~前回のあらすじ~
ロリータ咲夜
~あらすじ終わり~
・ ・ ・
「んぁ」
もぞもぞと、隣で何かが動いている感触で目が覚めた。
眠りの大海に沈んでいた意識が徐々に覚醒していく。
辺りは一面の暗闇、目が慣れるまでしばし待ってから
ゆっくりと身体を起こし、ぐるりと周囲を見渡す。
そして、はっと何かに気付いて自分の身体をまさぐる。
「……夢じゃなかったのね……はぁ……」
眠る前とまったく変わらない、こぢんまりとした身体を撫で回し大きな溜息をつく咲夜。
……昨日はそれこそ紅魔館中がおおわらわだった。
いきなり幼児になってしまった事による精神の混乱及び思考の混濁に加え、
メイド達及び美鈴が咲夜に夢中になってしまってちっとも仕事が進まなかった。
それに咲夜の部屋だと絶対誰かが周りの目を盗んで進入してくる事うけあいなので
とりあえず昨日は一日中レミリアの部屋でレミリアと共に過ごしていたのだ。
普段の咲夜だったら、誰も侵入することあたわぬ密室でレミリアと二人きりという
桃源郷かつ失楽園な事この上ないオイシすぎる状況に置かれたとしたら、
本来はすべてを受け入れてくれるはずの幻想郷ですら
「いっやァ~……さ、流石にこれはちょっと……カタストロフィ過ぎるでしょォ~……」
とか言いたくなる程のパーフェクトプライベートスクウェアを展開する筈なのに
あまりに大きなショックの所為か何もしなかった、いや、出来なかったというべきか。
「……お嬢様」
「ん~……さくやぁ……霊夢の食べかけのきりたんぽかっぱらってきてぇ……」
ふと隣に目をやると、レミリアがすやすやと穏やかな寝息を立てている。
そのプリティ極まりない寝顔と、あまりにも勝手すぎて逆に感動的な寝言に
危うく脱水症状及び出血多量にて人生の幕を下ろしかける咲夜。
それと同時に、まさか自分はこの美味しい状況に置かれておきながら
アダルティなスキンシップのひとつも図らなかったのかと後悔した。
やはり幼女になってしまった事による心身のダメージは大きかった様だ。
完全で瀟洒なメイド長と言えどもやはり鬼や悪魔ではなく、人の子だったようだ。
いくら可愛らしいとは言え幼女の寝顔で鼻血を噴き出すというのは
はたして完全で瀟洒と形容していいものかどうかはこの際置いておく。
「……失礼いたします」
レミリアの顔にかかっている前髪をそっと払い、静かにベットから下りる咲夜。
とりあえず、何時までも落ち込んでいても始まらない。
小さくなったからと言ってメイドの務めを疎かにする事は出来ないし
働いていた方が少しはこの鬱屈とした気分も紛れるだろう。
お嬢様は無理しなくていいのよと仰っていたがそうも行かない。
第一自分がやらなかったら誰がお嬢様のお世話をするというのだ、と、
小さな身体に熱い決意を秘め、レミリアを起こさないようにして静かに部屋から出て行く。
「……さて……今日の予定は……お嬢様の下着を洗うフリしてコピーを作成し
しかる後本物とすり替えるのと……後はお嬢様’sクローゼット大冒険だったわね」
まずは身だしなみを整えねば、と、自分の部屋に戻って壁経由で外に出て顔を洗い歯を磨き、
レミリア用にこっそり用意しておいた幼女サイズの服に着替える。
人生でどこで何がどのように役立つか分からないものだ。
霊夢や魔理沙には変態趣味と揶揄されたが、それでも自分を曲げないでよかった、と
咲夜が微妙な感慨に浸りながら自分の部屋のドアを開ける。
「あ、おはァハァようございます、咲夜さん」
「(うッわ!?何この言葉の端々から溢れるとてつもない負の波動ッ!?)」
心の中で激しく吐血しながら縦回転しつつ、咲夜は自分の悲しき運命を呪った。
自分に迫ってくる可能性がある紅魔館構成人員の中では、恐らく最も実力のある美鈴。
今のちみっちゃい状態の自分では、下手すると遅れをとる可能性だってあるのだ。
何が悲しくて朝っぱらから一番ヤバい奴に引っ掛からなければならないのだろうか。
しかもこのお互いの制空権が触れ合う一撃必殺の間合いにおいて、既に相手は臨戦態勢だ。
不意打ちを受ける格好となった咲夜の背中に、一筋の汗が流れる。
「ところで咲夜さん、これ何だか知ってますか?」
「これって……その人形の事?何か嫌なオーラが漂ってるんだけど……」
「これはですね、アリスさんに頼んで譲ってもらっダニッシュ!」
「そんなサタンドール捨てなさいッッ!」
アリス、という名前が出た途端、美鈴が最後まで喋り終わる前に
ナイフの代わりに隠し持っていたマチ針を美鈴の眉間にぶち込む咲夜。
……よりにもよってあの変態人形師の作、しかもこの状況で持ってくるような人形だ。
どうせろくでもない呪いやら何やらが込められた悪魔の手先に決まってる。
そう言えば以前霊夢が変な人形を使われて襲い掛かられたとぼやいていた。
確か「ハネムーン半強制展開装置・ソドムチックラブジェネレイション」と言ったか。
恐らくアレはそれと同種の人形だろう。まさか自分がそれを使われかけるとは夢にも思わなかったわ、と
間一髪で危機を乗り越えた咲夜がしみじみとそう考え、倒れた美鈴に背を向けたその時。
「……うふ、うふふ……咲夜さんったら、恥ずかしがり屋さんなんですから(はぁと)」
