Coolier - 新生・東方創想話

愛しきプリズムカルテット (下)

2005/02/17 09:07:40
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音楽などというものは所詮は音の羅列に過ぎない。
いくら力を持っていようと関係は無い。
どのような効果があるにせよ、それは大した問題では無い。
そも、音楽とは何か。
原点に還れ。
音が言霊と類を同じとするならば、然るべき答えに辿り着くは道理では無いのか。
音楽とは「音を楽しむ」の意。
その目的が生きる事が絶対条件。
他を捨て置く事は出来ぬ。
それは語るべくも無い。
が。
それ故に本質を失う事、それはあってはならぬ事。
原点に還れ。
音楽とは楽しむ為の手段に過ぎぬ。
原点に還れ。

























四人での楽しい夕食も終わり、食後のお茶会。
楽しい時間を過ごすのは一旦終了。
ルナサはレイラの所在を明確にせんが為、真実を知ろうとしていた。

真実を知るのは危険な事である。
それがどのような結果になるかは分からないから。


「つまり、私は本当ならもう死んじゃってるって事?」
「あぁ、レイラ・プリズムリバーはもう何十年も前に老衰で死去してしまった筈なんだ。」


真実を知るが為に、レイラに現実を知らせる。
レイラが多少なりのショックを受ける事は確実だ。
それでもルナサは伝えた。 レイラに隠し事なんてしたくないのだ。
下手をすればレイラは目の前から居なくなってしまうかも知れない。 あらゆる意味で。
可能性としては否定できない。
レイラがどうしてここに居るかなんて誰にも分からないのだ。


「・・・・ちょっとルナサ姉さん、もうちょっと言い方ってもんが・・・」
「いいから、私達は黙ってましょ。」


ルナサの言い方が気に食わないリリカが口を挟む。
それを止めるメルラン。
メルランはこういう仕事を一番得意とするのはルナサである事を理解しているのである。


「ん~、私もお姉ちゃん達とおんなじ幽霊になっちゃったのかなぁ?」
「分からない、でも多分違う。 幽霊は基本的に死んだ時の姿で現れるんだ。
 それじゃあ今のレイラの姿は説明できない。」
「そっか・・・。」
「それに老衰で安らかに死んだ者は死ぬ直前までの記憶が鮮明に残る筈なんだ。
 その線から言って幽霊だとしたらかなり異質なんだ。」
「そっか。 じゃあ幽霊じゃないのかな。」


うーん、と考え込んでいる妹。
ルナサは妹の瞳をじっと見据え、口を開いた。


「レイラ。 覚えてる範囲の事でいいんだ。 昔の事を色々と言ってみてくれないか?」
「え・・・・?」

「今のレイラが何であれ、今よりは一歩も二歩も状況は前進するんだ。 頼む。」
「・・・・」


レイラの瞳に不安がよぎる。
姉達は私自身の存在を疑っているのではないか?
愛しき姉は自分に疑惑を持っているのではないか?


「正直に言うと今の私達は、今のレイラが本物のレイラかも分からないんだ。」
「!!」


そしてそれは現実であった。
仕様があるまい。 これが本音なのだ。


「ちょっとルナサ姉さん!! いい加減に・・・」


あまりといえばあまりの言葉に我慢が出来なくなるリリカ。
それもそうだ。
普通に考えればそのような事は言う必要が無い。
あまりに考え無しの姉に憤慨するのも無理は無い。
それは紛れも無い事実。
しかし、隠し通す事が出来るのならば隠し通すべきである。


「・・・いいのリリカお姉ちゃん。」
「でも・・・・・」



「ルナサお姉ちゃん。」
「何だ?」
「私は自分が本物のレイラ・プリズムリバーだと思ってる。
 だから怖い。
 もしかしたら私がそう思ってるだけで違うかも知れない。
 ルナサお姉ちゃんは・・・もし私が本物じゃなかったらどうするの?」


レイラの真剣な眼差し。
ルナサは一体どう答えるのか。
リリカもメルランも姉の真意を聞きたがっている。
この質問をどう答えるかでルナサのレイラへの想いが知れるのだ。

