢だったのよ、お嫁さんって……」
「うっ、うっ、かわいそうな霊夢……」
「雛祭りが祝えなくて、お嫁に行けないなんて……こんなのってないぜ!」
やっとことの重大さが分かったようね。今や紅魔館のような西洋文明バリバリのところですら雛人形を飾って雛祭りしてるのよ。このロリコンどもめ!
それにしてもちゆりの一言は凄く痛いわ。そうあれは私が魔法を研究し始めた頃だったわ……雛人形も彼氏もいなくて悪魔召喚プログラムと過ごした3月3日。
……って、私のことはどうでもいいのよ!!
「そういうわけだから霊夢をお嫁に貰う為に霊夢のための雛人形を作るわよ!!」
『おー!!』
「えっ? ちょっと目的変わってない?!」
そうと決まれば膳は急げ! 夢美・ちゆり・萃香の『霊夢雛祭り委員会』は雛人形を求めて上海アリス人形館へとヴァリアブルフォーメーションで飛んでいったのだった。
……どっちかっていうとゲッターフォーメーションかしら? どうでもいいか。
「あーあ、行っちゃった。私のための雛人形かぁ……いいかもね♪」
****** さんつきなのかー ******
「私の家に勝手に変な名前付けないでくれる……」
そうお答えしたのはアリス=マーガトロイド女史。上海アリス人形館の館長である。
そして私達は目の前に飾られている三段の雛人形を物色しているわけよ。
「さすがは人形師。どれもこれもいい仕事してるぜ」
「早速作ってもらおうよ、夢美」
ちゆりも萃香も「これにしよう」「これにしようぜ」とはしゃいでいるようだけど、私としては物足りないわね。
確かに顔は精巧な仕上がりだし、品質も最高級だ。だけど霊夢にあげるのには何かが不十分だ。
「さっきから私の話聞いてる?」
「ひいへはいへみはいはへ、はひふ」(聞いてないみたいだぜ、アリス)
「魔理沙、散らし寿司を頬張りながら話すのやめなさい!」
魔理沙と魅魔の親子が館ちょを慰めているようだけど……
どう見ても冷やかしです、本当にありがとうございました。
「理香子、口に米粒ついてるよ、変なの~」
「あらやだ、私としたことが! アリスの作った散らし寿司は美味しいからねぇ……」
「食べちゃおうっと♪」
「ひゃあっ?! きゅ、急に舐め取らないでよ!」
そして霧雨親子(親子でいいよね)の反対側ではエレンと理香子がいちゃつきながら散らし寿司を食べていた。
くそぅ、あの日を思い出して妬ましく思うわ!
というか、雛祭り前日なのに随分と盛り上がっているわね。クリスマス・イブかっつーの!
「何か物足りないのよね。面白いギミックとか無いのかしら? 髪が伸びるとか首が飛ぶとか」
「そんな不吉なギミックは無いわよ! けどね……」
アリスがすっ…と指を伸ばす。するとどうでしょう、後ろから小さな楽器を取り出して雛人形達が演奏を始めたのよ。
ふふふ、素敵よ、凄く素敵よ。
「このくらいならできるわよ」
「それよそれっ! その手があったわ!」
「ふえっ? 演奏する雛人形が欲しいの?」
「それよりもっといい雛人形よ♪」
私は早速雛祭り前夜祭のメンバー全員に『霊夢に雛人形をプレゼント計画』の全貌を話したわ。先ほど思いついた特製雛人形も含めてね。
それで反応はというと……
「無茶苦茶だ! 不可能ではないが、いくらなんでもやりすぎだ!」
「そうよ! そこまでする必要ないし、霊夢にもきっと迷惑が掛かるわ!」
計画反対派は理香子とアリスの二人だけ。この壮大な計画が理解できないなんて、何時の時代も天才は辛いものね。
後はというと……分かるわね。
「素敵~、魔法使いとして私も手伝うわ~」
「やれやれお人よしですねマスター。私も賛成ですが」
「さすがだぜご主人。その発想力に痺れるし憧れるぜ」
「にゃはは、これは楽しい雛祭りになりそうだね~」
ちゆりと萃香はもちろん、ふわふわ頭のエレンと頭の上の猫、アルキメデスも大賛成してくれた。
「アルキメデスではなくソクラテスです」
細かいことはいいのよ。
で、魅魔と魔理沙はというと……
(魅魔様……嫁に行き遅れるなんて全然知らなかったぜ)
(私もだよ、魔理沙。いつも4月1日頃に片付けてたけど、まさかモテない原因がそれだったとは……)
散らし寿司が止まってるわね。どうしたのかしら?
