あぁ、愛しのあの横顔。
気高く、誇り高いその眼差し。
あぁ・・貴方がとっても・・・欲しいわ。
「ぱちゅ!」
「・・レミィ、呼んだ?」
「・・・・今のはくしゃみよ、パチュ。」
幻想郷はまだ雪景色。別に冥界の亡霊が春を奪っているわけではなく、正真正銘の冬である。
ここ数日の大雪により、 紅魔館 と呼ばれる屋敷でさえも白一面に染まっている。
窓の外はいまだに深々と雪が降り積もり、その影響か、門の前にも等身大の雪だるまが一つ形成されているぐらいである。
―それは唯、外で雪に埋もれている美鈴だと言うことは誰も知らないが・・
「お嬢様、暖炉に火をくべましょうか?」
「えぇ咲夜、ついでに紅茶も二人分お願いね。」
かしこまりました、と聞こえると同時に咲夜の手にはティーポットとカップが二つ用意されている。
時を操ることが出来る咲夜にとってこの程度のことは朝飯前である。
また、動作の一つ一つが垢抜けているのも、彼女が完全で瀟洒であることを知らしめている。
咲夜は既に適度に温まった二つのティーカップに紅茶を注ぎ二人に差し出す。
紅茶の香りが辺りを包む。
「お嬢様、申し訳ありませんが、少々外出許可を頂いて宜しいでしょうか?」
「あら、どうしたの?」
レミリアは、めったに自分にお願いのすることの無い従者に問いかける。
「どうやら燃料が後二日程で切れてしまいそうですので、少々買出しにと。」
「あぁ、なるほど。問題ないわよ。」
レミリアの承諾に一礼した咲夜はそのままその部屋を後にする。
そして、紅魔館のみならず、幻想郷を巻き込んだ、一大騒動の幕が上がった。
「いらっしゃい。今日は何の用だい?」
幻想郷の外れ、人里離れた所に一つの一軒家がある。
~通称・香霖堂~
と呼ばれるこの店には、一風変わった店主と、さらに変わった珍品揃いで一部に絶大な人気を誇る名店である。
最近は客とも呼べない常連の魔女や巫女の来店に頭を悩ませているらしいが、その常連の中では
唯一まともな部類に属しているであろう咲夜に向かって、この店の店主、森近霖之助は比較的友好な挨拶を交わした。
「こんにちは、香霖さん。今日は暖炉の燃料といつもの紅茶を頂けないかしら?」
「・・?あぁ、ちょっと待っててくれ。」
そう言って店の奥に入っていく香霖。
-おや・・?いつもの咲夜さんとは少し雰囲気が違う気が・・なんというか、少し丸くなったというか・・・
そんなことを考えつつ、頼まれたお茶の葉と(なかなか高級なもので、あの隙間妖怪から食料と交換してもらっている貴重品なのだが)
透明な油(外の世界ではこれを灯油と言うらしいが、これも隙間妖怪から【以下省略】)を入れ物に詰めて店先へ戻っていく。
「待たせたね。」
「いえ、そんなことありません。」
「以前持っていった ストーブ なるものはきちんと動いているみたいだね。」
「えぇ、お嬢様にも好評ですのよ。薪を燃やすよりも簡単に部屋が暖まるので。」
「それは何よりだ。」
以前、香霖は咲夜にストーブなる機器を一つ売った事がある。
本当はこの店に二つしかなかったものだったが、どうしてもと言うこともあり譲ったのだ。
まぁ、店に置いてあっても二つも使わないし、店にある一つも時々来る魔女や巫女の温床に成りつつあるので
最近は使っていなかったりする。(そういうときに限って来なくなるあの二人の感には参ったものだが・・・)
「・・時に、香霖さん・・」
突然に聞こえた声に少し驚きつつ香霖は咲夜へ振り返り・・固まった。
咲夜はじっと此方を見つめていた。
その瞳は潤み
頬は薄桃色に染まり
唇は薄いピンクをし、ほんのり濡れている。
-なっ・・ななななななななななななななななな!?
