「あなたが幹事だってのは知っているわ」
「そうか、なら話は早い」
ぴき、と空間にひびの入ったような音が脳内に響く。
魔法の森、アリス・マーガトロイド邸。その一室、応接室と呼ばれる客専用の部屋にて二人の魔法使い―アリス・マーガトロイドと霧雨魔理沙―がテーブルを挟み、向かい合っていた。
時期は春、時間帯は朝と昼の中間。
「で、それがどうして人の家で休憩する理由になるのかしら?」
「それはだな・・・」
「しかも、おまけ付きで」
びしりとドアの向こうを指差すアリス。ついでに射抜くような視線を正面に向ける。
「仕方ないだろ。あのまま放っておくわけにもいかなかったんだ。それに、直線距離で言ったらここのほうが近かったんだよ」
抗議の視線を軽く流し、肩をすくめる魔理沙。
「つまり、宴会で潰れた知り合いを家に送り届ける途中疲れたあなたは、『偶然』近くにあった私の家で休憩しようと思ったと」
「概ね正解だぜ」
・・・補足として説明しておくと博霊神社と宴会で潰れた知り合い―パチュリー・ノーレッジ―の住む紅魔館との直線上にアリスの家は、無い。寧ろ魔理沙本人の家のほうが直線に近かったりする。
びき、と先ほどよりも高い音が響く。この空間を見ることができたなら、きっと縦横無尽に亀裂が入っているだろう。このままでは空間が割れて、そこからすきま妖怪でも現れそうだ。
「なるほど、ねえ・・・」
「そう、だから休ませてくれ。私も徹夜で飲んでいたから眠い・・・それに、お前先に帰っていたんだから充分眠ってるだろ・・・帰っていたって気づいたのは片付けの時だが」
・・・魔理沙の台詞の後半部分で『何か』が切れそうになった。『存在感が薄いってかーー!!』とか何とか叫びながら物騒な人形を展開しようとする衝動をかろうじて押さえ込む。
生命の危機をかろうじて脱却した本人はテーブルに突っ伏しつつあり、何か呟いている。本当に徹夜で飲んでいたらしい、相当眠そうだ。
「・・・大体パチュリーを私の家に連れて行ったら、借りている本がみんな回収されるじゃないか・・・アリスの家だったら変な人形しかないし・・・」
・・・なるほど。
「それが、本音ね」
にやり、と口元に笑みを浮かべ指を鳴らすアリス。同時にナイフやら日本刀など物騒なものを構えた人形がゆらりと現れること数体。・・・この光景をチルノあたりが目撃していたら速攻でレティの腕の中に飛び込み、震えるであろうことが容易に知れる。
「・・・やれ」
「ん?・・・・・・!」
ほとばしる負のオーラに気づいてか顔を上げる魔理沙。ぼんやりした顔が驚愕に染まるのにさほど時間がかかることは無かった。
「ちょっと待て!それは洒落になってないぜ!」
「問答無用!人の家に(いろいろな意味で)同業者連れてくる時点で・・・連れ込むなら自分の家にしなさいよ!」
「まて、話し合おう!って、五月でもないのに甲冑人形は時期が早すぎだって!それにそのどこぞの骨董屋に似た眼鏡褌人形はいろいろな意味でやばいって!」
~少女説得中~
「はあ、はあ・・・わかったわよ、あの客間の病弱が目を覚ますまでね・・・」
「ぜえ、ぜえ、・・・ああ、それで、いい・・・」
結局、魔道書一冊で話がついた。数時間の滞在費がこれとは図分痛い出費である。
「ああ、それから」
思い出したように言うアリス。
「あん?」
睡眠モードに入りつつある魔理沙。
「私これから出かけるけど・・・くれぐれも人の家荒らさないでよ」
「・・・了、解だぜ・・・」
夢うつつなのか、信用できない返事。
「・・・露西亜、オルレアン」
アリスの声と共に現れる人形が二体。
トレンチコート状の軍服のようなものを着たのが露西亜人形、対して西洋の鎧のようなものを身に着けているのがオルレアン人形である。
目の前で眠る黒白を指差して言う。
