『さぁ、蓬莱。
もう一度無に帰りなさい。
もう二度と戻って来る事は出来ないけどね・・・・!!』
上海人形から溢れ出す妖気。
既にソレは大妖怪の持つソレ。
蓬莱人形が敵う道理は無い。
「蓬莱。 加勢するぜ。」
『いや、申し訳ないが魔理沙。 ここはあたし一人にやらせてくれ。』
「・・・・そうか」
魔理沙は蓬莱の顔を見てしまった。
人形の、簡略化された顔のくせに決意がありありと見て取れる。
蓬莱には確固たる決意があるのだ。
それを曲げる事は出来ない。
そう、今の蓬莱人形に手出しは無用。
『悪いな。』
「勝算はあるのか?」
『あたしも呪いの人形でね。 アイツに対する恨み辛みがわんさかあったのさ。』
つまりはそういう事。
そう、一人でやり合い、勝つ為にはソレしか手は無い。
魔理沙はどう考えてもその結論に至ってしまう。
「・・・おい、冗談はやめろよな。 お前まで狂っちまったらアリスはどうなるんだよ!!」
『・・・・魔理沙がいるさ。』
「あ?」
『アリスの事・・・・頼んだ。』
「馬鹿!! 戻れ!!」
・・・魔理沙は勘違いしている。
でもソレを教えてやる事は出来ない。
何はともあれやるべき事は順序良く行かなくては行けない事。
一度失敗したら二度目は無いと言える事。
それは魔理沙がアリスにやった事と同じ事。
魔理沙は勘違いしている。
あたしが恨み辛みを爆発させるのは何もアリスの為じゃない。
それは自分の為。
不満があるというだけ。
それは自分に対する哀れみ。
―――ごめんなアリス。
そう呟いて、弾幕の雨の中に身を晒す。
『あはははあはっはあっはははははっはははぁっ!!
今日二回目ね! 蓬莱!! 今度こそすり潰してやるわ!!』
『そうはいかないさ。』
そう、あたしは呪いの人形。
恨み辛みで強化するモノだろう。
それすなわち相手を憎めばそれで良い。
蓬莱人形は弾幕をすり抜けながら声を張り上げた。
『上海!! あたしはあんたが憎い!!』
『・・・?』
『今まで自分の感情を押し殺してたけどな!! ようやっと気がついた!! あたしはあんたが憎い!!』
幸い元々あたしは上海人形が憎かった。
憎くて憎くて堪らなかった。
だから憎んでみる。
それが上海人形に対抗する術だから。
しかし、コレは己の強化の為のモノでは無い。
強化しようとはハナから思っていない。
恨みたいが為にやっている訳では無い。
『何を言ってるの? 私がアンタを憎んでいるのよ。』
『違う!! あたしはあんたが憎い!! 殺したい程憎い!!』
『・・・・・』
『何故あたしはできてしまう!! 何故あたしは強い!!
それは決して悪い事じゃない筈だ!!
あたし達の存在意義はアリスを守る事だからだ!!
あたし達の存在意義はアリスを守る為の盾!!
あたし達の存在意義はアリスを守る為の矛!!
あたし達の存在意義はアリスを守る為の駒だ!!
人形の中で一番強いあたしはその最たる物だ!!
一番アリスに可愛がられて然るべきだ!!
なのに何故だ!!
何故お前ばかりが愛される!!』
そう、それはずっと思い続けていた事。
『あたしはあんたが羨ましい!!
魔力を一点に集中するのに半年かかった!?
それがどうした!!
その間お前はアリスをずっと独り占めだ!!
あたしは簡単に出来た!!
だからどうした!!
それじゃあアリスは私の傍に居てくれない!!
あたしがあんたに勝ってるのは魔力だけだ!!
それ以外は全てにおいて劣ってる!!
アリスは臆病だ!!
だから本気は出さない!!
決して本気は出さない!!
だからあたしは殆ど呼ばれやしない!!
あんたに魔力で勝ってるのに!!
あたしの方が武器として高性能なのに!!
アリスはあたしを使わずにあんたばっかり使う!!