「……!?」
バババババ、ヂャキ、と、華麗に素早くきめ細やかに美鈴が立ち上がった。
仕留めた筈なのに、と驚愕する咲夜だが、よくよく見るとマチ針の刺さりが甘い。
これでは致命傷どころかダメージ自体与えられていないだろう。
しかも子供の腕力ではナイフが満足に投げられない為に
仕方なくマチ針で代用したのも事態の悪化に拍車をかけた。
どうやら身体機能を活性化させる素晴らしいツボを突いてしまったようだ。動きが機敏になっている。
確実に眉間を狙ったはずなのに妖怪の身体構造を考慮していなかったのが拙かった。
「さぁ、咲夜さん……あとは貴方の髪の毛さえあればこの人形が完全体に……」
「ッ……美鈴……そ、それ以上近付いたら只じゃおかないわよ……ッ!」
「うっふふ……無駄ですよ……紅魔館メイド必殺奥義は
私もほとんど知ってますし……何より今の咲夜さんじゃ……」
「くっ……」
紅魔館メイド必殺奥義はそもそも日常の業務、または護身用として
その名の通り紅魔館で働く者の全てが習得しているのだ。
どのような技か事前に分かっていれば、それはさしたる抑止力とはならない。
第一、もともと体術では美鈴の方に分があった。
加えてこの幼女の身体では結果を考えるまでも無い。
しかも最悪な事に、この間合いでは時間を止めるより早く
とっ捕まってしまう可能性が高い。
「……!」
もはや万事休すか、と諦めかけたその時、咲夜の脳裏に一筋の光明が刺した。
……いや、たった一つだけあった。
美鈴がその存在を知らない、自分だけが駆使(つか)える究極にして至高の奥義が。
「うふ……咲夜さん……もう悪あがきは止めた方がいいですよ?」
怪しい光を瞳に湛えた表情を浮かべ、じりじりと美鈴がにじり寄ってくる。
しかし、もはや畏れる事は無い。あの技さえあれば美鈴など朝飯前のお茶漬けだ。
鋭い光をその目に宿した咲夜が、きっと美鈴を睨みつけ、構えを取る。
「……美鈴……貴方は……貴方は紅魔館メイド必殺奥義を舐めたわッ!!
代々のメイド長のみが継承する事を許される紅魔館メイド必殺奥義その零!
いい機会だからそのムカつく位に大きい尾花沢スイカに刻みつけておきなさい!」
美鈴を切り抜けるついでに、普段から鬱屈しているマスクメロン族への
そこはかとない恨みを晴らしてやる、と咲夜が叫び、それを引き金として
美鈴が地を蹴り、咲夜めがけて飛び掛かった。
「ッシャアアアアアァッ!!さっくやさぁぁぁぁぁぁん!!」
それはまさに弾丸、まさに重爆。
圧倒的な双の爆弾が咲夜めがけてピンポイント爆撃で迫り来る。
しかしその暴力とも言える美鈴の巨乳を前にしても
咲夜は明鏡止水の境地を保ち、以前レミリアに教わった秘奥義を心の中で反芻していた。
「(両足をこう……メイドがご主人様に奉仕するように……)」
「(犯……)…………ッッッッ!!!!」
そしてついに美鈴の魔手が咲夜の柔肌に触れた。
美鈴が完全に自分の勝利を確信した、次の瞬間。
「(紅魔館メイド必殺奥義……………………その…………零ッッ)」
気付いた時にはもう遅い。
咲夜のぽてっとした手が美鈴の腕を極めた。
咲夜のふにふにとした右脚が美鈴の首に噛み付いた。
そして、スカートの中に隠された子供モノの下着が美鈴の顔面めがけて……
ふにゅっ
「スリジャヤワルダナブラコッテェェェェェェェェェェェェ!!!!」
己の全存在を否定されるかのような強烈極まりない一撃をモロに受け、
美鈴が喉が裂けんばかりに断末魔の叫び声を上げた。
紅魔館メイド必殺奥義その零「冥土」が今ここに完了した。
基本的にこの技はレミリアとの夜の生活の時瀟洒に使用するモノなのだが
ひとたび攻撃に使えばこの様に凄まじい破壊力をもたらす。
人が作り出したものは使い方によって毒にも薬にもなるといういい例だ。
「……冥 土 完 了……」
そして、今度こそぴくりとも動かなくなった美鈴に背を向けて
咲夜がゆっくりと歩き出した。流石にちょっぴり恥ずかしかったのか、
頬がほんのりと桜色に染まっているのがこの上なくプリティだ。
……しかし、咲夜に休む事は許されなかった。
何とか美鈴を乗り切ったもののその後も、あまりにも歪みすぎて
パッと見では真っ直ぐに見える程に歪みきったメイド達の
激しすぎる愛情表現が咲夜に次から次へと襲い掛かったのだ。
「あ、咲夜さぁん(はぁと)」
「あ、あら……おは」
「うふふ、いいんですよわざわざ最後まで仰らなくても。
もう私の方は髪の毛から爪先まで磐石の態勢ですから
今すぐにでもおっぱじめられます、何ならここで皆さんに見られながらでも」
「はっ?」
「ハイッパー百合色の脚スペシアァァァァァァル!!」
「い、いやぁぁぁぁぁぁ!無理!無理よ!脚は入らないって!普通に入らないって!
万が一入ったとしてもたぶん足首で引っかかるって!いやっ!りょ、両足はやめてぇぇぇぇぇぇ!」
「侍女長殿……湯殿の清掃、完了いたしました」
「そ、そう……じゃあ、次の仕事に移って頂戴……」
「おや……何やら汗をかいていらっしゃる様ですが……
もしやお体の具合が優れませんのでは?」
「(うッわ!目が!目がまるで宵の明星の如く爛々と輝いているッッ!
