里の守護者は前を見る。
真摯な瞳で前を見る。
上白沢は前を見る。
寝床に腰掛け前を見る。
前見る慧音は何を見る?
扉か壁か、はたまた彼方か。
そして彼女は呟いた。
「・・・・・・暇だ」
こてん、とそのまま寝台に寝ころぶ。
実際、何を見ていたわけでも、考えていたわけでもない。
有り体に言うと、ぼーっとしていた。
慧音はそのままころんと回転すると、寝台にうつぶせになる。
そして枕をかき抱き、
「暇だー暇だーたーいーくーつだー」
じたじたと足をばたつかせた。
里の者達が目にすれば、唖然茫然自失喪失、立ちつくすこと間違いない光景だった。
・・・あるいは鼻血を噴いて卒倒するかだ。
それほどに意外性のある仕草ではある。実のところ、仕草だけの問題でもないのだが。
彼女は暇だった。
と言ってもその事について誰を責めることも出来ない。
ここにはそもそも里の者達以外はほとんど寄りつかないし、里の者達にも今日はここに立ち入らないよう伝えている。
月に一度の、里の守護者のお達しを、里の者達が無論破るはずもない。
むしろここぞとばかりに張り切る里の男衆がいるらしい。彼女に代わって、と言わんばかりに里を見回っているのだという。
密かに彼らは「慧音様親衛隊」を名乗っているのだが、とりあえず実害はないので慧音も捨て置いている。
まあ大多数の里の者達は、慧音の代わりについては彼らにではなくリグルに期待している。
尤も慧音にしても彼ら彼女らに頼りきりという訳ではなく、前日に里の周囲に使い魔やら探知型スペルカードやらを大量に配置しているのだが。
そんなわけで里の警備に関しては心配無用なのである。
だからといって、彼女の退屈がしのげるわけでもない。
月に一度の定期的現象。退屈もさることながら、憂鬱でもある。
下手に外に出るわけにもいかず、さりとて誰かを呼ぶこともできない。これを知っているのはリグルだけなのだ。一番つきあいの長い妹紅すら知らないことなのである。
故に彼女は暇を持て余すしかないのだった。
おおおわぁぁぁぁぁぁ?!
青天の霹靂の如く響き渡る。
その悲鳴に、慧音の体がぎくりと強張った。
イヤな予感がする。というか、それは最早確信と言ってもいい。
なんだこの黒いモノは?!いくらわたしが白黒だからってモノクロームは御免だぜマスタースパーク!
あの莫迦マスタースパークまで使ったのか。いやむしろ使わせるだけの効果があったと言うべきか。いやそんなことはとりあえずはどうでもいい。身を隠さなくては。
目まぐるしく心内発声をしつつ、慧音は辺りを見回す。
身を隠すといっても彼女の居宅にはほとんどものがない。隠れるような場所も当然の事ながら無かった。
かといって今から外に出たのでは見つかりに行くようなものである。
こうなれば居留守を決め込むしかあるまい。
いくら彼女とはいえ、無断侵入するほどに傍若無人でないだろう。
勢い良く扉が開かれた。
誰何の声もなかった。
「よう慧・・・・・・」
元気よく手をあげて挨拶をしようとした、霧雨魔理沙の言葉が途切れる。
彼女の視線の先。
上白沢慧音がそこにいた。
慌ててかぶったせいか妙にずれているぶかぶかの帽子。
いつもと同じ、だぼだぼの紺のワンピース。
そんな上白沢慧音がそこにいた。
要するに。
彼女は、
「うわちっちゃ!」
縮んでいた。
「・・・ノックくらいはしろ」
魔法使いなんぞに常識を求めるんじゃなかった、と慧音はがっくりと肩を落とした。
「うわー、なんだよなんだよどういうことだ?丹の精製に失敗でもしたのか?」
彼女の体をぺたぺたと触りながら、魔理沙は知的探求心をあらわにする。興味本位ともいう。
「ええい触るな鬱陶しい。お前じゃあるまいしそんな物騒なものを作るはずがないだろう」
まとわりつく彼女を振りほどき、慧音は立ち上がって距離をとる。
とろうとして今の体型には長すぎるスカートの裾を踏み、ひっくり返った。
「ううううう・・・」
顔を赤くして立ち上がる。そんな彼女の様子を、魔理沙はにやにやと口元を歪めた。
「だからお前達には知られたくなかったんだ・・・」
再び肩を落とす。
「で、これは一体全体どういうわけだ?」