ズルいじゃないか!!
あたしが彼女の傍にいる為にはどうすればいいんだ!!
ワザと出来ないフリをしてアリスと一緒に修行をしようと思った!!
何度も思った!!
でも出来なかった!!
当然だ!!
アリスに嘘なんか吐けるか!!
悔しい!!
どうしてあんたばかりが愛される!!
悔しい!!
どうしてあたしは愛されない!!
悔しい!!
悔しくて堪らない!!
羨ましい!!
あんたが羨ましくて仕方ない!!
いつもいつもいつもいつもいつも!!
アリスの隣に居るあんたが羨ましい!!』
そうそれは本心「だった」。
『・・・ち・・違う!! 私は!!』
『「ありがとう蓬莱人形」!!
その言葉を言われる為にはどうすればいい!!
あたしには魔力しかない!!
もっともっとご主人様に愛して貰う?
調子に乗るのもいい加減にしな!!
あたし達は所詮は単なる人形さ!!
人格なんざ作り物だ!!
寂しい心を埋める為の道具!!
友達が出来るまでの代用品!!
それが人形の存在だ!!』
『アリスが好きな気持ちは私のものだ!!
作り物なんかじゃない!!
私はアリスが大好きなんだ!!』
『そんなのあたしだってそうだよ!!』
『・・・・ッ!!』
『あたしだってアリスが大好きさ!!
キライになれる訳無いだろ!!
臆病で弱気で陰気で!!
そんなアリスを放って置けるヤツなんかいない!!
そんなアリスのたまの笑顔に魅せられないヤツなんかいない!!
それに何より!!
陽に憧れたアリスの作ったあたし達が!!
陽になったアリスに惹かれない筈が無いだろう!!
アリスには友達がいない!!
だからあたし達はアリスの愛が受けられたんだ!!
でもそんなのはただの逃げだ!!
アリスはちゃんと友達を作るべきだ!!
あたし達は増長し過ぎた!!
あたし達はただの道具に成り下がるべきなんだ!!』
『それはアンタが武器としては高性能だからだろ!!
アンタには愛が向けられてないから言ってるだけだろ!!』
『否定はしない!!
だが!! もしアリスに友達が出来る為なら・・・あたしは壊れたっていい!!』
『な・・何を・・・!!』
『その為にあんたとさしあってんだよ!!
あたしとあんたはここで二人ともくたばるべきなんだ!!』
『馬鹿を言うな!! それならば・・・・』
『馬鹿じゃないさ!!』
『うるさい!! それならばご主人様はどうするんだ!!』
『魔理沙がいるさ!!
いっつも喧嘩ばっかりしてる二人だが!!
二人は絶対に友達だ!!
あいつなら安心してアリスを任せられる!!』
『ご主人様はそんな事は認めない!!』
『さっきからご主人様ご主人様言ってるが・・・・!!
その主人をほっぽって何やってんだお前は!!
今やアリスをただ苦しませるだけのアンタは・・・・!!
あたしと一緒に消えるべきなんだよ!!』
『貴様の様な新米に何がわかる!!
貴様の様な武器に何がわかる!!
彼女の泣き顔を見た事があるか!!
彼女の悔しそうな顔を見た事があるか!!
アレを何とかできるのは私だけだ!!
霧雨魔理沙など信用できるか!!
あいつはご主人様の事を精々本棚か材料庫程度にしか考えていない!!
あんなヤツに任せられるものか!!』
『アリスの泣き顔か・・・見たよ。
これでもかってくらいにな。』
『!?』
『あたしはな、アリスが生まれた時からずっと一緒だったんだ!!』
『なに・・・!?』
『アリスが生まれた時に、アリスが母親から送られた人形!!
それがあたしだ!!
アリスの涙は見たさ!!
何も出来ない自分を恨めしく思ったもんだ!!
アリスは悲しい時、苦しい時、あたしを抱きしめては泣いていた!!
だけどアリスが大人になっていくに従って、そんな事は無くなった!!
アリスは闇の住人となったんだ!!
心を閉ざし、闇に生きる!!
そうする事によって己を保った!!
