Coolier - 新生・東方創想話

兎は寂しかったら(ry

2005/02/17 23:42:51
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「ねー、れーせんちゃん。あーそーぼー」

私の背中に乗っかかりながら、てゐが今日何度めかの駄々をこねる。

「だーかーら、今は仕事中だから駄目だって何度も言ってるでしょう?」

と毎度の決まり文句を言ったまではよかったが、

「今は姫様の警護中だからここを離れるわけにはいかないの」

と、付け足しのがまずかった。
この返答を聞くやいなや、しめたといわんばかりの顔で

「じゃあ、ここでなら遊べるんだね?」

と顔を近付けながらながらてゐが迫ってきた。

「そういう問題じゃ…」

「離れなければいいんだよね?大丈夫、大丈夫。
そんなに大げさなものじゃないからー」

と言いながらすでに臨戦態勢に入っているてゐ。

「はあ」

と軽くため息をついて、腹をくくることにした。


「少しだけだよ?」

「えへへー、れーせんちゃん大好きー!」

「はいはい。それで何するの?」

「んーとね。ぴょんぴょんごっこ!」

「ぴょん」

あまりにも既知を外れたてゐの言動に、思わずオウム返しをしてしまった。

「ぴょぴょんごっこはねー、ぴょんぴょん跳ねながらお話するの。
もちろんぴょん語でねー」

ぴょんぴょん。
インフレが加速しつつある「ぴょん」に気圧されながらも、私はそのまま話を進めさせることにした。

「…それでどんなお話をするの?
その…ぴょん語?で」

「うーんとねー、『楽しいねー』とか『月がきれいだねー』とかって言うの」

「…そしたら?」

「『そうだねー』って答えるの。ぴょんぴょんしながら」

「………」

しばしの沈黙。

正直、私にはてゐの…地上の兎の行動が二重の意味で理解できなかった。

一つはその奇行性。
まともな思考の者なら当然「?」と思うであろうから、このことについては話を深める必要はない。

問題なのは二つ目、非生産性である。
何だ?
ぴょんぴょんごっこ?
跳ねながらお話をする?
冗談じゃない、時間の無駄もいいところだ。

…くだらない。

私は…私達は…全ての行動に「見返り」を期待する。
例えそれが単なる「遊び」であってもだ。

だがしかし、この娘のいう「遊び」には、そのようなものが含まれている気配は一切無い。
これでは…単なる馴れ合いじゃないか…

…「我々」が打算的過ぎるのか、地上の兎達が呑気過ぎるのか…
どちらが真実なのかは知らないが、この娘との間に大きな壁を感じていたことは確かである。

「きーてる?れーせんちゃん?」

「あっ、う、うん」

いけない。
冷めた考えを巡らしてしまった。

よくよく考えれば、遊びに生産性を求めるなんて馬鹿げている。
馬鹿げていると頭ではわかっているはずなんだけど…私は内心イラついていた。

「それでねー、こうやって屈んでー、ぴょんぴょんって跳ねるの」

身振り手振りでてゐが説明する。

「手はね、よく音が聞こえるようにって、耳に添えてあげるの」

…………

もしかしなくてもだが…かなり恥ずかしい。

「…私もするんだよね?」

「……れーせんちゃん、嫌?」

「…んー、ちょっと恥ずかしい…かなって」

「恥ずかしい…の?
それじゃあ、ぴょんぴょんしてたてゐは恥ずかしい娘なんだ…」

てゐがしょんぼりとうなだれる。

慌てて私は

「そ、そんなことないよ!
ほ、ほら、私もぴ、ぴょん…」

と言って、てゐの奇行をトレースする。

「…れーせんちゃん、嫌そう…」

「そ、そう?
そんなつもりはないんだけどなー。
すぐに慣れるから…さ?」

「…うん」

そうしててゐと二人、館のど真ん中での怪しい儀式が開始した。




ぴょんぴょん口ずさみながら跳び跳ねる二人。

あぁ、こんな姿師匠に見られたら問答無用で病室送りだろうな…

姫はなんて言うだろうか?
何も言わずに微笑まれたりした日には死んでも死にきれないだろうな…

といろんなことに思いを巡らせながらも、心の奥底では冷めきっている自分がいた。
『クダラナイ。ジカンノムダ。ヒセイサンテキ』
飲み込んだはずの単語が頭の中でぐるぐるまわる。