私はフリーズした時間を解凍すべく、二人にツンツンした。
「あー、お二人さんはこの計画、賛成かしら?反対かしら?」
「あ、ああ、もちろん賛成さ。あの紅白には私みたいにはなって欲しくないからね」
「も、もちろんだぜ。私も霊夢もお嫁さんは小さい頃からの夢だしね」
そして時は動き出し、二人は慌てながらもOKを出してくれた。
それでそのまま散らし寿司を口へと運ぶ。ついでに私達も散らし寿司を頂いた。
美味い、アリス館ちょは料理も美味いときた。数日後に結婚式の招待状が来るわね。
「ほら、みんなも賛成だって言うし、理香子もやろうよ~」
「さっきの話聞いてなかったか? 私はこんな滅茶苦茶な計画に付き合うつもりは……」
「…………………」(←キラキラと「一緒にやろうよ」の眼差し)
「だから……」
「…………………」(←上目遣いで「駄目なの?」の眼差し)
「分かったわよ! やれっていうならやるわよ!!」
エレンに勧誘されてヤケクソ気味に叫ぶ理香子ちゃん。はいはいツンデレご馳走様です。
さて残るは……
「さあ、残るはお前だけだぞアリス。おとなしく私達に協力するか、散らし寿司のおかわりを貰ってから協力するか、どっちか選ばせてやるぜ」
「はいはい、手伝えばいいんでしょ。あなた達だけに任せたら心配だからね。それと散らし寿司のおかわりなら人形に作らせてあるから」
「さすがアリス。話が分かるぜ!」
「あーもー、抱きつかなくていいから!」
アリスも説得完了で『霊夢雛祭り委員会』は⑨名(アリストテレス含む)にまで拡張した。
「ソクラテスですってば!」
いちいち突っ込まなくっていいから。しつこいと実験に使うわよ!
そういえばさっき⑨名って言ったけど……ごめん、撤回するわ。正確には……
「そこの三名も協力してもらうわよ。散らし寿司をつまみ食いしてる妖精ちゃん?」
(ちょ、何でばれてるの?)
(サニーがそんなに散らし寿司をがっつくからでしょ!)
「私の作った精霊センサーに反応してるからよ。姿を消しても音声を消してもバレバレなのよ」
(だってさ♪)
((だってさ、じゃない!!))
あの計画には人数が必要だからね。悪戯妖精でも仕入れとかないとね。
うふ、うふふふふ、面白いことになってきたわ。
「まあ、ある意味幻想郷らしいといえばらしいけど……」
「博麗神社を雛壇に改造して私達が雛人形になるなんて非常識にもほどがあるわ!」
私が魔法生物捕獲ネットを放ち、妖精達がギャーギャー暴れる。人形達の演奏が続く中でおかわりの散らし寿司も無くなっていく。
アリスのそのつぶやきは自然と誰にも聞かれずに消えていったのでした、まる。
****** さんつきなのかー ******
「あら、いらっしゃい。白玉楼へようこそ。ただいま雛祭り中だからゆっくりしていってね!!!」
はい、読者のみんなはこの急展開についていけないでしょうから説明するわね。
12名も集まった『霊夢雛祭り委員会』だけど、人数がもう少しだけ足りないのよ。
だから、白玉楼というおいしそうな名前の恐ろしいところへ仲間集めに来たのでした。冷やかしついでにね。
え、12名もいれば十分ですって? それは普通の雛人形の話よ。それだったら男雛と女雛、三人官女に五人囃子で10名あれば間に合うわ。
けど私の設計した『霊夢専用雛人形セット』はそれに二人隋臣と三人仕丁を加えた15名が必要なのよ。どうせやるなら本格的なほうがいいでしょ?