あたしはその時に闇の、陰の、呪いの人形として生を受けた!!
あんたのずっと後にな!!』
上海人形の弾幕が鈍る。
己の意志が、蓬莱に対する呪詛が・・・・。
弱まり縮小しているのがわかる。
上海人形は愕然とした。
まさかそこまで知っていて尚且つ・・・いや、知っていたからこそのあの態度だったのか。
つまりソレは自分と同じ。
蓬莱人形はアリスを嫌いじゃなんて無かった。
私と、上海人形と同じ様にアリスを愛していたんだ。
素っ気なくなるのも当然だ。
なまじ頭が良いからこそ侵せない領域を作ってしまい。
なまじ頭が良いからこそ犯せない領域を侵せなかった。
それはアリスの為、そして上海人形の為。
いつもは冷たく、相手を突っぱねる彼女。
でもその実、どこまでもお人好しで、その為には何処までも素直で愚直。
それはとてもとてもアリスに似ている。
本当は、アリスの愛に溺れたかった蓬莱人形。
アリスの愛に縛られたかった蓬莱人形。
でも、アリスの幸せの為に自らを縛ってしまった蓬莱人形。
『ある時を境にアリスは変わった。
人間と触れ合うことによって、陽の存在を知ったんだ。
アリスはそれにとても惹かれた。
そしてアリスは闇の世界を・・・魔界を後にした。
そうさ、あたし達は陰だけど、彼女は陽になっていったんだ。
アリスが陽になっても何も問題は無い。
問題なのはあたし達さ。
相手を倒す為の呪いとして生を受けたあたし達がどうやったら陽になれるのか。
あぁ、確かにあたし達は陰とは呼べないよ。
陽に溺れ過ぎた。
でもね、それは在り方と背反してるんだ。
だからアンタはおかしくなったんだ。
溜め込まれた陰が爆発したんだよ。』
そう、つまりはコレも、先程の呪詛も、何もかも。
蓬莱人形の行動の全ては私の為にやってくれていた事。
蓬莱人形は呪詛を吐きつけてきた。
でもそれは己の為では無かった。
それは己の呪詛を持って私の呪詛の愚かさを示す為。
馬鹿なのね蓬莱。 そんなアンタは今、とても苦しいでしょう?
上海人形の体から力が抜ける。
『あたしだっていつあんたみたいになるかわからない。
もう陽の存在のアリスにあたし達みたいな陰は要らない。
あたし達は・・・・いなくなるべきなんだよ。
あんた一人じゃないさ、寂しくなんかさせない。』
『蓬莱・・・・』
あぁ、なんだって私はコイツを憎んでなんかしまったのだろう。
こんなアリスにそっくりの愛しき冷たい人形に。
『ようやっと目の色が戻ったな上海。 久しぶり。』
『・・・ごめんなさい・・・。
私は自分の事しか考えてなかった。』
『・・・・・』
『多分心のどこかではわかってた筈。
蓬莱だってご主人様の事が大好きなんだって。
でも・・・・』
何を言ってる。
それは当然だ。
わからない様に、気を使わせない様に振舞ってきたのだから。
そして上海の欲望も当然だ。
あたし達はアリスが大好きすぎるのだから。
・
・
・
・
・
その一部始終。
ただ傍観する事を苦しくも思う反面。
途中である事に気付いてしまった魔理沙。
そう、この闘いに自分が関連するわけには行かない。
それは蓬莱の演技を無駄にしてしまうから・・・・。
わかっちまったぜ蓬莱。
お前に魔力の欠片も残っていないのは間違いなかった。
お前が知り得る筈の無い事を知っていた。
ならば答えは簡単。
お前は昔の蓬莱じゃない。
受け継いだのは「蓬莱人形」の魔力による人格でなく、蓬莱「人形」の存在による記憶。
お前は存在の記憶を受け継いだ新しい人格だ。
そしてお前は演じ続けた。
アリスを悲しませない為に元の蓬莱を演じ、
上海人形を愛するが故に、上海人形を憎む演技をし続けて、上海人形の目を覚まさせる。
そして最後に・・・憎む演技は失われた昔の自分の意思を世界に残す手段でもある。 それは昔の蓬莱に対する弔い。
なんて冷たく、なんて優しい人形なんだ・・・・。
上海人形が陰である限り、彼女は滅されなければならない。
お前のその考え。 至極当然。
でも、なぜそれならお前は壊れなければいけない?