普段見られない彼女の慌てぶりを見、色々と満足したのか魔理沙は表情をいくらか真剣なものにかえた。
改めて慧音を見る。
なんというか、精神はそのままに肉体は幼児化したような有り様だ。
十歳前後の体躯に、口調は変わらないものの高い声。顔つきも年齢相応のそれとなっている。
諦めたように、彼女はため息をついた。
「・・・今日は新月だからな」
慧音は半獣、ワーハクタクである。つまるところ純粋な妖怪ではない。
そんなわけで彼女の能力は月による振れ幅が非常に大きい。
月さえ出ていれば普通の人間なぞ歯牙にもかけない程の力を振るい、満月ともなれば魔理沙をして戦慄するほどの妖怪っぷりだ。戦慄の内容の比重が、魔力とか能力とかそういうものよりも外見にあるのは秘密である。
翻って満月は満月でも偽りの満月であった場合はフルに能力を発揮できず、新月ともなれば、
「その有り様か」
「そういうことだ」
頷く。
「ああ、全く持って散々だ。この姿は見られるし、仕掛けたスペルも一つ潰されるし」
今の私には改めてスペルカードを使う余力はないんだぞ、とこぼす。
「そういえばあれ何だったんだ?なんか黒い液体みたいなものが降りかかってきたんだが」
「あれはリグルと妹紅以外の飛行物体が里に接近したときに発動するようにしておいたスペルカードだ。黒い液体ということは・・・お前が引っかかったのは漆原クライシスだな」
「漆原?!誰だそれ?!」
「呪医だ。動物も診るらしい。その上漆職人だ」
「いや知らんよ」
「他には吊り天井クライシスに」
「もう人名ですらないのかよ?!」
「鳥もち喰らい死す」
「喰らい死す?!」
「あとはスエ・・・あー・・・げふんっ・・・黄色い物体クライシス」
「何だその抽象的な表現は?!言えないようなオブジェクトなのか?!」
「ちなみに黒い液体は漆だ。浴びてたら全身かぶれて大変なことになるところだったぞ」
「ごまかすなー!」
息を切らせる。
流石に里の子らを相手にしているだけあって、あしらうのが上手かった。
「しかし・・・そうか新月か。道理で咲夜達が欠席するわけだぜ」
気を取り直したように魔理沙が呟く。その口調は呆れ半分、妬み半分と言ったところか。
そんな彼女に、慧音ははたと気付いたように首を傾げた。
「そういえば、お前は一体何をしに来たんだ」
ああ、と思い出したように魔理沙は手を打つ。
「最近わたしら、宴会に凝っててな。いつもは博麗神社が会場なんだが、流石にマンネリだろうってことで場所を変えて面子を増やすことにしたんだ」
「ちょっと待て」
不穏な流れに、慧音は手を突き出す。
「まさかここでやるとか言い出すんじゃないだろうな」
「そのまさか」
いたずらっ子を絵に描いたような、見事な笑顔を浮かべる魔理沙。
愕然とする慧音。口が半開きになっている。
今現在の彼女の見た目と相まってなかなかに可愛らしいのだが、予想以上の慧音の反応に魔理沙は首をひねった。
「なんだ、そんなに今の格好を見られるのがいやなのか?」
「そうじゃない。いやそれもあるが、忘れたのか、今里の周りには大量のスペルカードが仕込んであるんだぞ。誰がどれだけ来るのか知らないが、きっと非道いことに・・・」
「・・・あ」
悲鳴。
何よこれ全方位包囲なの?!ホーイホーイってなんかのどかな感じだけど流石にこれは洒落にならないわよ式神八雲藍!
お呼びですか紫様って何ですかこの眼前に広がる白い粘体の波は?!え?テンコーしていいんですかって無理無理無理!無理ですからこれぎゃぁぁぁぁぁ!
きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!既に痒っ!フラシーボ効果で既に痒っ?!
うわー、アリスが、アリスが真っ黒に染まったー!
うわちょっと何この黄色い物体?!単眼!単眼付いてる!妖夢、私の盾になりなさい!
冥界一硬い盾お見せしま・・・って硬っ?!うわ斬れませんよこれ?!いやー迫ってくる迫ってくるー?!
空が!空が落ちてくるーって天井?!トゲ天井が何で空に?!えーりんえーりん助けてえーりん!
ウドンゲまかせたわよ!