ルナサは正直に答えた。



「嫌だ。 信じない。」


少し憮然とした表情で、しかし確固たる意思を持ってルナサは断言した。







場が凍る。


「あは・・・あはははははははは!!」


笑いがはじけるレイラ。
当然だ。
今までの威厳があり、冷徹に現状を分析していた人物とは正反対。
一転して子供の様なワガママを言い出す姉にレイラは笑いをこらえる事が出来なかった。


「だけど・・・」
「あはははは・・・な、なに?」


「お前は間違いなくレイラだ。 確信は無いけど姉の直感がそう言ってる。
 ただ知りたいだけなんだ、どうしてまた会えたのか。」
「そっか、うん。 わかったよ。」


「ありがとう。 助かるよ。」
「うん、それにしてもルナサお姉ちゃん。」
「・・・・ん?」
「いつも通り気持ちいいくらいに正直だね。」
「う・・・・。」
「そんなルナサお姉ちゃん、大好きだよ。」
「え? ・・・あーーー・・・・ありがとう?」


今度は二人して笑う。
駄目だ。
すぐに笑顔になってしまう。
それは当然だ。
わかってるんだ。
このレイラはレイラなんだ。
心の底では確信しているんだ。
だから安心しているんだ。
だから笑ってしまうんだ。






「・・・・まるくおさまった。」


信じられない・・・という呆けた表情でリリカが呟く。


「ほらねリリカ、こういう事はルナサ姉さんが適任なのよ。」
「・・・でももう少しでレイラを傷つける所だった。
 ルナサ姉さんはもう少し言い方を考えた方がいいと思う。」
「・・・必要ないわよ。 あれが姉さんの素なんだもの。
 こういう大事な話はね。 相手を気遣う為でも出来るだけ嘘や隠し事はしない方がいいのよ。
 その点・・・」
「・・・その点ルナサ姉さんは嘘を吐くだけの機転が無いから安心って訳?」
「・・・素直で実直な性格って言ってあげるとルナサ姉さんは喜ぶと思うけど・・・・。」


メルランはクスリ、と笑って手を差し出す。


「さ、私達の妹の所に早く行きましょ?」






























・・・・・で。



「「「「うーーーーーーん」」」」


レイラにいくつかの質問をして、先が明るくなったかと思えば・・・・
四人は揃って呻いた。


「わからん。」
「わかんなーい。」
「わからない。」
「・・・・ご、ごめんなさい。」


・・・結局わからない。

名前は覚えてる。
性格も覚えてる。
死んだのは覚えてない。
昔、喧嘩を収めたのは覚えてる。
好きな食べ物も覚えてる。
姉達の好みも覚えてる。
何歳まで誕生日を祝ったかは覚えてない。

基本的な事は全て覚えている反面、年齢などに関する記憶は無い。
正体を調べるにはいささか情報不足であった。


「あーーーん、どうすればいいのかしら~~?」
「むぅ、難しい所だ。」


唸る。
唸って唸って唸り続ける。


「このままじゃ次の演奏会もまともに演奏できないかもーーー」


ぽろっ、とリリカが弱音を吐く。
もう頭はオーバーヒート寸前である。
こんな状況で演奏など出来ない。
・・・今日の夜中の練習は休もうかなーーーとか少し考えてみる。


「う、ごめんね私のせいで・・・・今日の演奏会も上手く行かなかったのに・・・・」
「いやいや、リリカはレイラを攻めてる訳じゃないわよ?」
「あ、そうだよ。 ごめん。 いまのはただの弱音。」


落ち込むレイラをすかさず励ますメルラン。
だが、レイラはますます落ち込んでいく。


「うん・・・・・。」

「・・・・レイラが知りたくなかったらこのままでもいいぞ。」
「・・・・え?」


ルナサの意外な一言に思わず顔を上げる。


「レイラがレイラである事はもう確実だ。
 ただこのままではレイラも不安だろう。 だから調べているに過ぎない。
 レイラが落ち込んでしまう位なら・・・・・」
「今は全部忘れて歌の練習でもしない? お姉ちゃん達上手くなったのよ?」


