Coolier - 新生・東方創想話

糸から外れた狂人形

2005/02/28 00:01:19
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憎い。

私は憎い。

彼女が憎い。

故に私は彼女を呪う。

己の全霊をかけて彼女を呪う。

許しがたきは彼女の存在、その在り方。

彼女の存在は私の存在を、私の在り方を危うくする。

否、彼女の存在はもう既に私の存在を無価値な物へとしている。

だから私は呪う、彼女を呪う、呪って呪って呪い続けて呪い貫くのだ。

彼女がいなければあの人は私だけの物になる。 私だけに笑いかけてくれる。

だからアイツを消してやりたい。 修復できぬよう一片も残さず焼き尽くしてしまいたい。

否、何を躊躇う必要があるものか、修復できぬよう一片も残さず焼き尽くしてしまえば良いではないか。

邪魔なアイツを引き裂いて、邪魔なアイツをすり潰して、邪魔なアイツの居場所を奪ってやれば良いではないか。

あぁ、そうだとも、そうすれば良いのは百も承知だ。 しかしそれが出来ない。 やらせてはくれない。

そんな事をしてもあの人は喜ばない。 否、とても怒り、そしてとても悲しむ事だろう。

その結果、自分はどうなるかわかったものでは無い。 だからそれが出来ない。

だから私は呪う、彼女を呪う、呪って呪って呪い続けて呪い貫くのだ。

だが、果たして私は呪っているだけで良いのであろうか?

先が見えないからといい、絶望を待ち続けるのか?

それだけは御免だ。 何があっても回避する。

ならば実行するしか手は無いではないか。

……そうだ。 そう。 そうしよう。

そう、私はそう在るべきなのだ。

そう、私の名前は上海人形。

初めの呪いの人形。

始めの人形。

それが、

私。















そう、彼女の存在は理解している。
己より優れた知性、己より優れた魔力、己より優れた能力を持つ者。
その名は蓬莱人形。
私より後に作られた彼女の能力は凄まじい。
お古の私なんて目じゃない。
同じ行動を取るにしても、彼女は私の行う事の遥か上を行く。

昔、私は己の魔力を一点に集中させる修行をした事があった。
強力な一方向へのレーザー攻撃の為だ。
それを習得するまでにどれだけの時間を費やしたであろうか。
ご主人様に幾度と無く迷惑をかけ、ご主人様の大事な時間を費やし続けた。
そして半年の時を越え、ようやく習得したのだ。
・・・だが彼女はそれをさも当然の事かのように成し遂げた。
そして何よりも許せないのは・・・
「流石は蓬莱人形ね。」
というご主人様のお褒めの言葉をさも当然の顔でつまらなそうに受け止めた事だ。
何故だ。
何故オマエはそんなに簡単に事をこなせる。
何故だ。
何故オマエはご主人様に褒めて貰って喜ばない。
何故だ。
何故オマエのような人形が作られた。
何故だ。
何故私だけでは駄目なのだ。
何故・・・・
何故私はこんなにも無力なのだ・・・・


ご主人様は私を傍に置いて下さる。
外出時は大抵私を一緒に連れて行ってくれる。
それは
とても嬉しい事だ。
大好きなご主人様と一緒にいられるのはとても嬉しい。
ご主人様のお役に立てるのがとても嬉しい。
ご主人様が喜ぶ事ならなんでもする。
「ありがとう、上海人形。」
その一言を聞く為ならば、この身が粉になっても厭わない。
それは私がご主人様の手によって生まれいでたものだからだろうか。
否、それとこれとは違うのだ。
私はご主人様が大好きなのだ。
だからご主人様の為に何でもするのだ。
あの蓬莱人形とは違う。

そう、あの蓬莱人形とは違うのだ。
だが。
だが、私達の存在意義はそれでは無い。
私達の存在意義はご主人様を守る為の盾。
私達の存在意義はご主人様を守る為の矛。
私達の存在意義はご主人様を守る為の駒なのだ。
そして。
あろう事か、存在意義で私は劣っている。
彼女に劣っているのだ。
どれだけご主人様を愛していようと、アイツの前には無駄な事だ。
私が半年かけて覚えた事も、私だけが出来ると思っていた事も、何もかも。
アイツはさも当然といった顔で行える。
格が違うのだ。
魔力の絶対量が違うのだ。