お前はもう陰じゃないのに。
呪いの人形じゃないのに。
新たに陽のアリスの魔力で作られたお前の本質は陽なのに・・・。
あぁ、それでもお前はやっぱりアリスだから。
何故かあたしの要素も入っちゃいるがアリスだから。
陽のアリスに作られたお前は陽なのに。
上海人形を一人で逝かせない為に敢えて悪者を気取り、陰を演じる。
とんだ大馬鹿野郎。
違うぜ蓬莱。
お前がやらなきゃいけないのはそうじゃないんだ。
あたしに似た陽のお前がやるべき事は、陽に憧れた陰のアイツを引っ張りあげてやることなのさ。
『・・・・・逝こうか? 上海。』
『・・・・・えぇ。』
「何を言ってるのよ」
『『!!』』
「許さないわよ・・・。」
ようやっとアリスが起きてきたか。
タイミング的には丁度良い。
そう、許すわけには行かない。
だけど何を許すわけには行かないのだろうか?
魔理沙にはわからなかった。
でも、ここでも自分は傍観する事しか出来ない。
していなくてはいけない。
『悪いなアリス。 どこから聞いてたかは知らないが、あたし達はもう駄目なんだ。』
『ごめんさいご主人様。 このまま逝かせて・・・。』
「駄目!! 絶対駄目!! 許さない!!」
『・・・・・』
『・・・・・』
「貴方達は平気よ!!
ほら!! 上海だって元に戻ったじゃない!!」
頑張ってくれアリス。
今の二人を思いとどまらせてくれ。
だって、上海は・・・・
『・・・・・ごめんなさいご主人様。 でもね。 もう限界なの。』
「うそ!! 信じない!!」
『ごめんね。 今も私の中にドス黒い感情が渦巻いてるの。
今にも蓬莱を殺しちゃいそう。
今にも魔理沙を殺しちゃいそう。
今にもご主人様を殺しちゃいそう。』
「・・・・うそだもん・・・」
『私、ご主人様が大好きなの。
大好きすぎるの。
だからもう駄目。
私蓬莱が好き。 魔理沙も好き。
でもね、ご主人様はもっと好き。 渡したくない。』
「・・・・でも。」
『こんな危ない人形は置いといちゃ駄目。
こんな危ない人形は壊れちゃった方がいいの。』
「良くない!! 上海は私の大事な・・・大好きな友達だもん!!」
『・・・・・!!』
「駄目だよ・・・私上海が居なくなったら生きていけないよ・・・・」
『・・・ありがとうご主人様・・・・
私、幸せだよ・・・・・。』
「やめて!! やっちゃ駄目!! 絶対駄目!!」
『私の中のドス黒い感情・・・・消してあげる・・・!!』
そうか、アリスの懇願じゃあ気付けなかったか。
ならば教えてやるよ上海。
「それが恋だぜ上海。」
『え?』
「恋、それは儚いもの。
恋、それは強いもの。
恋、それは危ういもの。
恋、それは醜いもの。
恋、それは綺麗なもの。
恋、それは不思議なもの・・・・。
誰にもわからない、制御ができない、限界が無いもの。
それが恋。
その在り方はまるで魔法の様。
強くて危うくて儚くて綺麗で醜くて不思議なもの。
ほら、魔法にそっくりだ。
いや、むしろ恋っていうのは魔法の一種なんだろうな。
だからあたしは恋と魔法を同列に置いてるのさ。」
『魔理沙・・・・。』
「上海。 お前は悪くない。
ただ恋がわからなかっただけ。
仕方ないさ。 人間のあたしだってわからないんだ。」
『でも・・・・あたしは大好きなご主人様を苦しませちゃった。 大好きなご主人様を泣かせちゃった。
それに・・・・・大好きな蓬莱を壊しちゃった・・・・』
『気にするな上海。 あんたの攻撃なんて痛くも痒くも無かった。』
「お前が壊れる必要なんて無い。