妹の沈んだ顔を見るのは忍びない。
メルランが底抜けた明るさで言う。
レイラは少し微笑み・・・


「ううん、ありがとう。 でも今は・・・・・」
「オーケー、とりあえずはもう少し頑張ってみる方向で。」
「うん。 ありがとリリカお姉ちゃん。」
「ううん、全然。」


リリカはニッ、と笑って恥ずかしそうに手を振る。
何はともあれレイラもこのままでは気持ち悪かろう。
さっさとレイラを安心させてやろう。
リリカはそう考え・・・・



「うーーーん、とりあえず幽々子嬢の所に行って聞いてみない?」


と、他人に頼ってみた。
仕方あるまい。
わからない事は人に聞く。
四人が集まってもわからない事なら、もっと賢い人に聞けばいい。


「そうね、そうしましょうか。 レイラも一緒に来る?」


是非も無く同意するメルラン。


「うん。 勿論一緒に行くよ。」
「うん、わかったわ、それじゃ・・・・」
















「・・・・・・ちょっと待て。」
「「「え?」」」


突如響いたルナサの声。
その声はとても深刻そうな声・・・・


「誰かレイラに今日の演奏会の事を話したか?」


「え? 私は・・・・」
「私も・・・・あ・・・・!」








「最近の演奏会の事を何故レイラが知っている?」
「・・・・おかし過ぎる。」
「確かに・・・・・。」


ここにきて更に問題点が浮上した。
いつ死んだとかそういうのは今は置いておく。
何故死んだ後の事まで覚えているのか。
今日の演奏会に来ていた?
そんな事は無い筈だ。
あの様な喧嘩している演奏を聴いたのならばもっと早くに行動する筈。
このレイラが何かを隠している?
それも無い。
このレイラはレイラ自身に間違いは無い。
そしてレイラは平気な顔をして物事を隠し通せる娘では無い。


「・・・・仕方あるまい。 更に状況は複雑になった。
 幽々子嬢だけでは無理かも知れない。
 心当たり全員を訪ねて聞いてみるしか手は無い。」
「あと詳しそうな人にも聞いてみましょう。」
「そうだね。 じゃあ手分けして聞き込む事にしよう。」


しかしこれは僥倖だ。
何も知らずにいるよりかはずっとマシだ。
より複雑になった。 というより特定材料が増えた。
と考えればいい。


「あの・・・・・」
「ん?」
「私はどうしよう?」


自分の一言のせいで姉達の表情が険しくなったのを見たレイラ。
レイラは不安さを隠し切れずに泣きそうな表情で姉達に尋ねる。


「すまないな、少しの間お留守番しててくれないか?
 なに、すぐ原因を調べて帰ってくるさ。」


にっこりと笑顔で返すルナサ。
その笑顔でレイラは少し救われた。


「そうよ、お姉ちゃん達が本気を出せば一分よ!!」
「そこ、嘘吐かない。 一分は言い過ぎにしてもすぐ帰ってくるから。」


レイラを元気付かせる為に、コントよろしくふざけるメルラン、つっこむリリカ。
おどけた雰囲気のお陰でレイラの不安は消え去った。
あぁ、お姉ちゃん達はこんなにも一生懸命になってくれてる。

それが嬉しくて。
不安なんか消えてしまった。


「じゃあ私は白玉楼へ。 一番可能性が高いからな。」
「私は紅魔館。 図書室の魔女なら色々知ってそうだし。」
「私は博麗神社。 ついでに魔法の森の二人にも話聞いてくる。」

「ありがとう・・・・お姉ちゃん達。」


なに、可愛い妹の為だ。
にっこり笑ってルナサは空に浮かぶ。


「レイラ・・・私達が帰ってきたら真夜中のお茶会をしよう。」
「お茶会をする為にはクッキーが必要ね。」
「そうだね、久しぶりにレイラのさくさくクッキーが食べたいな。」