そして、ご主人様は有事の際は彼女を召喚する。
当然だ。
何を妬む必要があるのか。
彼女のほうが私よりも強く、私よりも頼りになるのだから当然だ。
怨むべきは己の弱さだ。
己が強くなれば良い。
そうすればご主人様はあんな人形は使わない。
あんな無愛想な人形は使わない。
私だけを使ってくれる。
私だけを頼ってくれる。
私だけに笑ってくれる。
そう。
だから私は強くなりたい。

その為には、その為には彼女を越えなくてはならない。
しかし彼女は強い。
恐ろしく強い。
そして底が知れない。
私が何年の時を重ねれば彼女に追いつけるのだろう。
私が何年の時を重ねれば彼女を追い越せるのだろう。
私が何年の時を重ねれば彼女を不要とできるのだろう。
それは計り知れない。

だが、追い越せ無いのは純粋な魔力の話。
それは絶対的な量の話。
だが、私は幾度と無く死線を潜り抜けてきた。
その私は、彼女とさし合っても負ける気はしない。
彼女と私では年季が違う。
彼女と私では経験が違う。
彼女と私では根性が違う。
だから私は彼女に負けない。
だから私は彼女を滅する。
あの人形さえ居なければご主人様は私を使ってくれるに違いない。
あの人形さえ居なければご主人様は私を強化してくれるに違いない。
そしていつまでもご主人様の隣で笑い続ける最強の人形と成れるに違いない。
そして私はもっともっとご主人様に愛して貰うのだ。






『・・・・だから、私はアンタを壊すわ。』
















  マーガトロイド邸の裏庭。
  そこには二体の人形が浮かんでいた。
  名を上海人形、蓬莱人形という。
  共に邸の主、アリス・マーガトロイドによって作成された人形である。
  その存在は悪、その属性は陰であり、その本質は呪いである。
  しかしそれは少し前までの話。
  いつしか彼女達の主人はひだまりに足を踏み入れ、陽の存在となった。
  それに伴い、彼女達もまた、陽となったのである。
  勿論、陰から陽になった訳では無い。
  しかしもはや陰と呼ぶにはおこがましい程、陽に溺れていたのであるB
  それは幸せな事。
  少なくとも人間にとっては幸せな事。
  彼女達は陽となり、主人を支え続けた。
  彼女達は笑顔であり、そしてまた彼女達の主人も笑顔であった。
  それはとても幸せな事である。
  それはいままで暗黒だった世界に一筋の光が差しこんだかの様。
  今までの陰が逆に陽を際立てた。

  しかしそれは同時に危険な事。
  彼女達の主人はとても臆病者で弱気で陰気だ。
  それは闇の中でなら何も問題は無い。
  闇に隠れ、己を隠し、隅で震える自分を騙し続けていた。
  だから、陽に出た彼女は戸惑ってしまったのだ。
  だから、彼女達は主人を支えた。
  「大丈夫。 私達が居るよ。」
  今迄ただの武器であった人形達は己の主人を優しく包んだ。
  沢山の人形に囲まれ、主人は幸せだったのだ。