香霖は目の前に繰り広げられる光景に必死で対応しようとして・・失敗した。
思いっきり後ろに飛びずさり、壁に後頭部を打ち付けた。
そのショックでなんとか意識を取り戻し、何とか言葉を発しようと努力するが・・・
「大丈夫ですか?香霖さん。」
「だだだだ大丈夫デスヨ。」
・・・・ぬかった。あんな突然に可愛い咲夜さんの顔が目の前に現れるとは・・・。
いや、しかしこれはどういうことだ?あの完全で瀟洒な彼女が主人を前にしても見せるかどうか判らないような
無垢な表情を何故この場で!?考えろ、霖之助!もしかしたらこれはお前の命の危機かも知れない。
でなければこんなことがあるわけが・・・。しかし一体僕が何をしたと言うのだ!?
そんな悩む香霖に、咲夜から止めの一言が放たれた・・・
「あの、香霖さん・・・・・。さっきから私、頭がぼーっとしてるんですよ。体も火照ってきて・・・」
「・・・・・・・・もしかして、私・・・・・・」
なななななななななななななななななななななななな!!!
落ち着け霖之助!これは夢だ。
でなければこんなことが・・って、止めてくれ咲夜さん。その潤んだ瞳は凶器です。あぁ・・その唇・・
って、僕は何を考えてるんだ。相手はあの完全で瀟洒な咲夜さんだぞ!?
そんなことがあるわけが・・。
いや、でももしかして・・・・。
・・・彼女は僕のことが好きなのか?
そうなのか?いや、そうに違いない!
香霖は腹をくくった。
そうだ、何を恐れることがある。男として、相手の気持ちを受け止めてやることこそ、正しいことなのだ。
独身生活○○年。一度は魔理沙へ走ろうかと思ったが耐え抜いたのは今日という日の為だったのだ。
よく考えてみろ、咲夜さんと魔理沙のどこを比べる必要があるというのだ。
片や幼児体型の常識外れの魔女。
片や容姿端麗で完全で瀟洒なメイド。
・・・・比べるまでも無いじゃないか。
さぁ、咲夜さん!最後の一言を、この僕に!
「・・・・・風邪引いちゃったのかもしれません。」
「喜んで、お受けいたします!・・・・・・・え?」
「やっぱり、この雪の中に何も羽織ってこなかったのがいけなかったようですね。ところで、お受けしますって・・・・?」
しばし、たちぼうけの香霖。と、意識がやっと戻ったらしく、
「あ・・あぁ・・か、風邪ですよ。人にうつせば治るって言いますしね。あは・・・・はははは・・・。」
「そんなことしたら、香霖さんに迷惑が掛かります。早く屋敷に帰って直しますよ。」
「そ、そうだね。お大事に。」
咲夜が出て行ってから、香霖は大きなため息を一つ吐いていた。
「はぁ・・そんなことあるわけないか・・・。僕としたことが・・・。」
しかし、香霖は今起きたこと絶対に忘れないだろう。
僅かに唇の端を歪め・・
「・・・でも、よかったなぁ・・・・・」
「何が?」
120%のろけきった顔をした知り合いを不気味な物を見るかのような目つきで
声をかけた魔理沙に、香霖は椅子から転げ落ちるほど驚いたと言う。
「はみゅん!」
「あぅぅ・・本格的に風邪引いちゃったかも・・・・。」
今香霖堂で自分のせいで狂った霖之助が魔理沙に襲い掛かっている
と言うことなど露ほども知らず、咲夜は紅魔館へ向かうのだった。
~Next Phantasm~
「ところで、お受けしますって・・・・?」ですね。
内容はなかなかよかったですよ(゚ヮ゚)
>今香霖堂で自分のせいで狂った霖之助が魔理沙に襲い掛かっている
東方じゃ、おなご同士で襲い襲われなシチュは割と日常茶飯事でしたけど(ぉ
珍しいシチュに、これまでにない妄想と興奮が・・・Д
特に後半は大分いい感じ。最後の二行が……ッ!