お任せ下さいって師匠!無機物狂いませんから!普通に無理ですから!支えろってそんな無体なきゃー!
ちょっと妹紅なんで貴女だけ無事なのよ!
さー?性格の差じゃなーぃ?
そんなこと臆面もなく言って良くも自分を棚に上げるわねぶしゃ?!
うわー、姫が、姫がパイまみれにー?!
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・なあ」
「・・・なんだ?」
「・・・あんた、楽しんでるだろう」
顔を背ける。
「・・・いやまあ新月に里を襲うような妖怪は大概小物だから」
これくらいいいんじゃないかなーなんて、などと後ろめたそうに、拗ねたように、照れたように言う。
そんな彼女に。
魔理沙の胸が。
高鳴った。
・・・・・・え?
唖然となる。
きゅん。
いや「きゅん」じゃなくて。
オーケー落ち着け霧雨魔理沙。
わたしは女で慧音も女。しかも今の彼女は十に届くかという幼子だ。そんなのにときめくはず無いじゃないか。
でも思い返してみたらわたし、よくフランドールのところに行くよな。あいつの破滅的な求愛行動で痛い目見るのはわかっているのに。
いやまて、結論を急ぐな。
わたしはあくまで図書館行くついでにフランの相手をしているわけであって・・・
ごまかすな。
目を逸らすな。
今わたしが感じている感情がわたしの真実。
・・・真実なのか?
真実、なのだ。
ああこれが哀、これが故意。
故意は盲目轢き逃げ放置。
つまり。
慧音にときめいたところで。
何も、問題ない。
実際のところ幼女嗜好でMっ気Sっ気ありとかなると人間的にかなり問題があるような気もするが、幻想郷には割とそんなのが跋扈しているのであまり問題ないのかもしれない。
問題に直面しているのはむしろ慧音の方だ。
「・・・魔理沙?」
いきなり沈黙し俯いた彼女に、慧音は訝しげに声をかける。
ぐりん、と魔理沙の顔が上がる。あわせてじりりと間合いをつめた。
「ちょっと待てなんだそのどす黒い情念の炎を滾らせた危険な目つきとわきわきと異様な速度で戦慄いている不味そげな手つきと軽快かつ奇怪なまでに躍動的な腰つきは?!」
「うふふふふ・・・後ろにベッドだなんて誘ってるのかいお嬢ちゃんんん」
「会話になってない!それとその台詞は犯罪者のそれだ!本気か?!本気なのか?!」
「東雲・・・しののめぇぇぇぇ・・・!」
「うわ本気だ!本気と書いてマジの目だ!完全になんかいけないスイッチが入ってる!」
「レッツエリシュオン!行こうぜ楽園堕ちようぜ楽園ー!」
「お前の言う楽園って絶対枕詞で失が付くだろっていうか来るな来ないで助けて誰かきゃぁぁぁぁ!」
とうとう悲鳴をあげる慧音。そこに向かってしゅぽーんと平泳ぎでもするかのようにダイブする魔理沙。
開く扉。
「なにしくさってんのよこのエロコックローチィィィィィ!」
開口一番凱風快晴。
魔理沙の直下で、フジヤマがヴォルケイノした。
床を焼き砕いて噴き上がる火炎弾に、彼女の体は屋根まで飛んで、壊れて消えた。
「全く・・・前々から理解不能だとは思ってたけど、真剣に度し難いわねあの白黒」
「も、妹紅か?」
颯爽と現れたのは蓬莱の人の形、藤原妹紅であった。よほど恐ろしかったのだろう、ほとんど涙声で慧音はその名を呼ぶ。
まあ日頃里の者達としか接触のない慧音に、変態に対する耐性がないのは仕方がない。
もうもうと立ち上る煙の向こうの、いつになく弱々しい声音の彼女に笑いかける。
「もう、どうしたのよ慧音。あんな不埒な奴は三種の神器かなんかで吹っ飛ばしちゃえばいいのに」
「・・・いや・・・まあ・・・な・・・」
いまいち煮え切らない返答をする慧音に、妹紅は眉をひそめた。
「ほんとにどうしたの?慧音らしくな・・・い・・・わ、ね・・・」
「・・・妹紅?」
尻窄みに掠れていく彼女の声に、今度は慧音が眉をひそめる。
唖然としている彼女が見えた。
そう、見えたのだ。
つまり。
見られた。
「っっっきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