ああもう、絶対この子お風呂イベントのフラグ立てようとしてるわ……
これはまずいわね、ここでの選択肢には最上の注意を払わないと
私のサンクチュアリ封鎖出来ません!的な大惨事の幕が上がっちゃう……)」
「……侍女長殿?気分が宜しくない様ならばお部屋へとお送りいたしますが?」
「(あ、あらら……この子、案外常識があったのね……)そ、そう……じゃあ、お言葉に甘えて……」
「部屋で全身清拭の後桃色着せ替え遊戯に興じましょうねホッホッホッホォホホホホォホ」
「まさにミスディレクショォォォォン!助けてぇぇぇぇ!拭かれる!揉まれる!撫でくり回されるぅぅぅぅ!」
「メイド長、私は他の者の様に変態的な事はいたしませんわ。
ただメイド長の四肢をくまなくしゃぶりつくさせて頂ければそれだけでもうジュルリ」
「何で貴方この状況でフォークとナイフ構えてナプキン掛けてるのぉぉぉぉ!?
違うッ!何か違うッ!貴方の流すよだれは他のメイド達と決定的に違うッ!
って言うかいくら何でもカニバリズムは拙いでしょうがぁぁぁぁぁぁ!!」
襲い掛かるメイド達はまさにルナティック級の弾幕の如し。
それがすべて超高速自機狙い大玉でかっ飛んでくるのだからたまったモノではない。
咲夜は今、変態と言う言葉の真の意味をその身で嫌と言うほど味わっていた。
……ちなみに余談だがこの日、幻想郷中で百合の花の異常発生が確認されたらしい。
・ ・ ・
その日の夜。
一通りの業務を終え、仕事が片付いたメイド達が
ぽつぽつと自室に戻って休みだした頃。
「…………はぁ」
咲夜は自分の部屋の、今となってはでか過ぎるベッドの上で溜息を付いた。
一日中自分をどうにかしようとして襲い掛かってくる
メイド達との激闘で、身も心も疲れ果ててしまった。
そして何より仕事が満足に出来ないのだ。
掃除をすれば高いところに手が届かず、
物を運ぼうとしても重くて大した量が持てず、
料理をしようとしてもそもそも流し台に背が届かず、
挙句の果てにはレミリアの世話をしようとしても
身体能力その他諸々の低下が災いして、むしろ足を引っ張ってしまった。
咲夜にとってはこれが一番辛かった。襲えないだけならともかく迷惑までかけてしまうとは、と
むしろ普段の変態行為の方が迷惑だ言う事には気付かずに己を責める。
そして更に、自分の可愛さのあまりに他のメイド達がイカレてしまう事による
紅魔館メイド部隊全員の作業能率の爆発的な低下。
この状態ではまさに百害あって一利なし。
まさかここまでの影響を及ぼすとは思ってもいなかった。
「どうしよう……このままじゃわたし、めいどたちにくいつくされちゃ……って……ッ!?」
そう呟いた瞬間、咲夜は自分の身体にかつて無い異変が起こっているのを感じた。
身体というより思考、もしくは精神とでも言うべきか。
喋りがたどたどしく、まるですべてひらがなで喋っているような感覚を覚える。
そしてその事実に気付いた咲夜の顔から一気に血の気が引いていく。
「な、なんでわたし ひらがなしゃべりになってるの!?これはまずい!まずいわよさくや!
じぶんでいうのもなんだけど、こんなやわらかそうで いたいけで ぷりてーなようじょが
たどたどしいひらがなで かわいくしゃべってたら、めいどたちのれつじょうを かげきにしげきすること うけあい!
わたしも そっちがわのにんげんだから それはよくわかるわ!うう……ど、どうしよう……もどらない……」
完全で瀟洒で冷静で実にかっこよろしい普段の咲夜を知っている者にとって、
今の無力でいたいけ、可憐でキュートでプリティでルネッサンスな姿は
普段とのギャップと相まって桁違いの破壊力をもたらしている。
ロリータとクールビューティーの振り幅が――――萌力の要。
ならばあり得る!このバカげた萌力も納得できる!と言った感じだ。
そのアレでアレな状態の咲夜がしまいにゃひらがなで喋りだしたとなれば
一足お先に世界の終わりを疑似体験させられる破目になるという事は火を見るより明らかである。
それどころか皆まとめて出血多量でグッバイ現世といった事態にもなりかねない。
「しかたない……これだけはつかいたくなかったけど……」
そう言って、ごそごそとベッドの中を漁る咲夜。
そう、身体がいきなり幼女になってしまったのに伴って
精神までもが子供側に引きずられているのならば、
そこにアダルティな刺激を与えて頭脳及び精神を
そっち方面に修正してやればいいのだ。
「……よいしょ……っと……」
取り出したのは等身大のレミリア人形と、なにやら
直径八センチ、長さ二十センチほどの円筒状の物体。
と言うかこの状況で円筒状の物体の直径がどうとか太さがどうとか
そういう描写をするのは不適切極まりないと思われるが
厳然として揺るがない現実なのだからどうしようもない。
「……れいぞうこぷれい および いあいげりぷれいをもうわまわる
ろっかげつの じかんをかけて かんがえだした さいしゅうけっせんおうぎ、
りにあもーたーかーぷれいの ふういんを ときはなつしかないわ」
その円筒状の物体こそが、香霖堂からこっそり仕入れておいた
外の世界で言うところの「りにあもーたーかー」の模型。
宇宙を創造した大いなる神ですら逆立ちしながら逃げ出しそうな
その禍々しいフォルムはもはや精神兵器の域すら通り越している。
「おじょうさま……すみません、つかわさせていただきますっ!」
そう叫んで、ぎゅっとレミリア等身大人形を抱きしめる咲夜。
そしてその、破滅的なオーラを放つリニアモーターカーの模型を……
ゆっくりと……
ゆっくりと……