ご主人様がまた泣いちまうぜ。」
『で、でも・・・・。』
「・・・寒いよ上海・・・・
いつもみたいに私の胸に飛び込んできてよ。」
『・・・・ご主人様・・・・・
・・・駄目だよ、私陰だもん。 あったかいご主人様の胸にはあったかい陽の蓬莱が合ってるよ。』
『!! 上海!! お前気付いてたのか!?』
『うん、私は陰、貴方は陽になったんだよね。 それでも一緒に逝ってくれるって言った時、
凄く嬉しかった。
でもやっぱいいや。
貴方はご主人様の隣に居てあげて。』
『・・・・で、でも・・・』
「蓬莱、自分だけが陽だからといって上海に気兼ねする必要なんか無いぜ。
上海、別に蓬莱だけがご主人サマにお似合いって訳じゃないぜ。
今の蓬莱も昔の蓬莱も上海もみんな同じだ。」
『どういう事なんだ魔理沙?』
「蓬莱は自分を陽と思っているだろう。
新しく生まれ変わった蓬莱人形は今のアリスの性質に引かれる。
そう、新しい蓬莱は陽だ。
でも人間も妖怪も神も悪魔も何もかも、陽の無い奴はいないし陰の無い奴はいない。
霊夢の陰陽玉のカタチ覚えてるだろ?
紅の勾玉の中には白の点。
白の勾玉の中には紅の点。
つまりはそういう事さ。
ならばそう、そんな事は些細な事。
今迄が出来てこれからが出来ないなんて道理は無いぜ。」
『・・・・・・』
「二人とも・・・今、私すっごく寒いの・・・・。
一人だけじゃ全然足りそうに無い・・・・。」
『・・・・』
『・・・で、でも。』
「ほら二人とも、大好きなご主人サマが呼んでるんだ。
アリスの理想になりたかったんだろ?
アリスに包んで貰いたかったんだろ?」
アリスの愛でいっぱいになりたかったんだろ?
「二人とも大好きよ。
馬鹿なご主人様でごめんね。
我侭なご主人様でごめんね。」
「でも私、やっぱり三人一緒がいいよ・・・。」
『『ッ!!』』
二人はアリスの胸に飛び込んで行く。
アリスは二人を抱きしめる。
離さない様にぎゅっと抱きしめる。
愛しくて愛しくて堪らない。
何も考えられない。
ごめんね、馬鹿なご主人様で。
・
・
・
・
・
・
・
・
嵐は去った。
結局破壊された霧雨邸の損害は大した事は無く、復旧作業もアリスと人形達が手伝ってくれる事になった。
何はともあれ任務終了。
無事、アリスと人形は元の鞘に納まったのだ。
「ありがとう魔理沙。」
「礼ならグリモワールでしてくれ」
「うんっ、わかってるわ。 でもありがとう。」
「・・・・お、おう。」
いつもより素直なアリスに少し戸惑いを覚える魔理沙。
だが、いくら礼を言っても言い足らない。
親友、いや家族とも呼べる二人の命を救って貰った様なものなのだ。
・・・結果的には蓬莱人形は別人だが、幸い彼女は頭が良い。
その様な事は割り切って生きていけるだろう。
魔理沙が近くにいたせいか、多少魔理沙カスタムなのが幸いした。
魔理沙があの性格なのだから、蓬莱は平気に違いない。
「そういえば魔理沙。」
「ん?」
「今思い出したんだけど、魔理沙なんでも私の言う事聞くって言ってたわよね。」
「あ? あーー、アリスを正気に戻す時のヤツな。」
「アレは有効かしら?」
ニッとちょっと意地悪げに微笑んでみるアリス。
「あ? ずるいな。 アレはアリスを助ける為の言葉だぜ?」
「でも約束ね、って言ったらあぁ、って言ったわよね。」
「む・・・わかった。 だけど一個だけだぞ。
後、死ねとか魔道書よこせとかは無しだからな。」
・・・魔理沙にとって命と魔道書は同価値なのだろうか?