「向かいの客が目を覚ましたら起こしてやって。もし、それより早く目を覚ましたらおかしな事とかしないように見張っていて」
頷く二体。
「よし・・・じゃあ、頼んだわよ」
部屋から出て行くアリス、まもなくして入り口の扉の開閉する音がして主はどこかへと飛び立っていった。
結果、二日酔いで倒れた魔法使い二人(どちらも睡眠中)と二体の人形がマーガトロイド邸に残された。
ここで、アリスの人形について説明しておこう。
実は、アリスの人形には階級のようなものが存在している。簡潔に言えば、使い魔、指揮官、配下、使い捨ての四階級である。
使い魔にあたるのは現在上海人形と蓬莱人形であり、常に主であるアリスの近くにいることが多い。そして、特定のスペルカード時に召還されるのが指揮官と配下であり、彼女(?)らは指揮官を中心にして陣形を張り、弾幕を形成する。最低ランクの使い捨てはその名の通りアーティフルサクリファイスなどの自爆攻撃に使用され、基本的にアリスは制作せず実験室の秘密工場で量産されている。
さらに、特定のスペルカード時に召還される指揮官らは自機狙い弾幕、レーザーとそれぞれ特化した能力を持つ。
ちなみに今いる露西亜人形、オルレアン人形は共に指揮官ランクにあたる。
以上、説明終り。
人形二体の相談の結果、パチュリーは配下が様子を見、もっとも注意すべき存在である魔理沙は指揮官二体が見張ることになった・・・が、先ほどから二体は監視対象である魔理沙そっちのけで睨み合いを続けている。
この二体の人形、実を言うととても仲が悪い。
片や『正々堂々』の騎士道精神、片や『勝てばよし』の軍人性根、気が合うはずが無く、得意射撃範囲が遠距離、近距離と異なっていることもそれに拍車をかけている。
(・・・・・・・・・)
(・・・・・・・・・)
睨み合いは続く。
緊迫した空気が流れる。おそらく幼子が見れば泣き出すこと必至である・・・人形だが。
間に挟まれた形になっている魔理沙はというと、
「・・・う~ん・・・それは、音速が遅すぎるぜ・・・」
爆睡していた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・きっかけは、魔理沙の寝返りだった。
偶然肘に当たった不幸にもテーブルの端に会ったティーカップ。当然、床に向かって重力運動をしていく。
そして、それが床に落ちるまでの間に、両者は己の獲物を構えていた・・・!
勝負は、一瞬。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「ふあぁぁぁ・・・よく寝たぜ・・・って、なんだこりゃ?」
日が傾いてきた頃、目を覚ました魔理沙が見たのは妙な光景だった。
床に落ちて割れたティーカップ。そして、倒れた二体の人形。それぞれの傍らには人形サイズの剣と銃が落ちている。
「見たところ相打ちっぽいが・・・なんで身内で争ってるんだ?」
説明を求めても主のアリスはいないし、目の前の人形も気絶しているのか(それ以前に気絶するのかどうかも疑問だが)ピクリとも動かない。
「そういや、アリスは何処かに出かけるとか言ってたな。・・・パチュリーも調子が治って起きてるだろうから面倒になる前に退散するぜ」
そう呟き、部屋を出る魔理沙。まもなくして、彼女は紫の魔法使いと共にマーガトロイド邸を後にした。
・・・魔理沙、パチュリーが邸を出た数分後、露西亜人形、オルレアン人形の配下達が割れたティーカップの掃除や上司の気付けを行っていることは、アリスも知らない。
もしも、人形の言葉を理解することができたなら、彼女らはこう言い合っていることだろう。
『お互い変な上司を持つと苦労するね』
このとき、マヨイガや、白玉楼、紅魔館のそれぞれの主、果てはアリスがくしゃみをしていたことは余談である。
「そうか、なら話は早い」