加えて博麗神社を雛壇に改造したり、衣装を作ったりするスタッフも必要になってくるわけ。ご理解いただけたかしら?
え、何で白玉楼なのかですって? 亡霊とかそういうの好きそうだからに決まってるじゃない。
異論とかあるだろうけど、面倒だから認めないわよ。じゃあ、戻るわね。
「カナ、久しぶりじゃないか。相変わらず憑いているかい?」
「ええ、今はプリズムリバーのお家に憑いてるわ。魅魔もいかがかしら?」
「私は博麗神社が気に入ってるんだ。遠慮させてもらうよ」
騒霊カナ=アナベラル……久々だけどメイド服が相変わらず素敵で安心したわ。
にしても、憑いてるかーい!…ってさすがは幽霊同士の会話ね。ダサいわね。
あ、誰か来た。あれは……騒霊のバイオリニストね。
「あなたこの騒霊の知り合い? お願いだから祓って欲しいんだけど……」
「騒霊が悪霊にお祓いを頼むんじゃないよ! 騒霊同士仲良くしなさいよ」
「いや、仲はいいんだ。妹達とも良く遊んでる。だけど、彼女が来てから家の破損率が2倍になったのよ。どうしてくれるの……」
よかったじゃない。お化け屋敷らしくなって。ほら、それを聞いてカナや妹さん達も喜んでいるわよ。
「よお、小兎姫。久しぶりね。元気してたか?」
「あら、久しぶりね魔理沙。まるで別人みたいだから気付かなかったわ。ああ、別人なのね」
「私は魔理沙だぜ。うふ、うふふふふふ……」
「あら、魔理沙だったのね。お久しぶり」
小兎姫も久しぶり。相変わらずどこかネジが緩んでいるわね。これで警察だって言うんだから月の文化は可笑しくて興味深いわ。
ちなみに月の民は生態レーダーに反応しないという特別な性質がある。幽霊との違いは死んでるか死んでないかぐらいである。白玉楼に集うのは幽霊と相性がよいからなのかもね。閑話休題。
おや、後ろに見慣れない近代的な服装の女性が二人。反応が小兎姫と同じということは彼女達も月の民かしら?
「依姫じゃないか。まさかお前まで白玉楼に来ていたとはね。隣の大食らいは友達か?」
「小兎姫に連れられてね。隣にいるのは姉の豊姫なんだけど……お姉様!そんなに食べたらまた太りますよ!!」
「気にしない気にしない。祭りなんだし」
「あら、地球の祭りは食べ放題なのね」
「違いますよ小兎姫さん!」
「相変わらず苦労してるな。同情するけど助けないぜ」
あれ姉妹なの?全然似て無いんだけど? ああ、月では遺伝が無いのね。新発見だわ!
それにしても月では『~姫』って名前が流行っているのかしら? これも新発見ね!
おや、あそこに生きた人間、発見! 魔力反応が高いということは……新たな魔法使いね! これは早速接触しなくては!
言っておくけど私は魔法研究家であって新聞記者じゃないからね、念のため。
「グーテンモーゲン、長いこと幻想郷にいるけど、始めてみる人ね」
「ぐ、ぐーてんもーげん、魔界から引っ越してきましたので。地上の寺で僧侶をしてます聖白蓮です、よ、よろしくお願いします」
「魔法研究家、岡崎夢美よ。そう硬くならずによろしく……ね♪」
ふわり☆
「きゃあっ?! もう、いきなり何するんですか!」
私は悪戯な春風のように白蓮のロングスカートを捲りあげた。お茶目な私、自重。
ふむふむパンジーねえ、服装も言えるけど僧侶の割にはいいセンスだわ。魔界の流行かしらね?