ちょっとそんなツッコミがアリスの頭をよぎる。
「うん、わかってるわ。」
「・・・それで? 願い事はなんだ?」
アリスは魔理沙の顔をじっと見つめる。
「・・・・・・」
「な、なんだ?」
私に陽を教えてくれた人間。
まぶしすぎる魔理沙。
私の太陽。
その魔理沙の顔をじっと瞳に焼き付けて・・・
「ううん、何でも無いわ。 コレはいつかの為に取っておく事にする。」
・・・と意地悪げに微笑んだ。
「なにぃ。 それはずるいぞ! 今決めろ、さぁ決めろ!」
「イヤよ。 あはははははははは!!」
「まてーーーーっ!!」
二人の追いかけっこが始まる。
二人は揃って笑顔。
傍から見ている分には恋人同士がじゃれている様にしか見えない。
『・・・・・う~』
『そんな魔理沙を焼き殺せそうな視線で見つめるなよ上海。』
『でも・・・・・う~』
『大丈夫さ、あたし達が本気になればアリスの気をこっちに向かせる事は簡単さ。』
『・・・ほんと?』
『あぁ、本当さ、』
『でも・・・さっき蓬莱「アリスは人間と一緒にいた方がいい」って・・・』
『あたし達レベルに負けるような人間なんかに、あたし達のアリスは任せられないさ。』
『でも、そうなったらそうなったでもっと果敢に魔理沙が攻めてきたりして・・・』
『それじゃあ嫌か?』
『ううん、嬉しい。』
『・・・そうだよな。』
『うん、ご主人様が幸せになれるのが私達の一番の幸せだもん・・・・。』
『上海・・・・。』
『それ嘘だろ。』
『もちろんタテマエ。』
『・・・・・』
『・・・・・』
『くくくくっ・・・・』
『ふふふふ・・・・・』
『あははははははは・・・・・』
『あははははははは・・・・・』
『我らが愛しきご主人サマを魔理沙なんか取られちゃたまらんものな。』
『えぇ勿論。 無理矢理やるのは今回で懲りたけど、諦めたりなんかしないわ。』
『そうだな・・・・とりあえずの目標、霧雨魔理沙を追い抜く事から始めようか。』
『えぇ・・・じゃあ私達の幸せの為に・・・・』
『あぁ、一時休戦、手を組もうか。』
「・・・・・・・魔理沙さん?」
「なにかしら? アリスさん♪」
「これは一体どういう事かしら?」
争いも終わったので家に帰宅したアリス・マーガトロイド。
上海や蓬莱の体の修復や新しいお洋服を縫ってあげたりと、やる事は山積みなのだ。
・・・というわけで帰ってきたのは良いものの、本来邸があるべき場所には瓦礫の山しか見受けられない。
呆然とするアリス。
震える声で原因を、というか原因に尋ねてみる。
「上海を閉じ込める為にマスタースパークで崩したのよ♪」
「・・・・・」
「・・・・・どうかしたのかしら♪」
「・・・・・・しょ・・・しょうがないわよね・・・上海のためだもん・・・・・」
「そうそう可愛い上海の為だぜ。」
そうだ、しょうがない、上海人形の為だ。
それに何だ。
魔理沙は自分の危機を救ってくれた恩人では無いか。
怒ることなどできる筈が無いではないか。
「そ・・・そうよね。」
『あ・・・あの・・・・』
「あ、いいのよ上海。 私、今凄く嬉しいんだから。 この位全然平気よ。」
『・・・・・はい。』
あぁ、そうだ、それにここで落ち込んでいては上海が縮こまってしまう。
そんな事は気にさせる必要なんか無い。
これからは三人でニコニコと暮らすのだからこの際思い切ってリフォームするのも良い考えかもしれない。
あぁ、それがいい。
そう考えたら気が楽になってきた。
能天気な魔理沙が近くにいるせいか、思考が楽観的になっているみたいだ。
でもこれはこれで中々気分がいい。
今度からはもう少しだけ気楽に生きてみよう。
ちらりと上海人形と蓬莱人形の方を見やる。
二人でにこやかにお話をしている。
そう、貴方達はそうやって笑っていて欲しい。
ずっと・・・私の隣で。
我侭かしら?