両の手を左頬の前で組んで、瞳をきらきらと輝かせる。そしてその場で一回転すると弾幕もかくや、という速度で一足飛びに慧音に飛びついた。
「わぁぁぁぁぁぁ?!」
「きゃーきゃーきゃーなによこれもう超かわいー!」
「落ち着け妹紅ー!あと超とか言うな!死語だ!」
「蝶・かわいー!」
「なんだそれはー?!」
自分を抱いたままごろごろと転がる妹紅に翻弄されながらも、慧音は何とか抗議の声をあげる。
「もうなんていうのプリティ?っていうかファンシー?ていうかリリカル?っていうかロリカルー?!」
「何語だー?!というか頼むから落ち着いてくれ!お前にまで錯乱されたらもう対処のしようがっ・・・・・・!」
「ちょっと、さっきの爆発は何よ?流石に宴会芸披露するには時期が尚早にすぎるわよ?」
「先触れを魔理沙にしたのは間違いだったかしら・・・」
慧音は確信した。
禍福は糾える縄の如しというのは嘘であると。
悪いこととは重なるものである。
鳥もちまみれになった藍を引きずって入ってきたのは紫。
続いて紫の影に隠れていたので無傷だった霊夢。
二人は妹紅と、そして慧音を見、立ちつくした。
そんな彼女らを、微妙に平べったくなった妖夢を担いだ幽々子、真っ黒に染まったアリス、パイまみれになった輝夜、血だらけの鈴仙を担いだ永琳が怪訝な面もちで見、そして紫達が見たものを自分たちも確認し、同じように立ちつくす。
一同は図ったように沈黙し。
『----------!!』
図ったように、異口異音に叫ぶ。その唱和は地鳴りの如き怒号となり。
そして。
目まぐるしいまでの事態の変遷に、ついに慧音が飽和した。
「っっっだ~~~~~~~~っ!」
意味のない絶叫。
そして光が炸裂した。
ほとんど家としての機能が崩壊した慧音の居所で、ようやく彼女らはまともに顔を合わせた。
家の主である上白沢慧音は、妹紅の膝の上でぐったりとしている。
場を収める・・・というか終わらせる・・・ためになけなしの魔力を絞り出して日出づる国の天子をぶっ放したのが主な原因だ。
だが周りからの物理的な圧力すら伴う視線による体力的疲弊も否めない。
ちなみに何故慧音が妹紅に保護されているのかというと、一番対応がましなのが彼女だったからである。
あれだけの奇態をさらけ出しても彼女が一番ましだというこの面子には、改めて戦慄することを禁じ得ない。
魔理沙は言わずもがな。
幽々子は侍らせているのが妖夢という時点でかなりフェイタルだ。
霊夢はレミリアに言い寄られており、皆の前では平然と無重力であるものの、内に秘めたる熱情と劣情はある意味咲夜をも凌駕している。つまるところ、霊夢も魔理沙と同じ属性持ちなのであった。
アリスは妹紅と同じ、つまりぬいぐるみをかわいがる感覚なのだが、彼女にとっては人形も人間も同じ事なのだ。すさまじく倒錯的な性癖である。根は同じなのに咲いた花は白百合とラフレシアほども違う。矢張り環境は大切だ。魔界って罪。
八雲紫。実は彼女は藍と橙の争奪戦の真っ最中であり、いまや八雲家嫁姑戦争の様相を呈していた。言うなれば紫も魔理沙霊夢と同じ病気である。ちなみに当の橙はそんなことは全く気付いておらず、ひがな夜雀に一方的にじゃれついたりしていた。このまま綺麗なままに育って欲しい。多分無理だろうけど。
永遠亭の面々。というより輝夜は他一同とは違う色の視線を慧音に向けていた。彼女らの会話を抜粋してみよう。「永琳、身が縮む薬はないかしら」「ございます。飲むと上半身と下半身が泣き別れて実質身長が半分になるという優れものです」「師匠、すごい!」「何よそのB級カンフー映画みたいな薬物は?!」「ご安心下さい、それとは一風違いまして飲むと二度とくっつきませんから!」「師匠、すごい!」「なお悪いじゃないのー?!」
「まあ、大体の事情は、そこの、丸焦げ魔砲使いから、聞き及んだが」
よっぽど疲弊しているのか、妙に訥々とした調子で慧音が言う。
「私が普段何をしているのか、知っているだろうに」
「だからこそのサプライズ宴会じゃないの」