やさしく……
やさしく……
きめ細やかに……
プログレッシヴに……
「ピッシャアアァァァァァアアアアアアァァァァァァ!!」
……そして世界が、光に満ちた。
・ ・ ・
「さ、流石は音速の弾丸リニアモーターカー……ちょ、ちょっと威力を見誤ったわ……うぅ……
まさかあれ程までの加速をもたらすなんて……後三秒反応が遅れてたら血の海だったわね……いたた……」
どちらかというと洋式より和式の方が一度に沢山湯に浸かれ、
なおかつ助平な行為にも使用しやすいという事もあり
咲夜が無理矢理メイド達をオドして造らせた、信じられないほど広い紅魔館の風呂。
ただの風呂というよりはもはや豪奢な銭湯に近いその真ん中で、
小さなランプのぼんやりとした明かりに照らされて咲夜がこっそりと身体を洗っていた。
普段は夕食をとり終わり、レミリアとフラン、パチュリーがおのおのの部屋に引っ込むのを待ってから
食事の後片付けをし、手の開いたものから順次入浴するのが慣例なのだが
今の状態でそんな事をしたらどんな目に遭うかは火を見るより明らかなので、
こうして明かりもつけずにランプをひとつだけ持ち込んで、誰にもばれないように入浴しているのだ。
「それにしても何で洗っても洗っても血が流れ出してくるのかしら。
別に外傷も痛みも何も無いんだけど……おかしいわね」
ごしごしと身体を擦りながらそう呟く咲夜。
と言うかそれはただ単に眼前の鏡に映った自分の裸身に興奮して
鼻血がとめどなく溢れているだけの話なのだが未だそれに気付いていない。
もしかすると自分で自分に欲情するという、冥界の魔王ですら裸足で逃げ出すような
己の凄まじいまでの罪深さを認めたくないという無意識の防衛機制なのかも知れないが。
そして、身体を包む泡を洗い流すため、お湯を出そうとして眼前にある蛇口をひねった、その時である。
(……それならぁ……わたしが……あらって……さしあげますよぉぉぉぉぉぉ)
「…………ッ!?なッ……何で……扉は完全に封印した筈なのに……ッ!」
自分以外には誰も居なかった筈の浴室に、突如不気味な声が響いた。
まるで地を這うような、そしてどことなく艶やかな色を湛えた声色。
しかし明らかに浴室の中から声が聞こえてきたのにも関わらず、
上下左右東西南北360度、何処を見ても人っ子一人居ない。
正体不明の言い知れぬプレッシャーに、咲夜の額を水とは違う液体が伝う。
「くっ……す、姿を見せなさい!流石の私も
こんな透明人間プレイに付き合う気は無いわよ!」
「はぁぁぁぁい、でてきましたよぉぉぉぉ(はぁと)さっくやッすわぁぁぁぁん」
「きゃああああああ!じゃ、蛇口からメイド服を着たバケモノが這い出してきたって
そう言えば貴方は確か身体を液体に変える程度の能力の持ち主だったわねって
何でも~する程度の能力ってつければいいってモンじゃないって言うか普通に怖いから!
明らかに人間と妖怪の境界ぶち抜いてキモさが超常現象の領域に達してるから!
いや!何これ!?ぷるッぷる!何かすっごいぷるぷるしてるぅぅぅぅぅぅ!?」
「メイド長ぉ~~~~~~……お風呂に入るなら一言おっしゃって下さいよぉ……」
「はにゃああああああ!鏡!鏡から!もう既に全裸になってるバケモノが出てきたぁぁぁぁ!
今になって思い返してみれば貴方の能力は現実と鏡面世界を移動する程度の能力だったわねって
何でそんな覗きくらいにしか使えないようなトンデモ能力がこのタイミングで出てくるのよぉぉぉぉぉぉ!!」
「咲夜さぁん、お背中流しちゃいますよぉ(はぁと)」
「何で美鈴までもがここに入ってこれるのよぉぉ!?
力では絶対に破れない魔力の障壁張っておいたはずなのにって
ああ!よ、よく見たらお風呂場の隅にあんな穴が!後でちゃんと直しときなさいよ!
って言うかそれスポンジじゃなくてリニアモーターカーの模型じゃないのよぉぉぉぉ!
しかもこれ私の部屋にある奴じゃないって言うかやめて!音速の弾丸はやめてぇぇぇぇぇぇ!!」
「「「「「「咲夜さぁぁん」」」」」」
「何か湯船からいっぱい出てきたぁぁぁぁぁぁ!
もしかして貴方達夕食の後からずっとここに潜んでたのって
何人かのぼせてぶっ倒れてるじゃないのよぉぉぉぉぉぉ!
ホント紅魔館は地獄よねフゥゥゥゥゥゥハハハァァァァハァァァァァァ!!」
この瞬間、咲夜は己の認識が甘かった事を嫌と言うほど思い知らされた。
ここ紅魔館で働くメイド達の変態さとカッ狂いっぷりは
自分を顧みるまでも無くよくよく理解していた心算だったが、
まさかこれほどまで脳がハルマゲドンかっぱらった奴らだったとは思っていなかった。
今の自分にとって紅魔館はまさにメギドの炎に焼き尽されし終末の丘。
今の自分が辿っている運命はまさに百合色の黙示録に記された滅亡の軌跡。
今の自分を捕食せしめんとしてじりじりと迫り来るメイド達はまさに那由多に及ぶ崩壊の尖兵。
ああ、これが人が生まれながらに背負う大いなる罪の罰なのか、と妙な方向に悟りを開きかける咲夜。
「「「「「「「「「「メイド長……いっただきまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁす!!」」」」」」」」」」
獲物に襲い掛かるハイエナの様に咲夜めがけて突貫してくるメイド達。
そのあまりにも変態的で傍若無人な行いに、ついに咲夜の堪忍袋の緒が切れた。
かさねがさねのらんぼう、もうゆるせぬ。
いつもは自分も似たような事をやっているというのは完全に忘却の彼方だ。
「やらせはしない!たかがヒラのメイド達にこの十六夜咲夜はやらせはしないわ!