三人は笑顔で我侭を言う。
それはレイラの為の我侭。


「わかったよ。 頑張ってたくさん作っておくね。」


レイラはにっこりと微笑み返すと三人を見送った。




・・・・三人が視界から消えても暫く夜空を見上げるレイラ。



暫くした後、よし! と気合を入れて台所に立つ。 
愛しい姉の為に美味しいクッキーをたくさん作っておかなくては。


























三人は自分の出せる限りの最高速度で飛んでいた。
それは愛しき妹の為だ。
だが、それは。


「じゃあ私こっちだから! ルナサ姉さんとリリカもしっかりね!」
「わかってる。」
「了解! メルラン姉さんも馬鹿しないでよ!」


メルランと別れる。
三人はとても険しい顔をしていた。
こんな表情は今迄した事は無いかも知れない。
何故か。
それは・・・・・
不安だからだ。


「・・・・ルナサ姉さん。」
「・・・何だ?」
「どうして私達こんなに必死になって原因調べようとしてるんだろ?」
「・・・・・」
「あのレイラが何者だって関係無いじゃない。 私達にとってあのレイラは懐かしき愛しき妹だよ?」
「・・・・・」
「レイラはレイラ。 それでいいじゃない。 何も考えずに皆で楽しく演奏しようよ。」
「あぁ・・・・そうしたい・・・・・・そうしたいさ。
 でも・・・・・」


でもレイラは自分の正体を知りたがっている。
そして何より・・・・・


「リリカ、お前も感じているだろう?」
「・・・・・」
「凄く・・・・凄く嫌な予感がするんだ・・・・!!」



































「・・・・・・・・嘘。」


レイラは愕然とした。





再度小麦粉を手に取ろうとした。

すかっ

小麦粉が取れない。


ぶんぶんぶんぶんぶんぶん・・・・・・!!
すかすかすかすかすかすか・・・・・・


いくらやっても取れない。
腕がすり抜ける。



おかしい。
おかしすぎる。


「それなのに・・・・・」


あぁそれなのに。


「なんで・・・目の前にはクッキーが出来上がってるの?」










夕方。
お姉ちゃん達は私を抱き締めた。
追いかけっこの時。
私はメルランお姉ちゃんを捕まえた。

ここまではいい。

夕食時。
私は確かにルナサお姉ちゃんのお料理を食べた。
今さっき。
私は確かにクッキーを作った!


なのに・・・・


「なんで今は物にさわれないの!?」



泣きながら小麦粉に手を伸ばす。

・・・触れない。

椅子に手を伸ばす。

・・・触れない。

クッキーに手を伸ばす。

・・・触れない。



触れない触れない触れない触れない触れない触れない触れない触れない触れない触れない触れない触れない
触れない触れない触れない触れない触れない触れない触れない触れない触れない触れない触れない触れない
触れないさわれないさわれないさわれないさわれない――――――――――



「嘘・・・・・・・。」


気付けば自分の腕が・・・・・

消えかかってきていた。























「お邪魔しますわ。」

「!? ・・・・誰?」


気付けば私の後ろには一人の美女がいた。
いつの間にきたのか、物音一つ立てずに美女は椅子に座っていた。


「私の名前は八雲 紫。
 突然の来訪、及び不法侵入。 ・・・・御免あそばせ。」


美女は扇子を口元に当て、スッと目を閉じ礼をした。


「お元気? レイラさん・・・・でよろしかったかしら?
 火急の用だったので無礼は許して下さいな。」


クスクスと笑う美女。


「何が・・・・・おかしいんですか?」


美女は華麗に、優美に、笑っているに過ぎない。
だけど私には、それがとてつもなく不吉に見えた。


「はい。」


ぽん。
と扇子を投げる美女。


「・・・・わ!」


思わず受け止めてしまった。

・・・・受け止める?


「あ・・・あれ?」


腕が元に戻ってる!?