咎めるような目つきの彼女に、しかし紫は悪びれた様子もない。
サプライズ宴会。何とも据わりの悪い言葉だが、それはとりあえず捨て置く。
確かに冥界に押し掛けて宴会をしだしても、年中無休にお祭り騒ぎである白玉楼ではサプライズのサの字もあったものではない。
その点閑静というかうらさびしい慧音の居宅に押し掛けての宴会は、この上なくサプライズである。迷惑度合いもこの上ない。
里の者達に近づくなと言ったその日に慧音宅にてどんちゃん騒ぎが起これば、彼らの気をひくのは必至だ。
「そんなに見られるのがイヤなの?こんなに可愛いのに。人気出るかもよ?」
頭上からの至極暢気な発言は妹紅のものだ。
そんな彼女に慧音は思わずため息をつく。
「普段里に近づく妖怪を蹴散らしている私のこんな姿を見られて見ろ、里の者達に妙な罪悪感を感じさせかねん。それは私の望むところではないんだ」
里の守護者は実は年端のいかない幼子だった、などと思われればそんな彼女に後ろめたさを感じるものもいるだろう。実に真っ当な懸念である。
そしてそんな彼女の意見に、他一同は呆気にとられた表情で硬直した。
「・・・・・・?どうした」
慧音の訝しげな問いかけに、はっと我に返る。
「・・・いやその・・・まともな発言てものをものすごく久しぶりに聞いたもんだから・・・」
ちょっと処理がおいつかなくって、と霊夢は半笑いでごまかすように言った。
彼女らの普段の言動がいかなるものであるか、実にあっさりと看破できる台詞である。
慧音は再びため息をつき、
「まあなんにせよここはもう使えないし、お誘いは光栄だが私は欠席と言うことで何処か別の場所で・・・」
そこまで言って言葉をきる。
他の者達も気付いたようだ。辺りを見回す。
風の音、木々の鳴る音に異音が混じる。
音、ではない。
声だ。耳を澄ます。
慧音様、ご無事だろうか・・・?
班長!第一班から第八班まで配置につきました!
よし、次の警笛で突入する!
了解!
頭を抱えた。
里の者達だ。
まあ、あれだけ里の上空で得体の知れないスペルカードが発動し、あまつさえ慧音の居宅の方角で火柱が立ったり爆発が起こったりすれば、妖怪の襲撃を受けたと勘違いされても不思議ではない。となれば、いくら来ないよう言付けしていたとはいえ気にするなというほうが無茶な話だ。
彼らとて庇護されるだけの存在ではない。いざとなれば剥く牙を持っているのである。こうなることは必然とも言えた。
甲高い音が鳴る。
どうしよう、などと懊悩する暇さえなかった。
その音と共に、慧音の庵をとり囲むようにして里の者達が姿を現したのだ。
剣や弓、足りなかったのか鍬や草刈り用の鎌で武装した青年達。
それだけではない、夕餉の支度の途中だったのか割烹着に三角巾、手には出刃包丁と鍋のふたという女性。
加えて布団叩きや定規を手にした子ども達さえ居た。
そんな彼らを見、慧音は熱いものがこみ上げてくるのを感じた。
自分が彼らを想うように、彼らも自分を想ってくれているのだ。それだけで胸がいっぱいになる。この際「慧音様親衛隊」ののぼりや「LOVE慧音」と刺繍されたハッピのことは見えなかったことにしておこう。
リーダーらしき青年が、剣を片手にずい、と前に出る。その物腰は妖夢から見ればあまりにもお粗末すぎて、鼻で笑って臍で茶が沸くほどだったが、人妖入り乱れたこの胡散臭い集団に怯まないその胆力はなかなかのものだ。
「お前達、何者だ?!慧音様をどうした?!」
青年の詰問にその集団の一同は一瞬顔を見合わせ。
そして申し合わせたように一カ所を指さした。
視線が集まる。
「あ・・・いや、これは」
わたわたと意味もなく手を振り回してなにやら言い訳しようとする慧音。
そんな彼女の言葉を聞いてか聞かずか、抜けてしまったかのように肩を落としあんぐりと口を開く青年から、ぽつりと一言零れ出た。
「・・・・・・も」
「も?」
「・・・・・・萌え」
「萌え?!」
青年のその言葉を引き金にしたかのように、一斉に歓声が上がる。
「万歳!万歳!ばんざーい!」