今こそ解き放つ諸刃の剣!遠くの者は音に聞け!近くの者は目にも見よ!
幼符!!夜露の淫猥セクシービィィィィィィィィィィィィム!!」
「アポカリプスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」
叫び声とともに、咲夜が破廉恥極まりない素敵なポーズをぶちかます。
そのどこまでも扇情的でそこはかとなく破滅的な凄まじいポーズに
メイド達が一人残らずもはや体液であるかも怪しい謎の液体をを撒き散らしてぶっ倒れた。
「…………はぁ……はぁ…………と、取った…………ど…………」
そして一人残った咲夜もまた、幼い身体にかかった
とてつもない負荷によって、ドッシャアァッと倒れ伏した。
そこら中に撒き散らされた鼻血は、まるで戦場に咲く可憐な薔薇。
倒れているおびただしい数のメイド達は、まるで哀しみを湛えた墓標。
湯船から立ち上る湯気は、まるで戦場に立ち込める硝煙と漆黒の煙。
勝利者など居ない、どこまでも無為な戦いがひとつ、ここに幕を閉じた。
「…………明日になったら………………あそこに………行かなく…………ちゃ……うぁ」
・ ・ ・
「……確か……この辺りにあった筈なんだけど……あ、あそこね」
翌日、朝日が山々の間から顔を出すのとほぼ同時に
持てるだけのナイフと非常時の為のリニアモータカーの模型だけを持って、
レミリアの部屋に書き置きを残し、咲夜が紅魔館から飛び立った。
それほど強い妖怪に襲われる心配もなく、なおかつ紅魔館の誰にも見つからずに
動ける時間と言えばせいぜいこの時間帯くらいしかない。
咲夜の目的は永遠亭、更に言えば八意永琳だ。
このような状態では仕事どころか自分の命すら危ない。
「その内治る」等と悠長な事を言っていられる状況ではないのだ。
この状態を打破する為には月の頭脳と呼ばれた永琳の頭脳を借りるほか無い。
格子の様に生え並ぶ竹の間を縫って飛び、永遠亭の玄関前に降り立つと
風で乱れた髪を整え、然る後鐘の様なものが付いた鎖をガラガラと鳴らす咲夜。
「はーい、今開けるでごわす」
「(ごわす!?な、何!?誰!?相撲部屋だったの!?)」
扉の向こう側で影が蠢き、なにやら衝撃的な言葉が聞こえる。
もしや怪しい妖怪でも潜んでいたのかと咲夜がナイフを取り出しかけたが、
その声の正体は意外な人物だった。
「いらっしゃいませ~、何の御用でごわすか?」
「(この子……あの時廊下のど真ん中で私達を邪魔した、あの……)」
ころころと鳴る鈴の様な可愛らしい声でゴツい台詞を吐く
この少女は、可愛いツラしてあの子割とやるもんだねを地で行く
永遠亭の詐欺師・因幡てゐ。
勿論、この可愛らしい声も仕草もゴツい口調も擬態の一種。
真のペテンとは相手が騙された事すら気付かない、まさに匠の技なのだ。
その点において、てゐはまことのペテン師と言えよう。
「え、ええと……こちらに八意永琳さんはいらっしゃいますか?」
そしてそんな事は知る由もない咲夜が、てゐの予想外の口調にたじろぎつつも
とりあえずは礼儀正しい幼女を装って尋ねる。
下手に自分は十六夜咲夜だ、などと言って無用な混乱を招かないためだ。
「はいはい、案内するからこちらへどうぞでごわす」
「……お、お邪魔します」
この幼女には危険はないと判断したのか、あっさりと咲夜を中に案内するてゐ。
てゐに先導されて廊下を進んでいくと、やがてとある部屋の前に着いた。
「(……あの……ここに永琳さんが?……)」
「普通に話してもいいでごわす、皆起きてますから」
「……ずいぶん早起きなのですね」
「早寝早起きは健康の秘訣でごわす。永琳さま、お客様でごわすよぅ」
「あら……誰かしら、こんな朝早くに……とりあえず入って頂戴」
どうやら好都合な事に、すでに起きているようだ。
もしも寝てたらナイフぶっ刺してでも叩き起こす心算だったので
寝てようが起きてようがさしたる相違は無いが、時間短縮にはなった。
とりあえず第一段階、対象とのスムーズな接触は成功した。
「どうぞでごわす。それじゃ私はここで」
「はい……お邪魔します…………永琳さん」
てゐが去っていくのをしばし見届け、ゆっくりと永琳の部屋の襖を開ける。
ここから第二段階、自分が十六夜咲夜だということを
向こうになるべく早く理解してもらわねばならない。
ゆっくりと部屋に足を踏み入れ、机に向かっている永琳の背中に声をかけた。
「誰か知らないけど……こんな時分から何の…………よ……う……」
ふいと振向いた永琳の声が尻すぼみに消えていく。
そして数分ほどその場が静寂に包まれ、その数瞬後。
「サァァァァァァァァァァァァルガッソォォォォォォォォォォォォ!!!!
朝もはよから私の部屋に見目麗しい可憐な幼女がぁぁぁぁ!
血圧!血圧上がっちゃう!医者の不養生的大惨事引き起こしちゃうぅぅぅぅ!」
「…………また………」
いきなり永琳が鼻血を出しながらひっくり返って回転しつつのたうちまわった。
ある意味では予想通りの反応ではあったが、それでもその天才的な痴態に呆れて
思わずこめかみを指で押さえる咲夜。
「……うう……やっぱり狂った……もう、落ち着いて!私よ、私!