「お姉様方はお留守?
 まったく無用心ね。
 折角の可愛い妹が消えたらどうするのかしら。」


呆れ顔で周りを見渡す美女。


「あの・・・・あなたが私を生き返してくれた人ですか?」


なんとなく聞いてみる。
この人は怪しそうな人だけど、凄く威厳がある。
私はなんとなくそうではないかと思って訪ねてみた。


「あぁ、貴女はどうして自分がこの世にいるか解ってないのね。
 無理も無いわ、自我があるのが奇跡なくらいだものね。」


「・・・・え?」


「貴女が生き返った?
 とんでもないわ。」


美女は呆れ顔で呟いた後、こちらを軽く見た。


「私が直接やった事じゃないけど、大体貴女の正体はわかってる。」


「ほ、本当ですか?」


「えぇ。」




















「貴女は妖怪では無いし幽霊でも無いわ。」
 


「勿論・・・人間でもね。」





































楽しい。
それは快楽。
楽しむ。
それは欲望。
それを求む事は、幾千の時を越えて刻まれ続ける人間の業。
時にそれは悲劇を生むだろう。
時にそれは悪夢となるだろう。
だがそれでも。
覚えておくが良い。
人間とは愚かな生き物なのだ。
理性や秩序より欲望が勝つ。
それが人間。
恐れる事は無い。
欲望に生きよ人間よ。
それこそが正しき人の姿なのだから。
悲しきを消し去る欲望に生きよ。




































「そ、そんな・・・・じゃあ私は・・・・?」


震える声で訪ねるレイラ。
目の前の美女は、少し俯いて・・・・・・口を開いた。












――――――――――――――――――――――――――――――

「やっと着いた・・・!」
「やっと着いた・・・!」
「やっと着いた・・・!」

邸を出て、数時間後ルナサは白玉楼に着いた。
邸を出て、数時間後メルランはヴワル図書館に着いた。
邸を出て、数時間後リリカは博麗神社に着いた。

「あぁ、そろそろ来ると思ったわ。」
「あら・・・・やっぱり。」
「・・・・・いらっしゃい。」

白玉楼では幽々子が
ヴワル図書館ではパチュリーが
博麗神社では霊夢が


当然、といった様子で彼女達を待ち受けていた。


























そう、やっぱりこうなったのね。


・・・・考えられる事だったわ。


その娘はただの・・・・幻想よ。


貴方達の悲しみの曲を聴いた皆の想いが、音に重なった。


意思を得た力はカタチを得、カタチを得た彼女は貴方達を勇気付ける。


貴方達を勇気付ける為のただの幻。
それがレイラ・プリズムリバー。


人でも、妖怪でも、幽霊でも無い儚き存在。
それがレイラ・プリズムリバー。


在りえ無き一時の幻想。
それがレイラ・プリズムリバー。


悲しき愛しき妹の幻想。
それがレイラ・プリズムリバー。


演奏会を放棄する? それは出来ない幻想ね。


・・・演奏会の音はいつまで留まれると思う?


新しき演奏会まで?


・・・・私に言えるのはここまでよ。
後は好きにしなさい。

――――――――――――――――――――――――――――――




















「・・・・・そっか、わたし・・・ただの幻だったんだ・・・・」

「そう、そしてそれは演奏会によって成り立つもの。」

「つまり・・・・」

「あの演奏会なくして貴女が存在する道理など無いわ。」

「・・・・・」

「どうするの? 次の演奏会まで? それとも更に生き汚く生にしがみつく?」

「・・・・・」

「・・・・・」



「―――――――――――――――――」



「・・・・・そう、頑張りなさいな。 期待してるわよ。」




































「ただいま・・・・・」


リリカは沈んだ顔で帰宅を告げた。
応接間には既に二人の姉と愛しき妹がいる。

顔を会わせられない。
真実を知ってしまった今・・・・


「おかえりリリカ。」
「おかえりなさいリリカ。」
「おかえりなさいリリカお姉ちゃん。」


ルナサとメルランは振り返らずに椅子に座ったまま、
レイラのみが笑顔でリリカを出迎えた。



笑え。
笑えリリカ・プリズムリバー。
後でなんと言われようと。
私はレイラの悲しむ顔は見たくない。
私はルナサ姉さんとは違う。
恨まれてもいい。
レイラには笑っていて欲しい。
ギリギリまで笑って過ごして欲しいんだ。