それで捲られた彼女はというと、少し困った顔をしているけどそれほど怒ってはいないみたい。予想通り柔和な性格ね。
それはそうと少し膨れたその顔可愛くて素敵よ。
「ごめんなさいね、これは私なりの挨拶だから。さてと……幽々子さん、ちょっとお話があるんだけど?」
「あらあらなあに? 美味しい話?」
雛あられを口に放り込みながら、白玉楼のお嬢様亡霊がふわふわとやってきたわ。
その様はとてもお嬢様とは思えないわね。雛人形は二人隋臣と三人仕丁もいる凄い立派なものなのに、このブルジョアめ!
「食べ物じゃないけど……博麗神社、雛壇、みんな、雛人形」
「なるほど、実に素敵な計画ね」
私の適当な説明で全てを理解してくれる幽々子お嬢様は格が違う。宴会の席でぐるぐる回されている庭師も見習うべきね。
「というわけだから、今ここにいる『全員』を使っていいかしら?」
「いいですとも!」
こうして満場一致で『霊夢雛祭り委員会』はそろったのだった。
「いや勝手に決められても困「面白そうじゃない姉さん頑張りましょう!」「お仕事お仕事♪」「雛人形に取り付くなんて素敵ね」…あうぅ」
「私達も月に帰らなけ「いいじゃない。せっかく地球に来たんだし」「雛祭りに参加しましょうよ」ちょっと、二人とも!!」
「幽々子様! そんな勝手なことを言うと他のお客様に迷惑で「私は大丈夫よ妖夢ちゃん。巫女さんのためにみんなで雛人形になるなんて素敵なのでしょう」みょん……」
一部反発があった気がするけど、こうして満場一致で『霊夢雛祭り委員会』はそろったのだった。大事なことだから二回言いました。
****** さんつきなのかー ******
そして深夜の博麗神社にて『霊夢に雛人形をプレゼント計画』は実行に移された。
BGM:地上の星
「確認するけどこれがそれぞれのポジションよ!」
お内裏様 男雛…魔理沙 女雛…萃香
三人官女 銚子…白蓮 お三宝…魅魔 長柄銚子…幽々子
五人囃子 太鼓…小兎姫 大鼓…エレン 小鼓…カナ 笛…理香子 謡…ちゆり
二人隋臣 右大臣…依姫 左大臣…豊姫
三人仕丁 台傘…スターサファイア 沓台…サニーミルク 立傘…ルナチャイルド
背景音楽…プリズムリバー
「残りのメンバーは半分は私の指示の下、博麗神社を改造する。もう半分はアリスの指示の下、みんなの衣装を作るのよ!」
「私が最年長なのが納得いかないんだけど! ここは白蓮ポジションじゃないの? 南無三宝的な意味で!」
「ぶ~、理香子と離れている~」「わがまま言うな! 私だって寂しいんだから……」
「ルナもスターも傘持ってるのに何で私には無いの」
「私はちゆりさんじゃないんですけど」
「先生の話はちゃんと聞く!!」
制限時間付きの工作作業は困難を極めた。
「資材が足りないわよ、岡崎!」
「せめて敬称を付けなさい、アリス! 紅魔館辺りからでもかっぱらってきなさい!」
「衣装の材料が……」
「人里から以下略!」
「Zzz……」
「こらぁ! そこの幽霊ども寝るなぁっ!!」
役者達のリハーサルにも檄が飛んだ。
「それは音楽なのか! 虹川の名が泣くわね!!」
「私達はいつもどおりやってるだけなのに~」
「もっと優しく! デクレッシェンドピアニシシモ!!」
「こらぁっ! 傘で遊ぶんじゃないよ、チビども!!」
「うるっさいわね! 三人老女!!」
「謝れ! 魅魔様と幽々子お嬢様と白蓮さんに今すぐ謝れ!!」
「お酒お酒お酒お酒---っ!!」
「萃香も静かにしろ!」
『あ、太鼓破れちゃった……』
「ったく、この三人は……今すぐ修理するから待ってろ!」
「理香子さん、これ海図じゃないから分からないんですけど……」
「それは私もわからん。謡っている振りだけでいいんじゃないの?」
「疲れるよぉ……月に帰りたいよぉ……」
「言い出したのはお姉様なんですからね! はぁ……」
その上、天候までもが彼女達を阻んだ。
「みょーん! 夢美さん、大雨が!」
「私の魔法科学が防ぐわ! 苺クロス・バリアスペシャル!!」
ジャキンジャキンジャキーン!!