  だが忘れてはならない、黒にいくら白を混ぜたところで・・・・。
















『・・・・・・へぇ。』

先程の上海人形の呪詛を聞いていたのかいなかったのか、蓬莱人形は腑抜けた声で返事をした。

『そんな澄ました顔をしていられるのも今の内よ。 後悔しながら壊れていきなさい。 蓬莱。』

その態度が上海人形を更に刺激する。
まぁ、もとより上海人形は最初から蓬莱人形を壊す気だ。
要は壊れ方がどう変わるかの違いでさしたる違いなど無い。

『うん、成程ね。 あんたの言い分もわからんでもないよ。』

どうやらちゃんと聞いていたらしい。
そしてあろう事か相手の言い分を認める蓬莱人形。

『そう? ・・・じゃあ大人しく壊れてくれないかしら。』

自分の言い分を認めるならば、壊れるべきであり、居場所を譲るべきである。
上海人形は蓬莱人形に歩み寄る。

『いや、それはお断りするね。』

にべも無く一蹴する蓬莱人形。
認めた。 つまり理解はしたし、納得も出来る。
しかしそれは上海人形の都合だ。
蓬莱人形には蓬莱人形の都合というものがある。
はいそうですか、と壊される訳にはいかないのだ。

『あ、そう。 じゃあ力ずくでいかせて貰うわ。』

蓬莱人形の返事はもとからわかっていたのか。
上海人形は進行を止めない。

『・・・ま、いいんじゃない? やれば? あたしが壊れたらアリスは悲しむと思うけどね。』

と、蓬莱人形の一言で上海人形の足が止まる。

『・・・・・・・』

そうだ、これは先程の呪詛でも言っていた様にこれが上海人形の気掛かりなのだ。
だが、それは先程既に断ち切った。
そうだ、私達は呪いの人形なのだ。
・・・だが、上海人形の足は前に進まなかった。

『アリスの手塩にかけて育てた・・・っていうかアリスの作った人形の最高傑作だからね。 あたしは。』

誇らしげに胸を張る蓬莱人形。
そう、確かにそうだ。 魔力の絶対量で言えば蓬莱人形に勝る人形は無い。
それはアリス個人の持ち物では無く、幻想郷全てを含めてもそうなのかも知れない。

『・・・・それは違うわ。』

にべも無く一蹴する上海人形。
そして足は動き出す。

『・・・・・・・』

そう、人形の最高傑作というものは力ではない。
それは武器としての最高傑作である。
確かに蓬莱人形は武器としては最高傑作なのかもしれない。
が。

『最高傑作は私。 アンタは今から粉々になるただのモノよ。』

人形の本質は「必要であるか否か」である。
常に携帯される自分はその最たるものだと上海人形は確信する。
そう、上海人形は人形としての最高傑作は自分であると疑わない。
そして、これから人形としてだけでなく、武器としても最高傑作になるのだ。

『・・・まぁ、あれだよね。 あんたはアリスが好きでたまんなくて暴走してるだけさ、落ち着きな。』

いい加減マズイと思ったのか、蓬莱人形は場を納めにかかる。
どうやら上海人形は頭に血がのぼり過ぎている。
やりあって負ける気はしないが、先程も言った様にアリスが悲しむのは御免だ。

『ご主人様を呼び捨てにするな。 全てがムカつくのよアンタ。』

にべも無い。

『・・・あぁ、駄目だなこりゃ。』

どうやら今回のコレはかなり本気だ。
簡単には収まらないだろうな。 蓬莱人形は思った。
「アリスが好き」の一文で、アリスの名前が出るからか、それとも恥ずかしいからか嬉しいからか、
上海人形と蓬莱人形の喧嘩は大抵これで終わる。

『駄目になりなさい。 してあげるわ蓬莱人形。』

今回の上海人形は止まらない。
そう、既にアリスの人形である事以前に呪いの人形になってしまっているのだ。

『うん、まぁアレだ。 要は弾幕ればいいんだろ?』

それで気が済むのならばやってやろう。 そう蓬莱人形は覚悟を決めた。
それに、幸いアリスは邸に居る。
表で弾幕戦が行われれば嫌でも出てくるだろう。
弱気で臆病なアリスはすぐに弾幕戦を止めるに違いない。
上海人形もまさかアリスの前でも呪いの人形でいる訳にはいくまい。

