「…もし…、…もし…!」
「…んぁ…?」
鬼がのたぁっと目を覚ましてみると、先ほどの少女が彼女の上に屈み込んでいた。心配そうな表情をしている。
「あの…なんだかお辛そうに見えますけど…大丈夫ですか?」
「んん?」
言われて、彼女は泥のような頭の中をフル回転させてみた。…ああ、確かに、力尽きて前のめりに倒れて寝てる姿勢は、ひょっとしたら行き倒れか何かのように見えるかも知れない。
「別になんでもな」
ぐぅ~…。
盛大に腹の虫が異議を唱える。萃香は気まずげに頭を掻いた。
「あの…よろしければこれ、いかがですか?神社で頂いたのですが…。」
と、彼女が差し出したのはおいしそうな一山の団子。もう一度、腹が盛大に抗議のデモ行進を行った。我慢不可能だ。もう労働者の不満は抑えられない。我慢する理由も特にないし。
「非常によろしいっ!」
-少女暴食中-
「ふー、ごちそうさまー。」
舌でぺろりと唇の食べかすを拭き取り、萃香は笑った。ようやく人心地…じゃなかった、鬼心地がついたと言うものだ。これで、どこかに転がり込むまでは十分に腹がもつ。団子をくれた恩人は、そんな彼女を嬉しそうに見ている。ただ、ちょっと悲しそうにも見えるような気もする。団子を一つも残さなかったのはさすがに悪かっただろうか?
「それじゃあ…私、これで失礼しますね。お使いの途中ですから。」
立ち上がりかける姿をようやくじっと観察しながら、萃香は彼女を呼び止めた。
「はい?」
振り向く彼女の瞳は、いまだ閉じたままだった…先ほどからずっとこのままだ。多分、目が見えないのだろう。
「…名前。」
手足はおいしそうではあるがちょっとばかり細く、顔色もあまりよくはなかった。こうして見ると、今食べるのはちょっともったいないと思えた。彼女はもっとおいしそうになれるはずなのに。いや、どちらにせよ食べないけど。
「…はい?」
珍しいほど邪気のない顔だった。実際、よくこの幻想郷で生きていられるものだ。
「だから、名前。あんたの名前は何ていうの?教えて欲しいんだ。」
彼女は少し考え込んだ後、慎ましやかに告げた。
「小夜(さや)…と言います。」
「小夜、ね…わかった、覚えとくわ。」
鬼の娘は満足し、にんまりと笑った。そして、彼女が帰って行くのを、その後姿が見えなくなるまで見つめていた。何だか懐かしい気分だった。そう、この構図はちょうど…。
(続く)
「…んぁ…?」
鬼がのたぁっと目を覚ましてみると、先ほどの少女が彼女の上に屈み込んでいた。心配そうな表情をしている。
「あの…なんだかお辛そうに見えますけど…大丈夫ですか?」
「んん?」
言われて、彼女は泥のような頭の中をフル回転させてみた。…ああ、確かに、力尽きて前のめりに倒れて寝てる姿勢は、ひょっとしたら行き倒れか何かのように見えるかも知れない。
「別になんでもな」
ぐぅ~…。
盛大に腹の虫が異議を唱える。萃香は気まずげに頭を掻いた。
「あの…よろしければこれ、いかがですか?神社で頂いたのですが…。」
と、彼女が差し出したのはおいしそうな一山の団子。もう一度、腹が盛大に抗議のデモ行進を行った。我慢不可能だ。もう労働者の不満は抑えられない。我慢する理由も特にないし。
「非常によろしいっ!」
-少女暴食中-
「ふー、ごちそうさまー。」
舌でぺろりと唇の食べかすを拭き取り、萃香は笑った。ようやく人心地…じゃなかった、鬼心地がついたと言うものだ。これで、どこかに転がり込むまでは十分に腹がもつ。団子をくれた恩人は、そんな彼女を嬉しそうに見ている。ただ、ちょっと悲しそうにも見えるような気もする。団子を一つも残さなかったのはさすがに悪かっただろうか?
「それじゃあ…私、これで失礼しますね。お使いの途中ですから。」
立ち上がりかける姿をようやくじっと観察しながら、萃香は彼女を呼び止めた。
「はい?」
振り向く彼女の瞳は、いまだ閉じたままだった…先ほどからずっとこのままだ。多分、目が見えないのだろう。
「…名前。」
手足はおいしそうではあるがちょっとばかり細く、顔色もあまりよくはなかった。こうして見ると、今食べるのはちょっともったいないと思えた。彼女はもっとおいしそうになれるはずなのに。いや、どちらにせよ食べないけど。
「…はい?」
珍しいほど邪気のない顔だった。実際、よくこの幻想郷で生きていられるものだ。
「だから、名前。あんたの名前は何ていうの?教えて欲しいんだ。」
彼女は少し考え込んだ後、慎ましやかに告げた。
「小夜(さや)…と言います。」
「小夜、ね…わかった、覚えとくわ。」
鬼の娘は満足し、にんまりと笑った。そして、彼女が帰って行くのを、その後姿が見えなくなるまで見つめていた。何だか懐かしい気分だった。そう、この構図はちょうど…。
(続く)