*博霊神社周辺の地理について、ちょっと俺設定入ってます。そういうのが嫌な人は、今ならまだ間に合うぞ。この先は地獄だ、引き返せ。
また、萃夢想のネタバレを少々含みますのでご注意ください。
「あーづーいー…」
萃香はたれていた。みんみんと蝉が鳴き続ける中、だらんと転がった草むらの香りと冷たさが心地良い。
しかし…。
ぐー。
「…おなかへったよー…」
心地良さも台無し、ついでに空腹でイライラするせいで暑さが倍にも感じられる。暑くて脱力していると空腹の脱力感が増えたように感じられる。見事な相乗効果である。
薄まって広がってどこかで食べ物を見つけようとも思ったのだが、力を使うと余計に腹が減るし、ついでに二日酔いのせいで集中が出来やしない。
三日ほど前の博霊神社での宴会の際に、吸血鬼や年中春の亡霊嬢やとし…いやいやすきま妖怪達と張り合って、萃香は昔の鬼仲間との宴会まで含めても彼女の生涯で記録的なほどに飲みまくり、やがて記憶が薄れ…勝負の結果は思い出せないが、とりあえず、目を覚ましたのは2日ほど経った後だった。ついでに、神社の石段の下の森の中に捨てられていた。神社の結界の中であるあたり、一応寝ている間のことは慮ってくれたようだが…
「それにしても茶巾寿司はないよね、霊夢ったら…う゛ー。」
そして、首だけ出して巻かれていた麻布をどうにか脱出し、参道の近くまで行ったところで力尽きて現在に至る。まあ、しばらく転がっていれば誰か来るかもしれない。誰も来なかったら、頭痛が治まってから紫のところにでも押しかけよう…などと考えながら転がっていると、軽い足音が彼女の耳に届いた。
わざわざ石段を足で登って来るあたり、幸いにも黒くて早いのや陰気な日陰者魔術師ではあるまい。あいつらにこんな所を見つかったら、助けてくれるどころか実験台にされかねない。くだんの宴会の最中も、猫も殺せるくらいの好奇心を奥底に秘めた視線が飛んできていたのを覚えている。
まあ、現在の幻想郷には彼女のことを覚えている記録はほとんど、ひょっとしたら全くないのだから、知識と学究の徒である魔法使いや魔女にはたまらない所だろう。理解は出来る。その知的好奇心の犠牲になるつもりは全く無いが。
茂みから、動くのがおっくうなので首だけにゅっと出して様子を窺ってみる。
すると、その視線の先には人間の少女がいた。萃香が目を丸くしたことには、その少女、幻想郷で一人歩きをしている身には珍しいことに、特別な力を感じられない。よくこの神社まで来る間に五体満足でいられたものだ。…せっかくだから、ふっくらとした新鮮な、素材を生かしたおひるごはんも悪くないな…などと空っぽの腹の中で考えたが、その思考に溶けかけた頭からブレーキがかかる。
無事で来られたのは、運がよほどにいいか、さもなければ「外を歩いていない」のだ。妖怪達は、さすがにこの神社の中では参拝客を襲えない。あの博霊の巫女を敵に回したいのならば話は別だが。だから、神社の中だけを歩いていれば普通は安全だ。そういえば、神社のごく近くに氏子の集落があったか。ひょっとしたらそこの人間かも知れない。
…詳しいところが判らない内は手を出すのは控えておくべきだ。たとえ神社の外まで連れ出して食べたところで、もし神社の氏子を食べたりしようものなら…さすがに、萃香とてあまり考えたくはないような形相であの巫女が襲って来るだろう。鬼は人を攫うのが当たり前だが、宴会がもう開けなくなるのはさすがにご勘弁こうむる。
「…あ、色々考えてたらよけいお腹が…」
がさごそと首を引っ込め、またぐでんとたれる。いい感じに力が抜けている。まぶたがだんだんと重くなり…見上げる視線の先を少女のちょっとおいしそうな足が通り過ぎて行き…やがて、ふっと意識が途切れた。