『違うわ。 消せればいいのよ。』

・・・・・

『・・・・はぁ、面倒になってきたなぁ。 いい加減にしなよ上海人形。』

上海人形の意気込みは先程の呪詛を聞いて重々承知だ。
だが、できる事ならばあまり人形同士で弾幕りあいたくない。
それはアリスの望む所では無いからだ。

『アンタこそいい加減おしゃべりは終わりにしない? 面倒よ。』

・・・・・だが、

『あぁ、なんだ、お前も面倒になってたのか。 じゃあもういいや。 や(弾幕)ろうか』

・・・・・流石に面倒になってきた。

『えぇ、や(破壊)りましょう』

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・良く考えてみれば。

『ははは・・・・』












『あはははははははっはははははっはははっははははっはははっははははっはははははっははははっはははは!!!
 上等だよ上海人形!! てめぇはいつか消してやりたいと思ってたんだよこのオンボロが!!!』

堪忍袋の緒が切れた。
何故こんなグダグダ言ってるオンボロ人形に付き合って下手に出て無くてはいけないのか。
そう、もともと蓬莱人形が下手に出る必要など無いのだ。

『・・・・・え?』

唖然とする上海人形。

『調子に乗ってるんじゃねぇよ!! てめぇのグチグチしたねちっこい呪詛は聞き飽きたんだよ!!
 てめぇみてぇなゴミ野郎は一回分子まで分解されてそのまま塵になっちまいなぁ!!』

もう考える事はやめだ。
弾幕だ。
弾幕してやろう。
目を覚まさせてやる。
目が覚めることが無い位破壊されたとしてもそれは自業自得。
自分をうらめ。

『・・・・これがアンタの本性か・・・・』

今迄一度も見た事が無い蓬莱人形の豹変ぶりに戸惑う上海人形。

『あぁ!? 違ぇよ!! その通りだよ!! コレがあたしだよ!! 蓬莱人形さ!!
 アリス・マーガトロイドの呪いの人形の最高傑作さぁ!!』

そう、違うのだ。 こんな事は本来起こりえない。 こんな事などそうは無い。
だがその通りだ。 コレも蓬莱人形だ、呪いの人形だ。
蓬莱人形は怒っていたのだ。
しかし、そして今しがたのやり取りで怒ったのでは無い。
蓬莱人形自身もいま気がついたのだ。 蓬莱人形は上海人形を憎んでいる。

『だからさぁ・・・・・』












『アンタは最高傑作でも何でも無いって言うのがわからないのかしらぁ!!?
 今すぐゴミにしてやるからありがたく受け取りなさいっ!!
 アンタさえ消えりゃあこちとらやり易いってもんなのよぉ!!』

狂ったかのように叫び散らす上海人形。
墓っ、墓っ、墓っ、と上海人形の周りに弾幕が生まれる。
年季というもの、経験というもの、根性というもの。
全てが比較にならぬ蓬莱人形ごときに、この上海人形が負けるものか!!

『かかってこいよ!! ゴミ人形が!! テメエなんざ一秒で灰だよぉっ!!』

それを迎え撃つ蓬莱人形。
おもしろい。
アリスが本気にならないが故に出し切れずにいた蓬莱人形の本気というモノをみせてやろう!!

















轟っ!!
先手を取ったのは蓬莱人形。
高速にて上海人形に近寄る。
何も弾幕だけが戦いじゃない。
そう、上海人形は「や(破壊)ろう」といった。
だからこっちもやってやろう。
その為には手段は選ばない。

『ッ!!』

蓬莱の至近距離からのレーザー。
上海人形は蓬莱人形の動きを読んでいたのか、当然の如く避ける。

『やるな・・・・!!』
『はっ!! アンタの事だからさっき話に出した一方向へのレーザー攻撃で攻撃してくると思ったわよ!!』

ニヤリと笑う上海人形。

『単細胞!! 今度はこっちの番ね!!』

弾幕を張る上海人形。
だが、密度は薄い。
蓬莱人形は弾幕の間をすり抜けるようにして次の手を考える。

『くらいなさいッ!!』

一方向へのレーザー攻撃。
思考中だったとはいえ特にバランスも崩していなかった蓬莱人形は苦も無く避けた。

・・・が、蓬莱人形の後ろには大木。
いつの間にか誘導させられていたのだ。
弾幕が薄いのはこの為だったのか。
レーザーが大木に食い込み、大木は四散する。

『しまった!!』

視界が閉ざされる。
そして思うように動けない。
たかが木の破片といえども、人形にとってはそれなりの攻撃となる。
しかし、己を守る為にここに居れば狙い撃ちをされる。

『ちっ!!』

言うだけの事はある。
自分には考え付きもしなかった作戦だ。
まさか木を爆砕させて攻撃してくるとは思わなかった。
それは弾幕ごっこでは在り得ない筈の攻撃だ。
だが!

