Coolier - 新生・東方創想話

巫女と蟲師と古道具屋

2005/02/18 07:41:53
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この話は「巫女と蟲師」の続編という形をとっています。そちらから読んでいただいた後、こちらを読んでいただくとより物語を理解できます。














その日も朝から暑かった。日差しは照りつけ、白と黒のモノトーンの世界が広がっている。蝉はその小柄な体から夏の暑さを搾り出すようになき続けている。
(おそらく夏が暑いのは蝉がその体の中に溜めた熱気を外に出すらではなかろうか。
つまりあいつらは夏が来るから鳴くのではなく、あいつらが鳴くから夏が来るのではないだろうか。そう考えると冬に蝉を飼う事ができたらストーブの燃料をあの妖怪に頼まなくて済むなあ。)
などとくだらないことを考えながら今日も日がな一日、ほとんど来ない店の店番をしながら明かりもつけずに本を読みふけっているのは、香霖堂の主人―森近 霖之助、その人であった。
外は蝉がひっきりなしに鳴いているが、香霖堂の中は静かであった。
「たまにはこんな日があってもいいな。いやむしろ毎日こんな日が続くといいんだけど・・」
異常なくらい静かな店内で霖之助は呟いた。
いつもは紅白や白黒のにぎやかな常連客に勝手にお茶を淹れられ、お得意様ように取っておいた一番の煎餅を食べられ、商品は壊され、非売品は勝手に使われるなど何かと忙しくやかましい日々を送っている。
「これはこれで、なかなか趣深いものがあるな」
常連客の二人が来ないだけでいつもは手狭に感じる店内が広く見えるから不思議なものだ。と霖之助がワビサビの世界を開眼(もとよりそんな風流を楽しむ余裕など無いが)しようとしたとき
それよりももっと不思議なものをこれから見る事になろうとは誰が予想しただろうか。
ガラガラ・・。
「霖之助さんいる?」
店の扉を開けたのはいつもの紅白の巫女、それだけでは不思議なものではなくむしろ当たり前すぎて呆れてしまう。霖之助は胸中で(この平穏な時間は音速が速い速さで紅魔館の向こう側まで飛んでいってしまったな)、という一種の諦念の元にかたどられた笑みと共にいつもの常連客を迎える。
「君の場合いてもいなくても勝手に上がってくるだろう」
「失礼ね客を不法侵入者みたいにいうなんて」
「鍵がしまっている店の扉を開けて勝手にお茶を飲んでいる人を客というのか?」
「だって霖之助さんのかける鍵なんて簡単に開けられるし」
「開けられるからって勝手に入るなよ・・・・」
「だ~か~ら~・・・」
「分かったわかった、僕が悪かった」
口喧嘩で霊夢に勝った事がない霖之助は早々に負けを認めて話を切った。霊夢の口喧嘩に付き合えるのは魔理沙くらいしか霖之助は知らない。
「・・・・・・」
霊夢は不服そうだったがしぶしぶ霖之助の言葉を受け止めた。
「?」
霖之助はかた眉を上げていつもならもう少し突っ込んでくるのに今日に限っていやに大人しい霊夢の態度に不思議そうな顔をした。
「それで今日は一体何の用だい?」
判らないことは気にしないいつもの処世術を駆使して霖之助は本題にもどる。
「う、うん。霖之助さんに会いたいっていう人がいたから連れて来たの」
「僕に・・・?」
(誰だろう?僕に会いたい人物なんてそう数はいない。魔理沙の実家とはもう随分前から縁は切れているし、第一僕の知り合いの中でこの店の場所を知らないのは一人もいない、はずだ・・・)
霖之助はそこまで考えたが結局会えば分かるというひどく後ろ向きに前向きな考えしか出てこなかった。
「それでその人は今何処に・・?」
「店の前にいるわ。呼んで来るわね」
そういって店の外へと出て行った霊夢の背中が妙に大人っぽく見えたのは霖之助の気の所為だろうか。