紅魔館の完全で瀟洒でダイナマイトバディなメイド長、十六夜咲夜よ!」
そう言いつつ、のたうちまわる永琳の頭に下段の踵蹴りを五発ほど叩き込んだ。
相手が不老不死の永琳だからこそ出来る凄まじく過激な荒療治、
三発目辺りで非常にスプラッタな事態となったがその数秒後には既に回復していた。
とにかく何とか正気に戻った永琳が、蹴られた所をさすりながら
まじまじと咲夜を見つめ、半ば恐る恐るといった感じで口を開く。
「ッ……そ、その銀色の髪、青色の瞳……とめどなく溢れ出す変態性を覆い隠す
完全で瀟洒な態度と表情……そしてこの技のキレ……貴方……もしかして……」
「だから言ったじゃない……ちょっと今は訳あってこんな
あり得ない事態になってるけど……正真正銘の本物よ」
「……本物……ねぇ…………しかしまた……これは……」
うーん、と唸りながら、しばし咲夜を食い入る様に見つめる永琳。
ひとしきり髪をふさふさと触ったり瞳の色を確かめたり、脈を計るふりして
胸に手を当て揉みしだこうとしてナイフでぶっ刺されたりしてから
咲夜から一歩離れ、遠慮がちに言葉を紡いだ。
「……いや……でも……また随分とアレな事になってるわねぇ……何があったの?」
「……じ、実は……その…………」
変態で天才だからこのような状況に対する理解は早い。
やっと自分の境遇を理解してくれる人が現れた、と思わず感動する咲夜。
今まで周りにいるのは自分を食い殺さんと襲い掛かってくる奴ばかりだったから無理も無い。
そして、ここ数日に起こった事の顛末を微に入り細にうがって語り始めた。
……冷蔵庫プレイにより自分の身体を蝕み始めた恐るべき病魔。
……皮肉にも友人と愛する者を救おうとした二人の少女が引き起こした凄惨な事故。
……自分を食い殺さんとして襲い掛かる変態共との激しい闘い。
「…………という訳なの。それで、貴方の頭脳で何とかならないかって……」
とても涙なくして聞くことの出来ない、ハンカチ必須の百合色叙情。
そして、咲夜が一連の出来事を全て語り終わり、しばしの間をおいてから
今まで黙って話を聞いていた永琳がうんうんと数度頷き、すっくと立ち上がり。
「よし……うん、よし、わかった……わかったわ。
種々の事情でちっちゃくなっちゃった、それでいいわ。
それで私のところに助けを求めに来た、それもいいわ、うん。
つまりは……私に貴方を喰ってくれって事よね、それって」
流石は月の頭脳と呼ばれる程の大天才、八意永琳である。
その超ハイレベルな思考回路から導き出された答えは
もはや常人には別世界の概念と言ってもいいほどぶっ飛んでいる。
そして永琳のこの言葉を聞いた瞬間、咲夜の脳裏に
「馬鹿と天才は紙一重」という言葉が浮かんだのは言うまでも無い。
「前から言いたかったんだけど貴方ってどう考えても天才じゃなくて馬鹿よね!?ね!?
月の頭脳ってのも嘘よね!?月の頭脳普通いたいけな幼女襲ったりしないもんね!?ねぇ!?
例え7那由多歩ほど譲ってもせいぜい月の煩悩とか月のOh!No!とかその辺りよね!?ね!?
って言うかその怪しげな注射器とか聴診器とか座薬とか一体何に使う心算なのぉぉぉぉぉぉ!?」
咲夜は昨日に続いて己の運命をしこたま呪った。
何でよりにもよって八意永琳ほどの実力者に襲われなければならないのだ。
この超至近距離では、何をどうやったって咲夜より永琳の方が先手となるに決まっている。
身体が幼児化したのに伴って筋力は勿論の事、
反射神経や動体視力までもが徐々に鈍ってきているのだ。
こんな状態で襲いかかられたが最後、もはやまな板の鯉ならぬベッドのプリティロリータ。
力では到底敵うはずも無く、だからと言って技でかわそうとしても
咲夜の認識速度を上回るスピードで押し倒してくる可能性は非常に高い。
実現の可能性は限りなく低いが、何とかして言葉で説得するしか活路は残されていないという訳だ。
あっという間にひとり背水の陣となってしまった咲夜が、ずりずりと後ずさりながらも激しく慟哭する。
「所詮一般人には天才の思考は理解できないのよ。
それにこれは貴方がいつもあの吸血鬼にやっている事と
さしたる相違は無いはずでしょう?自分は良くて私は駄目とでも言うつもりかしら?」
「……ッ!!」
永琳のさりげなく真理を付いた発言に、思わず言葉に詰まってしまう咲夜。
全くもってその通り、普段からレミリアに対して変態行為を仕掛けまくっている咲夜が
永琳のこの行動に文句をつけるの筋合いがないのは確か。
自分の胸のパッドに手を当ててよくよく考えてみろという訳だ。
「と言う事で美味しく頂かせて貰うわね」
「ま、待ちなさい!貴方の言う事はある意味もっともだけどこの行為には愛が無いわ!
そこへ行くと私のお嬢様に対する求愛行動はあくまで純粋な思慕の感情の発露であり
尊敬と敬愛に満ち満ちたまさに楽園に咲く知恵の木になるエデンの果実的至高の愛情!