『(肉を切らせて骨を絶つ!!)』

そんな事を考えている暇は無い。
こちらには絶対的な力がある。 捻じ伏せてやろうではないか。
こちらを狙い打とうとする上海人形に対し、蓬莱人形は木の破片を無視して力を溜める。

『終わった!!』
『舐めるな!!』

同時に放たれるレーザー。
力に差のあるものが同時に放てば結果は見えている。
上海人形のレーザーは蓬莱人形のレーザーに飲み込まれ・・・・

『くっ・・・・!!』

・・・直撃したかと思われたレーザーはすんでの所で避けられた。
しかし、避けた上海人形も無傷ではない。
体は吹き飛ばなかったものの、服は破れ、本体は軽く焦げている。

『やるじゃねぇか上海人形!! だけどもう限界じゃねえか!?
 アリスから貰った一張羅がボロボロだぜ!? オンボロが余計際立つぜ!!』

しかしそういう蓬莱人形も、本体に木の破片が刺さり、無事とは言い難い。

『冗談はそこら辺にしておきなさい!! アンタみたいな駄目人形にご主人様を任せるほど私は間抜けじゃ無い!!
 大丈夫よ!! アンタを壊してアンタの服着て蓬莱人形に成りすましてやるわ!! あははははははははは!!』

ケタケタと笑い始める上海人形。

『いよいよもって可笑しくなって来てやがるな上海!! もう頭働いてねぇだろ!!』

それに・・そう、それをして何になるというのか。

『アンタを壊せば全てが直るわ!! アンタが消えれば全部上手く行くのよ!!
 アンタは別に消えてもいいでしょ!? 私達はご主人様を守る為に在るのよ!?
 アンタみたいなのはいらないのよ!!』

もはや上海人形は何も考えられてないのだろう。
今の彼女はただ弾幕を吐き出すだけの存在に成り下がっていた。

『そこら辺が頭働いてねぇっつってんだよ!! もう飽きたぜ!! 死ねよ上海!!』

先程のレーザーでどこか負傷したのか、上海人形の動きは明らかに鈍っていた。
もはやこの勝負は時間の問題だ。
蓬莱人形がそう考え、新たに弾幕を・・・・・







「あなた達何やってるの!!!!!!!」






中庭に悲痛な声が響き渡った。






「う、うそ・・・・ど、どうしてこんな事してるのよ二人とも・・・・。」

上海人形と蓬莱人形が声の方を見る。
そこにはドアを開けたカタチのまま動けずに某、としている主人の姿があった。

「ねぇ・・・なんで・・・・こんな事してるの?」

信じられないものを目の当たりにしたアリスはよろよろと二人に歩み寄る。
二人が弾幕ごっこをしている事は良くある事だ。
些細な事で喧嘩をする二人はアリスも良く手を焼くものだ。
が。
今回のは弾幕ごっこでは無い。
弾幕だ。
殺し合いだ。
そんな事は一目見ればわかる。
上海人形は服は焼き切れ、肌は黒く変色している。
蓬莱人形は大小およそ10の木片が突き刺さっている。
そしてこの押し潰されんがばかりの殺気。
誰だってこの場は殺し合いの場であった事が見て取れる。

『・・・別に。 上海があたしを壊そうっていうから壊し返そうとしてただけ。』

蓬莱人形はそう言い、戦闘態勢を解いた。

「・・・・・・!!」

信じられない。
いつも自分の傍に居て、元気が無い時は慰めてくれる上海人形。
悔しいときは代わりに怒ってくれる上海人形。
暑い時はうちわであおいでくれたし、寒い時は私の胸の中に入って暖めてくれた上海人形。
自分に出来る事ならなんでもやってくれる優しい可愛い人形なのだ。