いけない…てゐに気取られる。
私は文字通りの作り笑いでその奇行を続けた。
『私は…てゐを・・・地上の兎達を見下しているんだろうな』
そうやって黙考するうちに、私は会話が途切れていることに気づいた。

慌てててゐのいる方に向き直すと

「ぴょん?」

と、てゐが聞いて(?)きた。

あぁ、そうだ。
ぴょん語とやらで会話しているんだっけ。

私の異変に気付いたのであろう、てゐは疑問のニュアンスのぴょん語で語りかけてきたのだ。
だから私は心配をかけないように、

「ぴょん♪」

と肯定のニュアンスのぴょん語で返事をした。

…実のところ、このぴょん語には肯定の『ぴょん♪』、否定の『ぴょん…』、疑問の『ぴょん?』の3語しかないのである。
基本は「ぴょん♪」と聞いて「ぴょん♪」と答える。
時々、「ぴょん…」と答えると相手が心配して「ぴょん?」と聞く。
そしたら「ぴょん♪」と元気に答えてやるのがルールだそうだ。

そうやって、空しい問答を続けていくうちに、ふと…声が聞こえた。

(…れーせんちゃん)

!!

「えっ…てゐ?」

とっさに私はてゐに振り返った。
しかし、てゐは

「ぴょん?」

と、まるで「ぴょん語以外は『喋っちゃ』ダメなんだよ?」と言わんばかりの顔でこっちを見た。

あぁ、そういうことか…
私は耳を…永遠亭の兎同士なら意を飛ばし合うことができる耳を立てた。

(てゐ…どうしたの?)

私は少し焦っていたかもしれない。
さっきの私を呼ぶてゐの声が、本当に本当に弱弱しかったからだ。

(元気ないみたいだけど…私何かヘマしちゃった?)

(んーん、そうじゃないの。れーせんちゃんは完璧だよ)

誉めているんだろうが、名誉か不名誉かはわからない。
ただ、てゐの話は続きそうだったから、腰を折らないためにも言葉を飲み込んだ。

(れーせんちゃんにね、聞いてもらいたいお話があるの・・・)

(お話?)

私はそれ以上何も答えなかったが、てゐはそのまま話を続けた

(これはね…私が二本足で歩く前、普通の、本当に普通の兎だったころの話)

(……)

(それは月の綺麗なある夜の話。
私は仲間達とね、あることについて話合っていたの)

(…あること?)

(うん。
空のまるいお月様には、私達の仲間がいるんじゃないかなーって話)

(仲間…ねぇ。
…………あっ)


月の民のことだろうか?

そうならば、遠からずも当たらずというとこだろう。
たしかに耳など細かい容姿は似ているが、如何せん知能のレベルが違い過ぎる。
片や月に文明を築いた知識の民、片や地上を這いずり回る憐れな獣。
それを同一視されるのは正直いい気分ではない。

(もちろん、確信なんか無い、ただの憶測の話だったんだよ?
でもね、みんな楽しそうに『あーだったらいいな』、『こーだったらいいな』って話し合ってたの)

(…楽しそうに?)

(うん、私たちの新しい「仲間」はこんな娘がいいなー、て)

(…仲間)

一緒にされるのは…

(れーせんちゃん)

てゐが私をじっと見つめる。

(…何?)

てゐの雰囲気が重いことに気づいた私は少し身構えた。


(兎は寂しかったら死んじゃうんだよ?)


(えっ……?)

突拍子もないてゐの言葉。

その中に含まれる残酷な響きをもった「死」という単語。

私はしばらく呆然としていた。

(地上の兎の一生はそんなに長くないの)

てゐはまるで自分の目でそう見てきたようにつぶやいた。

(それでも、それでもね?
その限られた時間の中で、いろんな楽しいことを仲間達と話合いながら、寂しさを紛らわせながら、生きてきたの)

(…てい)

(れーせんちゃんは寂しくない?
一人だったら寂しくない?)