ほどなくして霊夢が連れて来たのは銀髪に碧の眼をした幻想郷では珍しい(おそらく外の)格好をした長身の青年であった。青年は大きな箱を背負っており行商人のように得る。
「どうも蟲師のギンコと申します」
青年は店に入ると開口一番そういって軽く挨拶をした。
「香霖堂店主の森近 霖之助です。蟲師の方ですか」
「霖之助さん蟲師の事知っているの?」
「まあ商売柄、多少ね」
「そうなんだ・・・」
そういって寂びそうに霊夢は顔を伏せた。
霖之助は久しぶりの客と人間らしい挨拶に喜びながら軽く挨拶を交わすが、何故か霊夢の態度に妙な憤慨を青年―ギンコに感じている自分がいることに気が付いた。
「それでこちらにはどのようなご用件で?」
そんな複雑な感情は表には出さずに霖之助はギンコを店の奥、普段霊夢たちが勝手にくつろいでいる場所に招きいれ用件を訊いた。
「はい。用件といっても実はこの店に用があるわけではないのです」
「?あなたは私に用があると先ほど霊夢に聞いたのですが・・」
霖之助はいつものようにお茶を淹れて急須を片手に、何処から見つけたのかお茶請けの煎餅をもう片手に持ってきた霊夢を見ながら訊いた。
「ああ、霊夢は悪くありません。こちらの説明が足りなかっただけですから」
ギンコが慌てて霊夢をかばうが、その心遣いが何故か霖之助の癪に障る。何故だかわからないが。
「つまりですね。俺は依頼人に、まずあなたに伝言を伝えてから仕事をするようにいわれていまして・・・」
「伝言?誰から?」
ギンコは脇においていた自分の荷物―背負っていた箱から一つのビンを取り出し、蓋を開けた。中から飛んで出てきたのはカブトムシのようなものだった。その蟲は霖之助の耳につかまるとけたたましく羽を鳴らした。途端に霖之助の表情が驚愕に変わる。
「ギンコさんあれ何?」
傍でお茶をすすっていた霊夢がギンコに訊いてきた。
「あれは蟲師の間で伝言蟲と呼ばれる蟲でな。音を拾っては自分の羽音で表現できる蟲だ」
「べんりねえ。手紙とか要らないじゃない」
「いやそうでもない。音を見境なく拾うから特定の音を保存するためには音を通さない特殊なビンに入れないと、前保存した音が書き換えられてしまう」
「ふうん、以外と不便なのね」
そう話しているうちに伝言が終わったようだ。伝言蟲が霖之助からビンに戻ってくるのをギンコは確認したと蓋を閉めた。それから暫く霖之助は何かを考えているように俯いていた。
「霖之助さんどうしたの?」
さすがに霊夢も霖之助の異常事態が気になって声をかける。
その言葉に霖之助は肩をビクリと震わした後、ゆっくりと顔を上げた。そこには霊夢たちの傍若無人な行動にも苦笑いだけで済ます、何処か余裕のあるいつもの古道具屋の顔ではなかった。どこか決意を秘めた男の顔であった。
「ついにこの時がきたか・・」
それだけ呟く。
「ねえ!霖之助さんどんな伝言だったの!?」
霖之助の様子に明らかな異常を感じた霊夢はつい声を強めた。
「霊夢・・・。魔理沙を呼んできてくれないか・・」
霖之助は霊夢の眼を見ながら言った
「そんなことより何があったの!?」
「速く!!!」
「・・・!?」
霖之助のいつも聞いた事がない大声に霊夢が絶句する。霖之助は霊夢から顔をそらした。
「・・・・な、何を聞いたの?」
霊夢が震える唇でやっとそれだけの言葉を吐き出すが霖之助は顔をそらしたままであった。
「・・・・たのむ。速く魔理沙を連れてきてくれ・・・」
かすれるような霖之助の声に霊夢はもう何もいえなくなった。
「・・・・分かったわ。ギンコさんちょっと待ってて」
そういって店を出て行った。
店の外は蒸し暑かったが霊夢は鳥肌が立っていた。
香霖堂には先ほどと違った奇妙な静寂が包んでいた。

夏の日の光が作り出す白と黒の世界が幻想的な世界を作り出していた。
幻想郷の夏は加速していく。
ええっとこれって東方?
ごめんなさいllorz
なんていうか、前回とまったく違う雰囲気になってしまいましたね。こんなダークな修羅場に成るなんて想像もしていませんでした。なんでこうなるんだろう。
話は変わりますが森近霖之助はこんな感じでいいのでしょうか?何か問題がある場合は感想のほうに指摘してください。
なんとなく私自身でも終われるのだろうかと思い始めてきたこの「巫女と蟲師」シリーズこれからもご支持をお願いします。
次回;巫女と蟲師と古道具屋と魔術師、に続くはずです。
アザトーフ、
http://www.k2.dion.ne.jp-~wildflug/
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