「ただいまレイラ。」


日頃の行いの賜物か。
リリカは自然と笑顔を作る事が出来た。





「リリカ。」
「・・・・何? ルナサ姉さん?」
「キーボードの用意をしろ。 夜の練習をしよう。」
「・・・・え?」


底抜けに明るい声を出す長女。
何を言っているのか、リリカには理解が出来なかった。


「リリカ。」
「・・・・メルラン姉さん・・・・。」
「私達、すっごく上手になったのをレイラに見てもらいましょう。」
「・・・・・・・・」



・・・・違う、違うんだ。
ルナサ姉さん達は知らないからそんな呑気な事が言えるんだ。
そんな事出来る筈が無いんだ。
知らないからそんな陽気な声が出せるんだ。

わかってる。 笑って演奏しよう。
そうしなければいけないのはわかっている。
嘘を吐くのは慣れている。
だから皆に気付かれる事無く振舞う事ができる筈だ。

・・・・でも・・・・



「るな・・・・」
「さぁ、早くしないか。 レイラが待ってるぞ。」
「・・・・・・」
「今日からはレイラも一緒の四重奏よ。」
「・・・・・・」
「わたしは歌だけどね。」



あぁ、そんな顔で笑わないでレイラ。
違う。
違うんだよ。

駄目だ。
何の為の今までの嘘吐きだったのか。
こんな時に嘘を吐けない嘘吐きは役立たずだ。
でも駄目だ。
もう我慢が出来ない。






「姉さん!! ちが・・・・」
「リリカ!!」












「早くしないか・・・・・レイラが・・・・待っているぞ。」


・・・・・・泣いていた。


振り返ったルナサ姉さんは泣いていた。
笑顔のままで泣いていた。




「そうよ・・・・もう・・・次の演奏会・・・まで・・・時間が無いわ。」


メルラン姉さんも・・・・泣いていた。

そして・・・・






「私、お姉ちゃん達と一緒に演奏したいの。」





そして、レイラは満面の笑み。







あぁ、そうか。


「・・・・・よし・・・・リリカ姉・・・・さんのキーボード・・・・の腕を・・・・・・・・」


そうだったんだね。 レイラ・・・・。

わかったよ。
これから一ヶ月の間、皆で頑張ろう。
今度の演奏会は絶対に大成功させるんだ。
聞いてる皆が幸せになれる様な。
世界の皆が幸せになれる様な。
そんな曲を演奏するんだ。

頬に熱いものが伝う。
知らない。
今の私は笑顔だ。
姉さん達も笑顔。
皆が笑顔。





「四人で力をあわせて頑張ろうね!
 みんなが笑顔になれるような、みんなが仲良くできるような、みんなが楽しくなるような・・・・・
 そんな音楽が・・・・絶対できるよ!」






そうだねレイラ。
ありがとう。













私達の愛しき妹。































「お姉ちゃん! 楽しいね!」












































・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





「皆様にご紹介致します。
 プリズムリバー姉妹の末っ子、レイラ・プリズムリバーです。」

「レイラ・プリズムリバーです。
 今回限りではありますが、一生懸命歌わせて頂きます。 皆様、どうぞよろしくお願いします。」
































・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・いい曲ね。」

「・・・・・・・・・あぁ。」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・どうしてこんなに・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・同じ・・・・・・曲なのにな」

「・・・・・・全然違うでしょ。」

「・・・・・・・・・そうだな。」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・四重奏って所ってだけじゃ無いわよ?」