(私…私は…)

寂しいはずなんかない。
我々月の兎は「そう」出来ている。
個々の能力を高めに高めた結果、我々は精神的にも肉体的にも優れた存在となった。
だから、一人で…誰にも頼らずに…生きていけるようになったはずだ。
寂しくなんか…

ふと、てゐの言動が蘇る

「「うーんとねー、『楽しいねー』とか『月がきれいだねー』とかって聞くの」」
「「…そしたら?」」
「「『そうだねー』って答えるの。ぴょんぴょんしながら」」

てゐは…

(てゐは…寂しい?)

(れーせんちゃん?)

(てゐは昔の仲間と会えなくて…寂しい?)

(………)

沈黙。
当然と言えば当然だ。
私は残酷な問いを投げ掛けてしまったに違いない。
永遠亭の「今」と、兎だった「昔」のどちらが良かったか?という二者択一を迫っているようなものである。

てゐはなんて答えるだろうか?
いつものように、笑いながら「そんなこのないよー」と答えるのだろうか?

私があれこれ考えていると、てゐはこちらを振り向いて小さく

「ぴょん…」

と呟いた。

私には…かける言葉が無かった。



(…会いたいよ)

(えっ…)

本当に弱弱しい声でてゐの念が伝わってきた。

(仲間達には会いたいよ。
会っていろんなお話ししたいよ。)

分かっている。

てゐは普通の兎ではあった。
しかし、幸か不幸か、てゐは普通の兎の寿命を大きく逸脱してしまっていた。
故にてゐが言う「仲間」はもう…

(うん、会えないのは分かってる。
でも、会いたいよ。
会ってお話しがしたいよ)

聞くに耐えない。
てゐが…昔の仲間の話をするのは聞くに耐えない。
今いる自分達が否定されているみたいで聞くに耐えないのだ。

てゐの一言一言は呪詛のように感じられた。

(でもね…)

てゐの話が続く。

やめててゐやめて。

耳を塞いでも念は伝わる。
だから、このときばかりはこの耳を引きちぎってしまたいと思った。

(でも…もし会えるなら、私はこう言いたいな)

…やめて!

とっさに口が開きそうになる。

しかしながら、てゐの発した言葉は意外なものであった。

(寂しくなんかないよ、って)

てゐが私の目をじっと見つめて言う。

(……えっ?)

(寂しくなんかないよ、れーせんちゃん)

(えっ?えっ?)

私に…言ってるの?

(さっきの答えだよ。
『寂しい?』って聞いたじゃない、れーせんちゃん。
だからその答え…)

てゐが私を見つめ直す。
そして…

「寂しくなんかないよ」

「てゐ…」

「ここには昔の仲間は居ないけど、姫様やえーりん様、それに兎達もいてくれる。
それに…」

てゐの手が私の頬に触れる。

「れーせんちゃんがいるから」

「私が…」

「うん。
さっき月の兎の話をしたよね?
私達が想いをはせた月の兎。
強くてかっこよくて、ちょっとドジだけどとっても優しい、そんな「仲間」のお話…」

「てゐ…」

「会いたかったよ、れーせんちゃん」

「……」

気付けば私はてゐを抱きしめていた。

あぁ、そうか。

私は本当の「孤独」がどんなものか知らなかったのだ。

だから、てゐ…地上の兎の「遊び」の真意がわからなかったのだ。

『兎は寂しかったら死んじゃうんだよ?』

てゐの言葉を反芻する。

寂しいから群れ、寂しいから話し、寂しいから遊ぶ。

孤独を知らないものにとっては、そのどれもが「非生産的」に見えてしまうに違いない。

だけど…

私は知ってしまった。

私は「孤独」を知ってしまったのだ。

さっき仲間を回顧していたてゐを見て、私は嫌な気分になった。

それは何でだろうか?

…答えは簡単だ、私の「仲間」だと思っていたてゐに裏切られたように感じたからだ。

世界から隔離され本当に…一人のように感じた。

それは死にそうなぐらいに寂しかった。

「あいたたた…痛い、痛いよ、れーせんちゃん」

暖かいてゐの温もり。

私を「仲間」だと認めてくれたてゐの言葉。

ふいに目頭が熱くなった。

「………」

「えっ?
…れーせんちゃん?泣いてる?」

寂しさを知らないから強い、なんてことはない。

現に私は脆かった。
寂しくなんかない、とタカをくくっていた私はてゐの二言三言で潰されそうになっていた。

私は…私は寂しい。
ていやみんながいないと寂しい…!