よって私と貴方は決定的に違うって言うかそんな注射器の太さ測ったりしてないで
ちょっとは人の話聞きなさいよぉぉぉぉぉぉ!!」
だからと言って大人しく喰われてやる訳には行かない。
自分にはお嬢様という一生を誓った愛しの姫君がいる。
何でこんな変態薬師の食い物にされなければならないのだ。
冗談じゃない、瀟洒じゃないにも程がある、と
一瞬怯んだ咲夜だがすぐさま精神的態勢を立て直し、ふたたび永琳にツッコむ。
「ここの胴の部分がギリギリはまるサイズが一番エクスタシティックなのよ。
ウドンゲで確かめたから効果は保障するわ。その後ウドンゲ失神しちゃってたけど」
「(変態ッ!でも天才!だけど変態!しかして天才!ああいつの間にか微妙に韻踏んでる!
そうか分かったわ!こいつはただの変態でも無ければただの天才でも無いッ!言うなれば変態の天才!
私たちとは根本的にどこかが違うって言うか脳細胞と神経系により綿々と構成される思考回路が一分の隙も無く違う!
そしてこいつを絶対的捕食者とすれば私は餌!さあ始めましょう捕食者対餌って言うか何この思考の流れッ!?)」
天才的なスルーテクを発揮しつつ、注射器と咲夜を交互に、舐め回すように見つめながら
永琳がうっとりとした表情を浮かべ、よだれと劣情とをまとめて垂れ流す。
そんな永琳の、まさに月の頭脳としか形容しようが無い
あまりにも天才的すぎて思わず涙が出てしまうほどの素晴らしい発言に
この上ない恐怖と戦慄を感じる咲夜。
「いやァ~~……生きてる……ってのは……
わたしゃ昔……召使いの女の子襲ったり……
月の宮廷勤めの侍女襲ったりしてたんだけど……
あの時代に……アナタがいてくれたらなァ……って思うわ。
こんな美味しすぎるハプニングに巡り会えるだなんて
やっぱりあの時永遠の命得といてよかったわぁウフフウフウフ」
「軽々ッ!ものすさまじいまでに軽々ッ!!って言うか貴方ねぇ、
普通永遠の命得たヒトって存在意義がどうとか死ねない苦しみがどうとか
ヒトはいつか死ぬからこそその時その時を一生懸命生きられるんだとか
永遠の命なんてクソくらえだとかそんな感じの何やら知った風な口ぶっこいて
悩み苦しみ後悔し慙愧するものでしょ!?何なのその桃源郷的に捻れた睦言はッ!!」
「永遠ってのもなかなか悪くないわよ、色んな時代の色んな女の子喰えるし。
過ぎた事振り返るより今を精一杯楽しんで生きなきゃ損じゃないの。
安心していいわ、優しくなおかつ安らかにそして穏やかにむさぼり殺してあげるからァハァハハハハハァハ」
「ひっ……ちょ、ちょっと待って……いや、その……ちょっとおちついて……れいせいに……はっ!」
はっとしてすぐさま手で口を覆う咲夜だが、もはや時既に遅し。
いきなり世にも恐ろしくいやらしい笑みを浮かべた永琳に
迂闊にも一瞬怯んでしまった咲夜がついひらがなで喋ってしまった。
昨夜リニアモーターカープレイによって与えた刺激が薄まりかけていた所に
不気味過ぎる顔のクリーンヒットを受け、幼児退行的な現象が起こった様だ。
そして半ば呆然とした表情になった永琳が、渦巻く劣情をゆっくりと叙情する。
「ちょっ……え……待っ……いや……な……あ、貴方……今……ひ、ひらがなで……喋っ……た……?」
「血画宇!血画宇和!呼乃 輪太死我 火羅我奈出 射辺瑠 輪毛我 奈胃 出書!?」
「漢字で喋るってそういう意味じゃ無いわよ!そんな程度の擬態で
この稀代の大天才八意永琳を誤魔化せるとでも思ったの!?
って言うかひらがな!ひらがなトーク!チルドレンワード!ワード主義!言霊イズム!
ひらがな!鳩尾!鳩尾が!くすぐったい!頬が緩む!にやける!にやける!唾液が!ああ!とめどない!
イヤンもう凄いわ今の貴方ったらとっても素敵で扇情的なラヴリーロリータレクイエムオーケストラー!」
興奮のあまりそこら中を天才的に転げ回りながら叫ぶ永琳。
そもそもそんな物があったのかどうかてんで疑わしいが、
咲夜のひらがな喋りが完全に永琳の理性のタガを外してしまった。
ギリギリで繋ぎとめられていた本能は完全に暴走し爆走し迷走している。
恐らく今の永琳の脳内にあるのは、うまい料理を喰らうが如く
目の前の咲夜をゲッチュウする、それだけだろう。
「も、も、もう我慢できないわ!キレイな愛じゃなくても構わない!天使よ目覚めて!カマキリを燃やせ!