ぴき、と空間にひびの入ったような音が脳内に響く。
魔法の森、アリス・マーガトロイド邸。その一室、応接室と呼ばれる客専用の部屋にて二人の魔法使い―アリス・マーガトロイドと霧雨魔理沙―がテーブルを挟み、向かい合っていた。
時期は春、時間帯は朝と昼の中間。
「で、それがどうして人の家で休憩する理由になるのかしら?」
「それはだな・・・」
「しかも、おまけ付きで」
びしりとドアの向こうを指差すアリス。ついでに射抜くような視線を正面に向ける。
「仕方ないだろ。あのまま放っておくわけにもいかなかったんだ。それに、直線距離で言ったらここのほうが近かったんだよ」
抗議の視線を軽く流し、肩をすくめる魔理沙。
「つまり、宴会で潰れた知り合いを家に送り届ける途中疲れたあなたは、『偶然』近くにあった私の家で休憩しようと思ったと」
「概ね正解だぜ」
・・・補足として説明しておくと博霊神社と宴会で潰れた知り合い―パチュリー・ノーレッジ―の住む紅魔館との直線上にアリスの家は、無い。寧ろ魔理沙本人の家のほうが直線に近かったりする。
びき、と先ほどよりも高い音が響く。この空間を見ることができたなら、きっと縦横無尽に亀裂が入っているだろう。このままでは空間が割れて、そこからすきま妖怪でも現れそうだ。
「なるほど、ねえ・・・」
「そう、だから休ませてくれ。私も徹夜で飲んでいたから眠い・・・それに、お前先に帰っていたんだから充分眠ってるだろ・・・帰っていたって気づいたのは片付けの時だが」
・・・魔理沙の台詞の後半部分で『何か』が切れそうになった。『存在感が薄いってかーー!!』とか何とか叫びながら物騒な人形を展開しようとする衝動をかろうじて押さえ込む。
生命の危機をかろうじて脱却した本人はテーブルに突っ伏しつつあり、何か呟いている。本当に徹夜で飲んでいたらしい、相当眠そうだ。
「・・・大体パチュリーを私の家に連れて行ったら、借りている本がみんな回収されるじゃないか・・・アリスの家だったら変な人形しかないし・・・」
・・・なるほど。
「それが、本音ね」
にやり、と口元に笑みを浮かべ指を鳴らすアリス。同時にナイフやら日本刀など物騒なものを構えた人形がゆらりと現れること数体。・・・この光景をチルノあたりが目撃していたら速攻でレティの腕の中に飛び込み、震えるであろうことが容易に知れる。
「・・・やれ」
「ん?・・・・・・!」
ほとばしる負のオーラに気づいてか顔を上げる魔理沙。ぼんやりした顔が驚愕に染まるのにさほど時間がかかることは無かった。
「ちょっと待て!それは洒落になってないぜ!」
「問答無用!人の家に(いろいろな意味で)同業者連れてくる時点で・・・連れ込むなら自分の家にしなさいよ!」
「まて、話し合おう!って、五月でもないのに甲冑人形は時期が早すぎだって!それにそのどこぞの骨董屋に似た眼鏡褌人形はいろいろな意味でやばいって!」
~少女説得中~
「はあ、はあ・・・わかったわよ、あの客間の病弱が目を覚ますまでね・・・」
「ぜえ、ぜえ、・・・ああ、それで、いい・・・」
結局、魔道書一冊で話がついた。数時間の滞在費がこれとは図分痛い出費である。
「ああ、それから」
思い出したように言うアリス。
「あん?」
睡眠モードに入りつつある魔理沙。
「私これから出かけるけど・・・くれぐれも人の家荒らさないでよ」
「・・・了、解だぜ・・・」
夢うつつなのか、信用できない返事。
「・・・露西亜、オルレアン」
アリスの声と共に現れる人形が二体。
トレンチコート状の軍服のようなものを着たのが露西亜人形、対して西洋の鎧のようなものを身に着けているのがオルレアン人形である。
目の前で眠る黒白を指差して言う。
「向かいの客が目を覚ましたら起こしてやって。もし、それより早く目を覚ましたらおかしな事とかしないように見張っていて」