『・・・・・・・』

上海人形は何も反論はしない。

「・・・・・うそでしょしゃんはい・・・あなたいいこだもの・・・そんなことしないわよね?」

上海人形がそんな事をする筈が無い。
でも、ならなんで上海人形は何も言ってくれないの?
アリスは頭が真っ白になっていくのを感じた。
上手く思考がまとまらない。

『・・・・・・・』

・・・上海人形は何も言わない。

「やだ・・・・なんとかいってよしゃんはい・・・・・」

アリスは泣きながら上海人形を仰ぐ、その姿は痛々しくそして儚げである。
アリスはおかしくなりそうだった。
こんなに可愛い上海人形が・・どうして同じ仲間の蓬莱人形を?

『・・・なんでもそいつはあたしが邪魔らしいよ? あたしのせいで上手くいかないってさ。』

このままでは事態は進展しない。
そう思った蓬莱人形は状況を説明した。
アリスに事情を理解してもらって、軽く上海人形を叱って貰えばそれでカタはつく。
先程までは上海人形を壊そうと思っていた蓬莱人形だが、アリスの姿を見た途端、や(破壊)る気がなくなってしまっていた。

「うそ・・・・そんなのうそだもん・・・」

だが、目の前の現状を信じようとしないアリス。
・・・このままでは駄目だ。
このままではアリスはおかしくなってしまうかも知れない。
ここは少々卑怯ではあるが、人形達の主である責任感で動いて貰うしかない。

『残念だけど嘘じゃないんだよアリス。 大体こいつこのままじゃ多分・・・・』

アリスはいやいやと耳を塞いで座りこむ。

「いや・・・ききたくない・・・・やめてほうらい・・・・・」

カタカタと震えるその姿はとても痛々しい。
そんなアリスの姿は見ていたくなかった。
一瞬でも早くアリスに笑顔を取り戻して貰いたい。
その為には上海を叱って貰わねばならない。

『自分以外の全ての人形壊すつもりだよ。』

そして蓬莱人形はそう言い切った。
そう、それは間違いない。
今の上海人形はおかしい。
このまま蓬莱人形が破壊されたとしても、次はアリスを守る多数の人形達に矛先が変えられるだけだ。
 そんなものはいらない。
 アリスには私が居る。
・・・そして全ての人形を破壊する。
間違いない。

『そうしなければ・・・・・』




『黙れよォホウライ!! 御主人様ガクルしんでるノがワカんネェのカヨォ!!』
「―――ッ!!?」

突如叫びだす上海人形。
アリスにはもう何が何だかわからない。
目の前に居るのは可愛い私の上海人形では無い。
それは酷く醜いモノであり、それ故にとても恐ろしく、そして哀しかった。

『テメエが更にややこしくしてるんじゃねぇか!! いい加減にしやがれ!!!』

アリスはもう駄目だ。
こんな上海人形を長く見せ続けたら間違いなく気が触れる・・・!!
上海人形を黙らせなければ・・・!!!

『ウるセェな!! てめェガ黙リャアゼン部ウマくいクんだヨォ!!?』

上海人形ももう駄目だ。
もはやちゃんとした言葉を紡ぐ事すら出来ていない。

「・・・・・・・・いやぁ・・・・・・」







 上海が蓬莱を壊す?
 上海と蓬莱が殺しあっていた?
 このままだと上海は他の皆も殺す?
 ・・・・あれ?
 ・・・・しゃんはいってだれだっけ・・・・?
 あれ?
 このめのまえにいるにんぎょう?
 ちがうよ?
 これはしゃんはいじゃないもの・・・。
 しゃんはいはもっとかわいくてやさしいんだよ?