私は声なき声で心の奥底に隠れていた言葉を吐露した。

これが念として伝わったかどうかは知らない。
ただてゐは優しい笑みを浮かべて

「よしよし…」

と、私の頭を撫でてくれた。

「泣かないでれーせんちゃん。
ぴょんぴょんごっこの続きしよ、ね?」

今となっては愛らしくも感じるこの遊び。

私は涙を拭いて

「…うん」

と答えた。








「ぴょん♪」

「ぴょん♪」

永遠亭の大広間に二人の声が響く。

「ぴょん♪」

「ぴょん…」

「ぴょん?」

「ぴょん♪」

何度も繰り返した掛け合いだが、うんざりするどころか高揚感まで感じてきた。

私は目を瞑って、てゐの言葉をもう一度反芻する。

『兎は寂しかったら死んじゃうんだよ?』

うん、今ならわかる。

長い年月を生きる我々にとって、「孤独」こそが死にいたる毒。
むしろ死よりも恐ろしいといっても過言ではない。

だからといって、私は「孤独を知らなければ良かった」とも思わない。
何故なら孤独を癒す「薬」の素晴らしさも同時に知ることができたからだ。

(この薬は師匠でも無理だろうな…)

そう思い、内心に笑みを浮かべながら

「ぴょん♪」

と、私は目を瞑ったまま、後ろにいるであろうてゐに呼び掛けた。

「……」

無反応…

どうしたんだろう?

「ぴょん?」

私は問いかけた。

「……」

やはり無反応。

からかわれているのだろうか?
私は少し語気を荒げて

「ぴょん!?」

と聞いたが…

「……」

無反応。

正直、嫌な予感はしていた。

まわりに人の気配がある。
それも一つや二つではなく、もっとたくさんの…そう、永遠亭の住人全ての数のような…


あぁ…
私はこの先起こる結末を確信しながら、恐る恐る目を開けた。

「ぴょん?」

最初に目に入ったのは、微笑みながら首をかしげてぴょん語を話す姫様。
距離を置かれているのは気のせいだろう。

次に…嫌でも目に入ったのは自分を取り巻く兎衆。

「…根の詰めすぎ…」

「…春だから…」

「…座薬…」

などとあることないこと話合ってるが、聞き流してしまおう。
うん、何も聞こえない。

そして最後に目に入ったのが師匠とその袖を不安そうに掴む…てゐ。

「て、てゐ…?」

私に名前を呼ばれると、ビクッと体を震わせ師匠の袖をクイクイと引っ張るてゐ。

「大丈夫よ、あの子は疲れているだけだから…」

と師匠が抑揚のない声でてゐを諭す。

「て、てゐ…」

あぁ、やられた…
さすがは永遠亭の詐欺師!
今までのは全部布石ということか…

「うどんげ」

師匠がジリッと間合いを詰める。

「ちょっと疲れているみたいだから、これを飲んで安静にしてなさい、ね?」

「飲みなさいって…手に持ってるの注射ですよ、ししょー…」

「問答無用」

「あああああ!」

…暗転する視界の中で最後に見たのは、やっぱり微笑んでる姫様と、舌を出して笑っているてゐ。

そして途切れる意識の中で最後に聞こえた言葉は…

(ありがとう、れーせんちゃん、大好きだよ!)

あぁ、この子はホントにもう…


end
生まれて初めて書いた駄文です。
お目汚しですいませんorz

『兎は寂しかったら死んじゃうんだよ?』
ってネタをやりたいがために書いた物です。

2/19の最萌えの支援に少しでもなれば…って思ってます。
so
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コメント



0.2000簡易評価
5.70名前が無い程度の能力削除
うあ、なんか凄くいい。
読後、問答無用で良い気分になりました。
27.40上泉 涼削除
『てゐは寂しかったら悪戯しちゃうんだよ?』といった感じですね。さすがは永遠亭の詐欺師。
てゐもウドンゲもかわいいなぁ。
とりあえず詐欺られた私もウドンゲと共に注射打たれてきます ノシ
47.80名前が無い程度の能力削除
>「会いたかったよ、れーせんちゃん」
この台詞にぐっときた
これは良いてゐ
51.100おちんこちんちん太郎削除
良い話かと思いきや、オチで衝撃を受けました。
凄く面白かったです。