『関係無いけどどうしてご主人様寝巻きなの?』
ん?
『ん? あぁアレは魔理沙のだよ。』
「・・・そういえば魔理沙・・・どうして私の服を着替えさせたの?」
そういえば色々ゴタゴタがあってすっかり忘れていた。
そもそも何故私は着替えさせられたのかがわからない。
「ん? あぁ、全部終わったし言ってもいいか。
アリスは気が触れた時おもらししてたんだよ。」
「!!!!!!」
・・・・頭が真っ白になる。
何も考えられない。
あぁ、なんか私思考が止まりやすいタチみたい・・・・
パス。
受け取ったぜ。
という事で、あたしの爆弾発言のせいか完全にフリーズするアリス。
まぁそれはそうか、己の人形の前で己の痴態をさらけ出されては・・・・
「で、おもらししたアリスをそのままあたしのベッドに寝かせるのもあれなんで着替えさせたって訳だ。」
『ままままっままま魔理沙・・・・その時・・・・ご主人様のアレを見たの!!?』
上海人形が詰め寄る。
・・・・あぁ、アレだぜ。
こいつらはもういつも通りだ。
ならばいつも通りのあたしで接するのが一番だ。
「アレ? アレじゃわからんぜ?」
『ご主人様の裸を見たかって言ってるの!! 見たの!? 見てないの!?』
という訳でこういう所でからかうのがあたし、霧雨魔理沙だ。
「ん? あぁ、見たぜ。 ばっちりと。 隅々まで。 毛の一本に至るまで。」
『なななななななななななななななななな・・・・・・・』
硬直、というかガクガクブルブル震え始める上海人形。
おぉ、こいつは面白い。
「いや、しかし知ってたか上海、アリスの下の方を脱がした時に確認したんだが実はアリスまだ・・・・」
「上海!! 蓬莱!!」
アリスの大きな声があたしの台詞をさえぎる。
「目標魔理沙!! 血の一滴も残さず跡形も無く消し去りなさい!!!!!」
『了解!!!! 死なす!! 魔理沙死なす!!』
『はぁ・・・やれやれ・・・・・・』
にやりと笑って箒を取り出す。
襲い来る上海人形をかわして箒に跨る。
残念ながらこうなれば捕まえる事はもう不可能。
スピードであたしに勝てるヤツはそうはいない。
「おーーーいアリスーーーーグリモワール五冊の件忘れるなよーー。」
一番大事な事だけを伝えて上昇する。
「誰がアンタみたいなゴキブリ野郎に大事なグリモワールをあげるもんですかーーーっ!!」
アリスが追いかけてくる。
アリスの傍には上海人形と蓬莱人形。
魔理沙は敢えて三人の最高速度に合わせて逃走を始めた。
顔を真っ赤にして何事か叫んでいるアリス。
あの時以上に狂ってるのでは無いかと思わせんばかりの鬼気迫る表情の上海。
そしてニヤニヤと笑いながらアリス達と並走している蓬莱人形。
魔理沙はそんな三人を見てクスリと笑いをこぼした。
―――――あぁ、今日もいい天気だぜ。
たまらんですよこれ
アリス可愛い過ぎ。蓬莱カッコイイ。上海怖い。
ハッピーな結末にホッとしました。
次回作もたのしみです。
個人的には魔理沙の一人称は「私」ならとも思いましたが、
この話の終わり方が凄く好きなのでオールOKな気分です。
しかし魔理沙の漢らしさは幻想郷随一ですね。(w
橙の毘沙門天のように、調子よく滑っては向きを変えて滑り出す物語に魅入られておりました。
そして、見事にハッピーエンドに繋げたあなたに、賞賛を。
良いアリスだ可愛i(グランギニョル座の怪人
最初は怖いと思いましたが、最後は綺麗な最後だったと思います。
自分の中で魔理沙の株が上がりましたw
最後に爆笑。腹筋が痛い…!