『このオンボロが・・・・現状も・・・・・!!?』

怒りのあまり、上海人形に詰め寄ろうとした蓬莱人形。
が、アリスの様子がおかしいのに気がつき、足を止めた。
先程の泣き顔では無い。
今のアリスはただただキョトンと。
何も考えていないかの様に、上海人形を眺めていた。

『アリス・・・平気か!?』
『ドコみてンダよォ!!!!』







ゴッ・・・・と

光の渦が目の前を走った。

そこに在った人形は

もう片方の人形が放ったレーザーによって

とおく、とおくへ弾き飛ばされた。







「いやぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」















『やった!! 私が蓬莱を倒した!!! 私が蓬莱を倒した!!私が蓬莱を倒した!!私が蓬莱を倒した!!
 私が蓬莱を倒した!!私が蓬莱を倒した!!私が蓬莱を倒した!!私が蓬莱を倒した!!私が蓬莱を倒した!!
 私が蓬莱を倒した!!私が蓬莱を倒した!!私が蓬莱を倒した!!私が蓬莱を倒した!!私が蓬莱を倒した!!
 ご主人様の目の前で!! これで私の方が必要やった嬉しいこれで私の方が強いこれで私の方が大事やったうれ
 しいなねぇごしゅじんさまほめてくれるよねわたしがほうらいにかったんだよよろこんでくれるよねわたしのほ
 うがほうらいよりつよいんだようれしいよねこれでいつでもごしゅじんさまをまもってあげられるよねいつまで
 もまもってあげるからねごしゅじんさまあんしんでしょうれしいでしょわたしもうれしいよごしゅじんさま』







































「いや~まいったぜ。 まさか爆発するなんて思ってもみなかったからな~」

少女、霧雨魔理沙は箒に跨り、空を飛んでいた。

「か~っ、あいつに頼んなきゃいけないのは癪だよなぁ~。
 でももう一回材料探しに行くのは面倒だからな・・・仕方ないか。」

箒は目的地に向かって一直線に飛翔する。
目的地はアリス・マーガトロイド邸だ。
アリスとは同じ魔法の森に住んでいる仲だ。
あたしが材料切れで悩んでいたら、それはもう快く材料をくれる事だろう。 ・・・弾幕つきで。

「お、あったあった。」

目的地を見つけ、減速し、下降する箒。
そして魔理沙は華麗に玄関の前に降り立った。
無遠慮にドアをガンガン叩きながら大声で訪問を告げる。

「おーーーーい、アリスーーー。
 ありがたく思えーー、この霧雨魔理沙様が仕方なくマンドラゴラの根を頂戴しに来てやったぜー。」

ドンドンドン

「・・・? 留守なのか?
 ま、いいや、それじゃあ無断で頂戴しましょうかね。」

ニヤリと笑って右手に魔力を込める。
・・・・と裏庭の方から声が聞こえた気がした。

「あー? あぁ、裏庭にいたのか。 しょうがない。 後で面倒だし、一声かけといてやるとするか。」

そう呟き、魔理沙は裏庭へと足を向けた。
















そこで魔理沙が見たものは。







壊れた人形と、

ケタケタと笑いながら叫び続ける人形と、

・・・虚空を見上げ、呆けた顔で失禁している友人だった。


転石です。
ダークです。
ダークというにはおこがましいかも知れませんが私的に最大限です。
自分で書いておいてこんな終わりは嫌です。
東方の世界の表舞台は平和な世界で在るべきだと思うからです。
あぁ、いたい。
いつの日か彼女達に救いの手を。

転石。
転石
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コメント



0.2320簡易評価
1.20名前が無い程度の能力削除
ポクもこんな終わりはいやん。
アリスの造った人形はアリスの心の鏡。頑張れアリス、三日前の選択肢に戻れたら「魔理沙に付き合う」を選ぶんだ(何
8.40名乗らない削除
アリスが上海に景品の人形を渡していればこの惨劇は・・・あれ?(笑

そうか実は上海と蓬莱は入れ替わってたと。
つまりこれは呪詛流し編。
次回はぜひ怨み殺し編を。
58.70さわしみだいほん削除
ほーらい
はげしいの感情だな
完成度はたかい