頷く二体。
「よし・・・じゃあ、頼んだわよ」
部屋から出て行くアリス、まもなくして入り口の扉の開閉する音がして主はどこかへと飛び立っていった。
結果、二日酔いで倒れた魔法使い二人(どちらも睡眠中)と二体の人形がマーガトロイド邸に残された。
ここで、アリスの人形について説明しておこう。
実は、アリスの人形には階級のようなものが存在している。簡潔に言えば、使い魔、指揮官、配下、使い捨ての四階級である。
使い魔にあたるのは現在上海人形と蓬莱人形であり、常に主であるアリスの近くにいることが多い。そして、特定のスペルカード時に召還されるのが指揮官と配下であり、彼女(?)らは指揮官を中心にして陣形を張り、弾幕を形成する。最低ランクの使い捨てはその名の通りアーティフルサクリファイスなどの自爆攻撃に使用され、基本的にアリスは制作せず実験室の秘密工場で量産されている。
さらに、特定のスペルカード時に召還される指揮官らは自機狙い弾幕、レーザーとそれぞれ特化した能力を持つ。
ちなみに今いる露西亜人形、オルレアン人形は共に指揮官ランクにあたる。
以上、説明終り。
人形二体の相談の結果、パチュリーは配下が様子を見、もっとも注意すべき存在である魔理沙は指揮官二体が見張ることになった・・・が、先ほどから二体は監視対象である魔理沙そっちのけで睨み合いを続けている。
この二体の人形、実を言うととても仲が悪い。
片や『正々堂々』の騎士道精神、片や『勝てばよし』の軍人性根、気が合うはずが無く、得意射撃範囲が遠距離、近距離と異なっていることもそれに拍車をかけている。
(・・・・・・・・・)
(・・・・・・・・・)
睨み合いは続く。
緊迫した空気が流れる。おそらく幼子が見れば泣き出すこと必至である・・・人形だが。
間に挟まれた形になっている魔理沙はというと、
「・・・う~ん・・・それは、音速が遅すぎるぜ・・・」
爆睡していた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・きっかけは、魔理沙の寝返りだった。
偶然肘に当たった不幸にもテーブルの端に会ったティーカップ。当然、床に向かって重力運動をしていく。
そして、それが床に落ちるまでの間に、両者は己の獲物を構えていた・・・!
勝負は、一瞬。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「ふあぁぁぁ・・・よく寝たぜ・・・って、なんだこりゃ?」
日が傾いてきた頃、目を覚ました魔理沙が見たのは妙な光景だった。
床に落ちて割れたティーカップ。そして、倒れた二体の人形。それぞれの傍らには人形サイズの剣と銃が落ちている。
「見たところ相打ちっぽいが・・・なんで身内で争ってるんだ?」
説明を求めても主のアリスはいないし、目の前の人形も気絶しているのか(それ以前に気絶するのかどうかも疑問だが)ピクリとも動かない。
「そういや、アリスは何処かに出かけるとか言ってたな。・・・パチュリーも調子が治って起きてるだろうから面倒になる前に退散するぜ」
そう呟き、部屋を出る魔理沙。まもなくして、彼女は紫の魔法使いと共にマーガトロイド邸を後にした。
・・・魔理沙、パチュリーが邸を出た数分後、露西亜人形、オルレアン人形の配下達が割れたティーカップの掃除や上司の気付けを行っていることは、アリスも知らない。
もしも、人形の言葉を理解することができたなら、彼女らはこう言い合っていることだろう。
『お互い変な上司を持つと苦労するね』
このとき、マヨイガや、白玉楼、紅魔館のそれぞれの主、果てはアリスがくしゃみをしていたことは余談である。
それだけでも○
ほのぼのとしたお話、文章もいいのでGJ
どうでもいいから次回作を早く読ませr・・・ゲッフンゲッフン