「す、凄い……凄いです夢美さん!!」
『イヤッホーウゥ、岡崎最高!!』
「伊達にラスボスはやってないわ! さあ、感心してないで仕事を続けなさい!!」
そして……3月3日、卯の刻。それはついに完成したのだった。
****** さんつきなのかー ******
「みんなから愛されてるわね霊夢。こんな豪華な雛壇がもらえるの、幻想郷狭しと言えどあなたぐらいのものよ」
「ありがた迷惑だから戻しなさいよーーーーっっ!!」
なによもう。さっきまであんなに雛人形が欲しいって言ったのに……
まあ、そう促したのは他ならぬ私だけど。
「……ってそんなに強く蹴ったら駄目! 駄目だったら!」
ぐらぐらぐらぐらぐらぁぁぁ……………
「え、何この不吉な音は……」
「これ、突貫工事だから強い衝撃に耐えるように設計されて無いのよ……」
「強い衝撃って……か弱い乙女の蹴り一発で崩れるわけが……」
ドングラガシャガギャラドガラデーーーーンン!!!
「らめぇぇぇーーーーっっ!! 雛人形が崩れるのやぁっ! やぁなのぉぉーーーーっっっ!!!」
私の乙女な悲鳴とともに雛壇の土台は斜めに崩れ落ち、雛人形の役者達が「わーーーっっ!!」と叫びながらバラエティの滑り台クイズの不正解者の如く滑り落ちていったわ。
雛人形達が私を押しつぶした後、待ってましたとばかりに博麗神社が騒音を立てながら崩れ落ちていったのでした。
「もう……なんでこうなるのよぉ……」
「やっぱり無茶だったんですよ。一日で巨大雛人形なんて……」
「見ない間に随分と丁寧なしゃべり方になったわね、ちゆり! なんか素敵過ぎてムカつくわ!」
「あの私……ちゆりさんじゃなくて、水蜜なんですけど」
へっ? 私の目が・ ・となって、くちが△となる。あわせて・△・な顔になった。
えっと……どういうことなの?
「だから、北白河ちゆりさんじゃなくて、村紗水蜜なんですけど……」
あら別人だったのね。道理でなんか髪の色が違って存在感薄いわけね。納得納得。
「あなたにとってちゆりさんの識別コードはなんなのですか?」
「セーラー服だけど何か?」
「もういいです……」
「酷いぜご主人……」
天の上から助手の爽やかな笑顔と悲しい声が澄み渡った気がする。
素敵な素敵な3月3日、雛祭りだったわ。
****** さんつきなのかー ******
……こうして私達が徹夜で作り上げた
『霊夢だけの為の世界に一つだけしかない豪華出演者ぷらす精鋭スタッフ達による雛祭り博麗神社』は素敵な巫女さんの蹴り一発で見事に崩れたのでした。ここまで引っ張っておいて酷いオチね。
『物の創造には一生かかる。物の崩壊は一瞬で終わる』 BY 岡崎夢美
で、その後は片付けやら神社の修理やらで一日が終わって、深夜にみんなへのお礼として私が『雛祭りされて』しまったのだけど……
……それはまた別の話。
キャラも気持ち悪い。