「・・・・・・わかってる。」

「弾き手の心が・・・・・・」

「あぁわかってる。 ・・・・それ以上は言わなくていい。」

「・・・・・・・・・そう?」

「・・・・プリズムなんて物は所詮はガラス細工。

 いくら綺麗でもただの物に過ぎない。

 プリズムをプリズムたらしめる為に必要なのは何か。

 答えは光だ。

 プリズムを温かく包み込む光が無ければプリズムはプリズムじゃ無い。

 ただのガラスだ。

 おぼろげだった光の元が、今は目の前にある。

 これで美しくなかったら嘘だぜ。」

「・・・・・・・・・正解。」

「それと・・・・この気持ちは・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・感謝・・・かな?」

「・・・・・・・・・正解。」




































・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





「・・・・・成功・・・・してしまいましたね。 紫様。」

「えぇ、そうね。 予想以上の出来映えだったわ。」

「・・・・・・最期に・・・・あの少女は笑っていましたね・・・・・」

「えぇ、そうね。 想像以上に出来た娘だったわ。」

「・・・・・・残念ではありませんか。」

「ふふふ・・・・甘いわね、藍。」













「この歓声を聞いてご覧なさいな。」


「悲しきを聴いて出来たのがあの娘だとしたら、嬉しきを聴いて・・・・どうなると思う?」













「あの娘が幻想郷に戻ってくるのに果たして何日とかかるかしらね?」











こんにちは、転石です。
これにて愛しきプリズムカルテットは無事(?)終了(?)です。

最後の方はずささーっと締めてみました。
が、やっぱり変でしょうか?
というか最後の方は蛇足かも知れません。

やはり長すぎる文は調節が大変でした。(で、失敗。)
あと、基本キャラが4人なのも大変でした。
いろんな冒険をし過ぎました。
でも色々習得。 有意義です。

あぁ、そろそろジャンルを変えようかな。とか思ってる最近で御座います。
色んなジャンルで皆様が喜んで頂ける様なSS書きになりたいです。

読んで頂き、ありがとうございました。
感想、不満、誤字脱字などのその他諸々のコメントを期待しております。
今後も一層力を入れて頑張りたいと思います。

転石。


2/18 誤字訂正しました。
転石
簡易評価

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コメント



0.2560簡易評価
9.80てーる削除
そうですか・・暗躍者は紫様でしたか・・・(違


歌と音楽の違い と言うのは簡単に思えて難しいものです。

生きているのと死んでいる との違いが明確であるのに定義できないように
歌と音楽も定義されるものではないのでしょうね・・

美しき幻の四重奏(カルテット)に未来永劫の幸あれ・・
18.無評価名前が無い程度の能力削除
プリズムリバー三姉妹はいわゆる偽物、この物語に現れるレイラもまた偽物です。
けれどこの幻想郷において、偽物だから何だというのでしょうか。
プリズムリバー三姉妹は紛うことなく騒霊音楽隊であり、新たに生まれたレイラもまた本物のプリズムカルテットとなることでしょう。
24.無評価しん削除
プリズムリバー・カルテットよ永遠なれ。

これしか感想いいようないです。

>そろそろジャンルを変えようかな。
私としては残念ですが、自分の好きなものを書くのが最善ですね。
まあ、別に「やっぱ気が変わったー」と何事も無かったかのように戻ってくるかもしれないので、お疲れ様は言いませんよ?
なにはともあれ、こういう話大好きです。
27.70名前が無い程度の能力削除
読後に、自分がプリズムリバー三姉妹が大好きだと言う事に改めて気が付きました。
三姉妹のキャラに加え、レイラまでもが生き生き(と言うのもおかしいですが)と描かれていると感じました。

最後の方が蛇足かもとの事でしたが、個人的には希望のある終わりの方が好みですので、このままでいいのでは、と思います。
素敵な話をありがとうございました。
28.60上泉 涼削除
 作品は文字媒体なので、当然視覚を用いて文字を追わなければなりません。けれどお話を読んでいく内に、思わず目を閉じて、彼女達の心からの演奏に耳を傾けたくなりました。
 『在りえ無き一時の幻想』。そう形容されようとも、プリズムリバー三姉妹にとってレイラは、四重奏の一端を担う存在としていつまでもいつまでも傍らにいてくれるのでしょうね。
34.80るふぇ削除
これぞまさしく幻想郷、ですね。
ちょっと悲しいエンドなのかなーと思いつつも先を読むと・・・
さあ、幻想郷に四重奏が響くのはいつでしょう。楽しませていただきました。