(続く)
また、萃夢想のネタバレを少々含みますのでご注意ください。
「あーづーいー…」
萃香はたれていた。みんみんと蝉が鳴き続ける中、だらんと転がった草むらの香りと冷たさが心地良い。
しかし…。
ぐー。
「…おなかへったよー…」
心地良さも台無し、ついでに空腹でイライラするせいで暑さが倍にも感じられる。暑くて脱力していると空腹の脱力感が増えたように感じられる。見事な相乗効果である。
薄まって広がってどこかで食べ物を見つけようとも思ったのだが、力を使うと余計に腹が減るし、ついでに二日酔いのせいで集中が出来やしない。
三日ほど前の博霊神社での宴会の際に、吸血鬼や年中春の亡霊嬢やとし…いやいやすきま妖怪達と張り合って、萃香は昔の鬼仲間との宴会まで含めても彼女の生涯で記録的なほどに飲みまくり、やがて記憶が薄れ…勝負の結果は思い出せないが、とりあえず、目を覚ましたのは2日ほど経った後だった。ついでに、神社の石段の下の森の中に捨てられていた。神社の結界の中であるあたり、一応寝ている間のことは慮ってくれたようだが…
「それにしても茶巾寿司はないよね、霊夢ったら…う゛ー。」
そして、首だけ出して巻かれていた麻布をどうにか脱出し、参道の近くまで行ったところで力尽きて現在に至る。まあ、しばらく転がっていれば誰か来るかもしれない。誰も来なかったら、頭痛が治まってから紫のところにでも押しかけよう…などと考えながら転がっていると、軽い足音が彼女の耳に届いた。
わざわざ石段を足で登って来るあたり、幸いにも黒くて早いのや陰気な日陰者魔術師ではあるまい。あいつらにこんな所を見つかったら、助けてくれるどころか実験台にされかねない。くだんの宴会の最中も、猫も殺せるくらいの好奇心を奥底に秘めた視線が飛んできていたのを覚えている。
まあ、現在の幻想郷には彼女のことを覚えている記録はほとんど、ひょっとしたら全くないのだから、知識と学究の徒である魔法使いや魔女にはたまらない所だろう。理解は出来る。その知的好奇心の犠牲になるつもりは全く無いが。
茂みから、動くのがおっくうなので首だけにゅっと出して様子を窺ってみる。
すると、その視線の先には人間の少女がいた。萃香が目を丸くしたことには、その少女、幻想郷で一人歩きをしている身には珍しいことに、特別な力を感じられない。よくこの神社まで来る間に五体満足でいられたものだ。…せっかくだから、ふっくらとした新鮮な、素材を生かしたおひるごはんも悪くないな…などと空っぽの腹の中で考えたが、その思考に溶けかけた頭からブレーキがかかる。
無事で来られたのは、運がよほどにいいか、さもなければ「外を歩いていない」のだ。妖怪達は、さすがにこの神社の中では参拝客を襲えない。あの博霊の巫女を敵に回したいのならば話は別だが。だから、神社の中だけを歩いていれば普通は安全だ。そういえば、神社のごく近くに氏子の集落があったか。ひょっとしたらそこの人間かも知れない。
…詳しいところが判らない内は手を出すのは控えておくべきだ。たとえ神社の外まで連れ出して食べたところで、もし神社の氏子を食べたりしようものなら…さすがに、萃香とてあまり考えたくはないような形相であの巫女が襲って来るだろう。鬼は人を攫うのが当たり前だが、宴会がもう開けなくなるのはさすがにご勘弁こうむる。
「…あ、色々考えてたらよけいお腹が…」
がさごそと首を引っ込め、またぐでんとたれる。いい感じに力が抜けている。まぶたがだんだんと重くなり…見上げる視線の先を少女のちょっとおいしそうな足が通り過ぎて行き…やがて、ふっと意識が途切れた。
(続く)