逝ッくわよぉぉぉぉ!八意究極三神技の弐!ルナティックジーニアスとろぷるボンバァァァァァァ!!」
「(くッ……こんな所で喰われるわけには…………ッ!やるしかない……あれをやるしかないッ!)」
ついに襖まで追い詰められた咲夜に、永琳が激しく飛び掛った。
その風情はまさにライオンに襲われる弱々しい草食動物。
しかし完全で瀟洒なメイド長の行動のベクトルは、たとえどんなにみじめに見えようとも
すべて勝利に向かっているのだ。逃げられなかった時の事もしっかりと考えてある。
そしてこの状況、ナイフの一本や二本ぶっ刺したところで、どうせ今の永琳は止まらない。
ならばもっと根本的な策、つまりは向こうとこちらの間の空間を塞ぎ、接触自体を回避する。
「ちぇいやッッ!」
掛け声と共に、畳の縁めがけて最小の動きで右手の中指一本拳を叩き込む。
その衝撃で畳の縁が微妙に浮き上がったその瞬間を逃さず
畳と床の微妙なスキマをすくい上げるように、今度は左手の中指一本拳を繰り出す。
「紅魔館メイド必殺奥義その63!『タタミおねーちゃんの寝巻きはネグリジェ返し』!!」
バオッ、という風切音を唸らせ、加速した畳が永琳めがけて襲い掛かる。
これこそが紅魔館メイド必殺奥義その63「タタ(略)」だ。
このように凶悪な変態から身を守る護身術に応用できる他に、
もちろん日常の畳掃除などにも使用できる素晴らしい技。
普通に畳引っぺがした方が早いなどという野暮な事はこの際言いっこなしだ。
「いッッッッただきまブベラバッシャアァァァァァァ!」
いくら天才といえども、この勢いで飛びかかった後の方向転換は効かない。
ベッシアァァ、と、金剛石が折り畳まれたかの如き轟音を響かせ
咲夜のひっくり返した畳が永琳の美しい顔にクリーンヒットした。
その凄まじい威力に、永琳は勢いよく吹っ飛んで向うの壁に激突し、
更にその勢いで跳ね返ってきて垂直に突っ立っている畳にもう一度ぶつかり、床に落ちた。
「う、うう……ま、まったく……私がたまたま蓬莱の薬服用済みだったから
いいような物の……普通の人間だったら今の一撃で首吹っ飛んでるわよ」
「(何かそれだと私が悪者みたいに聞こえるんだけど……)
……で、どうなの?何かこの状況を打破する方法はある?」
「ああ、任せなさい。この天才に出来ないのはせいぜい
男に子供を生ませることくらいよ。大船に乗ったつもりでいていいわ」
ぶつけた顔面をさすりながら、ふらふらと立ち上がる永琳。
そして先程までの痴態とは裏腹に、吐いた台詞は実に頼もしく天才的だ。
例え超ド級の変態でも、それを補って余りある優れた頭脳を持っているのだ。
何だかんだ言って今一番頼りになるのはこの変態天才薬師よね、と咲夜が思った、まさにその刹那。
「でもそれは治らないわよ」
「全然頼りにならないじゃないのよぉぉぉぉぉぉ!!」
「何言ってるの、どんな大船だって沈む時は沈むじゃない」
「嫌ッ!今はそんな正論なんか聞きたくないッ!
えーりん!えーりん!たすけてえーりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん!」
「いや、だから無理だってば」
(モッサリと続く)
続きも期待してますね。
ともあれ、腹抱えてのたうち回らせて頂きました。
イッちゃってるよ・・・・
ひらがな喋りとか、破滅的威力。
素晴しい「 」をありがとう。は、はやく続きを……(禁断症状
まさか咲夜さんを上回る逸材が居るとは。
幼女外見なてゐが、詐欺師になった理由が一寸だけ判ったような気がします。
後編も楽しみにしてます!!
一部の隙も無い、完全で瀟洒な変態ばかりだ…。
相変わらず、突っ込みどころしかない文章と言う名のキョウキ(好きな漢字を当てはめてください)にカンパイ(好きな、以下略)。
でも、ちょっとやりすぎな気がしないでもない・・・
神か
から始まり、変態野夜行、月の煩悩、恐ろしいまでに笑えます。
なんつか、あなたには神が降りてます。
c.
変
な
抜き出してコメント出来ませぬ…。
しかし、永琳までもが『そっち』側…。これも月の狂気か…。
咲夜さんの変態力は底なしですか・・・((((゚Д゚)))ガクガクブルブル
己の腹がその生命の存続のための食料消化と言う崇高なる職務を忘れてまで引きつりよじれ、わずかな酸素を求めてあえぐ喉と、しかしその欲求にまるでこたえられず、無様に縮みあがった肺胞どもの、その生命に対する反逆たる自己崩壊を引き起こし得るこの作品をして!!
笑いこそが何人も耐えられぬ最高の拷問になると、声高らかに謳った者が居る事を、そのとろけきった脳にしこたまレーザープリントしてくるこの作品を目の当たりにして、その上でなおこの作品を娯楽等と呼べようか!!
拷問だ!! 諸君これは笑いの拷問である!!
つい、さっきマヨイガ宅急便のヒトがクーリングオフのために引き取りにきたのを見た。
(それに 日本語使ってる文章じゃない)
(なに喰ったらそんな電波になるんだい)
ハイ、愚問だな・・・と。参りました、神経系が。電波に触れて焼き切れ寸前。
さて、続きに色々と期待。
末は極殺笑気ガス兵器、それとも銀河笑滅爆弾でしょうか。
いずれ笑死が全国死因ランキングを塗り替えることと存じます。
歴史に名が残るか、歴史そのものが無くなるか、いやはや見物でございますなぁ。
花畑の景色はどんな感じなんでしょうかねー。
って死亡確定ッ!?
毎度毎度呼吸困難に陥ってます…
断言できる…私は貴方に笑い殺される!!
作品の途中に点数入れるのは、とも思うんですけどこのままだと100じゃ足らなくなりそうなんで。
咲夜の受難!!
しかしそれは因果応報!!
ロリ反転こそが人類の萌えの極みであり、人類はただそれを伝播するための
運び屋にしか過ぎぬことを思い知るがいい!!
あぁ!! ロリ反転よ永遠なれ!!
ロリ反転を知らずして萌えを語らず!!
ロリ反転こそが未来への唯一たるアモーレの鐘であることを知れ!!
ってわけで最高でした(前フリ長ぇよ
c.n.v-Anthemさん あんた最高だ!!
『ひらがなしゃべり』には轟沈しました。萌え死にました。
てゐの喋り方は…本編に出てないとここまで吹っ㌧だことに…
あー…手は出しませんから元に戻るまで保護させてくれませんか?
そしてえーりん師匠最高。
続きを切に希望します。
最高だ あらすじが非常にストレートかつわかりやすい
つかサルガッソとか叫ばせればいいってもんじゃねーぞw
笑わせてもらいました。