「私を転ばせるなんて魔性!慧音様こそ魔性の女!むしろ蠍座?!」
「L・O・V・E!ラブリーけいねー!」
「もえー!もえー!」
いい年したおばさんからお前言ってる意味わかってるのかと聞きたくなるようなお子さままで、皆々好き勝手なことを言いながら武器を投げ捨て手に手を取ってラインダンスしだすという状況、最早混沌の饗宴と評するほか無い。
そんな莫迦騒ぎの渦中の人、上白沢慧音はいやに無機質な表情で妹紅の膝から降り、立ち上がる。
表情とは反比例したおぼつかない歩みで数歩よろよろと進むと、そのままがっくりと膝をついた。
真実を知るということは、決して良いことばかりではない。むしろ悪いことの方が多いとも言える。
それでも人は真実を追い求める。
慧音の不幸は真実、しかも仮定すらしたことの無かったかっ飛んだ真実を、追い求めもしなかったのに無理矢理突きつけられたことである。
こうなると、先ほどこみ上げた熱いものも、実は吐き気であったという公算が大きい。
「・・・あの・・・心中お察しいたします・・・」
どうしようもない主に仕える自分と、今の慧音を重ねたのだろうか、ためらいがちに声をかけるのは、妖夢。
そんな彼女の気遣いに応える余裕は、今の慧音にはなかった。
「・・・・・・な」
空を見上げる。
「無かったことにー!」
そんな彼女の悲痛な叫びが、薄闇に染まった幻想郷に響き渡った。
「さくやさくやー、いまのおこえはなぁに?」
「お嬢様、今のはハクタクの嘆きにございます」
「そうなんだぁ、さくやはものしりだねぇ」
「それほどのことではございません。さてお嬢様、いくら夜がお嬢様の時間とはいえ夜風はお体に触ります。というか私がお体に触りますどうか中へハァハァ」
「あら躓いちゃったわ転ばぬ先のドヨースピア!」
「きゃぁぁぁぁ?!って何をなさいますパチュリー様?!」
「ああごめんなさい咲夜、ちょっと躓いちゃって杖の代わりにドヨースピア使ったんだけど手が滑って」
「そうですか・・・って珍しいですねパチュリー様が図書館の外にいらっしゃるなんて」
「お茶が飲みたくなったから」
「でしたらお運びしましたのに」
「たまには手ずから煎れたいのよ」
「左様でございますか。それでは私はこれで・・・」
「それにしてもこのお湯少し温いわねアグニシャイン」
「ぅわきゃぁぁぁぁ?!ていうかさっきから狙ってますよね?!私を狙ってますよね?!」
「ええいやかましいわ!右も左もお国もわからなくなっている友人が毒牙にかけられようとしているのを見過ごして何が友人か!レミィ襲うなら正々堂々襲いなさいよ!」
「なっ?!霊夢がおらず、しかもお嬢様がれみりゃ化しているなどという好機、みすみす逃せるものですか!いかなパチュリー様とはいえ我が道を阻むなら容赦しませんチョイナァァァァ!」
「・・・・・・・・・!・・・・・・!」
「・・・・・・?!・・・・・・!」
「・・・・・・!・・・」
「・・・?!・・・!」
「・・・・・・?!」
「・・・」
「・・」
「・」
結局。
誰一人として何一つ得るものの無かった夜は、こうして更けていった。
小さい慧音も中々 これは・・・なかなかw
自分には千年経っても到達できないようなある種の極致に達しておられますね
よーし、自分もちび慧音を称えて村人達のラインダンスに参加してきまs(ナカッタコトニー
高鳴った(ぉ
つまるところ けーね!けーね!(AA略
あぁなんて素敵なんでしょう。
個人的には転ばぬ先のドヨースピアが最高です。
某所での瓶詰めを思い出したのは私だけでしょうか・・?
・・想像すると・・・orz
後は・・・L・O・V・E! ラブリー!けーね!と言うことで(ry
霊夢や魔理沙、紫、幽々子までもが、ちみ慧音にロックオン!
あげく永遠亭までもがどろどr(笑)
慧音←妹紅←輝夜←永琳←鈴仙でしょうか。
さりげなく皆がどろどろなのに妹紅だけが慧音に胸キュンなのがかなり壷でした、ついでに輝夜も(笑)
おまけにぱっちゅりーがデンドロビウムサクヤかられみりゃ様を守ろうとしてるのもかなり少女でぐー!